データベース著作物の創作性
平成14年2月21日東京地裁 平成12年(ワ)第9426号
データベース使用差止等請求事件中間判決
平成14年4月23日
三木・吉田法律特許事務所
今井鉄男
当事者
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事案の概要
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背景
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争点
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関連判例
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コメント
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〔当事者〕
原告  株式会社オフィス・キャスター
    (情報処理サービス業及び情報提供サービス,コンピュータソフトウェアの企画,開発,販売業務並びに受託開発業務等を営む会社,建設/不動産
    関連のデータベース商品を調査,制作,販売している。)

被告  株式会社デジタル・ピクチャーズ・エンターテイメント(被告デジタル・ピクチャーズ)
    (コンピュータシステムの開発,販売,運営及び保守並びにニューメディアに関するシステム開発及び販売等を目的とする会社)
被告  同代表取締役A
被告  同取締役B
被告  株式会社エクス(被告エクス)
    (インターネット及びその他の通信システムを利用した情報通信サービス等を目的とする会社)



〔事案の概要〕

 原告が,被告デジタル・ピクチャーズ,同エクスが別紙被告物件目録記載のデータベース(被告データベース)を使用,頒布した行為が,原告の有する別紙原告物件目録記載のデータベース(原告データベース)について原告の有する著作権(データベースの著作権)を侵害すると主張して,被告らに対し,被告データベースの複製,翻案,頒布及び公衆送信の差止め及びこれを記録した磁気媒体の廃棄並びに損害賠償を求めている事案。

〔原告の請求〕
 1 被告らは,被告データベースを複製,翻案,頒布及び公衆送信してはならない。
 2 被告らは,被告データベースを記録した磁気媒体を廃棄せよ。
 3 被告デジタル・ピクチャーズ,同A及び同Bは,各自原告に対し,3000万円及びこれに対する被告デジタル・ピクチャーズに対しては平成12年
   5月19日から,被告A及び同Bに対しては平成12年5月24日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 被告エクスは,原告に対し,2700万円及びこれに対する平成13年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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〔背景〕
 平成10年12月16日,破産宣告を受けた訴外デジタルウェア社の資産売却が入札により行われ競落した原告が事業の継続を推進したところ,旧デジタルウェア社の従業員が別組織にて同様の事業を始め,事業のベースとなった分譲マンションデータベース(コアネット)を不正に持ち出したため,本件訴訟に至った。被告デジタル・ピクチャーズは平成11年6月頃から,新築分譲マンション開発業者に対し,被告データベースを使用して不動産の情報を提供していた。被告エクスは,平成12年4月,被告デジタル・ピクチャーズから同データベースに関する一切の権利を譲り受け,以後,新築分譲マンション開発業者に対し,同データベースを使用して,同様に,不動産の情報を提供している。
〔原告データベース〕
 マイクロソフトの「アクセスAccess」を使用してマンション開発業者向けに作成されたリレーショナルデータベースである。地域,価格,路線,間取り,法規制等の具体的な入力データ(レコード)はテーブルの中で各フィールド項目に細分化された領域に記録され,各レコードを別のレコードと関連づけて処理する機能を有している。同データベースは,新築分譲マンション開発業者に対する販売を目的とし,新築分譲マンションの平均坪単価,平均占有面積,価格別販売状況等を集計したり,検索画面に一定の検索条件を入力して価格帯別需給情報等の情報を表やグラフの式で出力することができる。

リレーショナルデータベース…データベースの情報の単位であるレコードを別のレコードと関連付ける処理機能を持つデータベース
テーブル…情報を入力する表
エントリーテーブル…入力された情報が格納されるテーブル
マスターテーブル…頻繁に使用される情報(地名や駅名等)や検索に用いられる情報が格納されるテーブル
フィールド項目…細分化されたテーブル
レコード…テーブルの各フィールド項目に入れられるデータ
主キー…テーブルに格納された情報を識別するために選択されたフィールド項目

