欧州特許庁審判委員会

内部頒布コード

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1998年7月1日の審決

件番号:                                   T 1173/97 - 3.5.1

出願番号:                               91107112.4

公表番号:                               0457112

IPC:                                         G06F 11/14

審判での言語:                       英語

発明の表題:                           コミット手続きの非同期的再同期

出願者:                                   インターナショナル・ビジネス・マシン・コーポレーション

反対者:

見出し語:                               コンピューター・プログラム製品/IBM

関係する法規:
EPC 23条(3)、52条(1)、52条(2)(c)、52条(3)
EPC R. 27、29
ガイドラインC-IV、2.3

TRIPS:
10条、27条(1)、27条(2)、27条(3)

ウィーン条約:
4条、30条、31条(1)、31条(4)

キーワード:
「コンピューター・プログラム製品の特許性の排除(すべての状況においてではない)」

引用される審決
T 0006/83、T 0208/84、T 0022/85、T 0115/85、T 0163/85、
T 0026/86、T 0110/90、T 0164/92、T 0769/92、T 0204/93、
T 0410/96、

頭書
「コンピューター・プログラム製品は、それがコンピューター上で実行されたときに、プログラム(ソフトウェア)とコンピューター(ハードウェア)間の「通常」の物理的相互作用を超えた、さらなる技術的効果をもたらすならば、EPC第52条(2)および(3)の下で特許性を排除されない。」


欧州特許庁

審判委員会

件番号: T 1173/97 - 3.5.1

技術審判委員会3.5.1の審決
1998年7月1日

審判請求人:                     インターナショナル・ビジネス・マシン・コーポレーション
Old Orchard Road
Armonk
N.Y. 10504 (US)

代理人:                            Teufel, Eritz, Dipl.-Phys.
IBM Deutschland Informationssystem GmbH
Patentwesan und Urheberrecht
70548 Stuttgart (DE)

審判請求された査定:       EPC第97条(1)に基づき欧州特許出願No.91 107
112.4を拒絶した、1997年7月28日に提示された欧州特許庁審査部の査定

委員会の構成

委員長:          P. K. J. van den Berg

委員:             V. Di Cerbo
                     R. R. K. Zimmermann

事実および提出物の要約

I.            独立クレーム20と21の対象はコンピューター・プログラム自体なので、EPC第52条(2)(c)および(3)に基づき特許性を排除されるという根拠で欧州特許出願No.91 107 112.4(発行番号0 457 112)を拒絶した、1997年7月28日付けの審査部の査定に対して審判請求が提起された。

上訴人は審査部が拒絶した1997年4月18日付の書簡と共に提出されたクレーム1から21の特許の付与を要請する。

II.           独立クレームは以下の通りである。

「1. リソースが絡むワーク・オペレーションを求めるアプリケーション(56 A)を実行するコンピューター・システムにおけるリソース回復の方法。以下の段階から構成される。

ワーク要請のためのコミット手続きの実行。

そのコミット手続きが故障のために完了しなかった場合には、ある時間の後に、そのアプリケーション(56 A)は実行し続けることができ再同期を待つ必要はないと、そのアプリケーション(56 A)に伝達し、
そして、
そのアプリケーション(56 A)が実行を続ける間に、そのアプリケーション(56 A)に同期していないそのリソースのために、その未完了のコミット手続きを再同期する。

14. 以下のものから構成されるコンピューター・システム

アプリケーション(56 A)を実行するための実行環境、および
そのアプリケーション(56 A)のためにコミット手続き、特に2相コミット手続きを実行するための手段。

以下によって特徴付けられる。

そのコミット手続きが完了前に故障した場合に、そのアプリケーションに、コミット手続きの完了を待つ必要なく実行し続けるようにと伝達するための手段、および、そのアプリケーションに同期していない、その未完了のコミット手続きを再同期させるための手段。

20. コンピューター・プログラム製品

ディジタル・コンピューターの内部メモリーに直接ロード可能。

その製品がコンピューターで動いているときにクレーム1の諸段階を実行する、ソフトウェア・コード部分から構成される。

 コンピューター・プログラム製品

コンピューターで使用可能な媒体上に記憶され、以下のものから構成される。

コンピューターに、アプリケーション(56 A)の実行をコントロールさせる、コンピューター可読プログラム手段。

コンピューターに、そのアプリケーション(56 A)のためにコミット手続き、特に2相コミット手続きを実行させる、コンピューター可読プログラム手段。

そのコミット手続きが完了前に故障した場合に、そのアプリケーション(56 A)に、そのコミット手続きの完了を待つ必要なく実行し続けるようにと、コンピューターに伝達させる、コンピューター可読プログラム手段。

そのアプリケーション(56 A)に同期していない、その未完了のコミット手続きを、コンピューターに再同期させる、コンピューター可読プログラム手段。」

III.          一般的にクレーム1から19は受け入れ可能と考えられ、特にクレーム1と14で定義されている方法とコンピューター・システムは、説明で引用されている従来技術と比較して新規性と進歩性の要件を満たしていると、査定は記している。

