原告−上訴人、OPTICAL DISC CORPORATION

被告−被上訴人、AVIONICSおよびBRUCE DEL MAR

99-1225

連邦巡回区合衆国上訴裁判所

2000 U.S.App.LEXIS 6301;54 U.S.P.Q.2D(BNA)1289

2000年4月7日、決定

事前経過:    [*1]カリフォルニア州中部地区合衆国地方裁判所、Mariana R.Pfaelzer上級判事の判決からの上訴

措置:      一部維持、一部破棄、差戻し

主要用語:    信号、駆動、変調器、特許、縁、ピット、波形、限界値、後、ビーム、侵害、立ち下がり、表面、傾いた、ディスク、媒体、整形、略式判決、記録、非侵害、立ち上がり、発明、光学的、整形、文理、文書説明、染料、レーザー、検査、文理的

弁護士:       原告−上訴人側: James A. McQueen弁護士、Graham & James法律事務所、カリフォルニア州コスタ・メーザ。摘要書助言者、Stephen J. Koundakjian弁護士。

被告−被上訴人側: Craig Y. Allison弁護士、Brobeck Phleger & Harrison法律事務所、カリフォルニア州ロサンゼルス。摘要書協力者、Wiiliam E. Trautman弁護士、カリフォルニア州サンフランシスコ;Douglas C. Rawles弁護士、カリフォルアニア州ロサンゼルス;Robert G. Kramer弁護士およびPamela B. Hiatt弁護士、カリフォルアニア州パロ・アルト。

裁判官:       PLAGER、SCHALL、GAJARSA巡回判事

意見者:       SCHALL

意見:          

SCHALL、巡回判事

Optical Disc Corporation(ODC)は、Del Mar AvionicsおよびBruce Del Mar(総称してDel Mar)に対して、米国特許第5, 297, 129号(第 '129号特許)のクレーム1、3〜11および13〜24の侵害を告発するODCによる訴訟において、Del Mar側を勝訴とする非侵害(文理的にも等価物の法理の下でも)の略式判決を下した、カリフォルアニア州中部地区合衆国地方裁判所の決定を上訴する。Optical Disc Corp. v. Del[*2] Mar Avionics, 1998 U.S.Dist.LEXIS 22840, No.CV-97-650(カリフォルニア州中部地区、1998年12月17日)。ODCは、第 '129号特許の譲受人である。同特許はコンパクト光ディスクの品質を改善するための方法と装置に向けられている。

本法廷は、一部維持、一部破棄、そして差し戻す。具体的には本法廷は、(1)クレーム1、3〜11、13〜20、22および23の文理侵害を否定する地裁による略式判決を維持し、(2)等価物の法理に基づく同じクレームの非侵害の略式判決を破棄し、さらなる訴訟手続きのために差し戻し、(3)クレーム21と24の非侵害の略式判決を破棄し、文理侵害および等価物の法理に基づく侵害双方に関するさらなる訴訟手続きのために差し戻す。

背景

1.    関係する技術

コンパクト・ディスク(CD)は、音楽、ビデオ、コンピューター・データなどのディジタル・データを、プレーバックや検索のために記憶するのに使うことができる。CD上のデータを検索するには、CDの表面を光学的にスキャンする。たとえばミュージックCDは、録音された音楽を表わすディジタル・データを含む。音楽を聴こうとする人がCDをCDプレーヤーに挿入すると、プレーバック中にそこでCD上のデータが光学的に読まれる。[*3]プレーヤーの「読み取りヘッド」がディジタル・データを検索し録音された音楽が聴けるように、CDプレーヤーがCDを回転させる。通常、CD上のデータを読むにはレーザー・ビームが使われる。

CD生産の第一段階は、データを含むマスターCDの制作である。データは、ディスクの表面に物理的な変質を作ることによってマスターCD上に書き込まれる、つまり記録される。この変質は「表面効果」として知られている。通常、マスターCDの表面にデータを書くために、レーザー・ビームが使われる。「ピット」は、ディスクに情報を書き込むのに使われる最も普通の表面変質である。ディスク上の各ピットの間には、「ランド」と呼ばれる変質していない領域がある。録音プロセスが完了したとき、マスターCDは数百万のピットとランドを含んでいる。ピットとランドの境界は「渡り」と呼ばれる。CDに記憶された情報は、ピットとランドの間の渡り、および渡りの間の距離に含まれている。

データを含むマスターCDが作られると、通常はその逆像を作るために、ディスクの上に金属層が置かれる。「スタンパー」と呼ばれる、マスターCDの金属のその逆コピーは、[*4]マスター・ディスクから分離される。スタンパーは、最初のマスターCDの、流通と販売用の多数のコピーを鋳造するために使われる。これらのコピーはマスターCDの正確な複製である。

マスターCD上に表明効果を生み出す1つの方法は、「熱染料高分子処理」である。熱染料高分子処理では、レーザー・ビームによってCD上にピットを直接作る。最初に、高分子熱活性染料の被覆が、未使用のマスターCDの表面上に付けられる。次に、絞ったレーザーの「書き込みビーム」がその表面に当てられる。レーザー・ビームはCDの表面に当たると、染料高分子層を熱する。染料高分子層は一定の「限界温度」に達すると固体から気体に変化するので、CDの表面に当たったレーザー・ビームによる熱が、直接ピットを作る。これにより染料高分子層にピットが残る。ピットの「立ち上がり」とは、レーザー・ビームによる熱が限界温度を超え始めディスク表面にピットを作り始めた、ディスク上の領域である。徐々に進行した場合には、ピットが始まる場所に、先が尖った、つまり「カヌー」型の先端ができる。同じピットの「立ち下がり」は、[*5]レーザー・ビームによる熱が、突然または徐々に限界温度以下になる領域である。ピットの深さが突然または徐々に減り、ピットは終わる。レーザー・ビームが切られたか、出力が突然限界値以下に落ちた場合には、回転するディスクの下流部分は冷たいので、かなり鈍い半円の、つまり「ホットドッグ」型の終端が、ピットの立ち下がり部分にできる。しかしレーザー・ビームの出力が、限界値の上から下へと制御されながら下げられた場合には、ピットの立ち下がりには、尖ったカヌー型の終端ができる。

