[結論]インターグラフの仮差止請求を認容。
その他、チップセット、マザーボード、グラフィックサブシステムのメーカーでもある。
80年代初め、X86チップ―IBM PC搭載―オープン・アーキテクチャー及びコンパチビリティ―インテルチップのポピュラー化へ
世界の全パソコンの殆どはインテルのマイクロプロセッサーを搭載。インテルの売上の88%はパソコン用マイクロプロセッサーによるもの。166億ドル中146億ドル。X86市場で85%のシェアを有する。
96年度の全売上は208億ドル、税引き前利益は79億ドルで、38%の利益率。継続的に高い利益率。過去4年間、毎年50〜80%の伸び。96年度の高利益世界第8位企業
ペンティアムシリーズ―複雑高度化、開発製造の高度化・高コスト化
ペンティアム・プロ―550万のトランジスターを配して1秒間に3億のインストラクションを処理できる。
製造には200超の主要ステップを要する。
“INTEL INSIDE”ブランドとユーザーの支持―世界に1300の“INTEL INSIDE”プログラム参加企業
(インテル以外のメーカー:Cyrix, AMD,IBM―合計15%未満のシェア)
インテルのマイクロプロセッサーは多くのOSで使用できるが、殆どはマイクロソフトのWindows←司法省はマイクロソフトがOSについて独占力を有するとして長年訴訟を行ってきた。インターグラフはマイクロソフトの32bitOSであるWindowsNTを用いてきた。(他社のマイクロプロセッサーでもWindows等を使用できるが、OSとマイクロプロセッサーが自由に相互乗り入れできると考えるのは誤りで、高い信頼性を確保するにはOSとマイクロプロセッサーとサブシステムとを細心の注意をもってマッチングしなければならない。例えばIBMとモトローラが共同開発したPowerPCについては、当初インテルがサポートしていたが、現在ではサポートをしていない。)
ペンティアムUの最新世代が開発されるまで、インテルはオープン・アーキテクチャーを採用していた。例えばCyrix, AMD,IBMのようなメーカーも初期のインテルと互換性のあるマイクロプロセッサーを開発製造していた。しかし、ペンティアムUになりP6という新しいbusが採用され、閉じられた/専有のアーキテクチャーに変更された。ということはペンティアムU及びその後継マイクロプロセッサー(Deschutes,Merced)は他のCPUと互換性がないことになる。更に最近のインテルのCPUは技術的に優れており、少なくともハイエンド・ワークステーションで要求される先進グラフィック機能に対応する点で他社のインテル互換マイクロプロセッサーに勝っている。
ペンティアムUよりも高速のマイクロプロセッサーは存在する。DECのALPHAは弁論時点で最速。しかし、これらの他のマイクロプロセッサーはペンティアムベースで開発製造されるインターグラフのワークステーションでは互換性がなく使用できない。中にはWindowsNTを走らせることができないものもある(例えばPowerPC)。ペンティアムUは処理速度だけではなく、高度なグラフィック機能対応性がある。AiphaCPUはインテル製品の潜在的代替性がありうる。非公式情報であるが、インテルvDEC事件の和解で、インテルがAlphaチップ事業を買収するという。したがって、仮にインターグラフにとってAlphaに乗り換えることが経済的又は技術的に可能なことだとしても、インターグラフはなおインテルとの間に顧客・売主関係を継続せざるを得ない立場に置かれている。
インテルのマイクロプロセッサーを使用したOEM製のコンピュータはインテルのアーキテクチャー所定の物理的・技術的要件に正確に適合していなければならない。例えば、ペンティアムU以前のインテルのチップは、他メーカーの同様のチップも搭載できるP7 busの平らなソケットにマウントされていた。しかしペンティアムUは、他メーカーのマイクロプロセッサーは受け付けないP6Busに搭載される。インテルは意図的に専用ソケットに変更するなどして、従前の「オープン・アーキテクチャー」から新しい「クローズド・アーキテクチャ‐」に変更した。インテルは「クローズド・アーキテクチャー」に含まれる知的財産権を行使することにより、X86マイクロプロセッサー準拠のハイエンドコンピュータ業界を前にした人々に対して絶対的な力を行使することができるのである。インターグラフのようなOEMはマイクロプロセッサーやチップセットの調達について完全にインテルに依存し、インテルCPU、関連チップセット、P6Busに技術的及び経済的にロック・インされてしまい、他に可能な選択肢は存在しない。インテルはX86ベースのワークステーション(これは全ワークステーションの60%に当たる)に用いられるハイエンドCPUの市場で100%のシェアを有する。
[インテルの主張について]
Intelの弁護士はP6BusのライセンスをIBMその他にしており、ペンティアムUと競合する製品をすぐに生産できるというが、証拠はない。
インテルは、インターグラフがペンティアムUに代わる別のマイクロプロセッサーに乗り換えることができると主張するが、その様な事実はないし、仮に可能としても2年以上を要するだろう。
[OEMに必要な製品/情報等]
OEMは、市場で競争をすることができるためには、マイクロプロセッサーの供給を受けるだけでなく、(1)新製品の開発及び従来製品の保守のために必要なインテルの機密の技術情報、(2)インターグラフが次世代製品を開発するために必要なインテル開発のチップ試作品(“チップ試作品”)、及び(3)製品生産のため必要なインテル・チップ及び関連製品並びに関連技術情報の早期リース(“早期リリースチップ”)へのアクセスができなければならない。
したがって、インターグラフがハイエンド・ワークステーション市場で競争して行くためにはインテルの最新最速のマイクロプロセッサー及び関連チッフセットを使用せざるをえず、任意にしろ強制にしろインテルの協力を得なければならない立場にある。更にインターグラフがその様な競争をなし得なければ、同社は多大の損失を被り、世界で8500人(アラバマで4500人)の従業員の雇用も確保できなくなる。最終的にインターグラフのワークステーション市場やコンピュータ産業における名声は長期間に亘って失われる。雇用、名声及び暖簾は一度失われたら再び獲得し得ないものであるから、これらの被害は金銭では償い得ないものである。
90年代→Windowsの台頭にあわせた路線変更―WindowsNTベースのワークステーションへ
92年、インテル=オープン・アーキテクチャー、IBM互換PCで台頭→インターグラフは、インテルの継続支援のコミットを得てクリッパーからインテル・マイクロプロセッサーへ転換及びWindowsNTへの変更のための2年計画の投資を開始
93年終わりまでにインターグラフはクリッパーを打切り(当時の技術者も退職)。
92年以降インテルマイクロプロセッサーベースでの開発→前記状況でインターグラフは少なくとも2〜3年はインテルCPUにロックインとなる。