IV.          しかし、それぞれ、ディジタル・コンピューターの内部メモリーに直接ロードできるコンピューター・プログラム製品(クレーム20)、およびコンピューターで使用可能な媒体に記憶されるコンピューター・プログラム製品(クレーム21)を示している、クレーム20と21の対象は、EPC第52条(2)および(3)の下で特許性を排除されているとみなされた。欧州特許庁の審査ガイドラインC-IV、2.3に従えば、それだけで、またはキャリア上の記録としてクレームされたコンピューター・プログラムには、その内容に関わらず特許性がないからである。

V.           審査部に提出された出願人(審判請求人)の主張は、技術的基準、経済的考慮および国際的な発展に基づいていた。第三の要素は特に、知的所有権の貿易的側面に関する協定(「TRIPS協定」)第27条、ならびに米国および日本の特許庁の審査ガイドラインに関連していた。

審判請求された査定において、審査部は、これらの主張に関して以下の論理を提示した。

技術的基準:

データの媒体とそこに記録されたプログラムは、従来技術においてすでに知られていた特徴を除き技術的に関連していないので、このコンピューター・プログラムの技術的性質は、それが記録される記憶媒体の物理的性質から導かれ得ない。技術的性質は、このコンピューター・プログラムが使用された方法またはシステムからも、導くことはできない。

経済的考慮:

審査部はガイドライン、およびそこに含まれている欧州特許条約の解釈に縛られているので、コンピューター・プログラムに特許を付与することに関する経済的理由は、考慮することはできない。

国際的な発展:

締約国で一般に認められている訴訟法の原則を除き、欧州特許の出願の審査に関して該当する制度は、欧州特許条約(審査ガイドラインを含む)のみである。

VI.          審判請求人は審判請求書において、査定を取り消し、上記の出願に対して欧州特許を付与し、補足の要請として、審判請求が認められるか否かについて口頭審判を行うように要請した。

VII.         口頭審判は1998年7月1日に行われた。審判請求委員会の手続規則11(2)に基づく、召喚状に添付された伝達において、委員会は予備的見解を以下のように要約した。

諸協定の法律に関するウィーン条約第31条に基づく解釈の規則に従えば、EPC第52条(2)および(3)は、コンピューター・プログラム自体としてクレームされたコンピューター・プログラムは、その技術的または非技術的内容に関わらず特許性を排除されることを意味すると理解されると指摘した。コンピューター・プログラムが、方法または装置の枠組み内でクレームされたときにのみ、技術的性質が関係する。

ウィーン条約第31条第4段落と関連して、EPC第52条のいずれかの用語に特別の意味を与えることは、排除規定を乗り越えるための適切な方法ではない。審判請求人が引用した審判委員会の決定は、方法、装置またはシステムを指す発明のみに関係したものであった。それらの場合、コンピューター・プログラムに付け加わる技術的特徴がクレームされているならば、発明はコンピューター・プログラム自体とはみなされなかった。委員会はまた、締約国はその技術的性質に関わらず対象の特許性を排除する自由をもつとも指摘した。

TRIPS協定に関しては、この国際協定がEPCに適用されるのかは明らかではなかった。さらに、TRIPS協定の締約国がコンピューター・プログラムを特許性のある対象の範囲に含めようとしているとの兆候もなかった。

VIII.       書面および口頭審判で提出された審判請求人の主張は、次のように要約される。

「審査部が引用したガイドラインの第IV章は、EPCについて過度に幅広い、整合しない解釈を与えている。」

たとえば審決T 208/84(OJ 1987、14、「コンピューター関連の発明/VICOM」)、およびT 6/83(OJ 1990、5、「データ・プロセッサー・ネットワーク/IBM」)において審判委員会によって審決されたように、発明がEPC第52条(1)から(3)の下で特許性をもつためには、技術的性質をもち、新規であり、進歩性があり、産業上の利用性がありさえすればよい。

記憶されたプログラムに指定されているコマンド列によって実質的に定められている、本出願での発明の技術的性質は、それぞれクレーム1と14の方法およびシステムにおいては審査部によって認定されており、発明が、クレーム20および21のように、異なるフォーマットでクレームされたという理由だけで失われることはない。

「発明」という用語は、EPCで定義されておらず、締約国で一律に解釈されてもいない。それはEPCの枠組み内でのみ解釈すべきである。

EPC規則27および29が要求する技術的問題および技術的解決策、そして、EPCの幾つかの規定において、その分野の技能をもつ人が言及されているという事実に鑑みて、発明が特許性をもつためには、技術的性質をもつことが了解されなければならない。

EPC第52条(2)(c)は、コンピューター・プログラムを含む、否定的な例の部分的リストを提示している。この段落は、明確に技術の範囲外にある活動にも言及しているので、コンピューター・プログラム自体の排除は、すべてが非技術的対象であるこれらの他の活動と同程度にプログラムを排除することを意図した、とのみ解釈することができる。したがって、(特許性を排除される)「プログラム自体」とは、実際は、非技術的プログラムである。

