要約著作権のある写真をコンピュータに取り込んで加工し、新しい著作物の作成に利用することは複製権の侵害に当たるとした判決。

SOFTIC YWGレジュメ

  

TIFFANY DESIGN INC. ほか個人GRANTGRESSER (TIFFANY社 オーナー) 対 RENO-TAHOE SPECIALITY INC.及び実名不祥個人1〜20、実名不詳法人1〜20                                 

                                                 
平成11年10月29日発表 
                         
粟田英一(弁護士 水谷法律特許事務所) 
                      
山根慶子(富士通エフ・アイ・ピー) 
                                     

ネバダ州地区連邦地方裁判所 1999年7月12日登載判決

目次

一、事案の概要
二、裁判所の判断(結論)
三、サマリジャッジメント(Summary Judgement)の基準
四、検討(discussion)
五、発表者の意見、感想
六、YWGで出された意見
 


一、事案の概要

原告TIFFANY DESIGN INC.は、原告GRANT GRESSERが所有するネバダ州法人である。 

1.原告側 
原告Tiffany Design Incは原告Grant Gresserが所有するネバダ州法人。 ビデオ、カレンダー等の小物を作成している。 

[1] 1994年から1998年までの間、原告Grant GresserはDavid Phillips を雇って、「ラスベガス大通り」地区の空中写真を撮らせた。
[2] 原告はRobert Burton を雇って、[1]の空中写真および原告GRESSER自身が撮影したその他の写真を用いて、「ラスベガス大通りとその周辺」の美術的描写写真を作らせた 。
1998年1月、Burtonは、Photoshopというコンピュータ写真修正プログラムを用いて、美術的描写写真(98年画像)を完成した 98年画像は、いくつかの修正または変更を特徴とした。
[3] 1998年3月、David Phillipsは、98年画像に属する一切の著作権を原告GRESSERに譲渡する書簡を作成した。
[4] 原告GRESSERは98年画像の連邦著作権登録を得た。
[5] 1998年11月、David Phillipsは陳述書を作成し、著作権譲渡を確認した。
[6] Robert BurtonもDavid Phillipsと同趣旨の書簡および陳述書を作成した。 

2 被告側

[1] 被告RENO-TAHOEは、1998年初め、自分自身のデジタルに変更した「ラスベガス大通り」の空中写真画 像の製作に着手した。 被告の画像は85%完成していた(被告主張)
[2] 被告のグラフィック・アーティストJhonsonは、コンピュータが「プレビューモード」であるうちに「先行画像」を作り、これを基にして彼は求める建築物の構成部分を切り取った。 
[3] Jhonsonは、98年画像から取った少なくとも6個の建造物の写真をスキャンし取り込んだことを認めた。 

3 原告の被告に対する主張
[1] 被告のコンピュータによる先行画像の作成は、原告の98年画像を複製する排他的権利の侵害にあたる。[2] 被告が6個の建築物の画像を被告製品に挿入したことは、「二次的著作物」の製作に該当するから、原告の二次的著作物を創作する排他的権利および98年画像の複製物を頒布する排他的権利を侵害していると主張し、サマリジャッジメントを求めた。 

(参考) フォトショップ(Photoshop)
株式会社アドビシステムズが製作しているソフトである。 ユーザはデジタル写真または写真をスキャンすることで画像をデジタル化し、写真の一部を削ったり色を替えたり、背景を替えたりして自在に写真を加工することができる。例えば名刺に自分の顔写真を入れたり、広告に写真を掲載することが可能である。

二、裁判所の判断(結論)

[1] 被告がスキャンされた先行画像を作成したことは、著作権法106条により、原告の著作物を複製する排他的権利の侵害である
[2] 被告の挿入行為が著作権法106(2)および(3)条により、原告の二次的著作物を創作する排他的権利および98年画像の複製物を頒布する排他的権利を侵害しているとの判断は却下する
 

