原告: DSC COMMUNICATIONS CORPORATION側:Baker & Botts法律事務所(テキサス州ダラス市)弁護士Robert William Kantner、弁護士Eric Nevins Whitney
被告: DGI TECHNOLOGIES, INC.側:Highes & Luce法律事務所(テキサス州ダラス市)弁護士David Hugh Judson、
弁護士Stephen Granberry Gleboff。Johnson & Wortley法律事務所(テキサス州ダラス市)弁護士Aubrey Dale Pittman
Richard Mays法律事務所(テキサス州アンナ)Richard D. Mays、[本人訴訟]。
DGI TECHNOLOGIES, INC.側:Highes & Luce法律事務所(テキサス州ダラス市)弁護士David Hugh Judson。
DSC COMMUNICATIONS CORPORATION被告側:Baker & Botts法律事務所(テキサス州ダラス市)弁護士Robert William Kantner。
合衆国地方裁判所裁判官JOE KENDALL。
JOE KENDALL
DSC Communications Corporationの暫定的差止命令の申立およびこれを支持する意見書、ならびに不正に差し押さえられた財産の返還および保証金の没収を求めるDGIの差押命令取消の申立およびこれを支持する準備書面とが、当裁判所に提出されている。両当事者は、これらの申立に対する返答および訴答を、それぞれ提出した。これらの提出資料ならびに1995年7月24日および7月25日の審理に提出された訴訟代理人の主張および証拠を審理した結果、当裁判所は、ここに、暫定的差止命令の申立および差押取消の申立双方について、一部はこれを認め一部はこれを否認する。
原告DSC Communications Corporation(以下「DSC」という)は、被告DGI Technologies, Inc.(以下「DGI」という)が行ったとされる種々のソフトウェア、ファームウェア、DSCのマニュアルおよび図表の不正なコピー行為または不正使用とされる行為についてDGI
に対しいくつかの主張を《っている。DSCは、著作権侵害、営業秘密の不正使用、不正競争およびランハム法違反を申し立てている。
今年初め、4月28日、DSCの訴訟代理人および合衆国執行官は、DGIの土地建物に一方的差押を執行した。この差押命令は、DGIが著作権を侵害しかつDSCの顧客の一人の所でDSCのソフトウェアを内密にダウンロードしたとのDSCの申立に基づいて、認められた。
DSCとDGIとの紛争は、マイクロプロセッサの、ネットワークおよび通信産業に共通のディジタル・スイッチング・システムにおいて特定のタスクを管理するためDSCとDGIが製造するカードとをめぐってのものである。本件申立の主題は、マイクロプロセッサ製品グループの最新アップグレードであるMP-8およびMP-8の操作に必要なDSCのソフトウェアである。
審理は、この命令の対象となる三つの別個の争点に焦点が当てられた。第一の争点は、DSCのMP-8カードからのファームウェアのDGIによる「逆アセンブル」および「リバースエンジニアリング」が著作権法、17 U.S.C. §106、違反であるかどうか、およびDGIのその後の逆アセンブルおよびリバースエンジニアリングを差し止めるべきかどうかである。次の争点は、顧客の事業所にあるオペレーティング・システム・ソフトウェアのコピーをダウンロードする目的での当該顧客へのDGIの訪問が同じく著作権侵害にあたるかどうか、およびその後の同様の行為を禁じる差止命令を出すべきかどうかである。最後の第三の争点は、DGIのとった行為がすべて、調査、研究およびリバースエンジニアリングの過程であったのかどうかである。したがって、DGIは、自社に対する差止命令による救済の否認を求めており、また原差止命令の取消を求めている。
DSCは、主たる事業所をテキサス州プラノに有するデラウェア州法に基づく法人である。同社は、全世界通信ネットワーク向けのディジタル・スイッチング、送信、アクセスおよび個人向けネットワーク・システム製品を設計・製造・販売している。
DGIは、主たる事業所をリチャードソンに有するテキサス州法に基づく法人である。DGIは、DSCシステム互換の製品を製造・販売している。
DSCおよびDGIは、通信分野における、一定の処理を管理しかつ可能とする製品群を製造している。これらの製品には、ディジタル交換システム、マイクロプロセッサ・カードその他のハードウェアが含まれている。このマイクロプロセッサは、カードと呼ばれる回路盤上に設置されている。このカードは、ふつうシェルフと呼ばれるディジタル・インタフェース・モジュールに挿入されている。最後に、シェルフは、ディジタル・トランク・フレーム内に設置される。このシステムによって、DSC、DGIの顧客は、通信処理を行い、長距離、市内両方の電話ユーザのニーズに対応することができる。このカードの最新アップグレードが、MP-8である。
MP-8は、一般市場で販売されている。カードは、DSCから直接、その顧客から、または在庫品市場もしくは中古品市場で、購入できる。各MP-8には、カード自体に装填されたコンピュータ・チップ上に埋め込まれたファームウェアが含まれている。ファームウェアは、コンピュータ・チップに埋め込まれたソフトウェアである。カードのユーザや所有者は、ファームウェアの変更はできない。
DGIは、一般市場でいくつかのMP-8を購入した。同社は、DSCのディジタル・トランク・フレームとオペレーティング・ソフトウェアと互換のマイクロプロセッサ・カードの開発のための研究を目的として、このカードを購入したのである。
Jay Gentryは、DGIにおいて仕事を行う請負人である。Gentryの主な任務は、MP-8のDGIバージョン向けのファームウェアの開発である。Gentryは、DGIのファームウェア開発の過程で、DSCのMP-8カードから検索したDSCファームウェアを人の読める形式に逆アセンブルまたは翻訳するための、逆アセンブル・プログラムを開発した。プログラムの逆アセンブルは、機械可読なオブジェクト・コードから人(少なくともコンピュータ・プログラマ)の読める形式への、ファームウェア・コードまたは命令の翻訳から成っている。
Gentryは、CPBOOTと呼ばれるプログラムとDSCのMP-8上のプログラミング可能な読み出し専用メモリ(PROM)チップにあるファームウェアを、逆アセンブルした。逆アセンブルの完了後、Gentryは、逆アセンブルしたコードをDGIの別のエンジニアJohn Sandersに渡し、Sandersはこのファームウェアのフローチャートを作成した。Gentryは、このフローチャートと逆アセンブルしたDSCのコードとを使ってDGIのファームウェアの作成を開始した。DGIファームウェアのGentryによる最初の設計案は、1995年1月10日に作成された。Gentryは、引き続き1995年を通じて次々に設計案を作成しており、今日までファームウェアのその後の設計案の作成を続けている。
