注意:頭注は、本件においてそうであるように、可能な場合には、意見発表時に公表される。頭注は最高裁判所意見のいかなる部分をも構成するものではなく、読者の便宜のために判例編纂者によって作成されたものである。参照、United States v. Detroit Timber & Lumber Co., 200 U.S. 321, 337。
QUALITY KING DISTRIBUTORS, INC 対 L'ANZA RESEARCH INTERNATIONAL,INC.
第9巡回区連邦控訴裁判所に対する移送令状による上告
No. 96-1470 。口頭弁論:1997年12月8日−−判決:1998年3月9日。
カリフォルニア州製造会社、被上告人 L'anzaは、わが国でヘアケア製品を、もっぱら制限された地域で売ることを承諾した卸売業者および指定小売商に限って販売している。 L'anzaは、手広く広告し、かつ小売商の特訓をして国内販売を促進している。しかしながら、外国市場ではそれと比べられるような広告や販売促進をしていない。その外国価格は、国内価格よりも実質的に低い。 L'anzaのイギリス卸売業者が著作権のあるラベルをつけた数トンの L'anza製品を、マルタの卸売業者に売る取決めをした後、その卸売業者が同製品を上告人に売り、上告人が L'anzaの許可なくわが国へ輸入し、指定されていない小売商に割引価格で転売したようである。 L'anzaは訴を起こし、上告人の行為は1976年著作権法、17 U.S.C.,106 条、501 条、および602 条に基づく、合衆国内で著作権のある資料を複製(reproduce)し頒布(distribute) する排他的権利を侵害すると主張した。地方裁判所は上告人の 109(a) 条による「最初の販売」の抗弁を退け、 L'anza勝訴の略式判決を下した。109(a)条が抗弁になるならば、著作権者に複製物(copies) の許可のない輸入を禁ずる権利を与える602(a)条は「無意味」になってしまうと結論して、第9巡回区は原審を支持した。
判旨:109(a)条に認められるファーストセールドクトリン(first sale doctrine)は、輸入された複製物に適用がある。Pp.3-18 。
(a) Bobbs-Merrill Co. v. Straus, 210 U.S.339, 340-350 事件において、当最高裁判所は当時施行されていた著作権法の下で「販売する」排他的権利は、著作権のある著作物の最初の販売(first sale)にしか適用がないと判示した。連邦議会は、その後 Bobbs-Merrill事件のファーストセールドクトリンを同法に成文化した。106(3)条は著作権者に「販売その他の所有権の移転により … 複製物を頒布する」排他的権利を与えるが、109(a)条は、「106(3)条にかかわらず、この法律に基づいて適法に作成された … 特定の複製物の所有者は …著作権者の許可なく、その複製物を販売し、またはその占有を処分する権利を有する」と規定する。ファーストセールドクトリンは、 L'anzaに国内卸売業者による無断転売を、排他的頒布権の侵害として許さないけれども、 L'anzaは、602(a)条は正しく解釈されれば、外国の卸売業者がその製品を、国内卸売業者から買うことのできないアメリカの販売業者に転売することを禁ずる、と主張する。Pp.3-7。
(b) 法律の文言は、602(a)条の与える権利が109(a)条に従うことを明らかに示している。602(a)条が著作権のある資料の許可のない輸入を包括的に禁止しないで、3つの例外を除いて、そのような「輸入は … 106 条による … 排他的頒布権の侵害になる … 」と規定しているのは重要である。一方106 条の方では、同条で与えられている排他的権利はすべて − (3) 項で与えられた頒布権を含み − 107 条から120 条によって制限されると明示的に定める。これらの制限の1つが109 (a) 条に定められ、それは適法に作成された複製物の所有者が「106(3)条の規定にかかわらず」その複製物を売ることを明示的に許している。「本法に基づき適法に作成された」著作権のある品目(item) の最初の販売の後は、いかなるその後の購入者も、転売者が国内または外国の者であるとを問わず、明らかにその品目の「所有者」である。文字通りに読むと、109(a)条はそのような所有者は、その品目を「著作権者の許可なく、販売する権利を有する」と明確に定めている。その上、602(a)条は許可のない輸入が「106 条下の」排他的権利の侵害であると単に定めているにすぎないから、かつ、その制限された権利は、適法な所有者による転売を含