熱染料高分子処理ではレーザー・ビームは、ディスク上に記憶されるデータによって生じる「変調器駆動信号」によって「変調」、つまり制御される。たとえば、変調器駆動信号の振幅が増すと、それに応じてレーザーの出力が増す。つまりレーザー・ビームの出力は変調器駆動信号を「コピー」し、ディスク表面にデータを記録する。

ピットの形の特定の対称性、および望ましい「時比率」を生み出すには、マスターCDに記憶される[*6]データ(音楽など)をディスク上の対応する一連のピットとランドに変換するための「書き込み戦略」が必要である。「時比率」とは、ピットの大きさとランドの大きさの比率である。たとえば50%の時比率とは、ピットが領域の50%、ランドが残りの50%を占める、対称的な信号である。利用される書き込み戦略は多くの要素に依存する。書き込み戦略は変調器駆動信号に反映する。

CDに記憶されたデータを読み取るCDプレーヤーの能力は、プレーヤーがピットとランドの間の渡りを「見る」能力に依存する。CDからのデータの正確な検索のためには、ピットは幾何学的対称性をもっていなければならない。つまり、各ピットの立ち下がりの形が、ピットの立ち上がりの形によく似ていなければならない。ある種のCDプレーヤーでは、ピットの両端が尖った形(カヌー型)ではなく丸い形(ホットドッグ型)のときに、トラッキング問題が起こる。したがって、幾何学的に対称な尖った端をもつピットが付いたCDが望ましい。

II.     第 '129号特許

第 '129号特許は、幾何学的に対称な立ち上がりと立ち下がりをもつピットが付いたマスターCDを作ることによってCDの品質を改善する[*7]方法と装置に向けられている。同特許は、マスターCDに記録すべき情報を含む変調器駆動信号に対応した、レーザー書き込みビームの変調を説明する。レーザー書き込みビームは、その出力がディスク表面を変質させる限界値以上の場合には、可動光ディスク上に表面効果の痕跡つまり「指標」(つまりピット)を形成し、出力が限界値未満の場合には表面効果は生じない。第 '129号特許第2列39行〜第3列5行参照。同特許によれば、レーザー書き込みビームの出力を限界値の上下に変えるために、「特別の形をした変調器駆動信号」が与えられる。同上、第7列3〜15行。同特許は、特別の形をした変調器駆動信号が、マスターCDに記録された表面効果の特性を改善すると主張する。同上、第7列8〜9行、24〜34行。

「発明の要約」には、この発明は「光ビームを変調する変調器駆動信号を作り、それによって、鋭い立ち上がりが、書き込みビームに可動媒体[(ディスク)]の限界値より上の強度をもたせるのに十分な第一のレベルに達し[*8]、定められた速さで振幅が変化する傾いた立ち下がりが、書き込みビームに可動媒体の限界値より下の強度をもたせるのに十分な第二のレベルに達する、整形変調器駆動信号を生み出す」と述べる。同上、第7列4〜12行。文書説明は、「整形変調器駆動信号の立ち下がりは、定められたランプ関数に従って落ちるので、媒体[(ディスク上の染料高分子層)]の温度は、従来技術の変調駆動パルスの鋭く落ちる端ほどは突然には下がらず、立ち下がりも「カヌー型」の特性を示す[ママ]」と説明する。同上第7列、34〜40行(強調追加)。このようにして、対称な立ち上がりと立ち下がりをもつピットが付いたマスターCDが作られる。

第 '129号特許の方法と装置は、特許の図1と図3に描かれている。図1は、発明の目的を実行するための記録装置の「一般化された」ブロック・ダイアグラムである。記録装置は、回転するディスク型の媒体1に情報を記録するように設計されている。同上第8列10〜12行[*9]参照。ディスクはスピード・コントローラー5によって制御されるスピンドル・モーター3によって回転する。同上第8列12〜13行参照。レーザー、またはその他の高密度光源7が、特定の波長をもつ光の書き込みビーム9を形成する。書き込みビームは光変調器11を通り、そこで第10行に示されている駆動信号に基づきビームの強度が変わる。同上第8列17〜21行参照。光変調器の駆動信号は、波形整形回路31によって形成される。波形整形回路は、音楽など、ディスクに記録する情報を受け取るために入力33をもつ。同上第8列42〜45行参照。波形整形回路は、変形した整形変調器駆動信号を光変調器に与える。文書説明によれば、与えられる信号は、「改良されたトラッキングのための、より大きなピーク出力、良好な対称性、望ましい時比率、および尖ったピットの立ち上がりと立ち下がりをもたらす能力」をもつ。同上第10列68行〜第11列3行。光変調器を出た光ビーム13は、波形整形回路によって形成される駆動信号の振幅に比例する変調振幅をもつ。[*10]同上第8列24〜26行参照。光変調器を出た時、変調されたビームはディスクに向けられ、適切な光学19と17によってスポット15に集められる。

[原文図1を参照]

