RealNetworks 対 Streambox 事件

沖電気工業(株) 後藤  功

大日本印刷(株) 近藤 純子 

2001年8月1日発表 (SOFTIC YWG)


裁 判  原告の仮差止命令の申立てについての命令

日 付  2000年1月18日

裁判所  連邦地方裁判所 ワシントン州西部地区(シアトル)

原 告  RealNetworks,Inc.

被 告  Streambox,Inc.


目次

第一 経緯

第二 事実認定

第三 争点

第四 当事者の主張

第五 裁判所の判断

第六 結論

第七 コメント

◆注

◆参考判例

◆YWGでの議論


第一 経緯

1. 1999年12月21日、原告RealNetworksは、

@ 被告Streamboxが頒布、販売するStreamboxVCRおよびRipperとして知られている製品が、原告製品RealPlayerの著作権保護システムを回避し、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の第1201条以下に違反する。

A Ferretとして知られている被告の別製品が、原告が著作権を持つソフトウェア・プログラムの不正な二次的著作物を作り出しており著作権法第106条に基づく原告の権利を侵害する。

との主張に基づき、被告がStreamboxVCR、RipperおよびFerretについて製造、頒布および販売することにつき、一方的緊急差止命令を申請した。

2.1999年12月23日、裁判所は、一方的緊急差止命令を登録した。

3. 2000年1月18日、裁判所は、StreamboxVCRおよびFerretについて製造、頒布および販売を差止めることを命じる仮差止命令を登録することを決定した(原告のRipperに関する請求は棄却された)。

〔このページのトップへ〕

第二 事実認定

1. 原告

(1) 原告RealNetworksは、ワシントン州シアトルを本拠地とし、 「ストリーミング」 として知られているプロセスを介してインターネットを通じてオーディオおよびビデオ・コンテンツにアクセスすることを可能にするソフトウェアを開発し、販売する会社である。

(2) オーディオまたはビデオ・コンテンツが消費者に対して「ストリームされる」と、コンテンツ所有者が消費者に対してファイルをダウンロードすることを許さない限り、消費者のコンピュータにはそのコンテンツのトレースが残らない。その点で、「ストリーミング」は、消費者のコンピュータにコンテンツの完全なコピーが保存される「ダウンローディング」とは重要な相違がある。

(3) ストリーミング音楽またはビデオを配布するすべてのインターネット・ウェブ・ページの圧倒的多数がRealNetworksのフォーマットを利用している。

2. 原告製品

(1) 原告製品である「RealProducer」、「RealServer」および「RealPlayer」は、インターネットを介してデジタル・オーディオおよびビデオ・コンテンツを頒布、検索および演奏するためのシステムを形成するため一緒に使用される。

(2) 原告製品のフォーマットで符号化されたメディアファイルは、RealAudio,またはRealVideo、集合的に「RealMedia」ファイルと呼ばれる。

(3) 「RealServer」は、RealMediaファイルを有するコンテンツ所有者のコンピュータ上に存在し、ストリーミングを介してこれらを消費者に配信するソフトウェア・プログラムである。

(4) 「RealPlayer」は、エンドユーザーのコンピュータ上に存在し、RealServerから送られるストリーミングされたRealMediaファイルにアクセスし、これを演奏等するために使用することが必要なソフトウェア・プログラムである。

3. 原告製品のセキュリティ保護手段

(1) 原告製品の第一の保護手段は、「Secret Handshake」と呼ばれ、RealServerでホストされたファイルが、RealPlayerに対してのみ送られることを確保する認証シーケンスである。設計上、この認証シーケンスが行われない限り、RealServerは保持しているコンテンツをストリームしない。

(2) 原告製品の第二の保護手段は、「Copy Switch」と呼ばれ、ストリームがエンドユーザーによってコピーされることができるか否かに関するコンテンツ所有者の選択を含んだ、すべてのRealMediaファイルにある一つのデータである。RealPlayerは、このCopySwitchを読み取るように設計されており、コンテンツ所有者がRealMediaファイル中のCopySwitchをターンオンしなければ、RealPlayerは、エンドユーザーがそのファイルのコピーを作成することを許さない。そのファイルは、ユーザーがストリームするのを聴いたり、見たりするのにつれて、単に「蒸発」していくのである。

