SOFTIC YWG

2000年8月2日


LESLIE A.KELLY, et al. Plaintiff他
対 ARRIBA SOFT CORP.,et al. Defendants. 他



三木・吉田法律特許事務所
井口 加奈子
富士通エフ・アイ・ピー(株)
山根 慶子




部分的略式判決を求める交差申立てに関する決定



裁判所 連邦地方裁判所 カリフォルニア州中央地区 南部支所
日時 1999年12月
訴訟当事者
原告 LESLIE A. KELLY(写真家) 他
被告 Ditto (旧名ARRIBA SOFT CORP) 他


<目次>
一、概要
二、事実、背景
三、原告の主張
四、争点
五、裁判所の判断
六、検討
七、YWGでの議論



一、概要


他人が著作権を有する映像(image)をインターネットのサーチエンジンで使用するため複製する行為が、フェアユースの法理によって正当化されるとした事例。


二、事実、背景


(1)被告のDittoは「視覚サーチエンジン」("visual search engine")を運営している。(http://www.ditto.com)
このサーチエンジンは、「Arriba Vista 映像 サーチャー」("Arriba Vista Image Searcher")と呼ばれ、ユーザが入力する検索条件に応じて、関連するウェブコンテンツのリストを提供するもので、そのコンテンツの映像を「サムネイル(thumnail)」 の形で検出させる点に特徴がある。

(2)サムネイルをクリックすると、「映像の属性(attributes)」ウィンドウを見ることができ、そのウィンドウは普通サイズの映像、そのサイズの記述、もとになる原ウェブサイトのアドレスが表示される。

(3)そのアドレスをクリックすると、ユーザは原ウェブサイト(originating Web site)にリンクしてコンテンツを見る ことができる。(もっとも、現在のサーチエンジンditto.comでは、ユーザがサムネイルをクリックすると同時
に2つのウィンドウが開き、1つのウィンドウには普通サイズの映像が現れ、もう1つには原ウェブサイト全体
が現れる。)

(4)Dittoのサーチエンジンは、およそ200万のサムネイル映像から整理したデータベースの索引によって稼働 している。
Dittoでは、コンピュータ・プログラムである「クローラ(crawler)」の操作により ウェブサイトからサムネイル映 像に変換して索引に追加されるべき映像を探し出す。これらの映像は、被告のサーバに蓄えられ、従業員が ふるいわけをして最終的なスクリーニングを行った後、不適切な映像は削除される。

(5)原告kellyは写真家で、カリフォルニア州のゴールドラッシュ地方の写真を専門とし、2つのウェブサイトをも つ。一つは、カリフォルニア州のゴールドラッシュ「バーチャル旅行」を提供し、その主題についての原告の著書の販売促進をしている。もう一方のサイトでは、ゴールドラッシュ地方の集合 的別荘地を売り出している。

(6)1999年1月、原告の35の映像が被告のクローラによって索引をつけられ、被告のデータベースに複製さ れて取り入れられ、サムネイルとしてサーチエンジンのユーザが利用できるようになった。

(7)原告の異議通知により被告は一度データベースから削除したが、技術的問題からすべての映像を完全に 削除できなかった。

(8)原告は、自己の映像に対する著作権が被告の行為によって侵害されたと主張し提訴した。

このページのトップへ

三、原告の主張

・ 原告の映像に対する著作権侵害。
・ 原告の映像に関係のある著作権管理情報を除去または変更することによってデジタルミレニアム著作権法 (DMCA)に違反した。


四、争点


1.原告の著作権ある映像を複製し、「視覚サーチエンジン」で表示することは、フェアユースに当たるか。
2.著作権管理情報を付さずに原告の映像を表示することは、デジタルミレニアム著作権法に違反するか。


五、裁判所の判断

1. 前提

事実に争いがなく、法律問題として勝訴判決を受ける権利がある場合に略式判決が適正となる。
重要な沿革的事実に争いがない場合、「フェアユース」についての判断は陪審でなく裁判所が行うべき。

2. フェアユースについて

*フェアユースは、「著作権のある著作物を複製物の形で複製する」著作権者の排他的権利に対する制限
(17 U SC 106条(1)。107条)であり、批評、論評、報道、教育(教室における使用のための多数の複製を含む)、研究または調査を目的とする場合に認められる。
・フェアユースか否かを検討する要素
(1) 使用の目的および性格
(使用が商業性を有するかどうか、それとも非営利の教育を目的とするかどうかなど)
(2) 著作権のある著作物の性質
(3) 著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性
(4) 著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響

