連邦巡回裁判所のための合衆国控訴裁判所

96-1365

当事者:                             Robotic Vision Systems社(原告−控訴人)

View Engineering社(被告−被控訴人)

原告側弁護士:

Robert D.Fier − ニューヨーク州 ニューヨーク、Kenyon&Kenyon 事務所所属。書面上の協力者、Edward J.Handler三世Donna M.Praissおよび、
John R.Witcher三世

被告側弁護士:

Ernie L.Brooks − ミシガン州 サウスフィールド、Brooks&Kushman事務所所属。書面上の協力者、Frank A.Angileri

控訴された判決:合衆国カリフォルニア中部地方裁判所の判決

裁判官 − Baird判事

連邦巡回裁判所のための合衆国控訴裁判所の判決

96-1365

当事者:Robotic Vision Systems社(原告−控訴人)

View Engineering社(被告−被控訴人)

1997年5月1日決定

裁判官:LOURIE, CLEVENGER, RADERの各巡回判事

意見:LOURIE巡回判事

 Robotic Vision Systems社は、合衆国特許第5,463,227号が、発明を実行するベスト・モードが開示されていないこと、および、売出し済(オン・セール)という特許無効原因(バー、障壁)に触れていることを理由に無効であると判断した、合衆国カリフォルニア中部地方裁判所の略式判決に対して、控訴した。Robotic Vision Systems社対View Eng'g社判決、No.95-CV-7441 (C.D.Cal.Mar.5.1996)。地方裁判所は、ベスト・モード要件の不遵守および売出し済という無効原因を理由に、この特許が無効であると判断した誤りを犯しているので、我々は、これを一部破棄自判、一部破棄差戻と決定する。

背景

第 '227号特許は、集積回路チップのリードを走査し、検査するために、3次元センサーを使用する方法を開示している。この方法は、センサーをX軸とY軸に沿って動かすモーターを内蔵した装置を必要とする。この装置には、X軸リニア・エンコーダーとY軸リニア・エンコーダーもついていて、これらは、その軸に対応したセンサーの位置に関する情報を作り出している。特許には、機械を具体化した図が含まれているが、それには、それらを制御するモーターと接続した手段は書かれておらず、また、位置的な情報を受け取るリニア・エンコーダーとの接続も書かれていない。更に、明細書は、センサーを動かしているモーターがどのように制御されるのかをも示していない。

従来技術システムは、あるチップの4つの面を、次のチップに移る前に、すべて走査するようになっていた。第 '227号発明の方法は、チップの列と欄を走査するもので、従来技術の方法と比べると、スキャナーの方向を変換する回数が少なくなっている。このことは、走査時間を改善することになる。方向変換の回数が減ることは、スキャナーの加速と減速の回数が減ることになるからである。控訴で問題となっているクレームは、この特許のクレーム1のみである。それは、フル・トレイ・スキャニングと呼ばれる、列と欄の走査の特徴を説明しているが、次のような記載になっている。

1.         対応する側面を持った装置から3次元のデータを得る方法で、以下の各段階から成る。即ち、列と欄に配列されたトレイ・ポケットが付いたマルチポケット・トレイを提供する段階と、前記装置の対応する側面を少なくとも一個の3次元センサーで順次走査する段階と、データが得られる前記装置の側面を含め、すべての列と欄について前記走査を繰り返す、という段階を踏む。

第 '227号特許の申請は、1992年6月24日に提出されたので、35 U.S.C. §102(b)の適用に関しては、1991年6月24日が基準日となる。その基準日以前の1991年3月、Roboticの従業員達は、Intelの代表からの、フル・トレイ・スキャニング・システムのIntelへの供給の要請に同意した。Roboticによれば、発明は、その時点ではまだ、従来技術システムに含まれているソフトウェア・プログラムの書き換え、ソフトウェア・コードの新しい部分の付け加え、発明が有効に働くことを証明するためのソフトウェアのテストなどを含めて、開発途上の段階にあったということである。特許は、1995年10月31日に発行され、同日、Roboticは、View Engineering社の3次元走査器の一定部分が特許を侵害していると主張して、Viewを訴えた。