(3) 原告は、インターネット上の著作権のある作品を保護するためのセキュリティ保護手段としての原告製品を頼りにしている旨のコンテンツの著作権者の供述書を提出している。

(4) 会社としての原告の成功は、その主要部分が、コンテンツの著作権者に対して、彼等のデジタル作品の不正な複製および頒布に対する有効な保護手段を提供したという事実によるものである。

4. 原告製品RealPlayerの検索機能

(1) 原告は、Snap!LLCとして知られている会社との契約に基づいて、RealPlayerを通じてエンドユーザーに対して検索サービスを提供している。

(2) RealPlayerのグラフィカル・ユーザー・インターフェースの下端の検索バーには、Snapのロゴが掲げられており、エンドユーザーは、「キーワード」を検索バーへ挿入することによってインターネット上で利用できるメディアファイルの中から検索の要求に対応する特定のコンテンツを探し出すためにSnapの検索サービスを使用する。次いで、RealPlayerは、原告およびSnapの共同運営によるウェブ・サイトへエンド・ユーザーを誘導し、このウェブ・サイトには検索の要求に対応するファイルの名称およびロケーションが表示される。

(3) Snapは、Snapの検索エンジンに対してユーザーによって実行される検索の件数に基づいて、Snapが受ける販売促進上の価値について原告に対して報酬を支払う。

5. 被告

被告Streamboxは、インターネットを介してストリームされるコンテンツを含むがこれに限定されないオーディオおよびビデオ・コンテンツを処理し、記録するソフトウェア製品を提供するワシントン州法人である。また、被告は、インターネット上の種々のオーディオまたはビデオ・コンテンツの提供者のインターネット・ウェブ・アドレスが検索可能なデータベースを運営している。

6. 被告製品StreamboxVCR

(1) 被告製品StreamboxVCRは、エンドユーザーが、インターネット上でストリームされるRealMediaファイルにアクセスし、これをダウンロードすることを可能にする。本件に関連して問題となる機能は、VCRの、RealServer上に置かれたRealMediaファイルにアクセスし、これをコピーすることを可能にする部分である。

(2) RealServer上に置かれたRealMediaコンテンツにアクセスするために、StreamboxVCRはRealServerに、VCRが事実上RealPlayerであると思い込ませて、認証手続、すなわちRealServerがコンテンツをストリームする前に要求するアクセス管理手段SecretHandshakeを迂回する。

(3) RealServerがコンテンツのストリーミングを開始するようにした後に、StreamboxVCRは、RealPlayerと同様に、レシーバとして機能する。但し、RealPlayerとは異なり、VCRは、RealPlayerに対してエンドユーザーがRealMediaファイルがストリームされている間にこれをコピーする、すなわちダウンロードすることを許されているか否かを告げるコピー防止手段CopySwitchを迂回する。

(4) StreamboxVCRが、SecretHandshakeを迂回し、RealServerにアクセスする唯一の理由は、不正なコピー行為に対して保護するためにコンテンツの著作権者がRealServer上に置いたコンテンツにエンドユーザーがアクセスし、これをコピーすることを許すためである。

(5) StreamboxVCRが入手可能なままであると、インターネット上での送信についてそのコンテンツの安全を確保することを希望するRealNetworksの現存および潜在的な顧客は、RealNetworksの技術はそのコンテンツを不正なコピー行為から保護することができないと信じて、RealNetworksの技術を使用しないことを選択する可能性がある。

7. 被告製品Streambox Ripper

(1) 被告製品Streambox Ripperは、既にユーザーのコンピュータ上に存在する、ユーザーが合法的手段により作成または取得しているファイルを、RealMediaフォーマットからWAV、WMAおよびMP3等の他のフォーマットへのファイルの交換、適合化を許すファイルアプリケーションである。