排除規定の狭い解釈はまた、TRIPS協定とも合致している。EPCの解釈には直接適用されないが、同協定はそのすべての締約国を拘束し、特に第27条において、それと合致したEPCの解釈を求めている。

委員会の注意はまた、コンピューター・プログラムおよびデータ編集物の著作権による保護に関係するTRIPS第10条にも向けられた。審判請求人は、第10条がコンピューター・プログラムに言及したTRIPSの唯一の規定であり、その文脈で保護の可能な形として著作権に言及しただけであるという事実は、特許によるコンピューター・プログラムの保護はTRIPSの下で排除されることにはならないと主張した。

審判請求人によれば、第10条と第27条の間には矛盾はない。逆に、一つのプログラムに対して両方の権利の存在が可能であり、それぞれがそれ自身の役割を果たす。

発明の技術的性質は、その応用の分野から生じるかもしれないが、同様に、非技術的分野の問題の解決のために情報技術を使用することから生じることもある。プラグとソケットとの関係と同様、コンピューターとプログラムの技術的接点は、たとえば本件のクレーム20と21で定められているように、コンピューター・プログラムがそれ自体で製品としてクレームされた場合でも方法またはシステムの技術的性質は維持されることを保証する。


審決の理由

1.           要請

審判請求人は、1997年4月18日に提出されたクレーム1から21を根拠にした、特許の付与を要請する。審判請求された査定も、同じ要請に基づいている。その査定によれば、この特許出願は、クレーム20と21の対象が、EPC第52条(2)と(3)に基づき特許性を排除されているとみなされるという理由のみで拒絶された。

したがって、本件において本委員会が判断すべき唯一の問題は、審査部が提示した理由が正しいか否かである。

2.           TRIPS

2.1          本件に関するTRIPSの重要性について、本委員会は審判請求人の意見にかなりの範囲で同意する。

しかし現時点では、TRIPSがEPCに直接適用されるとは考えない。特に、TRIPSはその締約国のみを拘束する。欧州特許機関自体はWTOのメンバーではなく、TRIPSに署名をしていない。

2.2          また本委員会は、TRIPSがEPCに直接適用されるという判断を、諸協定の法律に関するウィーン条約の下で、正当化することはできなかった。

第4条によれば、1969年5月23日に署名されたが1980年1月27日まで発効しなかったウィーン条約はEPCに適用はされないが、かなりの権威をもっており、そこで定められた原則を適用する際に審判委員会によってしばしば引用された。しかし本委員会の意見では、「同一の対象に関係する一連の協定の適用」を取り扱う第30条は、TRIPSをEPCに適用する根拠にはならない。たとえば、EPCの締約国とTRIPSの締約国の間に完全な対応さえない。つまり、EPCのすべての締約国が同時にTRIPSのメンバーであるわけではない。

2.3          TRIPSは直接EPCに適用されないかもしれないが、貿易的側面での知的所有権、そして特許権の利用可能性、範囲および使用に関する共通の基準と原則を打ち立てることを目指しているので、考慮に入れることは適切なことだと本委員会は考える。TRIPSは現在の傾向に対する明確な示唆を与える。

TRIPS第27条(1)は、「特許は、製品かプロセスかに関わらず、新規であり、進歩性と産業上の利用性があれば、すべての技術分野でのすべての発明に与えられる」と述べている。この一般原則は、特許性の排除に関する第27条の段落2と3に基づく規定とともに考えれば(しかしEPC第52条(2)で言及されたいずれの対象も含まない)、発明がどの技術分野に属していたとしてもその特許性を排除しない、そして特に、EPC第52条(2)(c)で言及され排除されたコンピューター・プログラムを排除しないというTRIPSの明確な意図を意味すると、本委員会の考えでは正しく解釈することができる。

2.4          TRIPS第10条(1)によれば、「ベルヌ条約(1971)の下でコンピューター・プログラムは、ソース・コードかオブジェクト・コードかに関わらず、文学的著作物として保護される」ことを、本委員会は十分に認識している。しかしこの規定は、TRIPSの下では、コンピューター・プログラムにはその第27条に基づき特許性があるという、前記の結論を弱めない。審判請求人が正しく推定したように、第10条はコンピューター・プログラムに明示的に言及したTRIPSの唯一の規定であり、著作権がその規定によって与えられる保護手段であるという事実は、TRIPSの第10条と第27条の間の矛盾を生み出さない。著作権と特許による保護は、それぞれがそれ自身の役割を果たす、同一のもの(たとえばコンピューター・プログラム)を対象とするかもしれない異なる二つの法的保護手段を構成する。

2.5          審判請求人は米国と日本の特許庁の現在の慣行にも言及し、両特許庁の最近改訂された審査ガイドラインによれば、コンピューター・プログラム製品に関するクレームは現在認められていると指摘する。審判請求人は、かかるクレームの正確な定式化に関しては詳しく述べていない。