・フェアユースは積極的抗弁であって、被告はその争点に関する立証責任を負う。

(1)使用の目的および性質(商業的使用か教育的使用か)

<判断基準>
被告による原告著作物の使用の性格は、商業的か教育的か。すなわち、新しい作品が原創作物の対象にとって代わるだけか、それとも新しいものを加え、更なる目的または異なる性格を付加して新しい表現、意味、またはメッセージをもって原創作物を変更するかどうか。換言すれば、新しい作品が変容的であるか、かつどの程度まで変容的であるか。新しい作品が変容的であればあるほど、フェアユースの認定に否定的な要素(商業性等)の重要性は減少する。

<裁判所の判断>
1) 被告のウェブサイトは商業的目的を有している(争いなし)が、原告の映像が商業性の重要な要素を構成するものではないし、特殊な方法で利用されているわけでもない。商業的使用のうちでも偶発的で利用的性質がより少ない。
・一般的無差別な映像収集方法の結果としての複製。
・被告はむしろ、サーチエンジンのユーザにより完全な結果を提供できるように、包括的なサムネイルの索引の開発に商業的関心を有している。

2) 被告の映像使用は、変容的である。
・被告の映像の使用の用途は、原告の芸術的著作物としての使用とは異なり、映像をカタログ化し、それへのアクセスを向上させるものである。
・サムネイル索引の性質は美的なものでなく機能的なもの。
・目的は芸術的でなく包括的。

3) 映像属性ページについては、サーチエンジンの変容性を幾分減殺する。
・ユーザが原ウェブページの他の部分を見ることなく普通サイズの映像を見ることが可能(かつダウンロードする可能性がある)。
・映像属性ページはサーチエンジンのコンテンツを発見し組み立てるという目的に明瞭に結びつかない。
しかし、新しい企画における使用の目的と性格を考慮するときには、初期の不完全な手段より変容的目的を考慮する方が適切である。

4) 被告の使用の目的および性質は、全体として顕著に変容的である。

<結論>
第1の要因はフェアユースに有利に傾く。
このページのトップへ

(2) 著作物の性質

<判断基準>
著作物によっては、他のものに比して著作権保護の核心により近いものがあり、その結果、当該著作物が複製された時に、フェアユースはもっと立証困難になる。

<裁判所の判断>
原告の写真のような芸術的作品は、この核心の一部を構成する。

<結論>
第2の要因はフェアユースに不利に傾く。


(3) 使用された部分の量及び実質性

<判断基準>
複製された量は「複製行為の目的との関係で合理的」であったかどうか。複製行為が許される限度は、使用の目的と性格(第1要因)によって異なる。

<裁判所の判断>
サムネイル索引だけであれば、被告の複製行為は合理的なものである蓋然性があるが、映像属性ページはサーチエンジンの目的との関連性が薄い。
・ 被告は、サムネイル索引の中で、原告の映像の全体を複製して使っているが縮小しているおり、サムネイルは使用できる映像にまで拡大できない。
・ 被告の主張によれば、縮小と分解は、複製行為による損害を軽減する。
・ 部分的またはより縮小した映像の使用では、ユーザが映像を識別することが困難になり、視覚サーチエンジンの目的、有用性を減殺する。
・ Arriba Vista映像属性ページは、その原ウェブページの周辺コンテンツから切り離された普通サイズ映像を表示するが、映像の属性を表示するのに普通サイズである必要はないし、サーチエンジンの主たる目的を達成するために普通サイズで表示する必要もなかった。

<結論>
第3の要因はフェアユースに僅かに不利に傾く。


(4)使用が潜在的市場または価値に及ぼす影響

<判断基準>
被告の使用の直接的影響を検討し、同時に、被告による無制限で広範なこの種の行為が原著作物の売れ行き見込みに及ぼす実質的に不利な影響となるかを考察する。
さらに、写真の価値も検討すべき。なぜなら、写真の価値は、販売促進目的が害されるならば不利な影響を受けるおそれがあるからである。

