原告 − 上訴人、HILGRAEVE CORPORATION
対
被告 − 被上訴人、MCAFEE ASSOCIATES, INC.
(現在はNetwork Associates, Inc. として知られる)
99 - 1481, 99 - 1491
連邦巡回区合衆国上訴裁判所
2000 U.S. App. LEXIS 18395; 55 U.S.P.Q.2D (BNA) 1656; 10 Am.
Disabilities Cas. (BNA) 1417
2000年8月2日決定
事前経過: [*1] ミシガン州東部地区合衆国地方裁判所、判事Nancy G. Edmundsからの上訴
処分: 一部破棄、一部維持、差戻し
主要用語: 記憶、特許、オペレーティング・システム、媒体、転送先、感染した、ユーザー、侵害する、検閲、ディジタル、ウイルス、検閲する、転送された、ウイルス、自動的に、侵害、略式判決、スキャン、列、記憶された、アクセス可能な、発明、禁止、自動的、検出する、相互関係、削除する、検出、証明する、入ってくる
弁護士:
原告−上訴人側: Ernie L. Brooks、Brooks & Kushman法律事務所、ミシガン州サウスフィールド
摘要書協力者Robert C. J. Tuttle、Thomas A. LewryおよびFrank A. Angileri
被告−被上訴人側: Michael Barclay、Wilson Sonsini Goodrich & Rosati法律事務所、カリフォルニア州パロアルト
摘要書協力者Peter P. Chen、David L. Larson、David L. Larson、Colleen BalおよびBehrooz Shariati
摘要書助言者R. Terrance Rader、Rader, Fishman & Grauer法律事務所、ミシガン州ブームフィールド・ヒルズ
裁判官: MICHEL、LOORIEおよびRADER、巡回判事
意見者: RADER
意見: RADER、巡回判事
略式判決においてミシガン州東部地区合衆国地方裁判所は、McAfee Associates, Inc. (MC) 注1 のVirusScan製品は、Hilgraeve Corporationの合衆国特許第5,319,776号(第’776号特許)を文理的に侵害していないと判断した。Hilgraeve Corp. 対McAfee Assocs., Inc., 70 F. Supp. 2d 738(ミシガン州東部地区、1999)参照。地裁はまた、Hilgraeveに、[*2] VirusScanが等価物の法理の下で第’776号特許のクレームを侵害していると論じることを、禁反言により禁じた。本法廷は、審査経過の禁反言が等価物の法理の適用を禁じるという地裁の認定を維持する。しかし本法廷は、文理侵害が存在しないとの略式判決を破棄し、適切なさらなる手続のために差し戻す。
注1 現在はNetwork Associates, Inc. として知られる。
I.
「保護手段をもつコンピューター・ウイルスの通過中検出」という表題のHilgraeveの第’776号特許は、コンピューター・ウイルスをスキャンするプログラムを説明する。クレームされた発明は、データの転送中に、つまりウイルスをもつ可能性のあるデータを転送先の記憶媒体へ記憶する前に、その本体をスキャンする。プログラムがスキャン中にウイルスの徴候を検出した場合、プログラムは自動的に記憶を阻止する。
第’776号特許のクレーム1と18が争点である。クレーム1は以下の通りであり、争点の表現に下線を付ける:
1. コンピューター記憶媒体内の記憶のためにディジタル・データを転送するシステムにおける、転送中にデータを検閲し [*3]、予め決められた列を少なくとも1つ含むデータの記憶を自動的に阻む方法であり、
転送元媒体に住むディジタル・データのある量を、転送先の記憶媒体をもつコンピューター・システムへ転送させ、
転送されたディジタル・データの転送先の記憶媒体への記憶に先立ち、受け取られたかかるディジタル・データ内に、予め決められた複数の列のうちの少なくとも1つが存在するか否かを判断するために、かかるデータを受け取りそして検閲し、