<原被告データベースに共通のエントリーテーブル(7個)と格納される情報>
1) PROJECTテーブル:マンションの建物・敷地・地域の属性等
2) 詳細テーブル:マンションの販売の期分けごとの概略等
3) 住戸一般テーブル:各部屋ごとの詳細
4) 広告テーブル:各マンション販売の広告出稿の内容
5) 申込テーブル:初月の販売から各月の百分率表示の売れ行きの推移等
6) 月報タイプテーブル:各マンションの間取りタイプ別に集計された販売結果
7) 月報価格テーブル:各マンションの価格帯別に集計された販売結果

<原被告データベースのに共通のマスターテーブル(12個)と格納される情報>
1) all LINEテーブル:首都圏の鉄道各社の各路線がコード付けられて格納
2) all TRAFテーブル:首都圏鉄道の各駅名がコード付けられて格納
3) PREFテーブル:全国の都道府県の名称がコード付けられて格納
4) TOWNテーブル:全国の市町村の名称がコード付けられて格納
5) ANMテーブル:首都圏及び札幌の一部の町丁名がコード付けられて格納
6) PAPERテーブル:広告媒体の名称がコード付けられて格納
7) TYPEテーブル:間取り区分がコード付けられて格納
8) KAKAKUテーブル:価格帯区分がコード付けられて格納
9) 構造reportテーブル:建築構造部分がコード付けられて格納
10) 法規制コード1テーブル,J法規制コード2テーブル:法規制区分がコード付けられて格納。また,KLAW3テーブルは,法規制コード1テーブルと法規制コード2テーブルを合体させたもの。

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〔争点〕
1 原告データベースが著作権法にいうデータベースの著作物に該当するか。
2 被告データベースが原告データベースの複製であり,その著作権を侵害しているか。
(1) 被告データベースが原告データベースに依拠して作成されたものか。
(2) 原告データベースのうち被告データベースと共通する情報及び構成が,著作物性を認めるに足りる創作性を有するか。
争点1 原告データベースが著作権法にいうデータベースの著作物に該当するか。
〔原告の主張〕
 原告データベースにおける情報分類項目等の選択及び体系的構成は,同業他社のデータベースとは大きく異なっており創作性が認められるから,著作権法12条の2にいうデータベースの著作物に該当する。
 データベースの創作性とは,ユーザーにどのような使い勝手のデータベースを提供するかを構想した上,(@)どういうテーブルをいくつ作るか,(A)各テーブルにどのようなフィールド項目を振り分けるか,(B)それらのテーブル間にどのような関連付けを行うか,を総合考慮して判断されるべきである。
1) 情報項目等の選択の創作性
 原告データベースには,情報の選択,情報項目の設定,テーブル構成,リレーションの張り方,テーブル間の関連付けのいずれの段階にも,制作者の独自性が認められる。このことは,不動産経済調査月報や同業他社のデータベースの情報項目と比較しても明らかである。
2) 体系的構成の創作性
 原告データベースの体系的構成は,PROJECTテーブル,詳細テーブルを初めとする各テーブルのフィールド項目として数百の項目を設定(情報収集の方針を決定)した上,多数のエントリーテーブル及びマスターテーブルの作成・データ形式の決定・多数のテーブルの関連付けをしているものであって,この点に,原告データベースの体系的構成の創作性が認められる。このことは,同業他社のMRC社のデータベースが原告データベースに比べて明らかに単純な構成しかとっていないことからしても,明らかである。
3) 本件のようなデッドコピーの事案では,仮に創作性が低いとしても著作権侵害が認められる。
4) 原告データベースにはリレーション(関連付け)が張られている。
〔被告の主張〕
 原告データベースは,情報項目の選択,体系の設定のいずれの点からしても,著作物性を認めるに足りる創作性を有しないから,著作権法にいうデータベースの著作物に該当しない。

