コンピュータ・ゲームに関する判決

1.Lewis Galoob Nintendo of America 事件

(第一審 連邦地方裁判所カリフォルニア北地区1991年7月12日判決  控訴審 連邦控訴裁判所第9巡回区1992年5月21日判決)  ニンテンドウ・オブ・アメリカ(ニンテンドウ)は、ビデオゲームのハードウェアシステム(NES)と、ゲームのカートリッジを販売している。このカートリッジには、ニンテンドウが制作し、または他者に製造許諾したビデオゲームが内蔵されている。

 ルイス・ガルーブ・トイズ(ガルーブ)は、ゲーム・ジェニー(Game Genie)と呼ばれるビデオゲームのアクセサリ(付属品)を製造販売していた。ゲーム・ジェニーとは、ゲームのプレイヤーが、ニンテンドウのゲームの特徴を3点まで改変する装置であり、ゲームカートリッジとNESとの間に挿入されて使用されるものである。

 例えば、ゲーム・ジェニーは、プレイヤーのキャラクターの命の数を増やしたり、キャラクターが移動する際のスピードを増したり、キャラクターをして障害物の上を飛び越えさせたりする。

プレイヤーは、ゲーム・ジェニーのプログラミングマニュアルおよびコードブックに書かれたコードを入力することにより、こうした改変をコントロールする。

 ゲーム・ジェニーは、ゲームカートリッジからNES中の中央演算装置に伝達される1データバイトの値をブロックし、新しい数値を置き換えることにより機能する。

ゲーム・ジェニーは、ゲームカートリッジ中に内蔵されたデータを改変したり、別個の複製物を作出するものではなく、オリジナル・ゲームに付属された場合にのみ使用できる。

 ニンテンドウは、ゲーム・ジェニーは、著作権法第101条所定の派生著作物を作出しており、ガルーブは、ニンテンドウの著作権を直接または間接的に侵害していると主張した。

連邦地方裁判所は、ニンテンドウの終局的差止命令申立を棄却した。判決の理由は以下1)ないし3)のとおりである。

  1. 自己で楽しむための著作権あるビデオゲームを一時的に改変するための顧客によるゲーム・ジェニーの使用は、著作権法第101条の派生著作物を作出しない。顧客は直接侵害者ではなく、ガルーブも間接侵害者ではない。
  2. 仮に、ゲーム・ジェニーが派生著作物を作出していたとしても、「フェア・ユース」の原則により、顧客は、自己の楽しみのため、ゲーム・ジェニーの使用が可能 である。ガルーブもこれを販売することが認められる。
  3. ガルーブが、ゲーム・ジェニーの試験またはマーケティングを目的として、著作権あるビデオゲームを使用することは、ニンテンドウの著作権法上の如何なる権利をも侵害しない。
 ニンテンドウは控訴したが、控訴審も大要において地裁と同旨の判断を下し、原審の判断を維持した。

 

2.三国志III事件(東京地裁平成7年7月14日判決)

 株式会社光栄(原告)は、「三国志III」というシュミレーションゲームのプログラム(以下「本著作物」という)の著作者人格権を有しているところ、株式会社技術評論社(被告)の製造販売する「ORGED」と題するフロッピーディスクに内蔵されたプログラム(以下「対象プログラム」という)が、本著作物の著作者人格権を侵害するとして、同ディスクの製造販売の差止を請求した。

 本著作物中には、登場人物である君主、武将が1から100までの範囲の数値(能力値)で表現され、ユーザーが新武将を作出し、その能力値を新たに設定する事も可能となっている。

 対象プログラムは、本著作物のデータ登録ファイルに書き込むデータ登録用プログラムに代わるプログラムで、ユーザーが100を越える能力値を設定することを可能にするものである。しかし、本著作物のプログラム自体が改変されるものではない。