各当事者の鑑定人は、DSCのファームウェアとDGIファームウェアとを比較した。両鑑定人の意見の一致に基づき、当裁判所は、DSCファームウェアとDGIファームウェアとの間には実質的類似性がない、と認定する。
DGIは、商業目的でDSCのファームウェアを逆アセンブルした。DGIは、互換マイクロプロセッサ用の自社独自のファームウェアを作るため、DSCファームウェアの機能性とアイデアとの発見を希望していた。
ファームウェアの争点についての法律問題に関する結論
本案についての勝訴の可能性
裁判手続きにおいて、著作権登録証明書は、著作物性のprima facieな(一応の)証拠を構成し、著作権が有効でない理由を証明する立証責任を被告側に転じるものである。Lotus Development Corp. v. Borland Int'l, Inc., 49 F.3d 807, 812-13 (1st Cir. 1995), cert. filed June 7, 1995;また17 U.S.C. I 410 (c)も参照。DSCは、何通かの著作権証明書を審理の際証拠に提出し、原訴状第二修正への証拠物として添付した。提出証明書中に、DSCは、MP-8プロセッサ・ボード・ファームウェアの著作権証明書を含めた。DSCは、ファームウェアの有効な著作権の所有権を証明する、テストの第一要件を満たしている。その代わりとして、DGIは、他のいくつかの抗弁を行っているが、これについては後で取り扱う。
訴訟提起可能なコピー行為の認定には、二つの別個の構成部分の分析が必要となる。Engineering Dynamics, 26 F.3d at 1340。第一に、侵害者とされる者が実際に著作権のある資料を使って自己の著作物を作ったのかどうかに関する事実問題に答えなければならない。Id. 事実問題としてのコピー行為は、アクセスの証明及びと証明力ある類似性から推論することができる。Id. コピー行為がみな、著作権侵害であるとは限らない。Id.。
分析を要する第二の問題は、争われているコピー行為が法律的に訴訟提起可能であるかどうかである。この問題には、争われている二つの著作物の間に実質的類似性があるかどうかを決定するための、これらの著作物の比較分析が関わっている。Id. この問題の最初の比較は、DSCのファームウェアとこのファームウェアのDGIによる逆アセンブル・バージョンとで、行わなければならない。DSCとDGIは、この二つのプログラムが同一であり、それどころかDGIにとってはDSCファームウェアの機能性を発見するにはこれらが同一でなくてはならないことに合意している。
第五巡回区では、コンピュータ・プログラムのこの種の逆アセンブルすなわち「中間コピー行為」が同巡回区の著作権法理論上の不正なコピー行為にあたるかどうかを審理しなかった。これはこの裁判管轄区では先例のない問題であるため、当裁判所では、他の巡回区の指導を求める。第九巡回区が、Sega事件において本件と似た状況を審理している。同巡回区の判示によれば、著作権法はそのコピーが侵害者とされる者の著作物のどの段階に該当するかに基づいて著作物の無許諾コピーを区別してはいない。Sega Enter. Ltd. v. Accolade, Inc., 977 F.2d 1510 (9th Cir. 1992)。この判示は、17 U.S.C. §106(著作物の所有者に「著作物をコピーする」、「著作物をもとに二次的著作物を作成する」および「二次的著作物またはコピーの作成を許諾する」排他的権利を規定)の文言に基づいている。17 U.S.C. §106 (1)(2)。著作権法のこの文言とコピーの定義(注2)に基づいて、第九巡回区では、中間コピー行為が同法の禁じる行為のカテゴリーに完全に該当する、と判示した。当裁判所は完全に同意するものである。有効な著作権が立証され、かつDSCファームウェアとDGIの逆アセンブルしたファームウェアがほとんど同一であるから、DSCファームウェアの逆アセンブルまたは中間コピー行為を免責する積極的抗弁をDGIが証明できなければ、著作権侵害は起こったことになる。
DGIの逆アセンブルした中間コピーが著作権法上の「コピー」であると判定して、当裁判所は、次にDGIのフェアユースの積極的抗弁について、すなわちDGIの逆アセンブル・プロジェクトが17 U.S.C. §107に基づきフェアユースにあたるかどうかについて、分析する。第107条は、次のように規定している。
この規定の諸要素は、排他的ではない。むしろフェアユースの原則は、本質的に、エクイティ(衡平法)上の合理の原則である。Sega, 977 F.2d at 1521、引用省略。フェアユースはエクイティ上の原則であるから、当裁判所は、DGIがその逆アセンブルしたファームウェアを得たやり方は関連性がある、と認定する。DGIは、ハードウェア仕様とMP-8コンピュータ・チップ内のファームウェアの両方を研究しかつ分析するため、DSCのMP-8カードを購入した。DGIは、逆アセンブル・プログラムを書き、それがファームウェアを十分に逆アセンブルしない時にはこれを変更した。
著作権法は、アイデア、手続、プロセス、方式、操作方法、概念、原理または発見を、それが著作物において記述、説明、図案化または具体化される形式に関わらず、保護しない。17 U.S.C. §101。コンピュータ・プログラムに具体化されたアイデア、手続、プロセス、方式、操作方法または概念に関しては、この保護対象外の諸項目が通例オブジェクト・コードにあるという事実によって、プログラムの保護対象外の部分の検討の必要がなくなる。Sega事件の場合と同様、DSCのファームウェアの保護対象外の部分にアクセスする唯一の手段は、プログラムの逆アセンブルであった。DGIは、市場でDSCと競合できる互換のMP-8マイクロプロセッサを作るため、このファームウェアの保護対象外の部分へのアクセスに正当な利害を持っている。したがって、Sega事件における第九巡回区の理由付けに従って、当裁判所は、著作権のあるプログラムの保護対象外の部分を研究または検討する十分な理由のある時には、逆アセンブルしたプログラムの研究または検討を目的とする逆アセンブルはフェアユースにあたる、と判示する。Sega, 977 F.2d at 1520。
