原告(複数も含む):HILGRAEVE CORPORATION

被告(複数も含む):McAFEE ASSOCIATES, INC.

97-74695

合衆国ミシガン州東部地区地方裁判所南部支部

1999 U.S. Dist. LEXIS 9748

判決1999年6月10日

処分: [*1] 被告による特許権侵害否認のサマリジャッジメントの申立てを認容し、原告Hilgraeveの申立てにおける主張を却下する。

訴訟代理人

原告 − HILGRAEVE CORPORATION側:ミシガン州サウスフィールドBrooks & Kushman法律事務所 弁護士John E. Nemazi、Thomas A. Lewry、Ernie L. Brooks、Robert C. Tuttle

原告 − HILGRAEVE CORPORATION側:ミシガン州ブルームフィールド・ヒルズRader, Fishman法律事務所 弁護士Eric M. Dobrusin、Glenn E. Forbis

被告 − MCAFEE ASSOCIATES, INCORPORATED別名Network Associates側:ミシガン州ブルームフィールド・ヒルズRader, Fishman法律事務所 弁護士R. Terrance Rader、Eric M. Dobrusin

被告 − MCAFEE ASSOCIATES, INCORPORATED別名Network Associates側:カリフォルニア州パロ・アルトWilson, Sonsini法律事務所 弁護士Peter P. Chen、Michael Barclay、David L. Larson、Vera M. Elson、Coleen Bal

申立て人 − C OMP USA, INCORPORATED側:ミシガン州サウスフィールドNedelman, Romzek法律事務所 弁護士Allen M. Wolf

反訴原告 − MCAFEE ASSOCIATES, INCORPORATED側:ミシガン州ブルームフィールド・ヒルズRader, Fishman法律事務所 弁護士R. Terrance Rader、Eric M. Dobrusin、Glenn E. Forbis、George C. Summmerfield

反訴原告 − MCAFEE ASSOCIATES, INCORPORATED側:カリフォルニア州パロ・アルトWilson, Sonsini法律事務所 弁護士Peter P. Chen、Michael Barclay、David L. Larson、Vera M. Elson、Coleen Bal

反訴被告 − HILGRAEVE CORPORATION側:ミシガン州サウスフィールドBrooks & Kushman法律事務所 [*2] 弁護士John E. Nemazi、Thomas A. Lewry、Ernie L. Brooks、Robert C. Tuttle

裁判官: Nancy G. Edmunds合衆国地方裁判所裁判官

判決理由執筆: Nancy G. Edmunds

判決理由: 被告による特許権侵害を否認するサマリジャッジメントの申立てを認容する簡短な判決および命令

本件は、かつてMcAfee Associates, Inc.と呼ばれていた被告Network Associates, Inc.(以下「Network」という)に対し、原告Hilgraeve Corporation(以下「Hilgraeve」という)から提起された特許権侵害訴訟である。1 現在裁判所に提起されているのは、最初の段階でコンピューターのウィルス感染を回避するために、データ転送中、かつ保存先の記憶媒体への格納に先立ち、コンピューター・ウィルスを走査するパーソナル・コンピューター・データ転送プログラムへの改良を提示する、Hilgraeveが所有する米国特許第5,319,776号(以下「特許第''776号」という)の特許権の侵害を否認するサマリジャッジメントを求める被告の申立てである。Hilgraeveは、提訴されている製品VirusScanを使用し、市場投入し、販売したことによって、文言通りおよび均等論のいずれにも基づいて、特許第'776号のクレーム1、2、6および18を侵害しているとして、Networkを提訴している。2

注1 被告はさらに、特許は無効であり、従って侵害は存在しないことを宣言する宣言的判決を求める反訴を、Hilgraeveに対して提起した。

注2 VirusScanのDOS、Windows 95、Windows 98、およびWindows NT版が争点となっている。侵害であるか否かのために、当事者の専門家は、VirusScanのこれらすべてのバージョンが同一の方法によって作動するものであることに同意している。Geske Dep. at 56; Belgard Declの11ページを参照。


すべての特許侵害請求と同様、裁判所は2段階の分析を適用しなければならない。第一に、裁判所は、特許第'776号における係争中のクレーム表現の意味および範囲を解釈しなければならない。次に裁判所は、特許第'776号の適正に解釈されたクレームと、提訴されている製品とを比較して、侵害が文言通りに発生したものか、または均等論に基づいて発生したものかを判断しなければならない。第一段階は裁判所にとって法律問題が関与してくるために、特にサマリジャッジメントに適合している。第2段階は事実問題を提示するものであるが、被告の提訴されている製品VirusScanが特許第'776号を文言通りまたは均等論に基づいて侵害したか否かという問題について、裁判に付託すべき事実問題の争点が存在しないと裁判所が判断した場合は、やはりここでもサマリジャッジメントが適切である。