まないから、602(a)条の本文は文字通りに国内、外国双方の L'anza製品の所有者で、それを輸入し、アメリカで転売しようとする所有者には、まったく適用がない。
(c) 最高裁判所は、602(a)条、および殊にその例外は、もしファーストセールドクトリンによって制限されるならば、不必要になるという L'anzaの主張を退ける。簡単に答えると、この議論は602(a)条に「106 条の下で」という言葉が現れている理由を十分に説明していないのである。その上、602(b)条はすでに、無許可のまたは「海賊版」複製物の輸入を禁じているのだから、602(a)条は著作権者が売った海賊版ではない(「適法に作成された」)複製物を含んでいるはずだ、という L'anzaの論法にはいくつかの欠陥がある。第一に、たとえ602(a)条が海賊版複製物にのみ適用があるとしても、同条は少なくとも輸入者に対抗する私的救済を与えるであろう。しかるに、602(b)条の施行は税関の権限となっている。第二に、109(a)条の保護は適法に作成された複製物の「所有者」にのみ与えられ得るのだから、ファーストセールドクトリンは受寄者のような非所有者に対する602(a)条に基づく訴訟の抗弁にはならない。第三に、602(a)条は海賊版でも、「本法に基づき適法に作成された」もののいずれでもない或る範疇の複製物に適用がある。すなわち、外国の法律に基づき「適法に作成された」複製物である。Pp.9-12 。
(d) 501(a)条は「侵害者」を「106 条に違反し … または602 条に違反して…輸入する者」と定義しているから、後者のタイプの違反は前者の違反とは別個であり、従って109(a)条の適用を受けない、という L'anzaの主張も退けられる。この議論の説得力は、他の制定法の考え方に劣るものである。それには、602(a)条は禁じられた輸入が「106 条下の」侵害となり、それによって602 条違反を106 条違反の一種とすることを明確に定めているという事実が含まれる。もっと重要なことは、106 条の権利は「107 条から120 条までの」規定の全部の適用を受けるということである。仮に602(a)条が独立して機能しているとすれば、それらの諸規定のいずれも、その適用範囲を制限することにならないであろう。Pp.12-15。
(e) 最高裁判所は、「輸入」は109(a)条のその後の所有者への複製物を「販売しその他その占有権を処分する」許可によって保護されない行為を述べているという訟務長官(Solicitor General)の議論は説得力がないと認める。その語の通常の解釈は、その複製物を別の国の別の人に発送する権利を含むのである。もっと重要なことは、訟務長官の狭すぎる解釈は、109(a)条の必然的に広い範囲と矛盾する。ファーストセールドクトリンの要点は、著作権者が著作権のある品目を、それを売って一旦通商の流れに投じたならば、その頒布を支配する同法上の排他的権利を利用し尽くしたことになるということに尽きる。連邦議会が、109(a)条は同法理の適用範囲を制限することを意図したと想定すべき理由はない。Pp.15-16。
(f) 国内の著作権者を、自分の著作物の有効な著作権のある複製物の許可のない輸入に対して保護する趣意、および行政府がそれを行う意図があると思われる少なくとも5つの国際通商協定を最近結んだという事実は、同法の正しい解釈とは関係がない。Pp.16-17。
98 D.3d 1109、破棄。
STEVENS 裁判官が全員一致判決の意見を述べ、GINSBURG裁判官が賛成意見を提出した。
注意:この意見は、合衆国判例集(United States Reports) の予備版に公表される前、形式上の改訂を受けることがあります。読者は誤植その他の形式上の誤りがあれば、合衆国最高裁判所判例編纂官、Reporter of Decisions, Supreme Court of the United states, Washington D.C.20543に知らせていただきたし。それは予備版印刷前に訂正できるようにするためです。
上告人 QUALITY KING DISTRIBUTORS,INC.対 L'ANZA RESEARCH INTERNATIONAL,INC.
