原告‐被上訴人:
日本国法人SONY COMPUTER ENTERTAINMENT, INC.
デラウェア州法人SONY COMPUTER ENTERTAINMENT AMERICA, INC.

被告‐上訴人:
カリフォルニア州法人CONNECTIX CORPORATION

No. 99-15852

第9巡回区合衆国上訴裁判所

2000 U.S. App. LEXIS 1744

1999年9月14日、弁論及び提出、サンフランシスコ

2000年2月10日、登録

事前経過: [*1] カリフォルニア北部地区合衆国地方裁判所からの上訴、D.C. No. CV-99-00390-CAL. Charles A. Legge、地方判事、裁判長

措置: 破棄、差戻し

弁護士:

被告‐上訴人側: William S. Coats, III, Howrey & Simon法律事務所、カリフォルニア州メンロ・パーク

原告‐被上訴人側: Ezra Hendon, Crosby, Heafey, Roach & May法律事務所、カリフォルニア州オークランド;James G. Gilliland Jr., Townsend and Townsend and Crew法律事務所、カリフォルニア州サンフランシスコ

Annette L. Hurst, Howard, Rice, Nemerovski, Canady, Falk & Rabkin法律事務所、カリフォルニア州サンフランシスコ、法廷助言者Institute for Electrical and Electronics Engineers-USA代理

Peter M. C. Choy, American Committee for Interoperable Systems、カリフォルニア州パロアルト、法廷助言者American Committee for Interoperable Systems及びComputer & Communications Industry Association代理

Mark Lemley, テキサス大学オースチン校、法廷助言者Law Professors代理

Steven J. Metalitz, Smith & Metalitz法律事務所、ワシントンD.C.、法廷助言者Nintendo of America, Inc.、Sega of America, Inc.、及び3dfx Interactive代理

裁判官: Herbert Y. C. Choy, William C. Canby, Jr.及びBarry G. Silverman、巡回判事、意見Canby判事

意見者: WILLIAM C.[*2] CANBY, JR

意見:
CANBY、巡回判事


本件において我々は再度、何が表現として保護されるべきであり、何が機能として公衆がアクセスできるべきなのかを判断するために、著作権法の原則を、コンピューターおよびそのソフトウェアに適用するよう求められている。この著作権侵害訴訟を提起したSony Computer Entertainment, Inc.は、テレビ・コンソールにつなげて、コンパクト・ディスク(CD)上の、PlayStationに挿入されたゲームを操作する手元操作の小さなコンピューターである、Sony PlayStationコンソールを生産し販売している。Sonyは、基本的な入出力システムでありPlayStationを操作するソフトウェア・プログラムであるBIOSの著作権をもっている。Sonyはこの訴訟において、特許権は主張していない。

被告Connectix Corporationは、「Virtual Game Station」と呼ばれるソフトウェア・プログラムを製作し販売している。Virtual Game Stationの目的は、通常のコンピューター上でSony PlayStationコンソールの機能を模倣し、Virtual Game Stationソフトウェアを購入するコンピューター所有者が自分のコンピューターでSony PlayStationゲームを使えるようにすることである。Virtual Game StationはSonyの著作権対象物をまったく含んでいない。しかしVirtual Game Station [*3] の制作過程中に、ConnectixはSony PlayStationがいかに作動するかを調べるための「リバース・エンジニアリング」の過程において、Sonyが著作権を持つBIOSを繰り返しコピーした。Sonyは権利侵害を主張し、暫定的差止命令を求める。地方裁判所は、Connectixの「中間コピー」は17 U.S.C.§107の下で保護される「公正使用」ではないので、Sonyは権利侵害訴訟に勝訴する可能性が大きいと結論付けた。地裁はConnectixに、Virtual Game Stationの販売、ならびに他のVirtual Game Station製品の開発におけるSony BIOSのコピーおよび使用を禁じた。

Connectixは上訴する。本法廷は破棄し差戻し、差止命令の撤回を指示する。Sony BIOSのリバース・エンジニアリングの過程においてConnectixが作成し使用した中間コピーは、自身の非侵害のVirtual Game Stationが、Sony PlayStationゲームを動かせるようにするために必要な、保護されている公正使用である。Connectixが作成した他の中間コピーは、それらのコピーが権利侵害であったとしても、差止命令の救済を支持しない。

地裁はまた、Virtual Game Stationプログラムの [*4] Connectixによる販売が、15 U.S.C.§1125の下でSony PlayStationの商標を傷付けるという主張において、Sonyは勝訴する可能性が大きいとも認定した。本法廷はその裁定も破棄する。

I. 背景

A. 製品

SonyはSonyPlayStationおよびSony PlayStationゲーム双方の開発者、生産者そして販売者である。Sonyはまた、他の会社に、PlayStationで遊べるゲームの作成を許諾している。PlayStationシステムは、コンソール(実質的にミニ・コンピューター)、制御装置、およびテレビに3次元ゲームを表示させるソフトウェアから構成される。PlayStationゲームはコンソールの上部にロードするCDである。PlayStationコンソールは、(1) ハードウェア・コンポーネントと、(2) 読取り専用メモリー(ROM)チップに書き込まれたファームウェアとして知られているソフトウェア双方を含む。ファームウェアはSony BIOSである。SonyはBIOSに対して著作権をもっている。PlayStationのコンポーネントに関して、この訴訟に関係のある特許は主張していない。PlayStationはSonyの登録商標である。

ConnectixのVirtual Game Stationは、PlayStationコンソールの機能を「エミュレート(模倣)」するソフトウェアである。つまり、消費者はVirtualGame Stationソフトウェアをコンピューターにロードし、PlayStationゲームをそのコンピューターのCD-ROMドライブにロードし [*5]、PlayStationゲームで遊ぶことができる。したがってVirtual Game StationソフトウェアはSonyコンソールのハードウェアとファームウェアのコンポーネント双方を模倣する。VirtualGame Stationでは、SonyのPlayStationほど良好にはPlayStationを使えない。差止命令の時点では、ConnectixはMacintoshコンピューターのためのVirtual Game Stationは販売していたが、WindowsのためのVirtual Game Stationソフトウェアはまだ完成していなかった。