Intel−Windows連合+激増。これに対してRISC−Unix連合はflat
インテルのワークステーション市場でのシェアは2000年までに86%に達するという観測もある。
もっともIBMがまもなくペンティアムUを凌ぎ、1ギガヘルツで作動する新しいマイクロプロセッサーを発表するといわれているから、インターグラフは将来はインテル以外の選択肢を持つかもしれない。
インターグラフは、インテルの約束に基づいてクリッパー技術を放棄するまではハイエンド・マイクロプロセッサー市場での競争に成功してきた。インテルの行為によってインターグラフはハイエンドマイクロプロセッサー市場での競争者としての地位を失い、インテルのCPUと関連技術データにロックインの状態にある。更にクリッパー技術の開発が断念された点は、将来にわたるイノベーションと競争を減殺されたことにもなる。
[インターグラフとのNDAの条項]
(1)いずれの当事者も機密情報の提供義務は負わない、いつでも何らの責任なく提供をストップできる、書面で返還を要求できる、との条項
(2)NDAはそれ自体で取引関係、JV、パートナーシップ、その他の形態の提携関係を樹立するものではなく、インテルがインターグラフに製品を販売する義務を生じさせ るものでもない、明示黙示を問わずライセンスを与えるものではない、との条項
NDA、RUNDA、CITRのもとで開示される情報はOEMが自社の製品を開発するのに必要な技術データを含んでいた。インテル自身の技術の複製は禁じられていたが、インターグラフがインテルの機密情報を何らかの方法でミスユースしたという証拠は全くない。
インテルはこれまでインターグラフが非開示契約に違反したとか不適切に情報を漏洩したというような非難をしたことはない。インテルが情報に関してクレームしたのは、インターグラフがクリッパー技術の無償ライセンスを拒絶した後が初めてであった。
95年にインターグラフはPentiumUPro製品の開発及び発売における認証パートナーと認められ、インテルもインターグラフのワークステーションでPentiumProが大量に使われるとして、95年の年次報告に記載している。
97年、インテルのOEM顧客はインターグラフから特許侵害のクレームを受け、インテルがこれに対して補償をするのか否か問い合わせをした。インテルの上席ライセンス担当はインターグラフにクロスライセンスの交渉が可能でないか接触をした。
この交渉は不調に終わり、インテルは将来のプロジェクトの開発に関してインターグラフとの間に締結されるべきNDAの条文を従前のものから変更した。特に、インターグラフのすべての特許技術の無償ライセンスの条項を追加した。インターグラフがインテルにその条項の削除を求めたところ、インテルはインターグラフが新しいプログラムに参加することや製品開発の継続のために必要な機密情報の提供を拒絶した。
[インテルの98・3・28書簡]
97年3月28日、インターグラフから取引関係に関する明示の懸念表明を受けて、インテルは
この書簡にかかわらず、インテルはインターグラフにClipper関連技術のクロスライセンスの提案を続けた。
[クロスライセンス提案と公平性?]
当裁判所は、インテルが自分の特許をインテルにライセンスすることも申し出ているので、公平であるとの主張は採用しない。インターグラフはマイクロプロセッサーの生産の事業には携わっていないので、もはやインテルの特許はインターグラフには必要ないものである。
[インテルによるNDA等の解約と機密情報返還請求]
97年8月13日、インテルはインターグラフの特許権を自身の望む条件で取得できなくなった後、インターグラフとの現行のNDA及びRUNDAを直ちに一方的に解約し、インターグラフに提供してあるすべての機密情報の返還を要求した。もっともインテルはインターグラフが本訴を提起した後にNDAの解約と機密情報の返還を要求する通知を書いており、明らかに前記時点でNDAを解約した決定から後退した。
インターグラフは97年11月17日に本訴を提起。インテルはすぐにインターグラフの特許の無効及び侵害のないことの確認をする宣言的判決を求めてカリフォルニア北部連邦地裁へ提訴した。一週間後、インテルはインターグラフを相手に、解約したNDAに基づく機密情報の返還を拒絶したことによる契約違反を理由に、第2訴訟を提起。97年12月1日、裁判所はカリフォルニア北部連邦地裁での訴訟遂行を一時禁止する仮命令を発した。
D.インターグラフに関するインテルの行為
証言によれば、インターグラフは事前にインテルから製品版チップの割り当てを受けていなければ、チップの供給を代理店から受けられない。インターグラフは製品版チップを代理店から購入しようとしたが、代理店がインテルから事前に許諾を受けない限り販売はできないと通告された。インテルによれば、代理店に対する販売は、代理店に対する割り当てに基づいて行われるのであって、最終購入者に対する割り当てではない。また、代理店からのマイクロプロセッサーの販売は、インテルからの割り当て数やインテルの特別同意などなしに一般に行われている。インテル側証人によれば、PentiumU300Mhzは代理店を通じて供給されており、四半期でおよそ1〜2万ユニットのインターグラフの需要に応えられるはずである。
インテルの代理店の元従業員で現在インターグラフの社員である証人によれば、代理店へのチップの割り当ては最終購入者がだれであるのかと直接かつ特別に関係して決められており、代理店には顧客の注文に応じられる十分な在庫はなく、特にインターグラフのような大口の注文者には予めインテルの許諾と割り当てを得ないと対応できない。外注コンピュータメーカーの元従業員であった証人によれば、インテルはインテルチップの最終購入者を特定する特別割り当てによってのみ、再販目的のチップの販売を外注コンピュータメーカーに行った。また、11月以来、インターグラフは約5000のPentiumU300Mhzの注文を代理店にしたが、供給されていない。別の証人によれば、インターグラフはインテルのチップを代理店から購入できず、代理店によればインターグラフに販売するには特別の割り当てがなければならないと通告された。
インテル証人によれば、新しいPentiumU333Mhz版は、インテルの発表後30〜90日経過までは、割り当てがなされなければ代理店から購入することはできない。これからすると、インターグラフの製品製造上必要なチップの調達については、代理店からの購入は適切ではない。30〜90日の遅れはハイエンド・ワークステーションの市場ではインターグラフが競争力を維持するのに致命的な遅延になる。
インテルが明示的に言っているものではないことは認めるが、割り当てなしにインターグラフが調達可能ということにはならない。この点に関しては,インテル側証人でさえ競争者から30〜90日もの遅れを取ることを認めている。少なくとも、インターグラフ製品を競争者と同時に発売するのに必要なインテルマイクロプロセッサーの先行サンプルは、インテルをつうじてのみ入手可能である。