第 '129号特許の図3は、さまざまな波形の結果としてディスクの表面に形成されるピットの形を描いている。同上第9列15〜19行参照。第 '129号特許の発明の波形は、図3のC1に見られる。文書説明は、「図3のC1行の波形の立ち下がりが傾いているという事実は、波形C1の振幅が非常に容易に変更できることを意味し、ピットの立ち上がりに大きな影響をもたらすが、立ち下がりには小さな影響しかもたない・・・」と述べる。同上第10行24〜29列。文書説明は、図3のC3行に見られるように、波形C1は対称的に尖った立ち上がりと立ち下がりをもつピットを生みだし、品質が改善すると指摘する。同上第10列47行〜第11列3行参照。

文書説明は、逆に、図3のA1行に示されている矩形の波形は、A3行に示されているように、尖った立ち上がりと[*11]丸い立ち下がりをもつピットを生じると説明する。同上第9列20〜37行参照。文書説明はまた、図3B1行に示されているように、発明の傾いた波形と、階段型変調器駆動信号による波形とを対比する。波形B1は、より丸い立ち上がりをもつピットを作るために、駆動信号の立ち上がりの振幅を通常より高いレベルに上げる。同上第9列39〜42行参照。しかし、もしパルス全体がこの高いレベルにあると、ピットの立ち下がりは過度に幅広くなる。同上第9列44〜46行。これを防止するため、駆動信号は後で通常の出力レベルにまで下げられ、立ち下がりのタイミングは、立ち上がりの出力レベルの増加を補償するために、意図的に短縮される。同上第9列46〜52行参照。その結果、望む時比率を維持し、良好な対称性をもつピットが形成される。同上第9列52〜56行参照。文書説明は、階段的変調器駆動信号B1は良好なピットの対称性(B3)を生み出すが、ピットの端は丸くなり、プレーヤーによってはトラッキングが難しくなると指摘する。同上第9列52〜58行参照。したがって、文書説明によれば、「波形B1は[*12]1つの問題を解決するが、別の問題を生み出す」。同上第9列59〜60行。

[原文図3を参照]

争点の第 '129号特許のクレームは、「立ち下がりクレーム」と「限界値以上である時間クレーム」の、2つのグループに分けられる。クレーム1、3〜11、13〜20、22および23は、「傾いた立ち下がり」をもつ変調器駆動信号を説明し、「立ち下がりクレーム」と呼ばれる。クレーム21と24は、「信号が限界値以上である時間を減らす」変調器駆動信号を説明する。

立ち下がりクレームのうち、クレーム1、11および22が独立クレームである。クレーム1が典型的であり、下記の通りである:

1.    書き込み光ビーム源、および、媒体に情報を記録するために変調器駆動信号に応答して、書き込み光ビームの強度を可動記録媒体の限界値の上下に変調するための光変調器を含む、光学的記録装置で使用される波形整形回路であり、かかる光ビームは、書き込みビームが限界値以上のときには可動記録媒体に表面効果の跡を形成することができ、書き込みビームが限界値以下のときには可動記録媒体に表面効果の跡[*13]を形成することができず、かかる波形整形回路は、

書き込みビームを変調するための変調器駆動信号として与えられる立ち上がりと立ち下がりをもつ実質的に矩形の波形を受け取り、かかる立ち上がりを遅らせかかる立ち下がりは遅らせずに通過させるための遅延手段、ならびに、

かかる書き込みビームに可動媒体の限界値以上の強度をもたせるのに十分な第一のレベルに達する急な立ち上がりをもち、受け取った矩形波形の次の立ち上がりそれぞれの発生に間に合うようにかかる書き込みビームに可動媒体の限界値以下の強度をもたせるのに十分な第二のレベルに達する、定められた速さで振幅が変化する傾いた立ち下がりをもつ、整形変調器駆動信号を生み出すための、かかる遅延手段に結合した波形整形手段

を含む波形整形回路。

第 '129号特許第12列63行〜第13列25行(強調追加)。

限界値以上の時間クレームは、独立クレーム21と24である。クレーム21は装置クレーム、クレーム24は方法クレームである。クレーム21が典型的であり、下記の通りである[*14]:

21.   書き込み光ビーム源、および、媒体に情報を記録するために変調器駆動信号に応答して、書き込み光ビームの強度を可動記録媒体の限界値の上下に変調するための光変調器を含む、光学的記録装置で使用される波形整形回路であり、かかる光ビームは、書き込みビームが限界値以上のときには可動記録媒体に表面効果の跡を形成することができ、書き込みビームが限界値以下のときには可動記録媒体に表面効果の跡を形成することができず、かかる波形整形回路は、

書き込みビームを、それぞれ限界値より上のピーク値および限界値より下の最小レベルに変調するための変調器駆動信号として与えられる、立ち上がりと立ち下がりをもつ実質的に矩形の波形を受け取るための手段、ならびに、

可動記録媒体内の表面効果の跡の定められた時比率を維持するために、[*15]立ち上がりの発生に応答して書き込みビームのピーク値を増し、整形変調器駆動信号が限界値以上である時間を減らす、整形変調器駆動信号を生み出し、表面効果の跡の立ち上がりおよび立ち下がりで対称的な形を生み出すための、かかる受け取り手段に結合した波形整形手段

を含む波形整形回路。

第 '129号特許第15列40〜68行(強調追加)

III.    ODCによるDel Marの提訴

Del Marは「FireTrac」CDマスタリング・システムと呼ばれる製品を開発した。第 '129号特許の発明と同様にFireTracシステムも、マスターCDを作るために染料高分子熱処理を利用する。FireTracシステムはその変調器駆動信号に、たとえば上記図3のB1行に示されている1段型の立ち下がりは使用しない。その代わり、変調器駆動信号の立ち下がりに2段型を使用する。