Viewは、その特許が、発明を実行するベスト・モードを開示していないことと、売出し済であるという無効原因に該当することを理由に無効であると主張し、略式判決を申し立てた。地方裁判所は、Viewの申立を認め、発明者は特許の申請の時点でソフトウェアの使用がその発明を実現する唯一のモードであることを知っていた、そして、それは開示されていない、従ってその特許は無効であると結論づけた。我々の、以前の、Hayes Microcomputer Prods.,Inc. の特許訴訟に関する判決、982 F.2d 1527, 1537-38, 25 USPQ2d 1241, 1248-49 (Fed.Cir.1992)における判断、即ち、ソフトウェアの機能が開示されているならば、ソフトウェア・コードの開示は必要でないという判断は、ここには当てはまらない。本件の特許の場合は、Hayes 判決の場合と異なり、当該技術に熟練した者をソフトウェアの使用に導くような開示が全くないというのがその理由である。売出し済という無効原因に関しては、原裁判所は、無効原因が成立する基準日前にフル・トレイ走査法は十分に開発されていたとの結論に達した。原裁判所は、発明を実施するためのソフトウェア・プログラムが、基準日前の1991年5月に原稿の形で完成されていたとしているが、発明はソフトウェアに依存していないので、ソフトウェア・プログラムの完成は、無効原因を成立させるために必要ではないとも述べている。これにより、原裁判所は、重大な事実に関する真の争点がなく、Viewには法律問題として判決を受ける権利があると判断した。Roboticは、ここに、本裁判所に控訴する。

議論

略式判決は、重大な事実についての真の争点が無い場合に認められるもので、申立人は法律問題として判決を受ける権利を有する。Fed.R.Civ.P.56(c); Johnston対IVAC Corp.判決、885 F.2d 1574, 1576-77, 12 USPQ2d 1382, 1383(Fed.Cir.1989)。このように、略式判決は、「合理的な陪審が、申立人でない当事者に有利な評決を報告することができ」ない場合に、出されうる。Anderson対Liberty Lobby, Inc.判決、477 U.S. 242, 248(1986)。重大な事実についての真の争点があるかどうかを決定するに当たり、証拠は、申立に反対する当事者に最も有利な見方で、疑問は申立人でない者の有利に解釈して、検討されなければならない。Transmatic, Inc. 対Gulton Indus, Inc.判決、53 F.3d 1270, 1274, 35 USPQ2d 1035, 1038(Fed.Cir.1995)。我々は、地方裁判所の略式判決を、改めて再検討する。Conroy対Reebok Int’l, Ltd.判決、14 F.3d 1570, 1575, 29 USPQ2d 1373, 1377(Fed.Cir.1994)。

A.   ベスト・モード

Roboticは、略式判決は不適切であったと主張している。その理由は、発明が首尾よく実行されるために、Roboticが使用した特別のソフトウェア・プログラムが必要で、それが開示されていなければならなかったか否かについて、重大な事実に関する真の争点が存在していたというのである。Roboticは、ソフトウェアが、発明者が知る、発明の実行のベスト・モードであると結論づけた点で、裁判所に誤りがあると言う。Viewは、発明者達がその性質を開示しなかったベスト・モードを持っており、そのベスト・モードにはソフトウェアが含まれていたと応じた。Roboticは、更に、ソフトウェアはクレームの一部ではないから、ベスト・モードの要件を満たすために、ソフトウェアを開示する必要はなかったと主張している。いずれにせよ、Roboticは、明細書が、当該技術について通常の熟練度を有する者を、その発明でソフトウェアを使用するように適切に誘導していると論じている。Viewは、当該技術における熟練度がどれだけあろうと、開示の欠如を埋め合わせることはできないと反論した。

特許法令は、特許明細書が「発明者が考える、発明の実行のベスト・モードを明示している」ことを要求している。35 U.S.C. §112(1994)。ある特許が、ベスト・モード要件を満たしているかどうかを判断するには、二つの事実の調査が必要である。第一に、事実認定者は、申請者が特許申請を提出した時点で、発明を実施するベスト・モードを獲得していたかどうかを認定しなければならない。これは、主観的な認定である。第二に、発明者が、その発明を実施するベスト・モードを獲得していた場合、事実認定者は、そのベスト・モードが、当該技術に熟練した者が実施できる程度に、詳細に開示されていたかどうかを認定しなければならない。これは、客観的な認定である。United States Gypsum Co. 対National Gypsum Co.判決、74 F.3d 1209,1212,37 USPQ2d 1388,1390(Fed.Cir.1996); Chemcast Corp. 対Arco Indus. Corp.判決、913 F.2d 923,927-28,16 USPQ2d 1033,1036(Fed.Cir.1990)。