前記のような遅れはインターグラフがハイエンド・ワークステーション市場で競争力を維持することを妨げるものである。インテル側証人によれば、一般的に言って従前リリースされた300MhzPentiumUは適切に供給されているというが、証拠によれば反対の事実が認められる。インターグラフは11月遅くに2月納入での5000個の注文をしようとしたが、このような少量では納入できないと繰り返し言われた。
2.インテル,インターグラフ及びエッセンシャル・ファシリティ
96年中ごろ以前、インテルとインターグラフは蜜月時代にあった。その結果、インテルは最初の生産から数週間内に試験と開発のために早期サンプルを提供していたインターグラフ選択の分野で競争力を保持するため不可欠な、CPU、技術情報及び支援を間断なくインターグラフに提供していた。インテルはマザーボード設計支援を提供し、インテルCPUやチップのバグや瑕疵を回避できるよう、インターグラフの設計図面をレビューした。インテルは技術や将来の計画について詳細な情報を提供し、将来のインテルの設計に融合させるべくインターグラフの情報と技術を求めていた。インテルは自身の設計にかかる先行情報を提供し、インターグラフの開発努力を支援していた。97年8月までは行われていたが、それ以降は拒絶。
当裁判所は、インターグラフが競争力を保持するためには、インテルのCPU、先行チップサンプル並びに先行技術・設計支援及び情報を、できるだけ早く、遅くとも他の競争者に遅れずに、入手できることが必要不可欠であると認める。
当裁判所は、インテルが従前の確立された取引関係に基づきインターグラフを取り扱うことを拒絶することは、インテルがインターグラフの使用するCPUについて排他的支配を及ぼしていることやインターグラフにとって他の現実的な代替手段が全くないことに照らすと、正当な事業上の目的があるとは言えないと考える。当事者間で起こされている特許紛争は、インターグラフにとって必要不可欠な製品と情報の供給の問題とはリンクさせないで解決することが可能であるし、また解決しなければならない。
インテルの行動はIBMのものと対照的である。インターグラフとIBMは各自の特許について継続的な紛争を有するが、訴訟にまでは至っておらず、相互に相手方の顧客として友好的で利益のある事業の関係を続けている。
当裁判所は、先行チップサンプルならびに先行設計・技術情報はインターグラフが市場で競争力を保持するのに、必要不可欠な製品と情報であると認める。これらの製品と情報の否定はインターグラフの競争力を著しく減殺し、それにより競争者としてのインターグラフを著しく傷つけ、競争を広く減殺するものと認められる。
3.グラフィック・サブシステムの市場
インターグラフにとって不可欠の事業はグラフィック・サブシステムの設計・生産であり、そのためグラフィック・カードとマザーボードも自社開発している。
インテルは製品や技術・設計情報をNDAのもとで提供しており、NDAはインテルの意思で任意解約ができるものとなっている。NDAはインテルが作成し、取引先はその条項をそのまま呑むか取引をしないかのいずれかしか選択できない。
証拠によれば、インテルは契約上の武器としてNDAの解約や解約警告を使い、インテルの要求を呑ませたりや競争を制限してきたことが、強く伺われる。当裁判所は、インターグラフとDECがそれぞれインテルに対して特許権の主張をした際、インテルが直ちにそれぞれのNDAの解約条項を行使し、各社に対して今後技術情報やサンプル、製品を供給しないこと、及び、これまで提供したすべてのインテルの機密情報を返還するよう要求した事実を認定する。また、最近FTCによりインテルに対して同社が本件と同様に競争を制限するために重要な技術・設計情報を引き揚げたりNDAを解約したとの理由で独占禁止調査を行ったことが認められる。
インテルが従来はより制限的でない方法で同様の情報を対外的に提供する方針を採っていたことや、現在のNDAの使用の必要性について何ら合理的な説明をしないことに照らすと、インテルが現時点で一方的かつインテルの任意解約権のあるNDAとその報復的な解約は非良心であり、またCPU並びに関連する設計及び技術情報におけるインテルの独占力を行使し反競争的な契約上の制限を課するものと考えられる。
自社を訴えた相手方とは取引をしたくないというインテルの立場以外に、インテルがインターグラフとのNDAを即刻解約した合理的合法的な事業上の理由は考えられない。前記のとおり、インターグラフがNDAのもとでの機密保持義務を遵守しなかったという記録は見当たらない。
5.グラフィック・サブシステム及びワークステーション市場にける競争を制限するためのインテルの行為
インターグラフの立証によると、インテルはグラフィックサブシステムとワークステーションの市場におけるインターグラフの競争を制限するために、最近、インターグラフの競争事業者や納入業者と契約を結んだり、共謀したり手を組んだりした。インテルはデジタルメディア市場におけるインターグラフの顧客に対して、インターグラフ以外の競争メーカーのワークステーションを使用することやインターグラフと取引をしないことを条件として、資金供与やその他の支援の申し出でをしている。インテルはコンパックやネットパワーといったインターグラフの競争者と、インターグラフの顧客に対してインターグラフと取引せず代わりにインターグラフの競争者から購入するよう説得する共同プレゼンテーションを行うことを合意した。
インテルは三者間NDAの解約を武器にして、テスト機器の業者がインターグラフと取引を行うのを妨害し、インターグラフに必要なテスト機器を納入させず、インターグラフがインテル製品に存するバグをフィックスるできないようにした。さらに、インテルはバグフィックスに必要な情報の提供を拒絶し、その結果インターグラフは問題解決に多大の時間を要し、インターグラフ製品の市場参入を相当遅らせることになった。当裁判所は、インテルのこの行為に適法な事業上の必要を見出すことはできない。インテルはバグフィックスに必要なデータをインターグラフが入手するのを妨げることにより、同社自身の保証及び契約上の義務に違反した。
当裁判所はまた、インテルがグラフィックサブシステム及びワークステーション市場においてインターグラフが競争するのを妨げ、何社かのインターグラフの競争事業者と差別的な優遇契約や覚書を締結してこれらの市場における競争を支配し優位に立つため、X86市場における独占力を行使しようと試みたものと認定する。これは、インターグラフが競争していた市場において競争を減殺するものであり、顧客からはこれらの市場における他の選択肢や改良技術を奪い、技術革新を抑圧し、価格と品質の競争を減殺し、競争を一般的に傷つけた。
6.審理以来のインテルのインターグラフに対する行為