DGIの著作権法第I章第107条に基づく抗弁の分析に際して、制定法上の要因は、DGIによるDSCのファームウェアの逆アセンブルがフェアユースであるという判示に、有利に傾く。フェアユースの積極的抗弁の分析は、bright-line rules(直截で曖昧さのない決定の原則)によって簡略にすることはできない。制定法は、その認める原則と同様、一件ごとの分析を規定している。Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 127 L.Ed.2d 500, 114 S.Ct. 1164, 1170 (1994)。この一件ごとの分析に際して、当裁判所は、四つの要素を分離して扱うことはできない。むしろ、この諸要素の全部検討しその結果を著作権法の目的に照らして一緒に考量しなければならない。Id. at 1171。
フェアユースの検討で考慮すべき第一の要素は、「使用の目的および性格(使用が商業性を有するか非営利の教育的な目的であるかという点を含む)」である。17 U.S.C. I 107(1)。DSCは、DGIの中間コピーは商業目的であるから、すなわち互換性あるマイクロプロセッサの製作のためのファームウェアの機能の分析であるから、この使用はフェアユースでないと推定できる、と主張する(DGIのベンチ・メモに対するDSCの回答、at 7)。しかし、DGIの逆アセンブルの商業的性格には、決定的な重さを与えることができない。Campbell at 1174。実際、もし「商業性がフェアユースの認定に不利な推定力を持つなら、その推定は、§107の前文に列記された使用の実例のほとんどを呑み込むであろう...」。Id. DSCはSony Corp. of Am. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 78 L.Ed.2d 574, 104 S.Ct. 774 (1984)事件に依拠しているが、この事件は、「動かぬ証拠による推定 hard evidentary presumpution 」を求めていない。Campbell, 114 S. Ct. at 1174。逆に最高裁判所は、利益の微妙なバランスの必要を強調し、議会がフェアユースに対する厳格で、曖昧さのないアプローチを避けていると述べた。Id. コピー行為の商業目的は、フェアユース分析において他の要素と一緒に比較考量すべき一要素にすぎない。
Sega事件の状況と同様、本件で争われているコピーは中間コピーであり、逆アセンブルされたコピーの商業的開発は、間接的または二次的であった。審理における信頼できる証言は、この逆アセンブルがDSCのMP-8ファームウェアの機能的で保護対象外の側面の発見のため行われたことを示していた。Gentryは、この逆アセンブルをもとにフローチャートが作成され、ファームウェアのDGIバージョン作成のため、このフローチャートを逆アセンブルされたファームウェアと一緒に用いたと述べた。(注3)この諸事実および裁判記録は、DGIによる著作権のあるファームウェアの最終的な直接の使用が、DGIが互換カードの製造ができるようファームウェアの機能条件を研究するためであったことを、示している。
規定の第二の要素は、著作物の性質を検討し、すべての著作物が同一レベルの保護を受けるとは限らないという事実を認める。たとえば、歌、詩、小説など純然たる創作的表現の著作物は、伝記、歴史評論、年鑑といった主として事実の要素を含んだ著作物よりも、所期の著作権保護の核心に、より近い。著作権法は、著作物の事実または機能的側面は保護せず、著作物の機能的または事実の側面は、著作権法に違反することなくコピーできる。
不幸なことに、コンピュータ・プログラムは、保護対象の著作物のどちらのカテゴリーにもしっくりと該当しない。特定プログラムには確かに創作的側面があり、また所与の処理を実行するに必要だが著作権保護を享有しない機能的側面もある。Lotus Development Corp. v. Borland Int'l, 49 F.3d 807 (1st Cir. 1995)参照。Enjineering Dynamics, Inc. v. Structural Software, Inc., 26 F.3d 1335 (5th Cir. 1995)も参照。Computer Assoc. Intl, Inc. v. Altai, Inc., 982 F.2d 693 (2dnd Cir. 1992)も参照。コンピュータ・プログラムの混成的性質のため、保護対象の表現を構成するものとプログラムのアイデア、プロセスまたは操作方法を構成するものを判定する単一のテストは、なかなか開発されない。しかし、第五巡回区は最近になって、コンピュータ・プログラムの著作権保護の範囲を判定するため第十巡回区の形式化した方法を採用した。Engineering Dynamics at 1342。
コンピュータ・プログラムの保護対象のものと保護対象外のものとを分離するこの方法は、「抽象−濾過−比較」法(以下「A-F-C法」という)と呼ばれている。Id. at 1343。この方法は、どんな所与のコンピュータ・プログラムにも適用できる三段階の分析である。第一に、裁判官が開発した抽象化テストの手順に従って、一般性がどのレベルかによってプログラムを解析する。Id. 次に濾過の段階では、裁判所は、各抽象化レベルを検討して、DSC Communiations Corp. v. DGI Technologies, Inc.の保護対象外のプログラムの要素を「濾過」する。このステップでは、アイデア、プロセス、事実、公知情報、マージャー資料、Scenes a faire(一定の話の筋から必然的に出てくる場面)、検討対象プログラムの特定事実の示唆する保護対象外のその他の要素を、比較から排除する。Id. 最後に、裁判所は、残った保護対象の要素を侵害するとされるプログラムと比較して、被告が原告のプログラムの実質的要素を不正使用したかどうかを判断する。
当事者の鑑定人および訴訟代理人の同意のない時は、裁判所は、DSCのファームウェアとそのファームウェアのDGIバージョンとの分析に、A-F-C法を使うであろう。しかし当事者は、この二つのバージョンが実質的に類似していないことに同意している。当裁判所の分析のこの時点での重要なことは、A-F-C法を使う場合には、必然的に、分析するプログラムが、裁判所が表現的内容と機能的内容を区別できる形式でなければならないこととなることである。機能的内容がベーシック・コード・レベルに頼らずに表現的内容から容易に分離できることもある。本件のように、プログラムのコードを検討しなければそのプログラムの保護対象の要素と対象外の要素とを識別する方法のない場合もある。