(2) 被告は、Ripperの可能な用途の一つが、コンテンツの著作権者が直接RealMediaフォーマットから自分の作品のために使用したいと考える別のフォーマットに変換を許すことを証明する証拠を提出している。

8. 被告製品Streambox Ferret

(1) 被告製品Streambox Ferretは、RealPlayerに対する「プラグイン」アプリケーションとしてインストールすることができる。

(2) 消費者がFerretをプラグインとしてRealPlayerにインストールした場合には、RealPlayerのグラフィカル・ユーザー・インターフェースは、追加したボタンを持つように構成され、このボタンは、ユーザーがSnap検索エンジンと被告検索エンジンの間の切替を行うことを許すものである。また、Ferretを使用すると、RealPlayerのグラフィカル・ユーザー・インターフェース上では、「Snap.Com.」のロゴに代えて、「Streambox」のロゴが現れる結果となる。

〔このページのトップへ〕

第三 争点

1.米国デジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)に基づく仮差止命令における基準。特に、本案勝訴の蓋然性の立証は回復不能な損害を推定するか。

2. 被告による「Streambox VCR」及び「Ripper」の提供は、DMCA第1201条(a)項(2)号又は(b)号に定める禁止行為に当たるか。

(1) 原告がストリーミング提供を行うに際して施している「Secret Handshake」及び「Copy Switch」は、「アクセスを効果的に制御する」又は「著作権を効果的に保護する」「技術的手段」といえるか。

(2)被告の「Streambox VCR」は、「技術的手段」を回避するものか。

(3) 被告の「Ripper」の主要な用途は、著作物の不正な派生物を作成させるものであるといえるか。

3.被告による「Ferret」の提供行為は、原告著作物の寄与侵害又は代位侵害を構成するか。

(1) 「Ferret」をRealPlayerにプラグイン・アプリケーションとしてインストールした利用者による派生物の作出は、原告著作権侵害行為となるか。

(2)仮差止命令基準の該非

 

〔このページのトップへ〕

第四 当事者の主張

1.争点1について

【原告】

   DMCA第1201条に基づく仮差止命令申立に対しては、本案勝訴の蓋然性を立証すれば回復不能な損害は推定を与えられるべきである。

2.争点2について

(1)争点2の(1)に関して
【被告】

@ 「Copy Switch」は、DMCA第1201条(a)項(3)号(B)が要求するように、著作物の不正なコピーに対して「効果的に保護」しないのであるから、被告の行為はDMCA禁止行為には当たらない。ストリームされている音楽を、利用者のスピーカーで演奏されている間に記録することができるような手段を用いることが可能であるから、「効果的な保護」を欠く。

A 「Streambox VCR」は、利用者に「公正使用」のコピーを作成させるようにするという、合法的用途を有している。

(2)争点2の(2)に関して

【被告】

「Streambox VCR」は、DMCA第1201条(c)項(3)号に定めるように「Copy Switch」という特定の技術的手段への対応を要求されるものではないから、同条に基づき免責される。

(3)争点2の(3)に関して

【原告】

「Ripper」の主要な目的及び唯一の商業上重要な用途は、利用者が著作権法に違反してRealMediaフォーマットの視聴覚著作物の不正な「派生物」を作成することを可能にすることにあるから、DMCA第1201条(b)項の禁止行為に該当する。