インテルは当初、インターグラフに97年12月15日までにはコードネームDeschuteの最新マイクロプロセッサーに関するサンプルと技術情報を提供すると約束していたが、インテルが333MhzPentiumUとして一般にリリースした98年1月26日まで、インターグラフにサンプルは提供されなかった。同日、インターグラフの競争メーカーは、Deschutesベースのワークステーションを即納できると発表した。インターグラフはインテル側の約束に基づいて、333MhzPentiumUをTDZ2000ワークステーションに搭載するつもりだと発表した。
しかし、98年1月26日にアラバマで開かれたインターグラフの会議で、インテル側はDeschutesマイクロプロセッサーに関する技術・設計・ディフェクトないしユーザー情報をインターグラフに提供するという約束は履行しない旨インターグラフに対して初めて通告した。またインテル側は、Deschutesの改訂版のBIOSコードをインターグラフに供給しない、と述べた。その結果インターグラフは、TDZ2000のためのDeschutesマイクロプロセッサーとサードパーティ製のマザーボードとのシステム統合を完了するためにひつような情報とソフトウエアを欠くこととなった。更にインテル側はインターグラフに提供できるのは一般に公開されているインテルのWWWで提供される情報だけであるとした。この情報には、、Deschutes/PentiumUベースの製品を設計しサポートするために必要な技術データは含まれていない。インテル側はこのWWWのアドレスさえ教えなかった。
この会議に引き続き、インターグラフはBIOS開発業者に改訂版BIOSのコピーをくれるよう要請したが、インテルがその開発者にインテルの顧客からBIOSを引き揚げるよう指示があったと言われた。インターグラフは地方のインテル代理店からBIOSを入手できたが、必要なDeschutesに関する技術情報は相変わらず供給されなかった。その結果、インターグラフはDeschutesベースの販売可能な製品を未だに完成することができない。
その他のDeschutesベース製品に関しては、インターグラフはいくつかのマザーボードの開発やF5サーバープロジェクトを取りやめなければならなかった。インターグラフはまた、緊急自体のため何らかの製品を販売しなければならないため、サードパーティに依頼してマザーボードを設計製造してもらわざるを得なかった。このためインターグラフは競争力のある製品の投入が遅れるし、インターグラフのニーズに応えるマザーボードやシステムに特別に合致するものはできないであろう。
インテルがインターグラフからの技術情報の引き揚げを続けているため、インターグラフはDeschutesベースの次世代製品を何も有しない状態である。インターグラフ側によれば、インテルの継続的な拒絶は、インターグラフの暖簾や顧客・産業界における名声の破壊に繋がる。Deschutesベースプロジェクトの中止はインターグラフの将来における製品開発に修復不能の影響を及ぼし、その結果インターグラフは市場において競争をなし得ない立場に立たされてしまうことになる。
(b)インテルのPentiumCPUは他のCPUの性能を凌ぐ能力を有する。
(c)インテルは消費者の間で絶大なブランド認知を受けており、彼らはインテルのCPUを要求するし、エンドユーザーは他のシステムがインテルの代替や他の選択肢になるとは考えない。
(d)顧客がインテルCPUに対して一度でも技術的及び経済的にロックイン状態に陥れば、他の選択肢に切りかえることは現実的には不可能である。
(e)インテルはインテルのネットワークにロックインされてしまっている広大な顧客層を有している。これは蜘蛛の巣を張り巡らせたような障壁や互換性に関する障壁を生み出し、インテルの地盤をますます確固たるものにする見かえりをもたらしている。
(f)インテルは意図的に(専用ソケットなどの)関連CPUアーキテクチャ-を設計し、他のCPUが互換性を有するのを妨げ、これによりそのCPUアーキテクチャーを「開かれた」ものから「閉じられた」システムに変更した。
経済的及び技術的に大きな参入障壁があり、市場に実際に参入しインテルに対して効果的に競争することができる会社は皆無である。IBMとモトローラがPowerPCで競争しようとしたが失敗に終わった。マイクロソフトはPowerPCに対するサポートを打切ったから、もはや選択肢にはなり得ない。インテル側はDECのAlphaCPUが潜在的な競争CPUであるというもののようであるが、インテルとDECの和解によりAlphaの所有権と支配はインテルに移ったことが認められる。
上記の所事実に基づいて、当裁判所は、インテルが世界的規模で高性能CPU市場及びインテルCPUの市場で独占力を有するものと認定する。
インテルからの先行技術情報、サンプル及び製品は、NDAのもとで提供されるが、すべてインターグラフがハイエンドワークステーション市場で競争業者として生き残るために必要なものであり、これがなければ現行製品の顧客に適切なサービスができないだけでなく、将来競争力のある製品を開発製造し販売することができない。インターグラフはインテルに技術上及び経済上ロックイン状態にあるため、インテルの製品版チップの適切な供給がインターグラフの製造オペレーションに不可欠である。
実際上インターグラフのすべての生産活動はインテルベースのコンピュータとグラフィックサブシステムの製造のために行われてきた。インテルのチップサンプル及び製品版の早期リリースはインターグラフの新製品開発に必要不可欠なものであり、特に製品寿命が短いため、これらサンプルや製品版はインターグラフが競争力を保持する上で決定的な重要性を有する。例えば、審訊の時点でPentiumU300MhzがWindowsベースのワークステーション市場で最速最高の処理能力のマイクロプロセッサーだったが、証言によればインテルは98年1月にはより早いバージョンを発表する計画であった。インターグラフの競争者は早期リリースチップとサンプルに基づいて新しいワークステーションを開発する十分なリードタイムを既に享受していたことが明らかである。
インテル製品の供給が途絶えたことによって、インターグラフの顧客、従業員、株主、債権者、代理店、納入業者との関係が悪化したことが認められる。また、インターグラフにおける開発製造の努力について深刻な打撃を与え、潜在的には多くの仕事を失わせることにもなる。
96年及び97年初期にインテルがインターグラフに対して行った行為のいくつかは、インターグラフがClipper特許のライセンスを拒絶したことに対して行われたものである。明らかにその行為は、インターグラフが現在の訴訟を提起したためにより悪い方向へ向かい、継続されている。最近の諸事実からは、インターグラフの暖簾、名声その他に対する潜在的なダメージの金銭的評価は、不可能でないにしても、困難である。インテル側弁護士は97年秋にインテルチップに存したバグ問題に関する情報をインターグラフから引き揚げたことを認めている。インテルが設計上の問題を発見するのをコンピュータの電源をオン・オフするのと同様に簡単にしていなかったため、インターグラフは莫大な開発時間を要することになった。更にインテルは、インターグラフに修復のための情報を提供せず、後には試験機器へのアクセスまで許さなかった。インテルの行為によりインターグラフは其のTDZ2000製品を市場に投入するのが遅くなった。ごく最近、インテルはDeschutesチップサンプルを97年12月中旬に供給するという約束を反故にした。これによりインターグラフは他の競争者より決定的に不利になった。
