NTTデータ通信(株) 知的財産部 内村
Playboy社は、Tattilo Editriceに対して、侮辱罪で訴えた。
Tattiloは、1981年7月26日に出された判決に違反した。
1981年の判決内容:Playmenという名称の元で、成人男性向けの雑誌を米国内で出版・印刷頒布又は販売してはならない。
【T.判決内容】
- 訴えを認め、Tattiloに次の事項を命ずる。
- internet siteを完全にshut downするか、又は米国内に居住する顧客からの申し込みを自粛する。
- 米国の顧客によって取得されたUSERNAMEとパスワードを無効化する。
- 米国の顧客が支払った分のうち未使用残高を返還する。
- 米国の顧客がplaymenproを申し込んだことによって儲けた総利益をplayboy社に返還する。
- 米国の顧客にplaymenサービス上で宣伝した商品又はサービスによって儲けた総利益をPlayboy社に返還する。
- 米国の顧客からの申し込みは拒絶する旨示すよう、internet siteを修正する。
- 訴訟費用及び弁護士費用をplayboy社に支払う。
- 2週間以内にこの命令が守られなかった場合、守られるまでの間、Tattiloは1日あたり1,000$をPlayboy社へ支払うこと。
【U.事実関係】
- 1953年、Playboy創刊
- 1967年TattiloはイタリアでPlaymenの出版を始めた。タイトルは英語だが、中身はイタリア語。
- 1979年、英語版を出版する計画を発表したところ、Playboy社から販売差止訴訟を提起された。
(商標権の侵害、出所混同、商標権侵害による不正競争、NY州希釈化防止法違反)
- 1981年6月に以下の判決
- 米国内で出版/頒布販売される成人向け雑誌の表紙にPlymenその他のConfusingly Similarな語句を使用すること
- 表紙にPlaymenその他のConfusingly Similarな語句を使用した成人向け雑誌の、米国内での出版印刷販売輸入及び米国外への輸出
- 商品名、サービス名、ブランド名、商号その他ビジネスの出所を示すものにPlayboy、Playmenその他のConfusingly Similarな語句を使用すること
- Playboy社は、イギリス、フランス及び西ドイツでも同様の判決を得たが、イタ リアの裁判所だけは、Playboyという語句は、語義的に弱い商標であるため保護 されないと命じたため、イタリア国内では今日まで出版されていた。
- 1996年1月、Playboy社はTattiloのinternet Siteを発見した。
- 当該siteは、イタリア国内で提供されている雑誌の画像が見れ、ユーザは、Tattiloの商品(CD-ROMやフォトCD)の特別割引も受けられた。WWWサーバはイタリアにあった。
- Playmen lite…無料でソフトな画像が見られる。入会する以前にソフトな画像を経験することが目的。
(Tattiloに申し込むとe-mailで一時利用用ユーザネームとパスワードをもらえる。)
- Playmen pro…Tattiloに申込金を支払ったユーザのみが見られる。新たなユーザネームとパスワードが必要。
- Playmen Siteは米国内の顧客に広く利用可能であり、インターネットにアクセ スさえできれば、Playmen雑誌のセクシーなページを印刷物や電子媒体によって、見たり入手できる。
【V.侮辱罪の判断基準】
- すべての裁判所は侮辱罪で処罰する権限を元来有し(Chambers vs Nasco)、その権限は裁判の内外の行為に及ぶ。
- 侮辱罪は、被告の行為の違法性につき公平な疑義あるときには使うべきでない武器であり、(king vsAVL)、原告が、被告が地裁の命令に違反したという明白な証拠を提出した場合に 限り認められる。(Hart vs Marx)
- 一般的には、民事侮辱罪は裁判所の命令に従わせる、又は損害を補償させることが目的である (Powell vs Ward)。
- 裁判所は以下の場合に、民事侮辱罪を適用する。
- 明白で疑いの無い判決があり、
- 判決に従わない明白な証拠があり、
- 当事者が、相当な努力を払って判決に従おうとした形跡が無い場合
【W.論点】
