SOFTIC YWGレジュメ
平成11年5月11日発表
NIHON KEIZAI SHINVBUN  v  COMLINE BUSINESS事件

 

三木・吉田法律特許事務所 井口

(株)NTTデータ 岡


概要

被告(コムライン・ビジネスデータ社)が原告(日本経済新聞社) の新聞記事を無断で翻訳し、抄録を作成して配信したことにつき、 著作権侵害と判断された事件。裁判所は、記事の中の事実部分だ けを抽出し保護対象の表現を複製していない抄録は質的な意味で、 また全6段落のうち第1段落のみを複製した抄録については量的 な意味で原告の記事と実質的類似性がないとし、著作権侵害を構 成しないと判断している。


裁 判 所 合衆国第2巡回区上訴裁判所
判 決 日 1999122
訴訟当事者 原告−被反訴人−被上訴人:日本経済新聞社
被告−反訴人−上訴人  :COMLINE BUSINESS DATA社、ヨシノブ・オークマ、ヒロユキ・タカギ、ハルヒサ・モリモト
被告:TERRY SILVERIA
判   決 原判決を部分的に維持、部分的に破棄差戻し

T.事実

U.争点及び裁判所の判断

  1.著作権侵害について

    1−1.被告の主張

    1−2.事実の複製

    1−3.公正使用

    1−4.de minimis

  2.商標権侵害

  3.法定損害賠償

  4.弁護士報酬

  5.本案的差止命令の範囲

  6.消滅事項及び権利不行使

  7.人的裁判権

V.結論

W.考察

X.YWGで出された意見

Y.参考資料


 

I.事実

(1)原告の日本経済新聞社(以下「日経」)は、日本語の新聞である日本経済新聞、日経金融新聞、日経産業新聞、日経流通新聞、英字新聞であるNikkei Weeklyをオリジナルの言語で、また翻訳して世界中で販売している。また、日本語の記事の多くを英訳し、電信サービス、英語のウェブサイト、LEXIS/NEXISとのライセンス契約を通じて提供している。

(2)被告のCOMLINE BUSINESS DATA社(以下「Comline」)は、いろいろなニュース記事を集め、抄録(ラフな翻訳)を作成して顧客に販売していた。Comlineの編集者は記事を選択し、場合によっては予め望ましい長さに縮めた上で抄録者(翻訳者)に送り、抄録者が英語に翻訳した。リライターがその抄録を定型的なスタイルに編集した。Comline1997年に出版した約17000の抄録のうち約1/3が、日経が発行したニュースからのものであった。

(3)19978月、日経はニュース記事の定期的な著作権登録申請を開始した。また、日経は、「Nikkei」「Nikkei Weekly」を含む合衆国の登録商標をいくつか保持している。

(4)1998年1月29日、日経はComlineの抄録は日経の著作権及び商標権(「Nikkei」)を侵害しているとしてComline他3名に対して訴訟を提起した。

(5)地方裁判所は2日間の非陪審審理を行い、19986月3日に以下の判決を下した。これに対し、被告は上訴している。

【地方裁判所の判決】

1.Comlineの公正使用の主張を退け、Comlineは日経の22の記事の著作権を侵害していると認定した。

2.日経に対し、法定損害賠償金22万ドル、弁護士報酬20万ドル、および22の抄録は侵害に相当するとの確認判決を裁定した。

3.Comlineが日経の記事に実質的に類似している抄録を発行することを恒久的に差し止める判決を下した。

4.Comlineは「Nikkei」の商標を侵害したと認定し、Comlineが商標を使用することを禁じた。
 

II.争点及び裁判所の判断

 1.著作権侵害

1−1.被告の主張
  1.著作権侵害:Comlineの抄録は、保護されていない事実だけを複製しているので日経の著作権を侵害していない。

2.公正使用:仮にComlineの抄録がNikkeiの記事の著作権の保護範囲に属するとしても、Comlineの抄録は公正使用として許容される。

3.de minimis:仮にComlineの抄録がNikkeiの著作権を侵害しているとしても、著作権侵害は些事(de minimis)であり、訴訟は成立しない。

・日経が毎年出版する9万の記事のうち20しか侵害していないので著作権侵害は些事である。

・20の抄録は、Comlineが1997年に出版した1万7千の抄録のうちのわずかな部分でしかないので、侵害は些事である。

 
 