本裁判所は、特許第'776号の該当するクレーム表現 [*4] を解釈した後、特許権侵害を否認するサマリジャッジメントを求める被告Networkの申立てを認める旨判断した。Hilgraeveは、文言通りまたは均等論に基づき、Networkが特許第'776号を侵害しているか否かについて、裁判に付託すべき重要な事実問題が存在していることを立証する責任を果たさなかった。

I. 事実認定

1994年6月7日に付与された特許第'776号は「安全措置付コンピューター・ウィルスの転送中の検出」と題されている。特許第'776号は、従来技術すなわち、IBMおよびJohn Rex氏によるウィルス検出および走査装置について言及し、コンピューター・ウィルスの蔓延に対処する発明としては最初のものではないことを認めている。特許第'776号のCol. 1, Lines 37-44;Col. 4, Lines 48-58を参照。特許第'776号の明細書では、従来技術の「主要な欠点」、すなわちウィルスを検出し駆除するのではなく、最初の段階でウィルスの攻撃または蔓延を自動的に防止することができない点について対処するために発明が開発されたことが説明されている。従って従来技術との違いを明らかにするために、特許第'776号はデータが転送中、かつ保存先の記憶媒体に格納される前の、「飛行中」に受信されるデジタル・データのウィルスを検査し、[*5] そこでウィルスに感染したデータが格納されないように自動的に防止する。同上の Col. 1, Lines 55-62を参照。

本件については、特許権侵害を否認するサマリジャッジメントを求める被告Networkの申立てが裁判所に提起されている。Hilgraeveは、被告の提訴されている製品VirusScanが類似する方法によって、保存先の記憶媒体に「格納」される前の転送中に受信されるデジタル・データのウィルスを検査することを理由に、特許第'776号の独立クレーム1および18ならびに従属クレーム2および6を侵害していると主張している。一方被告は、提訴されている製品がすべての受信されるデジタル・データの転送後、保存先の記憶媒体に「格納」されて初めて検査を実施すると主張している。従って、個々で提示される重要な争点は、(1) クレーム1および18において、どのような順序で順次ステップが実施されるのか、(2) クレーム1および18において使用される「格納」はどのように解釈されるべきか、(3) 提訴されている製品はウィルスをどの段階で検査するのか、である。

II. サマリジャッジメントの基準

重要な事実について真正な争点が存在せず、申立て当事者が、法律問題として判決を受ける権利を有している場合に限り、サマリジャッジメントが適切となる。連邦民事訴訟規則P. 56 (c)を参照。中心となる疑問は、「証拠が、陪審への付託が要求されるほど十分な意見の不一致を提示する [*6] ものであるのか、または全く一方的なもので、法律問題として一方の当事者が勝訴するようなものであるか否か」ということである。Anderson v. Liberty Lobby, Inc., 477 U.S. 242, 251-52, 91 L. Ed. 2d 202, 106 S. Ct. 2505 (1986) を参照。証拠開示のために適切な時間経過後、かつ申立てに応じて、規則56 (c)は、裁判において証拠を提出する責任を有しており、事件に不可欠な要素の存在を立証できなかった当事者に対して、サマリジャッジメントを命じる。Celotex Corp. v. Catrett, 477 U.S. 317, 323, 91 L. Ed. 2d 265, 106 S. Ct. 2548 (1986) を参照。

申立て人はまず最初に、「重要な事実の真正な争点が欠如」していることを証明する責任を有している。Celotex, 477 U.S. 317, 323, 91 L. Ed. 2d 265, 106 S. Ct. 2548を参照。申立て人がこの責任を果たすと、被申立て人は次に、裁判のために真正な争点が存在することを証明する特定の事実を提出しなければならない。Matsushita Electric Industrial Co., Ltd. v. Zenith Radio Corp., 475 U.S. 574, 587, 89 L. Ed. 2d 538, 106 S. Ct. 1348 (1986) を参照。