我々は、ベスト・モードに関しては重大な事実の真の争点が存在しない、そして、明細書は、ベスト・モードの開示につき、欠けるところがないとの結論に達した。上記の通り、発明を実行するベスト・モードを開示するという要件は、法文上のものであり、人は通常、沈黙によって法文上の開示要件を満たすことはない。法文上の要件を満たすに必要な開示は、当該技術に熟練した者の立場から理解されるべきであるが、ベスト・モードについて、一定の基本的な開示は必要である。Genentech, Inc. 対Novo Nordisk, A/S判決、(その技術に熟練した者の知識は、要件を満たすために、開示の補足となる場合があるが、「基本的な実施を可能にする開示に代わるものとはならない」と述べている。)No.96-1440,1997 WL 110026, *5(Fed.Cir.Mar.13,1997)と比較せよ。唯一のモードであっても、明示または黙示の方法で、開示されなければならない。更に、Roboticの特許のクレームに、ソフトウェアまたはコンピューターの使用が記載されていなかったという事実も、Robotic の主張に反して、それらの使用をベスト・モードの開示の要件から除外することにはならない。発明の実行は通常、明示的に記載された以上のものを含むからである。

他方では、本件における発明者達は、彼らの方法を実行する装置を開示したが、ソフトウェアの制御の下で作動するコンピューターが、センサーの動きを管理する装置に接続されるべきであることは、明らかである。モーターに制御信号を送り、センサーの位置に関する情報をリニア・エンコーダーから受け取るための装置に何かが連結されなければならず、その何かがコンピューターであることに異論はない。

事実は、ソフトウェアが使われるべきであるという結論を裏付けている。発明者として名前が挙げられている者の一人、William Yonescuは、宣誓供述書の中で、特許の申請日の時点で、自分も他の発明者も、明細書に記載されたもの以外のモードを知らなかったと証言した。Viewは、同一の供述書の別の部分を引用した。その部分で、Yonescuは、発明を実施するために開発されたソフトウェア・コード以外に、彼とその他の発明者達は、「1992年6月24日の時点で存在する、第 '227号特許の明細書に開示されたモードを行うのに役立つ他のソフトウェア・プログラム、コード、その他のモードを知らなかった。」と証言している。Viewは、この証言を、少なくとも、特許で開示されたモードとソフトウェアを構成するモードの二つのモードが存在することを認めたものであると解釈している。しかし、我々は、この証言が、事実に関する真の争点を提起しているとは考えない。それは単に、ソフトウェア・プログラムが、発明を実行すると考えられた唯一の方法であったと言っているのである。我々の前の記録から、ソフトウェア・プログラムは、発明の実行にかかわっていたこと、その他のモードは存在しなかったことが、明らかである。

さらに、Roboticが主張したように、従来技術のシステムでソフトウェアが使われていることを知っている、当該技術の熟練者にとっては、特許のクレームに記載されている改善された走査方法を実施するためにソフトウェアが使用されることは明白だろう。Yonescuは、「第 '227号特許が関係する技術で、通常の熟練度を持つ者は、特許の対象である方法を実行するために、ソフトウェアが必要であることを知り、且つ、理解しているだろう。そのソフトウェアの詳細は、第 '227号特許が関係する技術において通常の熟練度を持つ者の能力の及ぶ範囲にあるだろう。」と証言している。Viewは、Yonescuの証言が正しくないという結論を出す根拠を提示していない。従って、当該技術において熟練した者が、ソフトウェアがその発明を実行するベスト・モードであることと、それがどのように実施されるかを知らなかっただろうと結論づけることはできない。「ソフトウェア」の語が無いことで、特許がベスト・モードの要件を満たしていないと判断することはできない。当該技術の熟練者にとって、ソフトウェアの使用は、まったく明らかなことであった。このような開示は、明細書に暗黙に示されていた。

最後に、当該技術の熟練者が、この目的に特有のソースコードをどのように創造するかを知っていたか否かについて、真の争点が存在することは証明されていない。我々は、既に、Hayes判決や(地方裁判所が本件の判決を出した後の)Fonar判決において、ソフトウェアの開示が必要な場合、ソフトウェアの機能が開示されれば一般的に十分であり、通常、特別のソースコードの創造は、当該技術の通常の能力の範囲内であると判断した。Fonar Corp. 対General Electric Co.判決、Nos. 96-1075, 96-1106, 96-1091, 1997 WL 76027, *5(Fed.Cir.Feb.25,1997)、Hayes判決、982 F.2d, 1537-38, 25 USPQ2d, 1248-49。ソフトウェア・プログラムがコンピューターに機械の制御を行うよう指示するという機能は、ここでの問題の特許の明細書から容易に明らかになっている。それには、フル・トレイ走査に関して、スキャン・パスとパラメーターが記載されている。Viewは、当該技術において熟練した者は、開示された機能を実現するために必要なソフトウェア・プログラムを作りだすことができるというRoboticの主張を否定する証拠を提示していない。従って、我々は、第 '227号特許は、ベスト・モードを開示していないため無効であるという略式判決をViewに与えたことで、地方裁判所に誤りがあるとの結論を出さざるをえない。

