コンピュータ・ソフトウェア
関連発明特許審査基準


中華民国経済部中央標準局
1998年10月

※当文書は台湾の資訊工業策進會 (Institute for Information Industry)より提供を受けたものである。


目次


第八章

第一節

一、はじめに

二、用語解釈

三、明細書

四、発明類型の審査

五、特許要件


第八章 特定技術領域の審査基準

第一節 コンピュータ・ソフトウェア関連発明

一、はじめに

本「コンピュータ・ソフトウェア関連特許審査基準」(以下本基準とする)は、台湾で現行の専利法や専利法施行細則を基にし、加えて専利審査基準総則編中の制定基盤、アメリカでの特許審査ガイドライン日本の特許審査基準等といった関連資料を参考にして制定されたものである。

今まではコンピュータ・ソフトウェアに関する特許は認められておらず、その為、著作権方式で保護してきたのであるが、これは単にアイデア(idea)の表現形式の保健に限定されるだけで、アイデアが及ぼす機能は保護されず、特許権のように、他者が同じ内容で創作した物を排除することはできない。また、ソフトウェア産業が著しい発展を速げているここ数年来、各国は、コンピュータ・ソフトウェアの実質的な技術機能は保障され支援されるべきであり、それを運用して産業発展を促すべきであるとする認識をしはじめた。その為、コンピュータ・ソフトウェア関連発明に関しては、専利法による保護を与え、そして特許権を許可するというのが、先進国での一般的な考え方になっている。

本基準はコンピュータ・ソフトウェア関連発明を審査対象にするための基準であり、たとえ特許請求の際にソフトウェアとハードウェアとの連結方式により限定される具体的構造(物の発明に属する)、または直接的、間接的なコンピュータによって実施する手順またはプロセス(方法の発明に属する)が明記されていなくても、発明に関する詳細な説明または図面による内客の記載を通じて、審査委員がそれらをソフトウェアとハードウェアとの連結方式により限定される具体的構造、または直接的、間接的なコンピュータによって実施する手順またはプロセスであると認定すれば、実質上コンピュータ・ソフトウェア関連発明として認められるのである。

しかし、もし仮に明細書か図面内容がソフトウェアとハードウェアとの連結方式により限定される具体的構造、または直接的、間接的なコンピュータによって実施する手順またはプロセスと認定されなければ、コンピュータ関連発明ではないものとみなされ、別の審査基準にて審査が行われる。

コンピュータ・ソフトウェアは基本的には演繹法(a1gorithm)にて実施される方式の一つであり、演繹法には自然法則、科学原理、数学的方法、ゲームまたはスポーツの規則又は方法、更には数学的方法とは無関係の推理的手順、物理現象の推断といったものが含まれている。その為、コンピュータ関連発明は特許であるかないかを審査して認定する際に(“発明類型の審査”一節に記載)、慎重さが要求され、特許請求の範囲に部分的な内容「専利法第二十一条の特許を認めず」の項目に当した場合の即断的な拒絶は行なうべきではない。必ず全体として(asawhole)取り扱い、その解決手段が自然法則を利用した技術的思想の創作であるか否かを審査すべきである。例えは特許請求の範囲に数学的公式または計算方法があったら、即断的に特許取得の可能性を全て否定すべきではないということだ。ただ特許請求範囲に、単に数学的公式または計算方法(数学的公式または計算方法そのもの)を明記しただけで、如何にコンピュータを利用し、そして技術的効果を実現するかということを記述しなければ、それはただ数学論理の演繹にて解決されたものと認定され、特許権利保護の範噂には入らないものとなる。

また、コンピュータ・ソフトウェアは無形物であり、ハードウェアにより実行されてはじめてその技術的効果を生ずるが故に、以前にはかなりのコンピュータ・ソフトウェア関連発明の請求案は、特定のハードウェアと連結しないと発明の類型に該当できないという誤解があった。しかし、これでは当該発明に主張される特許請求の範囲は狭くなり、甚だしく違う方向へ向かうことになり、これら問題点はクリアーされる必要がある。また、コンピュータ・ソフトウェアはハードウエアによって実施されてはじめて当該発明の課題を解決することができるが、“特定”のハードウェア・プラットホームに限定する必要はない。詳しい説明は本基準四、(二)“物の発明の類型”一節を参照するとよい。

