合衆国第2巡回区上訴裁判所
1998年8月開廷期
(弁論1998年8月24日、決定1999年1月22日)
要録No. 98-7842


原告−被反訴人−被上訴人:日本経済新聞社

被告−反訴人−上訴人:COMLINE BUSINESS DATA社、ヨシノブ・オクマ、ヒロユキ・タカギ、ハルヒサ・モリモト(Halとも呼ばれる)

被告:TERRY SILVERIA


 
I. 著作権侵害A. 実質的な類似性B. 公正使用
II. 商標の侵害
III. 法定損害賠償
IV. 弁護士報酬
V. 本案的差止命令の範囲
VI. 消滅時効および権利不行使
VII. 人的裁判権
結論


裁判官:MESKILL、WALKERおよびSACK巡回判事

著作権および商標の侵害に対する賠償請求に関して原告に有利に認定し、被告に対してさらなる侵害を差止め、損害賠償金として22万ドル、弁護士報酬として20万ドル、および原告が負った費用の支払いを裁定した、ニューヨーク南部地区合衆国地方裁判所(Cote判事)の判決からの上訴

部分的に原判決維持、部分的に原判決破棄、差戻し

被告−上訴人側弁護士:NORMAN H. ZIVIN、Cooper & Dunham LLP(Donna A. Tobin、顧問)、ニューヨーク市、NY
原告−被上訴人側弁護士:VICTOR H. POLK, JR.、Bingham Dana LLP、ボストン市、MA(Gary A. Adler、Bingham Dana urase、ニューヨーク市、NY、上訴趣意書)

WALKER巡回判事
被告Comline Business Data社、ヨシノブ・オクマ、ヒロユキ・タカギ、およびハルヒサ・モリモトは、ニューヨーク南部地区合衆国地方裁判所で1998年6月3日に登録された判決を上訴する。非陪審審理の後、Denise L. Cote判事は、被告は原告日本経済新聞社の著作権および商標を侵害したと認定した。本法廷は以下の理由で部分的に原判決を維持し、部分的に原判決を破棄し、その意見に鑑みて損害賠償額を再検討するために差戻す。
背景:
日本経済新聞社(「日経」)は、金融、ビジネスおよび産業関係のニュースを流す日本の法人である。日経は日本語の新聞である日本経済新聞、日経金融新聞、日経産業新聞および日経流通新聞、ならびに英字新聞であるNikkei Weeklyを発行している。日経はこれらの新聞を、元々の言語および翻訳で、世界で販売する。日経はまた、その日本語の記事の多くを英語で、電信サービス、英語のウェブサイトおよびLEXIS/NEXISとのライセンス契約を通じて提供している。

被告Comline Business Data社は、さまざまな所からニュース記事を集め、それらの記事の「抄録」を、厳しく言えば粗っぽい翻訳を、その顧客に販売した。Comlineの編集者は記事を選択し、それらを場合によっては望ましい長さにあらかじめ縮めた上で、「抄録者」つまり「翻訳者」に送った。抄録者は内容を英語に翻訳した。Comlineの「リライター」はその抄録を整合的なスタイルに編集した。地方裁判所は、Comlineがニュース記事をComline用抄録に変換するのに、一記事当たり合計約36分かかったと認定した。Comlineは1997年に約17,000の抄録を出版した。その約3分の1は、日経のニュースからのものであった。

1997年8月、日経は合衆国での著作権登録のために、そのニュース記事の定期的な申請を開始した。日経はまた、「Nikkei」、「Nikkei Weekly」を含む、合衆国の登録商標を幾つか保持している。1998年1月29日、日経はComlineおよび頭書の3名の役員を、Comlineの抄録は日経の著作権およびその商標「Nikkei」を違法に侵害していると告発する訴訟を提起した。