B. リバース・エンジニアリング

著作権対象のソフトウェアは通常、著作権対象の要素と、保護されない、つまり機能的要素双方を含む。Sega Enters.Ltd. v. Accolade, Inc., 977 F.2d 1510, 1520(第9巡回区、1993)(修正意見); 17 U.S.C.§102 (b)(著作権保護は、著作権対象作品に組み込まれている「アイデア、手続き、プロセス、システム、運用方法、概念、原則または発見」には適用されない)参照。著作権対象製品と互換性のある製品を設計するソフトウェア・エンジニアはしばしば、著作権対象製品の機能的要素にアクセスするために、その著作権対象製品を「リバース・エンジニア」しなければならない。Andrew Johnson-Laird, Software Reverse Engineering in the Real World, 19 U. Dayton L. Rev.843, 845-46 (1994) 参照。[*6]

リバース・エンジニアは、ソフトウェア・プログラムの機能的要素にアクセスする幾つかの方法を含む:(1) プログラムについて読む; (2)「コンピューター上で使用することによって実行中のプログラム」を観察する; (3)「プログラムに含まれている個々のコンピューター命令の静的な検討」を行う; (4)「プログラムがコンピューター上で実行されているときに個々のコンピューター命令の動的な検討」を行う。同上、at 846。ソフトウェア・マニュアルはしばしば真の製品を誤って記述しているので、方法 (1) は最も有効でない。同上参照。SonyはそのPlayStationについて、かかる情報を提供していないので、本件ではこの方法は特に効果的でない。方法 (2)、(3) および (4) では、アクセスを求める人は、目的のプログラムをコンピューターにロードすることが必要である。これは必然的に、著作権対象プログラムの、コンピューターのランダム・アクセス・メモリーつまりRAMへのコピーを含む操作である。1)

[*7]

方法 (2)、プログラムの観察は、幾つかの形を取りうる。ある種のソフトウェア・プログラム、たとえば文書処理プログラム、表計算およびビデオ・ゲーム・ディスプレーの機能的要素は、コンピューター画面の観察によっては理解できない。Sega 977 F.2d at 1520参照。もちろん、かかる状況でのリバース・エンジニアは、オブジェクト・コード自体を観察するのではなく、2) コンピューター上のこのコードの操作の、外部の視覚的表現のみを観察する。そのときソフトウェア・プログラムは、エンジニアがコンピューターを起動するごとにコピーされ、コンピューターはそのプログラムをRAMにコピーする。

他の形の観察は、より立ち入っている。オペレーションズ・システム、システム・インタフェース手続き、およびSony BIOSのようなその他のプログラムは、実行中にユーザーには見えない。同上参照。これらのプログラムのオペレーションを「観察」する1つの方法は、プログラムを模倣された環境で実行することである。Sony BIOSの場合 [*8]、このことはPlayStationハードウェアの作動をシミュレートしたソフトウェアを持つコンピューターでの、BIOSの実行を意味する。「デバッガー」と呼ばれる他のプログラムとともに当該プログラムを実行することにより、エンジニアは、コンピューター上でBIOSと他のプログラムとの間で送られる信号を観察することができる。この後者の方法は、PlayStationのチップからコンピューターへのSony BIOSのコピーを必要とした。Sony BIOSは、エンジニアがコンピューターを起動したたびにコピーされ、コンピューターはそのプログラムをRAMにコピーした。このコピーのすべては中間的なものであった。つまりSonyの著作権の対象物のいずれも、Connectixの最終製品であるVirtual Game Stationには、コピーされず登場もしなかった。

方法 (3) と (4) は、オブジェクト・コードのソース・コードへの「逆アセンブル」が関係する。3) それぞれ、エンジニアは「逆アセンブラー」と呼ばれるプログラムを使用する。2進法の機械可読オブジェクト・コードの1と0を、ソース・コードのワードと数学的記号に翻訳する。この翻訳されたソース・コードは、オブジェクト・コードを最初に作成するのに使用されたソース・コードに類似しているが、4) [*9] ソース・コードの機能の説明に役立つ、プログラムの著作者が起草した注釈がない。コンピューター命令の静的な検討である方法 (3) では、エンジニアはプログラムのすべてまたは一部のオブジェクト・コードを逆アセンブルする。プログラムは一般に、逆アセンブルを実行するために、1回または複数回コピーされる。コンピューター命令の動的な検討である方法 (4) では、エンジニアは逆アセンブラー・プログラムを使ってプログラムの実行中に、プログラムの一部、1回に1つの命令を、逆アセンブルする。この方法もプログラムのコピーを必要とし、この操作をする回数に依っては、コンピューターを起動するたびのRAMへのプログラムの追加のコピーを必要とするかもしれない。

C. ConnectixによるSony BIOSのリバース・エンジニアリング

Connectixは1998年7月1日頃に、Macintosh用のVirtual Game Stationの開発を始めた。PlayStationエミュレーターを開発するには [*10]、ConnectixはPlayStationのハードウェアとファームウェア(Sony BIOS)双方を模倣する必要があった。

Connectixはまず、PlayStationのハードウェアを模倣することにした。そうするためにConnectixのエンジニアは、Sony PlayStationのコンソールを購入し、コンソール内のチップからSony BIOSを抜き出した。それからConnectixのエンジニアは自分のコンピューターのRAMにSony BIOSをコピーし、Virtual Game Stationハードウェア・エミュレーション・ソフトウェアがConnectixにより開発されているときに、そのハードウェア・エミュレーション・ソフトウェアと合わせたSony BIOSの機能を観察した。エンジニアは、BIOSとハードウェア・エミュレーション・ソフトウェアとの間で送られる信号を観察することを可能にするデバッギング・プログラムを使用して、Sony BIOSの動作を観察した。このプロセスにおいてConnectixのエンジニアは、コンピューターを起動するたびにSony BIOSの追加のコピーを作成し、Sony BIOSはRAMにロードされた。

いったんハードウェア・エミュレーション・ソフトウェアが開発できると、Connectixのエンジニアはエミュレーション・ソフトウェアを「デバッグ」するためにもSony BIOSを使用した。その際、彼らはSony BIOSの個々の部分を繰り返しコピーし逆アセンブルした。

