米国連邦巡回区控訴裁判所

95-1191-1229

ALPEX COMPUTER CORPORATION,

原告/交差上訴人

NINTENDO COMPANY LTD.および

NINTENDO OF AMARICA, INC.,

被告/上訴人

判決、1996年11月6日

アーチャー裁判長、リッヒ裁判官、ニューマン裁判官

アーチャー裁判長

Nintendo Company, Ltd.とNintendo of America, Inc.(以下まとめて任天堂という)は、ニューヨーク南部地域管轄の米国地方裁判所における1995年1月6日の判決、Alpex Computer Corp. v. Nintendo Co., 34 USPQ2d 1167(S.N.D.Y.1994)を不服として上訴した。この判決は、Alex Computer Corporation(以下アルペックスという)が所有する米国特許番号4,026,555(以下555特許という)が、無効ではなく意図的に侵害されたとして、253,641,445ドルの損害賠償および権利を認めた。我々は、有効性に関してこの判決を維持するが、侵害に関しては破棄する。

I

本件は、ビデオゲーム装置内の発明に関するものである。ビデオゲーム産業は1970年代初頭に発生した。この産業には、アーケード・ビデオゲームとホーム・ビデオゲームの2つの部門がある。アーケード・ビデオゲームは、コインを入れることによって動作する大型で高価な機械であり、歓楽街などの人通りの多い場所に置かれる。このような機械は、1つのゲームしかプレーすることができないため、一般に「専用機」と呼ばれる。これに対してホーム・ビデオゲームは、小さく、比較的安価な装置であり、標準的なテレビのアンテナ端子に簡単に接続することができる。最初のホーム・ビデオゲームは、Magnavox Odysseyであった。これも、1つのゲームしかプレーすることができない専用機であった。そのゲームは、プレーヤーがコントロールする2本の垂直線の間を光の点が往復するために「ボールとラケット(ball and paddle)」と呼ばれた。

1974年のはじめに、訴訟対象の特許の発明家は、ホーム・ビデオ・システムで画像が回転するゲームを含む複数のゲームをプレーできるように、マイクロプロセッサに基づく新しいホーム・ビデオゲーム・システムを考案した。これには、モジュラー・プラグイン・ユニット(交換可能な読み出し専用メモリ(ROM)カートリッジ)が利用された。1977年5月31日に、この発明に対する555特許がアルペックスに与えられた。そして、この特許発明はアタリ社、マッテル社、コレコ社によるシステム内に商品化された。

1980年代初頭に、任天堂は、任天堂エンターテイメント・システム(NES)と共に、ホーム・ビデオゲーム市場に参入した。1985年消費者エレクトロニクスショーにNESが展示された後に、アルペックスは任天堂に555特許の侵害の可能性があることを伝えた。その後まもなく、アルペックスは1986年2月に、特許を侵害したとして任天堂に対し訴訟を起こした。それから数年にわたって、アルペックスと任天堂は様々な正式事実審理前手続きを行った。これらの手続きの間に任天堂は中間上訴のために一部の争点の確認を要求し、地裁はそれを認めた。しかし、この裁判所は、上訴許可の申し立てを棄却した。Alpex Computer Corp. v. Nintendo of America Inc., Misc. No. 320(Fed. Cir. 1992年9月2日)

正式事実審理の前にクレームの解釈に関する未解決の問題を解決するために、地方裁判所は、特別補助裁判官の支援によって証拠審理を行った。特別補助裁判官は、クレームの解釈に関して明確な推奨意見を記述した初回レポートを作成した。地方裁判所は、陪審に説示を行う目的のためにその一部を採用した。4週間にわたる責任審理の後に、陪審はアルペックスの訴えを認める評決を下した。この責任に関する評決の後に、任天堂は侵害および有効性に関して、法律問題としての判決(JMOL)、もしくは再審理を求める申し立てを行った。その後、同じ陪審によって損害賠償に関する審理が行われた。陪審は、アルペックスに6%のローヤルティーを認めた。これは、特許を侵害したとされる任天堂が販売した製品34億ドル分に基づいて計算され、253,641,445ドルの損害賠償額が決定された。任天堂は、JMOLまたは再審理と、損害額縮減決定の申し立てを行った。それに対しアルペックスは、判決登録と判決前の権利を要求した。地方裁判所は、任天堂の審理後の申し立てのすべてを棄却し、判決前の権利を伴うアルペックス勝訴の判決登録を行った。