地方裁判所は2日間の非陪審審理を行った。Comlineの主たる抗弁は、著作権の対象ではない事実のみをコピーしただけであり、いずれにしろその抄録は公正使用であったというものであった。地方裁判所は詳しい決定において、公正使用であるとのComlineの主張を退け、Comlineは日経の22の記事の著作権を侵害したと認定した。地方裁判所は日経に、法定損害賠償金22万ドル、弁護士報酬20万ドル、および22の抄録は侵害に相当するとの確認判決を裁定した。さらに地方裁判所は、Comlineが日経の記事に実質的に類似している抄録を発行することを恒久的に差し止める命令を下した。地方裁判所はまた、Comlineは「Nikkei」の商標を侵害したと認定し、Comlineがその商標を使用することを禁じた。被告は上訴した。

議論:
被告は次にように主張する。(1) Comlineの抄録は、保護されていない事実だけを複製しただけなので日経の著作権を侵害していなかった。(2) Comlineの抄録は日経の著作権対象物の公正使用を構成した。(3) 抄録の出所への言及としての「Nikkei」の使用は商標の使用ではなく、したがって日経の商標を侵害しなかった。(4) 地方裁判所は、著作権の賠償請求に関する法定損害賠償額の裁定において、その裁量権を濫用した。(5) 地方裁判所は、弁護士報酬の裁定において、その裁量権を濫用した。(6) 地方裁判所の差止命令は、憲法違反となる事前抑制である。(7) 消滅時効および権利不行使の原則により、日経に対する救済を禁じる。(8) 地方裁判所は、被告オクマとタカギに対する人的裁判権をもっていなかった。

I. 著作権侵害

1976年著作権法、17 U.S.C.§§101-803は、著作権者に、「著作権対象物を複製し」、「著作権対象物に基づく派生著作物を作成する」排他的権利を認める。同上、at §106。著作権侵害の賠償請求を根拠付けるには、原告はまず、著作権対象物が実際に複製され、第二に、その複製が不適切または違法な盗用に相当したことを、立証しなければならない。Castle Rock Entertainment, Inc. v. Carol Publ'g Group, Inc.,150 F.3d 131,137(第2巡回、1998); Laureyssens v. Idea Group, Inc., 964 F.2d 131, 139-40(第2巡回、1992)参照。著作権対象物が実際に複製されたことを証明した後、原告は、複製物が、著作権対象物の保護されている表現に対する「実質的な類似性」をもつことを示すことによって、その複製が不適切または違法であることを立証しなければならない。Repp v. Webber, 132 F.3d 882, 889(第2巡回、1997)、裁量上訴棄却、119 S.Ct.52(1998); Lauryssens, 964 F.2d at 140。

被告は、実際の複製という要素については争っていない。Comlineは、そのニュースの抄録の作成において、日経のニュース記事から直接作業をした。提示された唯一の問題は、Comlineの抄録が、日経の記事における保護されている表現に対する実質的な類似性を示しており、したがって、日経の著作権に対する違法または不適切な盗用に相当するか否かである。本法廷は、本法廷の分析による本法廷自身の著作物の比較に基づき、「実質的な類似性」に関する地方裁判所の認定について、改めて再検討する。Knitwaves, Inc. v. Lollytogs Ltd., 71 F.3d 996, 1002(第2巡回、1995); Fisher-Price, Inc. v. Well-Made Toy Mfg. Corp.,25 F.3d 119,123(第2巡回、1994)参照。

A. 実質的な類似性:
被告は、その抄録と日経の記事との間の類似性は、双方が同一の、保護されていない事実を報告していることだけであると主張する。著作権は事実には及ばないというのは、「著作権法の最も基本的な原則」である。Feist Publications, Inc. v. Rural Tel. Serv. Co., 499 U.S. 340, 344(1991)。この規則の根拠は、著作権法は表現の創作性に基づくというものである。事実はその性質によって、決して著作者の創作ではありえない。同上at 347参照。しかし事実の編集物は、事実の選択、配列または提示における創作性を示すことができるので、著作権によって保護される。同上at 348参照。事実の説明は、さらに多くの創作性が入る余地がある。したがって問題は、単にComlineが日経の記事を複製したか否かではなく、日経の創作である表現を複製したか否かである。同上at 361参照。