ConnectixはWindows用のVirtual Game Stationの開発を始めるためにも [*11] Sony BIOSを使用した。彼らは特に、Windows用Virtual Game StationのためにWindows専用システムを開発するためにも、毎日Sony BIOSのRAMへのコピーを作成し、Sony BIOSを使用した。Connectixはその時点で自分のBIOSをもっていたが、Sony BIOSはConnectix BIOSが含んでいなかったCD-ROMコードを含んでいたので、Connectixのエンジニアはそちらを使用した。

開発プロセスの初期段階で、ConnectixのエンジニアであるAaron Gilesは、インターネットからダウンロードしたSony BIOS全体のコピーを逆アセンブルした。彼は、自分が書いた「逆アセンブラー」をテストする目的でそうした。ソース・コードのプリントアウトは、Virtual Game Stationエミュレーターの開発のためには使われなかった。Connectixのエンジニアはリバース・エンジニアリングのプロセスを始めるために、最初はこのSony BIOSのコピーを使った。しかしこれは日本語版であると気付いて放棄した。

Virtual Game Stationの開発中、ConnectixはSonyに接触し、Virtual Game Stationの開発を完成させるためにSonyからの「技術支援」を要請した。ConnectixとSonyの代表は1998年9月に会った。SonyはConnectixの支援要請を拒否した。

Connectixは [*12] 1998年12月末か1999年1月始めに、Macintoshのコンピューター用のVirtual Game Stationを完成させた。Connectixは1999年1月5日のMacWorld Expoで、その新製品を発表した。MacWorldではConnectixは、Virtual Game Stationを「PlayStationエミュレーター」として売り出した。資料によれば、Virtual Game Stationによりユーザーは、「Sony PlayStationコンソールをもっていなくても」、コンピューター上で「自分の好きなPlayStationゲーム」で遊ぶことができる。

D. 司法手続きの経過

1999年1月27日、SonyはConnectixに対して、著作権侵害およびその他の訴訟原因を告発する訴状を提出した。Sonyはその後、著作権および商標権の侵害を根拠に暫定的差止命令を求める申し立てをした。地方裁判所はその申し立てを認め、Connectixに、(1) Windows用のVirtual Game Stationの開発においてSony BIOSコードをコピーまたは使用すること、および(2)Macintosh用VirtualGame StationまたWindows用Virtual Game Stationを販売することを禁じた。暫定的差止命令を求める申し立てに関する命令at 27。地裁はまた、Sony BIOSのConnectixのすべてのコピー、およびSony BIOSに基づくまたはそれを組み入れた作品のすべてのコピーを押収した。同上at 27-28。Connectixは今、この命令に対して上訴する。

II. 議論

差止命令を求める申立てで勝訴するには [*13]、Sonyは、「本案において勝訴する見込みと回復不能な損害を受ける可能性、または本案に関係する深刻な疑問が提起され困難のバランスが自分の方に大きく傾いていること」を立証する必要があった。Cadence Design Sys., Inc. v. Avant! Corp., 125 F.3d 824, 826(第9巡回区、1997)(内部引用符および括弧を省略)裁量上訴棄却、523 U.S. 1118 (1998)。本法廷は、「地方裁判所がその裁量権を乱用したか、その決定が誤った法的基準もしくは明確に誤った事実認定に基づいていた」場合にのみ、暫定的差止命令の公布を破棄する。Roe v. Anderson, 134 F.3d 1400, 1402 n.1(第9巡回区、1998)(内部引用符省略)他の根拠で維持、sub.nom. Saenz v. Roe, 526 U.S. 489, 143 L. Ed. 2d 689, 119 S. Ct. 1518 (1999)。本法廷は裁量権の乱用について、差止命令の範囲を検討する。SEC v. Interlink Data Network of L.A., Inc., 77 F.3d 1201, 1204(第9巡回区、1996)

Connectixは、Virtual Game Stationの開発においてSonyの著作権があるBIOSソフトウェアをコピーしたことを認めるが、[*14] それは17 U.S.C.§107に基づき公正使用として保護されると主張する。Connectixはまた、SonyがConnectixのVirtual Game StationがPlayStationの商標を傷付ける可能性を立証したとの地裁の結論に、異議を唱える。本法廷は以下で、これらの主張を検討する。

A. 公正使用

公正使用の問題は、コンピューター・ソフトウェアのある種の特徴が理由で現在の文脈において生じる。プログラムのオブジェクト・コードは、表現として著作権を与えられるが、17 U.S.C.§102 (a)、著作権保護を得る資格がないアイデアを含み機能を実施する、17 U.S.C.§102 (b)。しかしオブジェクト・コードは人間は読めない。したがってコードの保護されていないアイデアと機能はしばしば、著作権対象物のコピーを必要とするかもしれない調査と翻訳をしなければ発見できない。本件の事実および本法廷の先例の下では、Connectixによる、Sonyの著作権があるBIOSの中間コピーと使用は、Sonyのソフトウェアの保護されていない要素へアクセスする目的では、公正使用であったと、本法廷は結論付ける。

公正使用分析の一般的枠組みは、[*15] 制定法17 U.S.C.§107によって確立されている。5) 本法廷はSega Enterprises Ltd. v. Accolade, Inc., 977 F.2d 1510(第9巡回区、1993)(修正意見)において、この制定法および公正使用の法理を適用してきた。本日の本法廷の決定において焦点となるのは、Sega判決で記された下記の規則である:

逆アセンブリーが、著作権対象のコンピューター・プログラムに組み込まれたアイデアおよび機能的要素へアクセスする唯一の方法であり、かかるアクセスを求める適法な理由がある場合、逆アセンブリーは法律問題として、著作物の公正使用である。