 ア 情報項目の選択の創作性
 情報の選択に関する創作性とは,情報を選択する基準,すなわちフィールドとしていかなる情報分類項目を設定したのかという点から判断すべきであるが,この点,原告データベースの情報の選択には創作性はない。データベースの使用目的が同一であれば,情報項目はほとんど一致するのであるから,単純に情報源から必要な情報を選択してそれを情報項目として設定したからといって,それだけで直ちに情報項目の設定に創作性が付与されるものではない。
 原告・被告各データベースの情報源(新聞,雑誌広告,パンフレットなど)に記載される事項は,不動産の表示に関する公正競争規約によりその大枠が規定されているため,その内容はほとんど変わらないから,情報源から収集される情報は,開発するデータベースの使用目的が同一であれば,ほとんど同一になる。また,原告データベースの情報分類項目のうち,集計項目を除く部分のほとんどは,不動産経済調査月報,東京カンテイのデータベースの帳票見本等の媒体に記載されている情報分類項目をそのまま設定しているにすぎない。原告データベースを同業他社であるMRC社のデータベースと比較してみても,MRC社のデータベースの情報項目のほとんどは,原告データベースの情報項目に含まれている。

イ 体系の設定に関する創作性
(ア)原告は,原告データベースの作成過程において,多数のフィールド項目,テーブルを設定し,データ形式も決定した上でテーブル間のリレーション付けを行い,エントリーなどのためにクエリー(*データテーブルのなかから特定の条件を満たす情報を抽出する機能)を作成していることをもって,体系の設定に創作性があると主張するが,原告の同主張は,単に「アクセス」を用いてリレーショナルデータベースを構築したことを述べるにすぎない。
(イ)被告データベースの設計について
 被告データベースの設計をみても,被告データベースのテーブル構成及び関連付けは,データベースの基本的な考え方に基づいて作成されたものにすぎないから,これに対応する原告データベースの部分に創作性があるということはできない。
(a)データベースを設計する場合,まず@データベースの利用目的を決定し,Aテーブルを決定し,Bフィールド項目を決定し,Cテーブル間のリレーションを決定する。被告データベースは,以上の手順に従って設計されている。そして,被告データベースの利用目的は,主として,マンション建築販売業者による新築マンション建築予定地周辺の建築販売情報の収集にある。そして,被告データベースの場合,情報を収集する情報源から,新築マンションのエリアマーケティングに必要な最低限の情報を収集したのが,被告データベースである。
(b)テーブルの決定
 テーブルの決定は,収集した情報をその性質に合わせて分類し,その分類に基づいて決定する。被告データベースの収集した情報をその性質に基づき分類すると,それぞれの分類ごとに複数の情報項目が含まれてくる。そして,被告データベースは,このように分類された情報分類をそのままテーブル化したものにすぎない
(c)テーブル間の関連
 このようにして設定されたテーブル間の関係は,各テーブルに格納されるデータの性質により,おのずから決定される。被告データベースのテーブル構成及び関連付けは,データベース構築の基本的な考え方に基づいて作成されたものにすぎない。
(d)マスターテーブルについて
 原告は,原告データベースにマスターテーブルが作成されていることをもって,原告データベースに創作性があると主張する。しかし,マスターテーブルとは,情報項目として繰り返し使用される項目を独立したテーブルに格納するものであって,データベース構築の基本的な考え方である。