実質的類似性を判断する標準的基準は、「通常の観察者テスト」、つまり平均的な素人の観察者が、両著作物間の相違を重視せず、一方は他方から複製されたと結論付けるか否かである。Knitwaves訴訟、71 F.3d at 1002; Fisher-Price訴訟、25 F.3d at 123参照。問題の作品が、保護される要素と保護されない要素双方を含んでいる場合、テストでは、保護されない要素を考慮から除外して、「より鋭く」見分けなければならない。Knitwaves訴訟、71 F.3d at 1002-03参照。本件では、Comlineは、日経の記事に含まれている事実を再発行する権利をもっていた。実質的な類似性を判断するには、本法廷は、それらの事実の日経の提示における、創作的な要素に注目しなければならない。適切な問いは、侵害の認定を支持するのに「複製が量的かつ質的に十分」か否かである。Ringgold v. Black Entertainment Television, Inc., 126 F.3d 70, 75(第2巡回、1997)。

地方裁判所は、日経の登録された著作権対象の記事が、対応するComlineの記事によって侵害されたと判断した。Cote判事は主として、Wainwright Sec. Inc. v. Wall St. Transcript Corp., 558 F.2d 91(第2巡回、1977)に依拠した。その裁判においては、被告は分析的財務報告書を要約したことによって、原告を出典として明記してはいたが原告の著作権を侵害したと認定された。Wainwright訴訟において本法廷は、ニュース自体には著作権はないが、著作権は「表現の態様、著作者による出来事の分析または解釈、材料を構成し事実を配列する方法、言葉の選択、および特定の転回に与える強調」は保護されると判断した。同上at 95-96。

地方裁判所はComlineの22の抄録と日経の22の記事を比較することによって、Comlineは、「同一の構成と編成を使い、事実についての同一の時間的および実体的なグループ分けに従い、同一の結論または決意に到達し、さらにしばしば、同一の言い回しおよび単語の選択を採用した」と認定した。Cote判事は、抄録は、当該記事の保護される要素に対する実質的な類似性を示しており、したがって日経の著作権を侵害したと結論付けた。

本法廷自体によるComlineの抄録と日経の記事の審査は、大部分の抄録に関して、地方裁判所の結論と同一の結論を強いる。Comlineの抄録は、明確さを得るために編集されていることを別とすれば、逐語的ではないが、日経の記事からの直接の翻訳のように見える。Comlineの平均的な抄録は、対応する日経の記事内の保護対象物の約3分の2を使用している。抄録は、記事中の情報を文ごとに順番に追っている。抄録はたまに日経の2つの文を組合せ、また1つの文を分割し、異なる文の事実を再配列している。全体としてはComlineは、日経が報告した事実の正確に同一の構成と編成を採用している。

しかし例外が2つある。Comlineの証拠物12Eは、対応する日経の記事、原告の証拠物12Cの事実に関する情報のみの、真の抄録である。他の抄録と異なり、この2つの著作物の間の類似性は、同一の事実を使用していることだけである。Comlineは、これらの事実を異なる配列で、異なる文の構造と言い回しを使って報告している。この抄録は事実のみを繰り返しており、それはその性質によって、その後の使用に対する法的保護を得られないので、日経の著作権を侵害しない。抄録は、質的な意味で記事に実質的に類似しておらず、保護される表現を盗用していない。Ringgold訴訟、126 F.3d at 75参照。

22の抄録の中に例外がもう一つある。日経の証拠物21Cを侵害したとされた抄録、Comlineの証拠物21Eは、6段落の記事のうちの第一段落のみを複製している。Comlineの抄録は、当該記事の内容の約20パーセントを複製した。一方、その他の場合では、侵害している抄録は、通常、対応する記事の本文を軽く半分以上複製した。ほとんどすべてが、保護されない事実の日経による報告から構成されているこのような記事の文脈では、6段落の記事の1段落の抄録は、量的な意味で日経の記事に実質的には類似していないと、本法廷は結論付ける。同上参照。