<裁判所の判断>
1)関連ある市場は、原告のウェブサイト全体。写真は、原告の製品を販売促進し、客寄せをしてウェブサイ
トに掲載されている他の広告を見せるために用いられている。
2)被告は、被告のサーチエンジンは、むしろ原告サイトへアクセスするユーザ数を増加させると主張する。
3)原告は、被告の行為により、ユーザの不正な複製使用を誘発し、また、ディープリンクにより原ウェブ
サイトの第一面を回避させる結果、ユーザが原告のウェブサイト上の広告を見たり販売促進のメッセージ
を見る機会を減少させ、原告のさまざまな製品の売れ行きが害されたと主張するが、これを裏付ける証拠 はない。
4)被告は、売れ行きの損害がなかったことを立証する傾向のある証拠を提出して立証責任を果たしたが、
原告はその証拠を打ち砕かなかった。
  
<結論>
第4の要因はフェアユースに有利に傾く。


(5)フェアユースの結論
フェアユースの4つの要因のうち、第1と第4の要因は公正使用の認定に有利に、第2と第3の要因は不利に傾く。
フェアユースの第1の要因は、本件には最も重要である。
・被告は原告の著作物を自分のものと主張したことはなく、特定的に原告の著作物を直接目標とした行為を行っていない。
・被告のサーチエンジンで原告の画像は、200万の他の映像と一緒に、ユーザにインターネット上のサイト を探し出すより良い方法を提供しようとする被告の努力の中で一掃(swept)された。
・被告の目的は本来的に変容的であり、現在もそうである。
・新しい使用と新しい技術が発展中であるときは、広く変容的な使用の目的は、発展の初段階での避け難 い欠陥(複製が生じること)よりもっと重要視される。

<結論>
107条の要因を総合的に衡量した結果、被告の行為は原告の映像のフェアユースを構成すると認定する。
被告の略式判決は妥当である。
著作権侵害請求についての被告の申立てを認め、原告の申立てを棄却する。

このページのトップへ

3.デジタルミレニアム著作権法について


<原告の主張>
原告映像の周辺に記載されていた文章中の著作権管理情報を付さないで当該映像のサムネイルを表示することは、DMCA1202条(b)項に違反する。

<裁判所の判断>
1) 本件には、DMCA1202条(b)項(1)号の適用はない。
・原告の著作権管理情報は映像自体に現れていないので、Dittoのクローラが当該映像に索引を付けた 際に含まれなかったので、被告のウェブサイトにも現れなかった。
・原告は、Dittoクローラの付随的な効果ではなく、被告の行為には故意があったと立証していない。

2) 本件には、DMCA1202条(b)項(3)号の適用もない。
・原告は、被告が、サムネイルと普通サイズの映像で、著作権管理情報から切り離された原告著
作物の複製物をユーザに利用させたことを立証すべきである。
・被告は、ユーザに原告の著作権を侵害させることになると「知るべき合理的根拠」を有しない。
なぜなら、ユーザは、サムネイルを利用する際、サムネイルの原ウェブサイトの名前、著作権
管理情報を知ることができ、リンクする機会を与えられ、また、被告のウェブサイトは著作権
についての警告をユーザに与えていたからである。
・原告は、自己の映像がウェブサイトに表示されているので、著作権侵害を受けやすいというが、
これを裏付ける立証をしていない。

<結論>
被告の行為にDMCA1202条違反はなかったと認定する。
原告のDMCAの請求については略式判決が相当であり、被告の申立を認め、原告の申立を棄却する。


六、検討

(井口)
従来、サーチエンジンなどで他人のウェブページのURLを索引とすることは、著作権法上問題はないとされてきたが、映像で表示する行為については議論されてきた。この点について、本決定は緻密な衡量を重ねて結論づけたものとして重要な意義がある。
本決定の価値判断としては、サーチエンジンが、索引を付けられた原ウェブページのコンテンツ発見のためのものであることからすれば、映像の検出はURLの表示よりその目的達成のために有用といえ、評価しうる。
しかし、Arriba Vista映像属性ページについては、サーチエンジンの目的に対して必要かつ相当なものであったのかかなり疑問があったにもかかわらず、裁判所は、サーチエンジンにおける映像使用の目的を、技術の発展の初期段階における不可避的な欠陥よりも優先した。そもそも、裁判所のいうように不可避的な欠陥であったのかどうかも疑問であるが、何より、このような考え方が進めば、侵害行為があったとしても技術の発展のために権利者に侵害を甘受することを強いる結果とならないか懸念されるところである。