1997年1月31日、ODCはDel Marを第 '129号特許の侵害で訴え、FireTracシステムはクレーム1、3〜11および13〜24を侵害していると告発した。そして、Del Marの技術担当副社長Scott M.Golding、およびFireTrac回路を設計したDel Mar社員Patrick JoyceがODCによって証言録取された。その後すぐに、ODCの社長であり第 '129号特許の共同発明者であるRichard L.Wilkinsonが、証言録取された。1997年10月16日、Del Marは非侵害の略式判決[*16]を下すように申し立てた。

1998年5月5日と6日、略式判決を求めるDel Marの申し立ての係属中、ODCはJoyce氏を再度証言録取した。さらに1998年5月7日、Del MarはODCの専門家であるThomas D.Milster博士に、FireTracシステムの検査を行うことを認めた。しかしMilster博士は、FireTracシステムによって作られたピットが対称的なカヌー型であるか否かを判断するために、検査中に書き込まれたマスターCDを検査することはできなかった。[1] その後、1998年6月5日、Milster博士は5ページの訴状、および57ページの「検査報告書」を提出した。この報告書においてMilster博士は、彼によるFireTrac装置の検査に基づく認定を要約した。Milster博士はFireTrac装置の検査に基づき、文理的にも等価物の法理の下でも、FireTracシステムは主張されたクレームのすべての限定を満たしていると結論付けた。

[*17]

1998年10月16日、Del Marは、非侵害の略式判決を下す申し立てを更新した。さらに、2つの別個の申し立てにおいて、無効の略式判決を下す申し立てをした。1998年12月9日、略式判決を求める更新された申し立てが、口頭弁論なしに地裁によって受け入れられた。8日後、地裁はその申し立てを認めた。しかし、第 '129号特許の有効性に異議をとなえたDel Marの別個の申し立てについての裁定は拒否した。

その決定において、地裁は第 '129号特許のクレームの解釈をはっきりとは述べなかった。むしろ、立ち下がりクレームの文理侵害の争点に直接進んだ。地裁は紛争には重大な事実問題はないと結論付け、Del MarのFireTracシステムには傾いた信号がないので法律問題としてこれらのクレームは文理的には侵害されていないと判断した。[2]

[*18]

等価物の法理の下での立ち下がりクレームの侵害の問題に関しては、地裁は本件を、Tronzo v. Biomet, Inc., 156 F.3d 1154, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)1829(連邦巡回、1998)に類比した。そして地裁は、「ODCは特に、その傾いた信号の、従来技術の階段型信号に対する優位さを宣伝していたので・・・今になって傾きは要件ではないと論じようとする試みは・・・説得力がない」と論じた。Optical Disc判決速報at 7-8。FireTracシステムは、「傾きではなく2段信号を使っている」ので、侵害ではありえないと地裁は判断した。Optical Disc判決速報at 9。

地裁は次に、第 '129号特許のクレーム21と24、限界値以上の時間クレームの侵害を扱った。地裁は「紛争はODCが、略式判決を避けるために[限界値以上である時間]限定の侵害の十分な証拠を提示したか否かについてである[ママ]」と争点を整理した。Optical Disc判決速報at 9。その点に関して、地裁はJoyce氏の証言およびMilster博士の報告書を検討した。地裁は、Milster報告書は「FireTracの変調器パルスの主な部分[*19]は実際は短縮されていることを示している」ことを指摘したが、「主な部分」は「単に変調器駆動信号の1つの構成要素に過ぎず」、「パルスの立ち上がりと立ち下がりの遅れに区別はないとJoyceは明確に証言した」ので、ODCは文理侵害としても等価物の法理に基づく侵害としても、陪審の審理対象となる争点を生み出すのに十分な証拠を提出しなかったと論じた。

ODCは地裁の略式判決を期限内に上訴した。本法廷は28 U.S.C.§1295(a)(1)(1994)に基づき裁判権をもつ。

議論

I.     審査の基準

地裁による略式判決は、改めて審査される。Conroy v. Reebok Int 'l, Ltd., 14 F.3d 1570, 1575, 29 U.S.P.Q.2D(BNA)1373, 1377(連邦巡回、1994)参照。重大な事実問題に関する真正な争点がなく、申立て当事者が法律問題としての判決を受ける資格があるときに、略式判決が適切である。Fed.R.Civ.P.56(c);Anderson v. Liberty Lobby, Inc., 477 U.S.242, 247, 91 L.Ed.2d 202, 106 S.Ct.2505(1986)参照。したがって、「合理的な陪審ならば[*20]被申立て当事者を勝訴とする評決を下さない」場合に、略式判決を下すことができる。Anderson, 477 U.S.at 248。しかし、重大な事実問題に関する真正な争点の有無の判断においては、証拠は被申立て当事者つまり本件ではODCにとって最も有利な観点から見なければならず、Transmatic, Inc. v. Gulton Indus., Inc., 53 F.3d 1270, 1274, 35 U.S.P.Q.2D(BNA)1035, 1038(連邦巡回、1995)参照、すべての合理的な推論は被申立て当事者の有利に行わなければならない、Marquip, Inc. v. Fosber Am., Inc., 198 F.3d 1363, 1366, 53 U.S.P.Q.2D(BNA)1015, 1018(連邦巡回、1999)参照。上訴においてODCは、立ち下がりクレームと限界値以上である時間クレーム双方に関して、地裁の略式判決に異議をとなえる。

II.     立ち下がりクレーム

立ち下がりクレームに関しては、クレームは文理的に侵害されていないと判断したことで地裁は誤ったとは、ODCは主張しない。むしろ、地裁は等価物の法理の下での非侵害の略式判決を下したことで誤ったと論じる。ODCによれば、地裁は適切な等価性分析を行わなかった。ODCはまた、地裁はODCにとって最も有利な観点で証拠を見なかった[*21]、そして重大な事実問題についての真正な争点により、Del Marを勝訴とする略式判決は禁じられるとも論じる。特にODCは、FireTracの2段駆動パルスは第 '129号特許で開示された傾いた立ち上がりと等価であるとのMilster博士の意見を指摘する。

