(3)第三特許権(最終キャラクタ消去特許)
特許番号 第2799499号
発明の名称:版下デザイン装置
出願日:昭和63年7月9日 登録日:平成10年7月10日
特許請求の範囲請求項一(第三特許発明1)(各構成要件を分説し符号(A)〜をつける)
「(A)各キャラクタの作成時、キャラクタ種別データ、キャラクタ位置データ及びキャラクタ形態データでなるキャラクタデータを作成順序に応じてキャラクタ登録メモリ手段に登録すると共に、(B)登録キャラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより、当該カウント内容を最初に登録されたキャラクタから最後に登録されたキャラクタまでの有効登録キャラクタ数を表すデータとして保持させるキャラクタデータ作成手段と、(C)各キャラクタの消去時、上記登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより、上記最後に登録されたキャラクタについての上記キャラクタデータを有効登録範囲から除外し、(D)その結果当該最後に登録されたキャラクタのキャラクタデータを消去するキャラクタデータ消去手段と(E)を具えることを特徴とする版下デザイン装置」
特許請求の範囲請求項二(第三特許発明2)(各構成要件を分説し符号(a)〜をつける)
「(a)各キャラクタの作成時、キャラクタ種別データ、キャラクタ位置データ及びキャラクタ形態データでなるキャラクタデータを作成順序に応じてキャラクタ登録メモリ手段に登録すると共に、(b)登録キャラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより、当該カウント内容を最初に登録されたキャラクタから最後に登録されたキャラクタまでの有効登録キャラクタ数を表すデータとして保持させるキャラクタデータ作成手段と、(c)各キャラクタの消去時、上記最後に登録されたキャラクタについての上記表示手段の表示画面条の表示を消去する表示消去手段と、(d)各キャラクタの消去時、上記登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより、上記最後に登録されたキャラクタについての上記キャラクタデータを有効登録範囲から除外し、その結果当該最後に登録されたキャラクタのキャラクタデータを消去するキャラクタデータ消去手段と、(e)上記キャラクタ登録メモリ手段に登録されたすべてのキャラクタデータを表示手段の表示画面上に表示する再表示手段とを具える(f)ことを特徴とする版下デザイン装置」
[発明の概要]
本発明は、コンピュータを用いた版下デザイン装置において、作成したキャラクタデータを1つずつ消去できるようにしたことにより、消去後のデザインイメージとデザイナのデザイン意図との照合を細かくチェックでき、その結果、それまでに費やされたデザイン作業を有効に利用でき、デザインの作業効率を一段と高めることができる。
2.被告は、目録記載のイ号各物件を業として製造・販売している。
イ号物件一
MSオフィスに含まれるワードアートにおいて、キャラクタを楕円又は円軌道上に配列するためのプログラムを、コンパクトディスク(CD)盤上の所定のアドレス位置にピットの形態又はハードディスク(HD)上の所定のアドレス位置に磁化領域の形態で固定記録させた記録媒体
イ号物件二
MSオフィスに含まれるワードアートにおいて、キャラクタを重複描画するためのプログラムを、CD盤上の所定のアドレス位置にピットの形態又はHD上の所定のアドレス位置に磁化領域の形態で固定記録させた記録媒体
イ号物件二の一
右媒体のうち、指定した太さの実線縁取りキャラクタパターンを作成するアプリケーション・ソフトウエア・プログラム(APP)部分
イ号物件二の二
右媒体のうち、点線縁取りキャラクタパターンを作成するAPPの部分
イ号物件二の三
右媒体のうち、影付きキャラクタパターンを作成するAPPの部分
イ号物件三
MSオフィスにおいて、最後に登録されたキャラクタデータを消去するためのプログラムを、CD盤上の所定のアドレス位置にピットの形態又はHD上の所定のアドレス位置に磁化領域の形態で固定記録させた記録媒体
二.争点
