DIGITAL BIOMETRICS INC.、原告 - 上訴人
v.
IDENTIX, INC. and RANDALL C. FOWLER、被告 - 被上訴人

97-1208

合衆国連邦控訴裁判所

1998 U.S.App. LEXIS 14928
1998年7月2日、決定

審理経過: [*1]カリフォルニア州北部地区合衆国地方裁判所、判事Claudia Wilken からの上訴

処分: 上訴棄却

主要用語: 配列、スライス、複合、指紋、デジタル、ピクセル、特許、重なり、記憶、侵害、指、面、メモリー、文書説明、生成、回転、アナログ、数学、発明、2次元、変換器、侵害、出願者、フレーム、略式判決、マイクロプロセッサー、対応、デジタイザー、信号、隣接

弁護士: 原告側Alan G. Carlson、Merchant,Gould,Smith,Edell,Welter & Schmidt,P.A., ミネソタ州ミネアポリス、原告-上訴人のために弁論。Philil P.Caspers及びThomas E. Bejin上訴趣意書に協力。

被告側Frank E. Scherkenbach、Fish & Richardson P.C., カリフォルニア州メンロ・パーク、被告-被上訴人のために弁論。Jack L. Slobodin, Fish & Richardson P.C.及びRobert T. Haslam, Heller Ehrman White & McAuliffe、カリフォリニア州パロ・アルト、上訴趣意書に協力。Frank P. Porcelli and John C. Phillip, Fish & Richardson P.C., マサチューセッツ州ボストン、上訴趣意書に助言。

判事: PLAGER巡回判事、SKELTON最先任巡回判事、及びBRYSON巡回判事

意見者: PLAGER

意見: PLAGER巡回判事

Digital Biometrics, Inc.(「DBI」)は、IdentixおよびRandall Fowlerに対し、文理的なおよび等価物の法理の下双方でのな特許侵害に基づき、カリフォルニア州北部地区合衆国地方裁判所に訴訟を提起した。地方裁判所は、非侵害の略式判決を求めるIdentixの申し立てを認めた。Digital Biometrics, Inc. v.[*2] Identix Inc., No. C 95-01808 CW, 1996 WL 784567(カリフォルニア州北部地区1996年12月16日)。DBIは上訴した。本法廷は、非侵害であるとの地方裁判所の判決を維持する。


A.    背景

1.

本特許訴訟は、「回転する指紋像を生成するシステム」という表題の合衆国特許第4,933,976号(特許第 ‘976号)に関するものである。表題が示すように、特許を受けた発明は、指紋を採取し保存し表示するシステム(および方法)に関係する。紙とインクを使用する通常のシステムとは異なり、本システムはコンピューター制御の作像と検索のシステムを使う。本システムは指紋をデジタルで表現することにより、指紋の保存、検索および最も重要なこととして調査を自動化できる。

特許第 ‘976号の発明者は、デジタル指紋システムの最初の作成者ではない。同様の幾つかの先行システムが同特許の「発明の背景」の項に記されている。同特許に依れば、それらのシステムの問題点は、曲面上の指紋を2次元平面上に捕らえることに付随する問題のため、指紋を正確に表わせないことである。したがって、本発明の利点とされることは、[*3]最終的な像の「切れ目と人為的部分が少ない」ことである。第2欄ll.22〜23。

特許の文書説明に記されているシステムは、ランダム・アクセス・メモリー(RAM)とリード・オンリー・メモリー(ROM)に連結したマイクロプロセッサーを含んでいる。マイクロプロセッサーはさらに、オペレーターがデータを入力できる、標準的なキーボードなどのターミナルにつながっている。システムが生成する指紋画像をオペレーターが見て印刷するためのビデオ・モニターとプリンターもシステムに含まれている。

指紋像を生成する方法が、本特許の核心であり本訴訟の核心でもある。したがって、システムが行なう作像順序を精確に記述する必要がある。システムはまず、文書説明に「ビデオ信号のフレーム」として言及されている指紋のアナログ表現を生成する。第3欄、ll.52〜54。好適な実施例では、そのアナログ像は、「像伝播面」上に表示される指紋像をとらえるビデオ・カメラによって作成される。好適な実施例では、この面はプリズムかプラテンであり、その上で指を回転させる。カメラは像伝播面の像全体[*4]をとらえる。第3欄、ll.49〜51。しかし指の形はアーチ状なので、各時刻では指の一部のみがプリズムと実際に接触している。したがって指が面上を回転するにつれて、カメラは間隔をおいて、プリズムの像伝播面の「スナップ・ショット」を撮ることになる。

ビデオ・カメラのアナログ出力は、「フレーム・デジタイザー」に送られる。文書説明の表現では、「デジタイザー24は、離散的な各ピクセル(画素)の位置PLn,m/に対応して、指紋像の強度を表わすデジタル・ピクセル値PVn,m/の2次元配列を生成する」。第3欄67行目〜第4欄2行目。好適な実施例ではフレーム・デジタイザーは、8ビットのアナログからデジタルへの変換器である。第4欄、ll.17〜20。デジタイザーはマイクロプロセッサーに制御されて動く。デジタイザーの出力はマイクロプロセッサーにより読まれ、RAMに記憶される。このプロセスで生成されるデータ構造は何度も、「画像配列」と呼ばれている。たとえば第4欄、ll.2〜4、16;第5欄、ll.9、27、38、47、50、53、65;第6欄、ll.12、47、43〜54。「画像配列」[*5]は、図3A、3Bおよび3Cにそこに描かれている例についてそれぞれ示されているように、文書説明では「IAL、IACおよびIAR」と呼ばれている。各画像配列は「N個の水平列とM個の垂直列」を含む。第4欄、ll.6〜7。ある好適な実施例では、Nは480、Mは512に等しい。この大きさは明らかに、画像配列を引き出すためのフレーム信号の大きさの直接の関数である。アプリケーションの説明の目的で図面に示されているものでは、Nは20に等しくMは28に等しい。しかしプロセス中の、光学画像が「配列」になる正確な時点が、本訴訟の争点の1つである。

