SOFTEL INC. vs DRAGON MEDICAL SCEIENTIFIC COMMUNICATIONS INC. et al.

第二巡回区連邦控訴裁判所

第59号

1996年8月開廷期

口頭弁論:1996年9月12日

判決:1997年7月9日

事件番号:95-9151

原告:

控訴人 SOFTEL, INC.

被告:

被控訴人 DRAGON MEDICAL AND SCIENTIFIC COMMUNICATIONS, INC.; DRAGON GROUP LTD., 別称 Dragon Medical and Scientific Communications, Ltd.; JOHN.R.DARSEE; H.EUGENE HODGE; NINA ROMANOFF.

担当裁判官:

MINER, ALTIMARI および PARKER 控訴裁判所裁判官

ニュー・ヨーク州南部地区連邦地方裁判所(John M.Cannella 裁判官)のコンピュータ・プログラム著作権侵害、営業秘密の不正目的使用および Lanham 法違反事件判決に対する控訴。同事件において Cannella 裁判官は原告の専門家証言の一部の使用を排除し、非陪審審理において、その一部につき勝訴、その他敗訴とした。さらにMiriam G. Cedarbaum 裁判官が別個に認めた損害賠償に対する控訴。

原判決一部維持、一部破棄差戻し。

原告-控訴人側訴訟代理人:

Charla R.Bikman, New York, NY.

被告-被控訴人:

Dragon Medical & Scientitic Communications, Inc., John R.Darseeおよび H.Eugene Hodge 側訴訟代理人:Bruce H. Schneider, New York, NY(Gordon M. Kessler, Strook & Strook & Lavan法律事務所、New York, NY、 William A. Rome, Jaffe and Asher 法律事務所顧問、New York, NY) .

PARKER 控訴裁判所裁判官

コンピュータ・ソフトウェア会社 Softel, Inc. は、Dragon Medical and Scientific Communications, Inc.(以下「Dragon」)、その親会社 Dragon Group, Ltd. および、その従業員数名(併せて以下「被告」)を相手として本訴を提起し、被告は Softel がそのいくつかのコンピュータ・プログラムに有する著作権を侵害し、コンピュータ・コードに含まれる営業秘密を不正使用したと主張する。 Softel はまた、被告が Lanham 法 43(a)条、15 U.S.C.1125(a)条にいう「リバース・パーミング・オフ(reverse palming off)」を犯し、被告会社の社長は損害賠償に対して代位的かつ寄与的に責任を負う、と主張する。非陪審審理において地方裁判所(John M.Cannella 裁判官)は、被告が原告の著作権侵害および営業秘密請求の一部について責任を有するが、他については責任がないと認め、Lanham法に基づく原告の請求および代位的または寄与的責任は退けた。別個の手続において同裁判所(Miriam G.Cedarbaum裁判官)は、それに従って損害賠償を認めた。当裁判所は、原判決の一部を支持し、地方裁判所の事実認定および判断は原告の請求全部を取り上げていないから、一部を破棄し差戻す。

I. 背景

Softelは小さなニューハンプシャー州法人で、コンピュータ・グラフィックス製品の製作・販売を行っている。Paul Fiondellaがその社長であり、唯一の株主である。Dragonはニュージャージー州法人で、医学的および科学的情報に関するコミューニケーション・プログラムの設計を行っている。H.Eugene Hodgeは Dragon の社長であり、その株主の一人である。Nina Romanoff は Dragon の従業員で、Dragonのために様々なフィルムやビデオテープを製作した。John R. Darseeは Dragon の医事記者であり、コンピュータ・プログラマーである。参照、Softel, Inc. v. Dragon Med. & Scientific Communications,Inc., No.87 Civ.0167, 1992 WL 168190, at F.F.Para(s) 1ー6 [*注1] (S.D.N.Y. June 30, 1992)(以下「Sotel U」)。

1993年[1983]年1月、Fiondella は「ペイント・アンド・ドロー(paint-and-draw) 」コンピュータ・グラフィックス・プログラム、Videogram 1.0 を開発した。[*注2]。1983年のその後、Fiondella はこのプログラムの改良バージョンであるVideogram 2.0 を開発した。1984年 Pfizer Laboratoriesが Dragon と契約し、後に Heartlab と呼ばれたプログラムを製作させた。Darseeは Videogram 2.0の広告を見て、Fiondella に電話し、その性能についていくつかの質問をした。Dragonの従業員 Darsee は、Fiondella からそのソフトウェアとハードウェア若干を買った。Fiondella はニューヨークのDragonの営業所へ自分でその商品を届けて、 Dragon での自社の取引見込みを調べようとした。Fiondella と Darsee は「オーサリング言語」を作る合弁会社を組織することを話し合い、Darseeは Fiondellaに Heartlab プロジェクトのために、鼓動する心臓のシュミレーションを作ることを依頼した。

1985年1月、E.R. Squibb & Sons, Inc.は訓練用のインタラクティブ・ビデオテープ・プログラムを作成するように Dragon に委託した。このプロジェクトはAzactam と呼ばれた。Dragonはこのプロジェクトのコンピュータ・プログラムを書くことを Fiondellaに委託した。Fiondella は Dragon に自分のソース・コード[*注3]を提供しないように注意し、Dragonに渡したソース・コードのうちの Softel の部分と、実行形式プログラム(executable) [*注4]に著作権表示を付けた。

Dragonはまた Roche Laboratories とビデオディスク・プログラムを作る契約を結んでいた。これはメラノーマ(Melanoma)、カポジ肉腫(Kaposi's Sarcoma)(以下「カポジ」)毛状細胞白血病(Hairy Cell Leukemia)と呼ばれることになったものである。DragonはFiondella にメラノーマのタッチスクリーンとビデオディスク・プレーヤーの操作(operation)をコントロールするプログラムを書くこと、および Dragon の作画者の作ったグラフィック画像を検索し表示する(retrieve and display) プログラムを書くことを委託した。Fiondella はこのコードをモジュール形式(modular style)[注*5]で書いた。彼はまた、ハードウェアとソフトウェアを適正に適合させるために、ハードウェアのメーカーの作ったマニュアルを用いた。彼は Dragon に日割り計算で料金を請求したが、彼のプログラムの実行形式バージョンだけを引き渡し、その実行形式プログラムには著作権表示を付けた。

Fiondella はまたカポジの仕事も行い、メラノーマで用いたのと同様なコードを用いた。彼はカポジ・プログラムを書くためにいくつかの設計技術を用いたが、その中には外部ファイルの使用、英語のコマンド、モジュール構造(modular structure)およびメニューの階層化(hierarchical series of menues)とタッチスクリーン等が含まれていた。このプログラムも実行形式のみ、かつ著作権表示を付けて引き渡された。

カポジが完成した頃、Dragonは Sorbinil と呼ばれるプロジェクトの仕事をするようFiondella に委託した。Fiondella はこのプロジェクト向けののプログラムを書き、Dragonに実行形式プログラムを提出した。しかしプロジェクトの期限が近づいた時、このプログラムに問題が生じた。DragonはFiondella に電話し、Dragonのニュー・ヨーク事務所に来てそのプログラムを修正するよう求めたが、Fiondella は不在であった。Fiondella の友人が代わりに Dragon の事務所へ行き、電話によるFiondella の指示に従って、当面の問題を何とか解決した。

運悪く、更に問題が生じた。Fiondella は1985年6月17日、自ら Dragon の事務所へ行った。Fiondella と Dragon のフリーランサーのコンピュータ・プログラマーの一人とが、問題を起こしているのは誰のプログラムかについて激しい議論を始めた。そのフリーランサーのプログラマーは、Fiondella がそのプログラムを引き渡し、プログラマー自身がそれを調べることができるようにせよと要求した。Fiondella が断るとそのプログラマーは言った、自分はとにかくFiondella のプログラムを Dragon のコンピュータから外すことができる。何故なら自分はFiondella がアクセス中にコンピュータに追加し、使用後(外観上)消したプログラムを「復元」(unerase)することができるからだ、と。Fiondella は激怒した。Dragonの社長Hodge は激論の際居合わせ、Fiondella の行為は専門家に相応しくないから、Dragonの仕事を今後させることはできないと決定した。Fiondella はその後間もなくソフトウェアの問題をうまく解決した。

その後被告 Darsee は、Fiondella が Dragon のコンピュータに追加し、そして消したと思われたコードにアクセスした。

1985年6月、 Dragon はRoche のための第三のビデオディスク・プログラム、Hairy Cell Leukemiaを作成した。Roche は2つのバージョンを求めた。Hairy Cell U.S. とHairy Cell Europeである。 Dragon は、Roche のヨーロッパ子会社に配布するためHairy Cell Rocheと呼ばれる中間的バージョンを作成したが、それは中間的プログラムと考えていたので、そのコピーを保存しなかった。