コンピュータ・ソフトウエアのハードウェアによる実行・及びその実行に伴うデータの処理の際は、必ずコンピュータ内部または外部にて、転換による具体的効果が現れる。この種の転換効果は物理的にせよ化学的にせよ人間の能力を経て完成した物ではなく、自然法則を利用したものとされ、専利法第十九条「自然法則を利用する」の規定に該当する。だが大切なのは、たとえ「ハードウェア資源を利用した処理」の箇所が自然法則を利用したものとみなされても、特定のハードウェアとソフトウェアとの連結された具体的構造に限定しない場合は、「コンピュータを用いて処理する」のみとされ、技術的思想はないものとみなされる。即ち特許請求の範囲の全体として(asawhole)取り扱い審査されることになり、そのソフトウェアが実行された手順又はプロセスが自然法則を利用した技術的思想で創作されたものであるか否かで決められる。

この他に読み取り可能な記録媒体の発明に関して、今までは特許の範囲には入れられてはおらず、最近アメリカ、日本等の国で認められるようになった。こうした世界の潮流に合わせて本基準では記録媒体の発明を審査対象の該当物に入れた。

本基準には付録一、二にコンピュータ・ソフトウェア関連発明を判断するためのフローチャートが載せられており、審査の際は、このフローチャートを基にして、コンピュータ・ソフトウェア関連発明の審査が執り行われることになる。

注意:本基準において取り上げた以上の実例は、本基準をよりよく理解するためのもので、補助的手段として作られたものである。とは言え、いかなる状況下でも本文の開示に反することはできないようにしてあろ。尚、本基準が取り上げた実例は、明細書のモデルになされるものではない。また、コンピュータ・ソフトウエア産業は特殊性があるので、本節本基準の規定は、コンピュータ・ソフトウェア関連発明の審査にのみ適用される。

二、用語解釈

本節に定義された用語解釈は、本基準で使用される用語を更に明確にし、誤解や混合を避けるために書かれたものである。本基準で下記の用語を用いる場合は、本節の基準にて定義される。ただし、本節の用語解釈は明細書作成の際そのままの形で使用されるべきものではない。例えば、本節の第9項で使用されている“ステップ”の用語は、一般の明細書には、おそら1“単一の動作”或いは“一連の動作”(すなわちstep(1)またはsteps)とされている。従って、何を基準に明細書の用語を定めるかに関しては、本基準三、(二)“特許請求の範囲”を参照されたい。

1.コンピュータ・ソフトウェア関連発明(computer software related invention):その発明の実施にソフトウェアを必要とする発明をいう。

2.演繹法(algorithm):論理的推断の過程の表す方式で、ある問題を解決するための方法をいう。自然法則、科学原理、数学方法、物理現象、抽象的観念、または人間の思考のステップなどの方式によって生ずるプロセスが含まれる。

3.コンピュータ:人間の入力した信号、保存されたプログラム、操作指示、またはデータの記録をもとに演算処理を行い一定の成果を生み出す有形物のこと。例えば、電子計算機、マイクロプロセッサ、シングルチップマイクロプロセッサ、CPUなど。ただし、上述のものに限らない。

4.ソフトウェア(software):コンピュータ動作におけるプログラムやプロセス、または手順のこと。

5.プログラム(program):コンピュータによる処理に適した命令の順番付けられた列をいい、コンピュータ・ソフトウェアが表現された形式の一つである。

6.プログラムリスト(program listings):プログラムを操作指示の形で、紙面印刷、画面表示などによる提示そのものをいう。

7.操作指示(command):コンピュータ操作のために出される記号や文字。

8.手順(procedures):特定の目的を達成するために、順序性がある一連の処理や操作をいう。コンピュータ・ソフトウェアの表現形式の一つ。

9.ステップ(step):特定の機能を遂行する操作や処理動作、または一連の操作や処理動作のこと。コンピュータ・ソフトウェアの表現形式の一つ。

10.操作、処理動作:コンピュータの単一の動作。

11.方法:具体内且つ非抽象的な成果を目的とする、一連の動作、過程、操作またはステップのこと。

12.記録媒体:情報を物理的装置によって、保存または/及び読み取り可能な媒体をいう。

13.データ構造(data structure):データ要素の問にある実際的又は論理的な関係があるものをいい、特定のデータ操作の機能をサポートするために設計された。

