DSC COMMUNICATIONS v. PULSE COMMUNICATIONS


水谷法律特許事務所 弁護士 粟田 英一
東芝情報システム(株)    清水 豊

<<事件の概要>>

 本件は陪審でのトライアルとして審理され,被告PULSECOMは,審理の終結に際して,原告DSCによる訴因に対する法的判断を求めた。裁判所は、いずれの訴因についても被告PULSECOMの申立を認容した。
 コンピュータソフトウェアの必要な複製及び改変を認める米国著作権法117条は,ライセンシーが「複製物の所有者」である場合,ライセンスされたソフトウェアにも適用されるとした判決。

当事者 ・原告:DSC Communications Corporation
    (以下DSC)
・被告:PULSE Communications Inc.
    (以下PULSECOM)
裁判所 連邦地方裁判所ヴァージニア東地区アレクサンドリア支部
判決日 1997年 6月10日
関連法令
   (条文)
17U.S.C.§117,§106,§107,§301
Va.Code Ann. ##59.1-336,59.1-337,59.1-338
判 決 被告の申立を容認
キーワード 複製物の所有者の権利,リヴァースエンジニアリング,
間接侵害(寄与侵害),公正使用(フェア・ユース)



<<資料目次>>

【T.事案の概要】
  1.原告DSCの業務内容
  2.被告PULSECOMの行為

【U.原告の主張および裁判所の判断】
  1.POTS-DIソフトウエアの間接侵害
  2.ソフトウエア著作権の直接侵害(リヴァース・エンジニアリング)
  3.トレードシークレットの不正使用(ヴァージニア州法)
  4.取引の機会の妨害(不法行為)

【V.判決における法的問題点】
  1.コンピュータ・プログラムの複製物の所有者による複製に関する米国著作権法117条について
  2.リヴァース・エンジニアリング(RE)と公正使用(フェア・ユース)
  3.米国著作権法301条に基づく州法の適用除外
  4.著作権の間接侵害(米国著作権法の場合)

【W.参考文献】

【X.コメント】


【T.事案の概要】

  1. 原告DSCの業務内容
    1. Litespanの販売
      •  DSCは,Litespan 2000 System(以下「Litespan」という)として知られる電信デジタル変換システムを製造及び販売する会社である。
      •  Litespanを購入する顧客は,主に地域のベル・オペレーテング会社(Bell Atlantic,NYNEX,Ameritech,Pacific Bell,U.S. West and Bell Southを含む,以下「RBOC」という)である。
      •  Litespanは,plug-in channel cardを通じて,著作権登録されたソフトウエアを使用するPlain Old Telephone Service(以下「POTS」という)として知られている住宅向けのサービスの提供を運営するシステムである。

    2. POTSカードの機能
      •  POTSカードは,電話信号を顧客に対して伝達するためのインターフェースとしての機能を果たしており,原告DSCは,Litespanの機能を実行するために,POTSカードを,ソフトウエアをダウンロードするマイクロプロセッサおよびRAMを含む装置として製品化した。
      •  上記のダウンロードの対象となるソフトウエアは,POTSダウンロードイメージまたはPOTS-DIと呼ばれている(以下「POTS-DI」という)。
      •  DSC製のPOTSカードのマイクロプロセッサは、初期にセットされた「DSC RPOTS boot code」というソフトウエアを実行する。
      •  「DSC RPOTS boot code」の機能
        @Litespanによるその後の指令を可能にするため,マイクロプロセッサに対し,初期のインストラクションセットを提供する。
        APOTSカードのマイクロプロセッサとApplication Specific Integrated Circuit(以下「ASIC」という)の交信を開始する。

    3. POTSの概念図(snooper boardは本件のみ使用)

      POTS


  2. 被告PULSECOMの行為
    1. POTSカードのリヴァースエンジニアリング
      •  1993年からPULSECOMは,DSC製のPOTSカードのリヴァースエンジニアリングを開始した。以前にPALSECOMは,POTSおよび他のプラグインカードをAT&Tデジタル・ループ・キャリアシステムで用いるために,リヴァースエンジニアリングに成功している。
      •  1993年秋PULSECOMは,DSC製のPOTSカードのリヴァースエンジニアリングに際して,DSCのエージェントからLitespanシステムを購入した。PULSECOMに配送されたLitespanは,その使用に関し何のライセンスおよび制限はなかった。
      •  1994年にPULSECOMは,リヴァースエンジニアリングを完了し,自社製のPOTSカードをLitespanシステムと互換性ある製品として販売を開始した。このPOTSカードはLitespanシステムのためにのみ限定して設計された。