裁判記録は、DSCのファームウェアの機能的要素を理解する唯一の方法がチップ上のオブジェクト・コードの逆アセンブルであったことを、立証している。ファームウェアは、オブジェクト・コードによってだけ、MP-8の購入者やユーザに頒布されている。MP-8コードがトランク・プロセッサで実行する機能は、MP-8の操作中はユーザには見えず、また簡単に識別できない。プログラムを逆アセンブルしなければ、どれが保護対象の表現で、どれが保護対象外のアイデアやプロセスであるかを区別する方法はない。「もし著作権のあるオブジェクト・コードの逆アセンブルがそれ自体アン・フェアユースであるなら、著作権の所有者は、自分の著作物の機能的な部分−−議会が明示的に著作権保護を否認した部分−−に対して事実上の独占権を得ることになる。Sega, 977 F.2d at 1525。著作物の基礎にあるアイデアまたは機能上の原則に対する合法的独占権を享受するには、創作者は、特許法の規定するより厳格な基準を満たさなければならない。Id.引用省略。DSCは、MP-8のファームウェアまたはハードウェアについての特許を所有していない。
DSCのファームウェアにはコピー行為なくして検討できない機能的部分があるから、当裁判所は、このファームウェアに伝統的な言語の著作物や音楽の著作物よりも低い程度の保護を与える。Sega Enter. Ltd. v. Accolade, Inc., 977 F.2d 1510, 1526 (9th Cir. 1992)参照。
制定法上の第三の要素、「著作物全体の関係における使用された部分の量および実質性」は、これに関してDGIに不利に傾く。DGIは、DSCのファームウェア全体を数回にわたって逆アセンブルした。しかし、著作物全体がコピーされた事実があっても、フェアユースの認定は排除されない。Sony Corp. of Am. v. Universal City Studios, 464 U.S. 417, 449-50, 78 L.Ed.2d 574, 104 S.Ct. 774 (1984)。
最後に、第四の要素−−あるいは最も重要な要素かも知れない−−、「著作物の潜在的市場または価値に対する使用の及ぼす影響」は、異議申立された使用が広範囲になったとき著作物の潜在市場に悪影響を及ぼすかどうかを裁判所が調べることを、必要とする。(注4)Id at 451。差止命令審理での証言は、DGIの計画したMP-8バージョンがDSCのMP-8と同一の機能を実行しないことを、示していた。DGIのエンジニア、DGI社長およびDGIの訴訟代理人は、DGIのMP-8ファームウェアの唯一の予定された機能が初期プログラム・ローディングと周辺ハードウェアの初期化であることを、示唆していた。DSCの訴訟代理人は、「そのコード[DGIのファームウェア]はDGIの希望する初期プログラム・ローディング機能すら実行できないだろう。当社は、初期プログラム・ローディングしか機能のない[MP-8]カードを販売することはできないだろうと考えている。たとえば...[ボードの]どこかが故障するときDSCは顧客の所へ行かなくてもそのボードの問題をある程度診断できる。先方[DGI]の言っているのは、顧客のそうさせないボードを顧客に売ることができる、ということである。当社は、それに市販性があるかどうかについて現実の問題を持っているが、なお様子を見るべきだと考える」と主張した(反訳記録、1995年7月25日、at 78, ll. 5-16)。DSCは、DGIのMP-8完成バージョンが診断、保守およびシリアル・ポート通信機能がないため、購入してもらえそうな通信の顧客の関心を惹かないだろうと考えている。DGIのMP-8バージョンが完成したとしても、その実行する機能は、初期プログラム・ローディング機能だけである。証拠に基づいて考えると、機能を取り去ったDGIモデルが市販性を妨害しまたはスーパーデラックスなDSCのMP-8モデルの市場を不当に奪うおそれはないように思われる。
要約すると、DGIのフェアユースの積極抗弁の四つの要素のうち三つは、DGIに有利に傾く。第三の要素は、DSCのファームウェアの全部が逆アセンブルされているから、DGIに不利に傾く。しかし、プログラムの機能的部分を発見するためのプログラム全部の逆アセンブルは、コンピュータ・プログラムの性質上必要なことであった。この諸要素を全体として検討して、当裁判所は、DGIの逆アセンブルがフェアユースであった、と認定する。著作権のあるオブジェクト・コードのアイデア、プロセスおよび概念を隠すことをコンピュータ・プログラマに認めれば、著作権法の基本的目的−−自由市場でのアイデア、事実および機能的概念を創作者以外の人に基礎として用いさせる一方で創作者の表現の保護を通じてオリジナルな著作物の創造を奨励すること−−を覆すことになる。
DGIによるDSCのファームウェアの中間コピー行為がフェアユースであったと認定したのち、当裁判所は、MP-8ファームウェアのDGIバージョンがMP-8プロセッサ・ファームウェアにおけるDSCの著作権の違反であるかどうかを決定しなければならない。両当事者の鑑定人の証言を聞き、また訴訟代理人の合意に照らして、当裁判所は、DGIのファームウェアの現バージョンがDSCのファームウェアと実質的に類似していない、と判示する。DSCがその著作権のあるファームウェアとDGIのファームウェアとの実質的類似性を証明していないから、当裁判所は、DSCが本案について勝訴する実質的可能性があるとは認定できない。したがって、DSCには、ファームウェアの争点に関する暫定的差止命令の権利がない。
DSCは、ディジタル・交換機製品、たとえばディジタル・トランク・フレームやカードが適切に機能するよう、DSCオペレーティング・システム・ソフトウェアを顧客に提供している。DSCは、そのオペレーティング・システム・ソフトウェア開発のため何百万ドルもの資金と多量の人的資源(工数)を投入してきた。同社は、15年の期間にわたって、そのオペレーティング・システム・ソフトウェアの開発・改良を行った。
DSCでは、そのオペレーティング・システムを顧客の大半にライセンスしている。これらの顧客は、ディジタル・トランク・フレームやカードの機能に必要なソフトウェアを所有していない。審理で述べられたこの方針の唯一の例外は、モトローラであった。モトローラとDSCは研究契約を結んでおり、この契約に基づいてモトローラは、開発目的のソフトウェアの所有権を得ることができる。オペレーティング・システム・ソフトウェアは、一般市場で商業ベースでは入手できない。オペレーティング・システムとこのソフトウェアのライセンスは、DSCからしか得ることができない。このオペレーティング・システム・ソフトウェアは、DSCの顧客、DSCの二個所でのみ、見ることができる。