1986年 Dragon はPfizerのために Low Back Painというプログラムを作成した。このプログラムは Back Pain Expert モジュールを含んでいた。その後間もなく Dragon は Pfizer のために Heartlab というプログラムを作成した。 Darsee がそのプログラムを書いたが、アニメーションと画像検索ルーチン(image retrieval routine)は除いた。それらは Fiondellaのものだからである。Fiondella はこのプログラムの対価の支払いを受けていた。

被告は、 Hairy Cell Roche, Low Back PainおよびHeartlabに Fiondellaの画像検索ルーチンを用いたことを認めている。

1985年後半 Darsee は、 Paintbox というペイント・アンド・ドロー・プログラムの開発を始めた。このソフトウェアの初期バージョンは、 Fiondellaの画像検索ルーチンを含んでいた。 Darsee はKurta Corporation に書簡を送り、 Dragon と Kurtaとが Paintbox を含む Dragon の開発したプログラムの一部を協同販売することを提案した。しかし、この提案は実現しなかった。

この頃 Dragon は、インタラクティブ技術を専門とする Dragon Expert Systems と呼ぶ部門を持っていると自社のマーケテイングを開始した。Dragonは、1985年10月9日から11日のアメリカ家庭医協会(American Association of Family Practitioners) の会議で、歓談用の続き部屋(hospitality suite)のスポンサーとなった。 Dragon はこの発表に注目を集めるために、見込み顧客に書簡を送り、自社をコンピュータ画像を作ることができる医師および技術者の集団と称する新聞発表を行った。この発表によって売上げがあったという証拠は提出されていない。

1986年6月、 Softel は以下のものを含むプログラムのパッケージにつき著作権登録を申請し、与えられた。(1) 「SHOWPIX.bas 」と呼ばれる BASICで書かれたプログラムで画像検索ルーチン、(2) 「8068/8 Support Routines 」と呼ばれるオブジェクト・コード・ルーチンの集合体、それは画像を検索し表示するのに用いられるアセンブリー・コード・ルーチンを含む。および(3) カポジ・プログラムのソース・コードについてである。

1986年11月に Darsee は、国際インタラクティブ・コミューニケーション協会(International Interactive Communications Society)の会合で Hairy Cell Roche プログラムを展示した。彼はそこに含まれているコードのいかなるものも、Fiondella または Softel のものであることを認めなかった。この発表からビジネスは生じなかった。1987年初期に Softel は本訴訟を提起し、次のこと等を主張した。すなわち、被告は Softel がそのプログラムに持っている著作権を侵害したこと、そのコードの中の営業秘密を不正使用したこと、および Lanham 法 43(a)条に違反したこと。

1988年、本訴訟の開始後 Dragon は次のプログラムを作成したが、Softelはそれらも侵害しているものと主張する。Unasyn, Micro, OB/GYN, Managed Health Care, Heart Command (以上まとめて「訴訟開始後プログラム」と呼ぶ)。これらのプログラムは Fiondellaの原コードとは異なるコンピュータ言語で書かれており、異なるハードウェアで作動するように作られている。

開示の間に Softel は、社外の専門家証人を代えようとしたが、[*注6]新しい証人は Nina Gershon 副判事の定めた開示期限を守ることができなかった。Gershon 副判事は、Softelが審理の際に、最初の社外専門家証人以外の証人に依拠することを禁じた。地方裁判所はこの排除決定を支持した。--参照、Softel, Inc. v. Dragon Med. & Scientific Communications, Inc., No. 87 Civ. 0167, 1990 WL 164859, at *8(S.D.N.Y.Oct.24, 1990)(以下「Softel I])。事件はそれから 1990 年4月末および5月上旬に、Cannella裁判官の面前で行われる非陪審審理に移った。同裁判官は、被告の訴訟開始前のプログラムは Softel のプログラムを侵害したこと、および被告は Softel の画像検索ルーチン中の営業秘密を不正使用したこと等を認定した。これらの認定またはそれに関連して最終的に認められた損害賠償額に対する控訴はない。しかしながら同裁判官は、訴訟開始後のプログラムの侵害ならびに Lanham 法および営業秘密に関する Softel の請求を退けた。参照、Softel U。数年後損害賠償の争点は Miriam G. Cedarbaum裁判官によって審理され、同裁判官は著作権侵害請求および営業秘密不正使用請求に対して補償的損害賠償$34,880.28、および Darsee に対して懲罰的損害賠償 $100,000 、Dragonに対して懲罰的損害賠償 $150,000 を、故意の営業秘密不正使用に対して Softel に与えた。--参照、Softel, Inc. v. Dragon Med. & Scientific Communications, Inc., 891 F. Supp. 935, 946 (S.D.N.Y.1995)(以下「Softel V」)。Cedarbaum 裁判官はその後懲罰的損害賠償を、 Darsee に対しては $35,000に、 Dragon に対しては $50,000に減額した。--参照、Softel, Inc. v. Dragon Med. & Scientific Communications, Inc., No.87 Civ.0167, 1995 WL 606307, at *2(S.D.N.Y.Oct. 16, 1995)。 Softel は事実審裁判所がその専門家証人を排除したこと、および訴訟開始後のプログラムに関するその著作権侵害請求を退けたことに対して控訴する。 Softel はまた、Lanham法および営業秘密の請求の棄却(後者の損害賠償額の算定を含む)、および同裁判所が Hodgeは侵害に対して代位的または寄与的に責任があるという Softel の請求を退けたことに対して控訴する。当裁判所は、事実審裁判所の決定を支持する。但し、Dragonの訴訟開始後のプログラムは、 Softel のプログラムの著作物性のある構造を侵害したこと、および訴訟開始後のプログラムが Softelのプログラム中の営業秘密を不正使用したとする Softel の請求を更に審理するよう本件を差し戻す。

II. 議論

A.Softelの専門家証人の排除

1989年12月、 Gershon副判事は開示期限を 1990 年1月30日と定めた。1989年12月6日の審理前協議においてSoftelは同判事に、新しい専門家証人 Dr.Thomas A. DeFanti を前の専門家証人 Aaron Grosky に代えると告げた。Gershon 副判事は、 Softel の新専門家証人による報告書の送達を許すことに同意したが、新専門家証人の報告書は、 Dragon が期限前に対応する時間があるように、12月22日までに提出しなければならないと告げた。Softel I at *2。 Softel はまた、その最初の専門家証人 Grosky が、料金をめぐる争いのために、その訴訟で係争中のプログラムを含むフロッピーの返還を拒否していると述べた。 Softel は Grosky にそのフロッピーを渡す前に複製を作っていなかったようである。 Dragon は自分の持っているディスクを複製することに同意し、数日後の12月11日に175 ディスクを、1週間後の12月18日に、それは開示期限の3日前であるが、残りの若干のフロッピーを Softel に引き渡した。12月21日(期限の前日)に、 Softel は期限の延長を求めた。というのはDefanti が資料の検討にもっと時間を必要としたからであった。1990年1月8日 Gershon副判事は、 Softel は正当な説明をしていないと認めて、期限の延長を拒否した。1月12日、 Gershon副判事はこの排除決定を説明して、 Softel に最初指名された専門家証人、すなわち Grosky 、の証言以外の社外の専門家証人の証言を審理の際提出することを許さないものであると言った。 Softel は連邦民事訴訟規則 72(a)によってこれらの決定に異議を申し立てたが、 Cannella 裁判官は両決定を支持した。参照、同上。審理の際 Cannella 裁判官も、 Softel の DeFanti報告書を反証として提出しようとする試みを拒否し、同裁判官の最初の決定の趣旨は Grosky だけが Softel の社外専門家証人であること、および同決定は Softel の反証を含めたものだと述べた。Softelはこれらの決定を地方裁判所の裁量権の濫用だとして争う。

当裁判所は、裁判所の決定が裁量権の濫用になるかを審査する。--参照、Update Art, Inc. v. Modiin Publ'g, Ltd., 843 F.2d 67, 71-72 (2d Cir.1988) 。地方裁判所がその裁量権を越えたかどうかを決定するにあたって、当裁判所は次の諸要因を考察する:(1) 開示命令違背に対する当事者の弁明;(2) 排除された証人の証言の重要性;(3) 新証言への対応に準備しなければならない結果、相手方の被る不利益;および(4) 延期続行の可能性。--参照、Outley v. City of New York, 837 F.2d 587, 590-91 (2d Cir.1988)。