Del Marは、重大な事実問題についての真正な争点はなく、ODCは侵害の十分な証拠を提出する機会を何度も与えられたのにそうしなかったと回答する。Del Marはまた、そのような等価物理論は「傾いた立ち下がり」という本質的な限定を立ち下がりクレームから除去してしまうのでFireTracの階段型信号は第 '129号特許の傾いた立ち下がり波形と等価ではありえないとも主張する。Del Marは、本件はTronto v. Biomet訴訟の直接的な応用であると論じる。

本法廷は以下の理由で、等価物の法理に基づく立ち下がりクレームの非侵害に関してDel Marを勝訴とする略式判決を下した点で地裁は誤ったと結論付ける。

侵害分析は2段階からなる。Young Dental Mfg.Co. v. Q3 Special Prods., Inc., 112 F.3d 1137, 1141, 42 U.S.P.Q.2D(BNA)1589, 1592(連邦巡回、1997)[*22]。第一に、告発されたデバイスとは無関係にクレームの範囲が判断される。同上参照。この第一段階は法律問題であり、ここで改めて検討される。同上参照。第二に、クレーム限定すべてが文理的にまたは等価物として存在するか否かを判断するために、適切に解釈されたクレームが告発されたデバイスと比較される。同上参照。この第二段階は事実問題である。同上参照。

主張されているクレームの解釈においては、本法廷はまず記録の内部証拠、つまりクレーム、明細書、およびもしそれが証拠内にあれば審査経過を含む特許自体を見る。[3] Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90 F.3d 1576, 1582, 39 U.S.P.Q.2D(BNA)1573, 1576(連邦巡回、1996)参照。通常、内部証拠の分析だけで、争点のクレーム用語における曖昧さは解決する。同上at 1583, 39 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1577参照。しかしクレーム内の技術用語の意味あるいは範囲の判断の助けとして必要ならば、外部証拠も考慮することができる。同上参照。

[*23]

すでに指摘したように、地裁は第 '129号特許のクレームの解釈を明確にはしなかった。しかし地裁の意見を読むと、地裁は立ち下がりクレームの文理侵害の非存在を認定するために、「傾いた立ち下がり」限定を、「傾いている」ので一定の割合で低いレベルに落ちる変調器駆動信号を要求すると解釈したはずであると考えざるをえない。地裁は、「同特許は従来技術の階段型信号を、その革新的なランプ信号と区別している。FireTracはランプではなく2段信号を使っている」と述べた。[4] Optical Disc判決速報at 8-9。

[*24]

ODCは、変調器駆動信号の「傾いた立ち下がり」とは、「可動媒体の熱的限界値からの変化をより緩やかにするために、書き込みレベルから基準レベルまでのレーザー出力の減少を時間をかけて行う駆動信号パルスの立ち下がり」と解釈されるべきであると論じる。一方Del Marは、本法廷は変調駆動信号の「傾いた立ち下がり」を、1つのレベルから他のレベルに滑らかに増減する」信号と解釈すべきであると主張する。

本法廷はクレーム解釈プロセスを、クレーム自体の用語を検討することから始める。Bell Communications Research Inc. v. Vitalink Communications Corp., 55 F.3d 615, 619-20, 34 U.S.P.Q.2D(BNA)1816, 1819(連邦巡回、1995)。すでに指摘したように、第 '129号特許のクレーム1は、立ち下がりクレームの典型である。関連部分において、それは次のように述べる:

かかる書き込みビームに可動媒体の限界値以上の強度をもたせるのに十分な第一のレベルに達する急な立ち上がりをもち、受け取った矩形波形の次の立ち上がりそれぞれの発生に間に合うようにかかる書き込みビームに可動媒体の限界値以下の強度をもたせるのに十分な第二のレベルに達する[*25]、定められた速さで振幅が変化する傾いた立ち下がりをもつ、整形変調器駆動信号を生み出すための、かかる遅延手段に結合した波形整形手段

第 '129号特許第13列14〜25行(強調追加)

特許明細書の中に、クレーム用語に新規な意味を与えるという明示的意図がなければ、その用語はその通常の意味をもつ。Kegel Co. v. AMF Bowling, Inc. 127 F.3d 1420, 1427, 44 U.S.P.Q.2D(BNA)1123, 1127(連邦巡回、1997)参照:Hoescht Celanese Corp. v. BP Chems.Ltd., 78 F.3d 1585, 1578, 38 U.S.P.Q.2D(BNA)1126, 1129(連邦巡回1996)(「特許文書で使用される技術用語は、発明者がその用語を別の意味で使用したことが特許および審査経過から明らかである場合を除き、発明の分野で経験をもつ人が与える意味をもつと解釈される」)も参照。かかる通常の意味については、本法廷はその用語の辞書における定義に頼る。Vitronics, 90 F.3d at 1584 n.6, 39 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1578 n.6(「辞書は、統合された特許文書の一部ではないので[*26]外部証拠の範疇に入るが、特別な注意を払う価値がある。辞書の定義が、特許文書の中に見られる、またはそれを読むことによって確認される定義に反していない限り、裁判官はクレーム用語の解釈において辞書の定義に依拠することができる」)参照。「傾いた(ramped)」の意味は、「より高いレベルへ上がる、またはより低いレベルへ落ちる」である。Webster 's Third New International Dictionary 1879(1986)。また「ランプ」は、「一定の割合で変化する電圧または電流」として定義される。Modern Dictionary of Electronics 822(第6版、1997)。したがって、「傾いた」という用語の使用は、立ち下がりクレームにおいて発明者が、一定の割合でより低いレベルに落ちる「整形変調器駆動信号」をクレームすることを意図したことを示唆する。