(a) 複数の予め決められた列のいずれも存在しない場合には、検閲されたディジタル・データを転送先の記憶媒体に自動的に記憶させ、
(b) 予め決められた列が少なくとも1つ存在している場合には、検閲されたディジタル・データが転送先の記憶媒体に記憶されるのを自動的に阻む、
という段階から構成される。
第’776号特許、第17列II. 9 - 29列(強調追加)。クレーム18は以下の通りである:
18. 記憶媒体をもつコンピューターへのコンピューター・ウイルスの広がりを阻む方法であり、
その記憶媒体上に記憶するためのディジタル・データのストリームを受け取るのと同時に、それぞれが識別可能なディジタルの列から構成される [*4]、複数のウイルスの徴候をサーチし、
そのサーチ段階からのウイスルの検出の結果を提示し、
かかるウイルスの徴候のいずれかが検出された場合には、かかる記憶媒体上へのかかるディジタル・ストリームの記憶を自動的に禁じる、
という段階から構成される。
同上、第28列II. 45 - 57行(強調追加)。これらのクレームは記憶の禁止を要求しているので、地裁は、「記憶」という用語を特許の時間的文脈の中で解釈した。地裁は「記憶」を、「入ってくるディジタル・データが、転送先の記憶媒体上に十分に存在し、オペレーティング・システムまたは他のプログラムによってアクセス可能になり、データ内に含まれるウイルスが広がりコンピューター・システムに感染できる場合に」生じるものとして解釈した。Hilgraeve, 70 F. Supp. 2d at 745。この定義は、記憶前のスキャンを要求するという、特許クレームの地裁による解釈と合致している。同上at 748参照。いずれの当事者も地裁のクレーム解釈を争わない。
Hilgraeveは、McAfeeの告発された製品VirusScanが、第’776号特許の独立クレーム1と18、および従属クレーム2と6を [*5] 侵害していると主張する。つまりHilgraeveは、VirusScanは入ってくるディジタル・データを、その転送中、そして転送先への「記憶」前に、ウイルスについての検閲をすると告発する。一方McAfeeは、VirusScanは入ってきたディジタル・データを、転送され、転送先の記憶媒体に「記憶」された後で初めて検閲するので、侵害していないと主張する。したがってこの侵害分析の決定的争点は、VirusScanが検閲をするのが、入ってきたデータが転送先の記憶媒体内に存在し、オペレーティング・システムおよびその他のプログラムによってアクセスできるようになる時点の前か後かである。
略式判決においてこの問題を解決するために、地裁は、VirusScanの動作についての専門家証言のみに依拠した。地裁は、第’776号特許の共同発明者の1人が提出した供述および付随する証拠物を、「専門家証言を不適切な態様で紹介するための見え透いた努力」と呼び、考慮に入れることを拒否した。同上at 754。地裁はまた、VirusScanを説明するMcAfeeの販促資料を考慮することも拒否した。これらの販促資料は [*6]、VirusScanのユーザーが、当該プログラムは第’776号特許のクレームに概説されているように作動すると受け取りかねないことを示していると、Hilgraeveは主張した。地裁は、侵害は動作についてのユーザーの認識の問題ではなく、実際の動作の問題であると指摘した。そして地裁は、販促用資料を考慮することを拒否した。同上at 756。
II.
本法廷は、非侵害の略式判決を求めるMcAfeeの申立ての地裁による受入れを、遠慮なしに再検討する。Conroy対Reebok Int’l, Ltd., 14 F. 3d 1570, 1575, 29 U.S.P.Q.2D (BNA) 1373, 1377(連邦巡回、1994)。略式判決は、重大な事実に関する真正な争点がなく、法律問題としての判断を受ける資格があることを訴訟記録が示しているときに、略式判決は可能である。連邦民事訴訟規則56 (c) 参照。地裁は略式判決を下す際には、すべての妥当な推論を、被申立人に有利に行なわなければならない。SRI Int’l対Matsushita Elec. Corp., 775 F. 2d 1107, 1116, 227 U.S.P.Q. (BNA) 577, 581(連邦巡回、1985)(大法廷)。
III.
