INTERPRAPH CORPORATION

vs.

INTEL CORPORATION


インターグラフ・コーポレーション VS. インテル・コーポレーション

(アラバマ連邦地裁北東支部1998年4月10日判決)

〜独禁法違反に基づき、従来提供されていた製品・情報等の提供を命じる作為的仮差止命令が発せられた事案〜

 

抄訳 弁護士 大澤 恒夫

T.背景

93年から97年まで続いた取引関係の継続をインテルが拒絶するのを防止することを目的として、インターグラフが仮差止命令を申し立てた。本訴の請求は以下の3つの柱でなりたっており、その原因事実は23掲げられている。@州法に基づく詐欺、詐欺的サプレッション、警告懈怠、過失、故意、契約不履行、取引関係の意図的妨害、明治の保証違反、特定目的への適合性の黙示の保証違反及びアラバマ営業秘密保護法違反の主張_基づく損害賠償請求。A特許侵害に基づく損害賠償請求。Bシャーマン法1条及び2条に基づく独占禁止法違反の請求。本件はBを本案とする仮差止命令の申立の事案である。

[結論]インターグラフの仮差止請求を認容。

U.認定した事実

A.マイクロプロセッサー市場におけるインテルの地位    
B.インターグラフ及びワークステーション市場
  C.インターグラフとインテルとの関係    この命令はインテルの弁護士が訴訟遂行をしない旨誓約することにより取り消された。

D.インターグラフに関するインテルの行為

インテルもグラフィック・サブシステム市場に参入し、現在インターグラフの直接の競争事業者になっており、最近
Chips & Technology Companyというグラフィックチップとチップセットに関する企業を買収する契約に調印した。現
在連邦独占禁止当局によって審査中。また、3Dグラフィック技術を開発するためReal3D Inc.という会社を設立する
ための共同開発関係を結んだ。インテルは既にMMXというグラフィック技術を同社のCPUに適用している。インテルは
1998年の早い時期にマザーボード・グラフィックサブシステムを発売すると発表している。インテルはインターグラフ
から先進CPUサンプルや不可欠の設計・技術情報を引き揚げることにより、インターグラフがグラフィックサブシステ
ム市場で競争をする能力を制限し、グラフィックサブシステム市場における独占を樹立するために「X86」CPU市場
における独占力を用いている可能性がある。

  

V.独占力及び関連市場

高性能マイクロプロセッサーの市場に加え、当裁判所は以下の事実に基づき、インテルのCPUは別個の製品市場またはサブ市場であると認定する。 インテル側弁護士も認めているように、インテルはインテルCPUを100%絶対的に独占している。

経済的及び技術的に大きな参入障壁があり、市場に実際に参入しインテルに対して効果的に競争することができる会社は皆無である。IBMとモトローラがPowerPCで競争しようとしたが失敗に終わった。マイクロソフトはPowerPCに対するサポートを打切ったから、もはや選択肢にはなり得ない。インテル側はDECのAlphaCPUが潜在的な競争CPUであるというもののようであるが、インテルとDECの和解によりAlphaの所有権と支配はインテルに移ったことが認められる。

上記の所事実に基づいて、当裁判所は、インテルが世界的規模で高性能CPU市場及びインテルCPUの市場で独占力を有するものと認定する。

W.インターグラフの被害及び差止めが認められた場合のインテルの被る不利益

前記のとおり、インターグラフはハイエンドワークステーション製品に用いるマイクロプロセッサーとしてはインテルのPentiumU以外に実際上の選択肢はない。それゆえインターグラフがインテルの行為による被害から回避する手立てはない。インターグラフが事業を営み名声を得ているWindowsベースのハイエンドワークステーション市場をインテルが支配している事実が認められる。

インテルからの先行技術情報、サンプル及び製品は、NDAのもとで提供されるが、すべてインターグラフがハイエンドワークステーション市場で競争業者として生き残るために必要なものであり、これがなければ現行製品の顧客に適切なサービスができないだけでなく、将来競争力のある製品を開発製造し販売することができない。インターグラフはインテルに技術上及び経済上ロックイン状態にあるため、インテルの製品版チップの適切な供給がインターグラフの製造オペレーションに不可欠である。