同上at 1527-28(強調追加)。Sega判決において本法廷は、最終製品自体が著作権対象の内容を含んでいない場合でも中間コピーは著作権侵害を構成しうると認めた。同上at 1518-19。しかしこのコピーは、ソフトウェア自体の機能的要素へのアクセスを得るために「必要」であったならば、公正使用として保護されうる。同上at 1524-26。著作権法はソフトウェア・プログラムのアイデアまたは機能的側面ではなく表現のみを保護しているので、本法廷はこの区別をした。同上at 1524(17 U.S.C.§102 (b) 引用)参照 [*16]。コンピューター・プログラムは「本質的に実用のための物、つまり任務を達成する物であり、したがって、実施される機能、効率の考慮、あるいは互換性要件や業界の要求などの外部要素によって要求される、多くの論理、構造および視覚的表示の要素を含んでいる」ので、コンピューター・プログラムの裁判においてはこのアイデア/表現の区別は「独自の問題」を提起することを、本法廷は認めた。同上。したがって公正使用の法理は、著作権対象のコンピューター・ソフトウェア・プログラムに組み込まれたアイデアおよび機能的要素への公衆のアクセスを保護する。このアプローチは、「公衆の利益のために芸術的な創作性を刺激するという [著作権法の] 究極的目的」と合致している。Sony Corp. of Am. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 432, 78 L. Ed. 2d 574, 104 S. Ct. 774 (1984) (Twentieth Century Music Corp. v. Aiken, 422 U.S. 151, 156, 45 L. Ed. 2d 84, 95 S.Ct. 2040 (1975) を引用)。

[*17]

本法廷は、Sega訴訟における本法廷の先例によって教示されるように、制定法上の公正使用の要因に戻る。

 著作物の性質

本法廷による制定法の第二の要素、著作物の性質の分析に基づき、本法廷は、「ある種の作品は他のものより、意図された著作権保護の中核に、より近い」ことを認める。Cambell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569, 586, 127 L. Ed 500, 114 S. Ct. 1164 (1994)。SonyのBIOSは、コピーなしでは検討できない、保護されていない側面を含んでいるので、中核からは遠くにある。Sega, 977 F.2d at 1526参照。したがって本法廷はそれに、「より伝統的な文学作品よりも低いレベルの保護」しか与えない。同上。本法廷はこの基準を適用したので、Sony BIOSのConnectixによるコピーは、公正使用となるためには「必要」でなければならなかった。同上at 1524-26参照。本法廷は、必要であったと結論付ける。

Sony BIOSが、保護されていない機能的要素を含んでいることについては争点はない。ConnectixがSony BIOSをコピーせずには、これらの保護されていない機能的要素にアクセスできなかったことは、争われていない。Sonyは、Sony BIOSの機能に関する技術的情報が、ほとんど公衆には提供されていないことを認める。[*18] Sony BIOSは、その機能を反映する画像表示を生み出さない、内部オペレーティング・システムである。したがって、もしConnectixがSony BIOSの機能的要素へアクセスするならば、コンピューターへのSony BIOSのコピーを必要とするリバース・エンジニアリングという形で行うしかなかった。6) Sonyはこの命題を争っていない。

したがって問題は、ConnectixがSony BIOSをリバース・エンジニアした方法が [*19]、そのプログラム内の、保護されていない機能的要素へのアクセスに必要であったか否かである。必要であったと本法廷は結論付ける。Connectixは、幾つかの方法のリバース・エンジニアリング(観察、および部分的逆アセンブリーによる観察)を採用した。それぞれにおいてConnectixは、著作権対象物の中間コピーを作成する必要があった。これらの方法のいずれも、公正使用の保護を適用不能にするものではない。Sega判決は明示的に逆アセンブリーを禁じた。同上at 1527-28。本法廷は、模倣されたコンピューター環境での著作権対象ソフトウェアの観察を区別する理由を見出ださない。どちらの方法も、コンピュータープログラムの保護された要素と保護されていない要素双方をコピーするというリバース・エンジニアリングを必要とする。この中間コピーは中間侵害請求の訴えの主旨であり、17 U.S.C.§106 (1); Sega 977 F.2d at 1518-19参照、リバース・エンジニアリングのどちらの方法もそれを必要としているので、本法廷は、著作権法の問題として両者を区別するという、これらの方法に内在する理由を見出ださない。Connectixは、Sony BIOSの機能的側面を観察するためにSony BIOSを模倣された環境で観察したとの証拠を提示した。リバース・エンジニアリングのこの方法 [*20] が不成功だったとき、Connectixのエンジニアはそこに含まれているアイデアを直接見るために、Sony BIOSの離散的部分を逆アセンブルした。この態様での中間コピーはSega判決の意味の範囲内で「必要」であったと、本法廷は結論付ける。

本法廷は、地裁が取ったアプローチに従うことを拒否する。地裁は、ConnectixによるSony BIOSのコピーが、機能的要素へのアクセスのために必要であったか否かには焦点を当てなかった。その代わりに、自身のソウトウェアを開発するためのConnectixによるSony BIOSのコピーと使用が、Sega判決の範囲を越えていたと認定した。命令at 17(「彼らは概念を調べる以外のためにSonyのコードを逆アセンブルした。彼らは実際に製品開発にそのコードを使用した」)参照。この論理は説得力がない。Sega判決が、「著作権対象のコンピューター・プログラムの保護されていない側面の調査または検討」に言及したのは事実である。977 F.2d at 1520(強調追加)。しかしSega判決において、Segaのゲーム・カートリッジのAccoladeによるコピー、観察および逆アセンブリーは、Accoladeが「逆アセンブルされたコードをコンピューターにロードし、プログラムを修正しその結果を調べることによって [*21] Genesisコンソール用のインターフェース仕様を発見するために実験した」にも関わらず、公正使用と判断された。同上at 1515。したがって、「調査」と「使用」の区別はSega判決においては支持されない。さらに、リバース・エンジニアリングは技術的に複雑な、しばしば反復的なプロセスである。Johnson-Laird, 19 U. Dayton L. Rev. at 843-44。中間侵害の請求という限定された文脈では、本法廷は、「調査」と「使用」の区別は語義上の区別な人工的なものであると認定し、公正使用の判定の目的でそれを採用することを拒否する。7)

[*22]

本法廷はまた、Connectixは模倣された環境でSony BIOSを繰り返し観察し、それによってSony BIOSのコピーを繰り返し作成したことで、Sonyの著作権を侵害したとの、Sonyが提示した論理を否定する。ConnectixのエンジニアはまずSony BIOS全体を逆アセンブルし、そして自身のConnectix BIOSを書き、そのConnectix BIOSを使用してVirtual Game Stationハードウェア・エミュレーション・ソフトウェアを開発できたので、これらの中間コピーはSega判決の下では「必要」ではありえなかったと、Sonyは主張する。本法廷は、この上訴という限定された目的においてはSonyによる事実の叙述を受け入れる。8) しかし本法廷が受け入れたことは、Sonyの助けとはならない。