    2. DSCとの競合
      •  1994年2月,DSCは,Bell Atlantic に対し4,000万ドルでLitespanシステムのためのPOTSカードを含む製品を販売することを申し入れた。
      •  PULSECOMはこの申し入れがあったことを知り,DSCよりも低い価格で,Bell Atlanticに対しPOTSカードの販売を申し入れた。
      •  1994年3月,結局DSCはBell Atlantic と当初の価格を大幅に下回る2,700万ドルで最終的に合意し契約を締結した。

    3. ロック・アウトソフトウェアの調査
      •  1994年から96年にPULSECOMは,DSCによりインストールされたロック・アウト用のソフトウエアにより,PULSECOM製のPOTSカードによるLitespanシステムの作動が妨害されていると判断し,顧客であるAmeritech,Bell Atlantic,NYNEXの研究室に自社製のPOTSカードを設置した。
         NYNEXに対しては,snooper board をPOTS カードと共に送付した。
      •  snooper boardは,PULSECOMのboot code のメモリ上の位置を確定するために使用された。
      •  PULSECOMは,NYNEXのsnooper board から,LitespanシステムがDSC製のカードか他社製のカードかを見分ける手がかりとなる,PULSECOMのboot codeの位置を決定する情報を獲得した。
      •  試験に当たっては,Litespanからいかなるソフトウエアも得ず,DSCのロックアウトコードを調査するため,PULSECOMのPOTS boot code へのタイミングとアクセス数を記録したのみであった。
      •  PULSECOMは,Bell South での研究室でもPOTSカードの試験に着手し,そこで実施されているLitespanのマニュアルから,あるコマンドに関する情報を得た。このコマンドはある環境の下でLitespanシステムの「規約」として使用されていた。


【U.原告の主張および裁判所の判断】

  1. POTS-DIソフトウエアの間接侵害
    (原告の主張)
    •  被告PULSECOMは,試験用のPOTSカードをRBOC各社に供給することにより,(RBOC各社の使用を通じて)DSCのPOTS-DIソフトウエアの著作権を間接的に侵害した。

    (主張の根拠)
    •  DSCの顧客であるRBOCは,PULSECOM製のPOTSカードの試用の際にDSCのPOTS-DIのソフトウエアを,当該POTSカードにダウンロードしているが,当該ダウンロードはDSCがRBOCに対して許諾していない使用形態である。
       すなわち,PULSECOMはRBOCに対しPOTSカードを供給することにより,DSCのPOTS-DIソフトウエアの著作権を間接的に侵害している。
    •  DSCは,RBOC各社との契約によりRBOC各社に対しDSC製のPOTS-DIソフトウエアを,DSCが製造したかまたは同社が許諾したPOTSカード以外のPOTSカードにダウンロードすることを禁止していた。

    (裁判所の判断)
    •  米国著作権法117条は,コンピュータプログラムの所有者が,著作権者の許諾を得ずに,当該プログラムの複製物を作成し得ると規定し,著作権者の権利を制限している。
       本件において,コンピュータプログラムの複製物の所有者としてのRBOCが,その複製物が他の態様で使用されない限り,プログラム製作における「不可欠の手順」として複製物を作成し,または作成を許諾することは著作権侵害に該当しない。
    •  DSCとその顧客(RBOC)との間にソフトウエアのライセンス契約が存在することは,RBOCが著作権法117条にいう「複製物の所有者」であると認定することの妨げにはならない。
       本件では,RBOC各社はLitespanソフトウエアを一回払いで購入し,その永久使用を保障されているといえるから,DSCのPOTS-DIソフトウエアの複製物の合法的な所有者として,著作権法117条の「複製物の所有者」に含まれる。
       Litespan中でPOTSカードが作動するためには,DSCのPOTS-DIソフトウエアは,一時的にPULSECOMのPOTSカードのRAMの中にダウンロードされる必要があった。
    •  DSCとRBOC各社との契約は,共通して以下の条項を有している。
      @RBOCに対し,第二の販売元から同等の機器を購入する権利を留保する旨の非独占的販売権に関する条項
      ARBOCに対し,DSCソフトウエアが意図する機器においてDSCのソフトウエアを使用する権利を認めるソフトウエア権利条項
      BDSCが,契約の履行において全ての連邦法の規定に従う旨の条項