1−2.事実の複製

(1)著作権侵害の認定の要素

著作権侵害の損害賠償を根拠付けるために、原告は以下の2点を立証する必要がある。

1.著作権のある著作物が複製されたこと

2.その複製が不適切または違法な盗用に相当したこと

複製物が、著作権のある著作物の保護されている表現に対して「実質的な類似性」があることを示すことにより立証する。 →被告は日経の記事に依拠して抄録を作成したことについては争っていないので、本法廷では、Aに関する地方裁判所の認定について再検討する。
(2)実質的な類似性判断のポイント 1.事実そのものは保護の対象ではないが、事実の編集物は事実の選択、配列または提示における創作性を示すことができる。また事実の説明は創作性が入る余地がある。Comlineが日経の「創作性のある表現を複製」したか否かが問題となる。

2.「通常の観察者テスト」が判断の標準的な基準となる。平均的な素人の観察者が、両著作物間の相違を重視せず、一方が他方から複製されたと判断するか否かで判断する。対象となる著作物に著作権の保護対象となる要素と対象とならない要素の両方を含んでいる場合、テストでは保護されない要素を考慮から除外し、より厳格に見分けなければならない。

3.事実そのものは創作性が認められないため保護の対象とはならないが、事実を提示するにあたり創作性が認められる場合、その創作的な要素の「複製が量的かつ質的に十分か否か」が侵害の認定の判定基準となる。
 

(3)地方裁判所の判断 Comlineの22の抄録と、日経の22の記事を比較し、「同一の構成と編成、事実についての同一の時間的および実体的なグループ分けに従い、同一の結論又は決意に到達し、しばしば同一の言い回しおよび単語の選択をしている」ことより実質的な類似性があり、日経の著作権を侵害したと判断した。    (4)本法廷の判断
  1.著作権侵害が認められる部分

(a)Comlineの22の抄録のうち、20については日経が報告した事実と同一の構成及び編成を行っており、著作権侵害を認定する。

・逐語的ではないものの、日経の記事を直接翻訳しているようである。

・平均して、対応する日経の記事内の保護対象となる部分の約2/3を使用している。

・記事中の情報を文ごとに順番に追っている。

  ・希に、日経の2つの文を組み合わせたり1つの文を分割し、異なる文の事実の部分を再配列しているものの、全体としてはComlineNikkeiが報告した事実と同一の構成、編成を採用している。
2.著作権侵害とは認められない部分

(a)Comlineの証拠物12Eについて

日経の証拠物12Cの「事実」に関する情報の抄録であり、日経記事とは異なる配列、異なる文の構造、言い回しを使用しているため、質的に実質的な類似性が認められない。 (b)Comlineの証拠物21Eについて 日経の証拠物21Cの全6段落のうち第1段落のみを複製している(記事の約20%)。ほとんど全てが保護の対象とならないような「事実」のレポートから構成されている記事の文脈において、6段落中1段落の抄録は、量的な意味で実質的な類似性が認められない。著作権のある著作物が、創作的要素と保護されない要素双方を含んでいる場合には、侵害された著作物が完全に創作的なものである場合よりは、実質的類似性の認定を正当化するのに、より多量の複製が要求される。  
1−3.公正使用

(1)本法廷の判断

公正使用の4要素のうち3要素が、そしてこれらの要素の全体的比較対照も公正使用認定の妨げとなっている。従って抄録は日経の記事の公正使用ではないと認定する。      (1)−1.その使用の性格と目的 1.新しい著作物が、どの程度「さらなる目的をもって、または異なる性格をもって新しい物を加えているか、新しい表現、意味等によって最初のものを変更しているか」を分析し、実質的に二番目の著作物が変化していれば公正使用認定に有利となる。

2.営利目的での使用は公正使用認定に不利となる。

3.Comlineの抄録は、日経の記事の直接的な翻訳であり、ほとんど新しいものを加えていないので、公正使用を否定する。

 
(1)−2.著作権のある著作物の性格 1.一般的に、公正使用は虚構的な(fictional)著作物よりも事実に関する著作物で認定される可能性が大きい。

2.日経の記事は「創作性および独創性をもつ著作物」ではあるが、著作物の主たる性格は、事実に関するニュース記事であり、虚構的な著作物よりも公正使用を認定しやすい。従って、この要素については、公正使用認定に関して中立的な立場をとる。

 
(1)−3.著作権のある著作物全体に対する使用された部分と量 1.使用された著作権対象の表現の量と実質性を分析するのであり、著作権のある著作物内の事実に関する内容については、その事実がきわめて重要な事実であるか、補足的事実であるかに関わらず分析対象外である。