3.争点3について

  【原告】

@ 「Ferret」をRealPlayerにプラグイン・アプリケーションとしてインストールした利用者が派生物を作り出す行為は、原告の著作権を侵害する。

A 「Ferret」をインストールした利用者は、RealPlayerを入手する為に同意が必要とされるライセンス契約に違反している。

  【被告】

    「Ferret」がRealPlayerに加える変更は、二次的著作物の創出を構成しない。よって利用者において著作権侵害行為を構成しない。

〔このページのトップへ〕

第五 裁判所の判断

1.仮差止命令の基準

(1)原告が仮差止命令を得るためには、以下のいずれかを証明する必要がある。
@ 本案勝訴の蓋然性と回復不能な損害が生じる可能性の組合せ

A本案に関して重大な疑問が提起されており、負担の衡量において自己に有利であること

なおこれらの基準は別個独立なものではなく、損害について要求される証明と本案勝訴について要求される証明が反比例して連動する関係にある。

(2) 本件において原告が求めている仮差止命令の根拠条文たるDMCA第1201条は、著作権侵害を構成要件とはしていない。DMCA第1201条に基づく仮差止命令申立の事件において、(一般の著作権侵害事件のように)本案勝訴の蓋然性を立証したことをもって回復不能の損害についての推定を与えた先例はない。

2.被告による「Streambox VCR」の提供行為について

2−1 本案勝訴の蓋然性

(1)DMCA第1201条

DMCA第1201条においては、以下のいずれかに該当する技術、製品、装置、部品等を、製造、輸入、頒布、販売等行うことを禁じている。

@ DMCA第1201条(a)項(2)号

主として、著作物へのアクセスを効果的に制御する技術的手段を回避することを目的として設計又は製造され、もしくはかかる技術的手段を回避する以外には商業的に限られた目的又は用法しかないもの。

ADMCA第1201条(b)項(1)号

著作権者が権利を効果的に保護する技術的手段によって著作物に対して施した保護を回避することを目的として設計又は製造され、もしくはかかる保護を回避する以外には商業的に限られた目的又は用法しかないもの。

ここで「著作物へのアクセスを効果的に制御する」とは、「著作物へのアクセスを行うには、著作権者の許諾を得て情報を入力し又は手続き若しくは処理を行うことを必要とする場合」をいう。(*1201(a)(3)(B))

また「権利を効果的に保護する」とは、「著作権者の権利の行使を防止し、限定し又はその他制限する場合」をいう。(*1201(b)(2)(B))

(2) 「Secret Handshake」及び「Copy Switch」の法律要件該当性

@ 「Secret Handshake」は、「著作物へのアクセスを効果的に制御する技術的手段」に該当する。利用者が「Secret Handshake」が施されている著作物にアクセスするためには、専有の認証シーケンスの過程でRealServerに必要な情報を提供するRealPlayerを使用しなければならないからである。

A 「Copy Switch」は、不正なコピーを制御する著作権者の「権利を効果的に保護する技術的手段」に該当する。利用者は、RealMediaファイルにアクセスするためには、「Copy Switch」を認識するための機能を有するRealPlayerを使用しなければならない。そしてこの「Copy Switch」がターンオフされている場合には、利用者はコピーすることができないのであるから、「Copy Switch」が著作権者の有する複製権の行使を制限していることとなるからである。

また、「Copy Switch」はそれがターンオフされている時にはその通常の動作の過程で著作物作品のデジタルコピーの作成を制限するのであるから、「Copy Switch」は法が要求する「効果的な保護」を欠いているという被告の主張は失当である。そもそも「Streambox VCR」は、「Copy Switch」が関連付けられるよりも以前から、不正なRealMediaファイルにアクセスするために「Secret Handshake」を回避していた事実があるから、DMCAに基づく責任を充分有しているといえる。

(3)「Streambox VCR」の機能と法律要件該当性

@技術的手段の回避
・ DMCAの下では、技術的手段の動作を「回避し、迂回し、除去し、無効にし又は毀損」する場合には、「技術的手段を回避」することになる。(*1201(b)(2)(A)、*1201(a)(2)(A))

・ 「Streambox VCR」の一部は、原告が著作権者に提供する技術的手段を回避するものに当たる。「Streambox VCR」は、RealServer上にあるRealMediaファイルにアクセスするために、「Secret Handshake」を「迂回」し、更に「Copy Switch」を「迂回」して、著作権者が制限しているファイルのコピーを利用者に可能にさせるからである。