       RBOC各社に対し,第二の販売者から互換性あるPOTSカードを購入し得る条項を設けながら,他方でRBOC各社に対しLitespanシステム上でそのPOTSカードの使用を禁ずるのは無意味である。
       契約書におけるソフトウエア権利条項は,DSCから購入したLitespanにおけるDSCのソフトウエアの使用を制限するに過ぎず,RBOC各社が当該ソフトウエアを互換性あるPOTSカード上で使用することを禁じていない。
       すなわち,RBOC各社はDSC製のソフトウエアを,PULSECOM製のPOTSカードを含む互換性あるチャンネルカードの試験のために使用することを許容されていた。

  2. ソフトウエア著作権の直接侵害(リヴァース・エンジニアリング)
    (原告の主張)
    •  被告PULSECOMは,DSCが有する@POTS-DIソフトウエア,ARPOTSのboot codeソフトウエア,BLitespanのシステムソフトウエアの各著作権を直接侵害している(Aの侵害の主張については裁判終結時に撤回した)

    (主張の根拠)
    •  PULSECOMは,競合するPOTSカードを開発するためのリヴァースエンジニアリングの工程の一部でDSCのソフトウエアを複製したことは直接侵害である。
    •  PULSECOMは,同社製のPOTSカードを,Bell SouthおよびNYNEXの研究室においてLitespanの機器に挿入しており,その結果,PULSECOMは直接侵害の責任を負う。

    (裁判所の判断)
    •  PULSECOMによるDSCのソフトウエアの複製は,競合するPOTSカードを開発するためのリヴァースエンジニアリングの過程で行われたものであり,合法的に取得したシステムのリヴァースエンジニアリングは,著作権法107条のフェア・ユースに該当する。
       著作権法は,フェア・ユースの理論により,著作物を合法的に取得した者,そして,作品の機能的ないし保護されない要素を理解するための著作物をリヴァースエンジニアリングする者を,著作権侵害の主張から保護している。
       DSCの著作権のあるプログラムを解析・複製することは,当該プログラムを構成する要素に接近する唯一の手段である。そして接近の理由は競合するPOTSカードの開発であるから,前記複製は法的にもフェア・ユースである。
       すなわち,コンピュータプログラムの保護されないアイデアを識別するためのオブジェクトコードのリヴァースエンジニアリングは,フェア・ユースである。
    •  PULSECOM製のPOTSカードを,Bell South のLitespanに対して許可なく挿入したことを証明する証拠はない。PULSECOMの従業員が実際に同社製のPOTSカードをBell SouthのLitespan に挿入したことを証明する証拠もない。
    •  snooper boardを装着したPULSECOM製のPOTSカードは,NYNEXにおけるLitespanの機器に挿入されたが,当該カードがPULSECOMによって挿入されたということを証明する証拠はない。

  3. トレードシークレットの不正使用(ヴァージニア州法)
    (原告の主張)
    •  被告PULSECOMは,DSCのトレードシークレットを不正使用しており,ヴァージニア州統一トレードシークレット法(UTSA)に基づき,差止および損害賠償責任を負う。