最初の画像配列が取られメモリーに記憶されると、システムは、各ピクセルの強度の平均強度からのずれの程度を決定する。第4欄、ll.51〜55。その結果である「偏差」が、画像配列内の「有効範囲」を定めるのに使われる。一般に、ピクセルの偏差が大きいほど、そのピクセルが実際に、像伝播面とその時点で接触している指の部分を表現している確率が大きくなる。したがって有効範囲は[*6]、実際の指紋の特徴を表わすデータを含んでいる画像配列の部分集合である。好適な実施例では、有効範囲は長方形の配列である。左右の辺、つまり有効範囲の境界は、各行の偏差を予め決められている限界値と比較することによって決定される。マイクロプロセッサーは各偏差値をその限界値と比較する。有効範囲の左端は、最初の偏差値が限界値を超えた、画像配列の列に設定される。第5欄、ll.50〜67。次にマイクロプロセッサーは順番に、その行の、限界値よりも大きな最後の偏差値を特定するまで問題の行の偏差を処理する。そして右端は、そのようにして特定された最後の列に設定される。第6欄、ll.4〜9。好適な実施例では、有効範囲の上下の境界は、それぞれ列1と列Nに設定される。

特に仕様の図が、実際のプロセスの説明に役立つ[1]。下に示されている図3Aは、指を左から右へ回転したときの、プラテンから取られた最初の像(「OIL」)を示している。

[*7]

[原本の図3Aを参照]

対応する画像配列が図4Aに示されている。図4Aに示されている画像配列IALの場合、対応する有効範囲は、破線AAIALで与えられる。

[原本の図4Aを参照]

有効範囲が決定すると、その有効範囲の境界で囲まれる画像配列内の画像データ、そしてそのデータのみが「複合配列」にコピーされ、最終の指紋画像を記憶するのに使われる。第6欄、ll.14〜20。この段階は文書説明の中では、「AAIALなどの最初の「スライス」つまり有効範囲を、複合配列CAにコピーする」と説明されている。第6欄、ll.37〜8。複合配列はそれ以前に初期化され、そこのすべての値がクリアされている。下に示す図5Aは、有効範囲AAIALを複合配列にコピーした結果を図示している。

[原本の図5Aを参照]

上述のプロセスは実質的に、その後の各ビデオ・フレームでも繰り返される。指紋が像伝播面上を回転すると、その後のフレームは指紋の異なる部分を含むことになる。各時点でのビデオ・フレームが上述の方法でデジタル化され、次の画像配列として記憶される。[*8]次にその画像配列がマイクロプロセッサーで分析され、その有効範囲が決定される。そしてその画像配列の有効範囲は、以下で説明する方法で複合配列に併合される。

二番目のビデオ・フレームの撮像と有効範囲決定の結果が、以下に示すように、それぞれ図3Bと図4Bに図示されている。この二番目の画像配列における有効範囲は、図4Bに「AAIAC」と表示されている。

[原本の図3Bと図4Bを参照]

次にこの二番目の画像配列の有効範囲AAIACが、「数学関数」を用いて最初の画像配列の有効範囲と組み合わされる。現有効範囲AAIACと、複合配列に以前に記憶された有効範囲AAIALとの重なりが、システムの効果的な機能にとって必須である。実際、もしマイクロプロセッサーが重なりを発見できないと、オペレーターに「指紋の一部が・・・失われた」と伝えるアラームが起動する。第7欄、ll.24〜30。本発明では重なりの存在は、現有効範囲の左端と、複合配列の中に記憶されている前有効範囲の右端を比較することによって、容易に判断される。好適な実施例では、[*9]システムは最低8ピクセルの重なりを要求する。しかし示されている図では、異なる最低数が仮定されている。

マイクロプロセッサーは実際に重なりがあると判断すると、数学関数を使って現有効範囲を複合配列と併合、つまり組み合わせる。この併合プロセスを行なうために、マイクロプロセッサーは現有効範囲の各ピクセルを、複合配列内の対応するピクセルと比較する。もし現有効範囲のピクセルが複合配列の対応するピクセルよりも明るかったら、複合配列のピクセルは変更されない。第8欄、ll.16〜33。しかし、もし現有効範囲のピクセルが複合配列のピクセルよりも暗かったら、その2つは平均され、その結果が、複合配列のピクセルの場所に記憶される。

第8欄、ll.34〜48。暗いほうの複合配列のピクセルを保持し、暗いほうの現有効範囲のピクセルを平均することにより、システムは「2つの隣接するスライス間の移行を滑らかにし、複合配列CAは回転された指紋をより正確に表現するようになる。」第7欄、ll.45〜48。

2.

発明者は1988年1月25日に特許を出願した。予備的修正[*10]が1988年9月1日に提出され、クレーム1〜2が削除されクレーム3〜25が加えられた。1989年3月30日付けの指令において合衆国特許商標庁(「PTO」)の審査官は、すべてのクレームを拒絶した。クレーム3〜4、19〜22および25は、Ruell(ドイツ特許第3423886号)に鑑みて、35 U.S.C. @ 102 (b)に基づき拒絶された。クレーム5〜14、16、23および34は、Ruell特許のみに鑑みて35 U.S.C. @ 103に基づき拒絶された。クレーム3〜18、21〜23および24も、出願者の発明を具体的に指摘し明確にクレームしていないとして、35 U.S.C. @ 112、P2に基づき拒絶された。しかし審査官は、クレーム15、17および18は、独立形式で書かれ @ 112、P2に基づく拒絶を克服できるように修正されれば、認められうると指摘した。出願者は1989年9月28日に、注釈とともに修正を提出した。その修正では、クレーム4、20および21が削除され、新しいクレーム26〜38が加えられた。この修正に応えて、出願中のクレームは結局認められた。