模倣された環境でのSony BIOSの観察に関しては、Connectix自身のBIOSをまず開発しそのConnectix BIOSを使ってハードウェア・エミュレーション・ソフトウェアを開発するよりも、Sony BIOSを使ってハードウェア・エミュレーション・ソフトウェアを開発するほうが容易であることはTrautも認めた。

選択されたコードの逆アセンブリーによるSony BIOSの観察に関しては、Trautは1つのバグに関して、Sony BIOSの一部を逆アセンブルせずにそのバグを特定することはできなかったと述べた。彼はまた、そうすることが「バグを発見する最も効率のよい方法」であった場合には、Sony BIOSの一部を逆アセンブルしたとも述べた。その後の質問において、彼は、逆アセンブリーはバグを発見する唯一の方法ではないが、最も速い方法であったことを明確にした。

Windows用Virtual Game Stationの開発におけるConnectixによるSony BIOSの観察に関しては、他の方法、おそらく逆アセンブリーが可能であったかもしれない。「エミュレーターを構築する前にCD-ROMコードを書くことが可能であったか」とSonyの弁護士に尋ねられたとき、ConnectixのエンジニアGilesは「私にはわからない」と答えた。

[*23]

模倣された環境でSony BIOSを観察するというConnectixによる決定は、プログラムの完全な逆アセンブリーを行った場合よりも、Connectixに、Sony BIOSのより多くの中間コピーの作成を要求したという論理に基づき、ConnectixによるSony BIOSのリバース・エンジニアリングは不必要であったと見なされるべきであると、Sonyは主張する。この論理の下では、少なくとも中間コピーの幾つかは、Sega判決の意味で必要ではなかったことになる。この解釈はSega判決を拡大解釈し過ぎている。Sega判決において本法廷が扱った「必要性」は、方法つまり逆アセンブリーの必要性であり、その方法が適用される回数の必要性ではなかった。977 F.2d at 1524-26。いずれにしろ、Sonyが提示した解釈は、公正使用の基準としてはまずい。Sony BIOSの中間コピーの大部分は、Connectixのエンジニアがコンピューターを起動したときに作成され、そのSony BIOSはRAMにコピーされた。しかしもしConnectixのエンジニアが、模倣された環境でSony BIOSを観察し続ける間中はコンピューターを切らずにおいていたとすれば、彼らははるかに少ない数のSony BIOSの中間コピーしか作らなかっただろう(おそらく1つのコンピューターについて1つ)。[*24] 実際にはそうするつもりはないが、もし仮に本法廷がソフトウェア会社の技術ソリューションを細微にわたって監督する気になったとしても、本法廷による著作権の適用はかかる区別には依存しないだろう。9) かかる規則は容易にごまかすことができる。より重要なことは、Sonyが主張した規則によれば、ソフトウェア・エンジニアは、いずれも保護されているものと保護されていないものの中間コピーを必要とする2つの技術ソリューションに直面して、しばしば最も効率の悪いソリューションに従うことを要求される。(中間コピーの必要数が最も少ないソリューションが同時に最も効率がよい場合には、エンジニアは我々が強制しなくてもおそらくそれを追求するだろう)。これはまさに、「事実やアイデアに対する著作権を禁じることによって回避しようとした無駄な努力」である。Feist Publications, Inc. v. Rural Tel. Serv. Co., 499 U.S. 340, 354, 113 L. Ed. 2d 358, 111 S. Ct. 1282 (1991)(内部引用符省略)。かかるアプローチは、著作権対象ソフトウェア・プログラムに含まれるアイデアへの公衆によるアクセスに対して人工的な障害を作ることになる。これらは「議会により明確に否定された著作権保護の側面」である。Sega, 977 F.2d at 1526 [*25](17 U.S.C.§102 (b) を引用)。本法廷は、本件でかかる障害を設けることを拒否する。もしSonyがそのソフトウェアにおける機能的な概念を合法的に独占したいならば、特許法のより厳格な基準を満足しなければならない。Bonito Boats, Inc. v. Thunder Craft Boats, Inc., 489 U.S. 141, 160-61, 103 L. Ed. 2d 118, 109 S. Ct. 971 (1989); Sega, 977 F.2d at 1526参照。Sonyはこれをしていない。第二の制定法上の要素は大きくConnectixの有利となる。

 使用された部分の量 [*26] と実質性

著作物全体に対する使用された部分の量と実質性という、第三の制定法上の要素に関しては、ConnectixはSony BIOSの一部を逆アセンブルし、Sony BIOS全体を何回かコピーした。したがってこの要素はConnectixの不利となる。しかし本法廷がSega判決で結論付けたように、最終製品自体が侵害となるものを含んでいない中間的侵害においては、この要素の重みは「非常に小さい」。Sega, 977 F.2d at 1526-27; Sony Corp. of Am. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 449-50, 78 L. Ed. 2d 574, 104 S. Ct. 774 (1984)(作品全体のコピーは公正使用を妨げない)も参照。

 使用の目的と性格

第一の要素、使用の目的と性格の下では、本法廷はConnectixによるVirtual Game Stationが、単に最初の創作物と置き替わるだけなのか、新しいものを付け加え、さらなる目的もしくは異なる特徴をもち、新しい表現、意味もしくはメッセージによって最初の作品を変えているのかを調べる。つまり、新しい作品が「変形」しているか、どの程度「変形」しているかを尋ねる。

Cambell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569, 579, 127 L. Ed. 2d 500, 114 S. Ct. 1164 (1994) [*27](内部引用符および引用省略)。最初の問題として、地裁は誤った法的基準を適用したと本法廷は結論付ける。つまり地裁は、Sony BIOSのコピーにおけるConnectixの営利目的は、「特別の営利的使用という性格によって反駁できる... 不公正の推定」を生じたと判断した。命令at 14-15(Sega, 977 F.2d at 1522を引用)。しかしSega判決以来、最高裁判所は、公正使用分析の第一および第四の要素に適用されるようなこの推定を棄却してきた。Acuff-Rose, 510 U.S. at 584, 594Sony, 464 U.S. at 451を明確にする)。ConnectixによるSony BIOSのコピーが営利目的であったという事実は、「公正使用の認定に不利となる傾向を持つ別個の要素」に過ぎない。同上at 585(内部引用符省略)。10)