現在、任天堂は有効性、侵害、損害賠償額に関してこの判決を上訴し、アルペックスは損害賠償額について交差上訴を行っている。

II

555特許は、標準的なテレビ受信機のラスター(ブラウン管の受像域)の離散型(互いに分離している)ポジションのそれぞれに対応する記憶領域を有するランダム・アクセス・メモリ(RAM)によって、ビデオ信号を生成し、キーボードによって制御される装置を特許の権利範囲としてクレームした。555特許の図2は、次のように発明の構造を示している。


 

テレビのラスターは、標準的な周期に基づいて、陰極線ビームが描く約32,000の多数の離散型ドットとバーから構成されている。このドットとバーが、テレビ・スクリーン上に画像を生成する。特許が与えられた発明は、ラスター画像を表示するために必要な約32,000の記憶領域を有する十分なRAMを必要とした。すなわち、このRAMはラスターのメモリ「マップ」内の各ポジションに対して、少なくとも1「ビット」のデータを保存する。従って、このビデオ・ディスプレー・システムは、「ビット・マッピング」と呼ばれている。特許内に開示されたこのシステムの利点は、ラスターRAMまたはディスプレーRAM内であらゆる画像が準備されるため、複雑な画像やシンボルの操作を行うために、ディスプレーをより自由に制御できることである。しかし、この柔軟性を実現するために、ビット・マッピングは表示を行う前にディスプレーRAM内で各画像を構成する必要がある。このプロセスは、各画像を消去し再び書き込むことをマイクロプロセッサに要求する。すなわち、マイクロプロセッサは画像の動きを表示するために、各フレームごとにディスプレーRAMをリフレッシュしなければならないため、このシステムの動作は遅くなる。

訴えられたNESと付属ゲーム・カートリッジも、標準的なテレビ受信機のラスターの離散型ポジションに対応する記憶領域によって、ビデオ信号を生成するための装置である。正式事実審理での証拠物は、NESを次のように図示している。


 

NESのためのビデオ・ディスプレー・システムには、ラスターのそれぞれの離散型ポジションに一対一で対応する記憶領域を有するRAMは含まれていない。その代わりに、NESはスクリーン上に画像を生成するために、特許を与えられた画像処理ユニット(PPU)を利用している。PPUは、予め形成されたデータの水平スライスを受け取り、それぞれ最大8ピクセルを記憶することができる8つのシフト・レジスタの1つに各スライスを格納する。このようなデータのスライスは、次にスクリーンに直接に送られる。PPUは、スクリーン上に最初の画像を構成するために、この処理を繰り返す。その後、PPUはゲームの進行中に画像を変更するために必要な処理を繰り返す。任天堂は、PPUを「オンザフライ(on-the-fly)」システムと呼んでいる。(スクリーン全体ではなく)画像のスライスを処理するために、シフト・レジスタを用いるNESビデオ・ディスプレー・システムは、555特許のRAMに基づくシステムのビットマッピングよりもビデオ・スクリーン上により早く画像の動きを表示できることは明らかである。

争点となっているクレームは、次のような555特許のクレーム12と13である。

12.     ディスプレー・チューブのスクリーン上にプレーヤーとボールのイメージ画像を表示し、操作することによってゲームをプレーするための装置。これは、次の機能から構成される。

第1方向に整列された直線のプレーヤーのイメージ画像を表示するビデオ信号を生成するための第1機能。

ボールのイメージ画像を表示するビデオ信号を生成するための第2機能。

手で操作することができるゲーム・コントロール機能。

上記の第1方向とは異なる第2方向に整列するように回転したプレーヤーのイメージ画像を表示するビデオ信号を、上記の第1機能に生成させるために、上記の手作業によって操作されるゲーム・コントロール機能に反応する機能。

