原告 RELIGIOUS TECHNOLOGY CENTER 対 被告 ARNALDO PAGLIARINA LERMA

民事事件 No.95-1107-A

ヴァージニア州東地区連邦地方裁判所、アレキサンドリア部

1996 U.S. Dist. LEXIS 15454; 40 U.S.P.Q.2D(BNA) 1569

判決 1996年10月4日

登録 1996年10月4日

処分:著作権請求事件に関する略式判決は原告 RTC勝訴、被告Lerma 敗訴と認める。

訴訟代理人:原告 カリフォルニア州非営利法人 RELIGIOUS TECHNOLOGY CENTER側:
      Bruce B. McHale, Chamowitz & Chamowitz法律事務所、Alexandria, VA.
      John Frederick Sinclair, Cohen, Dunn & Sinclair 法律事務所、
      Alexandria, VA.

      被告 ARNALDO PAGLIARINI LERMA、個人、[本人訴訟]、Arlington, VA.

裁判官:連邦地方裁判所判事 Leonie M. Brinkema

意見執筆: Leonie M. Brinkema

意見: RELIGIOUS TECHNOLOGY CENTER および ARNALDO P. LERMA 両当事者それぞれの略式判決の申立に         関するメモランダム意見。

  本件は被告 Lerma (以下「Lerma 」)を相手方とする著作権侵害の略式判決を求める原告 Religious Technology Center(以下「RTC 」)の申立によって当裁判所に係属する。また被告 Lermaの略式判決および/または棄却を求める(交差)申立をも併せて考慮する。両当事者は次の主張の最終的解決を求める。すなわち、Lerma が Church of Scientologyに所属する神聖かつ正当に著作権を有する文書の一部を彼のコンピュ−タにコピ−し、および/またはインタ−ネットに投稿した時、RTC の著作権を侵害したという主張である。

  いかなる重要な事実についても真正な争点がないこと、および申立人が法律の問題として勝訴判決を受ける権利があることが記録上明らかである場合には、略式判決が相当である。Fed. R. Civ. P. 56(c); Anderson v. Liberty Lobby, Inc., 477 U.S.242, 91 L.Ed. 2d 202,106 S.Ct. 2505 (1986)。その申立の判断にあたって裁判所は、申立人の相手方に有利な事実およびその事実から引き出されるすべての推論を考察しなければならない。Charbonnages de France v. Smith, 597 F.2d 406, 414 (4th Cir.1979)

  趣意書および審理において提出された議論、ならびにこの実質的記録中の大量の証拠に基づいて、当裁判所は Lermaが RTCの著作権を侵害し、RTC 勝訴、 Lerma敗訴の略式判決が相当であると認める。

事件の経緯

  本件の紛争は Church of Scientologyが神聖と考え、かつ権限なき開示に対して厳重に守っているテキストを Lermaが入手し、インタ−ネット上に公表したことをめぐるものである。Scientology 宗教は L. Ron Hobbard を開祖とし、この世における否定的霊的力の起源を説明しようとして、人の自らの霊的幸福を増進する技術を唱導する。Scientology 信者は、大抵の人間の問題が7500万年以上も前に支配者 Xenu によって虐殺された地球外の人間の残留する霊から生じたものであると信じている。これらの霊は現代世界の個人に「束」になってとりつき、霊的な害を発生させ、その宿主の生命に否定的影響を与えているというのである。

  問題のテキストである「高度技術( Advanced Technology )すなわち「Operating Thetan」文書(以下「OT文書」)は、開祖 Hobbardによって書かれたもので、「自由地帯」を設けることによって、これらの邪悪な影響を避けるための詳細なプログラムを提供すると主張されている。OT文書は、Hobbard の定めた手続に厳重に従い、かつ助ける教会役員の指導のもとに実行されなければ効果を生じないプロセスを略叙する。

  教会の教義の教えるところに従えば、OT文書の不適切な開示が非教会信者に対して行なわれ、教会のメンバ−に対しても早まって行われるならば、望む効果の達成を妨げるという。また権限なき開示は、全地球的規模のさらなる害を生ずるおそれがある。参照、Religious Technology Center v. Lerma, 908 F.Supp. 1353, 1358 (E.D.Va. 1995) 。Hobbard はOT文書の開示は彼のガイドラインに厳重に従ってのみ行われ、それ以外は秘密かつ安全に保管さるべきことを明示的に命じている。

  その結果、教会は本件原告 RTCに神聖なテキストを安全に保管し、起こるかもしれない安全確保の手落ちまたは権限なき開示を厳しく取り締まる任務を与えた。RTC は大部の保護計画を定め、それには施錠された地下保管室、大勢の警備員、キ−・カ−ド、教会メンバ−全員が署名した非公開誓約書が含まれる。RTC はまた呵責なく違反容疑者を追跡し、彼らに対して活発な法的救済を追及した。

  本訴訟は当初、複数被告を相手とした営業秘密および著作権侵害の訴因より成っていた。被告には Lerma、Digital Gateway Systems ( Lermaのインタ−ネットへのアクセスプロバイダ−)、The Washington Post ( 本件についての記事を掲載し、その中でOT文書の一部を引用した)、Marc Fisher ( Wahington Post記者)、および Richard Leiby ( Washington Post 記者)を含んでいた。しかし当裁判所は、全被告に対する営業秘密訴因および、the Washington Post およびその記者については著作権侵害訴因を、早い段階で却下した。RTC は Digital Gateway Systemsに対する請求を自分の意思で取り下げた。従って本件で残っている唯一の争点は、被告 Lermaに対する RTCの著作権侵害の請求だけである。その争点も次第に削除された結果、RTC の訴状で当初争われた著作権のある著作物の一部のみに関して略式判決を求めるようになった。注1

著作権侵害の根拠

  著作権侵害を立証するには2つの要素を証明しなければならない。(1) 有効な著作権を有すること、および(2) 著作権を有する著作物の構成要素の権限なきコピ−行為。Feist Publications Inc. v. Rural Telephone Service Company, Inc., 499 U.S. 340, 361, 113 L.Ed. 2d 358, 111 S.Ct. 1282 (1991)。著作権侵害が生じるのは、「著作権のある著作物から保護されている資料の権限なき実質的コピ−行為」が行われた場合である。Harry G. Henn, Henn on Copyright Law, $27.6 (1991)。

  第1の要素は Lermaにより効果的に争われなかった。RTC の略式判決を求める申立とともに提出されたのは1セットの証拠物件(以下「Gシリ−ズ証拠物件」)であって、それはRTC の著作権ある著作物と Lermaが所有し、および/またはインタ−ネットに彼によって投稿されたと主張される「コピ−」との比較 33 を含む。これらの証拠物件それぞれは、 Lermaかコピ−したと主張される記載部分、それに対応する Hobbardの原本、著作権登録の証明書、連邦著作権局に提出されている著作物のマスクされた証明複写写真、およびその複写写真の全体(マスクされていない)の「転写」を含む。