Outley事件の第1要件について、 Softel は開示の期限の約60日前にその専門家証人を変更することを許されたが、それは新専門家証人はほぼ1ヵ月後、すなわち 12 月22日までに、その報告書を提出すべしとする条件つきであったと当裁判所は認める。Softelがこの期限を守れなかった弁明は、 DeFantiが期限間際まで関係フロッピーにアクセスできなかったため、自分の調査を行う時間が足りないということであった。この弁明は適切ではない。 Softel はその新しい専門家証人に、さまざまな方法でもっと時間を与えることを、やればできたはずである。 Softel は、争われている料金を支払って Grosky からフロッピーを取り返し、それから料金の取り過ぎを主張して訴えることができたであろう。Softel は Grosky にディスケットを渡す前にそのコピーを作ることができたであろう。または、極めて明らかに、 Softel は裁判所と被告に、料金の争いのあることを実際知らせたよりも何ヵ月も前に知らせることができたはずである。 Dragon に DeFantiが資料とすべきフロッピーを提出する義務を課すことはできない。 Dragon は便宜をはかってSoftelにこれらのディスクの追加を渡したのである。

Softelは当裁判所の注意を Potlatch Corp. v. United States, 679 F.2d 153 (9th Cir.1982) に向ける。同事件は複雑な税金紛争に関するものであるが、そこでは当局が最初開示期限を定める時に、まだ専門家を雇っていないこと、および面接した専門家はすべて、その仕事に掛かると6ヵ月を要すると予測していたことを、裁判所に知らせた。参照、同上 at 154 。裁判所は期限を6ヵ月後と定めた。当局がこの期限を守れなかった時、地方裁判所は専門家証人の証言を排除した。第9巡回区控訴裁判所は破棄し、次の事実を考慮に入れた。すなわち、地方裁判所の期限は、当局が勧告的なものと解釈しても不当ではなかったであろうこと;当局の弁護士は専門家1人雇うにも随分繁雑な官僚的手続に耐えなければならないこと;専門家は当局の支配に服していないこと、そして最後に、納税者も遅延したこと。参照、同上 at 155-56。当裁判所は Potlatch 事件がこれらの事実について区別され得るものであると信ずる。本件においては、期限は明らかに勧告的ではなかった。 Softel はその証人を雇うのに役所の形式的手続にかかずらう必要がなかった。そして、おそらく最も重要な点であるが、地方裁判所は専門家証人が期限を守れないことを、期限の前日はじめて知らされたこと--Potlatch 事件の事実関係とは大違いである。同事件では、当局は最初の状況会議の際に裁判所に通知したのである。本件の開示は 1987年の初めに開始され、1990年1月に終了した。 Softel は、専門家証人がその期間内に必要な分析を完了できなかったであろう、と主張していない。そうではなくて、Softelは、その期間の末になって専門家証人の変更を決定した後に、かつ関連資料の唯一のコピーを最初の専門家証人に取られて失った(回収不能ではない)後に与えられた時間は、既に行われた開示の部分を変更または補強するには十分でなかった、と主張する。これらの事実について Potlatch 事件は役立たない。

Outley事件の第2要因--排除された証人の証言の重要性--は、 Softel に有利に働くが、それはほんの少しである。本件におけるような技術的な審理においては専門家証人を持つことはもちろん重要であるけれども、 Softel はもう一人の専門家証人を持つことができ、実際に使った。それは Softel の社長 Fiondellaである。 Softel は、Fiondellaの証言を DeFantiの証言で補強する機会を与えられなかったが、この不利益は、例えばOutley事件において原告の被ったものに比べれば僅少である。その原告は、唯一の確証的事実の証人を、信憑性が決定的争点となる審理において排除されたのであった。参照、Outley, 837 F. 2d at 590-91 。その上 Softel は、 Grosky の報告書を両方とも証拠として提出する機会を与えられたが、そうしない方を選んだと思われる。以上のような事情であるから、 DeFantiの排除による不利益は僅少であり、 Softel の主張するように「棄却と同然」とはならない。

Outley事件の第3要因は、新証言に対応する準備をしなければならない結果、相手方が被る不利益である。 Outley 事件ではこの負担は軽微であった。同事件において原告は警察の違法行為を主張し、目撃証人2名を立てようとした。当裁判所は「一寸面接すれば[被告が]証人の観察能力を調べ、[その証人が]何故路上にいたのかを発見し、その証言の弱点または矛盾を暴露することができたであろう」と述べた。同上 at 591。当裁判所はまた「[その証人の]証言は、専門家証人が与えた技術的または特定的な証拠ではなかった」と特定的に述べた。同上。本件では排除された証言は専門家証人のものであった。その上、本件のように高度に技術的な事件における紛争の諸要因は、専門家証人の証言によって明らかにされるところが大である。それ故、 DeFantiの証言と Grosky の証言との相違は、事件の境界線の引き直しをすることになったであろう。そしてそれが Dragon のSoftelの攻撃に対応する能力を減殺したであろうことは、まず確実である。 Dragon は開示過程の極めて遅い時期に、 Dragon に対して申立られている理論に重要となるかもしれない変更への適応を強制されたであろうから、この要因は Dragon に有利に作用する。

Outley事件の最後の要因は、延期続行が与えられる可能性である。本件では、審理期日は定められておらず、延期続行は認められ得た。しかしながら、開示日程の促進的処理は、このような性質の事件においては殊に重要である。何故ならそれは長期間に亘る大規模な専門家の関与を必要とするからである。それ故、事実審裁判所が延期続行を許す負担は、一部の他の事件におけるよりも大きい。 Softel は延期続行の妥当性の証拠として、この事件が排除決定後何ヵ月も審理に付されなかった事実を指摘する。これはもちろん、正当な視力での、すんでから見ての結果である。裁判所が Softel に延期続行を認めたとすれば、多分 Dragon にも対応のために追加的時間を与えなければならなかったであろう。事実審裁判所がこの種の期日のずれを許すならば、審理は正当に日程を組むことができず、その結果他の事件の停滞、さらにネックが次々と生じて、結局日程の混乱を生ずる。さらに、本件において手続の各段階におびただしい時間が掛かることが、これ以上の延期続行を許さない。このような状況下で延期続行を認めなかったことは、確かに事実審裁判官の健全な裁量の範囲内であった。

Outley事件の第1、第3、第4要因は Softel に不利に作用し、第2要因が僅かに有利に働く。すべてを考慮すると、 Outley 事件の諸要因は下級裁判所の決定が裁量権の濫用ではなかったことを明らかにする。よって当裁判所はそれを支持する。

B. 著作権侵害

「著作権侵害のいかなる訴えにおいても、原告は自分が有効な著作権を有していること、および被告が著作権のある著作物をコピーしたことを証明しなければならない。」(Computer Assocs. Int'l, Inc. v. Altai, Inc., 982 F.2d 693, 701(2d Cir. 1992)) 。コピー行為の証明は、直接証拠によるか、または「(1) 被告が原告の著作権のある著作物にアクセスしたこと、および(2) 被告の著作物が原告の著作権のある資料に実質的に類似していること」を証明することによってできる。同上。 Cannella 裁判官は、 Dragon がSoftelのソース・コードにアクセスしたこと、Softel U at F.F.Para(s) 62、およびこのコードの一部が Dragon の訴訟開始前のプログラムのうちの2つに直接コピーされたことを認定した。参照、同上 at F.F. Para(s) 70, 74 。 Cannella 裁判官は、これら2つのプログラムが Softel の著作権を侵害したと判断した。--参照、同上 at C.L. Para(s)9−24。しかし Cannella 裁判官は、 Dragon の訴訟開始後のプログラムの若干も Softel の著作権を侵害したという Softel の主張を退けた。同裁判官は、訴訟開始後のプログラムは Softel のプログラムに、著作権を得られるいかなる方法においても類似していないと判断した。--参照、同上 at C.L. Para(s)28-34。

この控訴審で Softel は、 Dragon の訴訟開始後のプログラムが Softel の有する著作権を侵害しているというその主張を再び行った。 Softel は地方裁判所において、自分のソフトウェアはいくつかのコンピュータ・プログラミング・デザイン要素を表現的方法で結合し、Dragonがその表現をコピーした、と主張したが、 Cannella 裁判官はこの主張を無視し、代わりに、 Softel が提起してもいない主張、すなわち、デザイン要素の各々は、個々的にとっても、保護され得る表現であるという主張を問題にした(そして退けた)、とSoftelは主張する。

