LA
Times vs. Free Republic事件
三木・吉田法律特許事務所 井口加奈子
(株)内田洋行 北山尚美
YWG 2000年1月27日発表
裁判所 カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所No.CV98-7840-MMM(AJWx)
当事者 原告 Los
Angeles Times, The Washington Post Company
被告 Free
Republic, Electronic Orchard, Jim Robinson
関連法令 17U.S.C.§107、
Fed.R.Civ.P.56(c)、
First Amendment
キーワードフェアユース
I事実関係
II判決
III争点
IV判断
Vコメント
被告Jim
Robinsonは、残りの2被告Free
Republicと
Electronic Orchardの経営者である。
Free Republicはfreerepublic.comサイトを運営している。この被告サイトでは、登録会員はニュース記事とそれについての自分のコメントを載せることができ、他の登録会員、さらに自分のコメントを載せることができる。登録会員は約2万、被告サイトには1日あたり10万ヒットがあり、毎月2500万から5000万ページが見られている。
原告は、原告の出版物やウェブサイトの記事が被告サイトに逐語的にコピーされていることは、原告の著作権を侵害しているとして提訴した。被告は「原告のニュース記事を被告のウェブサイトにコピーすることは、フェアユースの理論により許されること」を認めるサマリ・ジャジメントを求めて申立てを行い、原告はこれに対し「フェアユースにあたらない」という部分的サマリ・ジャジメントを求める申立てを起した。
・重要な事実について真正な争点がなく、申立人が法律問題として勝訴判決を受ける権利があることを証明している場合、サマリ・ジャジメントは認められる。
・サマリ・ジャジメントの段階では、裁判所は信用性の判断も対立する証拠の衡量もせず、被申立人に有利に推定する。
・フェアユースは、法と事実の混合問題であり、本来サマリ・ジャジメントに馴染まないとも考えられるが、前提事実に争いがなく法的結論のみが問題となっている場合には、サマリ・ジャジメントによって紛争を解決することも可能である。
2 著作権侵害の要件
・著作権侵害の要件
(1)有効な著作権の保持
(2)著作物のオリジナルな要素の複製
1.被告が著作物にアクセスしたこと
2.著作物と被告の作品に実質的類似性があること
・当事者の申立てにおいては、本件で争われているニュース記事の「コピー行為」が著作権侵害であるかどうかについては、裁判所の判断が求められていない。
当事者は著作権侵害に対する抗弁の成否を問題にしているから、著作権侵害が証明できることを前提としているし、本件において争われているニュース記事の「コピー行為」のほとんどは、Free
Republicサイトの第三者ユーザーによるコピー行為であるから。
・原告がその記事のコピー行為に何らかの方法で同意をしたかどうかについても、決定はしない。
3 フェアユースの抗弁
107条で規定されているフェアユースの抗弁は、著作者の著作物を複製するという排他的権利を制限するもので、批評、論評、報道、教育(教室での使用のための多数のコピーを含む)、勉学または研究を目的とする場合に認められる。
フェアユースかどうかを判断するための検討要素
(1) 使用の目的および性格(商業的性質か非営利な教育目的のものか等)
(3) 著作物全体との関連における、使用された部分の量および実質性
・フェアユースは侵害クレームに対する積極的抗弁であるので、被告に立証責任がある。
・新作品が変形的であるほど、フェアユースの認定に不利に働く商業性などの他の要素の重要性は低くなる。
・新作品の目的が制定法に列挙されている批評、論評、報道、教育(教室での使用のための多数のコピーを含む)、勉学または研究にあたるかは一つの基準であるが、これらの範疇にないと公正と認められないわけではない。
・使用の目的が商業的か非営利かという基準があるが、著作物の商業的使用は必ずしも公正ではないと推定されるわけではない。
a Free
Republicの著作物はどれほど変形的か