   Lermaは、Hobbard がその原著作物の最大限の著作権保護を得るために適切な手続に従ったこと、およびこの同じ著作物が、適切な有効にする文書をつけて、Gシリ−ズ証拠物件の中で現在提出されていることを争わない。また Lermaは、RTC がこれらの著作物の著作権を正当に有することも争わない。

アイディア/表現二分法

   Lermaは著作権の正当性の側面的攻撃を開始する。アイディアと表現とを区別して、 Lermaは著作物の中にある資料は「著作権性がない」と主張する。著作権法は著者のオリジナルな表現に法的(それ故に経済的な)制限のある保護を与えることによって、人間の知識と思想の進歩を促進する。しかしながら、著者の一時的な独占は、その著作物の内容となっているアイディアを含まない。第3巡回区控訴裁判所が述べたように、「著作権法の目的は、情報の保護(誘因)と流布との間の最も能率的かつ生産的な均衡を創造し、学問、文化および発展を促進することである」。Whelan Associates v. Jaslow Dental Laboratory、797 F.2d 1222, 1235 (3rd Cir.1986)。これらの意図は著作権法においてアイディア/表現の二分法を生み出し、後者を保護しつつもなお前者にアクセスを許している。「[著作権]法はこのように著者を保護することができるが、我々の社会が大いに尊重する表現の自由に意味を与えるような情報への公衆のアクセスを妨げることはない」。Harper & Row Publishers, Inc. v. Nation Enterprises, 723 F.2d 195, 202 (2nd Cir.1983)

  このアイディア/表現の区別は 17 U.S.C.§102(b)に成文化され、次のように述べる。オリジナルな著作物の著作権保護は、決していかなる思想、手続、プロセス、システム、操作の方法、概念、原則または発見に及ぶことはない。それがその著作物に記述され、説明され、例示され、または具現される形式を問わない。

  それ故に諸裁判所は著者のアイディアの表現が、アイディアそれ自身と密接にからみ合っている場合には常に、表現はアイディアと「マージ」し、そのため著作権を受けられない、と判示してきた。この「マージ理論」の下では、著者のアイディアと手続とが適切に表現されるに当たって、「表現の保護がアイディア自身の保護を効果的に与える」方法があまりにも少ない場合には、Kregos v. Associated Press, 937 F.2d 700, 705 (2nd Cir. 1991) 、諸裁判所はその表現は著作権を受けられないと認めてきた。このような場合に表現に著作権を与えることは、アイディアそれ自身の議論と分析を効果的に禁じることになり、著作権者にその概念そのものの一切の使用の独占を許すことになるであろう。

   Lermaはこのマージ理論が適用され、それ故RTC の著作権保護の請求は無効であると論ずる。 Lermaはまた、 HobbardがOT文書を第一義的に事実に関するものと記述しており、その内容は Hobbardが記したまさにその通りに従わなければならないと主張している、と論ずる。マージ理論の下では、たとえ Hobbardがすべての手続上の要件に従ったとしても、著作物は、もし表現を保護することがアイディアそれ自身の独占を効果的に許すことになれば、やはり著作権を受けられないであろう。

  この議論にもかかわらず、当裁判所はアイディアと表現のマージは本件では生じていないと認定する。Scientology 宗教のアイディアと概念は、OT文書とは独立に議論することができる。このことは本件に付随する大量の記録および全当事者の多数の趣意書の中で十分証明されている。実際、霊的災いの源泉(およびその救済)に関する神学的瞑想は、何世紀にもわたって宗教に関する議論において支配的であった。動物の霊、魔女、悪霊、呪詛、サタン、天使、または「body thetans」のいずれによって達成されようと、霊の癒しは明らかにOT文書に本来的に結びついた概念ではない。

  OT文書が霊的幸福を達成する技術または「プロセス」を与える限度において、その著作権が§102(b)の厳格文理解釈に反するかは議論の余地がある。しかしながら、RTC が論じるように、ほとんどすべての著作物は著作物性のないアイディアやプロセスをある程度伝えている。参照、Hr´g, January 19, 1996, at 23 et seq 。そのような創作物は「手続、プロセス、[または]システム」を含むかもしれないが、17 U.S.C.A. §102(b)、それらは、それによって事実上著作権がないことにはならない。例えば、RTC は本質的に「プロセス」を記述するプログラムを引用しているが、それにもかかわらず、それらは著作物性がある。他の例は、料理の本や自動車修理工のマニュアルを含む。これらの文書それぞれは、それがほうれん草スフレの調理であろうと、欠陥カビュレ−タの作り直しであろうと、目指す目的を達成するための正確な方法を記述するというものである。Hobbard の霊的癒しの指示は、料理本の著作権ありと認められる「レシピ」や保守マニュアルの著作権のある「修理手順」に劣らず、保護を与えられる。

   Lermaは著作物をこれらの例とは区別しようとする。何故なら、著作物は正確なテキストの特定的で厳密な反復を要求するからである。レシピや修理説明書、またはコンピュ−タ・プログラムは若干の変容を許すかもしれないが、Hobbard は Worksが完全な霊的健康に達するための唯一の正しい方法を与えるものであると主張している。もしも正確に従わなければ、プロセスは失敗に終わるであろう。しかしながら、詩または俳句のような文学の著作物や交響楽のスコアのような音楽の著作物は同じ性質を持つ -- 望む効果は正確な反復なしでは得られない。これによって詩、俳句、および音楽のスコアに著作権がないことにはならない。同様に Worksの著作物性を排除すべきではない。この根拠に基づいてRTC に著作権保護を与えないことは、ワグナ−やブラ−ムスのような人への保護と誘因を急速に奪うことになるであろう。それは著作権法の目指すところに明らかに反する結果である。

  故に当裁判所は、マージ理論が 著作物に適用できないと認める。

公正使用の抗弁

   Lermaは、彼のコンピュ−タに著作物の一部をダウンロ−ドしスキャン(scan)することにより、かつその資料の一部をインタ−ネットに投稿することによって、それをコピ−したことを、進んで認める。 Lermaは、著作物に著作物性があり、著作権があるとしても、このコピ−行為は適法であった、何故ならそれは「公正使用」であったからだ、と主張する。

  著作権のある著作物の使用が公正使用を構成するかどうかを決定するに当たって、当裁判所は以下の4つの要因を考察しなければならない。

1. その使用の目的および性格。これにはその使用が商業的性質のものか、それとも非営利の教育的目的のものであるかどうかが含まれる。

2. 著作権のある著作物の性質。

3. 著作権のある著作物全体との関連で、用いられた部分の分量と実質性。

4. その使用が著作権のある著作物の潜在的市場売行または価値に対する影響。

17 U.S.C. §107 。これら4つの法定要因は、「孤立して、相互に分離して扱って」はならない。「すべてを著作権の目的に照らして、一緒に調査し、その結果を考量すべきである」。Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569, 578, 127 L.Ed. 2d 500, 114 S. Ct. 1164 (1994)

