仮差止命令を求める原告の申立、第8訴訟原因の棄却を求める被告の申立(
注 3) 、および第11および第12訴訟原因の棄却を求める被告の申立の審理は、1998年6月8日行われた。
以下に論ずる理由によって、仮差止命令を求める原告の申立を認め、第8訴訟原因の棄却を求める被告の申立を、修正の許可を与えることなく認め、第11および第12訴訟原因の棄却を求める被告の申立を、修正の許可を与えて、認める。
McAfee の行ったと主張される行為に基づき、Symantec は1997年4月23日当裁判所に出訴した。Symantecの 現行第3次修正訴状は、以下の McAfee に対する訴訟原因 14 を挙げる。著作権侵害(第1から第6訴訟原因)、営業秘密の不正使用(第7および第9訴訟原因)、不正競争(第8および第10訴訟原因)、事業への犯罪組織等の浸透の取締に関する法律 (Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act)(以下「RICO」)違反および違反の共謀(第11および第12訴訟原因)、将来の経済的優位への干渉(第13訴訟原因)、および契約関係への干渉(第14訴訟原因)。第3次修正訴状は、金銭賠償および差止め救済を求める。
以上に加えて Symantec は、仮差止命令を求める申立を提出し、 McAfee による Symantec の顧客販売情報の流布または使用の差止めを求め、 McAfee が他者に流布した顧客販売情報の McAfee による回収を要求しようとした。(注 5)。 McAfee は秘密の顧客販売情報について不正を働いたことを否認している。従って、 McAfee は Symantec の申立に反対していない。しかしながら、 McAfee の反対しないことの陳述では、 Symantecが要求する差止命令による救済よりももっと狭いものを条件とする。
McAfee は Symantec の不正競争の訴訟原因(第8訴訟原因)、 RICO 法違反の訴訟原因(第11訴訟原因)、および
RICO 法違反共謀の訴訟原因(第12訴訟原因)を、請求原因不充足を理由として棄却の申立をした。
Symantec はこれらの申立に反対する。
Symantec はまた、 McAfee のセ−ルスマンの1人、Mr.Frank Pinelloの証言録取書の証言を提出する。Mr.Pinelloは1997年4月、もう1人の McAfee セ−ルスマンからe- メ−ルを受取ったが、それには Symantec の顧客販売情報を内容とする添付物が付けられていた、と述べる。参照、Francis Pinello の証言録取書 p.77 。Mr. Pinello は、その顧客販売情報を McAfee のニュ−・ジャ−ジ−州販売部に送った、と言う。参照、同上。さらに Mr. Pinelloは、その顧客販売情報が最近「削除抹消機能(delete and scrub utilities) 」を用いて McAfee のセ−ルスマンのコンピュ−タから消去された、と述べている。参照、同上、pp.84-85。 Symantec は、 McAfee の「抹消」行為が不正使用の証拠湮滅を構成すると主張し、証拠湮滅に対する請求を追加するため、第4次修正訴状を申請するつもりである、と述べる。(注 7)。
McAfee は自らの行為に関する Symantec の表現方法を争い、特定的に証拠湮滅を否定する。ことに
McAfee は、争われている顧客情報は、その情報が営業秘密を構成するという Symantec
の主張に応えて、セ−ルスマンのコンピュ−タから消去されたこと、およびその消去された情報すべてのコピ−が作られたことを主張する。しかしながら、顧客情報に関するこれ以上の争いを避けるために、
McAfee は仮差止命令の発布に同意する。
上記に照らして、 Symantec は顧客販売情報の不正使用に基づく、 Symantec
の営業秘密の請求の、本案に達する重大な問題を提起する証拠(注
8)を提出し、仮差止命令の発布は McAfee に困難を課すものではないようである。しかしながら当裁判所は、
McAfee の反対しないという陳述が、差止命令の範囲を Symantec の求めるものよりも狭くすることを
求める、と認める。 Symantec の求める差止命令の内容は、
(e) 裁判所の決定の送達後30日以内に、 McAfee が裁判所の決定に従った方法および形式を詳細に述べた宣誓報告書を裁判所に提出し、かつ Symantec に送達することを命ずること。
その顧客情報は McAfee のセ−ルスマン以外の者に流布されなかったという McAfee の主張通りであれば、 McAfee に自分のセ−ルスマンと「その他すべての者」の両者からその情報を McAfee が回収すべしという要件を課しても、困難を課すことにならないはずである。その上、 McAfee が顧客情報の「無断使用」を禁ずる条件に同意していることに 照らして見れば、 McAfee に訴訟の決着が着くまで顧客情報を Symantec に引渡せ、と命令すべきではないという理由はないように見える。従って、 Symantec の仮差止命令を求める申立は認め、同仮差止命令の形式は Symantec の提案通りとする。