96年、インテルは50億ドルの利益を計上し、インターグラフは6900万ドルの赤字を計上した。インターグラフは97年にむけてシステム販売を改善し、高性能ワークステーションの販売で96年よりも80%上回ることを計画している。ところがこれら高性能ワークステーションはまさにインテル製品に依拠する製品である。
インテルの地位が市場における排他的供給者であるとすれば、当裁判所は、インテルの行為がインターグラフに損害をもたらす蓋然性があり、その損害は事後的な救済では意味をなさないものであるから、インターグラフの本申し立ては認められるべきであると考える。他方、差止め命令が発せられれば、インテルは従前インターグラフに対して自発的かつ明らかにインターグラフに有益な形で行ってきたことを超えては、何もなし得ないこととなる。93年から97年の間に行ってきたのと実質的に同じ条件でインターグラフと取引をすることだけであり、それは今日のコンピュータ産業における他社と実質的に同じ条件なのである。インターグラフの被る被害とインテルに及ぶ不利益とのバランスからすれば、前者のほうが重く、差止め命令を発すべきものと認められる。
シャーマン法2条は以下のように定める。
(1)インテルが当該市場で独占力を有する事実、及び(2)インテルが故意に独占力を獲得又は維持してきた事実、である。当裁判所は、インターグラフが審理においてこれら両事実について実質的に蓋然性を証明したものと認める。
1.インテルの独占力(第1要件)
a.関連市場
インテルが独占力を有する2つの関連市場が存在するものと認められる。
(1)高性能マイクロプロセッサー又はCPU市場、(b)インテルCPUにとっての別個の関連市場。インテル側弁護士は審訊において前者の市場を認めた。
当裁判所は、関連市場を画定するための十分確立された基準の下で、インテルCPUも別個の関連市場であるものと認める。(コダック事件:コダックのスペアパーツは別個の関連市場である。)
b.インテルの極めて高い市場占有率
インテルの極めて高い市場占有率は、独占力を推定する法的基準域を明らかに超えている。インテルCPU市場では、インテルは100%の絶対的独占を有している。X86CPU市場では90%のシェアを有する。この事実だけからも、インテルが関連市場で独占力を有することが結論付けられる。60〜65%の市場占有率があれば、反証がなければ独占力が認められ、独占の危険な蓋然に関する問題が検討される。(97年US.vマイクロソフト事件:OS市場における約80%の市場占有率は独占力を形成する。)(66年US. vグリンネル事件:80%あれば実質的な独占であり、87%あれば疑いなく独占力が認められる。)
c.インテルのマイクロプロセッサー及び技術情報に対するインターグラフの技術的・経済的ロック・イン
インターグラフはインテルの言(インターグラフに技術情報及び技術の信頼できる供給源となる旨)に依拠してインターグラフワークステーションにおけるインテルマイクロプロセッサー周りのプログラムを再設計したため、インターグラフはインテルのマイクロプロセッサー技術に「ロックイン」状態となっており、実際上他のマイクロプロセッサーに切り替えはできない。インテルの他の顧客も同様にロックイン状態になっている。この事実によってインテルの独占力はいっそう強固なものになり、拡大されている。(コダック事件:ロックインされた顧客が他の技術に切り替えができない状態では、独占禁止法違反の問題は一層重大になってくる。)
d.インテルに対する顧客の忠誠が独占力を強化する
顧客層の強固なブランド忠誠心は、競争に対する妨げであり、独占力の行使を助け、独占を容易にする。インテルは「Intel Inside」プログラムを通じて明らかにブランド力を有し、インテルの独占力を強化拡大するその他のブランド認知力を有している。
e.インテルの大量顧客先設置及びネットワークが更に独占力を強める
インテルベースのコンピュータやサーバー、ワークステーションの設置台数が増加するに伴い、インテルの独占力は拡大し、参入障壁は高くなり、競争事業者は市場から締め出されることになる。この事実もまた、インテルが独占力を有するという当裁判所の結論を支持する。マイクロプロセッサーのような革新の激しい高度技術市場は、独占力の集中の増加に有利な市場環境をもたらす。
当裁判所は、以上の諸事実に照らし、インテルは法律上、二つのマイクロプロセッサー市場において独占力を有するものと認める。
2.インテルは故意に独占力を獲得し維持してきた(第2要件)
この要素が認められる。「独占力は、購入者に競争市場であったとすればしないであろう行為をさせる力である。」(コダック事件)。インテルは本件において、インターグラフがハイエントグラフィックワークステーションの市場において競争者であり続けることを許す条件として、インターグラフの知的財産権の放棄を強要しようと企てたことが強く認められるのであるから、前記のような力を有し、これを行使している。インテルはインターグラフに当時競争力を有していたClipperマイクロプロセッサーの使用と今後の開発を止めるよう誘導した。インテルはマイクロプロセッサープラットフォームの競争戦争に勝利し、高性能CPU市場を支配するようになった。
インテルは独占者であるから、競争を正当な理由なく制限するような行為を行ってはならない法律上の積極的義務を負わされる。インターグラフは、インテルが不法に独占を獲得したことまで証明する必要はない。合法的に独占となった場合でも、インテルがその独占をミスユースしたり維持したことが示されれば足りる。「合法的に獲得された独占力であっても、その行使が競争を排除し、競争上の優位を取得し、又は競争者を破壊する場合には、違法となる。」(48年US. vグリフィス事件)。
独占者の行為は、反競争的効果のある場合は違法となる(コダック事件:独占者が訴訟を提起する場合、それが反競争的であれば、責任を発生させる。)
従って、当裁判所は、インテルが独占者として負担する積極的義務―すなわち、独占力をミスユースしてはならないこと及び競争を非良心に若しくは不公正に制限しない態様で競争をすべき義務に違反したものと認める。更に当裁判所は、以下で検討する独占禁止法違反による民亊責任に関する確立された理論のもとで、シャーマン法2条の独占にかかるインターグラフのクレームが認められるべきであり、仮差止命令が認められるべきものと考える。