イ号物件が第一特許発明ないし第三特許発明1,2の技術的範囲に属し、被告によるその製造・販売が本件各特許権を侵害するか。
- イ号物件1が、第一特許発明の構成要件@ないしFを充足するか。
- イ号物件2の1ないし3が、第2特許発明の構成要件(ア)ないし(カ)を充足するか。
- イ号物件3が、第3特許発明1の構成要件(A)ないし(E)を充足するか。
- イ号物件3が、第3特許発明2の構成要件(a)ないし(f)を充足するか。
三.当事者の主張
- 第1特許発明ないし第3特許発明1,2を通じた主張
- 原告の主張
(1)直接侵害の成立について
装置発明である第1、第3特許発明において、機能を構造的に表現した事項そのものが、イ号各物件のプログラムデータとして記録媒体に固定記録されており、イ号各物件は、装置発明であるこれらの発明を直接に侵害している。
方法の発明である第2特許発明において、機能相互間の関係を時系列に従った手段により特定した事項が、イ号各物件において、各機能を実行するプログラムを読み出しコマンドの順序に従って読み出すことができるように、記録媒体に固定記録されているから、イ号各物件は、方法の発明である第2特許発明の使用状態にあり、この特許発明を直接に侵害している。
(2)間接侵害の成立について
イ号各物件が記録されている記録媒体には、多数のアプリケーション・プログラム(AP)が記録されているが、一つのAPは、所定のデータ処理動作をするように予め決められており、イ号物件1、2の1ないし3、3のAPは、それぞれ第1、第2、第3特許発明にかかる発明の機能のみを実行しており、イ号物件1及び3は、特許法101条1号に、イ号物件2は、同条2号に該当する。
(侵害とみなす行為)
第百一条 次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ使用する物を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為
二 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その発明の実施にのみ使用する物を生産し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸入し、又はその譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為
(3)被告による不法行為のほう助
被告は、MSオフィスの一部であるエクセルおよびワードを、訴外各社が製造・販売するコンピュータにプレインストールして販売させており、当該各コンピュータが被告製品のAPと一体となって本件特許権を侵害している。また、MSオフィスは、業務上のAPとして製造・販売され、購入者はこれらをインストールして使用し、本件各特許を侵害している。被告のプレインストールのための製造・販売及び業務用の製造・販売は、原告特許権の侵害をほう助するものである。
(4)損害について
本件各発明の実施料率は、売上高の5%が相当であり、第1及び第2特許権につきそれぞれ年7500万円、第3特許権につき、年1億円の割合による損害賠償金の支払義務がある。各々設定登録日から訴状提出日平成11年1月22日までの期間の損害額を合計した金額を損害賠償額として請求する。
(二)被告の主張
(1)イ号各物件と本件各発明との根本的相違点について
被告製品であるワード及びワードアートは、「文書処理」のためのソフトウエアであり、それを組み込んだコンピュータは、「文書処理装置」であり、また、それにより自治現される方法は、「文書処理方法」であって、「版下処理装置」、「版下デザインデータ作成方法」ではない。イ号各物件は、スポーツシャツなどの模様をデザインする際に用いられることは、最初から予定されておらず、本件特許権を侵害しない。
(2)間接侵害の不成立について
イ号各物件は、「その物の生産にのみ使用する物」でも、「その発明の実施にのみ使用する物」でもないので、間接侵害を構成しない。