これらの2つの抄録は、まったく異なる形で侵害を回避している。証拠物12Eの抄録は、対応する記事に含まれている事実をほとんどすべて使用しているが、要約された事実を新しい創作的な文に組み入れることによって、質的な侵害を免れている。一方、証拠物21Eは、異なる構成の使用を試みていないので、その出典からは質的にまったく異なっていない。それは量的な類似性がないことによってのみ侵害を回避しており、危機一髪である。

著作権法は、単純で明確な規則を許さない。本法廷には、量的問題として、著作権対象物の20パーセントを複製した著作物は実質的に類似していないという原則を確立する意図はない。本件の2つの非侵害の抄録においてほど、量的分析と質的分析が分離していることは滅多にない。侵害を、単純な単語の勘定によって決定することは不可能である。2つの著作物の量的分析は常に、その質的な性質を頭に入れてなされなければならない。たとえば、小説的な作品の直接的引用であるか、事実の編集著作物の言い換えであるかによって、実質的な類似性の認定を正当化するのに、異なる使用量が必要とされるかもしれない。本件のように、著作権対象物が創作的要素と保護されない要素双方を含んでいる場合には、侵害された著作物が完全に創作的なものである場合よりは、実質的類似性の認定を正当化するのに、より多量の複製が要求される。以上のことを念頭に、証拠物12Eと21Eは著作権侵害の境界を超えていないと、本法廷は結論付ける。

被告はまた、日経が毎年出版する9万の記事のうち合計20しか侵害していないので、日経の著作権の侵害は些事であると主張する。本法廷は同意しない。著作権対象物の些細な侵害は訴訟を成り立たせないというのは真実である。Sandoval v. New Line Cinema Corp., 147 F.3d 215, 217(第2巡回、1998)参照。しかし日経は、その記事それぞれに対して別個の法的保護を受ける資格をもち、Comlineが、日経の著作物全体のうちのわずかな数しか複製していないことは、責任の免除にはならない。また本法廷は、20の抄録は、彼らが1997年に出版した17,000の抄録のうちの僅かな部分でしかないので、侵害は些事であるという彼らの主張も却下する。昔から言われているように、「自分の作品のどれだけ多くの部分が盗作でないことを示したとしても、剽窃者は悪事を弁解できない。」Sheldon v. Metro-Goldwyn Pictures Corp., 81 F.2d 49, 56(第2巡回、1936)。

B. 公正使用:
被告はまた、彼らの抄録は日経の記事の公正使用であると主張する。公正使用は、「著作者に、ある状況で著作権対象物の限定量の使用を認めることにより、著作権による保護を緩和する」。Twin Peaks Prods. Inc., v. Publications Int'l, Ltd., 996 F.2d 1366, 1373(第2巡回、1993)。議会は著作権法において、コモン・ローの公正使用の伝統を再表明した。
「批評、論評、ニュース報道・・・、研究などの目的での・・・著作権対象物の公正使用は、著作権の侵害ではない。個々のケースでの著作物の使用が公正使用であるか否かの判断において検討すべき要素には、以下のものがある。
(1) その使用の目的と特徴。その使用が営利的なものか、非営利的な教育目的であるかを含む。
(2) 著作権対象物の性質。
(3) 著作権対象物全体に対する、使用された部分の量と実質性。
(4) 著作権対象物の潜在的市場および価値に対するその使用の影響。」
17 U.S.C. §107。被告は、この法律の、「ニュース報道」のための公正使用の例外の適用を求めている。
「公正使用は、法律および事実についての混成問題である」。Harper & Row, Publishers, Inc. v. Nation Enters, 471 U.S. 539, 560(1985)。したがって、本法廷は、公正使用の抗弁の地方裁判所による棄却を、改めて検討する。ただしそれが明確に誤りでない限り、事実の補足的認定は支持する。Infinity Broadcast Corp. v. Kirkwood, 150 F.3d 104, 107(第2巡回、1998); Twin Peaks訴訟、966 F.2d at 1374。
公正使用の諸要素は全体としては、公正使用の認定を否定する方向を示すと地方裁判所は認定した。本法廷はそれに同意する。