独占禁止法は、エッセンシャル・ファシリティを支配する企業に対して、その施設を無差別の条件で利用に供さなければならない義務を課している。(85年アスペンスキー事件:75%のスキーリフトを支配しているスキーリフトの所有者は、エッセンシャルファシリティへのアクセスを認めなければならない。87年オムニ事件:オムニアリーナは本質的な経済的利点を有するユニークな施設である。他に選択可能なアリーナが存在しないため、その所有者には実質上独占力が生じる。)
インテルの先進CPU及び技術情報は、それが競争上必要不可欠であり、それがなければ関連市場において競争事業者が効果的に競走をなしえないものであれば、エッセンシャルなものである。インテルの先進チップサンプル、早期リリースチップ及び技術情報は、必要不可欠なものとは必ずしも言えないが、それが入手できないことは、潜在的な市場参入者に著しい困難を課すことになる。
競争をするために決定的に重要な事業上の情報への合理的かつタイムリーなアクセスは、エッセンシャルファシリティである。更に独占者による一方的な取引拒絶は、それにより正当な理由なく競争者にハンディキャップを負わせ、又は競争を阻害する場合はシャーマン法2条違反となる。
従って、当裁判所は、インテルがインターグラフに対して先進CPUや不可欠の技術情報の提供を拒絶していることは、シャーマン法2条違反となると考える。なぜならそれらは他の供給源から入手することはできないし、実際上複製もできず、またそれらに対するアクセスなしに関連市場で効果的に競争することはできないからである。更に当裁判所は,インテルにはインターグラフとの取引を拒絶する正当な事業上の理由は存在しないと考える。インターグラフはこれまでインテルにとって忠誠心のある有益な顧客であった。インターグラフの特許に関する紛争は、インテルが不可欠のCPUと技術情報の提供を拒絶せずに別個の問題として解決することが可能である。
独占レバレージによる責任の要件には、以下の事項が含まれる。
当裁判所も、インテルが高性能CPU市場における独占力をグラフィックサブシステム市場におけるインターグラフの競争を排除し又は制限するために、違法に行使しているものと認める。インテルは、インターグラフが競争するために必要とするCPU及び技術情報へのインターグラフのアクセスを否定する一方、既にグラフィックサブシステム市場にも参入しており、その市場で事業を拡大する計画である旨宣言している。これは、インターグラフに対して不必要にハンディキャップを負わせるものであり、或いはインターグラフの競争力を制限するものである。
抱き合わせと強制的互恵取引は類似しており、強制的互恵取引は抱き合わせの判定基準に従って判断されるべきである。我々の見方からすると、強制的互恵取引のもたらす市場締出し及び参入障壁という経済的害悪は、そのプラクティスの反競争的及び 略奪的な性質を物語っている。
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いずれのケースでも、一方当事者が市場において特別な力を有しており、他方当事者に対して別の市場における譲歩をさせるためにその力を行使する。いずれのケースでも鍵は、一つの市場における経済力を別の市場に拡張している点にある。
原告が原則違法のケースであることを一応有利な事件として疎明すれば、それ以上に反競争的効果があることを立証する必要はない。
独占者は知的財産権の保護を口実にして独占禁止法をかいくぐることは許されない。
当裁判所は、インテルがマイクロプロセッサーと技術情報のインターグラフへの供給をこれまで相互の利益のために過去四年にもわたって行ってきているのであって、これをいま拒絶する正当な知的財産上のベースは存しないものと認める。
当裁判所は、インテルによる報復的な訴訟並びにNDAの解約の警告と実行は違法な取引制限であると認める。(マイクロソフト事件で、NDAを競争制限の目的で用いることが禁止されている)。
当裁判所は、インターグラフがNDAのもとで何らかの違反をしたという証拠が何もない本件で、インテルがNDAを即時に解約する正当な事業上の理由は存しないものと認める。またインテルが二つの報復的訴訟やその他の警告的な行為によって任意解約条項を実行しているのは、非良心な重圧をもたらし、インターグラフやその他の事業者による競争を制限する意図によるものと認める。
この条項によりインターグラフが請求が認められるためには、以下を主張立証する必要がある。
(1)共謀参加の合意
(2)違法な目的達成の企図
(3)現実の違法な効果又は競争を将来的に阻害する潜在的な危険
原告は、インテルが第1条の共謀においてその目標を成功裏に達成する危険な蓋然性があることまでは立証する必要がない。
インターグラフは、競争の潜在性があることを示す限り、第1条の違反を立証するために事実としてある現在の競争を証明する必要はない。インテルがグラフィックサブシステム市場においてインターグラフの現実の相当の潜在力を有する競争者であること、またその市場においてインターグラフが競争上必要とする不可欠の道具をインテルが支配していることが示されれば、十分である。仮差止命令の恩恵なくしてはインターグラフが競争で深刻な被害を被ることも、明白である。
インターグラフは,当該共謀が反競争的効果を有するものであるかぎり、他の共謀者の意図まで立証する必要はない。インターグラフは、インテルがインターグラフの他の競争事業者と共謀してインターグラフの顧客を奪取する一方、インターグラフに不可欠のCPUと技術情報の供給を中止したことによって、競争する機会を喪失し、これによりシャーマン法1条違反及び独占禁止法上の損害を被ったことを証明した。
当裁判所は、インテルがシャーマン法1条違反の取引制限に当たる一つまたはそれ以上の合意や契約関係を締結していたこと認めるに足る実質的な蓋然性があると認める。
これまで多くの事件で、深刻な独占禁止法上の問題があり、原告に深刻な被害があり、被告には殆ど或いは何も不利益がない場合に、仮差止命令が認められてきた。
裁判所はしばしば、独占禁止法違反の救済のために必要な場合には、作為命令的差止命令(mandatory injunction)を発する(衡平法)。「地方裁判所は特定の事件における必要性に応じて適切な判断を行うことができる幅広い裁量が認められる。」(73年グラクソ事件:特定条件での販売強制や知的財産の強制許諾は、独占禁止法違反事件における適切な救済方法である。)(コダック事件:すべての現存の複写機及び10年間に販売されるすべての新製品についてスペアパーツと関連装置を販売することをコダックに強制する、恒久的差止命令が支持された。)
独占禁止法の執行における重要な公共の利益と政策も裁判所に顕著である。インテルの高性能CPU市場及びインテル製CPU市場における独占力が明白であり、また、インテルがインターグラフの競争者と協働してインターグラフの顧客に働きかけインターグラフをボイコットするよう説得している証拠があるとすれば、シャーマン法1条及び2条違反は証明されたものと考えられる。