2.大部分の告発された抄録において、複製の量が実質的類似性の認定を支持するのに十分であるのと同様、保護される表現の複製の量によって公正使用の認定に不利である。
 

(1)−4.著作権のある著作物の潜在的市場及び価値に対するその使用の影響
  1.侵害した者が引き起こした損害のみならず、その種類の行動が広がればオリジナルの市場に実質的な影響があるか否かを評価する。

2.Comlineの抄録は、日経の記事と競合しそれに取って代わるので、公正使用の認定に著しく不利である。

  1−4.de minimis

(1)本法廷の判断

以下の理由により、Comlineの主張を却下する。

1.日経は、個々の記事につき別個の法的保護を受ける資格を持っており、日経の著作物全体のうちのわずかな数しか複製していないことは、責任の免除にならない。

2.「自分の作品のどれだけ多くの部分が盗作でないことを示したとしても、剽窃者は悪事を弁解できない」

 
 
 2.商標権侵害 (1)ランハム法の規定 1.商標権侵害 ランハム法は、製品の出所に関して混乱を引き起こす可能性がある態様での、同意なくしての登録商標の営利的使用を禁じている。(参照 15 U.S.C 1114(1)(a) 2.公正使用 商標の使用が、「商品又はサービスの説明であり、それを説明するためにのみ公正かつ善意での商標として以外の使用である」場合には、公正使用が認められる。(参照 15 U.S.C1115(b)(4) (2)地方裁判所の判断 Comlineが各抄録の参照行に「Nikkei」という商標を使用しており、これは消費者に日経によって抄録が許諾されているとの誤解をあたえ、抄録における誤りを日経に結びつける。従って、商標侵害を構成し、公正使用には該当しない。   (3)被告の主張 抄録における出所の言及としての「Nikkei」の使用は商標の使用ではないため、日経の商標権を侵害していない。   (4)本法廷の判断 出典を示すために登録商標を使用するのは必須である。Comlineの「Nikkei」の使用に不誠意を認定する根拠は見あたらないため、Comlineによる「Nikkei」の使用は公正使用であると認定し、地方裁判所の判決を破棄、差し戻す。  
 
 3.法定損害賠償 (1)地方裁判所の判断 法定損害賠償金22万ドル(1記事につき1万ドル 22記事分)を裁定した。   (2)本法廷の判断
  1.裁量権の濫用について 17 U.S.C.504(c)(2)は、故意の侵害に対して著作物1つあたり10万ドルまでの損害賠償を認めている。地方裁判所ではComlineの故意性を大幅に認定し、侵害記事1つあたり1万ドルの法定損害賠償金を裁定しているがこの故意の判断は明確に誤ってはいない。本法廷では、地方裁判所は裁量権を濫用していないと判断する。 2.法定損害賠償金の対象となる記事について 地方裁判所は、「22の記事のうち20において実質的類似性が存在する」と述べているが、22の記事全てに法定損害賠償金を裁定しており、その判断基準が曖昧である。しかし、本法廷では22の記事のうち20が日経の著作権を侵害したと裁定し、法定損害賠償金の裁定の再計算のため、地方裁判所に本件を差し戻す。  
 4.弁護士報酬 (1)地方裁判所の判断 日経の402,033.25ドルという要請を減額し、弁護士報酬として20万ドルを裁定した。   (2)被告の主張 地方裁判所は、弁護士報酬の裁定においてその裁量権を濫用した。   (3)本法廷の判断 本法廷は、地方裁判所が誤った法的基準を適用したか、その裁量権を濫用した場合にのみ、弁護士報酬の裁定を棄却することができるが、地方裁判所の判断は法律に従ったものであり、判事の裁量権の範囲内である。  
 
 5.本案的差止命令の範囲 (1)地方裁判所の判断 日経の書面による許可なく、日経のいずれかの出版物に登場する、日経が提示した記事または著作物(またはその一部)に実質的に類似した、コピー、複製、翻訳または抄録を、営業、提供、販売、譲渡、使用許諾、貸付、移転、普及、出版、展示、公告、宣伝、配布、印刷すること及びかかる活動に参加し支援することを禁止する差止命令を出した。   (2)被告の主張 地方裁判所の差止命令は、過度に広汎であり、報道の自由に対する事前抑制で憲法違反である。   (3)本法廷の判断 差止命令は、単に著作権侵害を構成する抄録の禁止を意図したものである。日経の著作権を侵害しないような抄録は禁じないことを明確にするために、地方裁判所の差止命令の「記事または著作物に実質的に類似した」を「記事または著作物の著作権対象の要素に実質的に類似した」に修正する。  
 