McAfee は、この訴訟原因は請求原因を十分に述べていない、何故なら(a) その請求は連邦著作権法によって専占されている、(b) 不正競争の請求は、ライセンス契約の違反だけを根拠とすることはできない、からであると主張する。
当裁判所は、 Symantec の第8訴訟原因が連邦著作権法によって専占されている、と結論する。
連邦著作権法 301条は、次のように規定する:
上記基準を Symantec の第3次修正訴状中の主張に適用すると、 Symantec の不正競争の請求は専占されているようである。争われている著作物は、 Symantec の CrassGuard ソフトウェアで、著作権のあるコンピュタ・プログラムであって、明らかに「著作権の目的物」に入る。参照、Johnson controls, Inc. v. Phoenix Control Systems, Inc., 886F.2d 1173, 1175 (9th Cir.1989)(コンピュ−タ・ソフトウェアは著作権保護を受けると判示)。争われている行為は、CrassGuardプログラムのリバ−ス・エンジニアリングで、それに含まれているコ−ドを、競合製品にコピ−することを目的とするものと主張される McAfee の行為である。この行為、すなわち、保護されている資料を複製、頒布することは、まさに著作権法の範囲内に属する。
Symantec は、その請求はそれを単なる著作権侵害訴訟以上のものにする追加的質的要素を含む、と主張する。これらの追加的要素の例として Symantec は、CrassGuardコ−ドの一部を McAfee 製品にコピ−した McAfee の従業員が、まず「CrassGuardを入手し、そのライセンス契約の条項に同意し、その上でライセンス契約に違反した」と主張する。参照、 McAfee の棄却を求める申立に反対する、 Symantec の問題点および典拠の覚書 p.8。Symantec はまた、CrassGuardソフトウェアのリバ−ス・エンジニアリングはそれ自体として、その著作権を侵害しなかったと主張して、それ故そのリバ−ス・エンジニアリングが追加的要素を構成すると主張する。
当裁判所は、ライセンス契約が存在したこと、および McAfee の従業員がそれを知っていたこととが、ともかくその従業員の行為の性格を著作権侵害行為からそれ以上にものに変えた、と Symantec が主張しているものと解する。 Symantec はまた、 McAfee が保護されているコ−ドを入手したと主張される、その特定の方法、すなわち、リバ−ス・エンジニアリングは、特定的に著作権法には挙げられていないために、 McAfee の従業員は単なる著作権侵害以上の何かを行った、主張していると見受けられる。しかしながら、Symantec の指摘する行為は、他の裁判所が追加的要素基準を満たすに十分であると認定した、例えば、受託者の義務違反または契約妨害のようなタイプの行為を構成しない。参照、Summit Mach. Tools Mfg. Corp., 7 F.3d at 1441-42。 Symantec は、 Symantec が述べているような行為が、本来は著作権侵害の請求であるものへの、追加的要素を加えるに十分であると示している判例を引用していないし、当裁判所も発見していない。当裁判所は、主張されている行為が、侵害の請求をそれ以上のものに変換するに足るものであるとすれば、そのような判例を見ることは予期できるであろう。何故なら、ほとんどすべてのコンピュ−タ・プログラムはライセンス契約の適用を受け、リバ−ス・エンジニアリングは保護されているコ−ドを取得する普通の方法だからである。従って当裁判所は、Symantec による不正競争の請求は、連邦著作権法によって専占されているという理由によって、修正の許可を与えることなく、棄却されるべきであると認める。(注 10)。
民事RICO訴訟を成立させるために原告は、(1) 行為、(2) 企業、(3) パタ−ン、(4) 恐喝的行為、を主張しなければならない。参照、18 U.S.C. §1962(c); Sedima, S.P.R.L.v. Imrex Co., Inc., 473 U.S. 479, 496, 105 S.Ct.3275, 3285 (1985)。同様に、これらの要素は、原告が RICO 法違反共謀の訴訟原因を成立させるために、十分に主張されなければならない。参照、Neibel v. Trans World Assurance Co., 108 F.3d 1123, 1127 (9th Cir.1997) 。