独占禁止法の背後にある、競争に対する脅威を防止し潜在的及び現実の競争を保護するという強力な目的に照らし、当裁判所は、インターグラフが事業から放り出されず、或いは正式裁判終了までに深刻な打撃を受けることのないように現状を回復するためには、仮差止命令が必要かつ適切なものと認める。
この書簡はまた、インターグラフ側の互恵的義務ないし配慮、すなわちインテル製品に対する代金支払いと同様に継続的な支援、を含んでいる。よって当裁判所は、前記書簡と諸般の事情に照らせば、確定期限のある有効な合意が存するものと一応認められるものと考える。この書簡を以下、書簡合意という。
インテルはNDAでカリフォルニア州法を準拠法としたものがある。しかし、書簡合意はアラバマ州ハンツビルで作成された。従って、本合意の解釈についてはアラバマ州法が適用される。いずれにしてもカリフォルニア州法はアラバマ州統一商事法典をそのまま採用しているし、カリフォルニア商法は、統一商事法典上の「誠実及び公正」義務が訴訟上の請求の独立の原因となりうることを認めているので、インターグラフにとってアラバマ州法より有利なものになっている。
インテルは、NDA及びRUNDAのすべての規定が参照条文によって書簡合意その他のすべての当事者間の合意に取りこまれている、と主張する。その中にはNDAやRUNDAを一方的に解約できる権利が規定されている(解除条項)。しかし、もし解除条項が参照条文として取りこまれているとすれば、書簡合意における約束は、実際上無意味なものとなってしまう。裁判所がその様な解釈をしないのは自明の理である。参照による取り込みの理論によっても、インテルのインターグラフに対する特別の約束を覆すことはできない。
NDAは典型的に非常に期間と範囲において限られたものである。インテルはNDAの期間の定めが書簡合意にあるような広範な約束に取りこまれていると主張するが、前期のことからすればこの主張は認められない。
よって、当裁判所は、書簡合意及び諸般の事情に照らして、一方当事者が一方的かつ任意に解約できる権利のない合意が当事者間に存するものと、一応認める。更に、と害合意は十分に特定できる期間、すなわち少なくともインテルがDeschute及びMercedプログラムを開発する期間を通じての合意と一応認められる。
本件は商品の販売に関する商事事件であるから、UCCは「商品が特有のものであるかその他適切な事情」の下においては裁判所が合意の履行強制を命じる権限を付与している。
いくつかの特に重要な裁判例がある。カイザートレーディング事件(70年)では、アルミ製造者が供給契約の履行を求めて仮差止命令の申立をした。カイザートレーディングの契約は、クロライトというアルミ生産に用いられる、特有で希少かつ必要不可欠な化合物の供給を目的としたものであった。天然クロライトは既になくなっていたので、アルミ製三社は合成生産物に頼らざるをえなくなった。人工クロライトは解放された市場で入手可能なはずであったが、裁判所は本件生産者にとって必要な量と納期での入手はできなかったと認定した。そこで裁判所は供給業者に対してその義務を特に履行すべきことを命じる仮差止命令を発した。
Ross-Simons of Warwick Inc.事件(96年)は、UCCの厳密な分析は行っていないものの、参考になる。第1巡回裁判所は、クリスタル製造者に宝石贈答品販売業者への製品供給義務の特定履行を命じる原審の作為命令的差止命令を是認した。クリスタルは当該販売者の売上だかの%に満たなかったが、裁判所はそれでも「特有性」を認めた。同裁判所は「一連のプレステージ性のあるブランド商品を失うことは、販売業者にとっては顧客又は潜在顧客が品揃えのある垰競争販売者の方へ行ってしまうとすれば、回復不能の損害を被ると言う脅威になると、これまでのいくつかの裁判例で認められてきた」という。
インテルの製品は「特有」である。証拠によれば、他に代替できるものは存しない。Ross-Simons事件でクリスタルの宝石贈答品販売業者への供給について特定履行が認められるのであれば、他に現時点での代替品がない製品の供給についても認められてしかるべきである。このことは、「Intel Inside」販売プログラムやインテル製品に随伴するプレステージに照らすと、特にそう言える。更に、カイザー事件に示されるように、特定履行は特有の製品についてての代替的供給ルートでは、適時に又は現状を維持するために必要な数量で供給を受けられないという事態に於いて適切である。
従って当裁判所は、インターグラフが、少なくともMercedプログラムが公に実行に移される99年並びに恐らく2000年までインターグラフを「戦略顧客」としてサポートすることを含め、インテルに対して書簡合意の特定履行の請求をなしうるものと認める。
1.非開示契約は作成当時に非良心的であった
アラバマ州法もUCCのカリフォルニア版も以下のように定める。
(1) 契約又はその一部の条項が、締結当時に既に非良心的なものであったと認められる場合には、裁判所は、その契約の履行強制を拒否し、又は非良心的な部分を除いて履行を強制し、或いは非良心的な結果を回避するよう非良心的な条項の適用を制限することができる。
(2)契約又はその条項の一部が非良心的である旨の主張がなされ又は裁判所が認める場合には、当事者は裁判所の判断を助けるため契約の趣旨、目的及び効果に関する証拠を提出する合理的な機会を与えられなければならない。
なにが「非良心」的なのかは法典にも立法コメントにも記載されていないが、逐条解説には、一般的な商業上の背景及び特定の取引若しくは事件における商業上の必要に照らして、当該条項が契約締結時の状況のもとで非良心と言えるほど一方的なものであったか否かに関する基本的な基準が解説されている。
非良心性の有無は、個々の事案毎に事実に基づいて裁判所が法律問題として判断すべきものである。アラバマの裁判所は以下の4つの要件を挙げている。
ミシガン・ベル・テレホン事件(69年)では、原告はミシガンベルがイエローページの広告に原告の広告の掲載を怠ったことを理由に提訴したが、被告ミシガンベルは契約条項の中に広告掲載を怠っても責任を負わない旨の条項があるとの抗弁をした。しかし裁判所は以下のように述べて、当該条項は非良心的だとした。
契約自由の中には、契約当事者が契約時に提示された条項について現実的に可能な他の選択肢を有したというコンセプトが、暗黙のうちに含まれている。商品やサービスが特定の一つの供給源のみから取得できる(或いは複数の供給源があるものの、競争の存在しない同一条件で取得する)場合、購入希望者の選択肢は、売主の提示条件を呑むか購入を止めるかしかない。商品・サービスの性質や買主の必要に応じて、買うか買わないかが決まる。 買わないという選択が十分現実的なものではない場面では、非良心的な条項を成功裏に押し付けた当事者は裁判所で「契約は自由に締結された」旨の主張をして強制履行を求めることはできない。