A構成要件該当性

・ 「Streambox VCR」製品の一部にであっても次のいずれかに該当すれば、DMCA第1201条に該当することとなる。

(i) 主として回避機能を果たすために設計されている。

(ii) 回避以外には限定された商業上重要な目的を有していない。

(iii) 回避の手段とし販売されている。

・ 「Streambox VCR」は、専用でないとしても、主として原告が著作権者に提供するアクセス制御及びコピー防止手段を回避するために設計されている。従って、上記(i)基準に該当する。

・ 「Streambox VCR」が有する、「Copy Switch」が無意味なものとなるように「Secret Handshake」を回避する部分は、利用者に対して保護対象たるコンテンツにアクセスしてコピーすることを可能にさせる以外の重要な商業上の目的を有していない。従って、上記(ii)の基準にも該当する。

B 公正使用に基づく抗弁の可否

・ 被告がSony判決に依拠して主張する「公正使用」に関する抗弁は、以下の理由で採用し得ない。

(i) Sony判決は、作品の権利者の大多数が、個人的視聴者によってタイム・シフトされることを許可し、又はこれに反対しなかったという前提に依存していた。しかし本件では逆に、著作権者は明確に、原告の提供する技術的手段を採用することによってコンテンツのコピーが防止されるようにしていた。

(ii) Sony判決は、DMCAの解釈を包含するものではない。DMCAの下では、製品開発者は技術的手段を回避する製品を頒布する権利を有しているわけではない。かかる回避を実行することができるツールの頒布行為そのものを禁じるのが法目的である。

(4) DMCA第1201条(c)項(3)号に基づく抗弁の可否

DMCA第1201条(c)項(3)号に基づく被告の抗弁自体失当である。同号は、「当該製品が(a)項(2)号又は(b)項(1)号に該当しない限りは」といっている。「Streambox VCR」は「Secret Handshake」を回避している(つまりこれら適用を除外する当該号に該当している)のであるから、DMCA第1201条(c)項(3)号の適用の余地はない。

 

2−2 回復不能の損害の可能性

(1)「Streambox VCR」は、原告のセキュリティ保護手段を回避し、かつ必然的に原告の顧客が当該保護手段に対して有する信頼を毀損すると予想される。このような「Streambox VCR」の能力によって作出された懸念によって、どの程度の原告の顧客が原告製品を拒絶するか判断することは不可能である。従って、本案勝訴の蓋然性の立証に基づく推定が与えられないとしても、「Streambox VCR」の頒布によって原告に回復不能の損害を被るおそれがあることは立証される。

(2)原告のセキュリティ保護手段を回避する「Streambox VCR」の存在は、視聴覚作品をインターネットを通じて公衆がアクセスできるようにしようとする著作権者の意欲にも障害となると考えられるから、本件差止命令は公共の利益にも合致するものと考える。
 

3.被告による「Ripper」の提供行為について

(1)「Ripper」の構成要件該当性
「Ripper」は、著作権者を含むコンテンツ所有者が、自分のコンテンツをRealMediaから他のフォーマットに変換するために使用することができる。また利用者の側においても、合法的に入手した著作物ファイルを、RealMediaフォーマットから他のフォーマットへ変換するためにも用いることができる。従って「Ripper」は合法的な目的及び商業上の重要な用途を有しているといえ、DMCA第1201条(b)項(1)号(A)又は(B)に定める構成要件を具備しない。

(2)本案勝訴の蓋然性と回復不能な損害の恐れ

原告は「Ripper」を、二次的著作物を作成することを防止するための「技術的手段」として使用するというが証拠を示していない。また被告による「Ripper」の提供が原告に回復不能な損害を被らせるおそれを生じさせるとする証拠も提出していない。更にDMCA第1201条(b)(1)(c)の禁止行為に該当するとも主張するが本案勝訴の蓋然性を立証できていない。
 

4.被告による「Ferret」の提供行為について

(1)前提
@ 被告の「Ferret」製品の公衆への頒布行為が原告著作権の寄与侵害又は代位侵害といえるためには、「Ferret」をRealPlayerにプラグイン・アプリケーションとしてインストールした利用者が原告著作権を侵害していることの立証を必要とする。