三、サマリジャッジメント(Summary Judgement)の基準

1 サマリジャッジメントの意義 
・略式手続によってなされた裁判。訴答書面、証言録取書、質問に対する回答書、及び宣誓供述書があればそれを添えて提出された自白書が重要な事実についての争点がない場合になされる。    
・略式手続とは、合衆国連邦民事訴訟規則により認められる、正式の訴訟手続に比べ陪審による審理(trial)がなく、宣誓供述書(affidavit) 、供述録取書(deposition)等によって裁判される手続。 

・サマリジャッジメントが相当である場合(連邦民事手続規則56条)
「重要事実に関する真正な争点のないこと、および申立当事者が法律問題として判決を受ける権利があることを証明する場合」 

・事実の重要な争点
…訴訟の結果に影響を与え、真実の異なる言い分を解決するために正式審理を必要とする争点 

2 サマリジャッジメントの手続概要

サマリジャッジメントを申し立てる者が、重要事実の真正な争点(a genuine issue of material fact)がないことの最初の立証責任負う 

                           ↓       

申立側の立証が尽くされる(指図評決を受けるための証拠提出) 

                           ↓     

次に、サマリジャッジメントを申し立てられた者が 正式審理をすべき真正な争点(a genuine issue for trial)あることを証明する特定の事実を述べる立証責任を負う(訴答、宣誓供述書だけでは不足) 

3 本件における判断
[1] 「原告の著作物を複製する排他的権利の侵害」を理由とするサマリジャッジメントの申立てについて申立人側の立証は尽くされたと判断。 
[2] 「原告の二次的著作物を創作する排他的権利、および98年画像の複製物を頒布する排他的権利の各侵害」を理由とするサマリジャッジメントの申立てについて、被告が二次的著作物を構成するに充分な分量の98年画像から取ったと認められる要素を使用したか(実質的使用したか)の争点は、正式審理において決定されるべき事実問題であると判断。

四、検討(discussion)

A 原告が有効な著作権を有していることについて(著作権の帰属)

1.原告Gresser名義の連邦著作権登録がある。登録証明書は正当な著作権の所有を推測させる(98年画像は「職務上の著作物」であるとの誤記があるが著作権の有効性に影響はない)。 

2. 98年画像は二次的著作物であり、「ラスベガス大通り」の写真画像から引き出された画像であるが、元の写真の製作者は、原告に98年画像に属する一切の著作権を譲渡した旨書簡で述べている。(著作権法204条(a)) 署名入り書簡は、著作権譲渡の要件を満たす。 

3. 著作権を譲渡したことに関する確認書の存在(Phillips作成) 

4. 被告は、98年画像がその基礎となり得たかも知れないと主張されている写真・スライドのうちPhillipsの作品ではないと主張。 しかし、98年画像の元となる著作物は、David Phillipsと原告Gresser両名が撮った写真である 

B 保護された表現の侵害

原告は、被告が次の諸権利を侵害したと主張する。  
a.著作権のある著作物を複製する権利
b.著作権のある著作物をもとにして二次的著作物を作る権利
c.著作権のある著作物のコピーを、公衆に販売またはその他の所有権の移転によって頒布する権利 

争点:
ア 原告の98年画像は保護されるオリジナルな表現を構成するか
イ 被告の行為は、その表現の「コピー行為」を構成するか
」 98年画像のコンピュータ・スキャニング
、 被告の二次的著作物の製作 

1.保護される表現としての98年画像の性格(98年画像は保護される著作物といえるか。
(1) 98年画像の著作物性
被告は、 本著作物の内容又は構成要素は著作権法上保護される表現を構成しないとする。
しかし、98年画像はコンピュータで修正した写真である。 写真は広い範囲の保護され得る要素を有し、対象のポーズ、照明、角度、フィルムやカメラの選択、素材の選択配列、望ましい表現や外観の喚起が含まれる。
(参考 -我が国での裁判例)

(2) 98年画像と「建築の著作物」
被告は、建築の著作物は公的スペースから見ることができるのであれば、その建造物の絵画的表現物の制作または頒布を禁じてはならないとするが、「建築の著作物」とは建物または建造物のデザインをいうにすぎない。
また、本件は、「写真の著作権」が問題となった事案であり、「建築の著作物」の著作権が問題となった事案ではない(著作権法120条(a)の適用問題ではない)。 
(3)98年画像は著作物性のない「アイディア」を構成するに過ぎないかについて
本件は、原告が「夜のラスベガス大通りの空からの画像を表現する」というアイディアに著作権を得ようとしているのではなく、光景の美術的表現の侵奪から防ごうとしている。