Identixは、コンピューター化された指紋採取システム市場におけるDBIの競争相手である。Randall FowlerはIdentixの社長である。Identixは2つの製品TP-600とTP-900を生産する。[*11]TP-600は、マイクロプロセッサーを基礎とするシステムである。TP-600は、アナログからデジタルへの(「A/D」)変換器に連結する作像システムから構成される。作像システムは実質的に、特許で説明されているものに類似している。Identixは、それに反する主張をしていない。TP-600作像システムは電荷結合素子(「CCD」)を使って、指紋を表わすアナログ信号を生成する。各ピクセルに対応するアナログ信号の信号レベルは、そのピクセルでの像の強度の関数である。アナログ信号はインクを使って生成される明暗の表現に似て、うね情報には低い値、谷情報には高い値をもつ。CCDによって生成されるアナログ信号は、A/D変換器によってデジタル・フォーマットに変換される。A/D変換器は、CCDが生成するアナログ・データ列に対応する、それに同期した一連のデジタル値を生成する。システムはアナログ信号のタイミングに基づき、CCDの2次元行列中のどのピクセルに、アナログ信号が対応するのかを精確に知る。

TP-600はまた、記憶システムももっている。この記憶システムは、作像システムが作成した指紋像[*12]を記憶するのに使われる。A/D変換器によって生成された各デジタル・データ値は、CCD内のそのピクセル位置に対応する、記憶システム内の位置に記憶される。デジタル値が対応するメモリー位置に記憶される前に、CCDが生成した現デジタル値が、そのメモリー位置の現在値と比較される。現デジタル値が比較されている間は、それは一時的にレジスターに保管される。本上訴の目的のためには、各メモリー位置にどの値を記憶するかを、現デジタル値と既存のデジタル値に基づき決定するのに、同システムは数学関数を使用することを言えば十分である[2]

TP-900は実質的に、[*13]4つのTP-600を単一のシステムに統合したものである。4つのTP-600のそれぞれは、上述のプロセスを使って、指紋像の4分の1よりもやや大きい像を生成する。それぞれのTP-600によって4つの像が生成されると、それらは単一の複合像に併合、つまり組み合わされる。4つの像を組合せる方法は、TP-900の2種類の市販バージョンそれぞれで異なる。1つのバージョンでは、TP-900は重なり部分を二等分し、余分なデータを破棄し、像の各部分を突き合わせる。第二のバージョンでは、TP-900は数学関数を使って各像をその端で混合し、各象限の境界のうねの端の小さな切れ目を滑らかにする。

3.

DBIはIdentixとFowler(総称して「Identix」)を、特許侵害で訴えた。DBIは5つのクレーム、クレーム1、3、16、17および20をあげた。Identixは、TP-600は主張されているいずれのクレームも侵害していないとの部分的略式判決を行なうよう申し立てた。DBIも略式判決を求めた。地方裁判所はIdentixの申し立てを認め、DBIの申し立ては棄却した。裁判所は、クレームが、2次元配列を表わすデジタル・データを記憶できる[*14]メモリーのデータ構造を要求していると解釈した。この解釈に基づき第一審裁判所は、各時点では1つのピクセル値しか記憶しないので、「最初の像の後ではどのフレームに対してもメモリーに個別の画像配列を記憶」しないという理由で、TP-600が文理的に侵害していないと結論付けた。裁判所はまた、審理経過による禁反言により、等価物の法理に基づくTP-600の侵害の認定も排除されると判断した。したがって同裁判所は、Identixを勝訴側とする略式判決を記入した。

それからIdentixとDBIは互いに、TP-900が侵害しているか否かについての部分的略式判決を求めた。地方裁判所は再び、Identixを勝訴側としDBIを敗訴側と裁定した。クレームは、複合配列を構築するために使われる中間配列が、プラテン上に現われた実際の像を表わすことを要求していると、同裁判所は解釈した。TP-900が生成する4つの部分的な像はそれ自体が複合像なので、TP-900はこの限定を満足していないと裁判所は結論付けた。DBIは、いずれにしろTP-900のCCDが実際の指紋を表わす像の等価物を生成するか否かという、事実問題についての真正な争点があると主張したが認められなかった。さらにTP-600に関して[*15]同裁判所は、TP-900の等価物による侵害は、審理経過による禁反言のために排除されると結論付けた。そして同裁判所は、Identixを勝訴側とする判決を記入した。DBIは現在、両方の略式判決を上訴している。


B.    議論

地方裁判所は28 U.S.C. @ 1338 (a) に基づき、「特許に関する連邦のいずれかの法律に基づき生じた」訴訟として、本訴訟に対する裁判権をもっていた。本法廷は、かかる訴訟における地方裁判所の最終決定に対して裁判権をもっている。28 U.S.C. @ 1295 (a) (1) (1994) 参照。

本法廷は、重大な事実問題についての真正な争点が争われているか、および法律上の誤りがあるかを判断するために、Identixを勝訴側とする地方裁判所の略式判決を検討する。Quantum Corp. v. Rodime, PLC, 65 F.3d 1577, 1580, 36 U.S.P.Q.2D(BNA)1162, 1165(連邦巡回、1995)参照。

上訴においてDBIは、クレーム16の「配列」という用語の解釈において、データは(1)デジタルであり(2)メモリーに記憶されることを要求したことで、地方裁判所は法律問題として誤りを犯したと主張する。DBIは、かかる解釈は内部証拠にも外部証拠にも反していると主張する。Identixは、地方裁判所による配列の解釈を支持する。しかし地方裁判所の根拠[*16]のみに依拠することに満足せず、Identixはまた、上訴棄却のための他の主張も提示する。Identixは、クレーム16の「スライス・データ」の適切な解釈が、上訴棄却のための「別個で独立の」根拠を提供すると主張する[3]。したがって本法廷はそれらを順番に検討する。

1.