NTS Communications Corporationは、DSCの顧客の一人である。NTSは、DSC製のディジタル・トランク・フレームおよび各種のマイクロプロセッサ・カードを所有している。同社は、所有するハードウェアを動かすためDSCからオペレーティング・システムのライセンスを受けている。DSCとNTSは、両社の関係を管理するライセンス契約を締結している。この契約は、また、ライセンスされたソフトウェアに関するNTSの権利および責任を規定している。このライセンス契約は、ソフトウェアの全部または一部の複製またはコピー行為をNTSに禁じている。またNTSは、DSCの事前書面同意なく従業員以外の何人に対しても、ソフトウェアまたはその一部の提供、開示または送付を禁じられている。
NTSは、DGIの顧客でもある。それぞれNTSの副社長、ネットワーク部長であるMike Tucker、Gary Samsは、DGIがNTSのダラス事業所で各種の製品をテストする目的で、NTSの所有するDSC製装置へのアクセスをDGIの従業員に許可することに同意した。DGI社長Lyle Coffmamnは、このアクセスと交換に、購入するDGI製品の10パーセントのディスカウントをNTSに与えることに同意した。NTSのダラス事業所でテストされた製品の一つは、MP-8カードのDGIバージョンであった。DGIのエージェントであるJay Gentryは、1994年12月から1995年3月までのNTS 訪問の間に、DSCのオペレーティング・システムのコピーをダウンロードした。DGIは、このソフトウェアを必要としていた。マイクロプロセッサ・カードとラップトップ・コンピュータを使って、Gentryは、ソフトウェアのコピーを記憶させ、これをDGIの事業所に持ち帰った。これは、DGI経営陣の指示によって、Gentryが行った。NTSの経営陣と重役は知らされておらず、MP-8のDGIバージョンのテスト中にDGIがDSCのオペレーティング・システムをコピーしていたことを全く知らなかった。実際、DGIは要請もしなかった。ただ単にコピーを入手しただけであった。
DGIの重役、エンジニア、従業員は、通信・ソフトウェア開発業界に長年の経験があったにも関わらず、だれ一人NTSのライセンス契約の内容を検討しようとしなかった。事実、だれ一人として、このような契約の存在を考えようともしなかった。当裁判所は、これらの人たちがこのことを気にもかけていなかったと認定する。
所有権譲渡の代わりにソフトウェアをライセンスすることは、本件のように研究開発投資を盗用から守るという特定目的では、通信・ソフトウェア開発業界ではよくみられることである。同じ理由で、ライセンスを受けたソフトウェアのコピー行為または第三者によるコピーを禁じることは、ソフトウェア業界では通常のことである。
DGIは、NTSとDSCとのライセンス契約の当事者ではない。しかし、当裁判所は、DGIが重役、役職者またはエンジニアを通じて、そのような契約がNTSとDSCとの間に存在することを知っていたことを、証拠から正当に推定できる。加えて、DGIが重役、役職者またはエンジニアを通じて、ソフトウェアのコピー行為または第三者によるコピーを禁じることがこのような契約の条項にあることを知っていたというのは、正当な推定である。
当裁判所は、厳格または辛辣でありたいと望んでいるわけではないが、率直に語り遠慮なくはっきり言うべきであると考える。当裁判所は、証拠から導かれる正当な推定が、DGIが、なんらかの種類のライセンス契約が存在していたこと、この契約がDGIのような第三者競合企業のソフトウェアへのアクセスまたはコピー行為を禁じていること、そしてもしソフトウェアへのアクセスまたはコピーの許諾を(DSCかNTSかに)求めたなら「駄目だ」と言われることを知っていたことである、と考える。当裁判所はそのように認定し、またDGIが財政的困難に陥っており現在もそうであるから、DGI社長Lyle Coffmanの証言のように、「捨て鉢に」なっていたと認定する。当裁判所は、同社が、破産を避け競合しようとする捨て鉢の努力のなかで、DSCまたはNTSの知らないうちにまたはその同意なしに、ソフトウェアを入手したと認定する。
DSCは、DGIがダウンロードしDGIの事業所に持ち帰ったオペレーティング・システムのDGIによるコピー行為について、DGIに対する著作権侵害請求を主張している。差止命令による救済のDSCによる請求と、オペレーティング・システムの著作権侵害に対する同社の請求は、本命令のファームウェアに関する部分で述べたのと同一の法律問題に関わっている。したがって、当裁判所は、先に行った法律問題に関する結論のうち本件の著作権侵害に該当する部分を、参照によって採用する。加えて、DSCは、次のオペレーティング・システムの著作権登録証明書を提出して証拠に提供した。
DSCは、争点のオペレーティング・システムの著作権証明書による著作物性の一応有利な(prima facie)証拠の提出によって、テストの第一の要件を満たしている。DGIは、オペレーティング・システムのこれらの著作権の有効性については、異議を申し立てていない。むしろ同社は、フェアユースの積極的抗弁と著作権のミスユースを主張しているが、これについては以下で取り扱う。
最初にDSCのオペレーティング・システム・ソフトウエアとDGIがDSCの顧客の事業所でダウンロードしたオペレーティング・システム・ソフトウェアとを比較しなければならない。DSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアの相当な部分を作成したDSCの専門家Robert Nimonは、4月28日に差し押さえられたソフトウェアをDSCのソフトウェアと比較して、差し押さえられたプログラムがDSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアと同一であることを知った。DGIは、この結論に同意している。したがって、有効な著作権が証明されかつDSCのソフトウェアとDGIのコピーとが同一であるから、DGIがDSCのオペレーティング・システムのダウンロードとコピー行為とを免責する積極的抗弁を立証しない限り、著作権侵害が起こったこととなる。
ソフトウェアのコピー行為が17 U.S.C. §107(注5)に基づきフェアユースにあたるというDGIの主張については、当裁判所は、やはり、DGIがオペレーティング・システムを入手したやり方が関連していると考える。DGI社長Lyle Coffmanは、NTSの重役二人、Gary Sams、Mike Tuckerと、DGIのエンジニアがNTSのダラス事業所で開発中の製品をテストすることを認める契約を締結した。このアクセスと交換に、NTSは、DGIから購入する製品の価格の10パーセントの値下げを、受けることとなった。この契約を隠れ蓑に、DGIのJay Gentryは、他のDGIエンジニアと一緒に、改造したDSCのMP-8カードのテストを行い、またNTSの重役や役職者に通知せずにまたはこれらと相談せずに、Gentryは、DSCのオペレーティング・システムをダウンロードした。要するにDGIは、所有者の知らないうちに、またはその許諾を求めずに、自分たちの所有でない物を入手したのである。DGIの行為は、不満を抱いた元社員の告げ口から発覚し、その結果一方的差押命令が出され、これによって破棄されないうちに証拠が確保された。