A 原告は、RealPlayerのバージョン7について有効な著作権登録を行っており、著作権の所有者であることが立証される。

B 被告は、第9巡回区控訴裁判所の判決( Lewis Galoob Toys,Inc.対Nintendo of America,Inc.  )に依拠して、利用者による著作権侵害行為及び自己の寄与侵害行為を否認する。当該判決では、「変更したディスプレイは著作物の一部を一定の有体的又は恒久的な形式で内蔵していない」ために、ゲームのオーディオビジュアル・ディスプレイを変更する製品の製造者の寄与侵害は否定されたものであるが、本件では逆に、RealPlayerへの変更はGaloob事件において争われた変更画面よりもより具体的な形式をとっているものである。

(2)本案勝訴の蓋然性

裁判所は、原告が依存する判例( Micro Star対Formgen,Inc. )の事実及び争点が本件とは異なること、更に利用者がライセンス契約に違反するとの原告の主張が初めて提起されたことから、本案勝訴の蓋然性を証明したとはしない。

(3)本案に関する重大な疑問の提起と負担の衡量

@「Ferret」をRealPlayerにプラグインとして使用する利用者が、RealPlayerのユーザー・インターフェースを変更させ、争う余地のある態様で著作権者の許可なく二次的著作物を作出していることについては、両当事者間に争いがない。更に原告が、「Ferret」をインストールする利用者がライセンス契約に反していることの証拠提出を申し出ている。これらのことから裁判所は、原告は本案に関する重大な疑問を提起したと判断する。

A「Ferret」の利用者がRealPlayerを変更することができるという事実は原告のsnapとの信頼関係を破壊しかねない。また利用者が、変更前のsnap検索エンジンよりも変更後のStreambox検索エンジンを選択するたびに、原告のsnapからのロイヤルティ収入が犠牲となり、原告が失う収益を計算困難なものとする。一方被告に対する差止命令の発令は、原告に比して厳しいものではない。Ferretは単に利用者に対して検索エンジンのひとつを提供するに過ぎず、被告の検索エンジンは既に他の場所の利用者がアクセスできる状況にあり、「Ferret」の頒布が禁じられるとしても、利用者に不都合はないからである。

〔このページのトップへ〕

第六 結論

上記審理の結果、当裁判所は以下の通り命令する。
 

被告は、「Streambox VCR」製品及び「Ferret」製品(いずれも類似製品を含む)を、製造し、輸入し、ライセンスし、公衆へ頒布し、販売してはならない。
 

「Ripper」製品に関する原告の仮差止命令の申立は棄却する。

 

第七 コメント

【後藤】

裁判所が、「Streambox VCR」を「著作物へのアクセスを効果的に制御する技術的手段を回避すること」を目的としたものであると認定した点、及び、「Ripper」に関してはその機能・用途をファイル交換という汎用的なものとして認定し、技術的手段を回避するものではないと結論付けた点については、妥当なものであると考える。本件では、DMCA第1201条の解釈・適用に当たっては、裁判所はその趣旨・目的に照らして合理的に納得のできる論旨をもって結論を導いているのではないだろうか。

特に、DMCA第1201条(a)項に関していえば、同項の構成要件として著作権の侵害の有無とは無関係であること(よって「公正使用」の法理等一切考慮する必要がないこと)を明確に示している点で、本判決の意義があるものと考える。

なお日本法との対比においてDMCA第1201条(a)項の適用を検討すると、被告による「Streambox VCR」の提供行為は、日本国不正競争防止法上の「不正競争」に該当する行為として禁じられる行為に該当することとなるものと考えられる(DMCA第1201条(a)項においては、客体としての「著作物」や「技術的手段の回避」としての「著作権者」などの要件が要求されている点に比して、不正競争防止法上は、「技術的制限手段」(不競法2条5項)により施されている制限効果を妨げる機能を有する装置等の提供等は、「不正競争」として定義されており(不競法2条1項10号又は11号)、その「客体」(音、影像、プログラム)についてはより広く規定されている。但し実際の差止請求に際しては、営業上の利益侵害が要求される(不競法3条))。