2.コンピュータ・スキャンにより先行画像を作成することは98年画像の「複製行為」に該当するか

(1)当事者の主張
両当事者間には、98年画像が被告のコンピュータのRAM(Random AccessMemory)に少なくとも一時的には定着したことについて、異論がない。
しかし、被告は、98年画像の部分を細工(manipulation)するための、前段階として画像をスキャンしただけでも複製権侵害を構成するかという原告の主張につき争っている。 

RAM…記憶内容の保持に電気の供給が必要なメモリ。
本来はデータの書き込み/読み出しの両方が可能な半導体記憶素子を指していたが、現在では記憶内容の保持に電気の供給が不要なROM(Read Only Memory)と対比して用いられている。(「ノマド・ワークス著 最新パソコン基本用語辞典 新星出版社刊 228頁」より)
スキャン(scan)…画像を構成する画素を一定の順序で電気信号に変換すること。
「走査」と訳す。 イメージ・スキャナによる画像の読み取りやCRTディスプレイの表示(走査線)などに使われる仕組みで、一般に全体のイメージを線で分割しながら読みとりや描画を行う。
(「ノマド・ワークス著 最新パソコン基本用語辞典 新星出版社刊 484頁」より)
(2) 裁判所の判断
第9巡回控訴裁判所は、技術者が恒久的記憶装置からコンピュータのRAMへコンピュータ基本ソフトウェアを無断で移したことが複製行為を構成したという地方裁判所の認定を支持した(MAI Systems Corp. v. Peak Computer. Inc. 事件判決)。グラフィック加工及び被告製品への挿入の準備として(in preparation for)、98年画像をスキャンし、およびこの先行画像(this precursor image)をコンピュータにインプットする行為は、著作権侵害行為を構成する。 

通説 ・・・著作権ある資料は、コンピュータ・コードであると視覚画像であるとを問わず、それをデジタル化又はインプットすれば侵害の認定根拠となることができ、それがコンピュータRAM中に僅かな期間しか存在しなかったとしても関係ないとする。 

著作権法101条(抜粋)  作品が有形的表現媒体に「固定される」とは、著作者の許諾により又はその許諾に基づいて瞬間的期間(transitory duration)以上の期間にわたって、知覚し、複製し、その他伝達することを可能とするに足るほど永続的に又は安定的に、複製物またはレコードに具象化されていることをいう。
(背景―デジタル情報のRAMへの一時的蓄積行為が「複製」に当たるか)
T デジタル情報をRAM(パソコン中のメモリ)に蓄積する行為は著作物の「複製」には当たらないとする見解(著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ検討経過報告(抜粋)) 


〈現状〉 …著作権法第2条1項15号は「複製」を「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と定義しているが、プログラムの実行に伴うコンピュータの内部記憶装置への蓄積は、瞬間的かつ過渡的なものであって、「複製」には該当しないとの解釈が一般的である。

〈問題の所在〉
コンピュータへの瞬間的・過渡的な蓄積とそれ以外の区別は必ずしも明確でなく、また、国際的には「複製」概念を瞬間的・過渡的な蓄積を含めて広く捉えることにより著作物の多様な利用方法の発達に対応しようとする潮流があることに留意する必要があるとの指摘がある。
〈考えられる対応例〉
A 「複製」の定義に、電子的形式による一時的な蓄積も含むことを明確に規定する(2条1項15号)。
「複製」の定義自体を拡張するAの対応については、…実質的には著作権制度が基本的に予定していない「使用権」を認めることになってしまうこと…などから、慎重にすべきであるとの意見が多い。 また、著作物の持続的な「複製」を伴わないような利用方法の発達については、「複製」の定義を拡張しなくとも、放送・送信に関する権利の拡大やディスプレイに関する権利の創設によって対応することが可能であり かつ適切であるとの指摘もあった。