明細書を見ると、「発明の要約」は、「整形変調器駆動信号の立ち下がりが定められたランプ関数に基づき落ちるので、媒体の温度は、駆動パルスを変調する従来技術の鋭い立ち下がりの場合ほど急激には落ちず、立ち下がりは「カヌー型」特性を示す」と述べる。第 '129号特許第7列34〜40行(強調追加)。[*27]「好適な実施例の詳細な説明」によれば、「限界値を通過する変調駆動信号の傾いた立ち下がりのため、ピットの立ち下がりも、[従来技術の]矩形パルスよりも緩やかに減る」。同上第10列50〜53行(強調追加)。文書説明によれば、「材料[つまり染料高分子層]の限界値レベルは、実際には露光レベルである」。同上第1列62行〜第2列2行(強調追加)。記録されたピットの幅は、「主として時間とともに増加する媒体の温度により、時間とともに増加する」。同上、第2列53行〜54行(強調追加)。つまり傾いた立ち下がり信号は一定の割合でより低いレベルに下がり、従来技術の1段型立ち下がりよりも媒体の温度をより緩やかに下がらせ、緩やかに限界値を通過させ、そうすることによってピットの立ち下がりを「カヌー型」にする。したがって、本法廷はODCのクレーム解釈に同意する。

すでに指摘したようにODCは、[*28]立ち下がりクレームの文理侵害の非存在を認める地裁の略式判決に異議をとなえていない。「傾いた立ち下がり」をもつ「整形変調器駆動信号」のクレーム限定が、告発されたFireTracデバイスに文理的に存在していないことは、争われていない。FireTrac波形は2段立ち下がりであり、傾いた立ち下がりではない。

しかし、「クレームを文理的に侵害しないデバイスでも、クレームのすべての要素が告発されたデバイスに文理的にまたは等価的に存在するならば、等価物の法理の下で侵害となりうる」。Sage Prods., Inc. v. Devon Indus., Inc., 126 F.3d 1420, 1423, 44 U.S.P.Q.2D(BNA)1103, 1106(連邦巡回、1997)。「告発されたデバイスに欠けている側面と対応する側面を区別するものが「非実質的な相違」のみである場合には、クレーム要素は告発されたデバイスに等価的に存在する」。同上。「告発された対象の要素が、クレームされた限定と実質的に同じ結果を達成するために実質的に同じ方法で実質的に同一の機能を行うか否かは、この判断にとって関係がありうる」。Ethicon Endo-Surgery, Inc. v. United States Surgical Corp., 149 F.3d 1309, 1315, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)1272, 1276(連邦巡回、1998)

等価物の法理の下での非侵害の略式判決[*29]は、いかなる合理的な陪審も、クレーム限定が告発されたデバイスにおいて等価物によって満たされているとは判断できない場合に適切となる。Warner-Jenkinson Co. v. Hilton-Davis Chem. Co., 520 U.S.17, 39 n.8, 41 U.S.P.Q.2D(BNA)1865, 1875 n.8, 137 L.Ed.2d 146, 117 S.Ct.1040(1997);Sage Prods., 126 F.3d at 1423, 44 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1106(「等価性は、通常は事実認定者に留保される事実問題だが、第一審裁判所は、いかなる合理的な事実認定者も等価性を認定できない場合には略式判決を下すことができる」)参照。

ODCは、FireTracシステムが立ち下がりクレームを侵害しているか否かに関する重大な事実問題についての真正な争点を地裁で提起したと論じる。この論理においてODCは、Milster博士の供述および付随する検査報告書を指摘する。

Milster博士は、FireTracデバイスの自分の検査に基づき、同システムは等価性によって、主張されているクレームのすべての限定を満たしているとの意見を表明した。その意見に到達する際に彼は、告発されたFireTracデバイスと[*30]第 '129号特許の独立クレーム1、11および22の限定ごとの比較を行い、彼の報告書には、FireTracの波形の立ち下がりについての、詳しい「機能−方法−結果」の等価性の法理の分析が含まれている。Milster博士は、FireTracの立ち下がりの2段波形は、クレームされた傾いた立ち下がり波形に等価であるとの意見を表明した。より具体的には、供述で彼は、「その機能は、染料高分子ディスク・マスターの溶発的表面の、その表面に形成されているピットの立ち下がり周辺の熱的側面を、その領域のその表面に与えられるエネルギーを漸進的に低減することにより変え、それによってそのピットの立ち下がりの形を制御することなので」、FireTracの波形は第 '129号特許の変調器駆動信号に等価だと考えると述べた。[5] Del Marは反証を提出していない。

[*31]

明らかに、FireTracシステムにおいて「傾いた立ち下がり」のクレーム限定が等価物によって満たされているか否かという、重大な事実問題についての真正な争点がある。現時点での記録では、合理的な陪審が、FireTracシステムにおいて「傾いた立ち下がり」のクレーム限定が等価物、つまり2段立ち下がりによって満たされていると判断することができる。Milster報告書に基づけば、合理的な事実認定者が、侵害しているとされるデバイスとクレームされた発明の相違は実質的でないと認定しうるので、合理的な事実認定者は等価物による侵害を認定しうる。したがって本法廷は、等価物の法理の下での非侵害の略式判決は不適切であると結論付ける。