 6.消滅時効及び権利不行使 (1)被告の主張 日経のための救済は消滅時効および権利不行使の法理によって禁じられる。   (2)本法廷での判断 被告は日経の著作権を故意に侵害したとの地方裁判所の認定から、これらの法理は日経の請求を禁じないとした地方裁判所の判断に同意する。  
 
 7.人的裁判権 (1)被告の主張 Comlineの専務取締役オクマと、執行取締役タカギは日本国の国民かつ居住者であり、Comlineの日常の活動に関わっていなかったので、侵害した活動を指揮していない。地方裁判所はこの2名に対する人的裁判権を持っていない。   (2)本法廷での判断 被告の主張は地方裁判所に適切に提示されておらず、従って放棄されたので、本抗弁を棄却する。
 
III.結論 (1)22の抄録のうち20に対して著作権侵害を認定した判決を維持する。

(2)侵害する抄録1つあたり1万ドルの法定損害賠償金の裁定を維持する。

(3)著作権違反に基づく被告に対する差止命令を修正した形で維持する。

(4)以上の裁定が20の侵害している抄録にのみ適用されるのを保証するため、損害賠償金の裁定および宣言的判決を無効とし、再検討のため差し戻す。

(5)弁護士報酬の裁定を維持する。

(6)商標侵害についての判決を破棄する。

(7)被告による「Nikkei」の商標の使用に関する差止命令を無効とする。

 
 
IV.考察 (1)実質的類似性の判断について  「量的な意味での実質的類似性」の判断において、判決では、「著作物が保護される要素と保護されない要素の双方を含んでいる場合には侵害された著作物が完全に創作的なものである場合よりは、実質的類似性の認定を正当化するのに、より多量の複製が要求される」と示している。
 実質的類似性は、二つの著作物の共通する部分の「質」と「量」の双方を加味した上で判断するものであり、判決で述べられている考え方は妥当であると思う。
 しかし、今回の証拠物21C,21Eの実質的類似性の判断の過程においては、「当該抄録は日経の記事の約20%を複製し、他の場合は日経の記事本文の半分以上を複製している」といった量のみの分析であり、「日経の記事の中で創作性のある要素が、どの程度複製されたのか」という分析が不足しているように思われる。
 例えば、以下のような考え方も可能ではないか。日経の記事21Cは「ほとんどすべてが保護されない事実の報告で構成されている」ということである。つまり、記事全体としては保護対象となるが、その要素であるひとつひとつの文そのものは事実の報告であり、いずれも表現方法が自動的に決定されてしまうような類のもので、著作権の保護対象とはならないものがほとんどであると思われる。このような記事の中で創作性が認められる部分は、その記事にまつわるいろいろな素材の中から、どのような素材を選択するかといった部分や、選択した事実をどのように配列するかといった文章構成等の部分になると思われる。Comlineの複製(抄録)が、これらの保護される要素を含んでいるか、またそれらがどの程度複製されたのかが実質的類似性の判断のポイントになるのではないか。  
(2)著作権侵害の検討順序について  本件では、著作権侵害の実質的な類似性を検討し、その最後にde minimisの検討をしてから、公正使用の議論に入っている。結論からいえば、de minimisの適用を否定するのであるから、このような順序で構わないと考える。
 ただ、判決が引用するSandoval v New Line Cinema Corpの事件では、裁判所は、de minimisにあたるかというのは、そもそも、著作権侵害にあたるか否かという実質的な類似性判断において、量的な意味において類似しているかという判断に入る前提問題であるとしている。そうすると、本件で、理論的にはまず、著作権侵害を認定するにあたって、de minimisにあたらないかを検討し、それから実質的類似性の有無、そして、公正使用として許容されるものかを検討していくべきことになる。
 なお、Ringgold v Black Entertainment Televishionの事件では、著作権侵害訴訟におけるde minimisについて、訴訟要件、実質的な類似性判断及び公正使用の各場面ごとに意味を有しており、多義的であることが述べられているが、本件では、Sandoval事件同様実質的な類似性判断の前提としての意味で用いられていると思われる。
 また、公正使用は、著作権上保護される権利の範囲内であることを肯定しつつその排他性を否定するものであって、実質的な類似性がないとして著作権法上の権利の保護範囲内に属しないとする主張とは矛盾する。したがって、両方の主張をする場合には、公正使用は予備的な主張とならざるを得ないから、「仮に」という形で実質的な類似性の存否の後に検討すべきことになる。  
(3)商標権侵害について  地方裁判所は、「購読者は、被告が抄録を作成し配信することを日経によって許諾されているという誤解を与え、抄録における誤りを日経に結びつける」という理由でComlineの商標権侵害を認めている。しかし、本来商標権侵害の有無は、「当該商標を付して商品を販売したり、サービスを提供することが、商標権者によって承認されているかのような混同を消費者に与えているか否か」という点で判断すべきではないかと思われる。Comlineが参照行に「Nikkei」と示したとしても、これは商標の記述的な使用といえる範疇に入るものであり、Comlineの記事に「Nikkei」の商標を付しているとは考えにくい。地方裁判所における、商標法1114条の「混同・誤認を生じさせる」の解釈は広すぎる。控訴審における判断は妥当であると考える。  
V.YWGで出された意見 YWGの検討においては、以下のような意見が出された。