STEVENS 裁判官が最高裁判所の意見を述べた。
1976年著作権法(以下「法」)のl06(3)条、17 U.S.C. §106(3)は、著作権者に著作権のある著作物の複製物を頒布する排他的権利を与えている。しかしその排他的権利は、107 条から120 条までの規定により明示的に制限されている。602(a)条は、著作権者に複製物の許可のない輸入を禁止する権利を与えている。本件の提示する問題は、602(a)条によって付与されている権利も、107 条から120 条によって制限されているかどうかである。もっと狭く、問題は109(a)条で認められている「最初の販売」法理が、輸入された複製物に適用されるかどうかである。
被上告人 L'anza Research International (以下「 L'anza」)は、シャンプ−、コンディショナ−、その他のヘアケア製品の製造販売業に従事するカリフォルニア州会社である。 L'anzaはその製品に貼付されるラベルに著作権をつけた。合衆国内で L'anzaは、もっぱら限られた地域内で転売することを約した卸売業者へ、その次には理髪店、美容院その他専門的ヘアケア・カレッジのような指定の小売商にのみ販売する。 L'anzaは、アメリカの「大衆は、 L'anza製品のような高級品が、一般にス−パ−やドラッグストアで売られている安くて品質の劣る製品と一緒に売られている時には、その高級品の価格を支払うことを嫌がることを」発見した。App.54( Robert Hall の陳述)。 L'anzaはさまざまな業界誌や売場で大規模な広告をし、指定小売商には特別な訓練をして、その製品の国内販売を促進している。
L'anzaはまた外国市場でもその製品を販売している。しかしその市場では、国内市場と比較できる広告や販売促進をしていない。外国卸売業者への価格は、国内卸売業者への価格よりも 35%〜 40%安い。1992年と1993年にイギリスの L'anzaの卸売業者は、マルタの卸売業者への3回の出荷分の販売の取決めをした。 各出荷分は、著作権のあるラベルを貼付した L'anza製品数トンを含んでいた。 最初の買主がイギリスの卸売業者であったかそれともマルタの卸売業者であったかどうか、または権原は商品が輸送業者に引渡された時に移ったか、それとも商品が目的地に到着した時に移ったのか、裁判記録では確認できない。しかし商品は L'anzaが製造したものであること、および L'anzaから外国の買主に最初に売られたことには争いがない。
商品が L'anzaの許可なく合衆国に戻されて、Quality King Distributors, Inc. (以下「上告人」)から割引価格でそれを買った非指定小売商によって、カリフォルニア州で売られたこともまた争いがない。実際の輸入者が誰であるか若干不確定であるが、本判決上は、上告人がマルタの卸売業者から3回の出荷分全部を買って輸入した上、 L'anzaの指定頒布チェ−ンに属しない小売商に転売したと仮定する。
許可のない販売源を確定した上で、 L'anzaは上告人およびその他数名の被告を相手として出訴した。 訴状は、著作権のあるラベルのついた製品の輸入およびその後の頒布は、 L'anzaの「合衆国内で著作権のある資料を複製し頒布する著作権法 106条、501 条、および602 条の排他的権利」を侵害したと主張した。App. 32 。地方裁判所は、109 条の認める「最初の販売」法理を根拠とする上告人の抗弁を退けて、 L'anza勝訴の略式判決を下した。109 条がこの種の事件の抗弁を定めているとすれば、602 条は「無意味」となってしまうであろうという結論に主として基づいて、控訴裁判所は原審を支持した。98 F. 3d 1109, 1114(CA9 1996) 。その判決は第3巡回区と矛盾を生じたので、参照、Sebastian Int'l, Inc. v. Consumer Contacts (PTY) Ltd., 847 F.2d 1093 (1988) 、当最高裁判所は移送令状の申請を認めた。520 U.S. (1997)。
本件は異例の著作権事件である。何故なら L'anzaは誰かが著作権のあるラベルの許可のない複製物を作ったとは主張していないからである。そうではなくて、 L'anzaは主として、そのラベルが貼付された製品の販売方法の保全に関心を持つている。ラベル自身は創作性の少ない構成部分にすぎないけれども、その該当著作権法規定の当裁判所による解釈は、録音物や書籍のようなもっと身近な著作権のある資料にも同様に適用があるであろう。実際、当裁判所が「ファーストセール」ドクトリンを認めたのは、出版者がその書籍の割引価格での転売はその書籍の著作権の侵害となると、主張した事件であった。Bobbs-Merrill Co. v. Straus, 210 U.S. 339 (1908)。