B.   売出し済という特許の無効原因

地方裁判所は、1991年3月にRoboticがIntelの要請を承諾したため、発明は基準日前に販売に供されたという理由によっても、特許が無効であると判断した。Roboticは、その承諾の時点では、発明は、売出し済という特許無効原因を成立させるに十分な程完成していなかったと主張している。Viewは、残りの開発と試験は、専らソフトウェアに関するもので、特許請求がなされた発明の一部分ではないと応じた。従って、Viewによれば、Roboticはクレームに記載された発明の部分について作業していたのではないから、実験と称されるものが、売出し済という無効原因の成立を妨げることはできない。

第102条(b)の下の売出し済無効原因の適用は、事実の争点を基礎とした法律問題である。KeyStone Retaining Wall Sys., Inc. 対Westrock, Inc.判決、997 F.2d 1444, 1451 27 USPQ2d 1297, 1303 (Fed.Cir,1993)を参照せよ。ある発明が、この法令の意味において、販売に供されたことを認定するには、「販売に供されたとされる、特許を請求している発明が実施可能であること、特許を請求している完成された発明が、販売に供されている装置に具体化されているか、明白に現れていること、そして、その販売または提供が実験目的ではなく、主として営利のためであること」が必要である。同上。売出し済の無効原因の適用を説明するに当たり、我々が最近述べたことは、以下の通りである。

「技術的な実用化の要件が満たされていなくとも、ほとんど完成した発明を、販売したり、明確に販売に供したりすることは、それが完成し次第、意図された目的のために働くことを予期する理由があれば、法律上の障壁を成立させるのに十分である。」

Micro Chem. Co.対Great Plains Chem. Co.判決、103 F.3d 1538, 1545, 41 USPQ2d 1238, 1244(Fed.Cir.1997)。Seal-Flex, Inc.対Athleric Track and Court Constr.判決、98 F.3d 1318, 1322, 40 USPQ2d 1450, 1452(Fed.Cir.1996) を参照せよ。(売出し済の無効原因の適用には、「その発明が実際に完成しているか、そして、その予定された目的のために機能することがわかっているかの検討が必要である」と述べている。)

本件において、特許請求がなされている発明は、方法である。1991年3月にRoboticが売り出したとされているものは、その方法を実行する装置である。従って、その装置を販売する(または、営利的な背景の下で、それ以外の形で提供する)という申し出は、それが売出し済という無効原因の要件を満たしておれば、その方法の特許取得可能性に対する障害となるだろう。しかし、その装置に関わる行為が、売出し済という無効原因の基準を満たしていない場合は、その装置を販売するとの申し出は、当該の方法の特許可能性の障害とはならない。本件の場合、ソフトウェア・プログラムは、たとえクレームに記載されていなくとも、発明の実施に必要である。有効に働くソフトウェアがなければ、販売に供されるような装置はなかったわけであるし、従って、その装置を用いる方法が販売に供されることはできなかった。我々の前にある記録からは、ソフトウェアがいつ完成されたのか明らかでないから、我々は、その装置の製作が、基準日以前に実質的に完成されていたかどうかについて、真の争点があるとの結論に達した。

特許を請求している方法を実施するのに必要な完成された装置が、1991年3月には、存在していなかったことに疑問はない。従来技術のシステムのためにソフトウェア・プログラムを作成したDaniel Bricenoは、彼が後に、フル・トレイ走査概念を実現するために従来技術システムのためのソフトウェア・プログラムを書き直したのは、1991年5月22日以前ではなく、販売の申し出があったとされる時よりずっと後だったこと、それは試験を行うことができるような形で存在していたことを証言した。彼はまた、そのソフトウェア・プログラムの最初のテストの時には、そのシステムは満足できるようには働かなかった、そして、コードに問題が見つかったとも述べた。従って、発明を実施するためのソフトウェア・プログラムは、提供があったとされる時点で、完了間近でさえなかったことが明白である。実際の記録は、発明が、明らかに1991年6月の後半、おそらくは基準日の後に完成されたことを示している。

