ソフトウェア情報センターでは2008(平成20)年7月28日、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に基づく法務省の民間紛争解決事業者としての認証(認証第18号)を取得し、附属機関として「ソフトウェア紛争解決センター」を設置、企業間におけるソフトウェア、コンテンツ及びデータベースに関する取引及び知的財産権紛争について、和解あっせんサービスを提供しています。さらには、仲裁、中立評価及び単独判定の各制度もご用意しています。
一般財団法人ソフトウェア情報センターに設置されたソフトウェア紛争解決センターは、コンピュータソフトウェア紛争の「仲裁」「中立評価」「単独判定」及び「和解あっせん」の各手続を備えたソフトウェア専門のADR(裁判外紛争解決)機関です。
ソフトウェア紛争解決センターで扱う紛争は、企業におけるソフトウェア、コンピュータシステム、コンテンツ、データベースその他情報技術(IT)に関する民事紛争です。例えば、情報システムの開発について成果物の機能的不具合、納期遅延等による費用負担等に関するトラブル、ソフトウェア等の知的財産権侵害や職務発明等に関する紛争です。
仲裁とは、裁判所に替わって、当事者の合意(仲裁合意)に基づいて中立の第三者(仲裁人)に紛争の解決を委ね、その判断(仲裁判断)に服する紛争解決手段です。仲裁判断は裁判の確定判決と同一の効果をもちますので、裁判所から執行決定を得た後強制執行が可能です。また、仲裁判断について再度裁判所に訴えることはできません。
中立評価とは、中立の第三者(中立評価人)が、技術的な事項や法律的な問題等についての判断(評価)又は解決案の提示を行う手続で、原則、申立から3カ月のうちに中立評価書の作成を目指します。中立評価の結果は、仲裁判断のような拘束力はないものですが、ソフトウェア分野の専門家である中立評価人の判断でありその理由も明記されることから、当該案件が裁判で争われた場合に、当該判断が一定の意味をもつことが期待できると考えられます(なお、中立評価手続規則により、中立評価の判断結果についての提訴の可否及び裁判での証拠としての使用については、当事者の合意が必要です)。
単独判定とは、単独の申立人が申し立てた申立事項に関し中立の第三者(単独判定人)が、判定を行う手続です。判定結果に拘束力はありませんが、ソフトウェア分野について単独判定人がもつ経験や知見の専門性に基づく判断を得て、内部的な検討の資料としたり、その判断を訴訟において援用するといったことも考えられます。
和解あっせんとは、中立の第三者(あっせん人)が、当事者の紛争解決のための自主的な合意形成を支援する手続です。一般的には、あっせん人から解決案(あっせん案)が提示され、この案に両当事者が同意することによって解決を図ることができます。効果は、民法上の和解契約としての効力にとどまります。
弁護士 |
弁理士 |
学識経験者 |
技術経験者 |
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まず、大きくは、事前に仲裁の合意がある場合とない場合とに分かれます。
事前に仲裁合意がある場合は、仲裁合意書を提出し、当センターで定める「仲裁手続規則」に沿って仲裁手続が開始されます。
事前に仲裁合意がない場合でも、先ず話し合いからスタートして手続を進めることができます。この場合、仲裁人予定者を選任して和解手続として開始し、手続を進める過程で専門家の意見を聞いたうえで、和解による解決を目指すことも可能です。この手続の過程で当事者双方で仲裁合意が得られれば仲裁手続に移行することも可能です。
当センターから相手方に申立書等を送付し、相手方から手続に応諾する旨の回答があり次第、所定の各手続規則に沿って手続が進められます。なお、各手続で相手方が不応諾の場合は、その段階で手続は終了となります。
申立の受理後「単独判定手続規則」に沿って進められます。
ソフトウェア紛争解決センターが提供するADRサービスには4つのタイプがあり、それぞれの特徴等によって料金は異なっています。各タイプの料金は以下のとおりです。なお、以下の各料金には仲裁人等の報酬が含まれます。
a. 申立手数料 申立額に応じて所定の計算式により算出した額を加えた額
b. 期日手数料 1当事者10万円/回
c. 成立手数料 紛争請求額を元に所定の計算式によって算出した額
d. その他の費用 実費