1. 事実報道の著作権法による規制について

(1) 事実を他人に伝えるには、その事実を認識した上で、何らかの形式で表現する必要がある。人が何かを表現した段階で著作権法の保護対象となる可能性がある。実質的に事実そのものを保護してしまうような危惧はないか。

(2)新聞報道は紙面が限られており、明快な表現が望まれるのであって、実質的には表現方法は限られ、創作性が認められる余地は少ないのではないか。

(3)マージ理論を適用できる可能性があるのではないか。

(4)本判決では、一応事実の独占がなされないよう配慮されてはいるが、記事の抄録で商売している側からすれば、これだけの基準だけで安心してビジネスができるのか。かえって萎縮効果があるのではないか。

(5)個々の記事毎に類似判断をしているが、新聞記事の特性からすれば各記事は類似せざるを得ないのではないか。ビジネス全体としてフリーライドしているのかどうか、という判断はできないだろうか。

(6)新聞記事の価値は、事実そのものであったり、事実をどれだけ早く報道できるか、といった点にあり、記事の創作性とは別のものである。それなのに著作権法を使用して保護するという点に疑問がある。

(7)文化庁著作権審議会第4委員会報告書(昭和51年)において、二次的著作物を、文献の存在についての指示を与えるだけであって内容の把握については本文を必要とするような「指示的抄録」と内容をある程度概括した「報知的抄録」に分け、報知的抄録は二次的著作物に該当するものがあり得ると説明している。しかし、原文を読まなくても内容がわかる程度に概括しているか否かで著作権侵害かどうかを判断するのは、著作権法の原理に反しているように思える。

2. 商標権侵害について

(1)被告は、日経ブランドを使用することによって、記事の信憑性をアピールしていたと言える。また反復・継続した使用であるので、商標権侵害に該当すると言えるのではないか。

3. 損害賠償額について

(1)日本でのコムラインの裁判では、記事1本につき1000円の損害賠償額が認められているが、本判決では、記事1本につき1万ドルであり、あまりにも高額であると思われる。

(2)被告の販売網、販売数等が損害賠償額算定の根拠になっているのではないか。

4. その他

(1)米国裁判官は、日経記事の原文である日本語の記事を見ていない。すでに英訳されている物を被告の記事と比較し、実質的類似性を判断している。裁判資料として、日経の日本語記事を英訳している過程で、原告側が被告記事に似せるような、意図的な操作をした可能性があるのではないか。
VI.参考資料

参考判例 I. 東京地裁平成6年2月18日(判例時報1486号110頁)

事案)

株式会社日本経済新聞社が、本件と同じ案件で日本国内においてコムライン インターナショナル株式会社を訴えた。
 

判断のポイント)