イ号各物件は、「プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体」であり、特許法101条1号にいう「物」とは有体物が予定されており、原告主張のようにプログラムの中の特定機能に関する部分を間接侵害の「物」と捉えることはできない。また、「物」とは、実際に取引対象となる「一個の物」をいう。「のみ」の要件が付されているのは、特許発明の実施とは無関係な用途をも有する「物」を差止対象とすることが、特許権の効力を不当に拡張する物であり、許されないからである。間接侵害における「物」とは、差止対象となる「物」と一致しなければならず、被告が現実に製造・販売等し、実際に取引対象として流通している「一個の物」を意味する。被告が現実に製造・販売し、実際に取引対象として流通しているのは「記録媒体」であり、間接侵害の適用も「記録媒体」と考えるべきである。原告は、被告の「記録媒体」に記録されたプログラム中特定機能に関する部分をイ号物件と捉え、間接侵害の適用を主張するのは、主張自体失当である。
(3)原告の主張について
原告はイ号物件を特定し得ておらず、作用・効果との具体的な対比をなしえていない。
(4)被告製品がハードウエアを含まないことについて
第1特許発明及び第3特許発明1,2は、「装置」に関するものであり、クレーム中の「〜する手段」の少なくとも一つは特定のハードウエア資源を含むことは明らかであり、記録媒体に格納された被告のワード97自体は、「手段」に相当するハードウエア資源を具備しないので、第1及び第3特許発明の構成を満たさない。
2.第1特許発明について
(一)原告の主張
・イ号物件一は、第一特許発明の構成要件@〜Eを充足する。
・構成要件Fについて、イ号物件一は、第1特許発明のすべての構成要件を充足するデザインデータの処理機能を持っており、第一特許発明と同一の機能を実行するための実行命令を汎用PC又はその周辺機器に与えるプログラムを含んでいる。
(二)被告の主張
・イ号物件一は、第一特許発明の構成要件A、Bを充足しない。
・構成要件Fについて、記録媒体自体の生産、譲渡等を行っても、装置の特許発明を実施することにはならない。
3.第2特許発明について
(一)イ号物件二の一(指定した太さの実線縁取りキャラクタパターン)について
(1) 原告の主張
・イ号物件二の一の機能は、第2特許発明の構成要件(ア)〜(オ)を充足する。
・構成要件(カ)について、イ号物件二の一は、第2特許発明のすべての構成要件を充足するデザインデータの処理機能を持っており、第2特許発明と同一の機能を実行するための実行命令を汎用PC又はその周辺機器に与えるプログラムを含んでいる。
(2)被告の主張
・イ号物件二の一は、構成要件(ア)〜(オ)をいずれも充足しない。
・構成要件(カ)について、一般に、発明に係る方法を、コンピュータ上で実現するためのプログラムは、コンピュータにインストールされる前のそれを記録した記録媒体自体では、方法の発明を使用することにはならず、記録媒体自体の生産、譲渡等を行っても、方法の特許発明を実施することにはならない。
(二)イ号物件二の二(点線縁取りキャラクタパターン)について
(1)原告の主張
・イ号物件二の二の処理機能は、は、構成要件(ア)〜(オ)を充足する。
・構成要件(カ)については、イ号物件二の一と同様。
(2)被告の主張
・イ号物件二の二においては、第2特許発明の構成要件(イ)及び(ウ)に相当する処理を行っていない。
(三)イ号物件二の三(影付きキャラクタパターンについて)
(1)原告の主張
・イ号物件二の一の機能は、第2特許発明の構成要件(ア)〜(オ)を充足する。
・構成要件(カ)については、イ号物件二の一と同様。
(2)被告の主張
・イ号物件二の三において、第2特許発明の構成要件(ウ)に相当する処理を行っていない。
4.第3特許発明1について
(1) 原告の主張
・イ号物件三の機能は、第3特許発明1の構成要件(A)〜(D)を充足する。
・構成要件(E)については、イ号物件二の一と同様。
(2)被告の主張
・イ号物件三は、第3特許発明の構成要件(A)〜(D)を欠く。
・構成要件Eについて、記録媒体自体の生産、譲渡等を行っても、装置の特許発明を実施することにはならない。
5.第3特許発明2について
(1) 原告の主張
・イ号物件三は、第3特許発明2の構成要件(A)〜(F)を充足する。
