三木・吉田法律特許事務所 井口
(株)NTTデータ 岡
被告(コムライン・ビジネスデータ社)が原告(日本経済新聞社) の新聞記事を無断で翻訳し、抄録を作成して配信したことにつき、 著作権侵害と判断された事件。裁判所は、記事の中の事実部分だ けを抽出し保護対象の表現を複製していない抄録は質的な意味で、 また全6段落のうち第1段落のみを複製した抄録については量的 な意味で原告の記事と実質的類似性がないとし、著作権侵害を構 成しないと判断している。
裁 判 所 | 合衆国第2巡回区上訴裁判所 |
判 決 日 | 1999年1月22日 |
訴訟当事者 | 原告−被反訴人−被上訴人:日本経済新聞社 |
被告−反訴人−上訴人 :COMLINE BUSINESS DATA社、ヨシノブ・オークマ、ヒロユキ・タカギ、ハルヒサ・モリモト | |
被告:TERRY SILVERIA | |
判 決 | 原判決を部分的に維持、部分的に破棄差戻し |
(2)被告のCOMLINE BUSINESS DATA社(以下「Comline」)は、いろいろなニュース記事を集め、抄録(ラフな翻訳)を作成して顧客に販売していた。Comlineの編集者は記事を選択し、場合によっては予め望ましい長さに縮めた上で抄録者(翻訳者)に送り、抄録者が英語に翻訳した。リライターがその抄録を定型的なスタイルに編集した。Comlineが1997年に出版した約17000の抄録のうち約1/3が、日経が発行したニュースからのものであった。
(3)1997年8月、日経はニュース記事の定期的な著作権登録申請を開始した。また、日経は、「Nikkei」「Nikkei Weekly」を含む合衆国の登録商標をいくつか保持している。
(4)1998年1月29日、日経はComlineの抄録は日経の著作権及び商標権(「Nikkei」)を侵害しているとしてComline他3名に対して訴訟を提起した。
(5)地方裁判所は2日間の非陪審審理を行い、1998年6月3日に以下の判決を下した。これに対し、被告は上訴している。
【地方裁判所の判決】
2.日経に対し、法定損害賠償金22万ドル、弁護士報酬20万ドル、および22の抄録は侵害に相当するとの確認判決を裁定した。
3.Comlineが日経の記事に実質的に類似している抄録を発行することを恒久的に差し止める判決を下した。
4.Comlineは「Nikkei」の商標を侵害したと認定し、Comlineが商標を使用することを禁じた。
2.公正使用:仮にComlineの抄録がNikkeiの記事の著作権の保護範囲に属するとしても、Comlineの抄録は公正使用として許容される。
3.de minimis:仮にComlineの抄録がNikkeiの著作権を侵害しているとしても、著作権侵害は些事(de minimis)であり、訴訟は成立しない。
・20の抄録は、Comlineが1997年に出版した1万7千の抄録のうちのわずかな部分でしかないので、侵害は些事である。
(1)著作権侵害の認定の要素
1.著作権のある著作物が複製されたこと
2.その複製が不適切または違法な盗用に相当したこと
2.「通常の観察者テスト」が判断の標準的な基準となる。平均的な素人の観察者が、両著作物間の相違を重視せず、一方が他方から複製されたと判断するか否かで判断する。対象となる著作物に著作権の保護対象となる要素と対象とならない要素の両方を含んでいる場合、テストでは保護されない要素を考慮から除外し、より厳格に見分けなければならない。
3.事実そのものは創作性が認められないため保護の対象とはならないが、事実を提示するにあたり創作性が認められる場合、その創作的な要素の「複製が量的かつ質的に十分か否か」が侵害の認定の判定基準となる。
(a)Comlineの22の抄録のうち、20については日経が報告した事実と同一の構成及び編成を行っており、著作権侵害を認定する。
・平均して、対応する日経の記事内の保護対象となる部分の約2/3を使用している。
・記事中の情報を文ごとに順番に追っている。
(a)Comlineの証拠物12Eについて