1 実質的類似性について
本判決も「著作権法27条所定の翻案には、原著作物を短縮する要約を含むところ、言語の著作物の翻案である要約とは、それが原著作物に依拠して作成され、かつ、その内容において、原著作物の内容の一部が省略されまたは表現が短縮され、場合により叙述の順序が変更されてはいるが、その主要な部分を含み、原著作物の表現している思想、感情の主要な部分と同一の思想、感情を表現しているものをいうと解するのが相当である。」とした上で、判断基準として「要約は、これに接する者に、原著作物を読まなくても原著作物に表現された思想、感情の主要な部分を認識させる内容を有しているものである。」ということを述べている。
2 被告が記事にしたのは著作権の及ばない事実であるという点について
まず、「報道すべき主題の発見、取材源の探知、素材の収集は著作権による保護の対象ではない」とする。しかし、この点については、本判決は「依拠」の問題として捉えているので、日経の記事の中から事実の部分のみを抽出し、事実に関する情報のみの抄録を作成することは質的に実質的類似性を欠くとした本第2巡回区上訴裁判所の判断とは次元を異にする。
ただ、新聞記事について「客観的な事実を素材とする新聞記事であっても、収集した素材の中からの記事に盛り込む事項の選択と、その配列、組み立て、その文章表現の技法は多様な選択、構成、表現が可能であり、新聞記事の著作者は、収集した素材の中から、一定の観点と判断基準に基づいて、記事に盛り込む事項を選択し、構成、表現する」として創作性ある表現であることを認め、「そのような記事の主要な部分を含み、その記事の表現している思想、感情と主要な部分において同一の思想、感情を表現している要約は、元の記事の翻案に当たる」として、実質的な類似性の判断も行っている。

参考判例 II. 東京高裁平成6年10月27日(判例時報1524号118頁)

事案)

控訴人は、英字日刊新聞を発行する被控訴人の特定日付の記事の全部又は一部を1行あたり約34字、1行ないし3行程度の日本語に訳し、被控訴人の新聞と同様の順序で掲載した文書を作成した。被控訴人が差止めの仮処分申立をしたところこれが認容され、控訴人が異議申立。
 

判断のポイント)

本件では、編集著作物が問題となっているので、本第2巡回区上訴裁判所の事案とは異なる。
もっとも、控訴人は、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は著作権法上保護の対象にならない、原文と控訴人作成の文書との間には代替性がなく翻案関係にたたない、差止仮処分は事前差止めとして憲法違反である、仮に控訴人文書が被控訴人新聞の編集著作権の保護範囲に属するとしても公正利用に当たるといった主張をしている。
特筆すべきは、公正利用について高裁は、「著作権に対する公正利用の制限は、著作権者の利益と公共の必要性という、対立する利害の調整の上に成立するものであるから、これが適用されるためには、その要件が明確に規定されていることが必要である」として「かかる規定の存しないわが国の法制化においては、一般的な公正利用の法理を認めることはできない」としつつ、「なお、念のため付言するに」として合衆国著作権法107条について判断している点である。同条の3番目の要件について、「控訴人文書の各記述は被控訴人新聞の記事等により伝達しようとしている情報の核心的事項を表現しようとしているものであって、単に被控訴人新聞の報道するニュースへのアクセスを可能にするといった程度のものではなく、控訴人文書によれば、特定の日付の被控訴人新聞がどのような出来事を取り上げているかの概要を知ることができること」として、実質性の認定を行っている。この「核心的事項」について、「客観的な出来事の表現と共通するものを同様に要素としていれば足りる」としている点で、「著作権対象の表現」を問題とすべきとする本第2巡回区上訴裁判所の考え方と似ているが、本事案は編集著作物が問題とされているので、記事そのものの抄録の事案でもそのまま妥当するかは不明である。

「抄録と二次的著作物の考え方に関する報告」(文化庁著作権審議会報告書より)

 
文化庁著作権審議会第4小委員会(複写複製関係)報告書(昭和51年9月)において、「抄録が二次的著作物に該当するか否か」について、以下のように説明している。

「抄録が二次的著作物に該当するかどうかについては、原著作物とそれを基として作成された二次的作品との内容的かかわりの度合い、創作性の有無などについて個々の判断を要するものであるが、図書館界や情報産業関係者の間で行われている抄録に関する分類が一つの参考となろう。すなわち、抄録を2種類に分け、文献の存在についての指示を与えるだけであつて、内容の把握については本文を必要とする程度のものを指示的抄録といい、これに対し、内容をある程度概括したものを報知的抄録と呼んでいる。著作権法の観点からは、指示的抄録は二次的著作物に該当しないものと解せられるのに対し、報知的抄録については二次的著作物に該当するものが有り得るものと考えられる。」

報告書掲載 http://www.cric.or.jp/houkoku/s51_9.html


 
 
以上


先頭へ

LINE

MAIL お問い合わせ・ご意見などはYWG運営委員会まで OTUTOSEI

BUTTON Young Working Group Report CONTENTS へ

BUTTON SOFTICホ−ムペ−ジ へ