GentryとCoffmanは、ともに40年以上にわたって通信業界に勤務している。Gentryは、DSCの元社員である。しかし、DGIとそのエンジニアが数ヵ月間行っていた大量のコピー計画を弁明するため、両者は、まじめな顔で、NTS とDSC の間のライセンス契約の存在を知らなかった、またはその存在さえ予期しなかったと主張している。当裁判所はこの証言をにわかには受け入れない。この主張に続いて、ライセンス契約が存在したとしても、DGIはその契約の当事者ではなく、したがって何の咎めもなくDSCスイッチにあるどのソフトウェアでも勝手にコピーできる、という、もう一つの不誠実な陳述がある。当裁判所は、これらの主張には事実上または法律上の根拠がないと認定する。要するに、DSCのオペレーティング・システムのDGIによる大量のコピー行為を弁明するため提出された信用できない理由は、フェアユース抗弁の主張の権利をDGIに与えるには、不十分である。
Atari Games Corp. v. Nintendo of America事件において、連邦巡回区は、本件と類似した事実を審理している。975 F.2d 832 (Fed.Cir. 1992)。この事件で、Atariは、著作権局からNintendoの著作権のある10NESソース・コード(注6)を得るため、AtariとNintendoとの間で係属中の訴訟の状況を不実表示した。連邦巡回区は、エクイティ上の抗弁であるフェアユースを利用するには保護対象著作物の正当なコピーを所有していなければならないから、Atariにはフェアユースによる異議申立を行う権利はない、と判示した。Atari, 975 F.2d at 843(Harper & Row, Publishers, Inc. v. Nation Enter., 471 U.S. 539, 562-63, 85 L.Ed.2d 588, 105 S.Ct. 2218 (1985)を引用)(黙って失敬した原稿のそれと知っての利用は、フェアユースの原則の「善意」および「公正使用」による支持とは両立しない)。
DGIは、一般市場で購入できない物を入手するため、NTSのダラス事業所へのアクセスに対する契約を、それと知って利用した。NTSとDGIとの最初のテスト契約の範囲を超えて、DGIのエンジニアは、この契約に違反した。DSCの所有であるオペレーティング・システムのコピーのダウンローディングによって、DGIは、DGIとNTSとの契約に違反したばかりでなく、NTSにDSCとのライセンス契約の違反をさせた。DGIにはDSCのオペレーティング・システムのダウンロードしたコピーの所有を許諾されていなかったから、DGIによるオペレーティング・システムのコピー行為、研究または二次コピー行為には、フェアユースの資格がない。
要約すると、DSCは、オペレーティング・システムについては、著作権のある著作物へのアクセス、同ソフトウェアとダウンロードしたコピーとの実質的類似性、この両方を証明している。同社は、オペレーティング・システムの著作権侵害の本案について、実質的な勝訴の可能性を立証している。
DGIは、DSCの著作権ミスユースの積極的抗弁も主張している。審理に提出した準備書面においてconclusory(根拠なく事実を述べる)なやり方で、DGIは、DSCが八つのやり方でオペレーティング・システムとファームウェアに対するその著作権をミスユースした、と主張した。しかし、DGIは、悪事とされる行為のリスト以外にこれらのミスユースの証拠を提出しなかった。
第五巡回区には、少なくとも一回、著作権ミスユースの抗弁が提起されている。Mitchell Bros. Film Group v. Cinema Adult Theater事件で、裁判所は、「適切な場合、著作権法の目的、すなわちオリジナリティの促進をなんらかの形で覆す同法のミスユースは、司法上の救済の障害になり得る」と述べた。604 F.2d 852 (5th Cir. 1979)。さらに第五巡回区は、著作権が著作権登記官に対する著作者性の悪意の不実表示によって得られたときは、著作権ミスユースは適切な抗弁となり得ると、仮説的に述べた。また第五巡回区は、特許抱き合わせ事件での一般大衆の独占権拡大の理論(public monopoly extension rationale)が、著作権に適用できる可能性があると認定した。
DGIにとって不幸なことに、これらの仮説的状況は、本件ではほとんど指針を与えず、DGIの長い非難のリストの与える指針は、さらに少ない。証拠の裏付けのあるもっと十分に練り上げた抗弁であれば、たとえ現在の暫定的差止命令の登録からDGIを守ることはなかったにせよ、公判でDGIの助けにはなったであろうことは、明白である。
差止命令の検討の第二の要件については、DSCは、DGIによるオペレーティング・システムの無許諾コピー行為および使用によって回復不能の損害が生じるおそれのあることを、証明しなければならない。DGIは、オペレーティング・システムのコピーを持っていることを認めており、またこのコピーを入手した方法も認めている。当裁判所は、DGIのやり方が無許諾であったと認定する。
このオペレーティング・システム・ソフトウェアは、DSCの事業の重要部分である。DGIがこのソフトウェアの使用を続ければ、同社は不正な利得、DSCが著作権のある資料の開発に費やした時間と知識・技術を使うという利得を得ることになろう。DSCは、ライセンスのないユーザがそのソフトウェアのコピーを持てば、そのソフトウェアとソフトウェアの著作権の物理的管理を失う。当裁判所がDGIにこれらの無許諾コピーの継続的所有を認めれば、DGIがオペレーティング・システムを他の当事者に開示することを防ぐものが全くなくなる。DGIはオペレーティング・システムについてDSCとライセンス契約を結んでいないから、DGIは、DSCの同意なしにこのプログラムを流布させることを、契約上妨げられることはない。
DSCは、DGIがDSCソフトウェアの移動可能なコピーのコピー行為とダウンロードを続ければ回復不能の損害を受けることを、証明している。実際、DGIが行ってきた種類の行為は、まさに著作権法が予防しようとする使用の種類であり、その継続的発生を防ぐための差止命令の使用は、正当化される。
差止命令の検討の第三の要件−−差止命令の発布で被告(DGI)に生じる損害が現状のままの場合に原告(DSC)に生じる損害より重大であるかどうか−−も、DSCに有利に傾く。DGI社長Lyle Coffmanは、DGIが互換のMP-8カードを開発できなければ、同社は廃業に追い込まれるだろうと証言している。当裁判所は、逆アセンブルによってDGIがMP-8ファームウェアを開発することは合法的なフェアユースであると、前に判示している。差止命令が発布されても、DGIは、その開発計画を継続できる。