・被告は原告のニュース記事を逐語的にコピーしたもの以外のものが投稿されていることを立証しないので、裁判所としては記事の全部または一部が逐語的にコピーされたことを、フェアユースの第1の要素の検討の前提にする。
・著作物の全体または部分が逐語的にコピーすることに、変形性はない。
・被告のサイトに原告のニュース記事を投稿する主要な目的は、登録ユーザーの議論、批評、コメントの便を図ることは明らかなようであるが、批評がからんでいるという事実だけで、第1の要素が被告に有利に傾くと自動的に認定されることはない。
b
Free Republicサイトの商業的性格
・
Free Republicが現在営利企業であることについては争いがない。
・被告はウェブサイトを運営することにより、寄付を募る等の様々な方法で収益を得ていると、裁判所は結論づける。
・原告の記事のコピーを投稿することは、本来原告サイトの利用は有料であるところ、被告サイトを利用することでこれを無料で利用し保管資料を見ることができる結果になるので、利用者を被告サイトへ引き付ける助けとなっており、このことが寄付を勧誘したり、被告のサイトの価値を高め、結果として経営を支援し、社会的信用を生み出す。
・裁判所は、Free
Republicの営利、非営利の地位に関係なく、被告による原告の著作物の使用は107条にいう商業的であると結論づける。
・逐語的なコピーが行われたこと
・使用にあたり最小限にしか変形されなかったこと
・コピーはコメントや批評を促すためのものであり、被告のウェブページは記事の使用により価値が高められること
・コピー行為が被告の経営への金銭的および非金銭的支援を生み出す助けとなったこと
以上のすべてを衡量して、本件におけるフェアユースの第1の要素は、被告に不利に傾くと認定する。
創作性の高い著作物ほど、コピーからより手厚く守られる。相関的に原告の著作物が情報的または機能的であるほど、フェアユースの抗弁の範囲はより広がる。
・フェアユースの第2の要素を、ニュースストーリーまたはニュースの出来事のビデオテープのコピー行為と主張されるものの事実関係の中で分析したいくつかの事件は、それが被告に有利と結論している。
・原告の記事には確かに表現的な要素が含まれているが、大部分は事実の報道なので、被告のフェアユースの主張は、もし著作物が純粋に創作的であった場合より強い。
本件において、被告におけるニュース記事の使用がフェアユースにあたるかの第2の要素は、被告に有利に傾くと認定する。
・被告は、原告の「著作物」は新聞全体であるので、個々の記事をコピーすることは著作物全体のほんの一部分の複製にすぎないと主張する。しかし、これは判例法により支持されない。
・フェアユースの第3の要素の評価に用いるべき基準は、コピーされた量がコピーの目的との関連で合理的であったかどうかということである。
・本件において被告は、全文のコピー行為が被告による原告の記事の使用に必須であることの立証責任を果たしていない。
本件において、被告におけるニュース記事の使用がフェアユースにあたるかの第3の要素は、被告に不利に傾くと認定する。
・本件において、Free
Republicウェブサイトは使用者にTimesやPostからの保管されたニュース記事を、両新聞社のウェブサイトでその記事にアクセスすれば徴収されたであろう料金を支払わないで、読むことができるようにしている。
・本件において、原告のウェブサイトの使用によって生ずる広告収入への影響には関係なく、新聞のニュース記事の全文がFree
Republicサイトで入手できることが、原著作物の需要を少なくともある程度まで満たし、原告のそれを売りまたはライセンスする能力を滅殺している。
記事が掲載される潜在的市場での不利な影響が証明されたので、第4の要素はフェアユースの認定に不利に傾く。
4 修正第1条の抗弁
修正第1条(AmendmentT)
Congress
shall make no law respecting an establishment of religion, or prohibiting
the free exercise thereof; or abridging the freedom of speech, or of the
press; or the right of the people peaceably to assemble, and to petition
the government for a redress of grievances.