その正確な日によって、本件の解決は、全く違ってくるだろう。その理由は、基準日以降になされた発明の完了は、それ以前の、販売への提供があったとされる日とは関係を持たないからである。第102条(b)の意味での無効原因となる販売への提供は、提供の時点において、ほとんど完成された発明に関してなされたものでなければならない。Micro Chem.判決、103 F.3d, 1545, 41USPQ2d, 1243を参照せよ。基準日前の単なる話合い、または、未だ発明あるいは開発、または完成されていない装置を開発し提供する約束が、特許取得に対する障害になると判断されるならば、発明者と顧客の間の協力関係は、著しく妨げられることになるだろう。特許の申請は、発明が完成される前に、未熟な状態で提出される必要があろう。売出し済という無効原因は、発明者−供給者になる可能性のある者と顧客の間の、まだ完成されていない発明についての話合いを妨げる意図を持つものではない。従って、早い時期に販売の申し出とされるものがなされた発明が、後に完成された場合は、その完成は、申し出の日に関連づけられるものではない。

他方、記録は、問題の装置のためのソフトウェアの開発が、基準日の直後には完成されていたことを示している。実際は、それがその日の前のことなのかどうかはわからない。もしそれがその日以前のことであれば、ソフトウェアの開発はその申し出によるのであるから、明らかに申し出と分離して考えることはできない。発明を売却する申し出に従って行われた、基準日以前の発明の完了は、それまで不完全だったものを完全にするけれども、まだ、無効原因を成立させるところまでは行かない。それが完全なものとなるのは、完成の日であって、最初に申し出がなされた日ではない。基準日の後の完成は、申し出に従ってなされても、無効原因を成立させることはない。

Viewは、ソフトウェア・プログラムの完成は、特許が請求されている発明の完了に必要でなく、特許が請求されている発明は、プログラムの完成なしでも販売に供されることができると主張する。同社は、特許のクレームが明示的にソフトウェアを必要としていないことに注目している。しかし、上述の通り、ソフトウェアの開発は、たとえそれがクレームの一部になっていなくても、クレームに記載された方法を実施するのに使用するため、Intelに提供される装置の実質的な完成に不可欠である。実質的に完成された発明がなければ、売出し済という無効原因はあり得ない。

従って、我々は、ソフトウェア・プログラムが未完成である製品の将来の供給に関するIntelとの話合いによって、法律上の特許無効原因が成立したかどうかについて、重大な事実の真の争点が存在するとの結論に達した。その争点とは、ソフトウェアが完成したのはいつかということである。もしそれが基準日以前に完成されていたら、特許を取得した方法において用いられる機械を売るという申し出は有効となり、特許は、売出し済であるという無効原因のために無効となる。基準日前になされたという販売の申し出は、それ自体では、売出し済という無効原因を成立させることはできなかった。発明は、その時点では実質的に完成していなかったからである。Micro Chem.判決、103 F.3d, 1545, 41 USPQ2d, 1244を参照せよ。従って、地方裁判所は、売出し済という無効原因を根拠として、第 '227号特許が無効であるとの略式判決を出すという誤りを犯した。そこで、我々は、上記の理由から略式判決を取り消し、更なる事実認定のために差し戻すものとする。

本件は、ソフトウェアの使用ということが、ベスト・モード要件に反しないためには、十分に、当該技術における熟練の範囲内にあるものの、製品の提供が売出し済という無効原因を構成するようになるためには、基準日までに十分な開発がなされていなかった場合があるという、興味深い状況を提示している。この明白な矛盾の理由は、関連の法令の規定が異なった目的を持っているということである。一つは、商品化が始まった後の迅速な特許申請を促進するためであり、もう一つは、発明の完全な開示を強制するということである。当該技術分野において熟練した者の知識は、ベスト・モード要件の満足には関係するが、売出し済となるかという状況では、発明が、販売の申し出の時点で単に従来技術の機械を用いる方法を改善する着想に過ぎない場合は、完成した発明を成立させるものにはならない。ソフトウェア・プログラムは、両方の場面において、但し、異なる形で、争点になっている。

結論

地方裁判所は、特許がベスト・モードの開示が無いために無効であるとして、Viewに、法律問題としての判決を得る権利を認めた点で、誤りを犯している。売出し済という無効原因については、発明が第102条(b)の意味において販売に供されたかどうかに関し、重要な事実についての真の争点が存在しないと結論づけた点で誤りがある。従って、我々は、特許がベスト・モードの開示が無いことで無効であるとする略式判決はこれを破棄した上、反対の判断を下し、また、売出し済という無効原因に基づいてそれが無効であるとする判決は、これを差し戻して、本意見に沿った更なる審理のために差し戻すこととする。

一部破棄自判、一部破棄差戻

脚注