U Tの行為は著作物の「複製」に当たるとする見解・
立法例 WIPO著作権条約草案7条…実際に採択された条約中にはない(データの一時的蓄積についても「複製」に含まれる旨を規定。但し、情報のメモリへの一時的蓄積を複製の概念に取り入れる場合には、著作物の通常の使用の際に必然的に情報の一時的蓄積を伴うものについては、「複製」に該当しないとする除外規定も併せて規定するとされていた)
1991年5月14日コンピュータ・プログラムの法的保護に関する欧州委員会指令(directive)4条a項 ドイツ著作権法69条C項

3.被告による二次的画像の作成が「翻案権侵害行為」に該当するか

(1)当事者の主張
原告の主張
スキャンされた要素の中にはいくつもの特徴が残っている。
被告の主張
建物の照明、外観、色彩、形状を根本的に変更している。 被告製品はスキャンされた元の要素とはもはや似ていない 。 

第9巡回控訴裁判所は、侵害する二次的著作物の存在を証明するためには、原告が被告の著作物は原告の既存の著作物から保護されている資料を実質的に取り込んだものであることを証明しなければならないと判示した(Allen v. Academic Games League of America Inc.事件判決)。 原告はこの立証責任を果たしていない。被告が「実質的使用」を構成するに十分な分量の98年画像から取ったと認められる要素を用いたかどうかの争点は、正式審理(trial)において決定されるべき事実問題(a question of fact)である。 

基本的争点(key issue)は、被告による照明、遠近法、陰影等の変更の度合いが、スキャンされた画像の被告による使用を、些細なこと、または無視し得ることにする程度に重要であったかどうかである。 

C.先行画像のスキャニングに対する抗弁の妥当性  

1.「汚れた手(アンクリーン・ハンズ)」の理論

被告の主張は、原告は95年に発売された被告の著作物(はがき)の画像をスキャンして、原告製品中に組み込むことによって、原告自身が、被告の著作権侵害を犯したという。 しかし、被告は原告の非行が98年画像に対する権利を原告が保護できるかという争点にどのように関係しているか証明していない。 

2.公正使用(フェア・ユース)の抗弁

a使用の目的
被告は、著作権のある資料をその完成作品中に使用したのは商事目的であったことを認めた。 被告は、先行画像のその作成が非営利的、非競争的目的であったことは証明できなかった。 

b著作権のある著作物の性質
創造的な著作物は、もっと事実的または情報的な著作物よりも「意図された著作権保護の核心に近い」ところに存在する。 

c使用された著作物の分量
被告のグラフィック・アーティストは事実上98年画像の全部またはほとんどをスキャンしたと自白している。 

d原告の売上げ見込みに対する影響
頒布されないスキャンされた画像そのものは明らかに売れ行きに直接影響しないけれども、被告の完成品の中にその構成部分を組み込むことは、ラス・ベガス大通りの原告の画像の商業的需要に大きな影響を及ぼすであろう。

五、発表者の意見・感想

(粟田)
1 原告の98年画像は保護される著作物かについて →判旨賛成
・原告Gresserに98年画像の著作権が帰属している旨判断した点は問題ない。 98年画像は、単なる写真で はなく、複数の写真をコンピュータを使用して修正・変更した結果作成されており、そこには98年画像の作成 に関与した関係者の創作行為が介在したといえる。

2.被告が原告の画像の一部をスキャンしたことは複製に該当するかについて →判旨反対
・コンピュータ上での画像データの表示行為に伴ない、右データがRAM中に瞬間的に複製される現象が生じているとしても、それは未だ著作権侵害を構成する行為(複製、翻案、公衆送信、上映、頒布等々)の予備的行為にすぎないと評価する余地はないだろうか。
・RAMへの一時的蓄積を「複製行為」と解した場合には、複製権侵害と判断される場面が過度に拡大し(コンピュータを介して記憶媒体に記憶された著作物を閲覧、鑑賞等する場合にも複製権侵害となり得る)、著作物の利用者が、従来では著作物の正当な利用行為の範疇に属する行為までをも差し控えることを余儀なくさ れるといった望ましくない結果をもたらすおそれがある。 
・著作権者の権利保護としては、著作物の「複製行為」、および著作物の上映、譲渡、貸与、公衆送信等の利用行為を規制することで十分ではないかとも思われる(ちなみに、平成11年の著作権法改正では、著作物一般(但し、映画の著作物を除く)に関して「譲渡権」が新設され、著作物一般の著作権者に「上映権」を認める等の改正がなされ、著作物の利用行為に関する著作権者への保護がより手厚くなった)。

