「データスペース」は、国を超えて企業等が保有するデータを共有する仕組みだ。データスペースを整備してデータ共用を促進することによって、国や産業セクターを超えてデータの活用が進むことは、社会全体の厚生に資することになるし、産業振興にもつながる。サプライチェーンでのデータ共有といっただけでなく、AIの学習にも由緒正しい?データを使えるようになると期待する。EUでは5年前にGaia-Xと称する構想の下で取組みが始まり、着々と進められているようだ。データの取り扱いをデータ保有者が決定できるという「データ主権」(digital sovereignty)という発想は、基本的に個人情報と同様の考え方があるのだろう。EUは、この「主権」に応えるために、当初は知的財産権ライクな権利創設も考えていたようだが、現在ではそうした発想は影を潜めているようで、個人的には喜ばしい。技術的に、事実上、データをコントロールできることの方が(コントロールの程度問題は別として)、保護のための法制度を作り込むよりマシで、法制度は技術的な保護が行き過ぎないようにする役割を果たす方がよいと思うからだ。
EUに比べてわが国での取り組みはどうなのか。2021年に発表された「包括データ戦略」において遅れているという認識が示されて以来、取組みは進んできたようではあるが、経済産業省がデータ連携基盤の取り組みに「ウラノス・エコシステム」と名付けたと公表したのは昨年のことだ。先ごろ日本経団連が公表した提言「産業データスペースの構築に向けて」では、危機感が溢れている。日本での整備の様を引き続きフォローしていきたい。
ところで、「ウラノス」は、EUの「ガイア」(ギリシア神話の大地の女神)の向こうを張ってギリシア神話から取ったのではなかろうか。ガイアは最初に世界を支配した「カオス」(混沌)から生まれた最初の神でカオスに代わって世界を支配した。ウラノスは、ガイアから生まれた天空を司る神で、ガイアの夫として多くの神々を産んだ。やがてウラノスの乱行に手を焼いたガイアは、ウラノスの子供である「クロノス」(農耕の神)をけしかけてウラノスを襲わせて去勢させ、世界はクロノスの支配するところに。ところがクロノスは息子の「ゼウス」との闘いに敗れ、そしてその後ガイアもゼウスに屈して、ゼウスが全知全能の神として世界を支配するに至った。ゼウスと名付けるのは憚られたか。国を超えてのデータ連携の仕組み作りに「日本」もないとは思いつつ、日本頑張れ、ガイアに負けるな!