本委員会は、これらの展開については留意しているが、これらの二つの法制度(米国と日本)における状況は、EPCの状況とは大きく異なることを強調したい。第52条(2)や(3)のような排除を含んでいるのはEPCのみである。

2.6          しかし、審判請求人が指摘したように、これらの展開は現在の趨勢についての有用な徴候となっている。これらは、強く望まれている特許法の(世界全体での)調和化に貢献するだろうと本委員会は考える。

3.           適用される実体的特許法

現時点での欧州特許出願の審査に対する唯一の実体的特許法は欧州特許条約であるというのが、前記の考察の結論である。したがって、EPCが、審判請求されている査定において考慮されるべき、適用される唯一の実体的特許法制度であるという審査部の結論は正しい。

EPCの適用において、審査部は欧州特許庁の審査ガイドラインに依拠し、そこに与えられているEPCの解釈のみを適用した。

しかしガイドラインは審判委員会を拘束しない。特にEPC第23条(3)によれば、「その審決において委員会メンバーは、いかなる指示にも拘束されず、本条約の規定のみに準拠するものとする。」

したがって本委員会は、EPC第52条(2)および(3)の下では何が、コンピューター・プログラムの特許性の排除に関する適切な解釈なのか、本委員会自身の見解を検討する。

4.           EPC第52条(2)および(3)に基づく排除

排除条項自体に関して、本委員会は以下のことに留意する。

EPC第52条(2)(c)は、コンピューター・プログラムはEPC第52条(1)の意味内では発明とはみなされず、したがって特許性を排除されると述べている。

EPC第52条(3)は、この排除の範囲に重要な限定を課している。この規定によれば、排除は、欧州特許出願または欧州特許がコンピューター・プログラム「自体」に関係している限りにおいて適用される。

この2規定(EPC第52条(2)と(3))の組合せは、立法者が、コンピューター・プログラムすべてから特許性を排除することを望まないことを示している。つまり、コンピューター・プログラム自体に関係する特許出願のみが特許性を排除されるという事実は、コンピューター・プログラムに関係する特許出願でも、コンピューター・プログラム自体の特許出願でなければ特許性が認められることもあることを意味する。

4.2          コンピューター・プログラムからの特許性の排除の範囲を定めるには、「自体」という表現の正確な意味を決定することが必要である。これにより、コンピューター・プログラム自体とはみなされないことによって特許性が与えられるコンピューター・プログラムを特定することができるかもしれない。

5.           「自体」の解釈

5.1          EPCの出願の文脈においては、発明の技術的性質は一般に、その特許性の必須の要件として認められている。これはたとえば、EPC規則27や29で説明されている。

5.2          コンピューター・プログラム自体からの特許性の排除(EPC第52条(2)と(3))は、かかるプログラムが、技術的性質に欠ける単なる抽象的な創作物とみなされるという意味であると解釈することができる。「発明とはみなされない」という表現の使用は、この解釈を確認すると思われる。

5.3          このことは、コンピューター・プログラムはそれが技術的性質をもつ場合には特許性をもつとみなされなければならないことを意味する。

5.4          この結論は、関係する三つの異なる規定と合致していると思われる。

(a)      EPC第52条(2)に定められている特許性の排除

(b)      EPC第52条(1)の一般規定。それによれば、欧州特許は、産業上の利用性をもち(したがって技術的性質をもち)、新規であり、進歩性をもつすべての発明に付与される。

(c)      排除の範囲の幅広い解釈を認めていないEPC第52条(3)の規定

5.5          したがって排除の解釈における主要な問題は、特に本件ではコンピューター・プログラムに関係した、「技術的性質」という特徴の意味を定めることである。

6.           コンピューター・プログラムの技術的性質

6.1          EPC第52条(2)と(3)に基づくコンピューター・プログラムの特許性の排除を解釈する目的では、コンピューター・プログラムは、コンピューター・プログラムであるというだけの理由で技術的性質をもつとみなすことはできない。

6.2          このことは、コンピューター・プログラムによる命令の実行から生じるハードウェアの物理的変形(たとえば、電流を引き起こす)は、それ自体では、そのプログラムの排除を避けるのに必要な技術的性質を構成できないことを意味する。

6.3          かかる変形は技術的とみなされるかもしれないが、コンピューター上で動かすことのできるすべてのコンピューター・プログラムに共通の特徴であり、したがって、技術的性質をもつコンピューター・プログラムを、コンユーター・プログラム自体から区別するのに使うことはできない。

6.4          したがって、上記の意味での技術的性質は別の所で探さなければならない。それは、コンピューター・プログラムが与える命令の(ハードウェアによる)実行によって生じるさらなる効果が技術的性質をもつかソフトウェアに技術的問題を解かせる場合に、その、さらなる効果の中に見付けることができる。かかる効果をもたらす発明は、原則としては特許の対象となりうる発明とみなすことができる。

6.5          したがって、ソフトウェアがコンピューターによって産業上のプロセスまたは機器の動作を制御する発明の場合ばかりでなく、コンピューター・プログラムが上記の意味の範囲内での技術的効果を得るための唯一の手段または必要な手段のうちの一つであるすべての場合に、たとえばその種類の技術的効果がプログラムの影響下にあるコンピューター自体の内部動作によって達成される場合に、特許が付与されうる。