[*28]

ConnectixのVirtual Game Stationは、やや変形していると本法廷は認定する。この製品は、消費者がSony PlayStationのために設計されたゲームで遊べる新しいプラットフォーム、つまりパーソナル・コンピューターを生み出す。この革新は新しい環境で、特にSony PlayStationコンソールとテレビ受像機はないがCD-ROMドライブ付きのコンピューターはある所で、ゲームで遊ぶ機会を提供する。より重要なことは、Sony PlayStationとVirtual Game Stationの使用法と機能は類似しているが、Virtual Game Station自体は完全に新しい製品だということである。ソフトウェアの表現的要素は、コンピューター画面上のオブジェクト・コードの視覚的表現ばかりでなく、コンピューターを動かすそのコードの編成と構造にある。17 U.S.C.§102 (a)(「直接または機械やデバイスの助けを得て認識され複製されまたはその他の形で伝達されうる」オリジナルの著作物に、著作権による保護を拡大する)。SonyはVirtual Game Station自体がSonyの著作権を侵害するオブジェクト・コードを含むとは主張しない。従って本法廷は、機能および画面上の出力は類似しているが、ConnectixによるVGSのための [*29] まったく新しいオブジェクト・コードの下書きが、変形でありえない理由を見出だせない。

最後に本法廷は、ConnectixのVirtual Game Stationの変形の程度を、公正使用に対して不利となる商業主義を含む他の要素の持つ意味と比較しなければならない。Acuff-Rose, 510 U.S. at 579。Connectixによる著作権対象物の営利使用は中間的なものであり、したがって「間接的または派生的」であった。Sega, 977 F.2d at 1522。さらにConnectixは、Sony PlayStationのために設計されたゲームとの互換性を持つ製品を生産するために、Sony BIOSをリバース・エンジニアした。本法廷は公正使用分析の第一の要素の下でこの目的を適法であると認めてきた。同上参照。これらの要素を斟酌して、本法廷は第一の要素はConnectixの有利となると認定する。

しかし地裁は、コンピューター画面およびテレビ画面は交換可能であるとの論理で、VirtualGame Stationは変形されておらず、したがってこのConnectixの製品は単にSony PlayStationのコンソールを「置き換えた」に過ぎないと裁定した。命令at15。地裁は明らかに間違った。上記の理由により [*30]、Virtual Game Stationは変形されており、単にSony PlayStationに置き替わっただけではない。その決定に到達する際に、地裁はVirtual Game Stationソフトウェア自体の表現的性質を考慮しなかったようである。Infinity Broadcast Corp. v. Kirkwood, 150 F.3d 104(第2巡回区、1998)へのSonyの依拠は同じ欠陥をもっている。Infinity判決は、「フォーマットの変更は有用であったとしても技術的変形ではない」と論じた。同上at 108 n.2。しかしその訴訟での侵害側当事者は単に、著作権対象の無線通信を受信して電話線で再送信しただけである。新しい表現はない。同上at 108。Infinity判決は本法廷の結論を変えない。Connectixによるコピーの目的および性格は、公正使用を示唆する。

 潜在的市場への使用の影響

本法廷はまた、第4の要素、潜在的市場への使用の効果もConnectixの有利になると認定する。この要素においては本法廷は、侵害者とされる人の特定の行為によって引き起こされた市場での被害の程度ばかりでなく、「被告が関わったタイプの行為が無制限かつ広範囲に広がった場合 [*31]、[オリジナルの] 潜在的市場への実質的な悪影響が引き起こされるか」も考慮しなければならない。

Acuff-Rose, 510 U.S. at 590(3 M. Nimmer & D. Nimmer, Nimmer on Copyright, §13.05 [A] [4], at 13-102.61 (1993) を引用)。他のものと置き替わるだけの作品は、オリジナルの潜在的市場に実質的な悪影響を与える可能性が大きいが、変形された作品はそうなる可能性は小さい。同上at 591; Harper & Row, Publishers, Inc. v. Nation Enters, Inc., 471 U.S. 539, 567-69, 85 L. Ed. 2d 588, 105 S. Ct. 2218 (1985)

地裁は、「[ConnectixのVirtual Game StationによるSony PlayStationコンソールの] 置き替えがなされた分、Sonyはコンソールの販売およびその利益を失う」と認定した。命令at 19。そうかもしれないと本法廷は認める。しかしVirtualGame Stationは変形されており、PlayStationの単なる置き替えではないので、Virtual Game StationはSonyのゲームおよびSonyがライセンスしたゲームを遊ぶことができるプラットフォームの市場における、適法な競争相手である。Sega, 977 F.2d at 1522-23参照。したがって、[*32] この競争の結果としてのSonyによる経済的損失は、公正使用の否定の認定を強いない。Sonyが生産またはライセンスするゲームを遊ぶデバイスの市場をSonyが支配しようとするのは理解できる。しかし著作権法はかかる独占を付与しない。同上at 1523-24(「他人を競争できなくすることによって市場を独占しようとする試みは、創作的表現を奨励するという法律の目的に反しており、公正使用の法理の発動に抵抗する、強いエクィティ上の根拠にはなりえない」)。この要素はConnectixの有利となる。

4つの制定法上の公正使用の要素は、「著作権の目的に鑑みてまとめて斟酌され」なければならない。Acuff-Rose, 510 U.S. at 578。本件では、そのうち3つの要素がConnectixの有利となる。1つがSonyの有利となるが、それは重要ではない。もちろん、制定法上の要素は限定的ではない。Harper & Row, 471 U.S. at 560。しかし本法廷による分析に影響する、まだ考慮されていない他の要素は認められない。したがって本法廷は、Connectixによる、リバース・エンジニアリングの過程におけるSony BIOSの中間コピーは、法律問題として、17 U.S.C.§107における公正使用であったと結論付ける。[*33] 著作権侵害の主張に関してはSonyは、本案における勝訴の見込みも、困難のバランスが自分の有利に傾くとも立証していない。Cadence Design Sys., Inc. v. Avant! Corp., 125 F.3d 824, 826(第9巡回区、1997)、裁量上訴棄却、523 U.S. 1118 (1998) 参照。したがって、本法廷は17 U.S.C.§117 (a) (1) に基づきConnectixが主張する抗弁、および本法廷の著作権の乱用の法理を検討する必要はない。本法廷は、著作権侵害を根拠に地裁が下した暫定的差止命令を破棄する。11)