3.被告の二次的著作物の頒布について →判旨賛成
・本判決からは、被告が、98年画像に対して具体的にどの程度の影響が及ぶ修正・加工を施したのか明らかではない。 「翻案権侵害」の審理、判断は慎重に行われるべきであると思われる。とりわけ「写真の著作物」において、翻案の有無の判断は微妙な考察を要すると思われる。 
・本件では、98年画像がコンピュータにより修正、改変を加えていることからすれば、単なるスナップ写真等に比べれば創作性の程度は高いと思われるので、被告による行為が、翻案権侵害に当たらないと解されるためには、被告製品の製作において98年画像に対して顕著な改変がなされることが必要であるとの考え方 もあり得よう。

(山根)
1 原告の98年画像は保護される著作物かについて →判旨賛成
・基礎となる写真の被写体の選び方、光の具合の調整、アングル、構成等に思想や感情が現れる。 
・原告はこの写真を基礎としてPhotoshopによって修正、加工し、独創的な著作物を構成。この画像は単なるアイディアを超え、原告が撮影した写真の二次的著作物といえ、原著作物と二次的著作物のどちらも原告が 著作権を有するといえる。

2.被告が原告の画像の一部をスキャンしたことは複製に該当するかについて →判旨反対
・RAMとは、パソコンを机に例えれば、それは机の上のようなものである。そこでいろいろ加工、修正されて最終的には机の引き出しなり本棚等に収められる。収められて初めて「創作物を固定する有体物」(複製物)とい えるのであり、物に固定されていない状態ではやはり複製とはいえないと考える。 
・リバースエンジニアリングされるプログラムの著作物と異なり、美術や写真等の著作物は独創性を求めるものであるが、このような著作物もデジタル化される時代になってきており、これらを独創的に加工するための一時的複製は認めるべきではないかと思われる。 特に、写真の著作物はその被写体自体には著作物性が認められない事が多く、加工により光、構成、アングル等元の著作物が有していた特徴を変えることが多いため、このような使用を禁じなくとも著作権を侵害するとはいえない。

3.被告の二次的著作物の頒布について →判旨賛成
・被告の作成した画像が二次的著作物に該当するかについてであるが、被告が原告の画像を実質的に取り込んだかについては争いがあり、被告が認めているのは6つの建築物を修正して取り込んだことである。思うに、ラスベガス大通りの建物の数からすると、6つでは実質的とはいえないのではないかとも思われる。
・取り込まれた建築物自体は原告の著作物ではなく、写真の著作物性は、構成や被写体の選択、光の加減 等にあるとすれば、被告がその一部を修正して取り込んだ場合、原告の写真からでなくとも同じ作品が出来上がると思われ、それは二次的著作物とはいえないのではないかと思われる。この判断についてはどの程度被告によって修正されたかによるので、この点につき争いがある本件では、二次的著作物の頒布について判断しなかったことは正当であると思われる。

六、YWGで出された意見
1 RAMへの蓄積が複製に当たるかについて
(1)反対意見
・デジタル著作物は加工を前提とし、その中間部分で意図しないところで複製が生じるのであり、このような場合は複製行為とはいえないのではないか。
(2)その他
・現在では、RAMのようなテンポラリーディスクからハードディスクによる処理に変わってきている。このような使用は複製にあたるといえるだろうか。
・RAMに蓄積したか否かではなく、使い方によって複製か否かを分けるべきである。RAMであっても蓄積容量として使われるものもあり、目的性、永続性から権利侵害を判断すべきである。
・結論としては妥当
訴えられたこと等から考えると、最終製品にも実質的類似性が認められるケースであったと思われる。
・Photoshopなどで、一時使用のための複製であるとしても、デジタル化された元の著作物はプログラムとして残ってしまい、再現可能性がある。従って、複製、翻案権侵害となり得るのではないか。

