中古ビデオソフト販売事件
(H14.1.31東京地裁H12(ワ)15070)
平成14年3月19日
富士通株式会社
金谷 江利子
1.当事者
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2.事案の概要
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3.争点
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4.当事者の主張及び裁判所の判断
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5.その他の争点に関する当事者の主張
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6.結論
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1.当事者
原告:株式会社橋本コーポレーション、株式会社ジョイナック、有限会社アキ総合企画、
株式会社海燕書房、有限会社ビープロダクト、有限会社ダブルアックス、
有限会社ワークビジネス社、株式会社アイダックス、有限会社ドルチェ・ヴィータ、
YBスポーツことA
(以下、まとめて「原告ら」)

被告:株式会社寿エンタープライズ(以下「被告会社」)
被告会社代表取締役B(以下「被告B」)
(以下まとめて「被告」ら)


2.事案の概要
原告らは、原告らが製作販売している各ビデオソフト(以下「本件各ビデオソフト」)を、顧客から購入して中古品として販売を行っている被告会社に対しその販売差止を求めるとともに、被告らに対し頒布権侵害に基づく損害賠償を求めた。

3.争点
(1)本件各ビデオソフトが著作権法上の「映画の著作物」にあたり、著作権法26条1項の「複製物」として頒布権の対象となるか。
(2)本件各ビデオソフトが著作権者又はその許諾を受けた者によりいったん適法に譲渡されれば、当該ビデオソフトについては頒布権が消尽し、その後の譲渡等の行為には頒布権が及ばないか。
(3)本件各ビデオソフトはわいせつ物であり公序良俗に反する物として著作権法による保護の対象にならないか。
(4)原告らの損害額
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4.当事者の主張及び裁判所の判断
争点(1)について

<被告らの主張>
・本件各ビデオソフトは映画の著作物に該当しない。
・仮に映画の著作物に該当するとしても著作権法26条1項にいう「複製物」とは、少数の複製物のみが製造されて、著作者がそれら少量の複製物の流通の支配を通じて投下資本を回収することが予定されているものを指すものであり、大量の複製物が製造されて、個々の複製物が少数の者によってしか視聴されないものは含まれないと限定して解すべき(東京高裁平成13年3月27日判決、参考資料1参照)。
・本件各ビデオソフトは大量の複製物が製作され、一つ一つの複製物は少数の者によって個人的に視聴されるにすぎず、映画館等で大観衆の前で上映されることは最初から予定されていない性質のものであり、本件各ビデオソフトは著作権法26条1項の「複製物」には該当せず、頒布権の対象にならない。

<原告らの主張>
・ビデオ映像物は著作権法上「映画の著作物」に該当し、頒布権の対象となることは明確。
・頒布権を制限する場合には極めて慎重な判断が必要であり、具体的な判断基準が示されていることが不可欠である。前期東京高裁判例が掲げる「大量に複製」されるかどうか、「投下資本を回収すべく予定」されているかどうか、というような、極めて不明確な基準に基づいて著作者の権利を制限することは許されない。

≪裁判所の判断≫
(1)著作権法における「映画の著作物」の意義及び本件各ビデオソフトの「映画の著作物」該当性について
・著作権法上の「映画の著作物」が具体的にどのようなものを指すかは「映画の著作物」に関する同法の規定を総合的に考察して決するほかはないというべき。
・著作権法が、映画の著作物のみについて頒布権を認めたのは、実質的には、劇場用映画についてはいわゆる配給制度を通じて興行収益を見越して上映の地域的な範囲・順序や期間などを戦略的に決定することで投下した資本の回収を行ってきたという社会的な実態が存在し、その利用形態、個々の複製物が持つ経済的価値及びその流通形態の特殊性を考慮したうえで、@映画製作者の投下資本の回収を図る利益を保護するには複製物の流通全般をコントロールし得る地位を保障することが適当であり、かつ、Aこれを債権契約のみに委ねることでは不十分であって、著作権者に排他性のある物権的な権利を付与することが相当であり、他方、Bその流通形態からすればこのような権利を認めたとしても商品の流通を不当に阻害することにはならない、との立法政策的な判断によるものというべき。
・著作権法は、多数の映画館での上映を通じて多数の観客に対して思想・感情の表現としての同一の視聴覚的効果を与えることが可能であるという劇場用映画の特徴を備えた著作物を「映画の著作物」として想定しているものと解するのが相当である。
→著作権法上の「映画の著作物」といい得るためには、@当該著作物が一定の内容の影像を選択しこれを一定の順序で組み合わせることにより思想・感情を表現するものであり、A当該著作物ないしその複製物を用いることにより同一の連続影像が常に再現される(常に同一内容の影像が同一の順序によりもたらされる)ものであることを要するというべき。
・本件各ビデオソフトは劇場における上映を前提とするものではないが、収録内容は一定の内容の影像を一定の順序で組み合わせたものであるという点で劇場用映画と同一のものであり、いずれも上記@及びAの要件を満たすことが認められる。
→本件各ビデオソフトは、いずれも「映画の著作物」に該当するというべき。