真正な争点を実証するために、陪審が合理的に被申立て人のために、「微小証拠」では不十分であるとみなす場合もあるので、被申立て人は、十分な証拠を提出しなければならない。Liberty Lobby, [*7] 477 U.S. 242 at 252, 106 S. Ct. 2505, 91 L. Ed. 2d 202を参照。疑問は、提出された証拠が、該当する証拠的基準を適用する陪審が「合理的に原告または被告のいずれのために認定するか」ということである。Liberty Lobby, 477 U.S. at 255を参照。

III. 分析

本特許権侵害事件は、(1) 特許第'776号の意味および範囲の解釈、ならびに (2) 特許第'776号の適正に解釈されたクレームと被告の提訴されている製品との比較および侵害が発生したか否かの判断、という2段階の分析を要求している。

サマリジャッジメントは、本特許係争事件に適切である。特許権侵害事件における第一段階であるクレームの解釈は、裁判所のみが判断すべき法律問題である。Markman v. Westview Instruments., Inc., 517 U.S. 370, 387, 116 S. Ct. 1384, 1391, 134 L. Ed. 2d 577 (1996) を参照。従って、クレーム解釈の事項は、特にサマリジャッジメントに適合している。Markman v. Westview Instruments., Inc., 52 F.3d 967, 970-7(連邦巡回、1995)(全員法廷)を参照。

本特許係争事件の第二段階は、事実問題を提示している。被告の提訴されている製品VirusScanが、文言通りまたは均等論のいずれかに基づき特許第'776号を侵害しているか否かという問題 [*8] について、裁判に付託すべき事実問題が存在しないと裁判所が判断した場合でも、略式裁判が適切である。Wolverine World Wide, Inc. v. Nike, Inc., 38 F.3d 1192, 1200(連邦巡回、1994)Johnston v. IVAC Corp., 885 F. 2d 1574, 1576-77(連邦巡回、1989)を参照。

A. クレームの解釈

1. 一般的原則

最高裁判所は最近、「特許の解釈は、そのクレーム内の専門用語を含めて、専属的に裁判所の管轄に帰属するものである」と明言した。Markman v. Westview Instruments., Inc., 517 U.S. 370, 372, 116 S. Ct. 1384, 1387, 134 L. Ed. 2d 577 (1996) を参照。争点となっているクレーム表現を解釈するに当たって、裁判所はまず、特許のクレーム、明細書、および証拠にある場合には出願経過、という内部証拠の3つの原点を検討しなくてはならない。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90 F.3d 1576, 1582(連邦巡回、1996)Markman, 52 F.3d at 979を引用)を参照。

まず裁判所は、異議申立てがなされているクレームにおける表現を検討する。用語は、「一般的に、その通常のおよび通例の意味を与えられている」が、「特許権者は、用語の特別の定義が特許明細書もしくは出願履歴に明確に記載されるている限り [*9]、自分自身で独自の辞書を編纂し、通常の意味以外の方法によって用語を使用することを選択できる。」Vitronics Corp., 90 F.3d at 1582を参照。裁判所はさらにガイダンスのために、特許の他のクレームを参照することができるが、狭義のクレームの制限を、広義のクレームに解釈することは許されていない。SRI Int'l v. Matsushita Elec. Corp. of Am., 775 F.2d 1107, 1122(連邦巡回、1985)(全員法廷)を参照。

次に裁判所は、特許の明細書を審査する。明細書は発明を書面にて説明する事項を含んでおり、当業者がその発明を実施し使用できるように明瞭でかつ完全なものでなければならない。「クレーム解釈のために、説明は一種の辞書となることができ、発明を説明し、かつクレームにおいて使用される用語を定義できるものである。」Markman, 52 F.3d at 979を参照。明細書は常に、クレーム解釈の分析に密接に関連しており、「クレームは、そのクレームが一部を構成する明細書との関連において解釈されなければならない。」同上を参照。

通常、特許明細書は、争点となっている用語の意味に対しての唯一かつ最高のガイドとなるものである。Vitronics, 90 F.3d at 1582を参照。連邦巡回控訴裁判所は、明細書に記載される事例が必ずしもクレームの範囲を限定しないにもかかわらず [*10](Transmatic, Inc. v. Gulton Indus., Inc., 53 F.3d 1270, 1277(連邦巡回、1995)を参照のこと)、明細書に記載された好ましい実施例を除外するクレームの解釈は、正確でない可能性があると述べている。Hoechst Celanese Corp. v. BP Chemicals Ltd., 78 F.3d 1575, 1581(連邦巡回、1996)、裁判所による意見確認にて否認519 U.S. 911, 117 S. Ct. 275, 136 L. Ed. 2d 198 (1996) を参照。