同事件では、出版者 Bobbs-Merrillは、その書籍に1ドル以下の価格での小売はその著作権を侵害するという注意書を挿入しておいた。Macy百貨店のオ−ナ−である被告は、その注意書を無視して Bobbs-Merrillの同意なく、1ドル以下の価格でその書籍を売った。当最高裁判所は制定法上の排他的「販売」権 は、著作権のある著作物の最初の販売にしか適用がないと判示した。
「同法が『それを売る排他的権利』を与えるについて何を意味しているか?著作権者に、書籍中に、または制定法中に挙げられた物品の1つにつけた注意書によって、著作権の対象物のその後の譲渡に制限を加えることを許すような権利を創造することが意図されていたのか?しかも所有者が、誰かに対して権原を手放し、その誰かがその対象物に対する完全な支配を取得し、かつそれに対して十分な対価を支払った後にもそれができるのか?制限を加えることなく著作権のある物品を売った者は、その販売を支配する一切の権利を手放したことは否定できない。書籍の購入者は、著作権者の許可を得て一旦売られたのであれば、さらに売ることができる。但しその者は、その新版を出版することはできない。
「本件において合意された事実は、上告人の売った書籍は卸売で売られたものであって、その書籍の将来の販売の支配に関して何の取決めもせず、かつその書籍中に印刷された注意書を守り、小売価格を1冊1ドルの価格に限定することを引受ける何らの義務も負わない者が買ったことを示している。」同上、at 349-350。
Bobbs-Merrill 事件の判決が下された時行われていた法は、著作権者が著作権のある著作物を「販売する」排他的権利を持っていると定めていた。 連邦議会はその後排他的「販売」権はその著作物の最初の販売に限られるという Bobbs-Merrill事件における当最高裁判所の判断を成文化した。 1976年法の下で、著作権法106(3)条で与えられている、それと比べ得る排他的権利は、「販売その他所有権の移転によって … 複製物を頒布する」権利である。 その権利に対する制限に対応するものは、裁判所の解釈によってではなく、法の明文の規定によって定められている。109(a)条は次のように定める:
「106(3)条の規定にかかわらず、この法律に基づいて適法に作成された特定の複製物若しくはレコ−ドの所有者またはその所有者から許可を得た者は、著作権者の許可を得ることなく、その複製物若しくはレコ−ドを販売し、またはその他その占有を処分することができる … 。
Bobbs-Merrill 事件の意見は、制定法上の権利と契約上の権利の決定的区別を強調した。本件において L'anzaは、その販売を指定小売商に限定するという国内卸売業者との契約条項を根拠としている。Bobbs-Merrill 事件の基本的判旨は現在、法の109(a)条に成文化されており、かつそれらの国内卸売業者は L'anzaから買った製品(そのラベルは「本法に基づき適法に作成された」ものであった)の所有者であるから、同法によって L'anzaが国内卸売業者による許可のない転売を、ラベルの複製物を頒布するその排他的権利を侵害するものとして取扱うことができるだろうとは、 L'anzaは主張していないし、またできもしないであろう。しかし L'anzaの主張は、契約条項が L'anzaの国内卸売業者から買うことのできないアメリカの販売者に、 L'anza製品を売ることができる外国の卸売業者の行為から L'anzaを守るには十分でないこと、および法602(a)条は、正しく解釈されれば、そのような許されない競争を禁じるものであるというのである。その意見を評価するためには、もちろん602(a)条の本文を考察しなければならない。
602(a)条の該当箇所は次のように定める:
「合衆国外で取得された著作物の複製物またはレコ−ドを、この法律に基づく著作権者の許可を得ずに合衆国に輸入することは、106 条に基づく複製物またはレコードを頒布する排他的権利の侵害となり、501 条により訴えることができる … 」
この規定が著作権のある資料の許可のない輸入を、包括的には禁止していないことは重要である。そうではなくて、同条はそのような輸入が「106 条に基づく」複製物を頒布する排他的権利の侵害であることを定めている。Bobbs-Merrill 事件で解釈された排他的「販売」権のように、排他的頒布権は制限された権利である。106 条の導入部の文言は、同条によって与えられた排他的権利はすべて -- もちろん (3)項で付与された頒布権を含めて -- 107 条から120 条によって制限されると明示的に定めている。それらの制限の1つは、前述のように、109(a)条の文言によって定められていて、それは適法に作成された複製物の所有者に「106(3)条の規定にかかわらず」、その複製物を売ることを明示的に許している。
