SOFTiC YWG 1999年2月4日開催
 発表担当: 沖電気工業株式会社 後藤功
同       小田達
 

MATTHEW BENDER & CO. v. WEST PUBLISHING CO.事件

1998年11月3日連邦第二巡回区控訴裁判所判決
事件番号 97-7430
原告・被控訴人      MATTHEW BENDER & COMPANY, INC.
原告側参加人・被控訴人      HYPERLAW, INC.
被告・控訴人     WEST PUBLISHING CO.; WEST PUBLISHING CORPORATION


目次:  事件の概要 背景 判旨 YWGでの検討結果 参考判例 語句解説


事件の概要

MATTHEW BENDER社(原告)と、HYPER LAW社(訴訟参加人)の販売するCD-ROMを用いた判例集につけられた、WEST社(被告)のcase reporterに対するいわゆるstar paginationがWEST社の編集著作権(compilation)を侵害しないか争われた事件の控訴審である。ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所は原告側勝訴のサマリー・ジャッジメントを下した。被告より控訴。控訴棄却。

 

判決文はFIND LAWのこちらにあります。

反対意見はこちらにあります。

 

背景

Westのcase reportsは(i)独自に作成した、要旨(各opinionの判示事項の要約)・頭注(各opinion中で触れられた法的論点の要約)・キーナンバー(法的論点を項目・副項目に分類したもの)と、(ii)opinionの本文と、Westが付加した他の判例集に対するparallel citation、弁護士についての情報、その他雑多な情報の二つからなる。

このWestの判例集に搭載されている判例を他の文献で引用するときは、は、判例集の巻番号と頁番号による。裁判所によってはWestの判例集から引用することを義務づけているものもある。

BenderはAuthority from Matthew BenderというCD-ROMを販売している。Benderはopinionとorderをディスクに裁判所と日付の順で格納する。これは、データをソートすることなしに閲覧した場合に現れる順序でもある。各判例毎のopinionの冒頭にBenderはWestの判例集に対するparallel citationとWestの判例集で頁が変わる部分の頁数を挿入する予定か、あるいは既に挿入している。

BenderのCD-ROMはFOLIOファイル検索プログラムを使用しており、これによっていろいろな方法でデータにアクセスすることが可能となる。Westの主張によると(また、このサマリージャッジメントのmotionとの関係で当裁判所も真実と認める)、このシステム上でいくつかのステップを踏むことにより、ユーザーはBender製品により、Westの判例集に印刷されているのと同じ順序で判例を閲覧・印刷することが可能となる。

BenderはWestの判例集に対するstar paginationはWestの配列を複製するものではないし、Westの著作権を侵害するものでもないと宣言する判決を求めた。


判旨

編集著作物の意義
編集著作権侵害の要件
BenderのCD-ROMはWestの編集著作権を侵害しない
Benderは寄与侵害者としても責任を負わない

Feist事件は「事実の編集著作物は、もし事実の選択または配列にオリジナルな特徴があれば、著作権が与えられ得る。しかしその著作権は特定の選択または配列に限定される。いかなる場合にも、著作権は事実そのものには及ばない。」とし、さらに「事実の編集著作物の著作権は薄い。有効な著作権があっても、その後の編集者は、競争する著作物が同一選択と配列を特徴としない限り、他人の出版物に含まれている事実を自由に使」うことができるとした。いわゆる「額に汗」理論の否定である。

Feist事件によると編集著作権の侵害を証明するには、「(i)有効な著作権を所有、(ii)著作物のうち、オリジナルな構成要素のコピー行為」の二要件を証明する必要がある。 本件ではWestは第一の点、すなわち自己の判例集それぞれに有効な著作権を有することを証明したと認められる。しかしながら、その保護は「著作者にオリジナルな著作物の構成要素にしか及ばない」。この「オリジナリティー」要件には「著作物が独立して創作されること、…少なくとも最小限度の創作性を有すること」の要件が含まれている。本件ではWestの判例集に対するstar paginationがWestの著作権を侵害するかが争われている。しかし、Westの判例集のpagination、ページ割りとページ番号の挿入はコンピュータ・プログラムにより自動的になされており、この過程に創作性があるとのWestの主張はない。よって、「どこのどの特定のページに裁判所判決の本文が現れているかということは、編集者のオリジナルな創作を化体するものではない」。Westのpaginationは少しも創作性を伴っていないから、編集著作物の著作権によって保護されていない。
Westは選択的主張として、paginationはWestの編集著作物の保護される要素ではないが、(i)原告によるWestの判例集に対するstar paginationは、原告のCD-ROMディスクにWestの判例配列を組み込み、それによってユーザーは原告のファイル取出プログラムを通じて、Westの保護されている配列を知覚することが出来、かつ、(ii)著作権法101条の「複製物」の定義によると、機械の助けを借りて編集著作物の保護されうる要素を知覚できるようにする著作物は、編集著作物の複製物となる、と主張する。