   Lermaは、公正使用の分析を行うに当たって当裁判所が、インタ−ネット上の現代の通信を行うという事実関係の中で、彼の行為を評価するように切望する。 Lermaはコンピュ−タの双方向性という独自の特徴を述べて、著作権法の下で特別な扱いを求める。インタ−ネットは真に革命的な進歩をなすが、連邦議会も諸裁判所も§107 の公正使用基準の下でそれに独自の地位を与えていない。著作権法は技術的変化とともに、すなわち著作権の解釈、適用の複雑な問題を生む新しい技術の進歩のある度に、発展した。それにもかかわらず、新しい技術は -- テレビからビデオ・カセット・レコ−ダ−、デジタル送信に至るまで  -- 著作権法の全体的枠組みに適合し、著作権が促進すべき目的に奉仕させられてきた。参照、 Sony Corp. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S.417, 78 L.Ed. 2d 574, 104 S.Ct. 774 (1984) 。インタ−ネットも例外ではなく、それへの投稿は公正使用が与えているすでに柔軟な考慮を参照して判断されなければならない。

その使用の目的および性格: 公正使用の第1の要因は、侵害者と主張される者が行った使用の目的および性格である。17 U.S.C. §107(1)。 Lermaは、彼による Worksの使用が107 条第1項に列記された古典的公正使用の範疇のいくつかに該当する。すなわち、彼による著作物のコピ−行為と投稿とは「批判」、「コメント」、「ニュ−ス報道」、および「学術」を構成する、と断定する。「第1要因は、もし侵害すると主張される著作物が107 条に挙げられている用法の記述に該当すれば、被告に有利になるという強い推定がある」。Wright v. Warner Books, Inc., 953 F.2d 731, 736 (2nd Cir. 1991)

   Lermaは、Fishman Declaration のインタ−ネット上への投稿は、公衆に開放され、裁判所が封印することを拒否する、カリフォルニア州のある裁判所の記録にある情報の公表から始まった、と主張する。 Lermaは、その情報をニュ−ス記者のように集めただけであって、その後インタ−ネット上でそれを公表し、現代のニュ−ス暴露と同じ考え方で、Scientology の「欠点」をインタ−ネット社会に暴露しようとしたのである、と主張する。

  この類推はあたらない。全記録は、 Lermaの動機がニュ−ス記者とは異なり中立的ではなく、彼の投稿は主として「公共の利益のため」に行われたのではなかったことを、明らかに示している。MCA, Inc. v. Wilson, 677 F.2d 180, 182 (2nd Cir. 1981)。コピ−行為の程度と侵害的資料の最終的使用の仕方に照らして判断すると、 Lermaは早くに本訴訟から除外された Washington Postやその社員とは重要な違いのある地位に立っている。たとえLermaが新聞記者であったとしても、著作権のある文書が裁判所の公の記録の中にあったという事実だけでは、いかなる点においても、その著作権保護を失わせるものではない。

   Lermaはまた、自分が Scientologyの理論と学説を探究する熱心な研究者であると自称する。彼は「転換的(transformative)」性質をもつ学問的作業を行い、その提供する資料は「公の知識と理解に新しい価値を加え、それによって憲法に述べられているような著作権の目的を増進するものである」と主張する。 Opp´n Br. at 24 。その議論は著作権のある資料の大量のコピ−行為および転載を正当化するものではない。 Lermaによるコピ−行為の程度は、彼のインタ−ネット投稿の大部分に注釈がないことと相俟って、学術の例外と矛盾する。仮に Lermaのハ−ド・ドライブ(hard drive) へのコピ−行為が、ひとえに学術研究の名において行われたと仮定しても、これで公正使用分析が終わるのではない。そのような使用はただ「推定上」許されるもので、たとえ善意の研究者でもその行い得る複製の程度には限度がある。参照、American Geophysical Union v. Texaco, Inc., 802 F.Supp. 1,17(S.D.N.Y. 1992), aff´d., 60 F.3d 913 (2nd Cir. 1994) (営利研究所の内部使用のための科学雑誌の保存用写真コピ−であって、公正使用とはされなかった)、次も参照、Marcus v. Rowley, 695 F.2d 1171, 1176 (9th Cir. 1983)(「著作権のある資料の大量コピ−は公正使用法理の適用を排除する」)、3 Nimmer§13.05[A][3](1996)(「[一般に]著作物全体が複製されれば、公正使用にはならないかもしれない」)。

   Lermaは、インタ−ネット上のニュ−スグル−プからのダウンロ−ドによって行われたその「研究」が、公正使用に特に強い論拠を与えると論ずる。ニュ−スグル−プのアウトプットは性質上一時的であるから、後に見直せるようにそのような投稿を残しておくことは、VCR テ−プ上の一時的記憶とは区別できないと、 Lermaは主張し、それは次の事件で連邦最高裁判所によって支持されたと論ずる。Sony Corp. of America v. UniversalStudios, Inc., 464 U.S. 417, 78 L. Ed. 2d 574, 104 S.Ct. 774 (1984) 。 Lermaのこの類推はあたらない。何故ならば Sony 事件で認められた「時間シフト」はテレビのプログラムの複製に関するもので、それは視聴者に無料で黙示的にライセンスされていた。視聴者はその時便宜上コピ−したのである。これらの判別要因は本件には存在しない。 Lermaは Worksを見たりコピ−するライセンスを与えられていないし、彼のディスクへのWorks の複製は、便宜以上の目的に役立てられていた。Sony事件の被告が有料のケ−ブルチャンネルからテレビ映画の無許可のコピ−を入手し、その後公衆のアクセスするチャンネルにその映画を再放映して、明らかに禁じられることをしたのであれば、 LermaはSony事件を正しく類推したことになるであろう。

   Lermaが 著作物を投稿した意図が、伝統的な意味で「商業的」でなかったことは事実であろう。彼は直接教会と競争していたのではない。彼は Worksの中に含まれている情報に上乗せ料金を取りもしなかったし、その他「私的な商業的利益」を受けもしなかった。公正使用法理の下では、侵害すると主張される著作物の商業的使用はよく思われないが、非商業的使用はそうではない。参照、Sony Corp., 464 U.S. at 449 。それにもかかわらず、 Lermaがその投稿から直接利益を得たという証拠はないけれども、この要素だけで公正使用の争点を片付けられない。

  「それは重要な要因であるけれども、公正使用分析の利益要素が公正使用の有無の究極的決定を左右するかどうかは、考慮された諸要因の全体にかかっている。それだけで決定的ではない」。Rogers v. Koons, 960 F.2d 301, 309(2nd Cir.1992)。上に論じた諸要因の全体を見て、当裁判所は Lermaのコピ−行為と投稿の非商業的性格が、 Works公表に当たっての Lermaの非中立的で非学術的な動機に勝るものではないと認定する。