(2)頒布権の有無について
・著作権法は映画の著作物について、頒布権を認めるものとそうでないものとの区別をしておらず、本件各ビデオソフトが映画の著作物に該当する以上その著作権者は本件各ビデオソフトについて頒布権を有するものと解するのが相当。
・本件各ビデオソフトが本件各ビデオソフトの原作品の「複製物」であることは明らかであり、本件各ビデオソフトには著作権者の頒布権が及ぶものというべき。
・本件各ビデオソフトは、その流通、取引形態は上記劇場用映画の配給制度とは全く異なるが、「映画の著作物」に該当する以上、その複製物たる本件各ビデオソフトが頒布権の対象となるのは当然。
→本件各ビデオソフトは頒布権の対象となるというべき。

争点(2)について

<被告の主張>
・仮に本件各ビデオソフトにつき原告らに頒布権が認められるとしても、小売店を経由して最終ユーザーである一般の消費者に譲渡され、いったん市場において適法に拡布されたものということができるから、権利消尽の原則という一般的原則により原告らは、少なくとも最終ユーザーに譲渡された後の譲渡に対しては、頒布権の効力を及ぼすことができないというべき(大阪高裁平成13年3月29日判決、参考資料2参照)。
・被告会社は本件各ビデオソフトを最終ユーザーから購入して販売しているにすぎないから、頒布権の侵害に基づく原告らの請求は理由がない。

<原告の主張>
・被告らが引用する大阪高裁の裁判例は、@複製物が大量に製造されて流通に回ること、Aその流通のすべてに製作者にコントロール権を与えることは現実的でないこと、を権利消尽の根拠としているように思われるが、「大量に複製」されたかどうかについては基準が不明確。
・大阪高裁判決は映画の著作物の複製物の頒布権は第一頒布にのみ適用されるとするが、著作権法上そのような限定はなく、実質的にも実情(購入者が購入した複製品を家庭においてダビング(複製)した上で購入物を被告会社のような中古品販売業者に持ち込んでいる)に照らせば、結果として第一頒布権すら事実上保護されなくなるという結果を招くことになる。
・本件各ビデオソフトは、いずれもホモセクシャル(男性同性愛)ものであり、その市場及び販売ルートは限定されており、需要者が少ないことからその製作本数も大量に複製されたとは到底いえない数量である。
・仮に原則として権利の消尽を認めるという立場に立ったとしても、本件各ビデオソフトについては例外的に頒布権は消尽していないというべき。

≪裁判所の判断≫
(1)著作権法と消尽の原則について
・著作権法による著作物の保護は、社会公共の利益との調和の下において実現されるべき。
・一般の譲渡と同様に、著作物又はその複製物が市場で流通に置かれる場合には、譲受人が目的物につき著作権者の権利行使を離れて自由にこれを利用し再譲渡などをすることができる権利を取得することを前提として取引行為が行われるもの。
・著作権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害され、著作物又はその複製物の円滑な流通が妨げられる。
・著作権者は、著作物又はその複製物を自ら譲渡するに当たって著作物の利用の対価を含めた譲渡代金を取得し、著作物の利用を許諾するに当たって使用料を取得することができるのであるから、著作物創作の対価を確保する機会は保障されているものということができ、著作権者がその後の流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しない。
→著作物自体又はその複製物につき取引の行われる場合において、自由な商品取引という社会公共の利益と著作者の利益との調整の結果として、一般的原則としての権利消尽の原則が適用されると解するのが相当。