地裁はその略式判決の根拠を、VirusScanをテストしそのコードを解釈した専門家の証言に置く。重大な事実に関する真正な争点についての上訴記録の検討において、本法廷は [*7] 専門家間の不一致を指摘する。McAfeeの専門家Belgard氏は彼の調査に基づき、VirusScanはまずディジタル・データを記憶しそれからウイルスを検閲するので、第’776号特許を侵害していないとの意見を述べた。Hilgraeveの専門家Geske博士は、自分の技術的調査、およびMcAfeeが指定した侵害についての証人Kuo氏の証言録取書を根拠にして、異なる結論に達した。Geske博士は、VirusScanの動作についてのBelgard氏の説明は単純過ぎると表現し、彼のテストは侵害問題について証拠にならないとの意見を述べた。そしてGeske博士は、VirusScanは第’776号特許を侵害していると結論付けた。不一致は必ずしも重大な事実についての真正な争点を生じないが、この記録によれば、専門家の主張が矛盾ているために、重大な事実についての問題が未解決のままである。
専門家はVirusScanの動作をさまざまな方法で説明する。McAfeeの専門家はVirusScanの動作を、段階のつながりとして説明した。このつながりにおいては、まず、(第1段階)アプリケーション・プログラムがすべてのデータを、記憶のために、転送先の記憶媒体上のファイルに転送する。次に、(第2段階)アプリケーション・プログラムがオペレーティング・システムに [*8]、転送されたデータを含むファイルを閉じるように要求する。もしVirusScanが作動していれば、VirusScanはプログラムの、ファイルを閉じるというオペレーティング・システムへの要求を遮断する(第3段階)。Belgard氏によれば、VirusScanが「ファイルを閉じる」という命令を遮断するまでに、要求されたデータはすべて、転送先の記憶媒体上の指定されたファイルに転送され記憶されている。その後、(第4段階)VirusScanはオペレーティング・システムに、アプリケーション・プログラムに代わってファイルを閉じるように要請する。ここで、McAfeeにとって重要なことだが、(第5段階)オペレーティング・システムはファイルを閉じ、アプリケーション・プログラムのために保持していた転送されたディジタル・データを解放し、制御権をVirusScanに戻す。McAfeeの専門家は自分によるテストを根拠に、オペレーティング・システムはこの時点で、ファイルに転送されたすべてのデータを、コンピューター・システムに利用可能にしていると主張した。つまり転送先の記憶媒体、たとえばハード・ディスク・ドライブは、地裁が「記憶」を定義した通りに、すでにデータを完全に「記憶」している。この説明においては、VirusScanは記憶を認めるので、オペレーティング・システムおよび他のすべてのアプリケーション・プログラムは、ウイルスを含んでいるとしてもファイルをコピーし実行することができる。McAfeeによれば [*9]、VirusScanは次の段階でスキャンのみをする(第6段階)。VirusScanは、ウイルスを検出しなければアプリケーション・プログラムに制御権を戻す(第7段階)。ウイルスを検出した場合には(第8段階)、VirusScanはオペレーティング・システムに、ファイルを削除するか、ユーザーが選択可能なオプションを行なうように要請する。最後に、(第9段階)オペレーティング・システムはVirusScanの要請に応えて、ファイルを削除するか選択されたオプションを実行する。
そしてMcAfeeは、その抗弁の根拠を第5段階およびその直前の段階に置いた。McAfeeの専門家によれば、第5段階は、地裁がその用語を定義した通りに「記憶」のプロセスを終わらせる。スキャンは第5段階の後で行なわれるので、この解釈によればVirusScanは第’776号特許を侵害しえない。
Hilgraeveの専門家は、VirusScanの動作を別の形で説明した:
VirusScanは、ファイルI/Oに使われているオペレーティング・システムの「コール−リターン機構」を修正し、コール・プロセス(ユーザー・アプリケーション・プログラムまたは命令)への復帰を禁じる。VirusScanは、感染したファイルを検出した場合、実行するように予め構成されていた動作、つまり感染したファイルの削除または隔離された領域への移動を完了するまで [*10]、システムの制御権を維持する。
この説明においてはVirusScanは、アプリケーション・プログラムが、スキャン・プロセス中、そしてもしかしたらそれ以降もデータにアクセスすることを妨げるように、オペレーティング・システムを操作する。さらにHilgraeveの専門家は、VirusScanが感染したファイルを検出した場合、感染したファイルが削除または隔離されるまではそのファイルの記憶あるいはそれへのアクセスを禁じ続けると主張する。つまり、地裁は「記憶」を、「転送先の記憶媒体上に存在し」、そして「オペレーティング・システムまたはその他のプログラムによってアクセスできる」と定義したので、VirusScanはスキャン前には記憶をしないとHilgraeveは主張する。具体的にはVirusScanは、地裁による「記憶」の定義における、「アクセス可能性」の要素を満たさない。
VirusScanの動作についての専門家の説明の相違は、重大な事実に関する真正な争点を提起する。VirusScanの動作についての異なる説明から生じる、VirusScanと、コンピューターのオペレーティング・システムの相互関係に関する真正かつ重大な矛盾の存在を、記録は示している。さらに記録は、VirusScanの、コンピューターのオペレーティング・システムとの相互関係を、十分には説明していない。McAfeeの専門家は、オペレーティング・システムのVirusScanによる [*11] 抑止あるいは操作を説明していない。その代わりにこの専門家は、VirusScanは感染したプログラムを、ファイルを閉じるためのアプリケーション・プログラムからオペレーティング・システムへの通常の呼び出しによってコンピューター全体が利用できるようにする(侵害を否定する動作)と述べる。しかしHilgraeveの専門家は、VirusScanは感染したプログラムをアクセス不能にするために、オペレーティング・システムと相互作用をすると理解する。いずれの説明が正しいか(あるいはいずれも正しくないか)の判断は、VirusScanプログラムの実際の動作、特にオペレーティング・システムとの相互関係の、事実としての判断を要求する。いずれの当事者の専門家の証言も、この記録の争点を解決するために十分な開示をしていない。
Hilgraeveの専門家は特に、VirusScanの動作についての彼の段階的解釈を「確認」するためにMcAfeeの専門家が提示した3つのテストの有効性と適切さを問題にする。たとえば、これらのテストのすべてで、McAfeeの専門家はVirusScanを、感染したファイルを検出した際にプログラムを停止し、ユーザーにファイルを削除するか否かを尋ねるという「アクション」オプションに設定する。しかし第’776号特許のクレーム1は、発明がウイルス検閲に応えて [*12]、「自動的」に感染していないファイルを記憶するか、感染したファイルの記憶を禁じることを要求する。第’776号特許第17列II. 21 - 29行参照。発明者自身は特許の審査中に、「ユーザーは単に、データの転送を開始する」と、自分の発明はユーザーに、「1段階のみ」を行なうことを要求すると主張した。したがって、感染したファイルの記憶を自動的に禁じないスキャン・プログラムは、第’776号特許を侵害しえない。VirusScanの「アクション」オプションはまた、ファイルを自動的に削除するように設定できるが、McAfeeの専門家は自分のテストを、このモードで使用されるプログラムでテストを行なわなかった。つまりこのテストは、VirusScanが第’776号特許を侵害していないとは証明しえなかった。さらに、記録は専門家の、テストで使われた非自動モードでのVirusScanの動作と、特許でクレームされたモードである自動モードでのその動作との相違についての考察を反映していない。