13.     上記の表示機能に、プログラムされたマイクロプロセッサ機能と、当該マイクロプロセッサ機能を制御するためにゲームプログラム命令を記憶した交換可能なメモリが含まれ、クレーム12に従っている装置。この交換可能なメモリを取り替えることによって、当該装置で異なるゲームをプレーすることできる、

訴訟当事者は、独立のクレーム12(および独立のクレーム13)の適切なクレーム解釈、特に「ビデオ信号を生成する機能」の意味と範囲について争った。

III

クレームの解釈は、法律問題である。これについては後に検討する。Markman v. Westview Instrument Inc., 52 F.3d 967, 988, 34 USPQ2d 1321, 1337(Fed. Cir. 1995年)(大法廷)、原判決維持、116 S. Ct.1384(1996)。地方裁判所は、クレーム解釈の争点を特別補助裁判官に委託した。特別補助裁判官は、特許の明細書と図面に含まれる開示された構造に基づいて、555特許のミーンズプラスファンクション・クレームを解釈した。35 U.S.C.第112条第6パラグラフ(1994)を参照。特別補助裁判官は、555特許にクレームされているビデオ・ディスプレー・システムに関して、次のような陪審への説示を提案した。

ビデオ信号を生成するためのクレーム12と13の各要素に対応する構造は、テレビ受信機とキーボードを除く図2の構成要素である。これらの構成要素は、相互作用によって、次のようにビデオ信号を生成する。ビデオ・ユニット30に表示される直線のプレーヤーのイメージ画像とボールのイメージ画像は、ROM 42A内にデータとして保存される。このシステムの「知能」は、マイクロプロセッサ40によって提供される。 マイクロプロセッサ40の動作は、ROM 42A内に保存されているプログラムの制御を受ける。マイクロプロセッサ40は、書き込み制御回路38を用いることによって、ROM 42A内の情報をRAM 32に書き込ませる。RAM 32は、テレビスクリーンの各バーまたはピクセルに対応する離散型記憶領域を有する。テレビ・インターフェース36は、テレビ受信機30にビデオ信号を提供するために、上記のディスプレーRAM32内の各記憶領域をディスプレーRAMアドレス34に読み取らせる。

特別補助裁判官は、代替案としてクレーム解釈の争点を陪審に委任することを勧めた。地方裁判所は、特別補助裁判官の推奨した陪審への説示の第1文のみを採用し、残りのクレーム解釈の争点を陪審に委任した。

陪審が侵害の評決を下した後に、任天堂は陪審がこの評決に達するためにクレームに与えたと推定される解釈について、JMOLを求める申し立てを行った。しかし、地方裁判所は任天堂の申し立てを棄却した。この裁判所は、JMOLを求める申し立てを棄却する際に、特別補助裁判官のクレーム解釈の全体を採用したらしく、推定された陪審のクレーム解釈を支持する十分な証拠があると判示した。任天堂は、JMOLの申し立てを棄却することにより、地方裁判所は間違ったクレームの解釈を認め、RAMに基づくビットマップ・ビデオ・ディスプレー・システムに対するクレームを、シフト・レジスタに基づくオンザフライ・ビデオ・ディスプレー・システムを使用した装置にまで拡張することを認容したと主張している[1]

任天堂は、555特許がラスター内の32,000の全てのピクセルに対して、RAMメモリ・マップの使用を要求しているのに対して、NESは最大64のピクセルしか保持しないシフト・レジスタを使用していると主張する。このような構造の違いのために、任天堂は文字通りの侵害も、均衡論に基づく侵害も生じていないとしている。さらに任天堂は、特許審査中にアルペックスが555特許の発明をシフト・レジスタを用いた先行技術特許から区別したため、NESが555特許を侵害していると主張することは禁じられていると主張している。

特許商標庁(PTO)に対する特許出願の審理において、アルペックスは555特許のRAMに基づくビットマップ・ビデオ・ディスプレーの構造を、シフト・レジスタに基づくビデオ・ディスプレーの構造をクレームした先行技術特許のオクダから、明確に区別した。アルペックスは、オクダのビデオ・ディスプレー・システムは、アルペックスのビットマップ・システムとは全く異なる構造を有していると特許商標庁に説明した。特に、アルペックスは、オクダがスクリーン上の1つのピクセルを選択的に変更することができなかったと指摘した。アルペックスは、次のように説明した。