「本法に基づき適法に作成された」著作権のある品目の最初の販売の後、その後の買主は、国内の転売者からであろうと外国の転売者からであろうとを問わず、明らかにその品目の「所有者」である。109 条を文字通りに読めば、そのような所有者はその品目を「著作権者の許可なく売る権利がある」と明確に定めている。その上 602(a) 条は許可のない輸入が「106 条に基づく」排他的権利の侵害になると定めているにすぎないし、その制限された権利は適法な所有者の転売を含まないから、602(a)条の文字通りの本文は、合衆国内で L'anza製品を輸入し転売しようと決めた、国内および外国双方の L'anza製品の所有者には、まったく適用できない。
106 (3) 条、109(a)条、および602(a)条の本文が明瞭であるにもかかわらず、法の文言は602(a)条によって与えられた権利を「106 条下だけの権利から区別され」、従って109(a)条に服しないという解釈の根拠となる、と L'anzaは主張する。被上告人上告趣意書 15 。もしそう解しなければ、602(a)条の規定そのものおよびその例外の双方は不必要になるであろう、と L'anzaは主張する。その上、合衆国訟務長官を含むさまざまの法廷助言者の支持を受けて、 L'anzaはその解釈が重要な政策的考慮によって支持されると、主張する。これらの議論を別々に考慮しよう。
L'anzaは法の本文に基づき、2つの重要な議論を提示する。(1) 602(a)条、殊にその3つの例外は、ファーストセールドクトリンによって制限されるならば、不必要になること、(2)「侵害者」を定義している501 条の本文は、一方では106 条の違反と、602 条に違反する輸入とを別々に言及していること。これらの議論の双方に簡単に答えると、いずれも「106 条下の」という言葉が、602(a)条に現れる理由を十分に説明していない。訟務長官は追加的な本文に関する議論をしている。その主張は、602(a)条の「輸入」という語は、複製物の「販売その他占有の処分」をその後の所有者に許している 109(a) 条の文言によって保護されていない行為を記述するというのである。これらの議論のそれぞれは、別個の論評に値する。
602(a)条の範囲
602(a)条制定前にも法はすでに「海賊版」、すなわち許可のない複製物の輸入を禁じていた。 その上、その以前の禁止は現行法 602(b) 条に維持されている。それ故 L’anzaは、(訟務長官その他の法廷助言者と同様に)602(a)条は、著作権者の売った非海賊版(適法に作成された)複製物を含むのでなければ不必要である、何故なら輸入はほとんど常に最初の販売となるからであると論ずる。この議論にはいくつかの欠陥がある。
第一に、たとえ602(a)条が本当に海賊版複製物にのみ適用があるとしても、同条は少なくとも著作権者に輸入者に対する私的救済を与えるであろう。一方 602(b) 条の施行は税関に与えられている。第二に、109(a)条によって与えられた保護は、適法に作成された複製物の「所有者」(または所有者の許可した者)にのみ与えられ得るものであるから、ファーストセールドクトリンは非所有者、例えば、受寄者、許諾を受けた者、委託者、または複製物の違法な占有者[注 19]に対する訴訟には抗弁とならないであろう。第三に、602(a)条は海賊版でもなく、また「本法に基づき適法に作成され」てもいない範疇の複製物に適用される。その範疇には、合衆国著作権法によらず、その代わりにどこかの外国の法律の下で「適法に作成された」複製物が含まれる。
外国の著作権により適法に作成された複製物のその範疇は、1976年法の制定に至った討議の中で明示的に確認された。そのような範疇は仮定的にすぎないものではないことを証明するためだけに、1961年のそのようなコメントの一例を挙げよう。連邦議会への報告の中で著作権局長(Register of Copyrights) の述べた一部は:
「同じ著作物の合衆国版と外国版両方の取決めがなされる時、出版者は国際市場の分割の合意をすることが多くあります。外国の出版者は自分の版を合衆国で売らないことを約し、合衆国の出版者は自分の版を一定の外国では売らないことを約します。海賊版複製物の輸入禁止は、この合意に反する外国版の輸入を禁止するために拡張すべきであるという提案があります。」
Copyright Law Revision: Report of the Register of Copyrights on the General Revision of the U.S.Copyright Law, 87th Cong., 1st Sess., 125-126(H.R.Judiciary Comm.Print 1961)。
例えば、同一著作物の合衆国版の出版者と英国版の出版者との間に市場分割の合意がない場合にも、そのような出版者のどちらも適法な複製物を作ることができよう。しかしその著作物の著作者が、合衆国の排他的頒布権を -- それは法に基づき強行できるものであるが -- 合衆国版の出版者に与え、英国の排他的頒布権を英国版の出版者に与えたとしたら、合衆国版の出版者の作成した複製物だけが 109(a) 条にいう「本法に基づき適法に作成された」ものと推定され得る。ファーストセールドクトリンは、アメリカ市場で売ることを決めた英国版の出版者には、602(a)条に基づく訴えに対する抗弁を与えないであろう。(ま