・被告は修正第1条が、原告のニュース記事のコピーをFree
Republicウェブサイトに投稿する被告の能力を保護すると主張する。
・被告はニュース記事全体のコピー行為が、使用者の意見と批評を被告のサイトに運ぶために必須であったということを証明していない。
・著作権のあるニュース記事に対する原告の排他的権利を侵害できることを許さないからといって、被告やFree
Republicサイトのユーザの言論は決して制限されてはいない。
・被告はFree
Republicウェブサイトを運営しており、原告の著作権のあるニュース記事の逐語的コピーの投稿は第三者である被告サイトの登録ユーザによってなされている。今回のサマリ・ジャジメントの中では、被告に著作権侵害の責任を負わせるものであるかどうかは、判断するべき争点とはなっていない。この争点については、どのような判断がでるのであろうか。
・第1要因で検討されている商業性について、裁判所は、被告のウエブページに記事を掲載することで、利用者が、原告のウエブサイトを利用すれば徴収されるであろう料金を払わないで保管資料を見ることができるから、被告のページの価値が高まり、経営の支持を推進する、としてこれを認めている。しかし、このような考え方をつきつめていけば、主体の属性にかかわらず、有償で配付されている著作物を無償ないし本来の価格より安価に配付すればすべて商業的行為であると評価されかねず、この要件の存在意味が希薄になるのではないかと思われる。
・本件では、裁判所は、第3の要因である「著作物全体との関連で用いられた部分の量及び実質性」の判断の中で、「当裁判所は、ハイパーテキスト・リンクの効率に関する当事者の争いを解決する必要はなく、要約のような他の代案の評価をする必要もない。」としている。確かに、ここでの検討課題は、全文コピーが被告による原告記事の使用に不可欠であったのか、ということであるから、代替的手段の評価をしていくことは本筋からははずれることになろう。しかし、ある行為が特定の目的達成にとって不可欠であるということは、代替的手段がない、ということと密接に関係しているのであり、少なくとも価値判断の中では考慮されているのではないか。本件では、被告の侵害行為はウエブページ上で行われているが、原告らの記事にリンクさせることは許されており、ウエブサイト利用者がこれで容易に原告記事にアクセスできるという事情は(2週間で期限切れになるとしても)、印刷媒体で行われる場合などと比較して被告らを保護する必要は少ないという価値判断につながると考えられる。
東京高裁平成6年10月27日(判例時報1524号118頁)
著作権仮処分異議申立控訴事件
事案)
被控訴人は、米国において英字日刊新聞を発行している者であり、控訴人は、特定日付の被控訴人新聞の記事の全部又は一部の抄訳を日本語で作成し、同新聞とほぼ同じ順序で掲載した文書を作成、頒布している。控訴人の行為が同新聞についての編集著作権侵害であるとして、作成、頒布行為差止めの仮処分申立てが認容された。そこで、控訴人が異議を申し立て、原判決で認容されたので控訴したものである。控訴人は、予備的に公正利用(フェアユース)の主張を行っていた。
フェアユースに関する判断部分
「著作権法一条は、著作権法の目的につき、『これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。』と定め、同法三〇条以下には、それぞれの立法趣旨に基づく、著作権の制限に関する規定が設けられているところ、これらの規定から直ちに、わが国においても、一般的に公正利用(フェアユース)の法理が認められるとするのは相当でなく、著作権に対する公正利用の制限は、著作権者の利益と公共の必要性という、対立する利害の調整の上に成立するものであるから、これが適用されるためには、その要件が明確に規定されていることが必要であると解するのが相当であって、かかる規定の存しないわが国の法制下においては、一般的な公正利用の法理を認めることはできない。」