著作権のある著作物の性質: 公正使用分析の下で考慮すべき第2の要因は、著作権のある著作物の性質である。17 U.S.C. §107(2)。「この要因は、ある著作物は他の著作物よりも意図された保護の核心に近く、その結果、前者がコピ−された場合、公正使用の立証はより困難になるという認識を要する」。Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510  U.S. 569, 586, 127 L.Ed.2d 500, 114 S.Ct. 1164 (1994)

  RTC の略式判決を求める申立に反対して、 Lermaは彼の立場に有利となる 著作物の2つの面に依拠する。(1) 著作物の事実の性質 対 創造的性質。 (2)その公表の状態。

  公正使用の抗弁は、創造的または文学の著作物についてよりも、事実の著作物についてはもっと広い。「法は一般に、フィクションや空想の著作物よりも事実の著作物を流布する必要が大きいことを認める」。Harper & Row Publishers, Inc. v. Nation Enterprises, 471 U.S. 539, 563, 85 L. Ed. 2d 588, 105 S.Ct. 2218 (1985)
Hobbard の著作物はこの点分類が困難であって、この争点を取扱っている諸裁判所はその結論が異なる。New Era Publications Int´l v. Carol Publishing Group, 904 F.2d  152, 158 (2nd Cir. 1989), cert. denied, 493 U.S. 1094, 107 L.Ed. 2d 1071, 110 S.Ct. 1168 (1990) において第2巡回区控訴裁判所が述べたように、「普通人は Hobbard の著作物の分類方法について意見が分かれ得る」。しかしながら、本件において RTCは Works の創造性よりも有用性を強調して、それを訓練資料と呼んだ。当裁判所は前にこの問題を解決するに当たって、 Works は「創造的よりはむしろ情報的であることを意図され」、それ故この点もっと広い公正使用のアプロ−チが妥当であると判示した。Religious Technology Center v. Lerma, 908 F.Supp. 1362, 1367 (E.D. Va.1995)

  著作権のある著作物の性質についての Lermaの第2の議論は、公表の状態に関する。諸裁判所は一貫して、「公正使用の範囲は未公表著作物については狭い」と認定してきた。New Era Publications v. Carol Publishing Group, 904 F.2d 152, 157(2nd Cir.1990) Harper & Row, Publishers, Inc. v. Nation Enterprises, 471 U.S. 539, 564, 85 L.Ed. 2d 588, 105 S.Ct. 2218(1985)を引用)。問題のWorks は明らかに「公表」されていなかった。RTC はこれらの資料を公衆に公表していなかったし、その計画もない。それにもかかわらず、 Lermaは次のように主張する。すなわち、公正使用分析のためには「公表」という語は「技術的に『公表』であるかどうかにかかわらず、その著作物が広く流布されているか、または広く入手可能であるかどうか」を意味すると強く主張する。 Opp´n Br. at 41 (Harper & Row, 471 U.S. at 555を引用)。(emphasis in original) 。 Lermaがコピ−し、インタ−ネットに投稿した資料の多くは、すでに開放された裁判所の記録中に、またはインタ−ネット上で入手できるのであるから、 Lermaは彼がRTC の最初に公表する権利を奪ってはいないので、それらの保護は少なくても相当であると主張する。

   Lermaのこの議論への依拠は確信的ではない。Harper & Row事件は、他人による資料の使用が公正使用となるかどうかを決定するに当たって、著作物の「事実上の公表 … または流布」を考量するものであるけれども、これは著者が履行または流布のような行動によって「黙示の同意」を与えた場合にのみ妥当する。471 U.S. at 551 。そのような場合、著者はその著作物を公に入手できるようにし、最初の公表の権利を黙示的に行使したのである。著作権者は第三者の行動が最初の公表の権利を奪った時には、この機会を与えられない。それが Harper & Row 事件および本件において起こったのである。著作権者の同意なき投稿は、公正使用の原則の下では「最初の公表」を構成し得ない。

   Lermaはまた、著作物の未公表の状態はRTC にそれを公表する意図がないため、ますます重んじられる権利がない、と論ずる。 Lermaは「流布された著作物と流布されない著作物を区別する核心的目的は、著者に最初の公表の権利の商業的価値を保持することである」と主張する。 Opp´n Br. at 44。Harper & Row事件を根拠に、 Lermaは著作権者が最初の公表の権利を利用しようと思わない場合、その権利を保護する必要は小さくなり、それに対応して公正使用の範囲は拡がるのではないかと暗示する。

   Lermaはこの点に関して彼の典拠を読み誤っている。Harper & Row事件は明らかに「最初に公表する権利は[また]そもそも公表するかどうかの選択を含む」ことを認めている。471 U.S. at 564 。次も参照、Salinger v. Random House, Inc., 811 F.2d 90,98(2nd Cir. 1987)(原告の著作物の価値が受ける損害のおそれは、「著者が生存中公表する意図はないといったという事実によって少なくなることはない … 彼には自分の書簡を売る機会を守る権利がある」)。このアプロ−チは非論理的ではない。

  このように、著作物の事実的性質は Lerma有利に傾くけれども、Works の未公表の性質および RTCがWorks を未公表のままにしておく意図は、 Lermaに不利に傾く。Harper & Row, 471 U.S. at 564 事件において判示されたように、「著作物が未公表であるという事実は、その『性質』の判別要素である」。未公表の著作物は「保護されている表現のコピ−に対して、通常完全な保護を受ける」。Salinger v. Random House, Inc., 811 F.2d 90, 97 (2nd Cir. 1987)。結局、公正使用の第2の要因はRTC に有利に傾く。

  コピ−行為の量および実質性:第3の要因は著作権のある著作物全体との関連で、被告がコピ−した部分の分量および実質性を扱う。17 U.S.C. §107(3)。「著作権のある著作物がコピ−され、なお公正使用と考えられる分量はどれだけか、については絶対的法則はない」。Maxtone-Graham v. Burtchaell, 803 F.2d 1253, 1263 (2nd Cir.1986)。この要因には量的および質的要素があって、裁判所は引用された資料が著作権のある著作物の実質的な比率を占める場合、または引用された資料が著作権のある著作物の「本質的に核心」である場合には、その使用を不公正と認定した。New Era Publications v. Carol Publishing Group, 904 F.2d 152, 158 (2nd Cir.1990)(citations omitted) 。

  両当事者は、 Lermaが抜粋した部分が質的構成部分の下で 著作物の核心であるかどうかを争う。当裁判所はこの構成部分を評価できない。何故ならば著作権のある資料の多くは理解できないものだからである。しかしながら、量的分析は圧倒的にRTC に有利に傾くから、この質的評価をする必要はない。

  RTC のG-シリ−ズ証拠物件中の33物件は、広範なコピ−行為および投稿を示している。この33証拠物件の大部分は逐語的コピ−行為を含み、あたかも Lermaが著作権のある資料を入手して、簡単にサイバ−スペ−スへ転送したかのようである。多くの場合、 Lermaは書き出し、本文、末尾と認識できる、完全で、自足の(self-contained)OT文書をアップロ−ドした。G-シリ−ズ証拠物件の3分の2以上が、著作権局に登録されている Worksのほとんど完全な複製である。