〔裁判所の判断〕創作性肯定
(1)リレーショナルデータベースにおいて,情報の選択又は体系的な構成によってデータベースの著作物と評価することができるための重要な要素は,@情報が格納される表であるテーブルの内容(種類及び数),A各テーブルに存在するフィールド項目の内容(種類及び数),B各テーブル間の関連付けのあり方の点にあるものと解される。
(2)原告データベースが含まれる構造において,テーブルの項目の内容(種類及び数),各テーブル間の関連付けのあり方は,7個のエントリーテーブルと12個のマスターテーブルを有し,エントリーテーブル内には合計311のフィールド項目を,マスターテーブル内には78のフィールド項目を配し,各フィールド項目は,新築分譲マンションに関して業者が必要とすると思われる情報を多項目にわたって詳細に採り上げ,期分けID等によって各テーブルを有機的に関連付けて,効率的に必要とする情報を検索することができるようにしているものということができる。
 客観的にみて,原告データベースは,新築分譲マンション開発業者等が必要とする情報をコンピュータによって効率的に検索できるようにするために作成された膨大な規模の情報分類体系というべきであって,このような規模の情報分類体系を,情報の選択及び体系的構成としてありふれているということはできない。
 加えて,他に原告データベースと同様の情報項目,体系的構成を有するものが存在するとも認められないことは,原告データベースを含む構造をMRC社のデータベースが含む構造,不動産月報,不動産の表示規約,株式会社東京カンテイの新築マンション詳細情報等と比較精査しても明らかである。
 したがって,原告データベースが含む構造は,その情報の選択及び体系的構成の点において,著作権法12条の2にいうデータベースの著作物としての著作物性を認めるに足りる創作性を有するものと,認めることができる。
(3)被告主張に対する判断
・「原告データベースの情報項目等の選択はありふれている」との主張について
 原告データベースが含まれる構造をみても,7個のエントリーテーブル内には合計311のフィールド項目を,12個のマスターテーブル内には78のフィールド項目を配し,各フィールド項目は,新築分譲マンションに関して業者が必要とすると思われる情報を多項目にわたって詳細に採り上げたものと認められるのであって,これをセットとしてみたとき,創作性がないとはいえない。
・「原告データベースが含まれる構造とMRC社のデータベースが含まれる構造との同一性」について
 原告データベースが含まれる構造の全体とMRC社のデータベースが含まれる構造とを比較すると,原告データベースが含まれる構造に比べてMRC社のデータベースが含まれる構造は単純なものである。原告データベースが含まれる構造は,種々のテーブルを持ち,400に迫る多数のフィールド項目や多種多様な関連付けを持つ情報分類体系となっているから,その全体をみれば,情報項目等の選択の点に関するほか,体系的構成の点における創作性も優に認められるというべきである。つまり,個々のテーブル,フィールド項目や関連付けに着目するのではなく,テーブル間の多種多様な関連付けなどの全体を総体としてみれば,そこに創作性を認めることが可能である。
・「原告はアクセスを使ってリレーショナルデータベースを構築したことを述べるに過ぎず体系的構成の点に創作性はない」との主張について
 当該業界の状況や先行データベースとの関係等の制約から,当該業界で情報として必須とされる項目は限られてくると考えられるから,業界で通常必須とされる情報項目を設定したにすぎないような,多くの項目を含まないデータベースであれば,単に「アクセス」を使用してその業界一般の情報項目を設定して情報を分類する体系を作成したにすぎないとして,著作物性を否定される場合もあり得る。しかし,原告データベースが含まれる構造は,各フィールド項目は,新築分譲マンションに関して業者が必要とすると思われる情報を多項目にわたって詳細に採り上げ,期分けID等によって各テーブルを有機的に関連付けて,効率的に必要とする情報を検索することができるようにしているものであるから,マンション業界のだれであっても「アクセス」を使用すれば同じように作成することができるとはいえない。多数のテーブル,フィールド項目,関連付けを,素材となるデータも含めて全体としてみると,著作物性を認めるに足りる創作性を否定することはできない。
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争点2(1) 被告データベースが原告データベースに依拠して作成されたものか。
〔原告の主張〕
 被告データベースは,原告データベースのデッドコピーである。被告データベースは,コピー隠しのため多少の変更はされているが,基本的には,原告データベースの具体的データを始め,データ項目,テーブル構成,関連付けなどその体系的構成のほとんど全部をコピーしたものである。したがって,被告データベースは,原告データベースに依拠し,これを複製したもの。

〔被告の主張〕
 原告データベースと被告データベースとは,その相違点からみて,別個の著作物である。被告データベースは,原告データベースに依拠しておらず,原告データベースを複製したものではない。データベース作成日時,テーブルの数や種類,関連付け,データ量が異なる。