- 当初被告は、米国内に代理店や事務所を持たず、Playmenを米国内では販売頒布出版広告していないので、本裁判所は本件に関し裁判管轄権を持たない、と主張したが、裁判所側は、1981年の差し止めを執行する目的において、被告に関する裁判権を有する、とした。
A.差止命令は違反とされ得たか
- まず第一に、15年も前の判決で差し止めたいわば伝統的な出版活動が、近年のサイバースペースやインターネットの世界に適用できるかが問題である。
- 被告の主張
「インターネットやWWWは当時存在しておらず、明白に疑いなく差し止められていない。」
「1981年の判決は、印刷物に関して出された差し止め命令であり、単純に考えれば、イタリアのWWWに画像を載せる行為の障害とはならない。そのような行為は、1981年に両当事者とも考慮していなかった。」
- 上記の議論は、当時インターネットが存在していないという思い込みによるものだが、実際にはいくつかの形態で存在していた。(ARPANET:1969年―1971年には12、1974年には62のsiteがあり、1981年には200site。
- 確かに当時の判決ではインターネット上での画像の利用は考慮されていなかったかも知れない。当時はテキストのみによるメールの交換と掲示板くらいで、今日のマルチメディアデータの利用状況とは著しく違っていた。
- 今日的な狭い意味でのインターネットの始まりは、技術の発展によりパソコンで写真画像が処理できるようになってからであり、80年代後半より以前という事はない。(CPUスピードとメモリ容量)
- こうした利用は判決当時考慮され得なかった。
- 被告の主張
「インターネットが両当事者によって考慮され得なかったので、差し止められてはいない。また、実際に考慮されなかったので、被告の行為の違法性につき疑義がある。」
- 被告の主張には同意しない。こうした利用が考慮され得なかったことは、差止命令をインターネットやWWWに適用することを妨げるものではない。
- 当該差止命令の目的は、米国内で被告の商品が頒布されることを禁ずることにあり、差止命令の明らかな意図を破ることを被告に許すことは、差止命令を骨抜きにするものである。
- 差止命令でインターネットの名称に言及しなかったことは、この新しいメディアへの適用可能性を否定するものではない。今日においても、意味を持たなければならない。
- 被告は最終的には本件の決定は、立法府の権限範囲に属するものとし、Wisconsin事件を引用した。(現行の法律の定義を拡張してサイバースペースに適用するには、裁判官による立法行為である)
- しかし、この理由付けは本件では妥当性がない。上記の件は、制定法の解釈に関するものであり、裁判所は発言を避けたのである。(制定法の範囲を拡張することは立法府の権限事項であるからに過ぎない)。本件は裁判所の命令の解釈に関するものであり、立法府は管轄権を持たない。
- インターネットは当時現在のような形では存在しなかったとしても、ここで訴えられた活動を支配する。したがって、Playmenの販売又は頒布の禁止は、インターネットにも及ぶ。
B.差止命令は違反とされたか
- 差止命令の内容
「Playboy、Playmenその他のいかなるConfusingly Similarな語句を、商標・サービスマーク・ブランド名・商号その他ビジネスの出所に又はその一部に使用し、英語の出版物及び関連商品を米国内で販売、販売の申し出又は頒布、輸出入すること」
- Playmenの名称の使用…商号及びビジネスの出所としてドメイン名、ホームページ内の各ページ上に表示
- 英語の出版物及び関連商品…画像を載せることが「出版」に当たるか否かは疑問があるが、「関連商品」には当たる。
- 英語で出る。
- 米国内での頒布又は販売…他のユーザからアクセス可能なコンピュータ上に写真画像をアップすることが頒布に当たるか否かについては、2つの裁判所で判断がある。
Playboy vs Frena…他の電子掲示板ユーザにダウンロードされることを知って、無許諾で画像をアップすることは頒布に当たる。
RTC vs NETCOM…NETCOMは自らコンテンツを作成管理していないので、Frenaと同じにはゆかない。インターネットはいくつもの異なるコンピュータから構成されており、1個のコンピュータに侵害ファイルがあるからといって、接続しているだけで責任を問われるのは不合理である。
