ニューヨーク南部連邦地裁の出した、ＮＢＡの試合の最新のスコアや統計をプレー中に表示するぺージャーの販売を禁止する内容の無期限の差止命令につき、被告は控訴し、控訴裁判所は原審を破棄した。

1. 事実関係
2. 控訴裁判所の判断
• 州法上の不正目的使用の主張
• NBAの交差上訴
3. 結論

• 　モトローラはSportsTraxというページャー（ポケベルのようなもの）を販売しており、STATSはそのぺージャーに送信されるＮＢＡの試合の情報を提供している。



• 　ぺージャーは4つの基本モード「現況」「統計」「最終スコア」「デモンストレーション」で作動。本件では「現況」モードが問題となる。



• 　「現況」モードではNBAの進行中のゲームの情報、すなわち、(i)試合中のチーム、(ii)得点の変化、(iii)ボールを持っているチーム、(iv)チームがフリー・スローの立場にあるか否か、(v)ゲームのクオーター、(vi)そのクオーターの残り時間が表示される。



• 　STATSは、レポーターにテレビやラジオから得た試合の得点の変化やその他の情報（シュートの成否、ファウル、時間の経過等）をパソコンで打ち込ませ、STATSのホストコンピュータに送信させ、そこでデータの集積・分析・整理を行なう。



• 　この情報は、通信業者→衛星→FMラジオネットワーク→SportsTraxページャーと送信される。

［原告の主張］
　　進行中の試合の情報をページャーに流す被告の行為は以下にあたると主張

　　 (i) 不正目的使用(misappropriation)による州法上の不公正競争
　　 (ii) ランハム法43(a)条の下の虚偽広告
　　 (iii)ランハム法43条の下の出所の不実表示
　　 (iv) 虚偽広告と出所の不実表示による州法とコモンロー上の不公正競争
　　 (v) 連邦法上の著作権侵害
　　 (vi) 1934年通信法605条の下の不法妨害

［被告の主張］
　　モトローラは、NBAがモトローラとSportsTraxを後援し広告することを約束した4つのNBAチームとの間の契約上の関係を不法に妨害していると反対請求を提示。

［地方裁判所の判断］
　　原告の主張(i)を除いた原告の主張全てを退け、被告の反対請求も棄却。
　　主張(i)につき、地裁はモトローラとSTATSの不正目的使用の責任を認め、無期限の差止めを命じた。

　　→被告は差止めについて控訴、原告も主張の(ii)が棄却されたことにつき反控訴した。

Ａ．催し又は催しの放送に対する著作権
　NBAは基礎となった試合とその放送に関する著作権侵害請求の棄却に対し控訴していないが、NBAの不正目的使用の主張の成立可能性を著作権法の専占効果に照らして分析するため、議論する。

(1)基礎となる試合に対する著作権の侵害
　　■基礎となるバスケットボールの試合は著作権の対象となるか？

［地裁の判断］
　　基礎となるバスケットボールの試合は著作権の対象ではない。

［控訴裁判所の判断］
　　地裁に同意。
　　102(a)条における「オリジナル著作物」を構成しないため、連邦の著作権保護の対象物には該当しない。
• スポーツの催しは、102(a)条に列挙されている著作物のカテゴリに含まれないし、それらのカテゴリと類似してもいない。
• スポーツの催しは、「作り出される」ものではない。試合にむけて準備がなされるが、それは希望や信頼の表現でしかない。


映画、演劇、テレビ番組やオペラ等とは異なり、スポーツの催しは競い合うもので、台本はない。

(2)NBAの試合の放送への著作権の侵害
　　■被告行為はNBAの試合放送の著作権を侵害するか？

［地裁の判断］
• NBAの試合の録音録画された放送は著作権で保護される。
• しかし、被告は放送から事実のみを再現したのであって、放送の内容たる試合の表現や描写を再生したわけではないので、原告著作権を侵害していない。

［控訴裁判所の判断］
　　地方裁判所に同意。


Ｂ．州法上の不正目的使用の主張

(1)著作権法の専占
　○著作権法301条は以下の(i)と(ii)を満たす場合、州法上の主張を専占する。

　(i)州法上の主張が、既に106条の下で著作権法により保護されている排他的な権利のうちの一つと「同等の法文上または衡平法上の権利」を主張しようとしている場合（一般的適用範囲要件）
　(ii)州法上の主張が適用されようとしている特定の作品が102および103条の下で著作権によって保護される作品の種類に該当している場合（対象要件）


ａ．「部分的専占」と対象要件
　■基礎となる試合とその試合の放送に分けて不正目的使用の主張が可能か。

［地方裁判所の判断］
• 基礎となっている試合には、著作物性がなく対象要件が満たされていないので原告主張は専占されない。
• 基礎となった試合の不正目的使用の主張と、その試合の放送に関する不正目的使用の主張を別々に分析し「部分的」に「専占」されるとした。