  著作権のある著作物の大量コピ−行為は、しばしば公正使用法理の適用を排除する。Marcus v. Rowley, 695 F.2d 1171, 1176(9th Cir.1983)(citations omitted)。そのようなあくどい複製は、教育・指導の事実関係においてすら禁じられている。例えば、参照、Wihtol v. Crow, 309 F.2d 777, 780 (8th Cir.1962)( 「『公正使用』法理の範囲がどれだけ広かろうと、著作権のある歌全部または実質的全部のコピ−行為は、侵害者が侵害の意図をもっていなかったからといって、『公正使用』と判断され得るとは考えられない」)。Encyclopaedia Britanica Educational Corp. v. Crooks, 447 F.Supp. 243 (W.D.N.Y. 1978)(被告は科学と教育を振興するため、フィルムの非商業的、教育的コピ−行為を行ったけれども、著作権のあるフィルム全部をテ−プすることは、公正使用の抗弁を適用するには度が過ぎている)。

   LermaはRTC の割合計算に反対して、§107(3)に定義された著作権のある著作物「全体」とは何かについて異なる解釈を主張する。RTC はOT文書を著作権局に登録するにあたって、シリ−ズの一部としていくつかにまとめている。 Lermaは「全体」の著作物とは登録証明書に列挙された全シリ−ズを指すと主張する。これに反しRTC は、その語はこの著作権のあるシリ−ズの各構成部分を指すと主張する。このように、RTC が1つの書式上にOTV文書集A, B, C, D, E を登録している場合に、 Lermaはこの5つの文書すべてが比較上「著作権のある著作物全体」を構成すると主張する。これに反しRTC は各部分が「著作権のある著作物全体」を成すと主張する。

  「著作権のある著作物全体」を( Lermaがこの方がよいというように)文集全部として見るか、それとも(RTC がよいというように)単一の著作物と見るか見ないかが、公正使用の評価を判別し、実際決定的要因となるかもしれない。RTC の解釈では、もし LermaがA 文書をまるまるコピ−すれば、彼は100 パ−セントのコピ−をしたことになる。 Lermaの解釈では同じ行為が、もっと大きな著作物の小部分をコピ−したに過ぎないことになる。このように、 LermaはOTUから 213ペ−ジ中 13 ペ−ジだけ、OTVの 326ペ−ジから 25 ペ−ジ、「the Power 」から 30 ペ−ジの 12 ペ−ジ、 the NOT´s の 350ペ−ジの 10 ペ−ジだけを複製したと主張する。 Opp´n Br. at 47 。

  RTC のアプロ−チは連邦規則集( the Code of Federal Regulations) に根拠があり、それは中でも次のものは「単一の著作物」と考えなければならないという:

未公表の著作物の場合には:一切の著作物性のある要素で、自足の著作物(複数)と認め得るはずのものであって、1個の未公表の「文集」にまとめられたもの。

37 C.F.R. §202.3(b)(3)(B)。その項はさらに一群の著作物が「文集」と考え得るかどうかを決定するにあたって用いられる諸要因を列記し、それには次のものが含まれる:

1) 諸要素は整然たる形式で集められているか;

2) 1個の題名を有し、それらを1つの全体であるとしているか;

3) 著作権の主張者は諸要素のそれぞれにおいて、およびその文集全体においても同一で  あるか;および

4) 諸要素は同一の著者の手になるか。

同上。これらの諸要因によって判断すると、本件で問題の Worksは「文集」にまとめられ、各部分が公正使用の分析上「単一著作物」と考えられなければならないと認められる。


  諸裁判所はこのアプロ−チに従い、「文集」の諸構成部分が公正使用上単一の著作物を構成すると認定した。Szabo v. Errisson, 68 F.3d 940 (5th Cir.1995) 事件において裁判所は、記録集の構成要素が個々的には著作権登録に列記されていなかったにもかかわらず、その構成要素に著作権保護を与えた。RTC の請求は個々的な列記を行っているから、一層強い。次も参照、Hustler Magazine v.Moral Majority, 796 F.2d 1148, 1154(9th Cir.1986)( 「合成著作物(composite work)の各要素は、個々の著作権保護を受けることができ、別々の著作権表示をつけなくてもよい」);American Geophysical Union v. Texaco, 802 F.Supp.1, 17(S.D.N.Y.1992)( 著作権のある雑誌の各記事は公正使用上単一の著作物を構成していた)。

   LermaはOTU、OTV、 NOT´s 、または Powerの全体を投稿しなかったけれども、これらのシリ−ズの一部の、それぞれまとまった部分の全体を確かに投稿している。連邦規則集および判例法上、これらの部分はそれぞれ単一の著作物を構成し、 Lermaの行為とつき合わせるべき基準尺度である。この分析に従えば、 Lermaの侵害は明白である。

  この公正使用要因下の最後の抗弁として、 Lermaは独自のニュ−スグル−プの事実関係の中でインタ−ネット上への投稿を考えるよう当裁判所に強く求めている。個々の投稿を切り離して見るよりも、 Lermaは各投稿がニュ−スグル−プ上で彼が行った継続する対話の事実関係の中で考察されるべきであると主張する。そうすると、その質的分析は主張されている侵害の前後に投稿された複数の通信、すなわち、争われている投稿よりももっと大きい注釈や分析を含む蓋然性のある通信を含むであろう。

  このアプロ−チは、侵害者になるかもしれない人が著作権のあくどい盗用に参加して、しかもその後の注釈をその後に投稿することによって処罰を逃れることを許すであろう。その注釈は必ずしも侵害著作物と並べて見られないかもしれないのである。この議論によれば、「サイバ−山賊」は容易にその足跡を覆い隠すことができるであろう。

  それ故公正使用の第3要因は Lermaに甚だしく不利に傾く。 Lermaによる諸文集中に登録されている一部の「単一の著作物」の直接のコピ−行為と投稿は、ほどんど全面的に議論も注釈もないので、公正使用の抗弁を排除するのにほとんど十分である。

  著作権のある著作物の市場への影響: 公正使用抗弁の第4かつ最終部分では、侵害的使用と主張されるものが、著作権のある著作物の売行き見込み、または価値に及ぼす影響が考察される。17 U.S.C. §107(4)。