「なお、念のため付言するに、フェアユースに基づく著作権の制限を規定しているアメリカ合衆国著作権法一〇七条は、著作物の使用がフェアユースとなるかどうかを判断するについて、(1)使用の目的及び性格(使用が商業性を有するか非営利の教育的な目的であるかという点を含む)、(2)著作権のある著作物の性質、(3)著作物全体の関係における使用された部分の量及び重要性、(4)著作物の潜在的市場又は価値に対する使用の及ぼす影響、という要素を考慮すべきであると規定しているところ(疎乙第一二八号証の一)、控訴人は、右のような判断指針の適用を前提として、本件につき公正利用の法理が認められるべきであるとするのであるが、右のような指針に基づいて判断したとしても、控訴人文書の被控訴人新聞の利用が営利を目的とするものであることは否定できないこと控訴人文書は被控訴人新聞に比べると量的には非常に少ないものとなっているが、控訴人文書の各記述は被控訴人新聞の記事等により伝達しようとしている情報の核心的事項を表現しているものであって、単に被控訴人新聞の報道するニュースへのアクセスを可能にするといった程度のものではなく、控訴人文書によれば、特定の日付けの被控訴人新聞がどのような出来事を取り上げているかの概要を知ることができること、控訴人は、前記一項に認定のとおり、控訴人文書を講読すれば、わざわざ被控訴人新聞を講読しなくとも同新聞の掲載記事の内容が把握できるとも受け取れる宣伝広告をしていること、控訴人が、今後も引き続き控訴人文書を作成・頒布することにより、被控訴人新聞の購読者が控訴人文書の講読に切り替えたり、あるいは、被控訴人新聞の潜在的講読予定者が控訴人文書を講読したりすることが考えられることなどからすると、被控訴人新聞がニュース報道を主目的とした新聞であること、控訴人文書にもそれなりの有用性があることを考慮しても、控訴人文書が公正利用に当たるものということはできない。」
・本件の場合、フェアユースを認めてもよいのではないか(反対意見)。その場合の各要因については、次のように考えることができないか。
(1)の要因について
資本主義社会ではおよそ営利を目的としない団体は考えにくいのであるから、商業的であるか否かは、団体の行為自体から判断する。本件では、記事そのもので利益を得ているわけではないので、商業的とはいえず、被告に有利に傾く。
(2)の要因について
報道機関の報道の公共的性格、記事が事実的であることを考慮し、被告に有利に傾くというべき。
(3)の要因について
全文をコピーしなければ、ウェブサイトとして無意味になってしまう場合もあるから、中立もしくは被告に有利に考え得る。
(4)の要因について
他の手段による代替性がなく、批評目的がメインとなっていること、市場に影響を及ぼすとも考えにくいので、被告に有利に傾くといってよい。
・フェアユースの精神からすれば、本件のような事案では認めるべきではなかったか(反対意見)。
・裁判所で被告の立証がないと判断された事項について、被告がもっと立証活動を行っていれば、勝訴できたのではないか。
・実際に記事を投稿したユーザーの責任を追及すべきではないか。
・本件のような事案が日本で争われた場合、どのような判断になるのか。「本件のような場合、逐語的なコピーは引用として妥当か否か」が論点になると思われる。
・107条柱書の列挙事由と4つの要因との関係はどうなっているのか。例示列挙であり、列挙事由であるからといって、直ちにフェアユースが認められるわけでもないし、列挙事由にあたらないからといってフェアユースが否定されるわけでもないのではないか。
・107条の4つの要因がどのように判断された場合に、裁判所はフェアユースを認めるのか。各要因は要因であって要件でなく、各要因を検討した上で裁判所が考量して決定するものではないか。
・被告のウェブページで原告らの記事を見る人は、批評のために見るのか、それとも記事自体を見たいのか、そういった背景も考慮する必要があるのではないか。
・例えば、会社内で新聞記事をコピーして配付するような行為は、商業的といえるのか。
・(1)の要因に関し、変形的であれば被告に有利になるとすると、二次的著作物との関係はどうなるのか。
・二次的著作物についてもフェアユースの抗弁というのはありうるのか。