McAfeeの専門家Belgard氏は、「<アクション> オプションがいかに設定されているかに関わらず… 私のテストの結果は等しく適用される」と述べ、この問題について独断している。記録にあるテストもどの分析も、この結論を裏付けていない。[*13] 一方、Hilgraeveの専門家も、「VirusScanのいかなる <自動> 構成に対しても、Belgard氏は自分の <テスト> を再現できないと信じる」との、同様に独断的な意見を提示している。VirusScanのコードについてのその専門家の意見を「確認」するために提出したMcAfeeの唯一の証拠であるそのテストが、非侵害を立証するものだとすれば、その記録は、VirusScanの「アクション」オプションのユーザーの選択が、感染したファイルの記憶またはその禁止のメカニズムに影響しないことを示していなければならない。
「アクション」の効果に関する問題は、VirusScanが第’776号特許を侵害しているか否かという問題にMcAfeeのテストが実際に答え得るのか、疑問を投げ掛ける。第一のテストは、VirusScanをもつコンピュターからもたないコンピューターへの、ネットワークを通じてのファイルの転送が関係していた。第’776号特許は、送信ではなく受信の際に転送されたデータを検閲するシステムを説明する。第’776号特許図6; 第17列I. 17行参照。したがって、かかる転送においては、検閲プログラムは、第二のコンピューターで受信されたときに、そのデータに対して作動できなければならない。上訴の記録は、このテスト構成でかかる動作が可能であったことを示していない。
第二のテストは、[*14] VirusScanをもたないコンピューターのハード・ディスクから、VirusScanが作動しているコンピューター上の転送先媒体であるフロッピー・ディスクへの、ネットワークを通じてのファイルの転送に関係していた。VirusScanはウイルスを検出し、構成されていた通りに、ユーザーに、次に行なうべきアクションを尋ねるプロンプト・ボックスを表示した。この時点で、フロッピー・ディスクのファイルを調べることにより、プロンプト・ボックスが登場したとき、感染されたファイルは記憶されアクセス可能であったことが示された。しかし、このテストで使われた、非自動的な禁止モードのVirusScan自体は、ウイルスの検出時に記憶の自動的禁止を求める第’776号特許を侵害しえない。ここでも、VirusScanの自動機能を無効にしたテストは、VirusScanが自動モードで侵害しているか否かの証明にはならない。
第三のテストは、コンピューターのフロッピー・ディスクから、VirusScanが作動している同一のコンピューター上の転送先媒体であるハード・ドライブへの、感染したファイルの転送に関係していた。VirusScanは感染したそのファイルを検出し、そのように構成されていたので、プロンプトを表示した。McAfeeの専門家はこの時点でプロンプトに応答する代わりに、フロッピー・ディスクを取り除き、コンピューターを再ブートし、[*15] その後で、感染したそのファイルはハード・ドライブに転送されアクセス可能になっていることを発見した。ここでも、第二のテストが証明にならないのと同じ理由で、このテストは侵害分析の争点を解決しない。さらに記録には、第’776号特許の方法にとっての再ブート・プロセスの適切さを専門家が検討したとの証拠は含まれていない。記録には、VirusScan自体の動作に対する再ブート・プロセスの効果、あるいはオペレーティング・システムとの相互関係の検討も記されていない。再ブート・プロセスは、「恒久的」にコンピューターのオペレーティング・システムの通常の機能を終了させるとHilgraeveの専門家は証言した。この専門家によれば、オペレーティング・システムに、感染したファイルへのアクセスを禁じることによって、VirusScanは作動する。したがって、再ブートは通常のオペレーティング・システムを乱すので、争われているテストは、VirusScanがアクセスを阻むか否かは示さない。さらに、この略式記録は、VirusScan自体の動作に対する再ブート・プロセスの影響を明らかにしていない。したがって、このテストも侵害の問題を解決しない。
IV.