2-A.   特定の判例の出ている巻番号と最初のページ番号を引用するparallel citationは、Westもfair useとして認める。parallel citationを挿入することにより、Westの判例の配列をuserは知覚することが出来る。これに加えてstar paginationを加えても、新たな複製物を作るものだとはいえない。paginationはWestのオリジナルな創作から生じるものではなく、その位置をコピーしても違法ではないからである。

2-B.  Westは原告のCD-ROMディスクは侵害コピーである、なぜなら、CD-ROMディスク上でデータを操作するユーザーは、随意に判例を順序をかえて、Westの配列順にすることが出来るからであるという。当裁判所は以下の理由により、CD-ROMディスクは、それを読む機械が著作権のある配列または実質的に同様な配列に組み込まれている資料を知覚するときに、著作権のある配列を侵害すると結論する。

2-B-1.  著作権法101条は「複製物」を定義して、「著作物を固定する有体物である」とし、「「固定」とは、瞬間的期間以上の期間に亘って、著作物を知覚し、複製し、またはその他の方法で伝達することを可能にするに足るほど永続的または安定的に、複製物に化体されることである。」とする。これはつまり、著作物はそれが直接に、または機械の助けを借りて、知覚され、または伝達されうる有体物に固定されるとき、固定要件を充足するということである。Westはstar paginationがあることにより、ユーザーはコンピュータとFOLIO検索システムを使い、Westの判例集に現れている順序で判例を検索し、著作権のある要素を「知覚」出来、これは複製物になるとする。しかし、著作権法にいう「複製物」は、機械によって読むことが出来る「著作物」が「固定されている」有体物を指すのであって、再配列その他によって固定の仕方を変更したものを含まない。本件で唯一の固定された配列は、原告のCD-ROMディスクに組み込まれ、かつ、データを操作することなく機械の助けを借りて現れる順序である。

2-B-2.  Westの著作権のある著作物の要素が「複製物」中に複製されたかは、原物と侵害著作物と主張されるものを比べ、著作権性のある要素が実質的に類似しているかを問うことによって答えられる。本件事実関係のもとでは原告のCD-ROM上の「著作物の配列」は「固定されている」順序であり、ユーザーが再配列をして得られる順序ではない。Feist事件では、事実の編集著作物の著作権保護は薄く、同じ事実または著作権性のない要素を内容とする編集著作物は、それが原編集著作物と「同じ選択と配列を特徴」としない限り、侵害にならないことを強調している。Westの判例集中で並んで現れている判例は、原告の製品上ではいくつもの他の判例(Westでは掲載されていないもの)によって隔てられている。この隔てられた多くの判例を無視するとしても、原告の製品上に含まれているWestの判例は、Westの配列に似た配列にはなっていない。

2-B-3.   実質的類似性がなくとも、データベースのメーカーはユーザーが著作権を直接に侵害することを助ける機械を作ったために、寄与侵害者として責任を負わせられることもあり得る。Westはユーザーがstar paginationとCD-ROM製品の検索機能を用いて、Westの判例集に載っている順序で判例を検索し印刷するであろうと仮定した。しかし、WestはWestの訴訟代理人以外には第一次の侵害者を確認していない。寄与侵害責任に至る活動には二つあり、(i)侵害を奨励し、または補助する人的行為、(ii)侵害を容易にする機械または物品の供給である。Westは原告の行為は(ii)に当たるとする。ソニー事件最高裁判決は、装置が「実質的非侵害使用が出来」、それがfair useによって認められる用途を含むなら、寄与侵害にはならないとする。原告製品中のWestの判例集に対するpaginationの第一次の用途は法曹界では標準的慣行となった、West判例集中の特定の本文の所在をユーザーが参照できるようにすることである。WestはWestの巻数と頁番号を使用することは、fair useであることは認めている。これに対し、ユーザーはWestの配列を作るためにstar paginationを使用することは出来るにしても、大変手間がかかる。よって、原告の製品が圧倒的ではないとしても、実質的かつ非侵害的用途を有し、原告は寄与侵害者としては責任はない。

2-C.  当裁判所はWest Publishing Co. v. Mead Data Central Inc.の第八巡回区控訴裁判所と意見を異にする。同裁判所は本件と類似の事例で、「Westの配列は、判例の編集著作物の著作権性のある部面であり、Westの判例集のpaginationはWestの配列を反映、かつ表現し、MeadがWestの頁番号を使用しようと意図していることは、Westの配列の著作権を侵害する」と判示した。しかし、これはstar paginationを挿入することがどうしてWestの配列に実質的に類似する配列を特徴とする「複製物」を作ることになるかを説明していない。West Publishing Co.事件は、根底では「額に汗」の理論に基づいている。しかし、これはFeist事件でくつがえされたものである。