コンピュータ・プログラムのノン・リテラルな類似が著作権侵害を構成し得るということは、本巡回区において確立している。--参照、Altai, 982 F.2d at 702。当裁判所はプログラムが侵害されているかどうかを決定するための「抽象化-濾過-比較」の分析方法を定めた。参照、同上 at 706ー12 。この分析によれば、侵害されたと主張されるプログラムは最初分解され、抽象化の様々の段階で検討される。参照、同上 at 706-07。第二に、侵害されたと主張されるプログラムは抽象化の各段階で、資料の一部のタイプには保護を与えないとする様々の著作権法理を通じて濾過される。例えば、定型的情景の法理(scene a faire doctrine )が保護を拒否するプログラム要素は、外的な要因、例えば「特定のプログラムが作動(run)することが予定されたコンピュータの機械的仕様」または「コンピュータ業界で広く認められた慣行」によって決定されるものである。同上 at 709-10。第三に、その結果である保護され得る表現は、侵害していると主張されるプログラムと比較される。--参照、同上 at 710-11。

当裁判所によるこの分析方法の Altai事件の事実への適用が示すように、建築における類似性に基づく侵害の主張は、その建築物を構成するデザイン要素の多く、または全部が、抽象化の低い段階で考察されると保護できないからといって、無視できないのである。Altai事件において地方裁判所は、同事件で争われたプログラムの多くの部面が様々な理由で保護できないと判断した(例えば、それらは公有に属するとか、コンピュータの定型的情景であるとか)。それにもかかわらず同裁判所は、抽象化の高い段階まで進み、その2つのプログラムの「構造図(organizational charts)」間の類似性を根拠とする原告の侵害の主張に応じた。(Computer Assocs. Int'l, Inc. v. Altai, Inc., 775 F.Supp. 544, 562 (E.D.N.Y. 1991)。)その主張の認定に当たって事実審裁判所は、抽象化の低い段階では保護されないと認定されたプログラムの要素を、その分析から除く努力をしなかった。その代わりに、そのプログラムを抽象化の高い段階で分析して、同裁判所は組織上の主張を退けた。その根拠は、侵害されたと主張される構造は「そのプログラムの動作(operation)を見る誰にとっても単純で明瞭である」ということである。同上。当裁判所はそのアプローチを可とするが、ただ地方裁判所が用いた「明瞭な」という語は、侵害されたといわれている構造が、定型的情景であったという判断と理解されなければならない、ということのみを付け加える。--参照、Altai, 982 F.2d at 714-15 。

上記のアプローチは、Altai 事件において当裁判所が論じた、982 F.2d at 711-12, Feist Publications, Inc. v. Rural Telephone Service Co., 499 U.S. 340 (1991)事件における連邦最高裁判所の判決と一致する。Feist 事件において連邦最高裁判所は、保護されない要素の編集物は、その構成要素が著作権保護を受けなくても、その保護を受け得ることを完全に明らかにした。--参照、Feist, 499 U.S. at 344-51 。別の巡回区のある地方裁判所は、明快な仮説例をあげてこの局面を見逃す危険を例示した:

被告が、オリジナルなパターンで配列された幾何学的な形だけから成っている原告の抽象画をコピーした、と仮定しよう。その侵害したと主張される者は、次のように主張できるであろう。すなわち、各々の表現的要素(すなわち、幾何学的な形)は、機能性、マージャー(merger)、定型的情景、および非独創性の諸法理によって保護され得ない。だから要素はすべて表現の実質的類似性の分析を行う前に排除すべきである、と。そうすれば、表現の実質的類似性を決定するためのものは何も残らないことになるであろう。この例では「保護され得ない」要素を排除すれば著作権侵害なし、という認定との結果となるであろう。これは、オリジナルな著作物の著作者たちへ誘因を与えようという著作権法の目的とは明らかに矛盾するであろう。
(Apple Computer, Inc. v. Microsoft Corp., 779 F.Supp. 133, 136 (N.D.Cal. 1991),関係部分支持、一部破棄差戻し。35 F.3d 1435, 1444(9th Cir.1994)。学説は賛成。)
 
段階ごとの分析で行われる精査は、一部の個々のプログラム要素の保護を認めないことになろうけれども、それらの要素の結合体は保護され得ることを忘れてはならない。著作物性のない著作物または公有の著作物のオリジナルな配列--それが事実の配列であっても--著作権法上、コンピュータ関係でもその他におけると同様に、編集物として著作物性がある。従って、個々のプログラム要素で、ある段階で「濾過された」ものは、抽象化の別の段階では要素の総体の一部として見れば、著作物性があるであろう。
(Arthur R. Miller, Copyright Protection for Computer Programs, Databases, and Computer-Generated Works: Is Anything New Since CONTU?, 106 Harv. L. Rev. 977, 1003 (1993) (脚注省略);次も参照、Melville B.Nimmer & David Nimmer, Nimmer on Copyright Section(s) 13.03 [F] [5], at 13-145(1996) (以下「Nimmer」)(「濾過を行うに当たって裁判所は、著作物性のある創作性が無数の現れ方をすることに神経を使わなければならない。分析は、著作物性のある著作物から有体的要素を機械的に分離するだけで行えばよいものではない。」)[*注7]実際、文芸の著作物関係に適用されるとすれば、この点はまったく明らかになる。個別的に取り上げると、文芸の著作物を構成する語には著作物性がない。けれども、この事実をもって、文芸的本文、すなわち語の集合体が著作権保護を受けられないことにはならない。参照、Nimmer Section(s) 13.03 [F][5],at 13-145 n.345.1 (ハムレットの独白が、保護され得ない語にばらばらにできるという事実は、その独白が全体として著作権法上独創性を欠くことにはならないと説明する)。[*注8]

次に、Cannella裁判官の認定および判断は、訴訟開始後のプログラムにおける構造的な侵害の主張に十分に対応していない、という Softel の議論を取り上げよう。[*注9] Softelはその審理後の法律メモ(Post-Trial Memorandum of Law) において、その主張を次のように要約したことを指摘する。

原告は、著作権のあるプログラムを作るのに用いられた個々の要素が、それ自体別々に、抽象的に、著作物性があると主張していない。原告の主張は、要素のコンピュータ・コードにおける表れ方、およびその要素が相互に統合されたその仕方が、著作物性のあるものを構成するということである。
(原告の応答的審理後法律メモ(Pl's Responsive Post-Trial Mem. of Law) at 8-9 (控訴人控訴趣意書(Appellant's Br.) at 28ー29 に引用)。この同じ書面で Softel はまた、「原告の階層メニュー、タッチスクリーン、モジュール、外部ファイルおよび英語のコマンドを統合するオーサリング言語は、著作物性のあるオリジナルな表現である」と主張した。同上 at 12 n.4。最後に、 Cannella 裁判官は Softel の主張の彼の要約中に引用している審理メモの中で、--参照、 Softel U at C.L. Para(s) 28--Softelは次の陳述を行っている:
原告のプログラムの構造、シーケンス、および組織(structure, sequence and organization)の特質は、それがスクリーン上で情報を受け、集め、計算し、保持し、相関させ、作り出すその仕方である。 Softel のプログラムと同じ目的を達成するためにこれらの機能を実行するには、他の方法もあるのだから、原告の著作権のある著作物はアイディアの表現として保護され得るものであって、侵害されれば責任を問われずにはすまないものである。
(Pl's Trial Mem. at 38 (原文の強調表示および中の引用符省略)。[*注10]

Softelはこの理論を Fiondellaの証言および被告の専門家証人 Cain の反対尋問で確認した。 Fiondellaは次のように証言した。すなわち、彼のソフトウェアは外部ファイル、モジュール・プログラミング、および英語のコマンドを用いたこと、「これらの外部コマンド・ファイルの各コマンドは、プログラムによって翻訳され、あるモジュールの実行に変換される」こと。彼は「 Dragon のプログラムの中に同じ構造が発見されるであろう」と主張した。彼はまた Dragon のプログラムの中に用いられた特定のコマンドは、Softelのソフトウェアに用いられた 15 のコマンドと機能的に同一であると証言した。その上で彼は、メニューはコマンド・ファイルを呼び出すきっかけになると説明した。最後に、Dragonの専門家証人の反対尋問において Softel は、Softelのプログラムのようなプログラムをデザインする代替的方法があるかどうか、および Dragon の訴訟開始後のプログラムは Softel のものから「発展した」かどうかという問題を調べた。

このように Fiondellaは、争われている4つのデザイン要素全部の間の関係について証言した。すなわち、メニューは外部ファイルのきっかけとなり、そのファイルは主要プログラムに英語のコマンドを読み込み、そこでコマンドがコードのモジュールのきっかけとなったように見える。これらの主張は、それだけでは、 Softel と同じ機能をもつコンピュータ・プログラムをデザインするのに幾通りやり方があるかという質問に答える助けにはならないかもしれない。しかしながら、 Dragon の用いた特定のコマンドが、 Softel のコマンドとほとんど同一であるという主張を、それらの主張と結びつけると、それらの主張が、そのプログラムのデザインには僅かながら表現があり、 Dragon はその表現を侵害したという、少なくとももっともらしい主張を証明しているように見えることは確かである。すなわち、そのようなプログラムをデザインする方法が少なかったとしても、 Dragon が同一の構造を用い、 15 のコマンドのうち約 15 をコピーしなければならなかったであろうとは思われない。