つまり、上記の意味で技術的効果を生み出せるという条件の下で、すべてのコンピューター・プログラムは、EPC第52条(1)の意味で発明とみなさなければならず、EPCが定めているその他の要件が満たされれば、特許の対象となりうる。

6.6          前項ですでに示したように、その技術的効果は、プログラムが実行されているコンピューター自体の動作によって、つまりそのコンピューターのハードウェアの動作によって引き起こされてもよい。この状況でも、上記6.2および6.3で示された意味でのプログラムの命令の実行によって生じるハードウェアの物理的変形は、それ自身では、排除を避けるのに必要な技術的性質を構成しえないことは明らかである。

この場合、特許性の要件を考慮するときに問題となるのは、上記のさらなる技術的効果であり、システム全体の具体的なさらなる使用に、重要性を与えるべきではない。

「システム全体」という表現は、ハードウェアとソフトウェア双方、つまり当該プログラムに基づきプログラムされたハードウェアから構成されるシステム(ハードウェア+ソフトウェア)を意味する。

7.           EPC審判委員会の判例

7.1          上記4、5および6の理由に含まれている考察は、EPC審判委員会の判例の主流に合致している。

特許性に関する限り、審判委員会は今まで、発明が技術的性質をもつことを要求してきた。本委員会が知る限りでは、プログラムが技術的装置つまりコンピューターで使われることを意図されているという理由だけで、審判委員会がコンピューター・プログラムに技術的性質を帰した審決はない。

このことは、すでに引用された、この分野での審判委員会の以前の審決T 208/84(OJ 1987、14)「コンピューター関連の発明/VICOM」によって説明することができる。この発明は、「画像を2次元データ配列の形にディジタル的に処理する・・・方法」に関係したもので、その処理をするために適切なコンピューター上で実行されるコンピューター・プログラムに組み入れられた数学的方法を利用していた。

この審判では、この発明に基づく方法は物理的実体上で行われる技術的プロセスを構成しているので、特許性は排除されないと判断された。この実体は、物体でも、電子信号として記憶される画像でもよい。この方法は、数学的方法自体でもコンピューター・プログラム自体でもなかった。

7.2          コンピューター・プログラムの命令の実行によって生じるハードウェアの物理的変形は、それ自身では、EPC第52条(2)(c)および(3)の下での特許性の排除を避ける目的で要求されるコンピューター・プログラムの技術的性質を構成しえないという事実は、たとえば審決T 22/85(OJ 1990、12)「文書の抜粋と検索/IBM」に示されている。それによれば、ハードウェアの物理的変形は電流を引き起こす。

7.3          審決T 769/92(OJ 1995、525)「汎用管理システム/SOHEI」の対象は、そこで実行されるプログラムによって引き起こされる、コンピューターの内部動作に関係する発明の典型的な例であった。それによれば、発明に到達するのに技術的考察が要求されるという事実が、クレームされた発明に、第52条(2)(c)および(3)の下での特許性の排除を避けるのに十分な技術的性質を与えるとみなされ、システム全体の具体的な使用法には、重要性は与えられなかった。

7.4          本発明の基本的アイデアは、コンピューター・プログラムの中にある。

本件で特に重要なのは、審判委員会の判例に基づけば、技術的問題の解決のためのコンピューター・プログラムの使用に向けられたクレームは、発明の基本となるアイデアがコンピューター・プログラム自体の中にあると考えられるとしても、EPC第52条(2)(c)および(3)の意味におけるプログラム自体に対する保護を求めているとはみなすことができないという事実である。このことはたとえば、上記の審決T 208/84(OJ 1987、14)「コンピューター関連の発明/VICOM」、およびT 115/85(OJ 1990、30)「コンピューター関連の発明/IBM」に見られる。

判例は、発明の基本となるアイデアがコンピューター・プログラム自体の中にあるとしても、その発明に特許性を認めている。

8.            本委員会はこの機会に、EPC第52条(2)(c)および(3)に基づく排除の程度を決定する目的では、上記の「さらなる」技術的効果は従来技術において知られていてもよいと考えていることを指摘する。

したがって、従来技術と比較しての発明が達成した技術的寄与の判断は、第52条(2)および(3)に基づく排除の有無の決定よりは、新規性と進歩性の審査の目的にとってふさわしい。

9.           コンピューター・プログラム製品のクレーム

9.1          理由1においてすでに指摘したように、本件で決定すべき唯一の問題は、クレーム20および21の対象が、EPC第52条(2)および(3)に基づき特許性を排除されるか否かである。これらのクレームはコンピューター・プログラム製品に向けられており、何が「さらなる技術的効果」と呼ぶことができるかという観点から審査しなければならない。もしこの「さらなる技術的効果」が存在すれば、この対象はEPC第52条(2)および(3)に基づき排除されることはない。