［控訴裁判所の判断］
• 試合とその放送の両方に関して対象要件は満たされる。
• 著作権保護を受ける対象物は、しばしば、著作権保護の対象とならない要素を含んでいるが、301条の専占は著作権の対象たる要素ばかりでなく、その対象とならない要素に関しても州法上の不正目的使用の主張を封じている。
• 部分的専占の法理の採用は、州法上の主張の及ぶ範囲を大幅に拡大し、議会が意図する専占を機能させなくする。
• 固定された形の著作権の対象たる作品を、著作権の対象とならない基礎となる出来事や事実から分離することは通常困難か不可能である。

ｂ．一般的範囲要件
　■INS判決 に基く「ホットニューズ」の不正目的使用の請求には106条の権利に基く請求と区別される特別な要素があるか。

［地裁の判断］
• INS判決をかなり広げたラジオ放送に関するニューヨークの古い一連の不正目的使用の判例に依拠。
• この判決では、不正目的使用を「不道徳な商業的行為」「社会の『倫理』」といったはっきりしない概念で基礎づけている。

［控訴裁判所の判断］
• 地方裁判所が依拠した判決の不正目的使用の概念は事実上「不正な複製」と同義であって著作権の侵害と区別できるものではない。
• 地裁が根拠としたラジオ放送の判例は議会が著作権保護を同時記録の放送に拡大した時点（1976年著作権法改正）で専占される。
• したがって狭い範囲の「ホット・ニューズ」不正目的使用の主張だけが著作権の範囲内の材料に関する訴訟について、専占を免れるということになる。
• INS判決は、倫理に関するものではなく、時間に敏感な情報に対する財産権の保護について判断したもの。競争相手が、わずかな費用だけでその製品を不正目的使用し、それによって低価格で競争製品を頒布することができれば、最初にニュースを収集する動機はなくなってしまい、新聞の読者である大衆は不利益を受けることになる。
• 「ホットニューズ」の主張が専占を受けずに存続することを認める特別要素は以下の通り。
(i)時間に敏感な事実的情報の価値
(ii)被告によるただ乗り
(iii)原告によって供給される製品やサービスの存在そのものに対する脅威

(2) SportsTraxの適法性

［控訴裁判所の判断］
　上記「ホットニューズ」判定基準に照らし、モトローラとSTATSは不法な不正目的使用に携わってはいない。
• NBAの製品は、

　 第1の製品：ゲームをすることによって情報を生み出すこと
　 第2の製品：ゲームの生の詳細な描写を送信すること
　 第3の製品：ゲームについての厳密に事実的な情報を収集したり、再送信したりすること。
であるが、
NBAは、第1と第2の製品についてSportsTraxから受ける競争的影響を示しておらず（SportsTraxがNBAのゲームを見にいったり、テレビでみたりすることの代わりとなると考えるモノがいるという証拠はない）、第3の製品についてSportsTraxによるただ乗りを証明していない（SportsTraxはNBAが計画中のページャー装置と競合しうるかもしれないが、モトローラによるフリーライドの証拠はない）。

• モトローラとSTATSはSportsTraxぺージャーに送信するためにNBAの試合で生み出された事実情報を収集するのに、彼ら自身の資金を使っており、自分達のネットワークを使って彼ら自身でデータを送信している。
• NBAはモトローラとSTATSによるただ乗りに基く、自社製品への損害を証明していないし、ニューヨーク州法に基くNBAの不正目的使用の主張は連邦著作権法に専占される。
　　　　　　　　　　

　　二 NBAの交差上訴　

［原告の主張］
• SportsTraxは「各競技場のプレステーブルで作られた最新の試合の情報を各競技場から直接に」提供するとしている1996年1月のモトローラの新聞発表
• SportsTraxの小売用の箱の背の部分と小売用の陳列スタンドに表示された「競技場からのゲームの最新情報」という文句


の2点について、STATSのレポーターはテレビやラジオ放送から情報を集めているので、情報は競技場から直接のものではなく、「競技場から」のものでさえない。

［被告の主張］
　新聞発表についてはこれ一回のみ。「競技場から」という表現に言語的な誤りはない。

［控訴裁判所の判断］
　現在の事実関係に基づけば、問題とされている表現は重大なものではなく、製品の本来的な質と特徴を誤って表現していることにはならない。

　地方裁判所が出した差止め命令を破棄し、不正目的使用に関するNBAの主張が棄却されるように決定する。
　ランハム法43(a)条の虚偽広告に関するNBAの主張を地方裁判所が棄却したことを認容する。

• INS判決を限定的に解釈し、バスケットボールの試合の事実情報は著作権により専占されるとした妥当な判決。
• 本件は日本法ではどのように判断されるのか。

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