a. 申立手数料 申立額に応じて所定の計算式により算出した額を加えた額
b. 期日手数料 1当事者10万円/回
c. 中立評価手数料 紛争請求額を元に所定の計算式によって算出した額
d. その他の費用 実費
a. 申立手数料 申立額に応じて所定の計算式により算出した額を加えた額
b. 期日手数料 15万円/回
c. 単独判定手数料 紛争請求額を元に所定の計算式によって算出した額
d. その他の費用 実費
a. 申立手数料 10万円に、申立額に応じて所定の計算式により算出した額を加えた額
b. 期日手数料 1当事者10万円/回
c. 成立手数料 1当事者の解決利益額を元に所定の計算式によって算出した額
d. その他の費用 実費
現在までにソフトウェア紛争解決センターで扱った案件で、解決された主な事例は以下のとおりです。
1. ユーザーである申立人が、相手方ベンダーに委託して作成されたシステムに不具合があり、この不具合によって当初予定した再稼働が遅れたことから、申立人に本来であれば必要のない出費が生じることとなった。相手方も不具合の原因がシステムを作成した相手方にあることを認めていて、また、申立人も引き続き相手方との取引の継続を望んでいたこともあり、事前に、申立人と相手方双方で損害額について話し合い、合意可能性のある額が想定された段階で第三者にその想定された合意額についての妥当性の評価を依頼することとし、両当事者双方で仲裁の申立を行った(※)。
仲裁予人定者が同席した双方の話を聞き、提出された資料を検討して想定合意額の妥当性を検討して、当該想定合意額は相当であるとの意見書が示された。
(※)ソフトウェア紛争解決センターの仲裁では、仲裁合意がない場合は「仲裁人予定者」を選任して和解手続きから入ることができますので(仲裁手続規則第16条)、本件ではこの手続きによるケースでした。
2. 申立人であるユーザーが、相手方ベンダーに開発を委託したシステムが、その納期を過ぎても一向に完成されないため、再度定めた期日までに完成できない場合は、当該開発契約を解除のうえ損害賠償を求めるとの和解あっせんの申立をした。
和解あっせん人が夫々に事情を聴き、現在、相手方は当該ソフトウェア開発が完成せず債務不履行状態にあることから、一旦当該開発契約を解除した上で、新たな納期を定めて引き続き相手方が完成に向けて開発を行うこととし、そのために必要な条件を定めたあっせん案で和解が成立した。
3. 申立人は相手方ベンダーの作ったシステムを長年利用していたが、新システムへ移行する時に現行システムに不具合があることが判明した。その不具合によりユーザーは長期にわたり支払う必要のない税金を払っていた。(不具合の原因はベンダーにあることをベンダーも認めていた)。申立人はその税金分の損害を被ったとして損害賠償を求める和解あっせんの申立をした。
消滅時効との関係で不法行為の起算点をどう考えるかが争点となった。申立人は現在も相手方の作った新システムを利用しており、両当事者は決定的な紛争は避けたいと考えていたが、法的見解を踏まえて適正額の判断が求められ、和解あっせん人の法的見解に従いあっせんした金額での和解が成立した。
4. 大型システム開発案件で、開発が大幅に遅延したこと等による発注者から受注者への損害賠償請求について、発注者と受注者間で交渉を経て和解合意がなされた。本件は、この和解内容の合理性について双方から中立評価が申し立てられたもの。
本件では、紛争の規模、専門性及び時間的制約を考慮し、弁護士2名と技術専門家1名で構成される中立評価合議体に、技術専門家2名と弁護士1名の中立評価人補助者を加え、計6名の体制で審理にあたった。
審理の方針としては、本件では事前に申立人間で双方代理人弁護士による資料や争点の整理がなされており、また時間的制限もあったことから、中立評価の前提となる資料や争点は原則として申立人らが提出した資料及び主張の範囲に限定し、結論に影響しうる重要な争点について申立人らの意向に関わらず技術的及び法律的観点から中立かつ合理的に評価を行った。
本手続では、申立から3カ月の間に計11回の期日を開催すると共に、期日外にも中立評価人と補助者によって必要な検討会議を行った。
本件は大規模で技術面の評価も困難な事案であったが、申立(2016年4月7日)から評価決定(同年7月29日)まで4か月弱で結論を出すことができた。
なお、詳細については、下記のとおり当事者によるニュースリリースが公表されているので参照されたい。