1. 使用の目的と特徴
Comlineの抄録が、ニュース報道目的であったことは真実である。しかし使用の目的と特徴という公正使用の要素は、「マルかバツかの問題」ではない。Twin Peaks訴訟、966 F.2d at 1374。より微妙な分析を必要とする。新しい著作物が、「さらなる目的をもって、または異なる特徴をもって、新しいものを加えているか、また、新しい表現、意味またはメッセージによって最初のものを変更しているか」否か、あるいはどの程度そうしているかということを問題とする。Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569, 579(1994)。二番目の著作物が実質的に変化していれば、この要素は、公正使用の認定を有利にする。同上参照。また、営利目的での使用は、この要素を公正使用の認定に不利なものとする。Leibovitz v. Paramount Pictures Corp., 137 F.3d 109, 113(第2巡回、1998)参照。

Comlineの著作権を侵害する抄録は、「まったく<変化していない>」という点で、本法廷は地方裁判所に同意する。すでに指摘したように、この抄録は大部分が日経の記事の直接的な翻訳である。被告は自分の著作物において、ほとんど何も新しいものを加えていない。この要素ははっきりと、公正使用を否定する。

2. 著作権対象物の性質
日経の記事は「創作性および独創性をもつ著作物」なので、この要素も公正使用を否定する。しかし、記事は創作著作物であり著作権によって保護されるが、法律は、「ある種の著作物は他のものよりも、意図された著作権の保護の核心に近い」。Campbell訴訟、510 U.S. at 586。主として事実に関するニュースである日経の記事は、より虚構的なものよりも核心から離れている。その表現上の要素は保護対象ではあるが、著作物の主たる特徴ではない。たとえば、Stewart v. Abend, 495 U.S. 207, 237(1990)参照(「一般に公正使用は、虚構的な著作物よりも、事実に関する著作物で認定される可能性が大きい」); Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, n.40(1984)(「ニュース放送の複製は、映画の複製よりも公正使用を強く主張できることがある」)。したがって、この要素は公正使用の問題に関して、たかだか中立的である。

3. 著作権対象物全体に対する、使用された部分の量と実質性
第三の要素は、実質的な類似性の問題と同様、「使用された内容の量ばかりでなく、その質と重要性についての考察も必要とする」。Campbell訴訟、510 U.S. at 587。地方裁判所は、抄録は記事に含まれている「きわめて重要な事実およびアイデア」を複製したと認定した。これは明らかに正しいが、どの特定の事実が複製されたかに焦点を当てるのは適切ではない。すでに指摘したように、法律の下では、Comlineは日経の記事から、日経の著作権をまったく侵害せずに最も重要な事実を抄訳することができる。不公正な使用も言うまでもない。きわめて重要な事実が、補足的事実以上の保護を受けるわけではない。第三の要素を適用する際には、「関係するのは、使用された、著作権対象の表現の量と実質性であり、著作権対象物内の事実に関する内容ではない」。Salinger v. Random House, Inc., 811 F.2d 90, 97(第2巡回、1987)。

この要素は公正使用の認定に不利であるとの地方裁判所の意見に、本法廷は同意する。大部分の告発された抄録にとって複製の量が実質的類似性の認定を支持するのに十分であるのと同様、保護される表現の複製の量によって、この要素は公正使用に不利なものとなる。Ringgold訴訟、126 F.3d at 75 & n.4参照。

4. 著作権対象物の潜在的市場および価値に対するその使用の影響
著作権対象物の市場に対する使用の影響を検討する際には、本法廷は、侵害者とされた人が引き起こした害ばかりでなく、その種類の行動が広がればオリジナルの市場に実質的な影響があるか否かを評価する。Campbell訴訟、510 U.S. at 590参照。Comlineの抄録は日経の記事と競合しそれに取って代るので、この要素は公正使用の認定に著しく不利であると地方裁判所は判断した。本法廷は完全に同意する。
まとめると、公正使用の4要素のうちの3つが、そしてこれらの要素の全体的比較対照も、公正使用の認定の妨げとなる。本法廷は、侵害している抄録は日経の記事の公正使用ではなかったとの地方裁判所の判断を維持する。