最後に裁判所は、証拠に記載されている場合に、特許の出願経過を検討し、特許のクレームにおいて使用されている用語の意味について、特許権者による表明事項を調査する。Markman, 52 F.3d at 980を参照。「出願経過は、審査の過程において請求が放棄された解釈を排除するように、クレームの用語の解釈を制限する。」Southwall Technologies, Inc. v. Cardinal IG CO., 54 F.3d 1570, 1576(連邦巡回、1995)裁判所による意見確認にて否認、516 U.S. 987, 116 S. Ct. 515, 133 L. Ed. 2d 424 (1995)(出典省略)を参照。裁判所はまた、経過にて引用されている従来技術を、争点となっているクレームが対象としない事項についての手がかりとみなすこともできる。Vitronics, 90 F.3d at 1538(出典省略)。しかし、出願経過は「クレームにおける制限を拡大し、縮小し、または変更する」ために使用できないものである [*11]。Markman, 52 F.3d at 980(内部引用および出典省略)を参照。

内部証拠のこれら3つの原点を検討した結果、クレームの意味が明瞭であれば、裁判所は外部証拠を検討しない。Vitronics, 90 F.3d at 1583を参照。「特許権者のクレームは公共記録を構成するものであり、公衆はこの記録を信頼する権利がある」ために、特許のクレーム、明細書および出願経過には優先順位が与えられる。同上を参照。Vitronicsの裁判所は以下のように説明している。

ほとんどの状況において、内部証拠の分析だけでも争点となっているクレーム用語の不明瞭さは解決される。このような状況では、外部証拠を信頼することは、不適切である。公共記録による特許が付与された発明の範囲の説明が不明瞭である場合は、外部証拠を信頼することは不適切である。外部証拠ではなく、クレーム、明細書および出願経過が、特許権者のクレームの公共記録を構成し、公衆はこの記録を信頼する権利がある。換言すれば、競業者は公共記録を検討し、クレーム解釈について設定された規則を適用し、特許権者が請求した発明の範囲と [*12]、これによって請求されている発明に関わる構想を確認する権利を有している。裁判において取り上げられた外部証拠によって公共記録が改正または変更されることを許可すると、この権利を無意味なものにしてしまう恐れがある。請求の範囲を変更しようとしているのが特許権者、または侵害があったと申立てられている側のいずれであっても、これが有効である。

同上を参照(内部出典および引用省略)。

しかしながら裁判所は、外部証拠が争点となっているクレームの意味と範囲を確認することにおいて、裁判所を援助するものであると判断した場合は、外部証拠を検討することもある。同上を参照。Markmanの裁判所は以下のように説明している。

外部証拠は、専門家および発明者の証言、辞書および習得した専門文献をはじめとした特許および出願経過の外部にあるすべての証拠から構成されるものである。この証拠は、特許および出願経過に記載される科学的な原則、技術用語の意味、および専門用語を説明する助けになることができる。外部証拠は、発明時における従来技術の状況を実証することができる。新規のものと区別し、特許の解釈について裁判所の援助となるために、その時点で何が旧式であるかを提示する場合にも有用である。

52 F.3d at 980(内部引用および出典省略)[*13]

Markmanの裁判所は、裁判所は対立する証拠を検討することができるが、クレーム解釈は裁判所にとって、依然として法律問題であることを強調した。

とりわけ、裁判所が有用であるとみなすある種の外部証拠を使用して、その他の証拠を無用であるとして拒否し、特許文書それ自体に基づいて、法律問題としてクレームの表現の意味を宣言する途上にて紛争を解決することによって、クレームを解釈するというこのプロセスを通じて、裁判所は、ある種の証拠を他の証拠よりも優先したり、事実上の証拠認定を行ったりはしない。それよりも、実施が要求される任務である書面文書の解釈に当たって、裁判所は外部証拠にその援助を期待している。地方裁判所によるクレーム解釈は、有用な外部証拠によって明らかにされても、依然として特許および出願経過に基づいているものである。したがって依然として解釈の問題であり、法律問題なのである...(強調表現は原文のまま)。

