何が真実か分からなくなっている世の中で、ともすると人間不信に陥りそうになるが、人の優しさに触れるような事に出遭うと、信じるに足る人がまだまだ多く、わが世は捨てたものではないと思う。

休日に久しぶりの低山歩きに出かけた。頂上(頂上と言っても低山ですから)からの下り、前日に降った雨で多少のぬかるみがあったこと、足腰の筋肉が既に悲鳴を上げていたこと、頭で思うほどには身体が動かなくなっていたことなどの所為にしたいのだが、鎖場の最後で足を滑らせ不用意に手を突いた。低山のハイクと甘く見て、手袋などしていない。掌が切れた。ちょっとした踊り場で水筒を取り出して傷を洗い始めたところ、山の下の方から結構な数だと思しき子供達の賑やかな声が聞こえてきた(子供も登れる程度の山です)。止血をしつつ子供達に見られまいと、登山道に背を向けてじゃがんで顔だけ振り返って「こんにちは、もうすぐ山頂だから頑張って」と声を掛けると、「こんにちは~」と可愛い明るい声が返ってくる。そのうちにある子が「小父さん、そんな方を向いて泣いているんですか?」(この連想は面白い)と覗き込んできた。「あ~、血が出てる!大丈夫ですか~?」(イカン見られたと思いつつ)「はい大丈夫だよ、心配かけてごめんね。」

子供の一団が通り過ぎて概ね止血もまずまずできたので山を下り始めたところ、上の方から「お父さん、大丈夫ですか~?」と大きな声が繰り返し聞こえた。まさか自分に声が掛けられているとは思わなかったので下り続けると「血は止まりましたか~?」と聞こえて分かった。立ち止まり大丈夫であることと謝意を伝えたが、親切にアレコレ心配してくれて、薬もあるから遠慮しないでと消毒薬を出して傷を洗ってくれた。その間にいろいろとその若い先生とお話した。地元小学校の3年生の子供達の遠足だそう。不注意から子供たちに心配をかけて楽しい遠足に水を差してしまったこと、引率の先生に余計な仕事をさせてしまったことに申し訳なく、そして大変ありがたかった。大人として子供たちの鑑となる先生、人格者だ。聖職者という言葉があったな・・・帰宅後に家人に話すと、「子供が言えばそりゃ立場上、仕方ないでしょうよ。迷惑な。山歩きするなら薬くらい自分で持って行きなさいよ」・・・身も蓋もない。<続く>

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