 
II. 商標の侵害

ランハム法は、製品の出所に関して混乱を引き起こす可能性がある態様での、登録された商標の同意なしでの営利的利用を禁じている。Arrow Fastener Co. v. Stanley Works, 59 F.3d 384, 390(第2巡回、1995); 15 U.S.C.§1114 (1) (a) 参照。著作権法と同様に、ランハム法はコモン・ローの公正使用の抗弁を成文化した。商標の使用が、「商品またはサービスの説明であり、それを説明するためにのみ公正かつ善意での・・・商標として以外の使用である」場合には、公正使用が確定する。15 U.S.C.§1114 (b) (4)。別の言葉で言うと、「公正使用は、他の人が、自身の商品の諸側面を説明するために保護された商標を使用することを認める」。Car-Freshner Corp. v. S.C. Johnson & Son, Inc., 70 F.3d 267, 270(第2巡回、1995)。

Comlineは常に、その抄録の参照行に「日経」という商標を使用した。これは、消費者に抄録は日経によって認められているとの誤解を与え、抄録における誤りを日経に結び付けるという理由で、地方裁判所はこれは商標侵害を構成すると判断した。地方裁判所は、被告による公正使用の主張を棄却した。

本法廷の見解では、抄録を特定するための商標「日経」の使用は、日経の商標の公正使用である。抄録はしばしば、それが説明する事実に関してと同様に、その事実の出典を示すので価値がある。出典の登録商標を使わずに事実の情報の出典を特定することは、通常は不可能である。Comlineがその各抄録の第一文の始めに、単に「Nikkei Weeklyは・・・・と報告した」と印刷すれば、商標の侵害ではなかっただろう。本法廷は、Comlineによる抄録の末尾での商標の使用と、脚注あるいは参照文献での使用との間には、ほとんど違いがないと認識する。被告の行動の他の側面は不誠実さを証明しているかもしれないが、その商標「日経」の使用に不誠意を認定する根拠は見つからない。

したがって本法廷は、被告による商標「日経」の使用はランハム法の下での公正使用であると認定し、商標侵害であるとの被告に対する判決を破棄する。本法廷はまた、商標「日経」の使用に関するかぎり、被告に対する差止命令を取り消す。

III. 法定損害賠償

地方裁判所は、著作権侵害の賠償請求に対して、侵害記事1つ当たり1万ドルの法定損害賠償金を裁定した。Cote判事は、被告側の「故意性」を大幅に認定し、17 U.S.C.§504 (c) (2) は故意の侵害に対して、著作物1つ当たり10万ドルまでの損害賠償を認めている。この故意の判断は、明確に誤ってはいない。Twin Peaks訴訟、996 F.2d at 1382参照。この認定に鑑みて、地方裁判所は侵害記事1つ当たり1万ドルを裁定したことにおいて、その裁量権を濫用していない。本法廷は、著作権侵害の例は2つだけ(上訴趣意書での主張)または12だけ(反対訴答趣意書での主張)であったというComlineの主張の検討は拒否する。それらの主張は地方裁判所には提示されず、したがって放棄されている。

地方裁判所が、日経の著作権を侵害した抄録が(本法廷が結論付けたように)20と認定したのか、または22すべてと認定したのかという点では曖昧さがある。地方裁判所はある箇所で、「22の記事のうち20において、実質的類似性が存在することはまったく明瞭である」と述べている。しかし地方裁判所は、22の記事すべての対して1万ドルの法定損害賠償金を裁定し、「訴状に付けられた22の記事が著作権侵害を公正する」との宣言的判決を登録した。したがって本法廷は、22の抄録のうち20のみが日経の著作権を侵害したとの本法廷の判断に鑑みて法定損害賠償金を再計算するように、地方裁判所に本件を差し戻す。

IV. 弁護士報酬

地方裁判所は402,033.25ドルという日経の要請を減額し、日経に弁護士報酬として20万ドルを裁定した。地方裁判所は該当する法的基準に基づき日経の記録を慎重に検討した後、20万が妥当な裁定額であると決定した。「本法廷は、地方裁判所が誤った法的基準を適用したか、その裁量権を濫用した場合にのみ、弁護士報酬の裁定を棄却することができる」。Knitwaves訴訟、71 F.3d at 1012(内部引用省略)。日経の著作権に関する賠償請求にのみ基づく20万ドルというCote判事は、法律にしたがっており、判事の裁量権の範囲内である。