9.2          このような製品は通常、プログラムがロードされたときに、ハードウェアに特定の結果をもたらす特定の手続きを実行させる、命令のセットから構成される。

9.3          本件では、発明の基礎となるアイデアがコンピューター・プログラムの中に存在しているということは自明である。また、かかる場合、プログラムがそこで実行されることを意図されているハードウェアが発明の範囲外である、つまりハードウェアが発明の一部ではないことも、明らかである。それは、プログラムの実行によって行われる物理的変化が起こる物体である。

さらに、たとえばコンピューター・プログラム製品が、プログラムが記憶されるコンピューター可読媒体を含んでいるならば、この媒体は、プログラムが保管される物理的支持物、したがってハードウェアとなる。

9.4          すべてのコンピューター・プログラム製品は、そのプログラムがコンピューターで実行されたときに何らかの効果を生み出す。その効果は、プログラムが実行されている時に物理的実在にのみ現われる。したがって、コンピューター・プログラム製品自体は、物理的実在の中にその効果を直接もたらすわけではない。実行されているときにのみその効果をもたらし、したがって、その効果を生み出す「潜在的能力」をもっているに過ぎない。

この効果も、理由6で説明された意味で技術的かもしれない。その場合、それはそこで言及された「さらなる技術的効果」を構成する。このことは、コンピューター・プログラム製品が、「さらなる」技術的効果を生み出す潜在的能力をもちうることを意味する。

個々のコンピューター・プログラム製品が、コンピューター上で実行されたとき、上記の意味で技術的効果を生じるということが明確に確定したので、直接的な技術的効果と、間接的な技術的効果とみなせる技術的効果を生み出す潜在的能力とを区別する理由はないと本委員会は考える。

したがって、コンピューター・プログラム製品は、上記の意味での、あらかじめ決定されたさらなる技術的効果を引き起こす潜在的能力をもつので、技術的性質をもちうる。すでに述べたことによれば、技術的性質をもつということは、EPC第52条(3)に基づく「自体」規定によって特許性を排除されることはないことを意味する。

このことは、あらかじめ決定されたさらなる技術的効果を引き起こす潜在的能力をもつコンピューター・プログラム製品は、原則として、第52条(2)および(3)の下で特許性を排除されないことを意味する。したがって、コンピューター・プログラム製品は、すべての状況で特許性を排除されることはない。

9.5          審判請求された査定で示された理由と異なり、本委員会は、コンピューター・プログラムがもつ、コンピューターで実行されたときに開放され出現する潜在的な技術的効果から、その製品の技術的性質を導きだした。

9.6          したがって、特許性のある(たとえばコンピューターを操作するための)方法のすべての特徴を(内在的に)もっているコンピューター・プログラム製品は、原則として、EPC第52条(2)および(3)に下で特許性を排除されないとみなされる。

かかるコンピューター・プログラム製品のクレームが、コンピューターで実行されるときにそれが行うことを意図する方法の、特許性を保証するすべての特徴を含んでいなければならないことは自明である。このコンピューター・プログラム製品がコンピューターにロードされると、今度はプログラムされたコンピューターが、その方法を行うことのできる装置となる。

また、このようにコンピューター・プログラム製品のクレームを構成すれば、そのあらかじめ決定された手続きに基づきハードウェアが動作するとき、プログラムによってなされるその内部での物理的変化がそれ自身では、(クレームされた)発明に特許性があるかの判断にとって問題ではないことも保証される(たとえば、すでに理由、7.2で引用され議論されたT 22/85、OJ 1990、12、「文書の抜粋および検索/IBM」参照)。

9.7          上記の本委員会の意見に基づき、プログラムの実行から生じるさらなる技術的効果が必要であるとすれば、その要件はクレームが上記のように構成されれば満足される。

かかるクレームは機能的特徴を含み、その範囲は、そのクレームに説明されている、コンピューター・プログラムによって実行される機能によって定められる。

9.8          以上の判断は、「VICOM」審決の理由16の第三および最後の段落で示された理由によって、さらに支持される。そこでは委員会は以下のように認定した。「最後に、適切にプログラムされたコンピューターによって制御される技術的プロセスに対して保護を与えるのに、設定されたときにその制御を実行するコンピューター自体には保護を与えないのは、非論理的であると思われる。」つまり、方法には特許を与えるが、その方法を行うように作られた装置には与えないのは非論理的だと思われる。その類推で本委員会は、同じ方法を行うように作られた方法および装置に特許を与えるが、その方法の実現を可能にするすべての特徴を含み、コンピューターにロードされれば実際にその方法を行うことができるコンピューター・プログラム製品には特許を与えないのは、非論理的であると認定する。

10.         ウィーン条約に基づく解釈

10.1        本委員会は、「コンピューター・プログラム自体」という表現の意味の諸側面を、「自体」に焦点を当てて分析し、コンピューター・プログラムは、「さらなる」技術的効果をもたらす潜在的能力をもっているならば、特許性を排除されないという結論に達した。