    (裁判所の判断)
    •  証拠によれば,POTSカードをリヴァースエンジニアリングするため,PULSECOMは,Litespanシステムを公開の市場から合法的に購入したことが認められる。よって,PULSECOMは,トレードシークレットの「不正使用(Misappropriation)」の定義を構成する「不当なる手段(improper means)」により,Litespanシステムを取得したとはいえず,PULSECOMによりDSCのトレードシークレットは不正使用されていない。
    •  PULSECOMが,NYNEXから獲得した情報は,LitespanシステムにおけるPOTSカードがDSC製か否かを見分けるboot coad の位置に関する情報であり,Bell Southから獲得した情報は,Litespanシステムの規約についてのコマンドであるが,これらの情報がDSCのトレードシークレットであるとは認められない。
    •  DSCによるトレードシークレットの侵害に関する主張は著作権法301条により無効である。第4巡回裁判所は,最近著作権法301条によりアラバマ州法で,ある改変著作物の侵害主張に関する法令を無効にする旨判断した(Berge v. Trustees of Univ. of Ala, 104 F.3d 1453, 1463-64 (4th Cir. 1997))。著作権法301条による無効の結果を回避するためには,著作権侵害の請求(主張)に比べて質的な相違をもたらす,州法の援用による訴訟の本質を変える特殊な要素が必要である。
       DSCによるトレードシークレット侵害の主張は,DSCが著作権を有するソフトウエアのアイデアが不正使用されたという本質的な主張を越えたいかなる特別な要素も含んでいない。

  4. 取引の機会の妨害(不法行為)
    (原告の主張)
    •  被告PULSECOMは,1994年2月から3月にかけてDSCとBell Atlanticの間でもたれた交渉に関し,DSCのビジネスの可能性を不当に侵害した

    (裁判所の判断)
    •  不法行為の請求を構成する要件は,@有効な契約上の関係または期待の存在,A契約関係または期待を妨害することの認識,B契約関係または期待に対する違反または終了することへの意図的な妨害,C損害の発生,であるが,仮にビジネス関係が期待のみで契約にまで到っていない場合は,上記の要件に加え,D将来の経済的な利益獲得の可能性,E被告による故意の誘導がなければ,原告が契約関係を継続するか期待を現実化することができるという合理的な確信をも含む。
    •  PULSECOMは,DSCの価格よりも低い価格で,Bell Atlantic に対し,POTSカードの販売を申込んだが,このことが,Bell AtlanticとDSCとの間の4,000万ドルの取引を断念させた理由にはならない。 Bell Atlantic が上記取引の継続をしなかったことには,数ある経営上の根拠がある。DSCは,94年3月当時,4,000万ドルの取引をBell Atlanticと行う合理的な期待を有しておらず,PULSECOMが,Bell Atlantic のPOTSカードのビジネスをめぐり,DSCと競争した行為は何ら不当ではない。
    •  その他,判決文の冒頭において原告DSCは,被告PULSECOMが取引に際し誤った説明をした旨の申立をした旨の記載があるが,明確な判断はされていない。


【V.判決における法的問題点】

  1. コンピュータ・プログラムの複製物の所有者による複製に関する米国著作権法117条について
    (規定の内容)
       著作権法117条 独占的権利に対する制限(コンピュータ・プログラム)

       第106条の規定にかかわらず,コンピュータプログラムの複製物の所有者が,以下に規定する当該プログラムの複製物ないし翻案物を作成し,あるいは他人をしてそれを行わせることは,侵害に当たらない。
       (1)当該新たな複製物ないし翻案物が,当該コンピュータ・プログラムを機械と組み合わせて使用するにあたって必要不可欠な手順として作成され,かつそれ以外の態様では使用されない場合。
       (2)作成された新たな複製物ないし翻案物が,保存目的のためにのみ作成され,かつコンピュータ・プログラムの継続的な所有が正当なものでなくなった場合には,全ての保存目的の複製物が破棄される場合。

    (立法趣旨)
    •  コンピュータ・プログラムの使用には,その過程において必然的に複製・翻案が必要となる場合がある(プログラムをコンピュータの記憶媒体にダウンロードすること,バックアップコピーを作成すること等)。
    •  そこで,プログラムの複製物を所有する者には,当該プログラムの使用のため許容できる範囲内において,これを複製・翻案する権利を付与するため,著作権侵害の例外規定を設けた。
    •  但し,複製・翻案する権利を有する者は,「コンピュータ・プログラムの複製物の所有者」に限定されているため,譲渡当事者間の契約により,プログラムの複製物の所有権を留保する(貸与等)特約を設けることにより,117条の適用を回避することは可能である。
    •  もっとも,プログラムの複製物の所有権に関する約定が当事者間で明確にされていたとはいい難い場合,または所有権留保を契約上明記してあったとしても,取引の実体はプログラムの複製物の売買契約に他ならない場合に,いかなる解決がなされるのが相当であるか問題となる。