Softelは、自分がコンピュータ・デザイン要素を結合したやり方が著作権法上表現的であったということ、および Dragon がその表現をコピーしたという主張を、若干の証拠で裏付けて、行った。著作権保護を受けるに必要な独創性のレベルは「最低」で「極めて低い」こと(Feist, 499 U.S. at 345)を念頭におくと、 Softel の主張は表面上取るに足りないとはいえない。しかしながら、 Canella裁判官の意見のいくつかの側面から、同裁判官が Softel の主張を無視したか、あるいは分析を誤ったかして、その結果、抽象化の最も高い段階で--本件では、確認された4つの要素間の相互関係--を Altai式に分析しなかったことは明らかである。

第一に、Softelの主張についての同裁判官の理解の記述から、同裁判官が Softel は、別々に取り上げられた各要素が表現的である、と主張しているだけだと理解したことが窺われる。 Callenna 裁判官はその事実認定の中で、 Softel の主張の彼の理解を次のように要約した:

原告は、[Fiondella のプログラミングに関する決定の一部]が彼の著作権のある著作物の構造、シーケンス、および組織を構成すること、および Dragon の訴訟開始後のプログラムはそれらの要素を含むから侵害的であると主張する。原告が著作権保護を受ける権利ありとする要素は、次のものの使用である。

(1) 外部ファイルの構造;

(2) 英語のコマンド;

(3) 機能的モジュール、これには特定的に、ハードウェアを操作するものが含まれる;  および、

(4) メニューの階層的構造、タッチスクリーンつき。

(SoftelU at F.F. Para(s) 107。)

同裁判官は、その法の結論の中で、 Softel の主張に関する彼の理解を述べたが、それは基本的に彼の前の記述と同一である。--同上を同上 at C.L. Para(s) 25と比較せよ。その上、同裁判官は、 Softel が Dragon にデザイン要素のいずれをも、結合の仕方いかんを問わず、使わせないことを求めていると繰り返し述べた。例えば、--参照 同上 at F.F. 107(「原告は… Dragon の訴訟開始後のプログラムが、これら[4つのデザイン]要素を含むから、侵害的であると主張する。」)、--同上 at C.L. Para(s) 29 (「Softelは単に、両プログラムはメニューを用いていると主張するにすぎない。」)。

第二に、同裁判所の事実認定と法の結論とは、各要素を個々的に取り上げるが、相互に関連して取り上げていない。例えば、同裁判所は、4つのデザイン要素それぞれの使用がコンピュータ業界では広く行われているという Dragon の専門家証人の証言を信用したが、--参照、同上 at F.F. Para(s) 108, 110, 111, 112、その4つの要素の選択および結合の仕方がありふれたものであるかどうかという問題を取り上げなかった。同様に、同裁判所は、訴訟開始後のプログラムに対して責任のある Dragon のプログラマーが、別のソースから外的ファイルの使用を覚えたこと、参照 同上 at F.F. Para(s) 109、および或るコードはスクリーン・タッチポイントが用いられる時は何時でも必要であることを認定したが、--参照、同上 at F.F. Para(s) 113、 Dragon のプログラマーが外部ファイルまたはタッチポイント・フィンガー・ファインディング・アルゴリズム(touchpoint finger-finding algorithms) を他のデザイン要素を結合することを何処で覚えたのかという問題を取り上げなかった。

第三に、同裁判所は次のように述べる。「原告が著作権保護の権利ありと主張する要素のそれぞれは、[Altai]事件の中で述べられた第2巡回区の分析の第2段階で濾過されたから、当裁判所が分析の第3部に進む必要はない。」同上 at C.L. Para(s) 33 。もしこの言葉で地方裁判所が、主張されているプログラム間の構造的類似性を分析する必要はない、何故なら侵害されたと主張されているプログラムの構造の構成要素のすべてが、個々的には保護され得ないと認定されるからだ、という意味であるならば、その言葉は上のAltaiおよびFeistの両事件の当裁判所の議論が明らかにするように、誤っている。他方、もし地方裁判所が、定型的情景はいずれにせよ保護され得ないのだから、それを比べる必要はないというだけのことを意味しているのならば、その言葉は誤ってはいない。しかしそれは地方裁判所が、 Softel は4つのデザイン要素が別々に保護され得ると主張しているだけだ、と理解したという証拠をさらに提供するのである。

なるほど同裁判所は、 Dragon のプログラムが Softel のプログラムから「発展した」、という Softel の主張を取り上げて、デザイン要素の結合という争点に取り組んでいるように見える2つの陳述を行った。第一に、同裁判所は次のように述べた。すなわち、「訴訟開始後のプログラムは次の点で[Softelのプログラム]とは重大な違いがある。(1) コード、(2) コマンド・セットとコマンドの処理(command sets and processing of commands)、(3) 内部ファイルの構造、(4) ファイルの処理、(5) コマンド・ファイルの相互作用構造(interaction structure)、および(6) コードのモジュールの組織と関係。」同上 at F.F. Para(s) 114。第二に、同裁判所は訴訟開始後のプログラムは、「いかなる方法においても、原告の著作権のある著作物から派生したものではない」と述べた。同上 at F.F. Para(s) 115 。しかしながら、このような陳述は、地方裁判所が Softel の主張を無視、または分析を誤ったという結論を変えるものではない。 Altai式比較分析を行わないという地方裁判所の宣言から、参照、前出、次のことが極めて怪しくなる。すなわち、同裁判所が前者の陳述を行った時、個々的には保護され得ないコマンドまたはコード・モジュールの Softel の選択と配列を比較したか、ということ、または後者の陳述を行った時、保護され得ない要素から成る構造を真似ることは「派生」であると考えたか、ということである。

地方裁判所が Softel の主張を無視しようと、その分析を誤ろうと、同裁判所によるその主張の扱い方は不十分であった。何故ならデザイン要素間の相互関係に Altai事件の基準を適用しなかったからである。それ故当裁判所は、 Dragon の訴訟開始後のプログラム中にノンリテラルの侵害あり、とする Softel の主張に関する地方裁判所の判決を破棄し、差戻して、 Softel がそのソフトウェアにさまざまのデザイン要素を結合した仕方が、保護され得る表現であったかどうかについて、そしてもしそうであれば、 Dragon がその表現を侵害したかどうかについて、地方裁判所に事実認定を行わせるようにする。Softelの主張の当否については、当裁判所は意見を表明しない。

C. 営業秘密

1. 準拠法の選択

本件は少なくとも3つの州と接触があって、--すなわち、 Softel はニュー・ハンプシャー州法人、 Dragon はニュー・ジャージー州法人、営業秘密の盗用はニュー・ヨークにある Dragon の事務所で起こったようであるから--当裁判所はしばし準拠州法を当事者の考えで見てみよう。どちらの当事者も、どの法が本件に適用されるべきかという問題を直接問うてはいない。 Dragon はその趣意書の中で、ニュー・ヨーク州判例とニュー・ヨーク法を解釈している連邦の判例を引用している。これに反し Softel は、全国から判例を引用している。

Softelの営業秘密の主張は州法の支配を受ける。--参照、 Franke v. Wiltschek, 209 F.2d 493, 494 (2d Cir. 1953) 。準拠州法を選ぶに当たって、当裁判所は法廷州、本件ではニュー・ヨーク、の準拠法選択規則を用いる。--参照、 Wm. Passalacqua Builders, Inc. v. Resnick Developers S., Inc., 933 F.2d 131, 137 (2d Cir.1991)(Krauss v. Manhattan Life Ins. Co., 643 F.2d 98, 100 (2d Cir. 1981) を引用)--次も参照、Klaxon Co. v. Stentor Elec. Mfg. Co., 313 U.S. 487, 496ー97 (1941)。ニューヨーク州は準拠法選択に「利益分析」を適用する。その下では、訴訟における最大の利益を有する法域の法が支配する。--参照、Passalacqua Builders, 933 F.2d at 137 (Intercontinental Planning, Ltd. v. Daystrom, Inc., 24 N.Y.2d 372, 382, 248 N.E. 2d 576, 582, 300 N.Y.S.2d 817, 825 (1969)を引用)。 Dragon も Softel も両方とも、州外法人であるけれども、ニュー・ヨーク州裁判所は次の理由によって、本件にニュー・ヨーク州法を適用するであろうと当裁判所は確信する。(1) 被告はニュー・ヨークに事務所を持つこと、(2) 原告はニュー・ヨークにアパートと事実上の事務所を持つこと、および(3) 不正使用は、もしあるとすれば、ニュー・ヨークの Dragon の事務所で発生したらしいこと。--比較、Cousins v. Instrument Flyers, Inc., 44 N.Y.2d 698, 699, 376 N.E.2d 914, 915, 405 N.Y.S. 2d 441, 442 (1978)(匿名意見)(「不法行為地法は、不法行為事件においては原則であるが、特別な事情があれば他に変えられる」ことは確かである)。