実際上インターグラフのすべての生産活動はインテルベースのコンピュータとグラフィックサブシステムの製造のために行われてきた。インテルのチップサンプル及び製品版の早期リリースはインターグラフの新製品開発に必要不可欠なものであり、特に製品寿命が短いため、これらサンプルや製品版はインターグラフが競争力を保持する上で決定的な重要性を有する。例えば、審訊の時点でPentiumU300MhzがWindowsベースのワークステーション市場で最速最高の処理能力のマイクロプロセッサーだったが、証言によればインテルは98年1月にはより早いバージョンを発表する計画であった。インターグラフの競争者は早期リリースチップとサンプルに基づいて新しいワークステーションを開発する十分なリードタイムを既に享受していたことが明らかである。

インテル製品の供給が途絶えたことによって、インターグラフの顧客、従業員、株主、債権者、代理店、納入業者との関係が悪化したことが認められる。また、インターグラフにおける開発製造の努力について深刻な打撃を与え、潜在的には多くの仕事を失わせることにもなる。

96年及び97年初期にインテルがインターグラフに対して行った行為のいくつかは、インターグラフがClipper特許のライセンスを拒絶したことに対して行われたものである。明らかにその行為は、インターグラフが現在の訴訟を提起したためにより悪い方向へ向かい、継続されている。最近の諸事実からは、インターグラフの暖簾、名声その他に対する潜在的なダメージの金銭的評価は、不可能でないにしても、困難である。インテル側弁護士は97年秋にインテルチップに存したバグ問題に関する情報をインターグラフから引き揚げたことを認めている。インテルが設計上の問題を発見するのをコンピュータの電源をオン・オフするのと同様に簡単にしていなかったため、インターグラフは莫大な開発時間を要することになった。更にインテルは、インターグラフに修復のための情報を提供せず、後には試験機器へのアクセスまで許さなかった。インテルの行為によりインターグラフは其のTDZ2000製品を市場に投入するのが遅くなった。ごく最近、インテルはDeschutesチップサンプルを97年12月中旬に供給するという約束を反故にした。これによりインターグラフは他の競争者より決定的に不利になった。

96年、インテルは50億ドルの利益を計上し、インターグラフは6900万ドルの赤字を計上した。インターグラフは97年にむけてシステム販売を改善し、高性能ワークステーションの販売で96年よりも80%上回ることを計画している。ところがこれら高性能ワークステーションはまさにインテル製品に依拠する製品である。

インテルの地位が市場における排他的供給者であるとすれば、当裁判所は、インテルの行為がインターグラフに損害をもたらす蓋然性があり、その損害は事後的な救済では意味をなさないものであるから、インターグラフの本申し立ては認められるべきであると考える。他方、差止め命令が発せられれば、インテルは従前インターグラフに対して自発的かつ明らかにインターグラフに有益な形で行ってきたことを超えては、何もなし得ないこととなる。93年から97年の間に行ってきたのと実質的に同じ条件でインターグラフと取引をすることだけであり、それは今日のコンピュータ産業における他社と実質的に同じ条件なのである。インターグラフの被る被害とインテルに及ぶ不利益とのバランスからすれば、前者のほうが重く、差止め命令を発すべきものと認められる。 

X.法的結論

A.シャーマン法2条(独占化)