V. 本案的差止命令の範囲

地方裁判所は、被告が日経の著作権を侵害したと判断した後、被告が以下のことをするのを禁じる差止命令を下した。
「[日経の] 書面による許可なしで、[日経の] いずれかの出版物に登場する、[日経が] 提示した記事または著作物(またはその一部)に実質的に類似した、コピー、複製、翻訳または抄録を、営業し提供し販売し譲渡し使用許諾し貸付し移転し普及させ出版し展示し広告し宣伝し配布しまたは印刷すること・・・・およびかかる活動に参加しまたはそれを支援すること。」
被告は、この差止命令は過度に幅広く、報道の自由に対する憲法違反の事前抑制であると主張する。

本法廷は何度も、第一修正の対象は、公正使用の法理によって保護されその法理と同一の広がりをもつという根拠で、著作権侵害の差止命令に対する第一修正に基づく異議を棄却してきた。Twin Peaks訴訟、996 F.2d at 1378; New Era Pubs. Int'l, ApS v. Henry Holt & Co., 873 F.2d 576, 584(第2巡回、1989)(「著作権の分野では、公正使用の法理が第一修正のすべての主張を包含する」); Wainwright訴訟、558 F.2d at 95(「第一修正と著作権法によって保護される権利との間の抵触は、これまで、公正使用の法理の適用によって解決されてきた」)。本法廷は、すでに著作権の請求に関して、Comlineの侵害する抄録は日経の記事の公正使用ではなかったと判断したので、被告の第一修正に基づく異議を棄却する。

差止命令は単に、著作権侵害を構成する抄録の禁止を意図しただけであり、公正使用の範囲外である。前記の2つのような日経の著作権を侵害しない抄録は、差止命令では禁じられていない。その特別の意味を伝える「実質的に類似」という表現が、差止命令の適切な境界を指定するように考えられている。しかしさらに明確にするために、本法廷は差止命令の「記事または著作物に実質的に類似した」を、「記事または著作物の著作権対象の要素に実質的に類似した」と修正する。本法廷は、そのように修正された差止命令を維持する。

VI. 消滅時効および権利不行使

被告はまた、日経のための救済は、消滅時効および権利不行使の法理によって禁じられるとも主張する。被告は日経の著作権を故意に侵害したとの地方裁判所の認定を考え、これらの法理は日経の請求を禁じないという地方裁判所の意見に本法廷は同意する。Harlequin Enters. Ltd. v. Gulf & W. Corp., 644 F.2d 946, 950(第2巡回、1981)(「被告が侵害を意図したときには、消滅時効は差止命令による救済に対する抗弁とはならない。」)参照。

VII. 人的裁判権

最後に、それぞれComlineの専務取締役と執行取締役である被告オクマとタカギは、当該地方裁判所は自分たちに対する人的裁判権をもっていないと主張する。彼らは日本国の国民かつ居住者であり、Comlineの日常の活動には関わっていなかったので、侵害した活動を指揮していなかったと主張する。しかし、そのことは地方裁判所に適切に提示されておらず、したがって放棄されたので、本法廷はこの抗弁を棄却する。

結論:
上記の理由で本法廷は、1) 22の抄録のうちの20に対して、著作権侵害を認定した判決を維持し、2) 侵害する抄録1つ当たり1万ドルの法定損害賠償金の裁定を維持し、3) 著作権違反に基づく、被告に対する差止命令を修正した形で維持し、4) これらの裁定が20の侵害している抄録にのみ適用されるのを保証するため、損害賠償金の裁定および宣言的判決を無効とし、再検討のために差戻し、5) 弁護士報酬の裁定を維持し、4) 商標侵害についての判決を破棄し、5) 被告による日経の商標の使用に関する差止命令を無効とする。

部分的に原判決維持、部分的に原判決破棄、そして差戻し。各当事者は、自身の費用を負担する。