(2)被告の主張
・4.(2)と同様。
四.裁判所の判断
一 第1特許発明−イ号物件一
1 第1特許発明
〈認定事実〉
・スポーツシャツなどの布地に、文字、数字、記号、図形などのデザイン要素(これをキャラクタと呼ぶ。)をプリントするための版下デザイン装置の発明であること、
・このキャラクタを弓型に配列すべきとき、楕円の描画始点(第一点)P1、同終点(第二点)P2、弓型配列の高さを表す点(第三点)P3の3点を入力し、第一点から第三点を通って第二点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡上にキャラクタ列の各キャラクタを割り付けるとともに、当該割り付けられた各キャラクタの大きさ及び回転角を決定する手段を有していること
・これに加えて、キャラクタ列の割り付けられた1つのキャラクタと次のキャラクタとの関係で、間隔を変更するか否かを判断する手段と、間隔を変更する必要があるとの判断結果が得られたときは、次のキャラクタを所定量だけ移動させる手段とを有していること
・同特許発明においては、楕円を描くのに、前記楕円の描画始点P1、同終点P2、弓型配列の高さを表す点P3の三点を入力し、第一点から第三点を通って第二点に至るまでの円形又は楕円形の一部を表すキャラクタ配列軌跡を演算し、これによって楕円弧を決定していること
2 イ号物件一
〈認定事実〉
・表計算ソフトであるマイクロソフトエクセルなど複数のソフトと共に、マイクロソフトオフィスという名称で、一枚のCDーROM盤に組み込まれて製造・販売されていること
・このワード中には、「ワードアート」という文字の修飾をする機能が組み込まれていること
・この機能によれば、キャラクタを弓型に配列することもできること
・このイ号物件一においては、図2のように、8つのサイズ変更ハンドル(図中の第aないし第c点及び第eないし第h点)並びに1つの調整ハンドル(図中の第d点)によって弓型配列を調整するという方法により楕円弧を決定していること
・サイズ変更ハンドルは楕円の大きさを変えるものであり、調整ハンドルはキャラクタを楕円の中でどの範囲に配置するかを決定するものであること
3 両者は一見してその入力方法を異にする。
イ号物件一は、8つのサイズ変更ハンドルの位置を変化させることにより文字配列の軌跡が変化し、また、1つの調整ハンドルを操作することにより文字の配列される範囲が変化するから、
- サイズ変更ハンドルで制御点を入力して楕円形の軌跡を演算し、
- 調整ハンドルで楕円形の中心角を入力して楕円形の軌跡上の文字配列の範囲を演算していると考えられる。
したがって、イ号物件一は、第1特許発明のように弓型文字配列の描画始点を表す第1点、描画終点を示す第2点及び高さを表す第三点という三点のデータを入力し、右三点の入力データを用いてキャラクタ配列軌跡を演算する構成とは異なるから、第1特許発明の構成要件A及びBを充足しないものと考えられる。
〈原告の主張に対する判断〉
この点につき、原告は、イ号物件一においては、入力方法こそ異なるが、第1特許発明と同様、サイズ変更ハンドルは当該文字列の描画開始点である第一点と描画終了点である第二点と弓型文字列の湾曲の高さを指定する第三点を指定するデータを入力する機能を有すると主張するが、立証されていない(第1特許発明は、スポーツシャツなどに弓型にキャラクタを印刷することをその目的とするという発明の性質上、弓型に配列したキャラクタを指定した位置に印刷することを重視するため、前記のような入力及び決定の仕方になっているものと推認されるのに対し、イ号物件一は、汎用のワードプロセッサなどのソフトウェアであって、第1特許発明とはその用途を異にするものであることから、位置の指定等を重視しているものではないと考えられ、このような第1特許発明とイ号物件一の目的・用途の違いから考えても、原告の主張するようにイ号物件一が第1特許発明と同じ演算機能を備えているとは考えにくい。)。
右によれば、イ号物件一が第1特許発明の構成要件A及びBを充足するとは認められないから、イ号物件が第1特許発明を侵害しているということはできない。
二 第2特許発明
1 第2特許発明−イ号物件二の一
第2特許発明