    (日本著作権法との対比)
    •  なお,日本法においても,著作権法47条の2の規定が設けられており,「同条1項において,「プログラムの著作物の複製物の所有者」は,「自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において」,当該著作物の複製又は翻案(中略)をすることができる旨規定されている。
    •  なお,著作者人格権としての同一性保持権に関する著作権法20条2項3号において,電子計算機において利用可能にするため必要な改変,またはより効果的に利用可能にするため必要な改変に限り,同一性保持権の侵害には該当しない旨の規定が設けられている。
    •  上記著作権法20条2項3号が設けられた背景には,プログラムの著作物の利用に当たっては,バグの修正,ヴァージョンアップ等の修正・増減がプログラムに対して加えられるのが通常であり,上記修正・増減により,著作者の利益は損なわれないとの考え方がある。

    (米国著作権法117条および日本著作権法47条の2の法的性質論)
    •  プログラムの複製物の所有権を移転する形態にて取引が行われた場合にも,上記各条項の適用を,譲渡当事者間のライセンス契約等により排除することが可能か否か問題となる。
    •  このことは,各条項の性質が任意規定か強行規定かの問題にも関連する。
    •  以下,日本著作権法47条の2について論じられた見解を掲記する。
      1. 任意規定と解する見解(当事者間の特約により排除が可能)
        (根拠)
        •  著作権法47条の2第1項(以下「本条項」という)に規定する「プログラムの複製物の所有者」と,単に当該複製物の貸与を受けた者との間に,プログラムの複製・翻案の可否について格差を設けるのは妥当でない。
        •  従って,本条項の適用範囲が不明確である以上,本条項は任意規定と解するべきである。
      2. 強行規定と解する見解(当事者間の特約によっても排除ができない)
        (根拠)
        •  本条項は,著作権法30条以下の著作権の制限規定の一つとして設けられており,これら制限規定は一般に強行規定と解されている。
        •  米国法下での関連判例:ボールト対クエイド事件(87年2月12日ルイジアナ州東部地方裁判所)
             プログラムのライセンス契約およびルイジアナ州のソフトウエアライセンス実施法(当事者間の契約により著作権の帰属を譲渡人に留保することが可能といった条項を含む)が,著作権法117条に抵触するため,どの規定が優先適用されるかについて問題となった。
             まず,裁判所は,上記ライセンス契約につき,バックアップコピーの作成を阻止する内容であったが,ソフトウエアの使用に際しては,バックアップコピーを作成することが必要不可欠な手順であるため,著作権法117条を適用し,当該バックアップコピーは,著作権侵害行為とならない旨の判断を示した。
             続いて,裁判所は,著作権法301条により,著作権法上の権利内容を州法により変更することはできず,上記実施法の内容は,著作権法と抵触するから,上記実施法は強制力を有しない旨判断した。

  2. リヴァースエンジニアリング(RE)と公正使用(フェア・ユース)
    (リヴァースエンジニアリング(以下「RE」と称する)について)
     定義の一例:他人の工業製品を解析し,そこからその技術(構造ないし設計)を探求すること
    •  日本法では,特許法69条(試験または研究のための実施には特許権の効力は及ばない旨の規定),半導体回路配置法12条2項(解析または評価のために登録配置権を用いて半導体集積回路を製造する行為には回路配置利用権の効力は及ばない旨の規定)が設けられている。
    •  そこで,コンピュータ・プログラムのREが当該プログラムの著作権の侵害行為に当たるか否かが問題となる。