 原告は、対象プログラムは、「三国志III」を予想外の展開にするものであり、本著作物の同一性を侵害する改変行為であると主張した。

 判決は、対象プログラムにより能力値が改変され、ゲーム展開やストーリーが当初予定した範囲を超えることは当然予想されると述べ、入力される能力値自体はデータであるとの前提に立ち、本著作物のプログラムを実行して展開されるストーリーおよび入力されるデータ自体は、プログラム著作物であるとはいえず、対象プログラムの使用は、本著作物の同一性を侵害する改変行為とはいえないと判示し、原告の請求を棄却した。

 

3.ときめきメモリアル事件(大阪地裁平成9年11月27日判決)

 コナミ株式会社(原告)は、コンピュータビデオゲーム「ときめきメモリアル」(以下「本ゲーム」という)を販売している。本ゲームは、プレイヤーが主人公となり、ゲームの展開に従い、愛の告白の対象とする女生徒に応じて、能力の向上を図り、女生徒とハッピーエンディングを迎えることをもってゴールとされている。ちなみに、ゲームスタート時の主人公の能力を示すパラメータには、予め初期値が入力されている。

 スペックコンピュータ株式会社(被告)は、「X-TERMINATORPS版第2号 ときメモスペシャル」と題するメモリーカード(以下「本メモリーカード」という)を輸入し、日本国内で販売した。ユーザーは、本ゲームをプレイする際に、本メモリーカード内のデータを使用することにより、対象とする女生徒に応じて、1)予め理想的な数値に設定したり、さらには2)ゲーム展開を大幅に省略したりすることが可能である。

 原告は、被告の本メモリーカードの販売は、「予め設定されたパラメータ数値からゲームをスタートし、プレイによって数値を上昇させていく」本ゲームの映画の著作物としてのストーリーを改変するもので、本ゲームの著作者人格権および著作権を侵害すると主張し、被告に対し損害賠償および謝罪広告の掲載を請求した。

 判決では、本メモリーカード内のデータは、本ゲームのプログラムの許容する範囲であるとし、本メモリーカードにより付与されたデータがゲーム展開にどのように影響するかは不明なため、本ゲームのストーリーの改変は認められないと判断した。

 また、ゲーム展開が省略されることについても、本メモリーカードを使用した際のゲームの展開状況は、本ゲームが予定している多種多様のゲーム展開の一つであり、当該データを使用してプレイするか否かは、プレイヤーの選択に委ねられているので、本ゲームのストーリーの改変とはいえないと判示した。

 もっとも、本メモリーカードに保存されている「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンは、本ゲームのアイコンと同一であり、アイコンの画像の複製権侵害に関しては、被告は損害賠償責任を負うと判断した。

 

4.パックマン事件(東京地裁平成6年1月31日判決)

 株式会社ナムコ(原告)は、ビデオゲーム「パックマン」(以下「本ゲーム」という)を販売していた。本ゲームのゲーム機では、ROM中に記憶されているプログラム(命令群)の命令が、CPUにより読みとられ、同命令によりROMに記憶されているデータ群中から抽出された各影像データが、ディスプレイ上の指定された位置に順次表示され、連続した影像となって表現される。ディスプレイ上の影像は、ROM中に記憶されており、ディスプレイ上にはROMに記憶されているもの以外の絵柄、文字が現れることはない。

 この影像はプレイヤーの操作により変化するが、その変化も全てプログラムにより予め設定されている。

 株式会社技術評論社(被告)は、Chompほか23のプログラムを収納したFD(以下「本FD」という)を制作し、これを付属した書籍を発行、販売した。

 本FD中のプログラムは、パソコンのハードディスクに記憶させ、MS-Windows上でゲームが進行し、ヂィスプレイ上に影像を展開、再現が可能であった。

 判決では、1)本ゲームは映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせ、2)ディスプレイ上の影像は電気信号の形式でROM中に記憶されて、物に固定されていること、3)本ゲームはパックマンとモンスターとが迷路を舞台として追跡を行う劇であり、著作者の創作活動の所産が表現されているので、本ゲームは「映画の著作物」であるとの判断が示され、その上でChompの影像は本ゲームの影像の複製物であるとし、被告の行為は、原告の映画の著作物としての本ゲームの複製権および頒布権を侵害したものと判断された。