出願人(アルペックス)のディスプレー・システムは、マイクロプロセッサ40によって制御されるランダム・アクセス・メモリ(RAM)32を利用している。明細書に説明したように、キーボードが操作されると、マイクロプロセッサ40は読み出し専用メモリ(ROM)42Aから適切なイメージ画像を引き出し、この特定のイメージ画像をRAM 32内の適切な場所に対して、直接に転送する。ランダム・アクセス機能によって、選択されたイメージ画像をRAM 32内の希望するあらゆる領域に直接に格納することが可能になるため、この機能は重要である。

これに対して、オクダはランダム・アクセス・メモリを使用せず、代わりに申請者のRAM 32に相当するリフレッシュ・メモリ17として、一連のシフト・レジスタを採用している。シフト・レジスタへのランダム・アクセスは不可能であるため、オクダはメモリ17内の単一のビットを選択的に変更することはできず、保存されたディスプレー・データを変更するためには、ラインを一度に1本ずつ変更しなければならない。

オクダは、一度にデータの1ラインを変更することを意図しており、単一のドットを変更することに関する記述はない。これに対して、申請者の発明のランダム・アクセス技術は、テレビ・スクリーン上のあらゆる単一の点を(マイクロプロセッサの制御に基づいて)自由に変更することができる。

地方裁判所は、特別補助裁判官の推奨意見を採用して、上記の説明をクレーム解釈のために特に検討することはしなかった。特別補助裁判官のレポートは、上記に引用した区別が、今回主張されたものとは別のクレームに対して行われたため、この出願経過の側面を「出願経過に基づく禁反言」のために利用することはできないと指摘していた。任天堂は、オクダの先行技術特許に関する説明によって、主張されたクレーム12および13に関する出願経過禁反言が生じることはないとしても、この説明はクレーム解釈に関係があり、検討されるべきであると主張した。アルペックスは、オクダ特許によるクレーム解釈への影響については、何も言っていない。ただ、出願経過禁反言を目的とするオクダについての議論を任天堂は放棄したとのみ主張している。

IV

出願経過は、出願経過禁反言の目的のためだけでなく、クレームの意味と範囲の解釈にも関係する。Moleculon Reserch Corp. v. CBS Inc., 793 F.2d 1261, 1270, 229 USPQ 805, 811(Fed. Cir. 1986年)を参照。 (「均衡論に基づいて侵害の分析を行う際に、出願経過から禁反言が生じることがあるのは確かであるが、適切な場合にはクレームの文言を適切に解釈するためにも、(例えば、クレームの文言および明細書と共に)出願経過を査定することができ、また査定するべきである」(引用省略))。McGill Inc v. John Zink Co., 736 F.2d 666, 673, 221 USPQ 944, 949(Fed. Cir. 1984年)(「出願経過は、禁反言のためだけでなくクレーム解釈の道具としても利用することができる。」)、他の根拠に基づいて破棄Markman, 52 F.3d at 976, 979, 34 USPQ2d at 1327, 1329。実際、出願経過はクレーム解釈のための適切な道具である。Markman, 52 F.3d at 980, 34 USPQ2d at 1330を参照。(「クレームの文言を解釈するために、裁判所はその特許の出願経過を考慮するべきである・・・」)。Builders Concrete, Inc. v. Bremerton Concrete Prods. Co., 757 F.2d 255, 260, 225, USPQ 240, 243(Fed. Cir. 1985年)。(「すべてのクレームの出願経過は、クレームの正当な範囲を決定するための検討事項から排除されてはいない。これと反対の決定を行うことは、実質よりも形式を重んじ、特許クレームの理解のために効果的で有用な指針として役立つ法律学の論理を歪めることになるであろう」)。