2. ニュー・ヨーク州営業秘密実体法

ニュー・ヨーク州は一般に、営業秘密の定義を不法行為の第一リステイトメント 757条に求める。--参照、Ashland Management Inc. v. Janien, 82 N.Y.2d 395, 407, 624 N.E.2d 1007, 1012, 604 N.Y.S.2d 912, 917 (1993); Delta Filter Corp. v. Morin, 108 A.D. 2d 991, 992, 485 N.Y.S.2d 143, 144( 3d Dep´t 1985) (匿名意見);--参照、例えば、Eagle Comtronics, Inc. v. Pico, Inc., 89 A.D.2d 803,453 N.Y.S.2d 470(4th Dep't 1982) 。この定義によれば、営業秘密とは「人の事業に用いられる情報で、それを知らず、または用いない競争者に対して優位を占める機会を与えるものの、公式、様式、仕組み、または編集物である。」(Restatement of Torts Section(s) 757 comment b.at 5 (1939)(Ashland 事件に引用、82 N.Y.2d at 407, 624 N.E.2d at 1013, 604 N.Y.S.2d at 918)。)「それは事業の運営における1個だけの、または長続きしない出来事に関する情報だけではない」。むしろ、それは「事業活動に継続的に用いらるべき過程または仕組みである」。同上。ニュー・ヨーク州はコンピュータ・プログラムが営業秘密であり得ることを認めた。--参照、Integrated Cash Management Serv., Inc. v. Digital Transactions, Inc., 732 F.Supp. 370, 375 (S.D.N.Y.1989) (以下「Integrated Cash Mngt.I」),aff'd, 920 F.2d 171 (2d Cir.1990)(以下「Integrated Cash Mngt. U」);Belth v. Insurance Dep't, 95 Misc.2d 18, 406 N.Y.S.2d 649(Sup. Ct.1977)。

地方裁判所は、画像検索ルーチンは保護され得る営業秘密であり、 Dragon は開示後、不適正な手段でこれらの秘密を使用したと認定した。SoftelU at C.L. Para(s) 43-44。しかしながら同裁判所は、 Softel のコードの構造、シーケンス、および組織は、2つの理由によって保護され得る営業秘密ではないと認定した。(1) Fiondellaは Darsee と、メニュー、英語のコマンド、機能的モジュール、および外的ファイルの使用を自由に議論したこと。--同上 at C.L.Para(s)42 、および(2) 「証拠は、これらの要素が新規でもオリジナルでもないことを立証した。」こと。--同上。(Ferber v. Sterndent Corp., 51 N.Y.2d 782, 783-84, 412 N.E.2d 1311, 1312, 433 N.Y.S.2d 85,86 (1980) を引用)。

これらの認定は、 Softel のコードのシーケンスおよび組織、すなわち、様々なデザイン要素の組合せ方が、保護され得る営業秘密であるという Softel の主張に対応するものではない。Fiondella が Darsee に、自分のコードは4つのデザイン要素を含んでいると述べたことは、この組合せの仕方を開示したことにはならない。比較、Integrated Cash Mngt. U, 920 F.2d at 174 (ニュー・ヨーク州法下の1事件において、コンピュータ・プログラムの「ユーザー本位の記述」が営業秘密の開示とはならないと述べる)。

Fiondella は特定のやり方も開示したかもしれないが、地方裁判所の認定はこの点を明確にしていない。同様に、4つのデザイン要素が新規でもオリジナルでもないという同裁判所の判断は、この要素の組合せが営業秘密であるという Softel の主張に対応するものではない。--参照、同上(公有に属する要素の組合せでも営業秘密であり得ると述べる);(SmokEnders, Inc.v. Smoke Watchers Int'l, Inc., 179 U.S.P.Q. 111, 112 (N.Y.Sup.Ct. 1973)(同)。)それ故、同裁判所の認定はいずれも Softel の主張に応じてはいないので、差戻しを要する。

当裁判所はまた、地方裁判所に「新規性」という用語の使用について注意を促す。リステートメントのアプローチでは、新規性--少なくともその用語の特許法上の使い方では--は営業秘密には必要でない。--参照、Restatement of TOrts Section(s) 757 cmt. b, at 6-7 (「新規性と発明は特許可能性には必要であるが、営業秘密には必要ではない。」)地方裁判所は「新規性」という用語を、一連のニュー・ヨーク州判例でおそらく「アイディアの提出(submission of ideas)」事件として最もよく知られているものの中で用いられたと同じように用いたのかもしれない。[注*11] これらの事件およびその新規性の要件は、最近ニュー・ヨーク州最高裁判所によって Apfel v. Prudential-Bache Securities, Inc., 81 N.Y.2d 470, 616 N.E.2d 1095, 600 N.Y.S.2d 433(1993) 事件において説明された。その事件で同裁判所が取り上げた事実関係では、売主が買主にアイディアを提出し、買主はそのアイディアを用いたが、それに対する支払いをしなかった。同裁判所は、そのような事件において生ずる問題を以下のように分析した。

[アイディアの提出事件]は、裁判所に2つの問題を提起する。一方では、売主は、買主がそのアイディアを、そのほかのどこからでもなく、売主から得たこと、だから買主がそれを使ったことは財産の不正使用を構成することを、どのようにして証明できるのか?…他方、本当は開示の結果、買主がすでにそのアイディアを持っていたことが分かったのに、表見上有効な契約を強行することは公平ではない。…新規性の、少なくとも買主に関する新規性の証明は、この2つの問題に関する。そうすれば、新規性は財産権に基づく請求に必要な所有権の特性と、契約に基づく請求に必要な対価--すなわち、開示--の価値との双方を証明するのに役立ち得る。 (Apfel, 81 N.Y.2d at 478, 616 N.E.2d at 1098, 600 N.Y.S.2d at 436。)
この引用文(特に「少なくとも買主に関する新規性」とのコメント)は、「新規性」という用語がこの一連の判例においては、特許法におけるのとは非常に異なり、はるかに弱い意味に用いられていることの例証になる。比較、35 U.S.C. Section(s) 102(特許法上の新規性を定義する)。差戻されても、 Softel はその様々なデザイン要素の組合せ方が特許法の意味で新規であることを証明する必要はない。

3. 損害賠償額の正しい算定法

地方裁判所は、 Softel の営業秘密に関する損害賠償額の算定を Dragon の利潤を基礎とした。( Softel V at C.L.Para(s) 9-16。)これはニューヨーク州法下では、適正な損害賠償額の算定法であった。--参照、例えば David Fox & Sons, Inc. v. King Poultry Co., 23 N.Y.2d 914, 246 N.E.2d 166, 298 N.Y.S.2d 314 (1969)。その上で同裁判所は、この損害賠償は著作権侵害に対してすでに受けた損害賠償と同一範囲に属し、従ってそれは二重の賠償に当たるから、 Softel は営業秘密の損害賠償は受けられないと認定した。(Softel V at C.L. 17 (Altai,982 F.2d at 720を引用)。)

この控訴審において, Softel はこの結果を2つの方法で避けようとする。第一に、Softelは逸失利益よりもむしろその営業秘密に対する「合理的ロイヤルティー」を与えられるべきであったと主張する。Softelはそのロイヤルティーを計算して、開発費の 3.5倍から 5.5倍とする(基本的に利益を見積り)。あるいはSoftelは、ソース・コードのライセンスに対して請求したであろう金額を与えられるべきである、何故なら Dragon はオブジェクト・コードばかりでなく、ソースーコードも取ったからである、と主張する。その上で、要するにそのようなライセンスを売ることは、「店を売る」ようなものであったであろう、何故なら Dragon は Softel の会社の「核心のテクノロジー」を取ったからだ、と Softel は主張する。故に、 Dragon がそのコードを盗むことによって与えた可能的損害全部の賠償がなされるべきだと Softel は主張する。この主張をするに当たってSoftelが指摘する University Computing Co., v. Lykes-Youngstown Corp., 504 F.2d 518 (5th Cir.1974)は、「原告の開発費、および原告の事業にとってのその秘密の重要性を含む、原告にとっての営業秘密の全価値」を列挙するが、それらは営業秘密の損害賠償額の算定法として、仮定的ライセンスの計算を行う場合に考慮されるべき(いくつかのうちの)1要因としている。--参照、同上 at 539 。