- 本件では単なるアクセスプロバイダではなく、Playmen Lite及びPlaym Proという独自のサービスを提供していた。
- 画像はダウンロードされ、ユーザのコンピュータに蓄積された。
- 被告はそのような行為を積極的に勧誘した。したがって、頒布に当たる。
- 米国内での頒布…被告の主張「米国内で頒布しているよいうよりは、イタリアのサーバに載せているだけであり、当該画像を見たい人は、イタリアへ行ってtattolioのディスプレイを見なければならない。このインターネット上での使用は、ユーザに飛行機に乗ってイタリアに上陸しイタリア国内で雑誌を購入することを求めるものである」
- 被告の主張に同意しない。被告は米国のユーザを歓迎していたし、それにより商品を米国内で頒布していた。希望者はTattiloにFAXすると、E-mailでパスワードとユーザネームが返送されるという手続きふむことによって、Tattiloは、米国内で商品を頒布したのである。
- 被告の「飛行機に乗って…」という主張は失当である。インターネットはワールドワイドなものであり、地球上のどこからでもアクセスできる。単に商品が禁じられた国からもアクセスができるからというだけで、tattiloにsiteの動作を止めさせることはできない。そう考えなければ、当裁判所及び世界中の裁判所がWWW上のすべての情報提供者に対して裁判管轄権を主張しても良いと宣言するのに等しい。そのような考え方は、このようなグローバルなサービスの利用者に破壊的な影響を与えることになろう。インターネットは国籍や宗教に関係無く公的に意思の伝達が行われる空間として特別な保護を受けるに値する。
- しかしながら、特別な保護は裁判所の命令や差し止め命令を無視して及ばない。もし無視されれば、差止命令の意味は失われ、知的財産権はもはや適正に保護されない。執行がなされなければ、知的財産権法は、差し止められた頒布を行うsiteの創設によって抜け穴ができてしまう。我々の長い歴史をもつ知的財産権法は、創作的精神を奨励してきた。これを希釈化することは、創作性をだいなしにするものである。
- 本裁判所は世界中のインターネットサイトに対して裁判権をもっていないし、差止めるつもりもないが、この国のアクセスを禁ずることはできる。したがって、tattiloがsiteを動かしている間は、米国に居住する顧客の申込を受けないようにしなければならない。
- サーバースペースはtattiloが差止命令を侮辱できるsafe havenではない。
【X.過去に支払われるべき5000ドル】
- 最初の訴訟でplayboyが被った弁護士費用の一部として5000ドルを支払うことがtattiloに求められているが、支払われていないので、15年経った今、求める。
→chucleberryはすでに消滅しているので、権利不行使の原理を認める。
よって、主文のとおり判決する。
【Y.コメント】
- 工業所有権の属地主義と、インターネットの無国境状態との関係で非常に興味深い判決。
- 商標権侵害事件でないのが残念。
被告の行為が「米国内でのdisrtibution」といえるのであれば、商標権侵害(1114条)も云えるのではないかと思われるが、インターネット上での電子雑誌の提供サービスを対象としては、商標権が確定していなかったのではないかと推測される。(ランハム法1164条:商標登録後5年間は取消可能)
- 少なくともNY州地裁は他国に置かれたサーバに対して単純に裁判管轄権を主張しないということが示されただけでも意義はある。
→単にホームページを開設するだけで問題が生ずる可能性は低いが、
しかし、現実に商品やサービスが他国に提供されれば侵害又は商標の使用の事実が成立するので、やはり問題となろう。
但し、商品については概ねどの国も輸出は侵害としていないため、輸入する側=ユーザが侵害となるのか。(税関で差し押さえ?)
一方、サービスの場合は輸入・輸出という概念がないので、サービス提供の行為地で判断されるのか。
→法令9条 異法地域者間の法律行為の解釈による
行為の原因の発生地 or 結果の発生地
- しかし、PLAYMENがこの判決に従わなかった場合どうなのか?
外国判決の承認。執行
判決を外国において執行するためには、当該国において執行判決を受けることが必要であり、当該国の裁判所は、その国の公序良俗に反しない限り、概ね認めることが多い。
- 判決の理論構成としてはやや"エイヤ"的な面がある。
以上