同上のat 981を参照。裁判所はさらに特許権者の証言を検討し、特許権者の弁護士は「請求の適正な解釈に基づいて」、「いかなる意見の服従にも」権利を有していないが、これは、「法律上の意見に過ぎず、[ならびに][*14] これはまさしく、裁判所が引き受けるべき解釈プロセス」である。同上を参照。つまり、「裁判所は、専門家による法律上の意見を自身の意見として採用し、そこからガイダンスを探し出すか、もしくはすべてを無視するか、またはそれを排除するかについて完全な決定権を有している」が、「クレームの意味を変更するために」外部証拠を信頼することはできない。同上を参照。

ここで、裁判所はクレーム解釈という任務を遂行するために、外部証拠を照会する必要がないものと判断している。特許第'776号のクレーム、明細書、図案、および証拠にある場合に出願経過の該当する部分を検討するだけでも、争点となっているクレームの表現を、裁判所に適正に解釈させるためには十分である。

2. 争点となっているクレームの解釈

特許第'776号は、パーソナル・コンピューターのデータ転送プログラムについての改良点を開示している。請求されている従来技術への改良点は、まず第一に、ウィルスに感染されていないデジタル・データを保存先の記憶媒体に転送することによって、最初の段階においてコンピューター・システムにコンピューター・ウィルスが侵入し、感染させることを防止するという、発明の能力にある。3 特許第'776号は受信されるデジタル・データの転送中で、保存先の記憶媒体への格納に先立ち、コンピューター・ウィルスを走査し [*15]、走査ステップに対応して、自動的にウィルスに感染しているデータが格納されるのを防止し、自動的にウィルスに感染していないデータを格納するための方法を開示している。4 ここで争点となっているのは、特許第'776号のクレーム1、2、6および18である。クレーム1および18は独立クレームであり、クレーム2および6は従属クレームである。5 従ってNetworkの提訴されている製品が独立クレームのいずれをも侵害しないとする認定は、原告の主張を棄却するものである。Desper Products, Inc. v. QSound Labs, Inc., 157 F.3d 1325, 1338 n.5(連邦巡回、1998)London v. Carson Pirie Scott & Co., 946 F.2d 1534, 1539(連邦巡回、1991)を参照。

注3 特許第'776号の明細書では、請求されている発明が「コンピューター・ウィルス検出を転送中に行うことによって、多数のウィルス・シグネチャーが『飛行中に』同時に検査することができる」こと、および「最初の段階で、ウィルスがコンピューターに進入することを」妨げることによって、従来技術の問題点を解決していると主張されている。特許第'776号Col. 1, Lines 45-62を参照。

注4 特許第'776号の明細書では、「1つもしくはそれ以上の[ウィルス]シグネチャーが検出された場合は、受信されるビットストリームが保存されるはずであるファイルが閉鎖もしくは中途終了され、ウィルスは記憶媒体に常駐するための位置を確保しない」と開示されている。同上のCol. 1, Lines 65-69, Col. 2, Line 1(強調表現は引用者が追加)を参照。したがって特許第'776号の発明の改良点は、転送中に、かつ受信されるデジタル・データが保存先の記憶媒体に格納される前に、ウィルスを走査し、最初の段階において、該当するコンピューター・システムがウィルスに感染するのを防ぐ能力にある。

注5 Hilgraeveは、クレーム2および6がクレーム1に従属しているとの被告の主張に対して異議を申立てていない。

当事者の争点は、クレーム1および18に含まれる表現の意味と範囲に焦点を合わせている。6 この争点を解決するために、裁判所はこれらのクレームを解釈し、開示された順次ステップが講じられる特定の順序を確認し、クレーム1および18において使用されている「格納」および「格納前」の語を定義しなければならない。

注6 本争点は、以下に特記される表現の意味および範囲に集中している。


クレーム1は以下の通りに記載されている。

1.     コンピューターの記憶媒体に格納するデジタル・データを転送するためのシステムにおいて、転送中のデータを検査し、少なくとも1つのあらかじめ定義されたシーケンスを含む検査済みデータの格納を自動的に禁止する方法であって、

ソース記憶媒体上に常駐する多量のデジタル・データを、保存先の記憶媒体を有するコンピューター・システムに転送させるステップと、

保存先の記憶媒体に格納される前に、転送されたデジタル・データを受信および検査し、あらかじめ定義された複数のシーケンスのうち少なくとも1つが、受信されたデジタル・データに存在するか否かを判断するステップを含む方法であって、