14.ハードウェア資源(hardware resources):コンピュータ、コンピュータ周辺機器、コンピュータ操作指示を受ける機械、またはコンピュータに入力されたデータの処理及びエネルギーの供給を行なう機械、メモリー、入力装置、出力装置など、処理や操作や機能遂行に使われる物理的装置又は物理的要素のこと。

三、明細書

明細書作成の際は、先行技術、発明目的、技術内容、特徴、機能などを明確に記載し、当業者にその発明の内容を理解させた上で実施させるようにする。特許請求の範囲として、特許を請求する主題、技術内容および特徴が具体的に記され、専利法第二十二条第三、四項の規定に該当すべきである。

発明目的の記入に関しては、請求された特許の主題は必ず実用性を有するべきである。すなわち、実質的な応用価値を有する発明である。審査では明細書全体が審査され、発明に関する詳細な説明、開示されているすべての特定の実施例、特許請求の範囲、請求対象が主張されたすべての特定の機能などが含まれ、その実用性が指摘され理解される(2)

出願者の発明対象の技術内容、特徴、機能が審査される際、その詳細な開示及び特定の実施例が審査される。また、以下の段取りにてコンピュータソフトウェア関連発明の審査が進められる(3)


特許請求の範囲の認定に関することであるが、審査の時は請求項を逐一審査し、請求項の一部分が特許条件に該当しないことを理由に全体を拒絶してはいけない。各請求項に制限を定める場合は、必ずあらゆる明細書の記載に当制限を表す部分に関連させる。すなわち、当制限設定の根拠を探し出し、それら請求項に合理的な設定をする。

(一)十分な書面記述


1.当業者

2.明細書の開示による内容理解(6)

3.明細書により、発明が実施可能(11)

(二)特許請求の範囲(12)


四、発明類型の審査

(一)コンピュータ・ソフトウェア関連発明に属さない形式


1.「技術的思想」を備えていないコンピュータ・ソフトウェア関連発明

2.コンピュータ・ソフトウェア関連発明で、「自然法則の利用」に適合しない項目
3.法定により発明特許を与えないコンピュータ・ソフトウェア関連発明項目

(二)物の発明の形式(35)

1.コンピュータ・ソフトウェア関連発明における物の発明の定義

2.コンピュータ・ソフトウェア関連発明における物の発明の類型


(三)方法の発明の形式

1.コンピュータ・ソフトウェア関連発明における方法の発明の定義


2.コンピュータ・ソフトウェア関連発明における方法の発明の類型


3.方法の発明であるかを判断する留意事項


(四)記録媒体形式の発明の類型


五、特許要件


(一)産業上の利用性


(二)新規性


(三)進歩性



<注>

(1)“step”とは、単一の動作に限らす、例えぱ、step plus functionとは、組み合わされた一連の動作を意味する。
(2)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”U.A(1)参照
(3)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”U.B(2)参照
(4)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”注[9]参照:Arrhythmia,958 F.2d at 1057, 22 USPQ2d at 1036:
「デジタルコンピュータによる資料操作は、加算、減算、乗算、割算、ピットシフトのような数学演算を、データについて、2進法で実行することは事実であるが、それはコンピュータが如何なる方法で実行するかに過きず、重要なことはデータとそれを扱う実世界での意味、即ち、コンピュータが何を為すかである。」
(5)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”注[10]参照:多くのコンピュータ関連発明は、コンピュータだけから構成されない。そのため本局の審査委員は、コンピュータ関連発明のクレーム要素の中に、プログラム搭載コンピュータの部分ではない要素を明確に規定し、その他要素がプログラム搭我コンピュータにどのように関係しているかを判断すること。本局の審査委員は特定資料の収集を行ない、プロセス上におけるコンピュータの役割、及ぴプロセス上設定されたコンピュータと各装置間の連結関係、及び当プロセスにて行われる装置のその他構成要素との関係を解明した。
(6)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”V.A(2)参照
(7)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”V.B(1)参照
(8)台湾はこれまでにそのような明細書を書く方法における説明はないので、今後審査する時にトラブルを生じないように、現現を制定することが必要である。
(9)プログラムコードに使われた文字の大部分は・コンピュータ専業領域に慣用され、又は定義された操作指示または変数など記号であり、それらは当業者が理解できる特殊記号であるので、専利法施行規則第十四条に這反することではないはずだ。
(10)日本“特定技術分野の審査の運用指針、第一章コンピュータ・ソフトウェア関連発明”1.2.1参照
(11)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”V.B(2)参照
(12)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”U.C(2)参照
(13)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”注[12]参照:特許請求範囲の中の文言の限定の効果について、問題を起こす可能性のある文言の例:


(14)専利法施行規則第十四条の規定に参照
(15)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”注[14]参照:
See e.g.,In re PauIsen, 31 US PQ2d 1671.1674(Fed.Cir. 1994)(発明者は発明を説明するために特定の用語を定義してよいが、“合理的な明瞭、熟慮、正確”によりしなけれぱならず、一般的でない定義をする際は、当業者に意味の達いをわからせるように明細書で定義を説明しなければならない)(Intellicall, Inc. v. Phonometrics, Inc., 952 F 2d 1384.1387-88, 21 USPQ2d 1383,1386(Fed.Cir.1992))
(16)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”T(5)参照
(17)台湾特許審査基準第一章第二節1-1-2頁参照
(18)日本“技術分野の審査の運用指針、第一コンピュータ・ソフトウエア関連発明”2.2.1(4)参照
(19)台湾特許法審査基準第一編第一章第二節1-1-3頁参照
(20)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,la(1)〜IV,B,la(2)参照
(21)記録媒体形式の発明に問しては・当基準四、(四)“記録媒体形式の発明の類型”乙節を参照されたい
(22)台湾特許審査基準第一編第一章第二節1-1-2頁参照
(23)台湾特許審査基準第一編第一章第二節1-1-2頁参照
(24)コンピュータ・ソフトウェアの方法の発明に関しては、当基準四、(三)“方法の発明の類型”参照
(25)天然物及ぴ自然現象自体は、基本的に発明の類型には属さない。ただし、天然物及び自然現象を発見する方法や装置、あるいは天然物及ぴ自然現象を応用した方法や装置は、「発明に属さない類型」とはならない。
(26)米国“コンピュータ問連発明の審査ガイドライン”IV,b2,a(iii)参照
(27)台湾特許審査基準第一編第一章第二節1-1-2頁参照
(28)この例は永動機器の発明に類似している。
(29)台湾特許審査基準第一編第一章第二節1-1-3頁参照
(30)日本“特定技術分野の審査の運用指針、第一章コンピュータ・ソフトウェア関連発明”3実例七
(31)Gottschalk v Benson 409 US 63,72(1972)
(32)台湾特許審査基準第一編第一章第二節1-1-6頁参照
(33)実例2.ゲーム装置を参照
(34)行政法院七十三年判字第1257号
(35)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,2,a参照
(36)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,2,b,i参照
(37)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,2,b,i参照
(38)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,2,b,ii参照
(39)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”注[45]参照:
In Sarkar,588F.2d at 1335,220 USPQ at 139、裁判所はこの取り扱いが数値が為されるべきことを説明した。式中の変数を数値に代える事をしなければ、数学方程式は事実上使用できない。式が指示する数値を置換することは数学的ステップの一つの形態として孝えられている。数値を集めてこれを置換するステップ、それだけで十分であれば、何らかの実用的価値ある全ての数学方程式、数式、またはアルゴリズムはそれ自体で、101条の“プロセス”として特許されることになる。数値を置換することが、式中に存在する非具体的なアイデアを具体的なものにする、または式の利用に吏えることに十分であるか否かの審議は現行の法律には存在しない。
(40)当基準四、(三)、3“「方法」の発明であるかどうかを判断する留意事項”を参照
(41)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,2,c参照
(42)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,2,d,i参照
(43)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,2,d,ii参照
(44)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,2,d,iii参照
(45)米国“コンピュータ関連発明の審査ガイドライン”IV,B,1参照
(46)日本“特定技術分野の審査の運用指針、第一章コンピュータ・ソフトウェア関連発明”2.3.(2)-2参照
(47)日本“特定技術分野の審査の運用指針、第一章コンピュータ・ソフトウェア関連発明”2.3.(2)-3参照
(48)日本“特定技術分野の審査の運用指針、第一章コンピュータ・ソフトウェア関連発明”2.3.(2)-4参照
(49)日本“特定技術分野の審査の運用指針、第一章コンピュータ・ソフトウェア関連発明”2.3.(2)-5参照
(50)日本“特定技術分野の審査の運用指針、第一章コンピュータ・ソフトウェア関連発明”2.3.(2)-4参照
(51)日本“特定技術分野の審査の運用指針、第一章コンピュータ・ソフトウェア関連発明”3実例八参照