McAfee は、RICO法違反の第11訴訟原因は請求原因を十分に述べていないと主張する。その理由は、(a) Symantec は法的に有効な企業の存在を主張していないこと;(b) Symantec はRICO法上の責任を生ぜしめるに十分な McAfee の行為を主張していないこと;(c) Symantec は恐喝的行為のパタ−ンを主張していないこと、である。さらにMcAfee は、RICO法上の請求が十分に主張されていないから、RICO法違反共謀の第12訴訟原因も成立しないと主張する。
当裁判所は、 Symantec がRICO法違反も、RICO法違反共謀も請求原因を十分に述べていないと結論する。 Symantec は企業の存在を十分に主張しなかった。企業の存在を主張するために原告は、正式、非正式を問わず、決定を行い、その組織の進行中の業務を指揮するための、何らかの機構を有する組織の存在を主張しなければならない。参照、Chang v. Chen, 80 F.3d 1293, 1299 (9th Cir.1996) 。 Symantec はそのような組織の存在、その機構、またはその活動方法を主張しなかった。 Symantec はただ、 McAfee 、その若干の従業員および非従業員が、同法にいう「事実上の団体の『企業』」の業務に従事したと主張したにすぎない。参照、第3次修正訴状、para.111。この主張は不十分である。
さらに Symantec は、恐喝的行為のパタ−ンを十分に主張していない。「恐喝的行為」は、RICO法の規定に列挙されたいくつかの制定法によって訴追され得る犯罪行為を含んでいる。参照、18 U.S.C. §1961(1) 。恐喝的行為の「パタ−ン」の存在を主張するために、原告は少なくとも2つの実在する行為、すなわち、そのような行為の2つの実例を主張しなければならない。参照、Bowen v. Oistead, 125 F.3d 800, 806 (9th Cir.1997)。
Symantec は、 McAfee およびその企業の他の構成員が、RICO法の規定に列挙されたいくつかの制定法である、18 U.S.C. 2314条および2315条に違反する少なくとも2つの行為を行った、と主張する。参照、18 U.S.C. §1961(1) 。2314条および2315条は、盗まれた品物の州際輸送、販売、領得を禁じている。参照、18 U.S.C. §§2314, 2315。 Symantec は、 McAfee およびその企業のその他の構成員が、 Symantec のCrassGuardソフトウェアと SymKrnl DLLの一部を、州際頒布のために McAfee 製品にコピ−することによって、これらの条項に違反したと主張する。参照、第3次修正訴状、Para.112。しかし2314条および2315条は、その禁制品的性質が著作権侵害から生ずる品物の州際輸送、販売または領得には適用がない。参照、Dowling v. United States, 473 U.S. 207, 228-29, 105 S.Ct. 3127, 3138-39 (1985)。従って、 Symantec は恐喝的行為のパタ−ン要件を十分主張していない。
Symantec は、2314条および2315条が、その禁制品的性質が著作権侵害からのみ生ずる品物の、州際輸送、販売または領得に適用がないことは争っていない。しかし Symantec は、2314条および2315条が、顧客情報を内容とする2個のディスケットと SymKrnl DLLの有体的コピ−のような有体財産の移転および領得には、確かに適用があると主張する。
Symantec のこの主張は正しいであろう。しかしながら、 Symantec のRICO法違反の第11訴訟原因は、有体財産の輸送または領得を根拠としていない。その訴訟原因において挙げられている行為は、州境を越えて輸送、販売、領得のために、保護されているコ−ドを McAfee の製品に組込んだことだけである。参照、第3次修正訴状、Para.112。
上記に基づいて、当裁判所はRICO法違反の第11訴訟原因は棄却を免れない、と認定する。有効なRICOの請求が主張されていないので、RICO法違反共謀の第12訴訟原因も棄却を免れない。スケジュ−ル作成のための事件処理会議における両当事者の合意に照らすと、成立するかもしれないRICO請求に関する証拠開示は進行中であるという Symantec の発言と、修正の許可申請に関する極めて寛大な法的基準に鑑みて、修正の許可は与えられる。しかしながら、当裁判所は成立し得る RICO 請求の諸要素として、十分な事実の根拠が本件において主張できるかどうかについては、実質的に疑問を抱いている。
JEREMY FOGEL
連邦地方裁判所裁判官
( 注 3)
第8訴訟原因の棄却を求めるこの申立は、もともと原告の第2次修正訴状に対するものであった。その申立の係属中に、原告は第3次修正訴状を提出した。当裁判所の1998年3月9日の決定に従い、第8訴訟原因の棄却を求める申立は、現在第3次修正訴状に対するものとして審理される。
( 注 4)
原告の第3次修正訴状によれば、DLL ファイルは主プログラム(primary program)と結合して普通用いられるサブファンクション(subfunctions)