〈認定事実〉
・多重文字(縁取り文字)を描くのに、もとのキャラクタに対し、その内側又は外側にキャラクタの原点を決めて、その部分から一定の幅比率を求めてそれをもとのキャラクタに乗じて内側又は外側の線を描画することによって描くという方法を採っていること
被告のイ号物件二の一
〈認定事実〉
・同様なキャラクタを描くのに、もとのキャラクタの外側の枠の太さを決定し、それをもとのキャラクタの輪郭として描画するという方法を採っていること
・両者は一見してその入力方法を異にする。
〈原告の主張に対する判断〉
原告は、イ号物件二の一において第2特許発明が実施されているとして、「ワードアートギャラリー画面の『文字色白の縁取り文字』を選択し、文字(例えば『T』)を入力した後、『ワードアート書式設定画面』で『実線』及び『太さ』を指定入力すると、文字色白の縁取り文字の縁取り線上に太い実線が描画されるのは、イ号物件二の一において第2特許発明が実施されていることを示している」旨を主張するが、この画面表示からは、ワードアートギャラリーの「文字色白の縁取り文字」において、「第1のキャラクタ幅と第2のキャラクタ幅との幅比率を求めていること」、「第1のキャラクタパターンを構成する表示点の位置を示すキャラクタデータに幅比率を乗算することにより第2のデザインデータを求めていること」、「第2のキャラクタパターンの原点を表す第2の原点データを求めていること」は、必ずしも明らかではない。
また、ペン先が丸く一定の直径を有するペンでデザインデータにより特定される表示点をたどっていき、一定の太さで縁取りを描画する方法(Display Postscript)が遅くとも昭和六三年には公知であったこと、すなわち、ワード97の発売時には第2特許発明以外の「文字色白の縁取り文字」の描画方法が公知であったことが認められる。
したがって、本件では、イ号物件二の一において、「第1のキャラクタ幅と第2のキャラクタ幅との幅比率を求めていること」、「第1のキャラクタパターンを構成する表示点の位置を示すキャラクタデータに幅比率を乗算することにより第2のデザインデータを求めていること」、「第2のキャラクタパターンの原点を表す第2の原点データを求めていること」を、認めるに足りない。
右のとおり、イ号物件二の一が第2特許発明の構成要件(ア)ないし(オ)を充足するとは認められないから、イ号物件二の一が第2特許権を侵害しているということはできない。
2 第2特許発明−イ号物件二の二
第2特許発明
〈認定事実〉
・破線の縁取り文字を描くのも、前同様に、もとのキャラクタに対し、その内側又は外側にキャラクタの原点を決めて、その部分から一定の幅比率を求めて(その幅が縁となる。)、それをもとのキャラクタに乗じて内側又は外側の文字を描画するという方法を採っていること
被告のイ号物件二の二
〈認定事実〉
・もとのキャラクタの外側の縁の太さを決定し、それをもとのキャラクタの輪郭として描画するという方法を採っていること
両者は一見してその入力方法を異にする。
〈原告の主張に対する判断〉
原告は、イ号物件二の二において第2特許発明が実施されているとして、「ワードアートギャラリー画面の『文字色白の縁取り文字』を選択し、文字(例えば『T』)を入力した後、『ワードアート書式設定画面』で塗りつぶし・色を『赤』に、線を『点線』『黒』に設定すると、赤文字の縁に黒い点線が描画されるのは、イ号物件二の二において第2特許発明が実施されていることを示している」旨を主張するが、この画面表示からは、ワードアートギャラリーの「縁取り文字」において、「第1のキャラクタ幅と第2のキャラクタ幅との幅比率を求めていること」、「第1のキャラクタパターンを構成する表示点の位置を示すキャラクタデータに幅比率を乗算することにより第2のデザインデータを求めていること」は、必ずしも明らかではない。
イ号物件二の二の「文字色赤の縁なし文字」と「黒い点線の縁取り」とは、幅比率「一」であるから、幅比率を求めなくても、また、幅比率を乗算しなくても第2のデザインデータを得ることができると考えられる。
また、前記の公知技術(Display Postscript)によっても、線幅が太い点線を描画することができると考えられる。