シャーマン法2条は以下のように定める。

B.インテルの違法な取引拒絶及びEssential Facilitiesへのアクセスの否定(シャーマン法2条違反) C.インテルの違法な独占力のレバレージ(シャーマン法2条違反) D.インテルの違法な互恵取引の強制(シャーマン法1条2条違反) E.インテルによる取引制限のための特許技術の利用 F.インテルの非開示契約の報復的執行 G.インテルの契約はシャーマン法1条違反の違法な取引制限である H.独占禁止法違反被害を防止するための仮差止命令の必要性
  I.独占禁止法における公共の利益 J.インテルの約束の特定履行 K.非開示契約の非良心性に基づく救済    (1)一方当事者の側に意味のある選択が存在しなかったか否か
   (2)契約条項が非良心に一方当事者に有利か否か
   (3)当事者間に不公平なバーゲニング・パワーがあったか否か
   (4)契約の中に過度ないし一方的、又は明白に不公正な条項があったか否か
3.非開示契約の解除は非良心的である
仮に解除条項が適用され、締結時には非良心的ではなかったとしても、現時点でその強制力を認めることは非良心的である。UCCは、現在の状況と類似したコンテクスト、すなわち商事契約における一方当事者が他方当事者への事前の通知を必要としない自動解約条項に基づき権利行使を行おうとしている場面における非良心性の問題を扱っている。UCC2-309(3)は、契約解除に焦点を当て、「解除通知を不要とする契約は、その適用によって非良心的となる場合には、無効である。」と定めている。この条項に関する解説は、その様な権限を行使した場合の「結果」に焦点を当てて以下のように言う。「解除通知を不要とし又は代替契約をする余裕を制限する契約は、その適用によって非良心的事態を生じない限り、有効である。」
シェル事件(73年)で裁判所は、石油会社がディーラー契約を10日前の通知で解除できるとする条項を無効とした。たとえディーラーが世馴れていても、そのような解除条項は 石油会社が契約を解除すれば常に次のディーラーを獲得できるのであるから、著しく不公正であるとした。これに対してディーラーは、別の場所に移れるとしても現在まで同社が育ててきた事業は旧来の場所に残ったままなのであるから、すべてを失うことになる。
UCC2-309(3)の起草者は明らかに、解除条項の行使ないしその警告によってもたらされる状況に焦点を当てていたのであって、契約調印当時の状況に焦点を当てたのではない。
「法典は2-309条における非良心性の判断において解除時における適用結果に焦点を当てているという結論が不可避であると思われる。」本件では97年8月頃に焦点が当てられなければならない。その頃インテルは初めてNDAとRUNDAを解除し、インテルが従前に供給したチップのデバッグのために必要な重要な情報ないし装置のインターグラフへの提供を拒絶した。特にインターグラフはこれまでNDAとRUNDAのいずれにも違反したことはないのであって、このことは即時解除を一層不当なものにしている。
解除権行使の結果についてはは、当裁判所は以下のとおり認定する。
(1) インテルは、インターグラフが特化している高速ワークステーション市場におけるマイクロプロセッサー及び関連製品のための市場で100%の占有率を現状でい維持している。
(2) インターグラフは、インテル製品の代替となる製品を探すため合理的な努力をした。
(3) 現状ではインターグラフはインテル製品の代替となる現実的な選択肢は存在しない。  
(4) インテルも直近の将来で選択可能な代替品は存しないことを認めている。
(5) インターグラフは適時に十分な量のインテル製品の供給を受けなければ、非常に早い時期に他の競争者から遅れを取り、市場でなくインテルがインターグラフが市場にとどまるか否かを決定してしまうことになる。
更に、インテルが現時点で解除条項を行使し、或いはその他の手段で将来におけるインテル製品のインターグラフへの供給を遅らせようとしていることは、事態の非良心性を生むものと一応認める。したがって解除条項は適用されるとしても無効である。
4.インターグラフは解除に関する合理的な通知を受ける権利がある
前記の認定では、書簡合意は有効である。もしそうでなければ、或いはもし期限の定めのない契約だとすると、非良心的な結果は回避できる。UCC2-309(2)は、「合理的な通知」をすべき義務を課している。この条項は政策的及び経済的な合理性を有する。これは、何が合理的かはその時々の状況で変わるので、流動的なものであるが、その目的は不変である。供給者は、購入者がその事業にとって最も被害の少ないように他の適切な代替手段を講じるまでは、購入者を見捨ててはならない。
第(3)項は、信義と適正な商業遂行の原則のもとでは通常、現在の契約を解除するためには他方当事者が他の代替手段を探す合理的な時間を与えるように、解除の通知をすべきことが要請される。
「合理的通知」の問題は典型的には事実認定者の問題である。しかし、通知がないことは法律問題である。 
   〜通知なしの事件、6日前の通知を不合理とした事件、1年前の通知でも不合理とし   
    た事件
   〜合理的な通知と認定された事件:

Y.インテルに対する差止め救済の適切性

A.差止め命令を発する裁判所の固有権 B.差止め命令の要件 C.勝訴の見込み(略)
   