アラバマ州最高裁は、サウスセントラルベルテレホン事件(85年)で、電話会社があるプロフェッショナル協会の広告を怠った場合の電話会社の責任を制限する免責条項を無効とした。裁判所は規制産業(イエローページ事業には規制は存しないが)としての会社の地位に焦点を当てる一方、非良心性の原則の背後に存する基本的な商業的目的に焦点を当て、「本件で原告には意味のある選択はしておらず、被告には契約条項を絶対的でバランスを失したやりかたで決定する取引力があったと認定した。
本件インテル事件でNDAやRUNDAが締結された状況は以下のとおりである。
(1) インターグラフがClipper/Unixベースのシステムの開発生産から移行し、インテルとの関係には行った後に、インテルはインテル製品と情報のインターグラフへの供給について、NDA及びRUNDAの締結を条件とし始め、そのNDA等には一方的で無条件の解約条項が入っていた。
(2) インテルとインターグラフが相互に有益で生産的な関係にあった頃は、コンピュータ産業には現在生きている契約を自動的に解約するという特別な商業上の必要性はなかった。
(3) 解除条項は両当事者に適用されるものではあるが、インターグラフは他にに適切な選択肢はなく、現実的にもその解約権を行使することはあり得ない。
(4) インテルは、インターグラフが事業に留まる為に必要な情報とチップの唯一の供給源であった。
(5) インテルは極めて不均衡に巨大な取引力を有し、自社の利益になるNDA及びRUNDAの条項を呑ませ、インターグラフに不利益を及ぼすことができた。
(6)インテルは不均衡な取引力を行使し、NDA及びRUNDAにおけるインターグラフに不利益な条項を、話し合いの余地のないものとして、インターグラフに課した。
よって当裁判所は、各NDA及びRUNDAにおける解除条項は調印時において非良心的であり、適用されるとしても強制力のないものであると一応認める。
1.30日前の通知によって卸売業者は他の代替製品を探すのに十分な時間があった。
2.卸売業者は他の競争メーカーのスパークリングワインも販売していたので、それを簡単に代替製品として用いることができた。
3.問題の製品の販売高は、卸売業者の売上の1%を占めるのみであった。
→他に、10ヶ月前の通知の事件で、供給者がディーラーに他の競争供給者を教え、ディーラーも代替製品を見つけた事案で、合理的通知と認定した。
本件では、インテルは事前の通知なしにインターグラフへの供給関係を解除することにより、ワークステーション・マイクロプロセッサー産業における支配的な市場における地位を濫用した。かかる行為はUCC及び本件の状況のもとにおいては許されるものではない。
従って、インテルは契約を解除する意思を表明した「合理的な通知」をすることを怠ったものと一応認められる。更に当裁判所は、本件の状況のもとでは、99年まで継続するDeschutes及びMercedプログラムが完了する時点で通知は合理的なものとなり効力を生じると考える。
また裁判所は、当事者の行為が訴訟を妨害するために行われている場合に、仮差止命令を発する権限を有する。
本件では、例えば、97年3月28日の書簡でインテルはインターグラフに種々の約束をした。裁判所としてはこれは契約のレベルにあると考えるが、少なくともインターグラフの詐欺の主張を裏付ける証拠には容易になる。特許問題が既に当事者間で表面化していた時点で、インテルは当事者間の関係について友好的な表現をし、「インターグラフを現在及び将来のプログラムにおける戦略的顧客として支援する意図」を宣言した。インテルはインターグラフの特許権を含む別の紛争の解決するために、これらの約束を関係付けることはしなかった。少なくとも97年3月28日の書簡に含まれるインテルの保証によって、インターグラフはインテルとの関係は保証され、インテル製品の代替を探す必要はないと信じ込んだ。
仮差止命令はあくまで現状を保全し、インターグラフに生じる回復不能の損害を回避し、必要性、公正性及び有効性の適切かつ衡平なバランスを実現するために、行われる。
(1) 勝訴の見込み
(2) 差止が認められない場合に回復不能の損害が生じる切迫した恐れ
(3) (2)のインターグラフの損害が差止によりインテルに生じうべき潜在的不利益を上回ること
(4) 差止命令が公共の利益を害するものではないこと
(@) インテルは正式代理店にインターグラフへの供給に足る十分な量の「製品版チップ」を供給しなければならない。インターグラフは、合意したとおり、インテルの正式代理店を通じて提供される「製品版チップ」を、インターグラフへの割り当てを満たす注文を行うことにより、買い取らなければならない。インターグラフは「製品版チップ」割り当ての供給条件を、インターグラフの選択するインテルの正式代理店と交渉しなければならず、インテルはインターグラフが選択した正式代理店とインターグラフとの契約条件、交渉、関係を妨げたり影響を及ぼしたりする行為をし、または行為を怠ったりしてはならず、これには「製品版チップ」_関する販売価格、値引き、数量、出荷及び納入_関する行為を含むがこれに限られない。インテルは裁判所の要求があれば、当該正式代理店との手続きを遵守し「製品版チップ」を納入したことを証明しなければならない。
(A) インテルはインターグラフに対して「早期製品チップ」(「製品版チップ」であって、正式代理店からは入手できない段階でのもの)を、インターグラフの見積もる数量又は他の同様の立場にある「競争者」に供給される数量に比例する数量を、「競争者」に提供されるのと同時に、他の同様の立場にある「競争者」への販売価格と同様の一般的価格で、供給しなければならない。インテルは「早期製品チップ」のインターグラフ及び同様の立場の「競争者」への同時発表若しくは納入の記録を作成保持し、裁判所の要求があれば手続を遵守し「早期製品チップ」を納入したことを証明しなければならない。上記にかかわらず、インテルはインターグラフに対して、98年第1四半期用に従前の当事者間で合意した価格でインターグラフが発注した「早期製品チップ」を供給しなければならない。
g.インテルはインターグラフに対して、販売協力(Marketing Involvement)を提供し、他の同様の立場にある「競争者」に対するのと同様にインターグラフを「新製品発表イベント」に含ませなければならない。
h.本命令後11日以内に、インターグラフは連邦民亊訴訟法65条(C)に従い裁判所事務官の承認を得て2500ドルを、保証金として裁判所に納付しなければならない。
i.インターグラフはすべての「情報」、「第三者情報」「チップサンプル」及び「早期製品チップ」の機密を、当事者間で従前締結された非開示契約の条件と手続に従って、守らなければならない。インテルとインターグラフ間で従前合意された非開示の機密保持条項は、ここに明示的に本命令の一部とする。
Edwin L. Nelson US地方判事