[*34]

B. 商標の損傷

地裁は、ConnectixによるVirtual Game Stationの販売は、15 U.S.C.§1125 (c) (1) の下でSonyの「PlayStation」の商標を損傷したと認定した。しかし地裁はその暫定的差止命令の根拠をSonyの著作権上の主張にのみおき、差止命令の根拠としてその商標の損傷の認定を引用しなかった。「記録によって裏付けられるいかなる根拠によっても地裁の裁定を維持することは」可能だが、Charley's Taxi Radio Dispatch Corp. v. SIDA of Haw., Inc., 810 F.2d 869, 874(第9巡回区、1987)、本法廷はこの根拠によって維持することを拒否する。Sonyは商標の損傷の主張の各要素において勝訴する見込みを示さなかった。

商標の損傷の主張で勝訴するには、Sonyは、(1) PlayStationの「商標が有名」であり、(2) Connectixが「この商標を営利使用」しており、(3) Connectixの「使用が、この商標が有名になった後に始まって」おり、そして (4) Connectixによる「この商標の使用が、商品およびサービスを特定し識別する商標の能力を減じることによってこの商標の質を希釈している」ことを示さなければならない。Films of Distinction, Inc. v. Allegro Film Prods., Inc., 12 F.Supp. 2d 1068, 1078(カリフォルニア州中部地区、1998); 15 U.S.C.§§1125 (c) (1) [*35], 1127(「希釈」の定義)。Connectixはこれらの要素の1番目と3番目には反対していない。本法廷は第4の要素のみを対象とする。

Sonyは希釈による商標の損傷の法理に基づいて論じているので、この第4の要素に基づき、PlayStationの商標はConnectixの使用によって「マイナスのイメージ」を受けることを示さなければならない。Hormel Foods Corp. v. Jim Henson Prods., Inc.,73 F.3d 497, 507(第2巡回区、1996); 4 J. Thomas McCarthy, McCarthy on Trademarks and Unfair Competition §24.95(第4版1996および補遺1999)も参照。Virtual Game Stationは、PlayStationコンソールほどうまくはPlayStationのゲームを動かさず、Virtual Game Stationの包装にはその意味の否認条項が含まれているが「ゲームをする人はこの違いを理解しない」と地裁は認定した。命令at 24-25。したがってVirtual Game StationソフトウェアでSonyのゲームを使う消費者の一部におけるこの混同のため、Sony PlayStationの商標はマイナスのイメージを受ける。同上at 25。

記録上の証拠はかかる誤認の認定を支持しない。地裁は主として、インターネット上にポストされ、[*36] Connectixが提出した一連の半匿名の批評に依拠した。地裁が認めたように、この批評は確認も特定もされていない。より重要なことは、コメントのプリントアウトは、そのコメントがなされた文脈を明らかにしていない。この欠落により、ゲーム・プレーヤーによる混同の程度の信頼できる評価を困難にしている。地裁はまた、Sonyの要請でマーケット・リサーチ会社が行った、2つのサンプル調査にも言及した。これらの調査はVirtual Game StationとPlayStationの品質の違いを扱っているが、誤認の問題については何も明らかにしていない。したがって本法廷は、Virtual Game StationがSony PlayStationの商標を傷付けたとの誤認による損傷の理論に基づく地裁の認定を、明らかに誤っているとして破棄する。

本法廷は、2つのプラットフォームの品質の違い自体が損傷の認定に十分であるとのSonyの論理にも説得されない。Deere & Co. v. MTD Prods, Inc., 41 F.3d 39, 43(第2巡回、1994)(「損傷は一般に、原告の商標が質の悪い製品に結び付けられ、公衆が品質の悪さを... [*37] 原告の無関係の商品に結び付けるために」商標の価値が下がるときに生じる)。損傷という概念が本件の事実関係に適用可能であると仮に想定したとしても、損傷の認定を裏付ける証拠は十分ではない。「損傷の必須の要件は、原告の商標が被告による使用によってマイナスの連想をもたれるとの認定である」。Hormel Foods, 73 F.3d at 507。ConnectixのVirtual Game Stationの性能によって、Sonyの商標あるいは製品がマイナスのイメージをもたれた、またはもたれた可能性が大きかったことを、本件の証拠は証明も示唆もしていない。その性能の質について、証拠は実質的でもない。それぞれが8人の参加者を含むSonyの調査はさまざまな結論を提示した。ひとつの調査は、「全体として、試験者はVirtualGame Stationでのゲームの使用よりもPlayStationでのゲームの使用を好んだことをこのサンプル調査の結果は、示す」と結論付けた。他の調査は、消費者はVirtual Game Stationはあるゲームにとっては「全般的に」受け入れ可能だが、他のゲームにとっては「ほとんど使えない」と判断したと結論付けた。Connectixが提出したインターネット批評も、さまざま意見を示している。ある何人かの匿名の批評家はVirtual Game Stationを好み、何人かはどちらともつかず [*38]、Virtual Game Stationエミュレーションを嫌ったのは比較的少数であった。混同に関する唯一の評論であるニューズウィークの記事は、このソフトウェアは「驚くほどよく機能」し、Virtual Game Stationでの幾つかのゲームは「刺激的だった」と述べた。Steven Levy、「Play it Your Way」、ニューズウィーク、1999年3月15日、at 84。この証拠は、Virtual Game Stationの質の悪さのみがSonyの商標を傷つけるという結論を支持するには不十分である。Sonyの商標の損傷の主張は、差止命令を支持しえない。

結論

Connectixによる、Sony PlayStationコンソールから取られたSony BIOSのリバース・エンジニアリングは、公正使用として保護される。Connectixが作成したSony BIOSの他の中間コピーは、Sonyの著作権を侵害していたとしても差止命令による救済を正当化しない。これらの理由により、地裁の差止命令は撤回され本件は地裁に差し戻される。本法廷はまた、ConnectixのVirtual Game StationがSony PlayStationの商標を傷付けたとの地裁の認定も破棄する。