(山根)
1.フェアユースについて
本件では他人の著作物を複製してサムネイルの形でサーチエンジンに掲載する行為についてフェアユースが認められたが、この点については妥当な結論であると考える。
本裁判所では、複製による使用の目的が原告の従来の目的と比較して変容的であることを重視している。
確かに、サーチエンジンの目的は、原告の著作物の利用目的とは異なり、ウェブページでの検索目的である。しかも、サーチエンジンの重要性は増しており、映像で検索結果を分かりやすく並べることにより、原告のページへのアクセスを増やす結果になろう。
しかし、サムネイルとはいえ、映像内容を識別できる大きさであるため、検索の目的として更に拡大した映像の属性ページを設ける必要があったかは疑問である。現在のdittoのページでは、サムネイルをクリックするとすぐに元のウェブサイトへリンクするが、被告のサイト上で映像を拡大する行為はもはや公正使用の範囲内とはいえるのかは疑問である。
2.DMCA違反について
本判決では、被告が故意に権利管理情報を除去したケースではないと認定され、DMCA1202条(b)(1)は認められなかったが、妥当な判断であると思う。
なお、日本の著作権法においても、使用する際に技術上やむを得ず除去、改変が行われる場合は、著作権法違反とはいえないと考えられているため、クローラによる映像の収集、複製による権利管理情報の除去が避けられないものであれば、本判決と同様の判断となると思う。


七、YWGでの議論

・本件では、被告のどの行為が問題となっているのか。被告がデータベースを作成する際に原告のウェブ
サイトの映像を複製する行為が問題となっている。
・被告の新しい作品が変容的であればあるほどフェアユースは認められることになるというが、そうすると
翻案権との関係はどうなるのか。ここでいう変容的というのは複製と翻案のいずれにも対応するものなの か。
・商業的目的とは具体的にはどういうことをいうのか。例えば、原告の映像をサムネイルではなく、また被告の ウェブサイトを見る者が原告のウェブサイトに行くこともない形で取り込んで、その映像の周囲に被告の広告を付けるといった場合はどうか。その場合には商業的目的があるといえるのではないか。
・本件では、商業性は認めつつ、変容性を認定している。その変容性も、当該映像だけでなく、被告のウ
ェブサイト全体との関係で検討しており、従来から行われてきた1対1の比較ということからすれば特殊な
ものといえる。
・我が国で本件のような事案について判断する場合、引用など著作権の制限の中でフェアユースと同様の結論を導くとすると、著作権法50条があるので、著作者人格権がどうなるのかという問題を残すことになる
・本件の被告の行為は、日本法でいう「引用」にあたるのか。
・人格権の処理については、画質が落ちた(たとえば200kbitから100kbitに落ちたなど)というだけで同一性を害するかという問題もある。
・サムネイルではなく、テキストでのサーチエンジンの運営においても、データベース作成時における複製は問題となりうる。我が国においては、公衆送信権侵害の問題もある。
・我が国の改正著作権法における権利管理情報の表示の仕方については、名前を表示したり、権利の処理方法を表示したりする方法がある。
以 上

このページのトップへ

<注>

(1)サーチエンジン
サーチエンジンの運営方法としては、検索収集ロボット(プログラム)を使って自動的にウェブサイトを移動
し、自分のウェブサイトにデータベースを蓄積していくやり方と、専任のスタッフがホームページ情報を収集し て分類して検索用のデータベースを作り運営していくというやり方がある。本判決はクローラ(crawler)による ものであり、前者であると考えられる。

(2)サムネイル
画像ファイルや文書ファイルのデータを開いたときのイメージを小さく表示したもの。
デスクトップ上のファイルアイコン自体を内容に合わせて画像化したものもサムネイルと呼ぶ。
(「日経パソコン新語辞典2000年版」日経BP社より)

LINE

MAIL お問い合わせ・ご意見などはYWG運営委員会まで OTUTOSEI

BUTTON Young Working Group Report CONTENTS へ

BUTTON SOFTICホ−ムペ−ジ へ