  裁判所はしばしばこれが公正使用分析の最も重要な要素であるとした。例えば、参照、Harper & Row, 471 U.S. at 566; New Era Publications v. Carol Pub. Group, 904 F.2d 152, 159(2nd Cir.1990)。しかしながら、1967年下院報告は、それが「ほとんど常に他の3つの基準と結合して判断されなければならない」と警告する。Marcus v.Rowley,695 Wash. 2d 1171, 1177 (9th Cir.1983)( H.R.Rep. No. 83, 90th Cong., 1st Sess.33, 35 (1967) を引用)。 Lermaは正当な注釈の結果 Church of Scientologyの被る経済的損失は、公正使用法理の下では許されると主張するが、それは正しい。連邦最高裁判所はCampbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S.at 592 (1994) 事件において、次のように判断した。すなわち、我々は「需要を抑圧する[だけの]厳しい批評[と]それを盗用する著作権侵害とを区別」しなければならない、と。(原文の括弧のまま)(引用省略)。本件において市場への影響の問題を扱うことは極めて困難である。何故なら Lermaがこれまで投稿した Worksの抜粋は、実質的ではあるけれども、信者になろうとする者が Scientologyから逃げる十分な証拠を提供するおそれはありそうもないからである。しかしながら、RTC がScientology 入信の減少を証明することができないからといって、 Lermaの行動は正当化されない。「計測できる金銭的損害の単なる不存在は、公正使用の認定を要求するものではない」。Marcus v. Rowley, 695 F.2d 1171, 1177(9th Cir.1983)

  RTC への経済的損害の可能性もまた考慮されなければならない。「公正使用を否定するには、もし『争われている使用が拡がろうものなら、著作権のある著作物の売行き見込みに悪影響を与えるであろうということを証明するだけでよい』」。Harper & Row, 471 U.S. at 568 ( Sony Corp of America v. Universal Studios, Inc., 464 U.S.at 451 を引用)。 RTCが、 Lermaの現在の行動の実質的拡大はRTC に損害を与えるという、確認できる危険を生んでいると述べるのは正しい。Bridge Publications, Inc. v. Vien, 827F.Supp.629, 633 (S.D.Cal.1993)事件において、裁判所は Church of Scientologyに関する別の事件でも、そのような危険を認めた。Vien事件において、RTC の文書の著作物および録音記録の無断コピ−行為が部分的に著作権法に違反すると判示された。何故ならそのコピ−は原著作物の需要を満たし、その売行き見込みを減少させ、またはそれに不利益を与えたからである。同上、at 636。Vien事件の侵害者は現実に Church of Scientologyと競争していた。RTC は LermaがRTC に何らかの競争の危険を生じたと主張し、この主張を支持する通信で次のように述べる。「公衆は使いやすい技術を利用しがちである … 。すべての浄化治療師の全著作物は、それを適用する希望と勇気をもつすべての人が利用できるようにされている。一手販売も広く行われている …」Ex. 8 to Fifth Lerma Decl.。

  しかしながら、全体として本件におけるRTC はあまりにも思弁的である。RTC は Lermaの投稿が Church of Scientologyに及ぼし、または及ぼす可能性のある影響の、特定的で確認できる証拠を提出できないし、 Lermaが教会の直接の競争者として行動していることも証明できない。だから当裁判所は、公正使用の第4要因がわずかに Lerma有利に傾くと認定する。

  公正使用の要約: 公正使用の抗弁を評価するための§107 に列挙する4つの法定要因に基づいて、当裁判所は Lermaによる Worksのコピ−行為および投稿が公正使用を構成しないと認定する。

著作権のミスユース

   Lermaは次に、たとえ彼のコピ−行為およびインタ−ネット上への投稿が公正使用の抗弁で守られないとしても、それにもかかわらず、RTC は自分の著作権をミスユースしたのであるから、当裁判所は Lerma勝訴の略式判決を下すべきであると論ずる。著作権ミスユースの法理は、著作権侵害の積極的抗弁である。その目的は著作権者が著作権法上与えられている法的権利を不当に用いるのを妨げることである。「著作権ミスユースの抗弁が成功すれば、有責の原告がミスユースをした著作権の侵害に対する訴訟で勝訴できなくする」と Lermaがいうのは正しい。Lasercomb America, Inc. v. Reynolds, 911 F.2d 970, 972(4th Cir. 1990)

   Lermaはこのミスユースの主張の2つの根拠を論ずる。第1に LermaはRTC の著作権侵害訴訟の善意を問題として、RTC の真の目的は Lermaのコンピュ−タ関係の資料の閉じ込めだと主張する。 Lermaは、RTC が著作権法の下でその選択権を行使したのは、彼のコンピュ−タ・ファイルにアクセスを得るための口実に過ぎず、それによってRTC が彼の個人的資料を「掻き回し」、その他のRTC の批判者を調査したり威嚇したりするためだ、と主張する。第2に Lermaは、RTC がその著作権と訴訟手続一般を用いて「Scientology を批判したことに対して Mr.Lerma に嫌がらせをし、負担を負わせ、罰する手段としている」と主張する。

  仮にそのような動機がRTC の訴訟戦術の一部であったと想定しても、それが著作権のミスユースを構成するものではない。著作権のミスユースが適用されるのは、著作権者がその著作物を意図された範囲以上に拡張し、それによって著作権保護の物理的範囲を拡大しようとする場合である。それは著作権者がある著作物の自分の独自の権利を、他の関係のない製品またはサ−ビスに及ぼすと主張される状況において、典型的に発生する。例えば、参照、Lasercomb, 911 F.2d 970 (4th Cir.1990)( 自分の適法に著作権を与えられた資料の支配を、99年のライセンス契約を用いて拡張しようとした原告に対して、ミスユースの抗弁が支持された);Service & Training, Inc. v. Data General Corp., 963 F.2d 680 (4th Cir. 1992)(コンピュ−タ・プログラムの利用可能性を、原告のコンピュ−タ修理サ−ビスを被告が利用することを条件にすることによる著作権のミスユースの主張);Electronic Data Systems v. Computer Associates, 802 F.Supp. 1463(N.D.Tex.1992)(著作権のあるソフトウェアの購入を、他の製品と抱き合わせにすることによるミスユースの主張);United Tel. Co. of Mo. v. Johnson Pub. Co., Inc., 855 F.2d 604 (8th Cir.1988)(原告の求める著作権のある部分よりはむしろ、全顧客リストを原告に買えと要求することによるミスユースの主張)。これらの事件が示すように、ミスユースは特許法の「抱き合わせ」禁止に若干似ている。著作権は創造性およびオリジナリティの必要な徴候を含む著作物のみを保護する意図をもつから、その事実上の独占の影を他の保護されていない著作物に投影することは「ミスユース」を構成するであろう。

  著作権ミスユースの抗弁はまた、原告が自らは権利を有しない資料を被告が使用することを制限しようとする状況においても発生した。Qad. Inc. v. ALN Associates,Inc., 770F.Supp. 1261(N.D.Ill.1991)。原告が著作権を差別的と主張される方法で分配した場合、Supermarket of Homes, Inc.v. San Fernando Valley Board of Realtors, 786 F.2d 1400 (9th Cir.1986) 、または著作権者が被告の求める著作権のある歌のリストを供給することを拒否した場合にも,Tempo Music,Inc. v.Myers, 407 F.2d 503(4th Cir.1969)。これらの事件それぞれにおいて、ミスユースは著作権者自らの憲法または公序良俗に反する方法でのミスユースに関する。換言すれば、ミスユース抗弁の主張は、原告が著作権法が意図しない不適切、または許し難い方法でその著作権の主張をする、と効果的に主張しなければならない。そのようなミスユースは、たとえ隠れた動機によって刺激されているとしても、自分の著作物の正当な主張とはまったく異なる。故に、著作権のミスユースとなるには、著作権者が著作権を「自分の独占を拡張したり、またはその他著作権法の根底にある公序良俗に反すること」により許されない方法で用いなければならない。National Cable Television v. Broadcast Music, Inc., 772 F.Supp. 614, 652 (D.D.C.1991)