したがって、本件では、イ号物件二の二において、「第1のキャラクタ幅と第2のキャラクタ幅との幅比率を求めていること」、「第1のキャラクタパターンを構成する表示点の位置を示すキャラクタデータに幅比率を乗算することにより第2のデザインデータを求めていること」を、認めるに足りない。
右のとおり、イ号物件二の二が第2特許発明の構成要件(ア)ないし(オ)を充足するとは認められないから、イ号物件二の二が第2特許権を侵害しているということはできない。
3 第2特許発明−イ号物件二の三
第2特許発明
〈認定事実〉
・影付き文字を描くのも、前同様に、もとのキャラクタに対し、その内側又は外側にキャラクタの原点を決めて、その部分から一定の幅比率を求めて、それをもとのキャラクタに乗じて文字の内側又は外側に影を描画するという方法を採っていること
被告のイ号物件二の三
〈認定事実〉
・もとの文字の外側等に影を描画するには、影のサイズ及び位置は予め何種類かに設定されており、その中から選択した影を文字の背後等に付加するという方法を採っていること/P>
両者は一見してその入力方法を異にする。
〈原告の主張に対する判断〉
原告は、イ号物件二の三において第2特許発明が実施されているとして、「ワードアートギャラリー画面の『文字色白の縁取り文字』を選択し、文字(例えば『T』)を入力して、『ワードアート書式設定画面』で塗りつぶし・色を『赤』に、線・色を『線なし』に設定すると、縁取りを持たない赤文字が描画され、次に、『影指定』アイコンを選択すると、縁取りなしの赤文字に灰色の影が描画されるのは、イ号物件二の三において第2特許発明が実施されていることを示している」旨を主張するが、この画面表示からは、ワードアートギャラリーの「縁取り文字」において、「第1のキャラクタパターンの内側又は外側に所定の変化幅だけ離間した位置を指定すること」、「第1のキャラクタ幅と第2のキャラクタ幅との幅比率を求めていること」、「第1のキャラクタパターンを構成する表示点の位置を示すキャラクタデータに幅比率を乗算することにより第2のデザインデータを求めていること」は、必ずしも明らかではない。
したがって、本件では、イ号物件二の三において、「第1のキャラクタパターンの内側又は外側に所定の変化幅だけ離間した位置を指定すること」、「第1のキャラクタ幅と第2のキャラクタ幅との幅比率を求めていること」、「第1のキャラクタパターンを構成する表示点の位置を示すキャラクタデータに幅比率を乗算することにより第2のデザインデータを求めていること」を、認めるに足りない。
右のとおり、イ号物件二の三が第2特許発明の構成要件(ア)ないし(オ)を充足するとは認められないから、イ号物件二の三が第2特許権を侵害しているということはできない。
三 第3特許発明−イ号物件三
1 第3特許発明1、2
〈認定事実〉
・各キャラクタの作成時、キャラクタ種別データ、キャラクタ位置データ及びキャラクタ形態データでなるキャラクタデータMOJI1〜を作成順序に応じてキャラクタ登録メモリ手段に登録するとともに、登録キャラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより、当該カウント内容を最初に登録されたキャラクタMOJI1から最後に登録されたキャラクタまでの有効登録キャラクタ数を表すデータとして保持させるキャラクタデータ作成手段と、各キャラクタの消去時、上記登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより、上記最後に登録されたキャラクタについての上記キャラクタデータを有効登録範囲から除外し、その結果当該最後に登録されたキャラクタのキャラクタデータを消去するキャラクタデータ消去手段とを設けてあること
・
メモリにおいては、1つの文字情報(MOJI1〜)の中に、キャラクタ種別データ、キャラクタ位置データ及びキャラクタ形態データがそれぞれキャラクタごとに入っており、例えばそのキャラクタの大きさ等を決めるコマンドまで一緒に入っているものであること
したがって、キャラクタを消去する際はその1つのキャラクタごとに消去される(文字消去)ものと認められる。
2 イ号物件三
〈原告の主張に対する判断〉