本件において、オクダ特許はクレームの解釈に直接に関連する。555特許の出願経過によると、オクダによって予見されていたとして、審査官は出願のクレーム1を拒絶している。このため、RAMに基づくビットマップ・システムを用いたディスプレー制御装置のミーンズプラスファンクション形式において、クレーム1に対する一連の制限が明示された。アルペックスは、特許商標庁に対して、RAMに基づくビデオ・ディスプレー・システムと、シフト・レジスタに基づくビデオ・ディスプレー・システムの構造上の差異に基づいて、オクダとの違いを明らかにした。「修正クレーム1は、オクダとの違いを明確にしている。このクレームは、上記のようにオクダにおいては開示されていないランダム・アクセス・メモリを要求する」。特別補助裁判官は、今回の訴訟とは関係のないクレームに関するものであったため、オクダについてアルペックスが行った説明を重視しなかった。地方裁判所は、特別補助裁判官のこの考えを採用したようである。しかし、我々はビデオ・ディスプレーの構造に関する出願経過において、クレーム1のミーンズプラスファンクションが制限されたことが、同じディスプレー・システムの同じ構造のクレーム12と13に対するミーンズプラスファンクションの制限と関係を有しない理由はないと考える。特許法第112条第6パラグラフは、特許の明細書に開示された構造を考慮に入れて、ミーンズプラスファンクションに関するクレームを解釈することを要求している。Intellicall. Inc. v. Phonometrics. Inc., 952 F.2d 1384, 1388, 21 USPQ 1383, 1387(Fed. Cir. 1992年)。In re Iwahashi、888 F.2d 1370, 1375, 12 USPQ2d 1908, 1911(Fed. Cir. 1989)。明細書内に開示された構造に関して、審査中に行われた説明が、争点のミーンズプラスファンクション・クレームに対する制限の意味の決定に影響を与えることは明らかである。

地方裁判所は、クレーム12および13と、555特許の明細書は、RAMに基づくビットマップ・ビデオ・ディスプレー・システムの利用を要求していると認定した。さらに、オクダの先行技術特許に関して、審査中にアルペックスが行った説明は、アルペックスがテレビ受信機上の単一のビットまたはピクセルの変更が可能なRAMの使用に基づくビデオ・ディスプレー・システムをクレームしていることを強調した。この説明は、シフト・レジスタがメモリ内の単一のビット、すなわち単一のピクセルを選択的に変更することができないため、シフト・レジスタに基づくあらゆるビデオ・ディスプレー・システムをクレームの範囲から除いている。NESが、この種類のビデオ・ディスプレー・システムを利用していることは明らかである。実際、アルペックス専属の技術専門家ミルナー氏は、NESがRAMではなくシフト・レジスタを利用していることを証言した。さらに、ミルナー氏はNESが単一のピクセルを直接に変更することができないことを説明した。このようなミルナー氏の証言により、シフト・レジスタの利用によってランダム・アクセス機能を実現することは不可能であることが確認された。要するに、NESの構造と動作はオクダのビデオ・ディスプレー・システムの構造と動作に対応していると言える。

アルペックスは、オクダがラスター上の水平ラインの変更のみができるのに対して、NESはラスター上のあらゆる8ビットのスライスを変更することができるとして、オクダとNESとを区別しようとしている。しかし、この区別は、構造上の類似性にも(オクダとNESは共にシフト・レジスタを使用している)、関連する機能上の類似性にも(オクダとNESは共に単一のピクセルを変更することができない)影響を与えない。前述したように、アルペックスは特許審査中に、そのクレームがオクダのようなシフト・レジスタに基づくビデオ・ディスプレー・システムを対象としていないことを主張した。言い換えれば、シフト・レジスタに基づくシステムは、単一のビットにランダムにアクセスすることができるRAMに基づくシステムに対して、構造上も機能上も均等性を有しないと主張した。従って、アルペックスのクレームに、オクダと同一の構造および機能上の特性を有するNESが含まれるものと解釈することはできない。

V

陪審評決書類の質問事項1は、次のことを尋ねた。「クレーム12および13は、テレビ・スクリーンの各バーまたはピクセルに対応する離散的な記憶領域を有するディスプレーRAMが、構造に含まれることを要求していると考えるか?」陪審は、この質問にYESと答えた。この回答は、555特許の出願経過とも合致している。