D.回復不能の損害の恐れ E.損害のバランス F.公共の利益を害しない G.差止め命令が裁判所にもたらす事務負担は不当ではない。

Z.本件の仮差止命令

インテル、役員、代理店、使用人、従業員及び代理人並びにこれらの者と協力して行動するいかなる者も、インターグラフが「(インテル)の現在及び将来のプログラムにおける戦略顧客」として有する権利を終了させてはならず、並びにその他の方法でインターグラフとのインテルの事業関係又はインテル製品若しくは情報を組み込み若しくはこれに基づいた製品を開発・設計・商品化・製造・販売するインターグラフの能力に悪影響を及ぼすいかなる行為をすることも、ここに仮に禁止される。禁止される行為には以下が含まれるが、これに限定されない。
b.インテルはインターグラフに対して、すべての「第三者情報」(インテルがインターグラフに対して第三者を通じて利用可能にしていたタイプまたは内容の「情報」)を、インターグラフと同様の立場にある「競争者」に許容、提供又は開示するのと同時に、「製品開発」の為の先行ベースとしてか、販売されている現行製品のサポートのためかは問わず、供給しなければならない。
c.インテルはインターグラフに対して、「チップ」(マイクロプロセッサー、セミコンダクター、チップ及びバス)を「製品開発」の先行ベースとして(「チップサンプル」)、インターグラフが他の同様の立場にある「競争者」と同様の方法及び条件で見積もる見込み数量又は他の同様の立場にある「競争者」への供給数量に比例する数量で、及びインテルが他の同様の立場にある「競争者」に「チップサンプル」を供給するのと同時に、同様の立場にある他の「競争者」に対する一般的な供給価格と同じ価格で、供給しなければならない。インテルはインターグラフ及び「競争者」への「チップサンプル」の発表及び納入の記録を作成保持しなければならず、裁判所の要求があれば、手続を遵守して「チップサンプル」を供給したことを証明しなければならない。
d.インターグラフが後記(h)項に基づき保証金を供してから11日以内に、インテルはインターグラフに25セットのDeschutes「チップサンプル」と、インターグラフが製品を開発設計製造するために必要なすべての技術データを供給しなければならない。かかる技術データは、インターグラフの他の同様の立場にある「競争者」_提供されるのと同じタイプ、性質及び範囲のものでなければならない。
e.インテルはインターグラフに対して、「製品版チップ」(販売用にインテル自身で又はインテルのために製造された「チップ」)と同様に、333MhzPentiumU、BX、Deschute、及びMercedを含むがこれに限られないインテルの将来のチップを、インターグラフの見積もり数量に従って供給しなければならない。インターグラフは、少なくとも1四半期の「製品版チップ」の見積もり数量を納入の受領を希望する四半期よりも前に、インテルに示さなければならない。

(@) インテルは正式代理店にインターグラフへの供給に足る十分な量の「製品版チップ」を供給しなければならない。インターグラフは、合意したとおり、インテルの正式代理店を通じて提供される「製品版チップ」を、インターグラフへの割り当てを満たす注文を行うことにより、買い取らなければならない。インターグラフは「製品版チップ」割り当ての供給条件を、インターグラフの選択するインテルの正式代理店と交渉しなければならず、インテルはインターグラフが選択した正式代理店とインターグラフとの契約条件、交渉、関係を妨げたり影響を及ぼしたりする行為をし、または行為を怠ったりしてはならず、これには「製品版チップ」_関する販売価格、値引き、数量、出荷及び納入_関する行為を含むがこれに限られない。インテルは裁判所の要求があれば、当該正式代理店との手続きを遵守し「製品版チップ」を納入したことを証明しなければならない。

(A) インテルはインターグラフに対して「早期製品チップ」(「製品版チップ」であって、正式代理店からは入手できない段階でのもの)を、インターグラフの見積もる数量又は他の同様の立場にある「競争者」に供給される数量に比例する数量を、「競争者」に提供されるのと同時に、他の同様の立場にある「競争者」への販売価格と同様の一般的価格で、供給しなければならない。インテルは「早期製品チップ」のインターグラフ及び同様の立場の「競争者」への同時発表若しくは納入の記録を作成保持し、裁判所の要求があれば手続を遵守し「早期製品チップ」を納入したことを証明しなければならない。上記にかかわらず、インテルはインターグラフに対して、98年第1四半期用に従前の当事者間で合意した価格でインターグラフが発注した「早期製品チップ」を供給しなければならない。
 

f.インテルはインターグラフを「IntelInsideプログラム」のアクティブメンバーとして処遇しなければならず、他のすべてのメンバーに供されるすべての権利、優遇、機会を与えなければならない。

g.インテルはインターグラフに対して、販売協力(Marketing Involvement)を提供し、他の同様の立場にある「競争者」に対するのと同様にインターグラフを「新製品発表イベント」に含ませなければならない。 

h.本命令後11日以内に、インターグラフは連邦民亊訴訟法65条(C)に従い裁判所事務官の承認を得て2500ドルを、保証金として裁判所に納付しなければならない。

i.インターグラフはすべての「情報」、「第三者情報」「チップサンプル」及び「早期製品チップ」の機密を、当事者間で従前締結された非開示契約の条件と手続に従って、守らなければならない。インテルとインターグラフ間で従前合意された非開示の機密保持条項は、ここに明示的に本命令の一部とする。

         
98年4月10日 以上のとおり命令する。  

Edwin L. Nelson US地方判事