たは、その点では、複製物の頒布があった場合には106(3)に基づく訴えに対してもそうで
あろう。)
602(a)条の制定法上の例外が、ファーストセールドクトリンが適用され得るならば不必要であるという議論は、同条の範囲が109(a)条の範囲と同じであるという想定に基づいている。しかし実際は、602(a)条の範囲はファーストセールドクトリンに服さない複製物 -- 例えば、外国法に基づき適法に作成された複製物 -- を含むためにもっと広いのであるから、その例外は転売の目的で大量に輸入できないような著作物を1冊だけ買った旅行者を保護するのである。当裁判所の法の解釈では、109(a)条として実現したファーストセールドクトリンおよび602(a)条の例外の両方とも、状況によっては適用できるであろうけれども、前者は後者を包摂するものではない:それらの規定は重要な独立の意味を保持している。
501 条が106 条および602 条を別々に言及していること
501 条の本文は L'anzaの意見の根拠となっている。関連部分は次のように規定する:
「(a) 106 条から118 条までに規定する著作権者の排他的権利、または106A(a) 条に規定する著作者の排他的権利を侵害する者、または602 条に違反して複製物若しくはレコ−ドを合衆国に輸入する者は、場合により著作権または著作者の権利の侵害者となる … 。」
「または輸入する者」という語の使い方は、「輸入する者を含む」のような語よりも、602 条の違反が106 条の違反とは別個であり(従って109(a)条に定めるファーストセールドクトリンに服さない)という解釈の方が、それがそのような違反の一種であるという見解よりも、もっと一貫性がある。それにもかかわらず、その推測の説得力は、法の本文中のその他の規定に及ばない。
最も直接に関係があるのは、602(a)条自体の本文が、禁止された輸入は「106 条に基づく」排他的頒布権の侵害であり、「501 条に基づき訴えることができる」と明確に述べていることである。602 条の違反を106 条の違反の一種とするその文言とは異なり、106A条の本文は、これも501 条に引用されているが、ひどく違った言葉を用いている。それは106A条で保護される著作者の権利は、「106 条に定める排他的権利とは独立したものである」と述べる。602 条の関係文言と 106A 上の関係文言との対照は、後者だけが独立の権利を記述していることを強く暗黙裡に示している。
もっと重要な事実は、106 条の権利は109(a)条のファーストセールの抗弁に服するばかりでなく、他の「107 条から120 条までの」規定全部にも服することである。もし602(a)条が独立に機能するとすれば、これらの規定のいずれもその範囲を限定しないことになろう。例えば、107 条に定める「公正使用」の抗弁は、もし602(a)条が106(3)条の頒布権に対する制限に服しない別個の権利を作り出すとすれば、輸入業者に利用できないことになるであろう。 L'anzaの法の解釈の下では、合衆国著作権法によって保護されているアメリカの小説からの抜粋を引用する書評を掲載している英国の新聞の複製物を卸売業者が輸入すれば、違法となると推定されるであろう。学術的著作物の出版者にも、定期刊行物の出版者にも公正使用の抗弁は重要であるならば、連邦議会が合衆国著作権によって保護されている資料のコピ−行為を含むそのような著作物すべての輸入を、絶対的に禁止することを意図したとは信じ難い。
著作権のあるラベルに関する本件の事実関係において、輸入者がラベルの「公正使用」を侵害の抗弁とすることはできそうではない。しかしながら、法の解釈に当たっては、法の主要な目的は創作性に報いることによって「有用な技術」の進歩を促進することであったことをU.S.Const., Art.I,§8, cl.8 、忘れてはならない。そしてその主要な機能は、著作権のある資料を販売の助けとして用いている普通の商業製品よりはむしろ、オリジナルな著作物の保護である。従って、外国の出版物の輸入者のとって、公正使用の抗弁が認められないことのインパクトを考慮に入れるべきである。そのような出版物に適用されると、 L'anzaの602 条の解釈は、「その埋め合わせをする利益なしに、アイディアへのアクセスを禁止するだけになろう。」Sony Corp. of America v.Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 450-451(1984)。
輸入者は109 条の文字通りに複製物を「販売またはその他の処分」をしているか?