(2)頒布権と権利消尽の原則について
・著作権法26条の規定は、劇場用映画の配給制度という取引実態を前提として、映画の著作物に頒布権を認めても取引上の混乱が少ないと考えられた結果、立法されたと認められる。
・著作権法2条1項19号は、「頒布」の定義として以下の2種類を定めている。
1. 前段頒布…映画の著作物を含む著作物全般に関する「頒布」概念
2. 後段頒布…映画の著作物だけに関する「頒布」概念
・配給制度の下における取引形態(後段頒布)は、取引の態様に照らして権利消尽の原則が適用されないものとしても商品の自由な流通を阻害することにはならず、また、配給制度を通じて投下資本の回収を図るためには映画の著作物の著作権者が流通全般をコントロールできるものとする必要があることから、権利消尽の原則の適用されない頒布権を認めるべき一定の合理性が存在するということができる。
→頒布権にも一般原則としての権利消尽の原則は適用されるものであるが、配給制度の下における取引については頒布権に例外的に権利消尽の原則が適用されないと解するのが相当。

(3)本件各ビデオソフトへの権利消尽の原則の適用の有無について
・本件各ビデオソフトは卸売業者・小売店を経由して末端の需要者に譲渡され、いったん市場に適法に拡布されたものということができる。
→前段頒布の場合に当たり、権利消尽の原則が適用され、被告らによる本件各ビデオソフトの販売に対しては頒布権の効力は及ばないというべき。

(4)原告らの主張について
1. 著作権法26条には頒布権の及ぶ範囲を第一譲渡にのみ限定する文言はない上、実質的にみても頒布権の効力の及ぶ範囲を第一頒布に限定すると結果として第一頒布についての権利すら事実上保護されなくなる旨の主張について。
・映画の著作物に関し、劇場用映画の配給制度の存在等に照らし、著作権法26条の定める頒布権の内容について前段頒布と後段頒布とで区別を設けることには合理性がある。
・原告らの指摘するビデオソフト購入者によるダビング(複製)の問題については、本来そのような複製行為が著作権法の規定する私的利用のための複製(著作権法30条)に該当するかどうかを問題とすべきものであって、権利消尽の原則の適用についての解釈に直ちに結びつくものではない。
→原告らの主張は失当。

2. 本件各ビデオソフトは市場及び販売ルートが限定されている旨の主張について
・原告らの主張は、権利消尽の原則の例外に当たるかどうかを判断するに当たっては、大量に複製物が販売される一般の映画ビデオないしゲームソフトと、需要者の限定されている本件各ビデオソフトとを区別するべきであるとの趣旨と解される。
・劇場用映画の配給制度は、複製物の販売により投下資本を回収するという点において、本件各ビデオソフトとは大きく異なるものであり、この点は一般の映画ビデオ等の場合と同様である。
・実質的にみても、本件各ビデオソフトの内容上、その市場が限定されているというのであれば、原告らとしてはそれに応じた価格を設定することにより投下資本を回収することが可能である。
→原告らの主張する事情は、権利消尽の原則の適用を否定すべき理由とはならないというべき。

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5.その他の争点に関する当事者の主張
争点(3)について
<被告の主張>
・本件各ビデオソフトはいずれもホモセクシャルものであり、その内容からして文化的所産とはほど遠く、公序良俗に反するわいせつ物であり、仮に映画の著作物に該当するとしても著作権法による保護に値せず、保護の対象とならないものというべき。
<原告の主張>
・本件各ビデオソフトはいわゆるホモセクシャルものであるが、近時の我が国における文化、風俗の状況として同性愛は容認されているといえ、わいせつ物には当たらず法的保護に値するというべき。
・原告らは日本ビデオ協会グループ(JVGA)という業界団体を結成し、製作するビデオ作品がわいせつ物として刑事摘発を受けないように自主規制を行っており、現に本件各ビデオソフトの中にはわいせつ物として摘発されたものは一つもない。
・被告らの態度は本件各ビデオソフトをわいせつ物であると主張する一方で、自らその中古品の販売を継続しているものであり矛盾している。

争点(4)について
<原告の主張>
・原告ごとの、被告会社による販売数及びその利益の額(略)
・被告Bは共同不法行為者として被告会社と連帯して責任を負う。
・各原告のそれぞれ著作権侵害に基づく損害賠償:
利益額と慰謝料200万円を合計した金額のうち200万円
年5分の割合による遅延損害金
<被告の主張>
・原告ら主張の本件各ビデオソフトの仕入価格、販売価格は個々のビデオソフトにより異なり、一律に決まっているわけではなく、いずれも否認。
・本件各ビデオソフトに含まれる個々のビデオソフトの販売数については、対象となる作品数が多すぎていまだ確認できていない。
・その余の主張については否認し争う。


6.結論
(1)原告らの請求いずれも棄却。
(2)訴訟費用原告負担。

 
 
 以上

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