しかし、陪審は第112条第6パラグラフに基づいて、RAMに基づくビットマップ・ビデオ・ディスプレー・システムと、シフト・レジスタに基づくNESシステムとの間に、構造的な均等性を黙示的に認定して、訴えられたNES製品とそれに付随するゲーム・カートリッジの殆どが、555特許のクレーム12および13を侵害したとする評決を下した。地方裁判所は、この評決が実質証拠によって支持されているとして、JMOLに対する申し立てを棄却した。Kearns v. Chrysler Corp., 32 F.3d 1541, 1547-48, 31 USPQ2d 1746, 1751(Fed. Cir. 1994年)(「推定または明示による陪審の事実認定が、実質証拠によって支持されない場合、もしくは実質証拠によって支持されたとしても、陪審の評決から黙示される法的結論が、法律上、その事実認定によって支持され得ない場合にのみ」評決を覆すことが適切であるとした)。Perkin-Elmer Corp. v. Computervision Corp., 732 F.2d 888, 893, 221 USPQ 669,673 (Fed. Cir. 1984年)(「裁判所が、陪審の記録に基づいて、合理的な人物であれば、申し立てを行った当事者を敗訴させる評決には達しなかったであろうと確信する場合にのみ、(JMOLに対する)申し立てを認めるべきである」)。我々は、同一の基準を適用して地方裁判所のJMOLに関する決定を検討する。Read Corp. v. Portec. Inc., 970 F.2d 816, 821, 23 USPQ2d 1426,1431(Fed. Cir. 1992年)。

地方裁判所は、ビットマップ・システムとNESとの間の差異は重要でなく不十分であるため、第112条第6パラグラフに基づく均等性の主張を否定することはできないとするアルペックスの専門家、ミルナー氏の証言を主な根拠として、任天堂は555特許のクレーム12および13を文言上侵害したと判示した。これに従って、地方裁判所はNESがビットマップ構造に対して機能上だけでなく、構造上も均等性を有すると結論づけた。しかし、前述した理由のために、適切なクレーム解釈が行われれば、NESが第112条第6パラグラフに基づく均等物として、555特許のクレーム12および13を侵害することはあり得ない。

「特許権者が、自ら開示していない構造に対して、(ミーンズプラスファンクションに関する)クレームを適用することを求めて均等性を主張するすべての事件と同様に、裁判所は決定権を行使する必要がある。」Texas Instruments Inc. v. United States Int'l Trade Comm'n, 846 F.2d 1369, 1371, 6 USPQ2d 1886, 1889(Fed. Cir. 1988年)。審査中に、申請者がすでにクレームされている構造から、自らの構造を明示的に区別した場合には、その申請者は排除した構造を含む同クレームの範囲を主張することが禁じられる。Sofamor Danek Group Inc. v. DePuy-Motech, Inc., 74 F.3d 1216, 1220, 37 USPQ2d 1529, 1531(Fed. Cir. 1996年)と比較せよ。555特許の審査中に、アルペックスはシフト・レジスタに基づくビデオ・ディスプレー・システムを対象としていないとして、第112条第6パラグラフに基づくミーンズプラスファンクションの制限を記述した。しかし、地方裁判所はJMOLの申し立てに際して、これとは反対のクレームの解釈を認め、アルペックスが特許商標庁に対して言明した制限を回避することを認めるという過ちを犯した。出願経過禁反言のために、均等論に基づく均等性の主張が禁じられることがあるのと同様に、特許商標庁に対して表明した見解のために、第112条第6パラグラフに基づくクレームの解釈に対して一貫しない見解を主張することが禁じられる場合がある。Advance Transformer Co. v. Levinson, 837 F.2d 1081, 1083, 5 USPQ2d 1600, 1602(Fed. Cir. 1988)などを参照。(「出願人が、クレームの許可を得るために表明した見解は、特許商標庁が認めたクレームの理解と解釈に適用され、後の異なる解釈、またはより広い解釈に対する禁反言として作用することがある」)。