また、日本法に照らして考えてみた場合には、本件において原告の提供する2段階の保護セキュリティ手段(「Secret Handshake」及び「Copy Switch」)をその果たす機能から厳密に区分するとすれば、「Secret Handshake」は不正競争防止法上の「技術的制限手段」に、一方「Copy Switch」は「技術的保護手段」(著作権法第2条第1項第20号)にそれぞれ該当することとなり、結局両法が重複適用になるものと考えられるが、著作権法上は「技術的保護手段」の回避装置の提供等のみは、差止請求の対象とはされていない(著法112条)。

これらから考えると、差止請求の場面においては、DMCA第1201条に基づく場合と日本の不正競争防止法及び著作権法に基づく場合とでは、微妙にその対象の範囲に差が生じることとなる点には、実務上の注意が必要であるよう思われる。

 

【近藤】

本件における裁判所の判断(StreamboxVCRおよびFerretに関する原告の請求の認容、Ripperに関する原告の請求の棄却)は、妥当なものと考える。

裁判所が、「StreamboxVCR」は、「著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段(本件においては「Secret Handshake」)」および「著作権者の権利を効果的に保護する技術的手段(本件においては「Copy Switch」)」を回避することを主たる目的としているが、「Ripper」は、その主たる機能がファイル交換であり、「著作権者の権利を効果的に保護する技術的手段」を回避するものではないとした判断は、事実に対するDMCA第1201条(a)項(2)号・(b)項(1)号の妥当な適用であろう。

「Ferret」について、RealPlayerの不正な二次的著作物を作り出すものであり、原告が、「著作権侵害の認容の合理的蓋然性」を証明していないにしても、「重大な疑問を提起し、かつ負担の衡量において有利である」ことを示しているため、仮差止を認めた裁判所の判断も公平なものと考える。

また、裁判所が、DMCA第1201条の適用においては、著作権侵害の有無は考慮されないため、フェアユースを認めたSony判決に基づく抗弁は無効であり、今後製品メーカーは、「著作権に関する請求を否定するよりも迂回に関する請求を回避するため、その製品の第1201条へのコンプライアンスを調査することが必要になるであろう」としている点は、実務上の観点からも注意を引いた。

なお、日本の著作権法は、コピープロテクションなどの技術的保護手段の回避については刑事罰を科して規制している(同法第120条の2第1号、第2号)が民事的救済の対象とはしておらず、またアクセスコントロールの回避行為に関する規制については導入していない。その一方で、日本の不正競争防止法は、営業上用いられているコピープロテクションおよびアクセスコントロールの回避を規制し(同法第2条第1項10号、11号)、差止および損害賠償請求といった民事的救済を定めている。従がって、日本において本件と同様の救済を求めて提訴する場合には、著作権法ではなく、不正競争防止法に基づいた請求を行うことになるのではないだろうか。

〔このページのトップへ〕

◆注 

「ストリーミング(Streaming)」

サーバにあるサウンドデータや動画データをネットワーク経由でダウンロードしながら順次再生することを可能にする技術。

ストリーミング技術は、ストリーミング対応のデータを作成(エンコード)するエンコーダ、配信を行う配信サーバ、受信し再生を行うプレーヤの3点で構成される。エンコードしたデータを一度ファイルに保存してから配信サーバで配信する方法を「オンデマンド配信」、エンコードと配信を並列して行ないリアルタイムの配信を行う方法を「ライブ配信」と呼ぶ。

(「アスキーデジタル用語辞典(URL:http://yougo.ascii24.com/ )」より )
 

参考判例

1.Lewis Galoob Toys,Inc.対Nintendo of America,Inc.(1992年3月21日 第9巡回区控訴裁判所判決)
 