   Lermaはその証明ができない。本件はRTC が持っていない著作権を主張したり、またはRTC がその著作権と他の製品とを抱き合わせをしようとした事件ではない。 Lermaの侵害は見誤りようもなく、RTC の反対は妥当である。

   LermaはRTC の著作物に対する権利を侵害したと決定した以上、かつ公正使用およびミスユースの抗弁を退けた以上、当裁判所は LermaがG-シリ−ズ証拠物件を投稿して Worksに対するRTC の著作権を侵害したと認定する。

損害賠償および救済

  今や当裁判所は、予備的に Lermaの侵害に対する適切な救済を取り上げよう。侵害訴訟における金銭賠償の根拠は17 U.S.C. §594 に定められている。同条によって著作権者は「現実の損害賠償および侵害者の得た追加的利益」かそれとも「法定損害賠償」のいずれかを求めることができる。17 U.S.C. §504(a)。

現実の損害賠償および利益は、本件においては簡単に確定できない。何故ならいくつかの要因があるためで、それは Lermaは侵害された資料を販売していなかったこと、彼はChurch of Scientology の直接の競争者ではないこと、およびRTC は、いかなる程度の確実性をもっても、失われた利益、減少した信者数を証明できないことを含む。しかしながら当裁判所は現実の損害賠償額を決定する必要はない。何故ならRTC は「著作権法によって与えられる最低の法定損害賠償」だけを求める意思を表明したからである。注2

  最終法定賠償額を決定するにあたって、当裁判所は3つの問題に答えなければならない。注3. 1)どの程度まで関連投稿(G-シリ−ズ証拠物件からの)がRTC の著作権を侵害しているか;2)何回の侵害行為が発生したか;3)どの程度まで侵害が故意であったのか。

  どの程度までWorks は侵害されているか -- 当裁判所は略式判決申立書とともにRTC が提出した侵害されたと主張されるWorks を詳細に検討した。例外なく、G-シリ−ズ証拠物件として提出された 33 バインダ−(binder) のそれぞれが、問題の文書に対するRTC の著作権の侵害を証明する。

  証拠物件のいずれも、上に概説した分析のもとで公正使用とは考えられない。 Lermaのコピ−は典型的に全面的逐語コピ−から成り、批評もその他の注釈もない。 Lermaはしばしば著作権のある著作物のテキストそのままを複製し、その結果その2つの文面はほとんど区別できない。彼の直接的コピ−行為の徴候には、同一のタイトル、小見出し、文節記号、引用符、大文字用法、ハイフンおよびアンダ−ラインの使用が含まれる。


  これらの文法的類似に加えて、 Lermaの投稿はテキストを区切る番号付けおよび字体が同一であることをしばしば示している。例えば、参照、RTC 証拠物件 G-17 & G-18。時にはコピ−行為が行き過ぎて、著作権のあるテキストの実際に見えるままのレイアウトを複製し、その結果文字とその置き方も同様のコラムに分けられ、それが著作権のあるWorks と合致する。例えば、参照、RTC 証拠物件 G-18 。多くの証拠物件は、 LermaによるL.Ron Hobbard が著者であることを示す行(authorship line)のあくどい複製を含む。例えば、参照、RTC 証拠物件 G-26, G-27, & G-28。

  争われている Worksのいくつかは手描きの挿絵を含むが、それは Lermaのコピ−に入っていない。例えば、参照、RTC 証拠物件 G-13, G-21 & G-22 。これらの挿絵は文書の Lerma版から省かれていて、その省略は彼の侵害を一層目立たせる。何故なら Lermaの逐語的テキストの多くは、存在しない挿絵に触れているからである。当裁判所が特に問題だと認めるその他の省略は、一部の RTC「bulletins 」の逐語的コピ−で起こり、そこでは Lermaは「極秘」の見出しと著作権記号以外は何もかも転写したようである。例えば、参照、RTC 証拠物件 G-26 から G-30 。

  RTC 文書の関係部分と Lerma文書の分量および実質性もまた侵害の認定を支持する。証拠物件の大部分において、 Lerma文書の 100パ−セントはRTC の著作権のある文書の100 パ−セントの直接コピ−に過ぎない。例えば、参照、RTC 証拠物件 G-1から G-13, G-17から G-19, G-26からG-30, & G-32から G-33 。小さい違いのある場合には、それはタイプの打ち間違いまたは重要でない語の差し替えのようである。少数の場合には著作権のある著作物の抜粋された部分は、全体コピ−よりも著しく少ないが、それにもかかわらず、その部分は Lermaの複製の全体を成す。例えば、参照、RTC 証拠物件 G-14, G-15, G-16,& G-20。もしもRTC の著作権のある文書の 60 パ−セントがコピ−され、何らの変更も注釈もなく、 Lerma文書の 100パ−セントを成すとしても、これでも公正使用とはならないのである。

  侵害行為の数--RTC のG-シリ−ズ証拠物件に含まれる 33 バインダ−のそれぞれが侵害しているけれども、必ずしもこれが 33 回の侵害行為を示すものではない。著作権法は明らかに、著作権侵害に対する法定損害賠償額を計算する上で、「編集著作物または派生著作物のすべての部分が1つの著作物を構成する」と定める。17 U.S.C. §504(1996) 。

  本件の 33 証拠物件のそれぞれは、合衆国著作権局に提出された5つの異なる編集物の1つから生じている。証拠物件 G-1から G-15 までは、「OTVシリ−ズ」(著作権登録番号 TXu 290-496, Jan.30, 1987) と題する著作権登録より生じ、証拠物件 G-16 から G-25 までは、「OTUシリ−ズ」(著作権登録番号 TXu 303-388, September 17,1987)と題する著作権登録より生じ、証拠物件 G-26 から G-29 までは、「NED FOR OTS シリ−ズ」(著作権登録番号 TXu 257-326, November 10, 1986)と題する著作権登録より生じ、証拠物件 G-30 は、「HCO BULLETIN OF 16 NOVEMBER 1981 THE SUNSHINE RUNDOWN, INSTRUCTION」(著作権登録番号 TXu 303-384, September l, 1987)と題する著作権登録より生じ、証拠物件 G-31 からG-33までは「POWER シリ−ズ」(著作権登録番号、TXu  303-386, September 1, 1987) と題する著作権登録より生じている。