さらに、ミルナー氏の証言においては、明細書および訴えられた装置について構造の分析が行われるはずであったが、実際には機能上の均等性の分析しか行われなかった。ミルナー氏は、表示される「オブジェクトのたった1つの小さなスライス」を保存するものとして、NESのシフト・レジスタを説明し、他方で、ビットマップ・システムは、「スクリーン全体を保存する」と説明した。そして、オブジェクトのスライスを表示することは、「スクリーン全体」を表示することと均等性を有すると結論づけた。特に、ミルナー氏は「均等性を有する根拠は、一度に1本のラインを保存し、それを非常に早く何度も繰り返すことにより、同じ結果に達することである」と証言した。このように、ミルナー氏はNESの処理を繰り返すことによって、最終的にビットマップ・システムの場合と同様に、スクリーン全体に画像が表示されると結論を下した。しかし、この結論は、どちらのシステムもデータを保存し、最終的にスクリーン全体に画像を表示するという機能上の均等性を示しているにすぎない。ミルナー氏は、NESの構造を明細書内に開示されたビットマップ構造と比較することはしていない。加えて、このビットマップ構造は、555特許の審査中にシフト・レジスタ構造と明確に区別された。

アルペックスは、555特許の審査中に、シフト・レジスタを利用したシステムを対象としていないとして、そのクレームを定義した。また、第112条第6パラグラフに基づいて侵害を証明するためにアルペックスが頼りにしているミルナー氏の証言は、構造上の分析ではなく、機能上の分析のみに基づいていた。従って、我々は文字通りの侵害を認めた陪審の評決を支持したのは、裁判所の誤りであったと判断する。

VI

また、地方裁判所は、陪審が第112条第6パラグラフに基づいて合理的に侵害を認定したとする判断を主な根拠として、均等論に基づく侵害の争点についての任天堂のJMOLの申し立てを棄却した。裁判所は、均等論に基づく均等性は、第112条第6パラグラフに基づく均等性よりもやや広義の概念であるため、文字通りの侵害に対する均等性の議論は、同様に均等論に基づく侵害に対しても適用されると判示した。

確かに、均等論に基づく均衡性と第112条第6パラグラフに基づく均衡性は、どちらも些少の変更に関係しているが、両者はそれぞれ別個の期限、目的、適用対象を有している。Valmont Indus., Inc. v. Reinke Mfg. Co., 983 F.2d 1039, 1043-44, 25 USPQ2d 1451, 1454(Fed. Cir. 1993年)。第112条の下では、クレーム対象機能を有するとして訴えられた装置が、そのクレーム対象機能に関する明細書に記述された構造と、同一または同等の構造を有するかどうかという点が争点となる。D.M.I. Inc. v. Deere & Co., 755 F.2d 1570, 1575, 255 USPQ 236, 239(Fed. Cir. 1985年)。他方で、均等論の下では、訴えられた装置とクレーム対象装置との違いが、些少にすぎないかどうかが争点となる。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62 F.3d 1512, 1527, 35 USPQ2d 1641, 1644-45 (Fed. Cir. 1995年)(大法廷)、上訴受理、116 S. Ct. 1014(1996)。後者の争点は、訴えられた装置が、実質的に同じ方法により、実質的に同じ機能を実行し、実質的に同じ結果を達成するかどうかという問題に置き換えられることがある。同判決 at 1518, 35 USPQ2d at 1645を参照。

本件において、裁判所は、アルペックスの専門家であるミルナー氏の証言を根拠として、陪審による均等論に基づく侵害の認定は、実質証拠によって支持されたと結論づけた。しかし、地方裁判所も認めたように、クレーム対象装置と訴えられた装置が、その機能/方法/結果に関して実質上同一であるとするミルナー氏の証言は、推断的なものにすぎない。それにも関わらず、裁判所は、第112条第6パラグラフに基づく侵害に関連する彼の証言も考慮に入れれば、ミルナー氏の機能/方法/結果に関する推断的な説明は、均等論に基づく侵害を認定するために十分であったとした。