裁判所は、「特許のクレームで使われている用語の意味を法律問題として解釈する権限と義務」をもつ。Markman v. Westview Instruments, Inc., 52 F.3d 967, 979, 34 U.S,P.Q.2D(BNA)1321,1329(連邦巡回、1995)(大法廷)、上訴棄却、517 U.S.370,116 S.Ct. 1384, 38 U.S,P.Q.2D(BNA)1461,[*17]134 L.Ed.2d 577(1996)。クレームの適切な意味を決定するために本法廷はまず、いわゆる内部証拠、つまりクレーム、文書説明、およびもし証拠内にあれば審理経過を検討する。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc.,90 F.3d 1567, 1582, 39 U.S,P.Q.2D(BNA)1573, 1576(連邦巡回、1996)。しかし内部証拠内でも、分析手段に階層がある。クレームの実際の用語が優先する。Thermalloy, Inc. v. Aavid Engineering, Inc., 121 F.3d 691, 693, 43 U.S,P.Q.2D(BNA)1846, 1848(連邦巡回、1997)(「しかし、解釈プロセスにおいては常に、焦点はクレームの表現の意味にある」)。

文書説明は特に、法律が認めるように特許権者が自分自身の辞書編集者として行動しており、ある種の意味をそれらのクレーム用語に帰したかを判断するために検討される。もしそうしていなければ、その分野の技能をもつ人にとっての、クレームの表現の通常の意味が採用される。York Prods., Inc. v. Central Tractor Farm & Family Ctr., 99 F.3d 1568, 1572, 40 U.S,P.Q.2D(BNA)1619, 1622(連邦巡回、1996)(「新規の意味をクレームの用語に与えるという明示的な意図がなければ、発明者のクレームの用語は通常の意味をもつ」)。[*18]審理経過は、特許出願者とPTOとの間の、クレームの意味についての出願時期におけるやり取りを含んでいるので、意味がある。Vitronics 90 F.3d at 1582-83, 39 U.S,P.Q.2D(BNA)at 1577。この内部証拠の検討によってクレームの表現が十分に明確ならば、条約や技術文献、あるいは場合によっては専門家証言など、「外部」証拠に依拠する必要はない。

しかし、内部証拠の検討の後に、クレームの用語の正確な意味について疑義が残っている場合には、外部証拠の検討が、適切な解釈を決定するために必要かもしれない[4]

あるクレームがこの後者の範疇に入る場合には、他のクレーム解釈の原理が関係してくる。出願者は、「自分の発明であるとみなす対象物を具体的に特定し明確にクレームする」責任があるので35 U.S.C. @ 112、P2(1994)、クレームが広い意味と狭い意味をもち、内部証拠は明らかに狭い意味を支持しているが、広い意味が @ 112、P1の下での授権の問題を提起する場合には、本法廷は両者のうちの狭い意味のほうを採用する[*19]。Athletic Alternatives, Inc. v. Prince Mfg., Inc., 73 F.3d 1573, 1581, 37 U.S.P.Q.2D(BNA)1365, 1372(連邦巡回、1996);Ethicon Endo-Surgery, Inc. v. United States Surgical Corp., 93 F.3d 1572, 1581, 40 U.S.P.Q.2D(BNA)1019, 1026(連邦巡回、1996)。

地方裁判所はこれらすべての典拠を適切に検討した後に、クレームの意味を述べるその権限と義務を行使しなければならない。本法廷は地方裁判所のクレームの解釈を再度、遠慮なしにやり直す。Cybor Corp. v. FAS Techs., Inc., 138 F.3d 1448, 1456, 1998 WL 134028, *6, 46 U.S.P.Q.2D(BNA)1169, 1174(連邦巡回、1998)(大法廷)(「本法廷は上訴に際して、クレーム解釈に関する事実とされるものに基づく問題を含め、クレーム解釈を再度検討する」)。

クレームの解釈は法律や契約の解釈と同様に、そのクレームの実際の表現に依拠するので、本法廷はまずそれを検討する[*20]。主張されている2つの独立クレームは、次の通りである:

1.     回転された指紋を表わすデータを生成する方法で、以下のものを含む:

指接触表面をもつ光学装置を用意し、

光学装置の指接触面上で指を回転し、面と接触している部分の指の指紋像を装置から伝え、

光学装置の指接触面の像を作り、そこから伝播された指紋像を表わすデジタル・データを生成し、

指が光学装置の指接触面上を回転するのに合わせて指の各部分の隣接し重なり合う指紋像を表わすデジタル・データの配列を記憶し、指紋像の重なり合う部分を表わす複数の配列から重なり合う像のデータの数学関数として、回転する指紋像を表わすデジタル・データの複合配列を生成する。

16.   回転する指紋像を表わすデータを生成する方法で、以下のものを含む:

指紋像[*21]の隣接し重なり合う2次元スライスを表わすスライス・データの配列を生成し、また、

複数の重なり合うスライスから、重なり合うスライス・データの数学関数として、回転する指紋像を表わすデータの複合配列を生成する。

多くの特許訴訟と同様、争点は、クレーム中の2、3の用語の意味である。特に上訴人は本法廷に、クレーム16の「配列」を解釈するように求め、被上訴人は、「スライス・データ」を解釈するように要請している。本法廷はそれぞれを検討する。

a.