CoffmanとDGIの弁護士は、DGIにはオペレーティング・システムを販売する意図はないと当裁判所に表示した。Coffmanは、DGIには顧客に引き続き販売する他の製品や製品種目があると証言した。当裁判所は、ソフトウェアの分析・逆アセンブルをDGIに禁じることで互換のMP-8カードの開発においてDGIに多少の不便が生じることを認めるが、この不便は、ソフトウェアの無許諾コピー行為からDSCに生じる現実の脅威を超えることはできない。
他の巡回区が述べているように、生じる困難の釣り合いをとる正しい基準が侵害者が廃業に追い込まれるかどうかであるとしたなら、そのときはそれと知った侵害者は、侵害製品をもととして事業を形成でき、合法的な著作権所有者の救済の取得または権利の行使を事実上妨害できることになろう。Apple Computer, Inc. v. Franklin Computer Corp., 714 F.2d 1240 (3rd Cir. 1983), cert. dismissed, 464 U.S. 1033, 104 S.Ct. 690, 79 L.Ed.2d 158 (1984)参照。これが著作権法や暫定的差止命令基準の意図する結果でないことは、明白である。DGIは、無許諾コピー行為の継続を認められなければ廃業に追い込まれるとの主張で成功することはできず、また当裁判所がその表示のみに基づいてDSCの権利行使を予防すると期待することはできない。
当裁判所は、法律問題として、価値のある行使できる権利の付与を通じて個人の努力と創造性を奨励する著作権法の安全を保つことによって差止命令が公益に役立つ、と認定する。Worlds of Wonder, Inc. v. Veritel Learning Systems, Inc., 658 F.Supp. 351, 357 (N.D.Tex. 1986)参照。当裁判所は、この争点についてDGIが行った行為が非難され奨励されない行為である、と認定する。
1995年4月28日付の差押において、合衆国執行官とDSCの訴訟代理人は、DSCのソフトウェアのコピー、逆アセンブルしたDSCファームウェアのコピーおよびテスト用のDGIのMP-8カードを含む種々のハードウェアを、差し押さえた。DGIの事業所から差し押さえたディスクには、DSCのオペレーティング・システムのセットが含まれていた。差し押さえたセット内のプログラムには、オペレーティング・システム・ソフトウェア、構成システム・ソフトウェア、診断システム・ソフトウェアおよび保守ソフトウェアが含まれていた。
DGIは、その設立時点で、中古のMP-2世代のディジタル・回線スイッチ・トランク・フレームを所有していた。このスイッチには、スイッチに関する種々のマニュアルとスイッチを操作するのに使うマイクロプロセッサが含まれていた。このマニュアルには、マニュアル中の情報の流布またはコピー行為を制限する著作権表示があった。
差押命令取消申立についての事実問題に関する結論
当裁判所は、DGIのファームウェアの開発・逆アセンブルはDGIの販売するMP-8カードにあるファームウェアに対するDSCの著作権を侵害しない、と判示している。したがって、差押命令のファームウェアに関する部分は、これを取り消す。当裁判所は、ファームウェアの差押のDSCによる申請は第五巡回区での未解決の法律問題に基づいていた、と認定する。この申立は、悪意またはその他の不正な動機によるものではなかった。
また当裁判所は、オペレーティング・システム・ソフトウェアのDGIによる無許諾コピー行為はDSCのソフトウェア著作権の侵害であった、と認定した。したがってDGIには、差押命令のオペレーティング・システム・ソフトウェアに関する部分を取り消す権利はない。
最後に、改造されたDSCのMP-8ボードは、「それによって...コピーを複製できる物品」にあたる。17 U.S.C.§503(a)。改造されたカードが著作権法に基づく差押を受けることは明白であるから、DGIには、差押命令のこのカードに関する部分を取り消す権利はない。
オペレーティング・システム・ソフトウェアの争点についての差止命令による救済の権利を立証するに要する前提条件をすべて満たしたため、当裁判所は、当裁判所の以後の命令の出るまでかつこの訴訟の以後の審理まで、原告には、原告の権利を保存できるようまたこの訴訟の最終判決まで原告の回復不能の損害を防ぐため、以下に述べる被告に対する暫定的差止命令と権利がある、と認定する。
被告は、差止命令の部分的取消の権利を証明した。しかし、保証金の没収については、この時点では認められない。差押取消申立は、下記に詳しく述べるとおり、その一部を認める。
原告は、ファームウェアについての暫定的差止命令発布の権利は、証明していない。したがって、この争点についての救済を求める原告の申請は、これを否認する。
よって、
被告DGI Technologies, Inc.ならびにその役員、エージェント、使用人、従業員および弁護士および直接の送達または他の方法で本命令の実際の通知およびその内容を受け取るDGIと積極的協力またはこれに参加している者は、DSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアに関する著作権所有者であるDSCの許諾なしに、次の行為のいずれをも、直接または間接に、行いまたは許諾することを、ここに禁じられる旨、命令し、宣告しかつ布告する。
(1) DSCがその著作権または著作権に基づいて排他的権利を所有する顧客の事業所に所在するオペレーティング・システム・ソフトウェアを、全部または一部、コピーまたは複製を移動する意図を持ってコピーしまたは複製すること。
(2) 本命令の通知を受けた者が顧客の事業所から移動でき、他の物理的場所に送付できるディスクまたはパソコンのハードディスク上でのコピーを得る目的で、DSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアのダウンロードまたはコピー行為をなんらかの方法で引き起こし、誘発しまたは別途になんらかの方法で起こさせること。
(3) 当裁判所の命令による場合を除き、DSCがその著作権または著作権に基づく排他的権利を所有するDSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアの無許諾コピーを作成し、使用し、賃貸しし、頒布し、交換し、貸与しまたは他人に譲渡すること。