〔裁判所の判断〕被告データベースは,原告データベースに依拠して作成
(1)事実経過

(2)両データベースの対比
 被告データベースは,テーブルの内容(種類及び数),各テーブルに存在するフィールド項目の名称,テーブル間の関連付けのすべての点からして,原告データベースの構造の一部分とほぼ完全に一致すると認められる。
(3)両データベース間で素材とする情報が重なっている
(4) 上記の(1)〜(3)によれば,被告データベースが素材とする情報が原告データベースと重なっており,制作されたテーブルの内容(種類及び数),各テーブルに設定されたフィールド項目の内容,各テーブル間の関連付けのあり方のすべての点において共通しているということができる。
(5)以上を総合すれば,被告データベースは,原告データベースに依拠して作成されたというべきであって,原告データベースを含む構造は,被告データベースを含む構造とその内容の点で同一である。

争点2(2) 原告データベースのうち被告データベースと共通する情報及び構成が,著作物性を認めるに足りる創作性を有するか。
〔原告の主張〕
 原告データベースは著作権法にいうデータベースの著作物に該当し,原告データベースの被告データベースと共通する情報及び構成も,著作物性を認めるに足りる創作性を有している。
〔被告の主張〕
 原告データベースのうち被告データベースと共通する情報及び構成は,著作物性を認めるに足りる創作性を有しない。仮に原告データベース全体の情報の選択に創作性の認められる部分が存在するとしても,被告データベースが設定している情報分類項目は,不動産情報の開示としては必要最低限の項目にすぎない。被告らは原告データベースの情報分類項目のうち,創作性のない部分を重複して情報分類項目として設定しているにすぎない。また,体系の設定の点についても創作性はない。

〔裁判所の判断〕原告データベースのうち被告データベースと共通する情報及び構成が著作物性を認めるに足りる創作性を有する
 原告データベースにおいて,被告データベースの構造と共通し,被告らが原告データベースの当該部分を複製したと認められる部分(原告データベース被複製部分)の創作性について,被複製部分のテーブルの項目の内容(種類及び数),各テーブル間の関連付けのあり方についてみると,この部分だけでも,7個のエントリーテーブルと12個のマスターテーブルを有し,エントリーテーブル内には合計229のフィールド項目を,マスターテーブル内には68のフィールド項目を有しており,期分けID等によって有機的に関連付けられていて,十分効率的に必要とする情報を検索することができるといえる。
 客観的にみて,原告データベース被複製部分のみをとっても,新築分譲マンション開発業者等が必要とする情報をコンピュータによって効率的に検索できるようにするために作成された,膨大な規模の情報分類体系といわなければならず,このような規模の情報分類体系を,情報の選択及び体系的構成としてありふれているということは,到底できない。
 したがって,原告データベースのうち被告データベースと共通する情報及び構成が著作物性を認めるに足りる創作性を有するといって妨げない。

結論
  以上によれば,被告データベースは原告データベースを複製したものであり,原告の有する同データベースの著作権(複製権)を侵害するものと認めるのが相当である。
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関連判例
平成12年3月17日東京地裁 平成8年(ワ)第9325号 著作権侵害差止等請求事件(日本電信電話−ダイケイ)
〔事案〕
原告は自ら作成したデータベース(タウンページデータベース)及び職業別電話帳(タウンページ)には,それぞれデータベースの著作権及び編集著作権が認められ,被告によるデータベース(業種別データ)の作成及び頒布が,原告の右各著作権を侵害するものと主張して,被告に対し業種別データの作成及び頒布の差止及び廃棄並びに損害賠償を求めた。

〔争点〕
1(1)タウンページデータベースのデータベースの著作物性
 (2)業種別データがタウンページデータベースのデータベースの著作権を侵害しているか
2(1)タウンページが編集著作物といえるか
 (2)業種別データがタウンページの編集著作物を侵害しているか
3原告の損害