「配列」という用語は明細書中に繰り返し使われている。クレーム16自体は、この用語を2回使っている。一回は、「スライス・データ」を含むデータ構造に言及したとき、またもう一回は、「回転された指紋像を表わすデータ」を含むデータ構造、つまり複合配列に言及したときである。したがって、同一のクレームに登場する同じ用語は一貫して解釈されなければならないので、いかなる解釈を採用するにしろ、両者を含むものでなければならない。Fonar Corp. v. Johnson & Johnson, 821 F.2d 627, 632, 3 U.S.P.Q.2D(BNA)1109、1113(連邦巡回、1987)(クレーム中の用語の意味は、同じ特許の他のクレームにおける出現と整合した形で定義されなければならない)。

「配列」という用語が、[*22]スライス・データを含むデータ構造と、複合データ双方に言及するために使われているという事実は、地方裁判所のクレームの解釈を支持する。画像「配列」(たとえば「IAL」)に記憶されているピクセル値は、「・・・光学指紋像の強度を表わすデジタル値」として説明される。第4欄、ll.13〜14。さらに、文書説明によれば、「光学像OILはプリズムから伝播し、それを表わすデータは画像配列IALとしてRAM14に記憶される」。そして文書説明は、メモリーの画像データに記憶する際に配列が生成されると説明している。

複合「配列」も、デジタル・データを含むとして説明されている。このことは、複合配列のデータは、直接、デジタルである画像配列の有効範囲から取られるという事実から自然に導かれる。複合「配列」のデータもメモリーに記憶される。第6欄、ll.20〜21(「複合配列CAはRAM14に記憶される」)。以下で議論する、本法廷の「スライス・データ」の解釈も、地方裁判所の解釈を支持する。したがって、クレームの表現自体も、文書説明も、地方裁判所のクレームの解釈を支持する。

DBIはその解釈を裏付けるために、文書説明の中の一つの孤立した節を[*23]取り上げる。その節は、「デジタイザー24は、対応する離散的なピクセル位置PLn,m[/]での指紋像の強度を表わすデジタル・ピクセル値PVn,m[/]の2次元配列を生成する」と述べる。文書説明全体から、これは正確な表現ではないことは明らかである。デジタイザーはアナログからデジタルへの変換器である。アナログ・データが入りデジタル・データが出ていく。デジタイザーはデータの編成も指数付けもしない。つまりデジタイザーは、データが「個別にアドレス指定可能」であることを要求するDBIが提案する配列の定義においても、「配列を生成」しない。したがってこの孤立した節は、文書説明全体に基づく本法廷の解釈を変更しない。

特許第 ‘976号の明示的な説明に鑑みて、複合データ構造がデジタル・データの記憶なしに組み立てられると理解することは困難である。複合画像は、現画像配列を含むために使われるメモリーとは別のメモリーに記憶されなければならない。そうでなければ、現画像配列が複合画像の上に書き込まれてしまう。現画像配列も複合画像も[*24]、現スライス・データを複合画像に統合されるように操作されなければならない。かかる発明の実施をめぐる不確実さに鑑みて、本法廷は、文書説明によって明確に支持されるクレームの狭い解釈を採用し、クレーム16中の「配列」が、メモリーに記憶されている、2次元画像を表わすデータ構造を意味すると解釈する。Athletic Alternatives, 73 F.3d at 1581, 37 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1372。

DBIは、「配列」という用語の普通の意味は、その辞書の意味からわかるように、そこに含まれているデータがデジタルであることを要求していないと主張する。その立場を裏付けるために、以下の定義を提示する:「各要素が個別にアドレス指定可能であるような、単一の名称および一つまたは複数の指数によって特定された、順序付けられたデータ項目のn次元の集合」(新IEEE電気電子用語標準辞典(第5版、1993)を参照)。内部証拠は明らかに、出願者がアナログ「フレーム」とデジタル「配列」を区別していることを示している[*25]。内部記録は明らかなので、本法廷は、一貫しない辞書の定義には重みを置かない。

b.

Identixは、「スライス・データ」という用語は適切に解釈されれば、地方裁判所の判決を維持するための、もう一つの根拠を与えると主張する。Ethicon, 93 F.3d at 1582, 40 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1027(上訴裁判所は、「上訴において適切に維持された何らかの根拠によって裏付けられるならば、地方裁判所の判決を維持しなければならない」);Mark I Mktg. Corp. v. R.R.Donnelley & Sons Co., 66 F.3d 285, 289, 36 U.S.P.Q.2D(BNA)1095, 1098(連邦巡回、1995)(上訴裁判所は、「純粋に法的であり、地方裁判所に十分に説明されている」他の根拠に基づき第一審判決を維持することができる)参照。

Identixは、「スライス・データ」という用語は「有効範囲」と同意語であると主張する。Identixによれば、TP-600は特許の言葉によれば残りのデータを「複合配列」に併合する前に、画像データの幾つかを取り除くことによって像全体の2次元部分集合を生成しないので、TP-600はクレーム16に要求されているようには「スライス・データの配列」を生成しない。したがってTP-600は侵害していない。

一方でDBIは、以下の定義を提示する:「スライスは有効範囲[*26]よりも広い用語である。スライスは回転する最終指紋像を作り出すために使われる各部分であり、スライス・データはそのスライス中のデータである」。上訴人の反対訴答摘要書9。さらにDBIは、有効範囲とは、「実際のスライスのデータを近似するために計算された」スライス・データの部分集合であると主張する。同上。DBIは「スライス・データ」を、像伝播面の指のどの部分とも接触していない部分に対応する画像配列中のデータである、摘要書で「青空データ」と呼ばれたものから区別する。DBIは、画像配列自体がスライス・データであるとは主張しない。

文書説明は、スライスは有効範囲であり、そのデータは「スライス・データ」であるという結論を支持する。「スライス」は、文書説明の2カ所で「有効範囲」と同意語として使われている。第6欄、ll.37〜38(「最初の「スライス」つまり有効範囲の複製の次に」);第7欄、ll.16〜17(「処理中の現有効範囲つまりスライス」)参照。文書説明はまた、現有効範囲と複合配列の重なりについて、「スライス・データ」という用語で説明している:「好適な実施例では、複合配列は、隣接スライスの重なる部分を表わすスライス・データの比較と平均の数学関数[*27]として生成される」。第2欄、ll.15〜19(強調追加)。与えられている説明は、有効範囲の重なる部分の併合の説明のみである。したがって、文書説明は十分に、クレーム16中の「スライス・データ」が、有効範囲のデータを指すことを支持している。第7欄、ll.34〜37(「プロセッサー12は現画像配列と複合配列の有効範囲間の、8つのピクセル値PVn,m/といった、予め決められた最低の重なり合いを要求する」)も参照。