原告の販売する、家庭用テレビゲームの画面(登場するキャラクターの能力)を変更する機能を有する「Game Genie」(被告ビデオゲームカセットにプラグインされる)が、被告ビデオゲームの二次的著作物を作成するか否かが争われた事例。

裁判所は、「Game Genie」が表示する画面は、著作権者の画面を有体的(具体的)又は恒久的(永続的)な形態で内包しているものではないとして、著作権者の二次的著作物を創出するものではないとした。また、ゲームプレイヤーによる「Game Genie」の使用について公正使用を認定し、原告による寄与侵害を否定した。
 

2.Micro Star対Formgen,Inc.(1998年9月11日 第9巡回区控訴裁判所判決)
 

被告が提供するビデオゲームにおいて、プレイヤーが独自に作成すること(ゲーム展開を自由に組合せて設定できる)が許されネット交換されているレベルを、CDに集め「レベル集」として販売した原告の行為が、著作権侵害となるかが争われた事例。

裁判所は、レベル集のマップ・ファイルは、視聴覚画面の素材を有しないが画面そのものを描く機能を有しているとし、CD−ROMに焼き付けられていることで具体的永続的形態を有し、且つゲームストーリの改変をも行うものであるから、原告行為は著作権侵害の蓋然性が高いと判じた。

〔このページのトップへ〕

◆YWGでの議論

・ なぜ、明らかなDMCA違反となるような製品を製造したのか疑問だったが、本件の背景(StreamboxVCRはテスト段階の製品、Ferretは無料のプラグインソフトであり、唯一売れていた製品はRipperのみ。)を聞き理解できた。

・ CopySwitch(すべてのRealmediaファイルにある一つのデータ)の迂回については、技術的保護手段の回避といえるのか。RealPlayerに成りすましてSecretHandshakeを回避した後、StreamboxVCRはCopySwitchを単に無視する(読み取らない)だけであり、積極的に回避しているとは言えるのか。

・ Ripperに関して、原告は寄与侵害の主張はできなかったか。

・ StreamboxVCRについて、著作権侵害事件の判例に基づいて、DMCAに基づく原告の請求の合理的な蓋然性を立証したことをもって回復不能の損害についての推定を与えることは、DMCA第1201条は著作権侵害を要件としていないと明言していることと矛盾することにならないか。(この点について、本件では裁判所は結論を下していない。)

・ FerretをRealPlayerにインストールすることによる不正な二次的著作物の創出は、具体的には著作物のどの部分(インターフェースか、プログラムか)に関する侵害となるかは、さらに細かく検討していく余地があるだろう。

・ 裁判所は、Ferretが不正な二次的著作物の創出を行うことが認めているのであれば、Ferretに関する寄与侵害について、原告が請求の認容の蓋然性を立証していることを認めても良かったのではないか。

・ 原告の著作権保護技術が、StreamboxVCRに簡単に回避されてしまうようなレベルでは、コンテンツの権利者の信頼を失いかねず、原告の標準技術は非常に脆弱な基盤の上にあるといわざる得ない。本件命令後、RealNetworksがすぐにStreamboxとコピープロテクションの技術開発について提携関係を持ったことは理解できる。

・ 技術的保護手段が簡単に回避されてしまう可能性があるので、コンテンツをインターネット上で配信する場合、権利者は権利侵害のリスクを覚悟せざるを得ないのではないか。

・ SecretHandshakeが著作物の効果的な保護手段に該当するかどうか、本件判例ではその議論が甘いのではないか。

・ CopySwitchは、RealPlayerとセットになって初めて機能するのであるから、単体で著作権保護手段といえるだろうか。

・ 日本法では、本件はどのような適用となるか。

・ DMCAでは誰が請求者となるか。(DMCA第1203条(a)項に、「民事訴訟−第1201条または第1202条の違反により損害を被った者は、当該違反についてしかるべき連邦地方裁判所に民事訴訟を提起することができる。」とある。)

〔このページのトップへ〕