(1)本法廷の判断
2.営利目的での使用は公正使用認定に不利となる。
3.Comlineの抄録は、日経の記事の直接的な翻訳であり、ほとんど新しいものを加えていないので、公正使用を否定する。
2.日経の記事は「創作性および独創性をもつ著作物」ではあるが、著作物の主たる性格は、事実に関するニュース記事であり、虚構的な著作物よりも公正使用を認定しやすい。従って、この要素については、公正使用認定に関して中立的な立場をとる。
2.大部分の告発された抄録において、複製の量が実質的類似性の認定を支持するのに十分であるのと同様、保護される表現の複製の量によって公正使用の認定に不利である。
2.Comlineの抄録は、日経の記事と競合しそれに取って代わるので、公正使用の認定に著しく不利である。
(1)本法廷の判断
1.日経は、個々の記事につき別個の法的保護を受ける資格を持っており、日経の著作物全体のうちのわずかな数しか複製していないことは、責任の免除にならない。
2.「自分の作品のどれだけ多くの部分が盗作でないことを示したとしても、剽窃者は悪事を弁解できない」
(2)侵害する抄録1つあたり1万ドルの法定損害賠償金の裁定を維持する。
(3)著作権違反に基づく被告に対する差止命令を修正した形で維持する。
(4)以上の裁定が20の侵害している抄録にのみ適用されるのを保証するため、損害賠償金の裁定および宣言的判決を無効とし、再検討のため差し戻す。
(5)弁護士報酬の裁定を維持する。
(6)商標侵害についての判決を破棄する。
(7)被告による「Nikkei」の商標の使用に関する差止命令を無効とする。
(2)新聞報道は紙面が限られており、明快な表現が望まれるのであって、実質的には表現方法は限られ、創作性が認められる余地は少ないのではないか。
(3)マージ理論を適用できる可能性があるのではないか。
(4)本判決では、一応事実の独占がなされないよう配慮されてはいるが、記事の抄録で商売している側からすれば、これだけの基準だけで安心してビジネスができるのか。かえって萎縮効果があるのではないか。
(5)個々の記事毎に類似判断をしているが、新聞記事の特性からすれば各記事は類似せざるを得ないのではないか。ビジネス全体としてフリーライドしているのかどうか、という判断はできないだろうか。
(6)新聞記事の価値は、事実そのものであったり、事実をどれだけ早く報道できるか、といった点にあり、記事の創作性とは別のものである。それなのに著作権法を使用して保護するという点に疑問がある。
(7)文化庁著作権審議会第4委員会報告書(昭和51年)において、二次的著作物を、文献の存在についての指示を与えるだけであって内容の把握については本文を必要とするような「指示的抄録」と内容をある程度概括した「報知的抄録」に分け、報知的抄録は二次的著作物に該当するものがあり得ると説明している。しかし、原文を読まなくても内容がわかる程度に概括しているか否かで著作権侵害かどうかを判断するのは、著作権法の原理に反しているように思える。
(2)被告の販売網、販売数等が損害賠償額算定の根拠になっているのではないか。
参考判例 I. 東京地裁平成6年2月18日(判例時報1486号110頁)
「抄録が二次的著作物に該当するかどうかについては、原著作物とそれを基として作成された二次的作品との内容的かかわりの度合い、創作性の有無などについて個々の判断を要するものであるが、図書館界や情報産業関係者の間で行われている抄録に関する分類が一つの参考となろう。すなわち、抄録を2種類に分け、文献の存在についての指示を与えるだけであつて、内容の把握については本文を必要とする程度のものを指示的抄録といい、これに対し、内容をある程度概括したものを報知的抄録と呼んでいる。著作権法の観点からは、指示的抄録は二次的著作物に該当しないものと解せられるのに対し、報知的抄録については二次的著作物に該当するものが有り得るものと考えられる。」
報告書掲載 http://www.cric.or.jp/houkoku/s51_9.html