一方DBIが提案しているクレーム解釈には、文書説明の裏付けがない。単なる非青空データの特定についても、そのデータの複合配列への併合についても説明はない。特許は、有効範囲の複合配列への併合を説明しているのみである。さらに、何らの処理もないので、システムは青空データと非青空データの区別をする方法をもたない。説明されている処理は、有効範囲の左、右、上および下の境界を定義することだけであり、DBIのクレーム解釈[*28]が要求するような、画像配列中のピクセルの不定形の組合せではない。

DBIは、「有効範囲」という用語を明示的に使っている他のクレームの中にその立場の裏付けを見付ける。その論理は、「有効範囲」は幾つかのクレームで使われているが他のクレームでは使われていないので、その用語はそれに特有な意味をもっているはずである。もし「有効範囲」を使うクレームが実際に、クレーム16に従属しているのなら、この論理も説得力をもつかもしれないが、どのクレームもそうではない。ここに使われているように、本法廷はDBIの前提に同意しない。ある用語が異なるクレームで使われているからといって、その用語が特許の別の場所で使うことはできないことにはならない。Tandon Corp. v. United States Int’l Trade Comm’n, 831 F.2d 1017, 1024, 4 U.S.P.Q.2D(BNA)1283, 1288(連邦巡回、1987)。

審理経過もこの読み方を支持する。クレーム16、そして19は、予備的修正の中で最初に提示された。最初は次のように書かれていた:

19.   回転する指紋像を表わすデータを生成する方法で、以下のものを含む;

指紋像の隣接する2次元スライスを表わすデータ配列を生成し、そして、

データ配列を、回転する指紋像を表わすデータの複合配列に併合する。

このクレームは35 U.S.C. @ 102 (b)に基づき[*29]、「Ruell(ドイツ特許第3423886号A1)によって予測される」として拒絶された(Ruell特許は、指紋像のデジタル表現を記録するが、異なる方法で記録するというこのシステムに非常に似たシステムを説明する)。

この拒絶に応えて出願者は、クレームを次のように修正した(下線部分を加え、角括弧内を削除):

19.   回転する指紋像を表わすデータを生成する方法で、以下のものを含む;

指紋像の隣接する重なり合う2次元スライスを表わすスライス・データ配列を生成し、そして、

複数の重なり合うスライスから重なり合うスライス・データの数学的関数として回転する指紋像を表わす複合配列を生成する[データ配列を併合する]。

添付された注釈の中で、出願者の弁護士はRuell特許と区別した。本法廷による強調を加えると:

出願者がクレームする発明と異なり、指の重なり合う部分の像の関数として複合配列を生成するための規定がない。同様にRuell特許は、記憶されたデータの数学関数として指紋の特徴を表わす[*30]像の有効部分を特定し、特定された有効部分を表わすデータの数学関数として複合配列を生成するシステムを説明していない。

上訴人は本法廷に、審理経過を分析し、この注釈を「有効範囲」が明示的に登場するクレームに制限するように求める。この注釈の範囲は、DBIが示唆するようには制限されていない。上記の引用の中に含まれている注釈は、特定のクレームに言及してなされたものではない。むしろその注釈は、「Ruellのドイツ特許第3,432,886号に関係して、35 USC 102 (b)または35 USC 103に基づき拒絶された、出願中のクレームすべて」に関してなされた。出願者が、より狭い根拠に基づきクレーム19を含む各クレーム、またはクレームのグループを、Ruell特許から具体的に区別していることは真実だが、そのことは、出願者の「クレームされた発明」を先行技術から区別するためになされた全体的注釈を削除するものではない。

公衆は、審理中になされた、かかる限定的な表明に依拠する権利をもつ。法令自体に反映されているように、通知は特許審理過程の重要な機能である。35 U.S.C. @ 112 P2参照[*31]また最高裁判所によって最近確認された。Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 117 S. Ct. 1040, 41 U.S.P.Q.2D (BNA) 1865, 137L. Ed. 2d 146 (1997) 参照。注釈内に限定表現がない場合には、一つのクレームの許可を得るためになされた主張は、同じ特許の他のクレームを解釈するときも適用される。Southwall Techns., Inc. v. Cardinal IG Co., 54 F.3d 1570, 1579, 34 U.S.P.Q.2D(BNA)1673,1679(連邦巡回、1995)(「クレームの用語の意味に関して審理中になされた議論は、明確な限定がなされていない限り、特許のすべてのクレームにおけるその用語の解釈に適用される」)参照。

仮にDBIのクレーム解釈がもっともだと同意したとしても、本法廷はAthletic Alternatives訴訟に基づき、Identixのクレーム解釈を採用するよう強いられる。内部証拠によってIdentixの狭い解釈が、強いられないにしても明確に支持される。Athletic Alternatives訴訟の場合のように、もしクレーム16がDBIが示唆したように解釈されるとすれば、その結果としてのクレームが許可されたか確信はもてない。実際、本訴訟はAthletic Alternatives訴訟の場合よりもさらに明確である。なぜなら後者においては、唯一の問題は、テニス・ラケットのひもの間の距離[*32]が特定の態様で変わるかといったものであったからである。これは特別に難しい技術段階ではない。本訴訟ではまさにその逆が正しい。DBIのクレーム解釈を採用することは、青空データと非青空データを区別し、それらのデータを配列に記憶し、それらのデータの幾つか、ただしすべてではないものを組み合わせるという段階を必要とする。かかる諸段階がなされる態様は容易には明らかではなく、Athletic Alternatives訴訟において裁判所が直面した問題と、まさに同じ通知の問題を提起する。したがって本法廷は、DBIのクレーム解釈を、その根拠によっても棄却する。

2.