〔裁判所の判断〕
争点1(1)職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類した点において,タウンページデータベースのデータベースの著作物性を認定
 タウンページデータベースの職業分類体系は,検索の利便性の観点から,個々の職業を分類し,これらを階層的に積み重ねることによって,全職業を網羅するように構成されたものであり,原告独自の工夫が施されたものであって,これに類するものが存するとは認められないから,そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類したタウンページデータベースは,全体として体系的な構成によって創作性を有するデータベースの著作物であるということができる。
 職業分類に個々の電話番号情報を当てはめるための過程,掲載名等への配慮, タウンページデータベースについて随時見直しを行っていること等は,創作性を有するということはできない。
1(2)業種別データによるタウンページデータベースの著作権侵害を認定
 業種別データはタウンページデータベースに依拠して作成されたものであり,その創作性を有する体系的な構成が再現されているということができる。被告は,業種別データを作成し,その中から特定の地域,業種など,顧客の要望する単位でデータを抽出して頒布しているのであるから,このような業種別データの作成及び頒布はタウンページデータベースの著作権を侵害するものであるということができる。
2(1)職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類した点において,タウンページの編集著作物性を認定
 タウンページとタウンページデータベースの職業及び電話番号情報は,それぞれ同じ内容である。
 タウンページの職業分類は,検索の利便性の観点から,個々の職業を分類し,これらを階層的に積み重ねることによって,全職業を網羅するように編集されたものであり,原告独自の工夫が施されたものであって,これに類するものが存するとは認められないから,そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類したタウンページは,素材の配列によって創作性を有する編集著作物であるということができる。
 あてはめの過程,掲載名等への配慮,随時見直しを行っていること等は,創作性を有するということはできない。
2(2)業種別データによるタウンページの編集著作権侵害を否定
 業種別データはタウンページデータベースから作成されたものであって,タウンページに依拠して作成されたことは認められない。(*但し,タウンページデータベースがタウンページの二次的著作物であるとするならば,業種別データがタウンページデータベースに依拠して作成されたことからタウンページにも依拠して作成されたという余地があるが,このような主張立証はない。) 

平成12年11月30日東京高裁 平成10年(ネ)第3676号 損害賠償請求控訴事件(控訴人:アサバン−被控訴人:東日本電信電話)

〔事案〕
原告が出版を予定していた東京23区を地域別に6分冊化した職業別電話帳について(2〜6分冊は途中まで作業が行われたが中断),平成4年以降のタウンページがその編集著作権を侵害しているとして損害賠償を請求した。

〔争点〕
1. 対象となる著作物
2. 電話帳の創作性
3. 複製権・翻案権侵害

〔裁判所の判断〕
2.編集著作物として保護されるのは編集方法というアイデアではなく,素材の配列,選択によって表現されたもの
 控訴人水上は,その精神活動に基づいて,東京二三区のうち台東区,葛飾区,墨田区,江戸川区の四区を選び,会議メモのページ,住所電話書抜欄のページ,求人広告欄のページなどを加えつつ,また,一般広告のほか割引券付き広告をも掲載しつつ,右四区内の電話加入者に係る控訴人電話帳(第一分冊)を作成したというのであるから,素材の選択又は配列を含めた電話帳全体に控訴人水上の思想又は感情が表現されているものということができ,この具体的な表現は,誰が行っても同じになるであろうといえるほどにありふれたものとはいえないから,控訴人電話帳(第一分冊)には,表現されたものの全体として創作性が存在するものと認めるのが相当である。
 控訴人電話帳(第一分冊)は,現実に具体的に表現されたもの自体としては,創作性が認められ,著作権法による保護に値するということができるものの,控訴人ら主張の内面的表現形式は,それ自体としては,著作権法による保護の対象とはなり得ないものという以外になく,また,その保護の範囲は,狭いものとならざるを得ないのである。
3.控訴人電話帳は,それを作成する上での発想(控訴人らのいう内面的表現形式)に格別の創作性が認められず,その保護の範囲も狭いものであることからすれば,たとい,両者を作成する上での発想(控訴人らのいう内面的表現形式)に共通するところがあったとしても,そのことが,控訴人電話帳の著作物についての保護の範囲を考えるうえで,当該保護の範囲を拡張する方向に働くものとなることは,あり得ないものというべきである。

