ビデオカセット「101匹ワンチャン」並行輪入事件


株式会社セガ・エンタープライゼス
法務部 大辻 寛人


当事者

原告:
キープ株式会社
被告:
株式会社ポニー・キャニオン販売
ブェナ・ビスタ・ジャパン株式会社

裁判所

東京地方裁判所

判決日

平成6年7月1日

関連法令(条文)

日本国著作権法
第2条1項19号−「上映」
第2条1項20号−「頒布」
第2条3項−「映画の著作物」
第10条1項7号−「映画の著作物」
第26条−上映権及び頒布権
米国著作権法
Section 102(a)(6)
-Subject matter of copyright: In General--"motion pictures and other audiovisualworks"
Section 106(3), (4)
-Exclusive rights in copyrighted works
Section 109
-Limitations on exclusive rights: Effect of tranfer of particular copyor phonorecords
Section 602
-Infringing importation of copies or phonorecords

判 決

原告の請求を棄却。


<<資料目次>>

【事実及び理由】
1.請求の趣旨
2.事案の概要
争いのない事実
争点
争点に関する当事者の主張及び判断
3.判断
一 映画の頒布権について
二 並行輸入ビデオカセットの販売について
【私見】


【事実及び理由】

1.請求の趣旨

 被告らは、原告に対し、連帯して金350万円及びこれに対する被告ブェナ・ビスタ・ジャパン株式会社(以下「被告ブェナ・ビスタ」という。)については平成5年4月3日から、被告株式会社ポニー・キャニオン販売(以下「被告ポニー・キャニオン」という。)については同年同月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2.事案の概要

 原告は、映画「101DAL−MATlANS(日本名「101匹ワンチャン」)」(以下「本件映画」という。)のビデオカセット(以下「本件ビデオカセット」という。)1000本をアメリカ合衆国から輸入し、これを日本国内において販売しようとしていた。
 被告らは、アメリカ合衆国等から並行輸入された映画のビデオカセットの販売が違法である旨の文書を配布した。
 原告は、本件ビデオカセットの販売活動を妨害されたとして、被告らに対し本件ビデオカセットを販売すれば得たであろう利益350万円(卸売価格3500円×1000本)の損害賠償を求めた。
一 争いのない事実
1 当事者
 原告は、主としてビデオテープ等の販売業を営む株式会社である。
 被告ブェナ・ビスタは、家庭用録画テープ及びディスクの製造販売を主たる目的とする株式会社である。
 被告ポニー・キャニオンは、録音録画ディスク、テープ、フィルム等の販売を主たる目的とする株式会社である。
2 本件映画の著作権
 ディズニー社は、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」(以下「ベルヌ条約」という。)により、本件映画について我が国の著作権法による保護を受けることができる。
3 本件ビデオカセットの輸入
 原告は、平成4年8月末に、アメリカ合衆国においてディズニー社の許諾を得て製作販売されていた本件ビデオカセットl000本を同国のパシフィック プログレス インク社から輸入し、これを日本国内において販売しようとしていた。
4 本件文書の配布
 被告ブェナ・ビスタは、並行輸入された映画のビデオカセットの販売が違法である旨の本件文書を披告ポニー・キャニオンの販売特約店等に配付した。
5 著作権者の許諾の有無
 原告は、本件ビデオカセットの日本における販売について本件映画の著作権者であるディズニー社の許諾を受けていない。
二 争 点
 アメリカ合衆国から並行輸入された本件映画のビデオカセットの販売行為は、ディズニー社の本件映画の著作権(頒布権)を侵害するものであるか。
三 争点に関する当事者の主張及び判断

1 原告

(一) 映画の頒布権は、上映権を実質的に保障する権利として認められるぺきであるから、映写して公衆に見せるものではない映画のビデオカセットについてまでこれを認めるべきではない。

(二) 著作権者は、アメリカ合衆国における著作権者の許諾の下での本件ビデオカセットの販売により、既に利益を得ており、本件ビデオカセットの日本国内における販売は、著作権者の利益を害することにはならず、著作権者の権利を侵害しない。