クレームを解釈したので、本法廷は次に、適切に解釈されたクレームを、告発された装置の中に読み取れるかを検討する。Markman, 52 F.3d at 976, 34 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1326。上記のように、本件で告発された装置はTP-600とTP-900の2つである。DBIはその労力の大部分をTP-600に関する上訴に注いでいる。TP-900が侵害しているとのその主な論理は、それが4つのTP-600から構成されていることである。DBIはまた、4つのTP-600それぞれが生成する像は重なり合い、またTP-900は数学関数を使って[*33]重なり合うデータを組み合わせるので、TP-900は侵害しているとも主張する。本法廷は各製品を個別に検討する。

b.    TP-600

1.     文理侵害。クレーム16が適切に解釈されればTP-600は侵害していることになると、DBIは主張する。特にDBIは、最初の段階は撮像装置、つまりCCDによって満足されると主張する。本法廷は同意しない。第一に、CCDによって生成されたデータはデジタル・データではなく、アナログである。第二に、CCDによって生成されたデータは、「隣接し重なり合って」おらず、「スライス・データ」でもない。CCDが生成するデータは、各時点で像伝播面と接触している指の部分のみを表わしているとはいえ、完全な像を表わしている。したがってCCDが生成するデータ構造は、次ぎのデータ構造に「隣接」していない。その2つは完全に「重なっている」からである。クレームは両方を要求する。したがって、TP-600は文理的に侵害していない。

CCDはまた、「スライス・データ」を生成しない。TP-600が、画像データと青空データを、複合配列に併合する前は区別しないことは争われていない。TP-600の画像データはすべて、直接、複合配列に併合される。用語が適切に解釈されればTP-600は「スライス・データの配列を生成」しないので[*34]、これはクレーム16を侵害しえないし侵害していない。

また、クレーム16がデータはデジタルであることを要求していると解釈されたとしても、A/D変換器がCCDのアナログ・データをデジタルに変換するので、TP-600は侵害しているとDBIは主張する。本法廷は同意しない。A/D変換器が生成するデータは単一値である。単一値は、「配列」という用語が適切に要求するように、「2次元画像」を表わすことはできない。したがって、「スライス・データの配列を生成」するという段階は、TP-600のA/D変換器には読み取れない。

独立クレーム1も主張されたが、侵害していないと認定された。DBIは上訴においてこの争点を適切に保持したが、認定の根拠の破棄を促すための努力をあまりしなかった。その主な主張は冒頭趣意書の脚注に登場する。DBIは、「どの時刻においても、4つのピクセルがMIN関数の記憶レジスターにあるので」クレーム1は侵害されたと主張する。本法廷も同様に、この問題を簡潔に取り扱う。

クレーム1は、「2次元画像を表わすことのできるデータ構造」を生成するための記憶段階を要求すると、地方裁判所は解釈した。DBIはこの解釈に異議をとなえていない。地方裁判所はさらに[*35]、MIN関数に先立ちTP-600によって行なわれる記憶は、この限定を満たさないと認定した。特に同裁判所は、「どの時刻においても、[TP-600の]レジスターは、一つのピクセルのみに対する値を含み、・・・一つの値は配列を構成できず、隣接し重なり合う指紋像でもありえない」と認定した。

証拠をDBIにとって最も有利に見たとしても、略式判決を求める申し立てで要求されるように、地方裁判所は略式判決を認めたことで誤りを犯したと言うことはできない。TP-600に記憶されるデータは、TP-600が処理する「2次元画像」を表わさない。TP-600によって一時的に保たれた4つの値について最大限言えることは、クレーム1で適切に解釈される用語としての配列ではなく、その配列の断片を表わすということだけである。

2.     等価物の侵害。 等価物の法理に基づき侵害であるためには、TP-600はクレーム中の各限定を、文字通りまたは等価物によって満足しなければならない。最高裁判所は最近、すべての限定が満たされなければならないと確認した。Warner-Jenkinson, 117 S. Ct. at 1049, 41 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1871(「個々の要素[限定]についてさえも、その要素全体を実質的に除去するほど広いこの法理の運用は認められないことの保証が[*36]重要である」)。告発された装置は、一つの限定でも満足されなければ、法律問題として侵害ではありえない。Pennwalt Corp. v. Durand-Wayland, Inc., 833 F.2d 931, 934〜35, 4 U.S.P.Q.2D(BNA)1737, 1739〜40(連邦巡回、1987)(大法廷)。

告発された装置の要素が、クレームされた発明と等価であるか否かを判断する試金石は、その差異の実質性である。等価物の法理に基づき侵害であるためには、要素は、主張されているクレームの限定からの差異が実質的でないものでなければならない。Dawn Equip. Co. v. Kentucky Fems Inc., 140 F.3d 1009, 1015〜16, 46 U.S.P.Q.2D(BNA)1109, 1114〜15(連邦巡回、1998);Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62 F.3d 1512, 1518, 35 U.S.P.Q.2D(BNA)1641, 1645(連邦巡回、1995)(大法廷)、他の根拠で破棄、520 U.S.17,41 U.S.P.Q.2D(BNA)1865,137 L.Ed.2d 146, 117 S.Ct.1040(1997)。

適切な場合には、略式判決が、その決定をするための決定機構として利用できる。最高裁判所は、「[*37]証拠が、合理的な陪審が2つの要素が等価であると判断できないようなものである場合には、地方裁判所は部分的なまたは完全な略式判決をする義務がある」ということを明らかにした。Warner-Jenkinson,117 S.Ct. at 1053 注8、41 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1875注8(Fed.R.Civ.P.56およびCelotex Corp. v. Catrett, 477 U.S.317, 322〜23, 91 L.Ed.2d 265, 106 S.Ct.2548(1986)を引用)。

TP-600は等価物の法理に基づき侵害していると決定をするには、特許対象の発明とは違い過ぎる。合理的な陪審ならば、それとは反対の認定はできない。TP-600においては、A/D変換器によって生成されう各デジタル・データ値は、それが処理される間は一時的にレジスターに入れられる。これらの値はクレームされた発明のようには、蓄積されメモリーに記憶されることはない。A/D変換器によって生成されたデータ値は、クレームされた発明のようには、非青空データから青空データを除去するためにフィルターにかけられることはない。すでに議論したように審理経過は、発明にとってのスライス・データの意義を確認する[5]