輸入者の立場から見ようと、著作権者の立場から見ようと、訟務長官の主張する本文についての議論、すなわち、「輸入」行為は 109(a) 条にいう複製物の販売でも処分でもないというのは、説得的ではない。厳密にいえば、輸入者はもちろん商品の管理を引渡すことなく、それを1国から他の国へ運ぶことができるであろう。しかし典型的商事取引において、発送者は別の者に「占有、管理、支配およびその商品に対する権原」を移すのであって、 L'anzaは上告人による L’anzaの積荷の輸入は、そのような移転を含んだと想定している。或る人が或る品目を「販売またはその他占有を処分する」権利を有するという陳述の通常の解釈は、それを他の国の他の人に発送する権利を確かに含んでいる。
もっと重要なことには、訟務長官の同法本文の狭い解釈は、602(a)条が許可のない輸入を頒布権の侵害として、もっと柔軟に扱っていること(字義通りの「頒布」がない場合でも)ばかりでなく、109(a)条の必然的に広い範囲とも矛盾する。ファーストセールドクトリンの要点は、一旦著作権者が或る物品を、それを売ることによって通商の流れに投ずると、彼はその頒布を支配する法上の排他的権利を使い尽くしたことに尽きる。当裁判所の認めたところでは、その法理を成文化したことは、同法理が「本法により適法に作成された」複製物にのみ適用があることを明らかにしたが、このことはまた Bobbs-Merrill事件で問題となった複製物ばかりでなく、同事件以前で同法理を適用した事件で問題となった複製物についても同様であった。連邦議会が、109(a)条もそれ以前の同法理の成文化も、その広い範囲を制限することを意図していたと想定する理由はない。
要するに、 L'anzaの本文についての議論も、訟務長官のそれも、いずれも納得できない。
当事者もその法廷助言者たちも、「グレーマーケット(gray market)」または「並行輸入」の慣行と呼ばれるものに対する政府の抑止の当否を長々と論じた。 K mart Corp. v. Cartier, Inc.,486 U.S. 281 (1988) 事件において、当裁判所はそういう言葉を用いて、商標権者の同意のない、有効な合衆国商標をつけた外国製商品の輸入を指した。同上 at 285-286。これらの言葉が、アメリカの製造業者が販売促進の努力を国内市場に限定し、その製品を外国で、外国の卸売業者が国内市場で競争できるほど安い割引価格で売る決定をした結果を表すのに適当であるか、当裁判所は確信がない。しかし、たとえそうだとしても、そのような価格差別に制定法上の保護を与えることが、妥当な政策であるかどうかは、著作権法の本文を解釈すべき当裁判所の義務に直接関連する問題ではない。
同様に直接関係のない事実は、行政府が少なくとも5つの国際通商協定を結び、これらの5か国で売られている国内著作権者の著作物の複製物の許可のない輸入から、国内著作権者を保護する意図を持っているらしいことである。そのような協定の最初のものは1991年に結ばれたが、いずれも上院で批准されていない。それらの、もちろん、本訴訟で訟務長官がとった立場と一貫性を持っているとしても、それらは1976年に制定された法の正しい解釈に光を投ずるものではない。
控訴裁判所の判決はこれを破棄する。
上告人 QUALITY KING DISTRIBUTORS, INC.対 L'ANZA RESEARCH INTERNATIONAL, INC.
第9巡回区連邦控訴裁判所に対する移送令状による上告
[1998年3月9日]
GINSBURG裁判官の賛成意見
本件は問題の複製物の「往復旅行」、すなわち合衆国から外国の諸地点へ行き、そこから再び戻ってきた旅に関するものである。本官は、侵害すると主張される輸入品が外国で製造された事件を、今日解決するのではないことを認める最高裁判所の意見に賛成する。参照、W.Party, Copyright Law and Practice 166-170 (1997 Supp.)(著作権法の規定は、明示的に定めない限り、国外の適用はない。従って、109(a)条の「最初の販売」規定中の「本法に基づき適法に作成された」という言葉は、17 U.S.C. §109(a)、「合衆国で適法に作成された」という意味でなければならない、と注釈する。)一般的には次を参照、P. Goldstein, Copyright §16.0, pp.16:1-16:2(2d ed. 1998) (著作権保護は地域的である。合衆国著作権法で与えられる権利は、国境を越えない」。)