2 被告

(一)  右映画の著作物は、我が国の著作権法による保護を受ける。

 日本国著作権法は、映画の著作物について頒布権を認めているため、ベルヌ条約加盟国から並行輸入された映画のビデオカセットを我が国において販売するためには、当該映画の著作権者から日本における販売についての許諾を得る必要がある。
 したがって、原告が本件ビデオカセットをアメリカ合衆国から輸入してこれを日本において販売する行為は、著作権者から許諾を得ていない以上、著作権者の本件映画についての著作権(頒布権)を侵害するものである。
(二)  映画の著作物の頒布される国及び頒布の期間は、高い生産コストを要求される映画産業において、利益を回収する為に経済的に重要な意味をもっている。
 まだ劇場公開も行なわれていない国に映画のビデオカセットが並行輸入されることになると、映画産業全体に及ぽす影響は甚大であり、また、著作権者から許諾を得て対価を支払って適法に映画のビデオカセットを製造販売している業者に深刻な打撃を与える。

3.判断

一 映画の頒布権について
 ディズニー社が本件映画の複製物であるビデオカセット等について我が国において頒布権を有していることは明らかである。
 現在の著作権法が映画の著作物についてのみ著作者が頒布権を専有する旨規定した(26条1項)のは、映画特有の流通を確保し、著作権者である映画製作会社を保護することも目的としていたものと解される。
 しかし、著作権法は、2条l項20号において「頒布」について「有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与すること」と定義し、26条1項では、劇場用映画の特定の形態の頒布権のみを著作者に専有させるというような限定をしていないのであって、劇場用映画の複製であるビデオカセットを公衆に販売する行為も26条1項所定の頒布権の対象となることは明白であり、原告の、映画のビデオカセットに頒布権を認めるべき出端ないとの主張は採用できない。
二 並行輸入ビデオカセットの販売について
1  原告が著作権者の許諾を得ていない以上、原告の日本国における本件ビデオカセットの販売は著作権者の映画の著作権(頒布権)を侵害する。
2  著作権者が米国での本件ビデオカセットの販売によって利益を得ていることを理由としての、本件ビデオカセットの日本国内における販売が著作権(頒布権)侵害を構成しない旨の原告の主張について、当該行為が著作権(頒布権)侵害とならないとする明文の法令も、確立した判例もない。
 著作権法が各種の著作権を著作者が専有するものと定めたのは、著作者が相当な対価を得ることができるようにして著作者の権利の保護を図ろうとしたものである。
 ビデオカセットの、劇場未公開ないし公開中の国への大量の並行輸入は、当該国における映画の興行への打撃を与える結果となったり、著作権者に対価を支払ってビデオカセットを製造販売する者に対して損害を与える結果となる。
 映画の著作権者による各国における劇場公開時期、ビデオカセット販売時期等の調整の一環としての頒布権の行使は、著作権法が目的とした著作者の権利の保護の手段として予定されている。
 本件ビデオカセットは、アメリカ合衆国で著作権者の許諾を得て製造販売されたものであるから、同国著作権法109条(a)項あるいはファーストセールドクトリンの法理の適用により、同国の国内においてはその後の頒布、流通に制限はなかったものと解されるが、右許諾及び対価が日本国内での頒布を予測したものである証拠がない以上、並行輸入された本件ビデオカセットの頒布は、日本国内における頒布権を侵害する。
 上記解釈は、通商及び価格競争の制限、日本国内でその映画のビデオカセットに接することのできる時期の遅延、及び限定を一部もたらすことも予想されるが、著作権者の権利保護を図るあまり文化的所産の公正な利用に対する配慮を欠いたことになるとも、文化の発展に寄与しない結果を生ずるものとも解されない。
 したがって、右並行輸入品の日本国内における販売及び本件ビデオカセットの日本国内における販売は、著作権者が日本国内で有する頒布権を侵害する。
三  以上によれば、並行輸入・販売行為が違法である旨の文書の配布は、著作権者から許諾を得て国内において本件映画のビデオカセットを製造販売している者の行為として、何らの違法もなく、違法を前提とした原告の本訴請求は理由がない。

【私見】

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