この議論には欠陥がある。 University Computing 事件そのものが Softel の提出する損害賠償額の算定法を退けている。同事件は、その算定法が普通適当なのは、被告がその秘密の価値を失わせた場合に限る、と述べているからである。参照、同上 at 535 。本件において Dragon は、 Softel の秘密を公開しなかったから、 Dragon 自身がそれを用いた程度以外には、 Softel にとってその価値を失わせてはいない。

営業秘密の損害賠償額の算定に対する Softel の第二の異議は、その営業秘密の請求は秘密という追加的要素を含む点で、著作権の請求と異なるという事実に注意を促すのである。その追加物がなければ、この主張は争点に関係がない。すなわち、責任の要素はそれだけでは損害賠償を発生させない。

当裁判所は最近「控訴裁判所が事実審裁判所の事実認定に払うべき敬意は、法原則として確立しているけれども、この原則が損害賠償の分野における程寛大に適用されている分野は少ない」と述べた。(Vermont Microsystems, Inc. v. Autodesk, Inc., 88 F.3d 142, 151(2d Cir.1996)(引用省略)。)この敬意を払うこと、および Softel が地方裁判所の営業秘密の損害賠償額の算定を誤ったことを証明しなかった事実によって、当裁判所は地方裁判所の算定を支持する。但し、それは上記 Section U (C)(2) の営業秘密請求の限定的差戻しによって影響を受ける限度とする。

D.リバース・パーミング・オフ

事実審において Softel はまた、 Dragon の行為は Lanham法43(a)条、15 U.S.C. Section(s) 1125(a)に違反すると主張した。Softelは、 Dragon が「リバース・パーミング・オフ」を行った、何故なら Dragon は次の行為をした時に Softel の名をあげなかったからであると主張する。すなわち、国際インタラクティブ・コミューニケーション協会(International Interactive Communication Society)( 以下「 IICS 」)の会合でSoftelのルーチンを組み込んだプログラムのデモンストレーションを行ったこと、Kurta Corporation に書簡を送り、 Softel のコードを含むいくつかのプログラムの協同販売の取決めを求めたこと、および社内に Dragon Expert Systemsと称する部を発足させ、インタラクティブ・プログラムの作成ができるものとして売り込んだこと、である。

地方裁判所はこれらの請求を退けた。--参照、Softel U at C.L. Para(s) 35-40。同裁判所は、 IICS 会議でデモンストレーションの行われたプログラムの基礎となっているコードは Fiondellaが書いたものではない、それとも、もし書いたとしても、このコードへの彼の寄与分は小さい、と認定した。--参照、同上 at C.L. Para(s) 37-38 & n.3。同裁判所はまた、 Dragon の書き送った書簡は「単に Dragon が、現在インタラクティブ・コンピュータ・プログラムを制作する能力があるといっているにすぎない。書簡は Dragon が、そのようなプログラムを書く能力をどのようにして得たのかについて、何等の主張もしていない」と認定した。(同上 at C.L. Para(s) 40 。)

当裁判所は、Lanham法下でリバース・パーミング・オフを主張する原告は、次のことを証明しなければならない、と述べた。(1) 争われている著作物は原告に出所があること、(2) 著作物の出所が被告によって虚偽の表示をされたこと、(3) 出所の虚偽の表示が消費者の混乱を生ずるおそれがあったこと、(4) 原告は被告による出所の虚偽の表示によって損害を受けたこと。」(Lipton v. Nature Co., 71 F.3d 464, 473 (2d Cir.1995)(Waldman Publ'g Corp. v. Landoll, Inc., 43 F.3d 775, 781-85 (2d Cir.1994) を引用)。)当裁判所はまた、原告は「被告が被告の製品の本来的性質または特徴の不実表示をしたことを証明しなければならない」と述べた。(National Ass´n of Pharm. Mfrs. v. Ayerst Lab., 850 F.2d 904, 917 (2d Cir.1988)(内部引用符省略)。)

当裁判所は裁判記録を審査し、たとえ Dragon が IICS 会議で展示したプログラムはFiondellaの画像検索ルーチンを実際に用いたとしても、これらのルーチンは43(a) 条にいうプログラムの「本来的性質または特徴」を形成するものではない、という地方裁判所の認定を支持するに足るだけの証拠をそこに見出だすのである。Softelはこの証拠を争う。Softelは、裁判所が同会議で実際に展示されたプログラムを調べたことはない、何故ならSoftelの主張によれば、開示に当たって Dragon の提出したバージョンは、会議で展示されたものとは異なるからである、と主張する。Softelはこの同じ異議を事実審理の際に申し立て、地方裁判所はそのプログラムを受け取ったが、それにつけられた条件は、被告がそれをその会議の時展示したプログラムに結合すべし、ということであった。しかし、この控訴審において Softel は、結合を条件に証拠を受け取ることが正当ではないとも、そのプログラムが実際にはその後結合されなかったとも主張していない。故に、Softelは地方裁判所が調べたプログラムのバージョンに対する異議を放棄したことになる。同裁判所の認定は明瞭な誤りではない。よって当裁判所はそれを支持する。

当裁判所はまた、 Dragon Expert Systemsに関する Dragon の書簡は 43(a)条に違反しない、何故ならそれは単にあるプログラムを作る現在の能力を主張したにすぎないからである、という地方裁判所の認定を支持する。--参照、 Softel U at C.L. Para(s)39-40 。「出所の虚偽の表示」はない。(Lipton, 71 F.3d at 473。)当裁判所は「法律問題として、虚偽の著作権表示だけでは Lanham 法 43(a)条にいう出所の虚偽の表示を構成し得ない」と述べた。(EFS Mktg.,Inc. v. Russ Berrie & Co., 76 F.3d 487, 492 (2d Cir. 1996)(Lipton, 71 F.3d at 473を引用);)--次も参照、 Kregos v. Associated Press, 937 F.2d 700, 711 (2d Cir.1991) 。「著作権記号(symbol)の単なる使用以上に、出所性の何らかの不実表示追加の要件なしには、[原告は]一切の不当な著作権の主張を Lanham 法違反に変えることはできないであろう。(EFS, 76 F.3d at 492(Lipton, 71 F.3d at 473; Kregos, 937 F.2d at 711 を引用)。)本件においては、著作権記号の人を誤らせるような用法さえなかった。故に、 Softel は「出所性の不実表示追加」を証明しなかった。

E. Dragonの社長の共同責任

事実審理の時に、 Softel は Dragon の社長、Hodge が著作権侵害に共同責任があると証明しようとした。Dragonは、Softelの原告側立証の終りに、証拠不十分の理由によりHodgeに対する請求の棄却を申し立てた。地方裁判所は、 Softel が寄与的または代位的責任を主張するのに十分な証拠を提出しなかったという理由によって、この申立を認めた。

地方裁判所は、Hodge に対する Softel の請求を、連邦民事訴訟規則 50(a)条の指図評決基準に従って棄却すると述べた。しかしながら、規則 50(a)条は陪審審理における棄却に関するが、本件は非陪審審理であった。1991年4月の本件審理の時に、「事実と法に基づき、原告は救済を受けるいかなる権利も証明しなかったという理由による」非陪審審理の棄却は、連邦民事訴訟規則 41(b)条によって処理された。 (9 Charles Alan Wright & Arthur R. Miller, Federal Practice and Procedure Section(s)2371 (1995)。)この規則の実体的規定は、Fed. Section(s) 2573.1, at 493 n.1に移された(修正 1991 年12月1日発効)。

Softelは、事実審裁判所をその言葉通りに解すべきであって、当裁判所は同裁判所によるこの請求の棄却を、当時の規則 50(a)条の基準、すなわち、 Softel に有利なあらゆる推測を引き出し、あらゆる信用性の評価を行って、 Softel が評決を支持するに足る証拠を提出したかどうか、という基準によって審理しなければならない、と論ずる。 Dragon の主張では、当裁判所はこの方法で事実審裁判所を審査すべきではない、何故なら非陪審審理において、裁判所は証拠を自分で評価する権限を有し、おそらく本件でもそうしたであろうからである。地方裁判所は何らの事実認定も行わず、Hodge に対する訴えを棄却するのに、提出された証拠をどのように見ても Softel は賠償を受けられない、と法律問題として判断した、という Softel の意見に当裁判所は同意する。