DBIは中でも、「Ruell特許は像の有効部分を特定するシステムを説明していない」という根拠で、Ruell特許と区別する。A/D変換器は[*38]一つの値のみを生成するので、クレームされた発明のようには、個々の値を区別せず区別できない。こられの差異に鑑みて、いかなる合理的な陪審も、TP-600が等価物の法理の下でクレーム1または16を侵害しているとは認定しえない。したがって、非侵害であるとの略式判決は適切であった。Chiuminatta Concrete Concepts, Inc. v. Cardinal Indus., Inc., F.3d, 46 U.S.P.Q.2D(BNA)1752, 1758, 1998 WL 239335, *8(連邦巡回、1998)(「いかなる合理的な陪審も」告発された装置が等価物の法理の下で侵害しているとは結論しえないと結論付ける);Laitram Corp. v. Morehouse Indus., Inc., F.3d, 1998 U.S.App. LEXIS 9091, 1998 WL 220092, *7(連邦巡回、1998)(同前); Dawn Equip., 140 F.3d at 1017, 46 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1114〜15。

[*39]

c.    TP-900

1.     文理侵害。 DBIは、TP-900による侵害を認定するための2つの主張をしている。第一に、TP-900は、侵害しているTP-600を4つ含んでいるので侵害している。本法廷は、TP-600が非侵害であるとの地方裁判所の判決を維持したので、この主張は通らない。

DBIはまた、各TP-600は「スライス・データ」の配列を生成し、TP-900システムは「重なり合うスライス・データの数学関数として回転する指紋像を表わすデータの複合配列を生成する」ので、TP-900はクレーム16を侵害していると主張する。地方裁判所はクレーム16を、「スライス・データの配列」は「各時刻にプラテンの表面と接触している指の部分を表わすデータ」でなければならないと要求していると解釈した。部分画像自体それぞれが複合画像なので、部分画像は「各時刻にプラテンの表面と接触している指の部分を表わすデータ」を含んでおらず、したがってこの限定を満たさないと地方裁判所は認定した。この点でも、DBIは地方裁判所のクレーム解釈に異議をとなえなかった。結果としての部分画像[*40]自体が、複数の連続する画像からの画像データを併合することによって作られる複合画像であることは争われていない。したがって、証拠をDBIにとって最も有利に見た場合でも、地方裁判所が略式判決を認めたことで誤りを犯したとは本法廷は言えない。

2.     等価物の侵害。DBIは、4つのTP-600を含んでいるのでTP-900は侵害しているとの主張の他には、TP-900は文理侵害はしてないとしても等価物の法理の下で侵害しているとは、主張していない。したがって、等価物の法理の下でのTP-900の侵害は、TP-600とともに成立するか、あるいは(本件の場合のように)TP-600とともに非成立となる。本法廷はTP-600は侵害していないと結論付けたので、TP-900も、等価物の法理の下で侵害してはいない。

C.    結論

以上の理由により、非侵害であるとの略式判決は

維持される。



[1]    図面の問題に関しては、上訴趣意書におけるDBIによるその図面の使用に対するIdentixの懸念を、本法廷は共有する。特に本件のような複雑な技術が絡む場合には、通常、図面は非常に役立ち、奨励される。DBIの上訴趣意書の図4〜6および8は、特許の図面および未知の出典からの補足図面を混ぜた組み合わせである。この図面は、実際の特許の図を組み入れているので、正当なものであるとの雰囲気をもっている。図4は確かに、「特許では特に図示されていない」と認める脚注が付いているが、図5〜6または8には、そのような注釈は付けられていない。さらに図4は、その出典が付けられていない。本法廷は記録を調べて初めて、これらの図に似た、しかし明らかに異なるバージョンが、略式判決を求めるIdentixの申し立てに反対するDBIの専門家の供述に含まれていたことを発見した。したがってこれらの図は明らかに、無視できない誤解を招くものである。たとえば、専門家の供述に登場するバージョンで「記憶」と標示されている部分が、上訴趣意書では「RAM」と標示されている。さらに、「スライス」を「表わすデータ」の標示は2つの図で異なる。「記憶」の必要性と「スライス・データ」の定義は、本件の2つの主要争点である。Identixはこれらの図面を含めることを非難はしたが、削除は要請しなかった。したがって本法廷は、記録によって明らかにされたそれらに内在する価値に基づき、それらを検討する。

[2]    明らかにTP-600は、2つの値のうちのどちらをメモリーに記憶させるかを決定するのに、「数学」関数ではなく「論理」関数を使う。しかしすべてではないにしても大部分の数学関数は論理回路を使って実施されるので、本法廷はこのことを、違いのない区別だとみなす。

[3]    この用語は独立クレーム16にのみ登場しクレーム1には登場しないので、本法廷がこの根拠のみに基づきどのようにして原判決を維持できるのか、理解するのは困難である。Identixはまた、DBIがクレーム1に基づく議論を放棄したと主張する。本法廷はそれに同意しない。簡潔ではあるが、DBIはその冒頭書面の中で、クレーム1も侵害されたと告発している。上訴趣意書32、注12参照。しかしその議論はクレーム解釈ではなく、侵害に焦点を当てている。本法廷はその問題を、以下のB.2.a項で検討する。

[4]    もちろんある場合には、明快さの欠如が、そのクレームは不確定過ぎて無効であるとの結論に導くこともある。35 U.S.C. @ 112,P2参照。

[5]    地方裁判所は、審理経過の禁反言が、等価物の法理に基づく侵害の認定を排除すると結論付けたが、いかなる合理的な陪審もTP-600が「スライス・データの配列を生成する」との限定を満たすとは認定しないとの本法廷の結論に鑑みて、本法廷はその争点は扱わない。本法廷の目的のためには、審理経過が、クレームされた発明と告発された装置の違いを強めると結論付けるだけで十分である。