ウィーン条約に戻ると、第31条「解釈の一般的規則」は、その第一段落では「協定は、その協定の文脈でその用語に与えられる通常の意味に基づき、その目的に鑑みて善意で解釈されるものとする」と、また第四段落では「当事者がそのように意図していたことが確認されるならば、用語に特別の意味を与えるものとする」と述べている。

10.2        本委員会は、EPC第52条(2)(c)および(3)の下でのコンピューター・プログラム自体の排除に与えられた上記の解釈は、ここで引用されたウィーン条約の規定に完全に合致しているという意見である。

特に、EPCの目的は、発明に特許を付与し、その発明に適切な保護を与えることによって技術の進歩を促進することである。本委員会はこのことを頭に入れ、情報技術の発展という観点からその解釈に達した。この技術は社会の大部分の分野に浸透しようとしており、非常に価値のある発明を生み出す。本委員会はその解釈において、EPCの用語に与えられた通常の意味を越えてはいないと考える。本委員会の意見では、EPC第52条(3)の「自体」という表現に与えた意味は、ウィーン条約第31条(4)の意味での、EPC当事者の同意を必要とする特別の意味ではない。

11.         審判委員会のその他の判例

11.1        さらに本委員会は、第52条(2)(c)および(3)に基づく排除は、プログラムの内容とは無関係に、つまり、適切なコンピューターにロードされたときにそのプログラムが何を行うかとは無関係に、すべてのコンピューター・プログラムに適用されるという見解が、審判委員会の多くの判例、特に、メンバーは異なるが本委員会の判例で取られたという事実を認識していることを指摘したい。技術的性質をもつプログラムともたないプログラムを区別することは、そのような論理の下では認められない。

11.2        そのような論理の例は、審決T 26/86(OJ 1998、019、「x線装置/KOCH & STERZEL」、理由、3.1)、T 110/90 (OJ 1994、557、「編集可能な文書形式/IBM」、理由、5)、T 164/92(OJ 1995、305、「電子的コンピューター要素/ROBERT BOSCH」、理由、4)、あるいはT 204/93(未発表、「ソフトウェア・ソース・コードを生成するためのシステム/ATT」、理由、3.13)に見られる。

11.3        しかし引用した審決のいずれも、また、本委員会の知る限りにおいて審判委員会の他の審決も、本件のクレーム20および21のような、コンピューター・プログラム製品に向けられたものではなかった。

これは、本審判で判断すべき問題が、審判委員会ですでに答えられたものではないということを意味する。厳密に言えば、引用された理由はレイシオ・デシデンダイではなく、ディクタムであるとみなすことができる。

11.4        しかし幾つかの審判では、引用されたタイプの理由付けが、少なくとも一応、審決に達する際に支配的な役割を果たした(たとえば、上記のT 204/93 (未発表、「ソフトウェア・ソース・コードを生成するためのシステム/ATT」、理由、3.13を参照)。

したがって、本委員会は、この例についてコメントする義務があると感じる。

11.4.1     理由、3.13は、コンピューター・プログラムは具体的な目的のために有用または適用可能かもしれず、コンピューターはたとえば、プログラムによる制御の下で技術的プロセスを制御するかもしれず、判例によれば、かかる技術的プロセスには特許性があると述べている。しかし、かかる応用とは独立したコンピューター・プログラム自体は、実行されたときにその内容が技術的プロセスの制御にとって有用なものになるとしても、その内容とは無関係に特許性がないとも述べている。

11.4.2     本委員会は、「同様に」、プログラマーによるプログラミングという活動は「精神的行為」であり、その結果のプログラムが技術的プロセスの制御に使われうるか否かとは無関係に特許性はなく、通常でない手段を含まない方法でその活動を自動化しても、その結果のプログラムの内容に関わらず、プログラミングの方法に特許性を与えないと裁定した。

11.4.3     最後に、理由4.4に次のように記されている。「さらに、その方法クレームによって付与される保護を、かかるプロセスによって直接得られる製品つまりコンピューター・プログラムにEPC第64条(2)が広げるという理由によって、クレーム5が拒絶されるか否かを検討するのは不必要である。そのような拡大された保護は、EPC第52条(2)および(3)に基づきコンピューター・プログラム自体は特許性を排除されるという明示的な規定に反すると思われる。」

11.4.4     本委員会は以上の要約から、次のように結論付ける。上記の審決で与えられた真の客観的理由は、プログラマーによるプログラミングという活動が、EPC第52条(2)(c)および(3)に基づき排除される精神的活動を構成するというものであった。しかし、「同様に」という言葉は明らかに、コンピューター・プログラムが排除されるので、プログラミングという活動は特許性を排除されるということを意味する。そして、その活動の自動化(たとえば、コンピューター・プログラムという手段による)は、排除に打ち勝つ通常ではない手段を含んでおらず、結局、精神的活動を行うための方式・規則・方法およびコンピューター・プログラムという、どちらもEPC第52条(2)(c)および(3)に基づきそれ自体としての排除されるものの組合せに基づいていた。