しかしながら、このことは Softel に役立たない。何故なら当裁判所は、 Softel に有利なあらゆる推測をしても、 Softel は原告側立証の終りに Hodgeに対するその請求を支持するに足る証拠を提出しなかった、という地方裁判所の意見にも賛成するからである。故に、事実認定は必要ではなかった。実際、事実認定をしても、無駄な知力の行使になったであろう。寄与的侵害を証明するには、 Softel はHodge が「[侵害的]使用を許した」ことを証明しなければならなかった。(Sony Corp. v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417, 437 (1984)。) Softel は、地方裁判所の決定前にそのような証拠を摘示していないし、控訴審でもそのような証拠を提出していない。代位的責任を証明するには、Softelは、Hodge が「著作権のある資料の不当利用に、明らかで直接的な経済的利害と癒着した監督の権利および能力」を有していたことを、証明しなければならなかった。(Shapiro, Bernstein & Co. v. H.L. Green Co., 316 F.2d 304, 307 (2d Cir. 1963)。)Softelが、Hodge の監督能力および経済的利害の問題に関する地方裁判所の決定前に提出した証拠は、Hodge が Dragon の社長であり株主であるということだけであった。[*注12]この証拠では、著作権のある資料の不当利用に対する十分に「直接的」経済的利害を証明するにはあまりにも稀薄である。--比較、同上 at 308 (被控訴人は代位的責任を有する、何故なら侵害的資料の売上げの10% 〜 12%を受け取るなどしたからである)。

故に、地方裁判所が被告Hodge に対する請求を棄却したことは正しい。

III. 結論

ノンリテラルな侵害および営業秘密不正使用の Softel の請求の地方裁判所による棄却は、破棄、差戻し、本意見に反しないように更に審理すべきである。その他の点については、地方裁判所の決定は支持される。



[*注1] 地方裁判所がその事実認定(以下「F.F.」)と法の結論(以下「C.L.」)に番号を付した場合には、当裁判所はその番号を付した認定と法の結論を引用する。

[*注2] 「ペイント・アンド・ドロウ」プログラムは、コンピュータ・ユーザーがコンピュータ・スクリーン上にグラフィック画像を作ることを可能にする。--参照、Softel U at F.F. Para(s) 13。

[*注3] ソース・コードとは、COBOL, BASICまたはFORTRAN のようなコンピュータ言語で書かれた一連の命令である。--参照、Computer Assocs. Int'l, Inc. v. Altai, Inc., 982 F.2d 693, 698 (2d Cir. 1992)。

[*注4] 「実行形式プログラム」とは、現実にコンピュータ上で作動(run)するプログラムのバージョンである。--参照、 Softel U at F.F. Para(s) 11 。それはオブジェクト・コードの連接(linked) モジュールを含む。参照、同上。「オブジェクト・コード」はソース・コードの機械可読の二進法翻訳である。--参照、Altai, 982 F.2d at 698 .「コンパイラー(compiler)」プログラムがソース・コードをオブジェクト・コードに翻訳する。参照、同上。

[*注5] 「モジュール」または「サブルーチン(subroutines)」は「サブタスク(subtasks) 」を行なうプログラムの別々の部分である。--参照、Altai, 982 F.2d at 697。

[*注6] Fiondella はまた、審理の際原告側専門家証言を提出した。

[*注7] A. A. Hoehling v. Universal City Studios, Inc., 618 F.2d 972 (2d Cir. 1980)事件における「事実の提示の順序の著作権、また実際その選択の著作権などは有り得ない」という当裁判所の陳述は、(同上、at 978( Myers v. Mail & Express Co., 36 C.O. Bull. 478, 479 (S.D.N.Y. 1919)( L. Hand裁判官)を引用))一見これと矛盾するように見えるかもしれない。しかし当裁判所は、この言葉が独創性の構成上の最小限を表わさない、事実の編集物だけに関するものとして説明した。--参照、Arica Inst., Inc. v. Palmer, 970 F.2d 1067, 1075 (2d Cir. 1992)。

[*注8] 当裁判所はまた、保護され得ない要素の中にも保護され得る表現があり得ることを認める。当裁判所での定型的情景事件は、長年に亘りこの点を明らかにした。例えば、Walker v. Time Life Films, Inc., 784 F.2d 44(2d Cir.1986) 事件において、定型的情景は保護されない、但し定型的情景に独自の--従って保護され得る--表現が、オリジナルな創作物の中で与えられる限度においては、除かれる」と当裁判所は述べた。(同上、at 50 。)同様に、Hoehling事件においても当裁判所は次のように述べた。

まず一方で、主題、事実、および定型的情景と、他方では著作物性のある表現を区別するに当たって、諸裁判所が木を見て森を見ないこともあることは、当裁判所は知っている。著作物性のない要素に基づく類似性を分解して除去することによって、裁判所は前の著作者の表現の一まとめの剽窃を見逃す危険を冒すのである。他人の著作物の逐語的複製は、もちろん、ノンフィクションの領域においてさえ、著作権侵害として訴えられ得る。
618 F.2d at 979-80。

[*注9] Softelはその控訴趣意書のなかで、「地方裁判所はプログラムの構造を見分けることはなかった」とか「[裁判所は]原告のコンピュータ・プログラムのコードを調べることもしなかったし、また原告のルーチンまたはサブルーチンの目的と機能またはそのプログラムの構造を理解しようともしなかった」というような陳述をしている。もしこれらの陳述によってSoftelが、地方裁判所は自発的に Softel の証拠を自分で調べなければならなかった、と論じようというのであれば、Softelはこのような手続における裁判所の役割を誤解している。Altai 事件は、コンピュータ・プログラムにおけるノンリテラルな類似性の主張を伴う事件における、適正に提出された証拠に適用さるべき適正な著作権分析を明らかにしている。同事件は、そのような証拠を提出するに当たって、裁判所に新しい役割を命じてはいなかった。Altai 事件におけるノンリテラル侵害請求を分析するに当たっての裁判所の役割に関する当裁判所の所説は、(たとえば、「裁判所はまず、侵害されたと主張されるプログラムを、その構成する構造部分に分解[すべきである]。」Altai, 982 F.2d at 706(強勢追加)、または「理論面では、リバース・エンジニアリングに似た方法で、裁判所はコピーされたと主張されるプログラムの構造を分解し、その中に含まれている各抽象化段階を分離すべきである」、同上 at 707(強勢追加))は、当事者によって裁判所に適正に提出された証拠を分析するために、裁判所は何をなすべきかに関して述べたものにすぎないと解されるべきである。参照、MiTek Holdings, Inc. v. ARCE Eng'g Co., 89 F.3d 1548, 1555 (11th Cir. 1996)(「著作権者が裁判所に、自分が保護され得るものと信ずる特徴を列挙して提出した場合、(すなわち、オリジナルで著作権法 102(b)条 (17 U.S.C. Section(s) 102(b)) の範囲外)、裁判所はそのような特徴を更に抽象化する必要はない。」)それ故、当裁判所は Cannella 裁判官が行ったSoftelの請求の分析は不十分であったという Softel の主張を、 Softel が適正に同裁判官に提出した証拠の、同裁判官による分析を指すだけであると解する。

[*注10] Dragon は、 Softel の請求をデザイン要素の選択と組合せ方が保護され得る表現であるという主張を含むと解しているらしいと窺われるが、それも興味深い。Dragonは、「これらの要素の各々は、一つ一つであろうと、まとめてであろうと、実質的類似性の調査から濾過されて出てこなければならない。何故なら、それらはすべて法律問題として保護され得ないからである」と主張した。(被告の審理後の覚書き(Def.'s Post−Trial Mem.) at 45( 強勢追加、引用省略)。)

[*注11] 当裁判所は、ニュー・ヨーク州法は営業秘密請求訴訟において「新規性」のこれと同じ証明を必要とすると、判断した。--参照、Hudson Hotels Corp. v. Choice Hotels Int'l, 995 F.2d 1173, 1178 (2d Cir.1993)。
                         
[*注12] Softelは、Dragonには従業員5名しかいないと主張する。これは5人会社の社長は、代位的責任を証明するのに必要な支配力と金銭的利害を有する説の根拠としていったのであろう。この事実を裏付けるために Softel は、この控訴審で付録中の書面2つを引用する。第一に、Softelは Softel Uにおける Cannella 裁判官の実認定を引用する。しかしこの認定では Dragon の就業員の数は考慮されていない。第二に、SoftelはDragonの給料支払報告書を引用するが、それは実際に従業員5名だけを示すように見える。Softelは、この給料支払報告書が本件で問題の決定の4年以上前、別の裁判官の面前へ、審理の損害賠償の段階になって、証拠として提出されたものであることを告げることを怠っている。従って、当裁判所はそれを考慮に入れない。