コンピュータソフトにおけるいわゆるUNDO機能で、いったん行った操作を取り消す機能であるところ、
イ号物件三が、原告主張のように、
各キャラクタの作成時、キャラクタ種別データ、キャラクタ位置データ及びキャラクタ形態データでなるキャラクタデータMOJI1〜を作成順序に応じてキャラクタ登録メモリ手段に登録していること
登録キャラクタカウント手段を有していること
は、いずれも認めるに足りない。
例えば、MSワードにおいて、[標準]ツールバーの(元に戻す)の右側にある下向き矢印をクリックすると、元に戻すことができる操作が一覧表示されるが、ここには、文字の入力だけでなく、文書編集にかかわる種々の操作、例えば罫線の作成、文字の消去、コピー等の操作を含む「操作履歴のデータ」が登録されている。原告は、登録・消去処理をする際には、操作に関するデータとこれに応じて処理されるキャラクタデータとが、一対一の関係を維持するように処理することが必要で、この条件はイ号物件三においても保持されていると主張するが、イ号物件三において、「操作履歴のデータ」が「キャラクタデータ」を有することは何ら立証されていない。
また、原告は、一回のデータで複数のキャラクタが登録される場合(例えば「AAAAA」「BBBBB」)には、登録されたキャラクタ群単位で、登録・消去処理がされると主張すが、一回の操作で複数のキャラクタが登録される場合に、キャラクタ種別データ、キャラクタ位置データ及びキャラクタ形態データが具体的にどのようになるかは明らかでなく、キャラクタ群単位で登録あるいは消去されることは、立証されていない。
右のとおり、イ号物件三が、第3特許発明1の構成要件(A)、(B)、第3特許発明2の構成要件(a)、(b)を充足するとは認められないから、イ号物件三が第3特許権を侵害しているということはできない。
四 直接侵害又は間接侵害に当たるか
1 直接侵害
イ号各物件については、第1特許発明ないし第3特許発明1、2の各構成要件を充足すると認めるに足りないから、第1特許権ないし第3特許権を侵害するということはできない。
2 間接侵害
原告の第1特許発明及び第3特許発明1、2は版下デザイン装置、また第2特許発明は版下デザイン方法であるのに対して、イ号各物件は、文書処理のための汎用プログラムを固定記録させた記録媒体の一部であって、
これを組み込んだパソコン等の機器は、汎用文書処理装置であって「版下デザイン装置」ではなく、
また、右機器により実現される方法は「汎用文書処理方法」であって、「版下デザイン作成方法」ではない。
したがって、イ号各物件は、第1特許発明及び第3特許発明1、2との関係では特許法101条1号にいう「その物の生産にのみ使用する物」ではなく、
第2特許発明との関係では、同条2号にいう「その発明の実施にのみ使用する物」ではないから、間接侵害を構成するものでもない。
以上
コメント
記録媒体の特許が認められなかった当時、装置クレームに基づいて、インストールで当該装置を実現する記録媒体の製造者・販売者に対して権利行使できるかという問題について、判断された判決であり、傍論で間接侵害についても述べられている。記録媒体の製造販売が装置クレームの特許権の実施行為に含まれるかについては、構成要件該当性を否定しており、判断がされていない。原告によるイ号物件の機能の証明が不十分であるとして認められなかったが、解析のためのリバースエンジニアリングは、著作権の問題もあり、機能を証明するのは現実問題として難しいのではないか。
記録媒体の製造者・販売者の直接侵害・間接侵害を否定すると、装置クレームの特許権者は権利行使が不可能にならないか。本件で、パソコン等の機器がクレーム記載の「版下デザイン装置」であった場合、間接侵害が肯定されることになるだろうか。
記録媒体のみならず、ソフトウエアそのものも特許が認められるようになった今なら、判決が変わったか、もっとも、特許を出願する側も、今なら記録媒体もしくはソフトウエアとして特許出願するはずであり、装置クレームで記録媒体の製造、販売を差し止められるかという点が問題になることはあまりなくなるだろう。
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