(4) 顧客の事業所から移動できるDSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアのコピー作成の目的でのダウンロードに関して、DSCのソフトウェア・ライセンシーにDSCとのソフトウェア・ライセンス契約に違反させまたは違反するようそそのかすこと。本命令において、移動できるコピー作成目的でのダウンロードには、一定時間当該オペレーティング・システム・ソフトウェアを記憶させるバッテリー・バックアップ・マイクロプロセッサの使用が含まれる。移動できるコピー作成目的のダウンロードには、モデム使用によるオペレーティング・システム・ソフトウェアの転送も含まれる。当該コピーが顧客の事業所から移動できず他の場所に輸送できない限り、移動可能なコピー作成目的のダウンロードには、互換のMP-8カードのテストまたは操作に欠かせないと、マイクロプロセッサまたはテスト用マイクロプロセッサ・カード上のダイナミックRAMへのダウンロードを、含まない。
(5) 移動可能なコピー作成の意図をもってDSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアをコピーしまたはダウンロードする目的でDSCのマイクロプロセッサ・カードを改造すること。
更に、当該コピーがオブジェクト・コードであるとソース・コードであるとに関わらず、被告、その従業員またはエージェントが管理するパソコンまたはラップトップ・コンピュータのハードディスクから、DSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアのコピーを消去することを、命令し、宣告しかつ布告する。
また被告は、原告に対して、フロッピー・ディスク上にある、被告、その従業員またはエージェントが管理するDSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアのコピーを引き渡すものとする。また被告は、DSCに対して、被告、その従業員またはエージェントが管理するDSCのオペレーティング・システム・ソフトウェアの筆記コピーまたはハード・コピーを引き渡すものとする。
更に原告は、被告のテスト用ファームウェアまたは1995年4月28日の合衆国執行官の差押で差し押さえられたファームウェアのすべてのコピーを、被告に返却するよう命令し、宣告しかつ布告する。とくに、原告は、次の差し押さえられたファームウェアおよび関係プログラムを返却するものとする(注7)。
更に、原告がファームウェアの争点の本案に付いて勝訴の実質的可能性を立証しなかった旨、命令し、宣告しかつ布告する。当裁判所は、二人の対立する専門家と同様、DGIのファームウェアがDSCの逆アセンブルされたファームウェアと実質的類似性を持たないと認定した。また当裁判所は、DGIの中間コピーがファームウェアによって保護されると認定した。したがって、MP-8ファームウェアに関する暫定的差止命令を求めるDSCの申立は、これを否認する。
更に、原告が、被告が不当な命令を受けた場合被告に生じる費用または損害の支払いのため、連邦地方裁判所規則に基づき、50,000ドルの差止命令保証金を現金または会社の保証証書によって差し入れるよう命令し、宣告しかつ布告する。この保証金は、直ちに当裁判所書記官に提出するものとする。
更に、連邦民事訴訟規則4(c)に基づき、本命令のコピーおよび原告の差止命令保証金に対する当裁判所の認可を示す文書のコピーをDGIに、またはその登録弁護士に、18歳を越える原告の弁護士の監督下にある者であって本訴の当事者でない者によって、差止命令保証金および同保証金に対する当裁判所の認可の発行日の翌日午前10時までに、送達するよう命令し、宣告しかつ布告し、ここにこの送達が十分な送達であるものとみなす。DGIの訴訟代理人は、本命令およびその内容をすべての関係当事者に周知させるものとする。本命令は、差止命令保証金が当裁判所書記官に提出され適切な送達がこの記述に規定する通りに行われてはじめて、効力を持つ。
以上の通り命令する。
日付:1995年9月1日
合衆国地方裁判所裁判官JOE KENDALL
脚注
1. 法律問題に関する結論を事実認定と解釈する場合、またはその逆の場合は、その認定または結論は、認定または結論とみなす。
2. 「コピー」は「これによってその著作物を直接にまたは機械装置を使用して感知、複製または伝達できる」なんらかの有形の形式に固定されていなければならない。Sega at 17(17 U.S.C. §101を引用)。
3. DSCは、DGIが「クリーンルーム」を、使用しなかったことまたは主張している側によれば、使用できなかったことを、盛んに言い立てている。「クリーンルーム」とは、ソフトウェア業界で使われる技術で、競合製品の開発中に競合相手のコードの直接コピー行為を避けることをいう。この手順は、通例、二つの開発担当者チームから成っており、一つはコードを逆アセンブルしてその機能面を説明し、他のチームはこの機能面の説明を受け取って競合製品のコードを書く。理想的には、このプロセスは、競合製品開発の最適なやり方である。侵害者とされる者が、競合するコードを作成したプログラマがもとの著作物にアクセスしていないことを示すことができるからである。アクセスのなかったことを証明することで、侵害者とされる者は、著作権侵害訴訟の第一要件を覆すことができ、これによって分析と主張を双方とも、終結できよう。しかし著作権侵害のテストには、アクセスと実質的類似性の二つの要件がある。したがって、DGIが開発の望ましい方法である「クリーンルーム」を使わなかったという理由からDSCはアクセスの立証に成功するかも知れないが、そのファームウェアとDGIのファームウェアとの間の実質的類似性を証明しなければならない。DSCの訴訟代理人、DSCの鑑定人、DGIの訴訟代理人、DGIの鑑定人全部が同意し合意した基準を、DSCは満たすことができない。
4. 異議申立のなされた使用が潜在的売上げを減らし、市販性を妨害しまたは市場を奪うときは、この要素は、他のすべての考察より重要になるかも知れない。Sega at 1523。
6. 10NESソース・コードは、Nintendoのゲーム・コンソール・システムが無許諾のゲームカートリッジを受け付けないようにするため、Nintendoが設計したプログラムであった。Nintendoのゲーム・コンソールと互換にするためには、Atariは、同一機能を実行しゲームコンソールがAtariのゲームを認識できるようなプログラムを開発しなければならなかった。
7. このリスト作成に際して当裁判所は、DSCの専門家が作成した差押資料の目録を参考にした。このリストには、DGIの訴訟代理人またはその一人の従業員による各差押ファイルまたはプログラムを説明する注が付いている。このリストは、網羅的ではない。原告がファームウェアまたは関係プログラムを含む他のファイルまたはプログラムを知る理由のあるときまたは実際に知っているときは、本命令は、それらのプログラムの返却も要求する。