11.5        以上すべてのことから本委員会は、この審決は欧州特許庁審判委員会の判例と、考え方および理由付けにおいてやや異なるアプローチに基づいているかもしれないが、判例において何が決定されたのかを考えれば、それとは直接抵触しないと結論付ける。

しかし本委員会は、引用された審決T 204/93が、コンピューター・プログラム自体をすべて、つまり内容に関わらず排除すると主張している限りにおいて、それとの違いは認識したい。

12.         クレームの正確な表現

12.1        審査部は、クレーム1から19まではEPCの規定を満たしているという意見であった。

すでに指摘したように、このような状況では本委員会が、この認定を検証する必要はない。これらのクレームはこの審判請求の対象ではないからである。しかし本委員会は、その表現について簡単にコメントしたい。

クレーム19までのうちクレーム1と14が独立クレームである。それらは機能表現で書かれ、異なる範疇に属する。クレーム1は、コンピューター・システムでのリソース回復のための方法のクレームである(方法クレームまたはプロセス・クレーム)。クレーム14はコンピューター・システムのクレームであり(装置クレームまたはデバイス・クレーム)、クレーム14はクレーム1の方法を行うためのシステム(装置またはデバイス)であると想定される。

この本委員会の想定が正しいとすれば、この2つのクレームは異なる範疇に属するが、それでもEPC第82条に基づく発明の統一性があり、審査部が考えたように、方法のクレームと、その方法を行うように作られた装置のクレーム双方の特許性は、審判委員会の確立した判例に合致している。なぜなら、すでに述べたように、引用した「VICOM」審決に基づけば、方法に特許を与え、その方法を行うように作られた装置に与えないのは非論理的だからである。

12.2        この審判請求は、EPC第52条(2)および(3)に基づき、クレーム20および21の対象の特許性が排除されるかという問題に関係している。審査部は、排除されると査定した。本委員会は、コンピューター・プログラム製品はすべての状況で特許性を排除されることはないとのみ審決したことを強調したい。本委員会にとって、その状況には、問題のクレームの正確な表現が含まれる。問題のクレーム20および21の表現が示すように、コンピューター・プログラム製品に関するクレームを定式化する方法にはさまざまなものがある。

審査部がガイドラインの引用された部分を根拠にこれらのクレームを拒絶したという事実から、本委員会は、審査部はこれらのクレームの正確な表現を詳細には検討しなかったと結論付け、また審査部の観点からはそうする必要はほとんどなかったと認める。

しかし本委員会は、すべてのコンピューター・プログラム製品がすぐに特許性を排除されることはないと判断したので、クレームの正確な表現の徹底的な審査を行わなければならない。

審判請求人の、二つのケースでこの決定を求める権利を保護するために、本件はこの点でのさらなる審査のために第一審に差し戻す。

12.3        本委員会は、審決T 410/96(1997年7月25日、未公表)に基づき、あるクレーム中での、別の範疇に属する他のクレームへの言及は、クレームのより簡潔な表現を達成するのに有用なことがあると指摘したい。

13.          最後に、上記のことから明らかなように、それ自体としてまたはキャリア上の記録としてクレームされたコンピューター・プログラムには特許性がないとの審査部の結論の根拠となった、ガイドライン、C-IV、2.3(1994年12月版の38ページ)に基づくEPC第52条(2)および(3)の審査部による解釈に、本委員会は同意しないことを注意する。

本委員会の見解では、それ自体としてクレームされたコンピューター・プログラムは、コンピューター上で実行されたとき、またはコンピューターにロードされたときに、プログラム(ソフトウェア)と、それがその上で実行されるコンピューター(ハードウェア)との間の「通常の」物理的相互作用を越える技術的効果をもたらす、またはもたらす能力をもつならば、特許性を排除されない。

「コンピューター上で実行される」とは、コンピューター・プログラムとコンピューターから構成されるシステムが、クレーム1に記されているような種類の方法(またはプロセス)を行うことを意味する。

「コンピューターにロードされる」とは、このようにプログラムされたコンピューターが、クレーム1に記されているような種類の方法を行うことができ、または行うように作られており、したがって、クレーム14に記されているようなシステム(またはデバイスまたは装置)を構成することを意味する。

14.          また、EPC第52条(2)および(3)に基づく排除に関しては、コンピューター・プログラムがそれ自体としてクレームされたか、キャリア上の記録としてクレームされたかは無関係であるというのが、本委員会の意見である(すでに引用した、審決T 163/85、OJ 1990、379、「カラーテレビ信号/BBC」に基づく)。

命令

上記の理由により、以下の通り決定する。

1.            審判請求された査定は破棄する。

2.            本件は、審判請求人の要請に基づくさらなる追行のため、特に、コンピューター・プログラム製品はすべての状況で特許性が排除されるわけではないとの事実を考慮した上で、問題のクレームの表現はEPC第52条(2)および(3)に基づく特許性の排除を回避するかの審査のために、第一審に差し戻される。

登録官                                                                    委員長

M. Kiehl                                                                  P. K. J. van den Berg