Tronzo v. Biomet訴訟における本法廷の決定に基づき、等価物の法理の下での侵害というODCの請求を地裁は適切に拒絶したとDel Marは論じる。すでに見たように、地裁は傾いた立ち下がりが第 '129号特許でクレームされた発明にとって必須であると結論付けたときTronzo判決を引用し、Del Marの2段立ち下がり波形は発明の境界外であり、したがって[*32]等価物の法理の下で侵害とはなりえないと結論付けた。

Tronzo判決は、尾骨へ挿入するために作られたカップ型インプラントを含む人工ヒップ・ソケットの特許に関係したものであった。Tronzo, 156 F.3d at 1156, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1830-31参照。同特許は、以前に提出された特許出願の一部継続出願であり、それに対する優先性が主張された出願に基づき交付された。同上at 1157, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1832参照。特許出願の優先性は、予測させる従来技術による障害を回避するために必要とされた。同上at 1158, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1833参照。同特許のクレーム2と10は、「本体が全体的に円錐の外形をもっている」カップ型インプラントに向けられた。同上at 1156, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1831参照。親出願での文書説明は、円錐型のカップのみを説明した。同上at 1159, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1833参照。親出願の文書説明における円錐型でないカップへの唯一の言及は従来技術に関連するものであり、特許権者はそれらの従来技術の型を「劣っている」と区別し、「円錐型の利点を宣伝した」。同上。告発されたデバイスは、半円形のカップであった。同上at 1157, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1831参照。[*33]陪審は、争点のクレームが等価物の法理の下で侵害されたと認定した。同上at 1160, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1834参照。

Biometは侵害の判決を上訴し、法律問題としての判決を求める申立ての地裁による拒絶に異議をとなえた。同上at 1157, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1832参照。本法廷は地裁の判決を破棄した。同上at 1162, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1835-36参照。半円形カップと円錐形カップの等価性は法律によっては立証されないと本法廷は判断した。同上at 1160, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1834参照。望ましい結果を得るにはカップの形は関係ないことを示す方向の証拠もあったが、Tronzo自身の専門家が、カップの形が違えばそれが生み出す「力も違いうる」と証言した。同上at 1160, 47 U.S.P.Q.2D(BNA)at 1834。本法廷はまた、「その専門家の証言によれば、いかなる形でも[関連する]クレームの円錐限定に等価になる」と指摘した。同上(強調原文)。そして本法廷は、「かかる結果は、クレームから「全体的に円錐の外形」限定をはずることになるので認められない」と述べた。同上。

Del Marの立場と異なり、[*34]Tronzoはクレームされた構造の特定の形を説明するクレーム限定は、異なる形の構造によっては侵害されえないという命題を主張していない。Tronzoは単に、「すべての要素」と「すべての限定」規則を含む、通常の等価物の法理を適用しただけである。

本件では、FireTrac波形の2段立ち下がりが、説明されている「傾いた立ち下がり」と等価であるという認定は、その限定をクレームから排除しない。第 '129号特許の明細書は、波形の傾いた立ち下がりが媒体(つまり染料高分子層)の温度をより緩やかに下げ、マスターCDは対称なピットをもつことになると教示している。もしFireTrac波形の2段立ち下がりが、実質的に同一の結果を達成するために実質的に同一の方法で実質的に同一の機能を行うならば、等価性の法理に基づく侵害の認定は適切であり、「すべての要素」規則を犯さない。つまり、FireTracシステムの中に「傾いた立ち下がり」限定が実質的ではなく変えられた形で存在しているならば、等価物の法理に基づく侵害を認定することが[*35]適切となる。これが、地裁が差戻し審において判断する必要があることである。

III.    限界値以上である時間クレーム

限界値以上である時間クレームは、クレーム21と24である。ODCは、文理侵害および等価物の法理に基づく侵害に関して重大な事実問題についての真正な争点が存在するので、Del Marを勝訴とする略式判決を下した点で地裁は誤ったと論じる。特に、FireTracシステムは限界値以上である時間クレームに記されているように、限界値以上である時間を短縮したというMilster博士の専門家意見に反する証拠を、Del Marは提示しなかったとODCは主張する。Milster博士はFireTracシステムを検査した後、FireTrac変調器駆動信号は実際には、幾つかの成分信号の組合せであると認定した。これらの成分信号の幾つかは遅れされており、その全体的な効果は、変調器駆動信号がデータをマスターCDに書き込むための振幅をもつ時間の短縮であると、Milster博士は述べた。Milster博士は、「この検査と私の経験に基づき、クレーム21と24は文理的に侵害されており、検査中に作られたマスター・ディスクを分析したときに[*36]これは確認されると信じる・・」と述べた。

ODCはDel Marが侵害しているとの証拠を提出しなかったとDel Marは答える。Joyce氏とGolding氏の供述録取書に記されているように、FireTracレーザー書込み信号は、信号が限界値以上である時間を短縮していないとのDel Marの証拠に反駁する事実を、ODCは何も提出しなかったと主張する。[6] したがってDel Marによれば、事実問題についての争点はなく、略式判決は適切であった。

地裁はそのクレーム解釈を、クレーム21と24が「信号が限界値以上である時間を減少させる変調器駆動信号の生成」に関係しているとの観察に限定した。Optical

Disc判決速報at 9。クレーム24は限界値以上である時間クレームの典型であり、関係する部分においては[*37]、下記のように記される:

可動記録媒体内の表面効果の跡の定められた時比率を維持するために、立ち上がりの発生に応答して書き込みビームのピーク値を増し、整形変調器駆動信号が限界値以上である時間を減らす、整形変調器駆動信号を生み出し、表面効果の跡の立ち上がりおよび立ち下がりで対称的な形を生み出す段階。