 


YWGでの検討結果

まず、発表者としては本件判旨に賛成する。「額に汗」理論を否定した最高裁判決たるFeist事件の論理にしたがう限り、本件判旨のように解するのが自然だからである。検討会の参加者からも本件判旨に反対する見解は出されなかった。

ただ、次のような例を考えるとなかなか困難な問題もあることがわかる。つまり、もとのCD-ROMに配列されている順番そのものは、Westのケース集と同じ配列ではない(本判決の判旨によるとWestの編集著作権を侵害しない配列がなされている場合)が、ワンタッチキーでWestのケース集と同じ配列が再現できるような機能が付いていた場合はどうか。ユーザーの著作権侵害を許す寄与侵害に該当するか、検討することになる。

ここで、ユーザーのこのようなCD-ROMの典型的な使用法を考えると、大半は、Westに対するparallel citationのページを入力して該当部分にジャンプするなど、fair useで認められた使用方法と考えられる。Westの配列をそっくり再現するような、使用方法はまれであろう。このような場合は、ソニー事件で示された「実質的非侵害使用」の要件を満たし、寄与侵害とされることはいのではなかろうか。

結局、著作権の範囲内でのWest社の保護は難しいと考えられる。しかしながら、価値判断として、このようなCD-ROMの存在が認められて良いのかという問題点は残る。このようなCD-ROMがあれば、West社の売り上げが減少することはほぼ確実である。不正競争防止法などでの保護も、困難が予想される。従来の著作権法で想定されていたものとは異なる、新しい媒体が生み出した難問である。

 


参考判例

●Feist Publications,Inc. v. Rural Telephone Survice Company,Inc.  (1991年3月27日 米国連邦最高裁判所判決)

Feist社が電話帳を発行するに際して、Rural社発行の電話帳(ホワイトページ)の電話加入者名等のリストをコピーした行為につき、Rural社が電話帳の編集著作物としての著作権を主張して、Feist社を訴えた事件。  裁判所は、合衆国憲法上の精神及び編集著作物に係わる著作権法の改正趣旨などを子細に検討した後、著作権の目的は学術及び有用な技術の促進にあるのであって、著作者の労力を保護するものではないとして、「額に汗」論を明確に否定して、著作権侵害を否定した。  また、編集物については、その選択又は配列がオリジナルであれば著作権としての保護の要件を満たすが、Rural社発行のアルファベット順の電話帳にはその最小限のオリジナルさえないとして、著作権を認めなかった。

判決文はFIND LAWのこちらにあります

●West Publishing Co. v. Mead Data Central,Inc.,  (1986年第8巡回区連邦控訴裁判所)

West社は、判決文に一定の事項(見出しや要約)を付加して発行する自社判例集における全体的配列についての著作権を主張し、判例検索データベースサービス(LEXIS)をオンライン提供しているMead社に対して、同社がLEXISにおいて画面表示上の判決文中に星印を付すことによってWest社の判例集の頁数を引用し、その結果West社の判例集の配列をまねているとして、著作権侵害に基づく予備的差し止め命令を申し立てた事件。  裁判所は、West社の判例集の配列に対する労力、努力を重視してその著作物性を認め、Mead社の行為は、West社の本の販売の減少を招くものであって、West社の本の対応頁が正確に知り得るようになるので配列をまねたこととなり、結局著作権侵害となるとして、予備的差し止め命令を認めた。

 

 


語句解説

star paginationとparallel citationについて

例えば、上の判旨にもでてくる「ソニー事件」が判例集のどこに出ているかを示したいときは、464 U.S. 417 (1984)として引用する。これは、United States Reports 464号417頁以降に判例が掲載されていることを示す。United States Reportsというのは公式判例集である。このほかにももちろん私人が編集した判例集というものも存在する。そして、このような判例集の各判例の冒頭に、他の判例集ではどこに掲載されているかという情報を上述の形式で表示することがある。これがparallel citationと呼ばれるものである。

そして、他の判例集で判決文を掲載するとき、どの箇所でUnited States Reportsの頁が変わっているかを示すことがある。これがstar paginationである。引用のときは権威ある判例集の掲載箇所を表示することが慣行だからである。Westのcase reporterも権威ある判例集のひとつとされている。このような引用の仕方には二通りある。 ひとつはtelevision *420 programs that・・・・等とするもので、もう一つはtelevision [464 U.S. 417, 420] programs that・・・とするものである。前者の引用方法の場合に星印をつけるところから、star paginationという言い方がされるようになったようである。


先頭へ戻る

LINE

MAIL お問い合わせ・ご意見などはYWG運営委員会まで OTUTOSEI

BUTTON Young Working Group Report CONTENTS へ

BUTTON SOFTICホ−ムペ−ジ へ