    (米国著作権法107条の内容)
       米国著作権法107条 独占権への制限:公正使用

       第106条にかかわらず,著作権の成立している著作物の公正使用は,著作権侵害にはあたらない(中略)。
       ある著作物における既存著作物の使用が公正使用に当たるか否かの判断にあたっては,以下の要素が考慮されるべきである。
       (1)使用の目的と性質 その使用が商業的なものか非営利の教育的なものかといった考察も含む
       (2)著作権のある著作物の性質
       (3)著作物全体の関係における使用された部分の量および重要性
       (4)著作物の市場または価値に対する使用の影響

    (米国におけるREの適法性に関する判決)
    •  上記REが米国著作権法上の「公正使用」に該当し,著作権侵害行為に触れないのか問題となる。
    •  この点につき,米国では2件の重要な判決例が存在する。
    •  アタリ対任天堂事件(92年9月10日連邦巡回控訴裁判所判決)
      (概要)
       アタリが任天堂製のゲーム機に対応するゲームカートリッジを作成するため,オブジェクト・コードを読み出して複製物を作成し,右複製物をコンピュータ上で作動させる行為は,著作権侵害行為とならないという判断が判決理由中で示された。
       もっとも,判決の結論においては,アタリ社は敗訴した。
    • セガ対アコレイド事件(92年10月20日米国第9巡回控訴裁判所判決)
      (概要)
       セガは,REの過程で行われるプログラムの複製行為は違法である旨主張したが,裁判所は,アコレイドがゲーム・カートリッジをREした行為は合法である旨判断した。
    •  以上,米国においては,コンピュータ・プログラム中の構造・アイデアを探求するために,プログラムをREにかけることは適法であるとの判断が下されている(本判決も上記2判決を引用して判断を行っている。)

  3. 米国著作権法301条に基づく州法の適用排除
    (規定の内容)
     301条 他の法律に対する先占

     (a)1978年1月1日以降においては,有形の表現媒体に固定された著作物における,106条所定の著作権の一般的範囲内にある独占的権利と等価であり,かつ102条および103条所定の著作権の対象物の範囲内にある,全ての法的ないし衡平法上の権利は,その創作が同日の前後を問わず,また未発行ないし既発行を問わず,本法のみにより規律されるものとする。
     以後は,何人もいかなるコモンローないし州の制定法においても,前記権利ないし等価な権利の保護を受けられないものとする(以下略)。

    (解釈上の留意点)
    •  301条(a)の適用は「有形の表現媒体に固定された」著作物に限定されている。
    •  また,著作権法106条で定める著作権の内容と等価な権利に対して適用されるものとしている。本判決では根拠とする州法に基づく主張(営業秘密の不正使用)が著作権侵害の主張と質的に異ならないという判断が示された。
    •  なお,州法の適用排除の判断が示されたにもかかわらず,裁判所は,その判断の直前において,本件の具体的事案に,ヴァージニア州統一トレードシークレット法の条項を適用し,被告PULSECOMの行為が「営業秘密」の不正使用」に該当しない旨の事実関係に関する判断も併せて示している点が注目される。

  4. 著作権の間接侵害(米国著作権法の場合)
    •  米国においては,明文規定はないが一般法理として,著作権の間接侵害の概念が認められている。
    •  実際に著作権を侵害した者以外の者でも,無権限で,他人にその権利の行使を許可,またはこれに協力した者は著作権侵害行為に対する責任を負うことがある。


【W.参考文献】



【X.コメント】

  1.  本件における著作権法117条と契約の関係は非常に興味深い。本件ではソフトウエア購入の取引形態および契約条項の矛盾(非独占的販売権とソフトウエア権利条項)及び実質的な売買契約となる契約形態を理由にプログラムの複製を認容しているが,所有権の譲渡を伴わない場合(インターネット上でプログラムを配布する場合など),取引の実体はプログラムの複製物の売買契約に他ならない場合に,いかなる解決がなされるのが相当であるか注目される。

  2.  本判決は互換性のある製品の開発目的のため,他の手段が無い場合に限り著作権のあるプログラムをリヴァースエンジニアリングすることはフェア・ユースになると判断している。
     アタリ対任天堂判決,セガ対アコレード判決を経て米国のリヴァースエンジニアリングに対する流れが固定化したと思われる。



                                      以 上

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