第 '129号特許第16列59〜67行(強調追加)。「減らす」の普通の意味は「より少なくなる」である。Webster 's Third New International Dictionary 588(1986)。したがって地裁が認めたように、「減らす」という用語は、変調器駆動信号が限界値以上である時間の短縮を発明者が意図したことを示す。

より具体的には、「発明の要約」は変調器駆動信号の波形に言及して、「整形変調器駆動信号の鋭い立ち上がりの振幅が、増加したピーク記録出力を表し、鋭い立ち上がりと比較しての立ち下がりスロープが限界値を通過する点の選択が、[*38]記録される印(ピット)の時比率を定める」と述べる。第 '129号特許第7列19〜22行。「好適な実施例の詳細な説明」は、「[立ち上がりのブーストの]通常より高い出力レベルによるピットの長さの増加を補償するために、その立ち下がりのタイミングは意図的に短縮される」。同上第9列49〜52行(強調追加)。したがって、変調器駆動信号が限界値以上である時間は、立ち上がりと比較しての変調器駆動信号の立ち下がりのタイミングを短縮することによって減らされる。

限界値以上である時間クレームに関する限り、本法廷は、文理侵害に関しても、等価物の法理に基づく侵害に関しても、重大な事実問題についての真正な争点があると結論付ける。地裁が指摘したようにJoyce氏は、FireTracの波形の立ち上がりと立ち下がりの差別的遅延はないと証言した。しかし第一審裁判所が指摘したように、「Milster博士の報告書は、「FireTracの変調器パルスの主要部分は実際は短縮された」ことを示している」。Milster博士は、FireTracの波形は幾つかの部分に分離でき、「主要部分」は短縮されていると認定した。Milster博士は、立ち下がりクレームは文理的に侵害されていると[*39]自分の検査に基づき信じており、かかる侵害はFireTracのテスト中に制作されたマスター・ディスクを検査すれば確認できる、と述べた。すでに指摘したように、Del Marはこのディスクを、検査のためにODCに渡さなかった。矛盾する証言に鑑みて、本法廷は、いかなる合理的な陪審もMilster博士を信じないと言うことはできない。したがって、ODCに最も有利に証拠を見ると、略式判決を禁じるような、重大な事実問題についての真正な争点が存在する。

結論

地裁の判決は一部維持、一部破棄、そして差し戻される。本法廷は、(1)第 '129号特許のクレーム1、3〜11、13〜20、22および23の文理侵害の非存在を維持し、(2)等価物の法理の下でのそれらのクレームの非侵害の判決を破棄し、(3)第 '129号特許のクレーム21と24の、文理的および等価物の法理の下での非侵害の判決を破棄する。本件は、等価物の法理の下でのクレーム1、3〜11、13〜20、22および23の侵害の判断のため、文理的および等価物の法理の下でのクレーム21と24の侵害の判断のため[*40]、およびこの意見と合致したさらなる訴訟手続きのために、地裁に差し戻される。[7]

一部維持、一部破棄、および差戻し

費用

各当事者が自身の費用を負担するものとする。



注[1]    本法廷に提出された記録から、両当事者はMilster博士がディスクを検査する前に、5月7日に作成されたディスクが独立の専門家によって評価され、その評価の結果は両当事者に提示されるという取り決めをしたと思われる。両当事者は独立の評価の詳細について、まだ合意に達していないことを上訴趣意書は示唆する。

注[2]    本法廷に提出された記録から、立ち下がりクレームの侵害に関する両当事者間の唯一の争点は、「傾いた立ち下がり」をもつ「整形変調器駆動信号」のクレーム限定が、FireTracシステムにおいて満たされているか否かだと思われる。地裁はその決定において、この限定のみに焦点を当て、上訴においては両当事者は、告発されたFireTracシステムに傾いた立ち下がりが存在するか否かのみを争っている。

注[3]    第 '129号特許のクレームは、実質的に出願通りに交付されており、いずれの当事者も審査経過には依拠しない。

注[4]    これは、地裁の意見には「クレーム解釈の議論がまったく欠けている」という根拠で、地裁による非侵害の判決の破棄を本法廷に要求する訴訟ではない。Graco, Inc. v. Binks Mfg.Co., 60 F.3d 785, 791, 35 U.S.P.Q.2D(BNA)1255, 1259(連邦巡回、1995)。地裁はこの点に関しては、その分析の過程で、クレーム解釈は同裁判所にとって法律問題であるという命題のためにMarkman v. Westview Instruments, Inc., 52 F.3d 967, 970-71, 34 U.S.P.Q.2D(BNA)1321, 1328(連邦巡回、1995)を引用した。そして今見たように、第 '129号特許のクレームの範囲についてのその見解を、推論として記した。

注[5]    したがって本件は、被申立て人が単に、重大な事実問題に関する真正な争点の確定的主張を提示するというケースではない。Zelinski v. Brunswick Corp., 185 F.3d 1311, 1317, 51 U.S.P.Q.2D(BNA)1590, 1594(連邦巡回、1999)(等価物の法理の下での侵害の唯一の証拠が、原告の専門家の確定的主張であるときに、地裁の略式判決を維持)参照;W.L.Gore & Assocs. v. Garlock, Inc., 842 F.2d 1275, 1280, 6 U.S.P.Q.2D(BNA)1277, 1282(連邦巡回、1998)(「侵害の証拠が1人の専門家の意見のみであり、裏付けテストあるいはデータがない場合、地裁はそれを受け入れる義務はない」)参照。

注[6]    Joyce氏は、FireTrac書き込み信号の立ち上がりと立ち下がりの間には差別的な遅れはなく、したがってパルスの短縮もないと証言した。Golding氏の証言も同じである。

注[7]    本法廷は、第 '129号特許の有効性は、地裁によってはまだ決定されていない争点であることを指摘する。