2 本件写真の著作物性
本件写真は航空写真であるために著作物としての創作性が高いのであろうかと言う点が議論された。
航空写真は、アングルの選択方法が多様であり、お金もかかる。しかし、航空写真であれば創作性が高いのだろうか。衛星写真や古代遺跡の復元写真はどうか。
これについては、航空写真であるか否かではなくやはり、写真に思想、感情が表れているか否かによるのではないかという結論になった。


 
 (参考―我が国での裁判例) タレントを被写体とするブロマイドの写真が著作物であるとされた事例   
(東京地裁昭和62年7月10日判決)
 本件では、原告は被告が販売しているタレントのブロマイドから顔の部分を切り抜き、これをプラスチックケースに入れてキーホルダーを製作、販売した。 被告は、原告から上記キーホルダーを購入して販売していた者に対して、その販売を中止させた。原告は、被告に対して不法行為に基づく損害賠償を請求し、および上記ブロマイドは量産される商業上の肖像写真であり、被写体を機械的に再製するだけで、著作物であるとはいえないとして、被告が著作権を有しないことの確認を請求した。
〈判旨〉 「本件写真の著作物性について検討するに…被告がブロマイドを製作するにあたっては、対象となるタレント及びその所属するプロダクションと交渉した上、撮影の日時、場所を決め、専属のカメラマンとして被告に雇用された 中村孝らが撮影すること、中村らは…撮影に際し、被写体の特徴をひきだすべく被写体にポ-ズ、表情をとらせ、背景や照明の具合をみながらシャッターチャンスをうかがい、ファンの好みそうな表現のときをねらって撮影を行なっていること、本件写真はこうした操作を経て製作されたことが認められ」る。 「本件写真は被告の営業として販売する意図のもとに製作されたものの、撮影者の個性、創造性をうかがうことができ、証明書用の肖像写真のように単なるカメラの機械的作用によって表現されるものとは異なり、写真著作物というに妨げない。」

著作権法106条ア
この法律に基づく著作権の所有者は、第107条から第118条までの規定に従うことを条件として、次に掲げることを行ない、又は許諾する排他的権利を有する。
(1)著作権のある著作物を複製物又はレコードに複製すること。 


著作権法204条(a)
「法律の作用によらない著作権の所有権の移転は、譲渡証書又は移転の覚書が文書によって作成され、かつ、譲渡された権利の所有者又はその者の正当な授権代理人によって署名されていない限り、無効とする。」 


著作権法120条(a)
「許される画像表現 建設されている建築の著作物の著作権は、その著作物が具現されている建築物が公共の場所又は公開の場所から通常見ることができる場所に所在する場合には、その著作物の映画、絵画、写真その他の画像表現を作成し、頒布し、または公に展示することを阻止する権利を含まない。」
 

MAI SYSTEMS CORPORATION 対 PEAK COMPUTER ,INC(991 F.2d 511(9th Cir.1993))
コンピュータ及びOSを含むソフトの製造、ライセンス、メンテナンスを行っているMAI社は、MAIコンピュータのユーザ100社以上を対象にシステムのメンテナンス(PEAKの営業の50〜70%を占める)を行っているPEAK社を著作権(複製権)侵害として訴えた。これに対して裁判所は次のように判示した。
「MAIのソフトウェア・ライセンスは、MAIの顧客が自己の内部的情報処理のために使用することのみ認めているが、この使用にはRAMへのロードも含まれている。しかし、PEAKのような第三者が使用したり、RAMへロードしたりすることは認められていないので、PEAKの「コピー」はライセンスの範囲を超えている。米国著作権法第101条における「複製物」及び「固定」の定義より、RAMに作られたコピーは「認識後、再生されまたは他の方法で交信される」ので、ソフトウェアをRAMにロードすることは著作権法上のコピーの作成である。」
(http://www.gip.jipdec.or.jp/policy/infopoli/intelle-prop/precedents-B.html より)

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