破棄、差戻し。



1)   著作権対象のソフトウェア・プログラムの購入者は、そのプログラムを使用するにはコンピューターのメモリーにそのプログラムをコピーしなければならない。それが理由で17 U.S.C.§117 (a) (1) は、ソフトウェアのコピーを所有する人が、「コンピューターと関連してのそのプログラムの利用において不可欠な一段階として作成され、他の態様では使用されない」もう1つのコピーを作ることは、著作権侵害ではないと定める。Connectixは、自分が行ったコピーは第117条の範囲内に入ると主張するが、公正使用問題に関する本法廷の決定により、その主張を議論することは不必要となる。Sega, 977 F.2d at 1517-18(逆アセンブリーが第117条によって保護されるとの主張を否定)。

2)   オブジェクト・コードは、1と0かなる一連の数字によって構成される二進法のコードであり、コンピューターによってのみ読まれる。

3)   ソース・コードはソフトウェア・エンジニアは読めるが機械は読めない。

4)   ソフトウェアは一般に、プログラマーによってソース・コードで(およびその他のより概念的なフォーマットで)書かれ、オブジェクト・コードにアセンブルされる。

5)   公正使用を判定する要素は以下の通りである:
(1) 使用の目的と性格。かかる使用が営利的性質のものか非営利的な教育目的かを含む。
(2) 著作物の性質。
(3) 著作物全体に対する、使用された部分の量および実質性。
(4) 著作物の潜在的市場または価値に対するその使用の影響。
17 U.S.C.§107

6)   Connectixは、PlayStation内のSony BIOSが位置するチップの入出力のリードに「論理解析器」を付けることによって、Sony BIOSの機能性へのアクセスを試みたという証拠を提出する。この形の観察は、中間コピーの作成を要求しないようだが、チップ間の信号の観察はできるがチップ内の信号は観察できないので、その価値は限られている。この形の観察だけでConnectixのエンジニアがSony BIOSの機能的要素へアクセスできただろうとは、Sonyは示唆しない。

7)   本法廷は、Connectixが「少しずつSonyのコードを自身のコードに変換した」命令 at 11、という地裁の認定を支持する証拠を、もしこの表明によって地裁がConnectixのエンジニアがオリジナルの作品を作成できなかったことを意味するならば、記録内に発見することができない。確かにConnectixのエンジニアは、VirtualGame Stationハードウェア・エミュレーション・ソフトウェアをテストし開発するために、Sony BIOSと組合せたことは認める。しかしConnectix BIOSの起草において、Connectixのエンジニアは、Sony BIOSを使用し観察しコピーしある時は逆アセンブルしたこともあるが、自身のコードを書くこと以外のことをしたとは決して主張しなかった。Sonyはそれを否定する証拠を提出しておらず、Sonyは、Connectixの最終製品が著作権を侵害するものを含んでいるとも主張していない。

8)   ConnectixのエンジニアAaron GilesとEric Trautの供述録取書は、他のエンジニアリングのソリューションが利用可能のときもあると認めたことを示唆する。

9)   Sonyは、本件の事実と、Triad Systems Corp. v. Southeastern Express Co., 64 F.3d 1330(第9巡回、1995)およびMAI Systems Corp. v. Peak Computer, Inc., 991 F.2d 511(第9巡回、1993)における本法廷の決定との間には重要な相違はないという、本法廷が拒絶するその主張について、これらのRAMのコピーに依拠する。これらの訴訟は本件の公正使用分析には不適切である。いずれにおいても、保護されていない機能的要素へアクセスするためのソフトウェアのリバース・エンジニアリングは絡んでいない。

10) Sonyは営利使用が不公正の想定を生じるという命題の根拠として、Micro Star v. Formgen, Inc., 154 F.3d 1107(第9巡回区、1998)を指摘する。同上at 1113(Sony Corp. of Am. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 451, 78 L. Ed. 2d 574, 104 S. Ct. 774 (1984) を引用)参照。本法廷はMicro Star判決をそのようには読まない。さらにかかる読み方はAcuff-Rose判決に反する。Acuff-Rose判決においては、かかる「強固な証拠による想定」を明確に拒否し、上訴裁判所は使用の営利的性質にかかる決定的な重みを与えたことによって「誤った」と述べた。510 U.S. at 584。また、Micro Star訴訟自体は変形でない使用が絡んでいたが本件ではそうではない。Micro Star, 154 F.3d at 1113 & n.6.参照。Cf. American Geophysical Union v. Texaco, Inc., 60 F.3d  913, 921-22(第2修正、1995)(修正意見)(Acuff-Rose判決および判例集を根拠にして、著作権対象物のTexacoによる中間コピーに適用された営利使用に対する不公正の推定を拒絶)。

11) 本法廷は、インターネットからのSony BIOSのダウンロード自体が差止命令を正当化する著作権侵害であったというSonyの主張を受け入れない。記録にある証拠は、Virtual Game Stationの開発において、ダウンロードされたBIOSはせいぜい小さな役割しか果たさなかったことを示唆する。本法廷はこの記録において、ダウンロードが著作権侵害であるとしても、Virtual Game Stationの開発と販売に対する差止命令の維持を正当化しないと結論付ける。Virtual Game Station自体は著作権を侵害していない。本法廷は、「公衆の利益のために芸術的創造性を刺激する」という著作権法の目標を念頭におき、Sony, 464 U.S. at 432(内部引用符省略)、Connectixのソフトウェアの出版には合法的な公衆の利益があり、この利益は、ダウンロードされたBIOSに関係する記録上の証拠によっては覆らないと結論付ける。差止命令の公布は裁量による。17 U.S.C.§502 (a) 参照。この記録においては本法廷は、Connectixによる、ダウンロードされたSony BIOSのコピーと使用によって差止命令を支持するのは不適切であると結論付ける。著作権侵害とされるものに関しては、損害賠償でSonyの利益は十分に保護される。Acuff-Rose, 510 U.S. at 578 n. 10(公正使用の限界を越えたと認定された製品を差し止めるか否かの判断の際に評価されるべき要素を議論)参照。