またはサブル−チン(subroutines)を含む。これらのサブファンクションとサブル−チンは、主プログラム用のソフトウェア・コ−ドと結合、すなわち、「動的に連結」される。その結果コンピュ−タ・ユ−ザ−が主たるプログラムを働く(run)ように求める時、そのプログラムは主プログラムがロ−ド(load)
されると同時に、DLL の中に入っている必要なサブファンクションまたはサブル−チンのソフトウェア・コ−ドをロ−ドする。参照、第3次修正訴状、Para.21
。
( 注 5)
本申立は、仮差止命令を求める Symantec の第3次申立である。第1次申立において、
Symantec は Symantec のCrassGuardおよびSymKrnl の著作権を侵害する PC Medic
97またはその他の製品を、 McAfee が販売、出荷、開発または製造を続行することを差止めようとした。その申立は、1997年10月6日
一部認められ、一部拒否された。第2次申立において Symantec は、 CrassGuardの著作権について、さらに差止命令による救済を求めた。その申立は1997年12月19日に拒否された。
( 注 6)
Symantec は、もし Symantec が本案勝訴の見込みを証明するならば、 回復し難い損害は推定されなければならない、と主張する。本案勝訴の見込みの証明は、著作権および商標権の事件においては、回復し難い損害を当然生ずる。参照、Triad
Systems Corp. v. Southeastern Express Co., 64 F.3d 1330, 1335(9th Cir.1995);
International Jenson, Inc. v.Metrosound U.S.A., Inc., 4 F.3d 819,
827 (9th Cir. 1993) 。しかしながら、仮差止命令を求める Symantec の申立は、著作権または商標権の侵害の主張ではなく、
McAfee による営業秘密(顧客販売情報)の使用と主張されるものに基づいている。回復し難い損害の推定は営業秘密事件には適用がない。例えば、参照、Campbell
Soup v. Giles, 47 F.3d 467, 470 (1st Cir.1995)(勝訴見込み/ 回復し難い損害の証明の連続体を営業秘密の請求に適用する);
Campbell Soup Co., v. ConAgra, Inc., 977 F.2d 86, 92-93 (3d Cir.1992)(回復し難い損害の推定を営業秘密の請求に適用することを拒否し、代わりに勝訴の見込み/
回復し難い損害の証明の連続体を適用する);Litton Systems, Inc. v. SunStrand
Corp., 750 F.2d 952, 956 (Fed.Cir.1984)(勝訴の見込み/ 回復し難い損害の証明の連続体を、営業秘密の請求に適用す
る)。
( 注 7)
しかしながら、そのような修正はカリフォルニア州最高裁判所の最近の Cedars-Sinai
Medical Center vs. Superior Court, s048596(5/11/98) 判決によって排除されているようである。
( 注 8)
Mr.Robinson の陳述書に含まれている証拠が、現在の形で審理の際に証拠能力ありとして認められるかどうかについて、若干の疑問がある。何故なら、その陳述書は伝聞証拠の陳述を含むようであるからである。しかし
McAfee はその陳述に異議を出さず、実際、仮差止命令の発布に反対していない。その陳述書に含まれる証拠は、必要があれば、証拠能力のある証拠に変換できるであろうと思われるから(例えば、そのディスケットを取ったといわれる
McAfee のセ−ルスマンの証言録取書を作成する方法によって)、そしてまた McAfee
はその証拠の形式に異議を出していないから、当裁判所はその提出された陳述書を考慮するであろう。比較、Celotex
Corp. v. Catrett, 477 U.S. 317, 324, 106 S.Ct. 2548, 2553 (1986)(被申立当事者は、審理の際に証拠能力のある形式の証拠のある略式判決には反対する必要がない);
McMillan v. Johnson, 88 F.3d 1573, 1584 (11th Cir.1996), aff´d,
117 S.Ct. 1734 (1997) (その他の場合なら証拠能力のある証拠も、略式判決段階では、証拠能力を認められない形式ででも提出できる)。
( 注 9)
McAfee は棄却を求める別々の申立2つを行った。1つは不正競争の請求(第8訴訟原因)に対するもの、もう1つはRICO法違反と共謀の請求(第11および第12訴訟原因)に対するものである。
( 注 10)
専占に関する当裁判所の認定に照らし、当裁判所はライセンス契約違反は不正競争の請求の根拠になり得ないという
McAfee の追加的主張を取上げる必要はない。