  もし複数であるが別個の著作物が集められ、同一登録の下に著作権局にまとめて提出されるならば、それらは損害賠償では単一の著作物と考えられるべきである。この原則は次の事件で実際に行われた。Stokes Seeds Ltd. v. Geo. W. Park Seed Co., Inc., 783 F.Supp. 104(W.D.N.Y.1991) 。この事件では、種子会社の実生植物の参考書に載っている複数の写真のコピ−行為それぞれが、区別できる1つの侵害行為を構成しなかった。そうではなくて、裁判所はその著作物を「1個の著作物」を構成し、従って「1個の法定損害賠償を与えればよい」編集物と見なした。同上、at p.107。損害賠償の計算上、この略式判決申立において争われている侵害文書は、同様に5個の著作物を構成し 33 個ではない。

  法定損害賠償額は侵害された著作物の数に従って計算されるべきであって、侵害の数によるのではなから、Walt Disney Co. v. Powell, 283 U.S. App.D.C. 111, 897 F.2d 565, 569 (D.C.Cir.1990) 、当裁判所は損害賠償額の計算上5個の侵害のみを認定する。

  故意--

  当裁判所は故意の違反に対して加重法定損害賠償を課すことを拒否する。「侵害者がその行為は侵害であると知り、または侵害者が著作権者の権利を無謀に無視して行動したならば、侵害は『故意』である」。Video Views, Inc. v. Studio 21 Ltd., 925 F.2d 1010, 1020(7th Cir.1991), cert. denied, 502 U.S.861, 116 L.Ed. 2d 143, 112 S.Ct. 181(1991), Superior Form Builders, Inc. v. Chase Taxidermy Supply Co.,74 F.3d 488, 496 (4th Cir. 1988)に引用。次も参照、Microsoft Corp. v. Grey Computer, 910 F.Supp. 1077 (D.Md.1995)

   Lermaの行為は諸裁判所が故意の侵害と認定した事件における侵害者の行為とは合致しない。侵害が故意であるかどうかを決定するにあたって、Superior Form Builders事件の裁判所は侵害者の侵害の前歴を考慮し、「記録から Dan Chase Taxidermyが一貫して、かつ故意に著作権法を無視し、競争者の形式をコピ−して国内最大の剥製供給業者となったという結論が導き出せる」といった。74 F.3d at 497。同被告はまた、その製品であるマネキンの著作権を偽り、以前に少なくとも3度著作権侵害で訴えられた。74 F.3d at 497 。最後に同裁判所は、Chase がその製品カタログに彼の製品は著作権を与えられていると述べ、従って審理の際にそのマネキンに著作物性がないという矛盾した主張をしたことを強調した。これにひきかえ、 Lermaには著作権侵害の前歴がなく、彼は WORKSの著作権をもっているとも主張していない。

  損害賠償額の計算 -- 故意的でない侵害各1個に対し、著作権法によって当裁判所は「500 ドル以上 20,000 ドル以下の、裁判所が適当と考える」法定損害賠償を与えることができる。17 U.S.C. §504(c)(1)(1996) 。本件で生じた5個の侵害に照らして、この訴訟で少なからぬ金額をすでに出費した、資力の限られている個人に対して懲罰金が査定されるのであるから、そしてRTC は著作権が守られさえすれば、法定最低限度額のみを求めるという明示的要望を表明しているのであるから、注4 当裁判所は各侵害に対して法定最低額 500ドルを、RTC 勝訴、被告 Lerma敗訴として、RTC が当裁判所に別段の確信を与えない限り、合計法定額 2,500ドルを与えようと思う。

結論

  上述の理由によって、著作権請求に関して原告 RTC 勝訴、被告 Lerma敗訴の略式判決を認める。

  書記官は本メモランダム意見の謄本を記録上の訴訟代理人および本人訴訟の被告に送付することを命じられる。

  1996年10月4日登録。

  Leonie M. Brinkema

  連邦地方裁判所判事

  Alexandria, Virginia

  決定

  1996年1月19日、当裁判所は原告に対し著作権侵害請求に関して略式判決を与えた。その決定は公開法廷において口頭で行われ、当裁判所は両当事者にその理由を文書にした意見の中で説明し、その後当事者に救済について論ずる機会を与えると伝えた。略式判決の決定に対する上訴の期間は、文書の意見および損害賠償の決定が発せられるまで停止された。文書の意見が今発せられ、従って取り上げるべき事項で残っているのは救済である。

  当裁判所はこれによって、以前述べたことに従って、被告に重い金銭的損害賠償を課す意図のないことを、両当事者に伝える。RTC が当裁判所にこれに反する確信を与えない限り、本件において故意の侵害の認定を行わない。その上、反対の確信を与えられない限り、損害賠償額の計算上当裁判所は、特定的にはメモランダム意見で論じた5個の著作物それぞれの違法コピ−行為を1個の違反として、5個の違反を認める意図を有する。RTC は、その著作権が尊重されれば、最低の法定損害賠償のみを求めると以前に表明したのであるから、この結論から金銭損害賠償の総額は2,500 ドルとなる。

  被告は金銭的苦境にあるようであり、もはや訴訟代理人を有しない。故に、これに反する確信を与えられない限り、当裁判所は被告に対して弁護士報酬も訴訟費用も支払いを命ずる考えはない。

  最後に、RTC は本訴訟において差止命令による救済を求めている。それに対して被告は反対しないと当裁判所は信ずる。両当事者はその差止命令の文言について合意に達するように努めなければならない。

  これらの最終的争点を解決するために、これによって、

  RTC は1996年10月21日までに、損害賠償および差止命令の争点につきその主張を提出すべきことを決定する。被告は 15 日以内にRTC に解答すべきこと。

  書記官は本メモランダム意見の謄本を記録上の訴訟代理人および本人訴訟の被告に送付すべきことを命じられる。

  1996年10月4日登録。

            

  Leonie M. Brinkema

  連邦地方裁判所判事

  Alexandria, Virginia                            




   注1:RTC は当初 LermaがOT文書のいくつかの異なるシリ−ズや文集(collections)から引用された複数著作物の著作権を侵害したと主張していた。その略式判決の申立において、RTC は今や「 OT U」、「 OT V」、「Power 」、「NOTs」、および「Sunshine Rundown」から抜粋された資料に関してのみの判断を求めている。それらはすべて本申立の中では「Works 」と呼ばれている。第2修正訴状は、「 OT T」、「OT W」、「 OT X」、「 OT Y」、および「 OT [」、からのその他の資料の侵害に関する追加的主張を含んでいた。しかしながら、その主張はRTC の本略式判決申立には含まれていない。

   注2:参照、被告 Lermaを相手方とする著作権侵害に対する原告RTC の略式判決を求める申立書、at 46, n.40 。

   注3:当裁判所は当初両当事者に対して、本メモランダム意見の発表後すべての損害賠償および救済の争点に関する補充的説明を受けるつもりであると述べた。さらに検討したところ、当裁判所は法定損害賠償については追加的議論を必要としない。弁護士報酬の決定のみに関する補充的説明を、本メモランダム意見の日より 11 日以内に提出すべきものとする。

   注4:参照、被告 Lermaを相手方として著作権侵害に対する原告 RTCの略式判決を求める申立書、p. 46, n.40 。