両当事者は [*16] 地裁のクレーム解釈に表面上は同意したが、Hilgraeveも、「記憶に先立ち」という表現は、通常のユーザーの観点から解釈されなければならない、つまり、VirusScanによる検閲が記憶の前か後かに関わらず、検閲が記憶前になされるとユーザーが認識するならばVirusScanは侵害していると地裁で論じた。この議論の裏付けとしてHilgraeveは、出願者が審査中に特許商標庁(PTO)に行なった、その出願への修正をサポートし交付に結び付いたコメントに言及する。修正は、中でも、「転送先の記憶媒体への記憶に先立ち」という表現をクレーム1に加えた。Hilgraeve, 70 F. Supp. 2d at 750参照。HilgraeveはPTOへのそのコメントの中で、「出願者の発明は1つの段階しか必要としない。ユーザーはデータ転送を開始するだけである。プログラムは転送中に自動的にデータを検閲する….」と主張した。このコメントは、特許の発明が、プログラムが実際にどう作動するかに関わらず、ユーザーが記憶前の検閲を認識することのみを要求していることを意味すると、Hilgraeveは主張する。
内部証拠の何ものも、プログラムの動作の認識に基づくHilgraeveの論理を裏付けないと [*17]、地裁は正しく認定した。Hilgraeve, 70 F. Supp. 2d at 756参照。発明が、プログラムの動作のユーザーによる認識に関係しているとは、第’776号特許のクレームも他の明細書も示していない。書面での説明は、ある種の特定のエラー・プロトコールに対する検査を指示するために、プログラムとユーザーとの相互関係に対して、何らかの示唆はしている。しかし第’776号特許は、「検閲が記憶に先立ちなされるとユーザーが認識するように」データを検閲する方法をクレームしているのではない。そうではなく、記憶前の実際の検閲の方法をクレームしている。特許権者は技術的方法をクレームしたのであって、認識を伝える方法をクレームしたのではない。
V.
Hilgraeveは「記憶」後にウイルスを検閲する製品による、等価物の法理の下での侵害を請求することを、禁反言で禁じられると地裁は認定した。最初に提出されたときには、第’776号特許に結び付いた出願は、クレーム18を含んでいなかった。クレーム18は、クレームすべての拒絶に対する出願者の最初の応答で追加された。この応答の中で出願者は審査官に、「この発明は、ファイル全体のコピーを阻むことによってだけではなく [*18]….、ウイルスの検出に対応する能力をもつ」と述べた(強調追加)。つまり出願者は、スキャン用プログラムがウイルスを検出したとき、(中でも)ファイル全体のコピーを阻むと述べていた。不完全なファイルは「転送先の記憶媒体には十分に存在せず、オペレーティング・システムやその他のプログラムによってアクセス可能ではない」(消去の他には)ので、特許権者は今、記憶後の検閲を含むクレーム18の等価物の存在を主張することはできない。Hilgraeve, 70 F. Supp. 2d at 748 - 50参照。クレーム1は後の修正において、「転送先の記憶媒体への記憶に先立ち」という表現が加えられ、特許はその後に付与された。Hilgraeveは、「記憶に先立ち」検閲すると特定してクレームを修正したのは、特許を得るためだったと認めている。特許審査中に放棄された事項のいずれの部分も、明示的にクレームされた事項の等価物であっても、取り戻すことはできない。Warner - Jenkinson Co. 対Hilton Davis Chem. Co., 520 U.S. 17, 117 S. Ct. 1040, 1044, 137 L. Ed.2d 146 (1997) 参照。つまり、審査経過の禁反言が、審査経過中に放棄された事項の取り戻しを禁じる。[*19] 追加されたクレーム18を記憶前の検閲に限定し、特に、「記憶に先立つ....検閲」をクレーム1に加えることによって、Hilgraeveは、この修正を含まない、つまり記憶後に検閲するプロセスの等価性による侵害の可能性を放棄した。
VI.
McAfeeの3つのテストも、VirusScanのコードのいずれの専門家による分析も、地裁が定義した「記憶」がVirusScanによるスキャン前に生じているのか後で生じているのかという、基本的な事実問題に答えていないので、本法廷は、地裁による非侵害を認定する略式判決を破棄し、この意見と合致したさらなる手続のために差し戻す。Hilgraeveは特許審査中に、記憶前には検閲しない等価物として、製品を特許侵害で告発するというオプションを放棄したので、本法廷は、「記憶」後にウイルスを検閲する製品は等価物の法理の下では第’776号特許のクレームを侵害しえないとの地裁の判断を維持する。
費用
各当事者が自身の費用を負担する。
一部破棄、一部維持、差戻し。