平成13年5月25日東京地裁中間判決 平成8年(ワ)第10047号甲事件:損害賠償等請求事件 平成8年(ワ)第25582号乙事件:不正競争行為差止請求事件(翼システム−システムジャパン)

〔事案〕
原告は,自ら開発した自動車整備業用システムの構成要素となっている日本国内に存在する四輪駆動車に関する一定の情報を収録したデータベースについて,被告が複製をしているとして原告データベースの著作権を侵害するか又は不法行為を構成するとして被告データベースの製造等の差止及び損害賠償を請求した。

〔争点〕
1. 本件データベースの著作物性
2. 被告が本件データベースないしその車両データを複製したか
3. 被告が本件データベースの車両データを複製したことが不法行為に当たるか

〔裁判所の判断〕
1.本件データベースは,データベースの著作物として創作性を有するとは認められない。
(1)対象となる自動車の選択について創作性否定
本件データベースは,原告が,日本国内に実在する国産又は国内の自動車メーカーの海外子会社によって日本国内販売向けに海外で製造された四輪自動車であると判断した自動車のデータ並びにダミーデータ及び代表データを収録したものであると認められるが,以上のような実在の自動車を選択した点については,国内の自動車整備業者向けに製造販売される自動車のデータベースにおいて,通常されるべき選択であって,本件データベースに特有のものとは認められないから,情報の選択に創作性があるとは認められない。
(2)自動車に関するデータ項目の選択について創作性否定
本件データベースで収録している情報項目は,自動車検査証に記載する必要のある項目と自動車の車種であるが,自動車整備業者用のシステムに用いられる自動車車検証の作成を支援するデータベースにおいて,これらのデータ項目は通常選択されるべき項目であると認められ,実際に,他業者のデータベースにおいてもこれらのデータ項目が選択されていることからすると,本件データベースが,データ項目の選択につき創作性を有するとは認められない。
2.被告が,本件データベースのデータを複製して,これを被告データベースに組み込み顧客に販売していたことは明らかである。
3.人が費用や労力をかけて情報を収集,整理することで,データベースを作成し,そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において,そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを,その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は,公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において,著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして,不法行為を構成する場合があるというべきである。

  

コメント
・ 創作性の判断について,本件では市販ソフトを使用して作成されたデータベースであり,その意味では創作性も限定的となるか。新規であることを要するとしているようにも読めるが(先行データベースとの比較,「ありふれた」),新規であれば創作性が認められるという程度の意味であろうか。通常の著作物の創作性に関する基準と異なるのか(*アサバン判例)。どんなデータベースも時間の経過とともにありふれたものになるのではないか。

・ 「全体を総体としてみれば」「膨大な規模の情報分類体系」として創作性を認めている。リレーショナルデータベースであることの特殊性があるか。テーブルの内容・テーブル間の関連付け=体系的構成?本件では情報の選択及び体系的構成として合わせて検討しているようである。被告の体系的構成の主張に対して情報の選択についても判断しているのではないか(被告はMRC社データベースの構造に関する主張をしているのか?)。

・ 翼システム事件ではデータ項目は通常されるべき選択であり構成も番号が古い順に並べてあるにすぎないものとして創作性を否定しているが,より情報の選択が詳細であったり,ある程度体系的構成がされていれば創作性が認められたか。データベースの体系的構成について編集著作物の配列と同様の基準で考えられるか(タウンページ判例では同様に判断)。

・ どの程度の一致により複製について損害賠償責任を負うといえるか。創作性が認められる場合とそうでない場合(翼システム判例のような不法行為)とで判断基準は同じか。コストがかかった1部分のみ複製された場合の扱いはどうか。

 

以上

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