しかし、前述したように、第112条第6パラグラフに関連するミルナー氏の証言は、機能的な結果の均衡性のみに言及していた。彼も裁判所も、訴えられた装置とクレーム対象装置が、実質的に同じ方法により動作するかどうかについては検討しなかった。実際、第112条第6パラグラフに基づく均衡性を説明するために、ミルナー氏は訴えられた装置とクレーム対象装置は、同一の方法において動作しないことを認めた。例えば、ミルナー氏はビットマップ・システムがビットマップ(保存された画像の全体)をディスプレーRAMにコピーし、次に画像の全体をスクリーン全体に読み出すことによって、画像を生成すると証言した[2]のに対して、NESについては、画像の一部を切り取り、それを一時的な記憶装置に格納し、次にその画像の一部分のみをスクリーン上に読み出すことによって、画像を生成していると説明した[3]。ミルナー氏によると、画像の全体がスクリーン上に表示されるまで、この処理を「一度に少しずつ」繰り返すことにより、NESはビットマップ・システムと同一の機能的な結果を達成することができると言う[4]。この証言は、クレーム対象の装置とNESが、実質的に同一の方法により動作するという結論を支持していない。

従って、本件の証拠は、均等論に基づく侵害の認定を支持していない。この証拠は、クレーム対象装置と訴えられた装置が、同じ方法によって動作すること、もしくは両者の間の差異が些少であることを証明していない。前述したように、アルペックスは555特許の審査中に、単一のビットを変更することができるランダム・アクセス・システムを対象とするものとして、そのクレームを説明した。アルペックスは、シフト・レジスタによる画像生成をクレームすることはなかったし、そうすることは不可能であった。最高裁判所が説明しているように、均等論の目的は、特許権者以外のものが「特許に関して重要でない些少な変更および代替」Graver Tank, 339 U.S. at 610.を行うことのみによって、特許を迂回することを妨げることである。この理論は、クレームの範囲外として明確に定義されたシステムを対象とするものではない。本件において、ビデオ・ディスプレーのためのデータ処理に、RAMの代わりにシフト・レジスタを用いることは、単なる重要性の低い些少な変更ではない。

従って、文言上または均等論のいずれに関しても、侵害の認定を支持する実質証拠が欠けているため、侵害と損害賠償に関する地方裁判所の判決は破棄される。従って、損害賠償に関するアルペックスの交差申し立ては、争訟性を喪失する。

VII

任天堂は、555特許が無効ではないとする陪審の認定に対しても、異議申し立てを行った。地方裁判所は、JMOLの申し立てに際して、無効性に関する任天堂の主張について32ページにわたる詳細な検討を行った。我々は、この争点に関して、任天堂の主張と地方裁判所の意見を慎重に検討したが、誤りは認められなかった。従って、我々は有効性に関する判決を維持する。

訴訟費用なし。

原判決の一部維持一部破棄



[1]       任天堂は、555特許内の他の2つのクレーム解釈の争点についても異議申し立てを行っている。すなわち、クレームの用語「直線のプレーヤーのイメージ」が適切に解釈されたかという争点と、この特許は搭載ROMを要求しているかという争点である。しかし、本書内での我々の見解のために、このような他のクレーム解釈に関する争点について決定を下す必要はない。

[2]       ミルナー氏は、「555特許に記述されているビットマップ技術を用いてスクリーン上に画像を表示したい場合には、事前にこのビットマップをディスプレーRAMにコピーする。大切なことは、このRAM内にスクリーン上の各ポジションに対応する記憶領域を有することである」と証言した。さらに、ミルナー氏は説明を続けた。「フルスクリーン・ビットマップは、マイクロプロセッサによってディスプレーRAMに読み込まれ、このメモリに保存された画像を転送し、適切な時に、テレビ・スクリーン上に表示することによって、この小さな男の画像を生成する」。

[3]       ミルナー氏は、NES装置について次のように説明した。「これはすべてのラインを保存することはない。レジスタの1つがこの上部のラインを保存し、他のレジスタが、この上部の空白のラインを保存する。ポジションが合い、陰極線ビームが放出され、画像が表示される時に、この一時的なシフト・レジスタに保存されていた少量の情報が吐き出され、ある追加の回路を通って、スクリーンに対するビームをオンまたはオフにすることにより、彼の頭の上部を描く」

[4]       特に、ミルナー氏は、NESの処理が「何度も繰り返し」行われれば、画像の全体がスクリーン上に表示されると主張し、次のように説明した。「同じハードウェアを繰り返し用いて、1ラインずつ表示し、画像全体がスクリーン上に表示されるまで(一度に少しずつ)その情報を保持する」。