さらに、前記検査ステップに対応して、

(a)    あらかじめ定義された複数のシーケンスのうち1つも存在しない場合には、自動的に、検査済みデジタル・データを前記保存先の記憶媒体に格納させ、

(b)   少なくとも1つのあらかじめ定義されたシーケンスが存在する場合には、自動的に、検査済みデジタル・データを前記保存先の記憶媒体に格納させることを防止する方法。

特許第'776号のCol. 17, Lines 9-29を参照のこと(強調表現は引用者が追加)。

クレーム18は以下の通りに記載されている。

18.   記憶媒体を有するコンピューターに、コンピューター・ウィルスが蔓延することを防止する方法であって、

前記コンピューターが、前記記憶媒体に格納するためにデジタル・データのストリームを受信する一方で、それぞれが識別可能なデジタル・シーケンスを含む複数のウィルス・シグネチャーを同時に走査するステップと、

前記走査ステップからウィルスを検出したことを明示するステップと、

前記ウィルス・シグネチャーの1つでも探知されると、前記デジタル・ストリームが前記記憶媒体に格納されることを自動的に防止するステップを含む方法。

特許第'776号のCol. 28, Lines 45-57を参照のこと(強調表現は引用者が追加)。


当事者は、運用の順次ステップを開示する方法クレームが存在していること、およびステップが特定の順序で実施されなければならないことに合意している。原告の訴答4, n.5を参照。開示された順序は以下の通りである。(1) デジタル・データの受信中もしくは「転送中」で、かつ保存先の記憶媒体への格納前に、受信されるデジタル・データについて、まずウィルス検査が行われ、(2) 検査ステップに対応して、ウィルスに感染しているデジタル・データは自動的に格納が防止され、一方ウィルスに感染されていないデータは自動的に格納される。

クレーム1および18が、転送中、かつ保存先媒体への格納前にウィルスの検査が完了されることを要求しているために、裁判所はこれらのクレームにおいて使用されている「格納」という語の意味を解釈しなければならない。当事者は基本的には格納の意味について合意している。7 本裁判所は、「格納」を以下の通りに解釈する。格納は、受信されるデジタル・データが保存先の記憶媒体に十分に存在し、オペレーティング・システムもしくはその他のプログラムによってアクセス可能であるときに発生し、これによってウィルスがデータに含まれている場合には、ウィルスがコンピューター・システムに拡散し、これを感染させることができる状態である。内部証拠、すなわち特許第'776号のクレームの表現、明細書、[*18] 図面、および出願経過は、裁判所によるクレーム1および18の解釈を支持している。「格納前」は通常のユーザー視点から解釈されるべきであるとのHilgraeveの主張の範囲において、この解釈を支持する内部証拠は存在していない。「格納前」がユーザーの主観的視点から解釈されるべきであるという主張を支持する点は存在しない。このように表現を解釈することは、クレーム1および18の範囲を不当に拡張し、Hilgraeveがその存在を認め、特定の順序によって実施されるべきであることを認めている順次ステップのそれぞれを実質上削減し、重要な予防的かつ顕著な特徴、すなわちデジタル・データの転送中で、かつ「保存先記憶媒体への格納前の」ウィルス検査という特徴を、特許第'776号から実質上除去してしまうことになるであろう。

注7 Hilgraeveは、格納が「受信ファイルまたはデータが保存先のディスク媒体に十分に存在し、ウィルスが蔓延し、システムを感染することが可能な状態のときに」発生することを、裁判所が認めるように主張している。原告の訴答 (i)、4、7を参照。同様に被告も、格納が「デジタル・データが保存先媒体に書き込まれ、そこに常駐し、オペレーティング・システムもしくは他のプログラムによってアクセスが可能な状態であり、データに含まれるウィルスがコンピューター・システムのいたるところに蔓延可能な状態」の時に発生することを、裁判所が認めるように主張している。被告の答弁書2を参照。


クレーム1に教示されているように、受信デジタル・データはまず、受信中でかつ「保存先の記憶媒体への格納の前に」、ウィルス検査が行われ(特許第'776号Col. 17, Lines 17-18を参照のこと)、次に「前記検査ステップに対応して」、「検査済みデジタル・データ」にウィルスが検出されなかった場合には、自動的に「保存先の記憶媒体に格納され」るかまたは、検査ステップ中にウィルスが検出された場合には、自動的に「保存先の記憶媒体に格納されること」を防止する。同上のCol. 17, Lines 22-29を参照。

同様にクレーム18は、類似するシーケンス・ステップを有する方法の請求について開示している。特に、特許第'776号の発明はまず、「前記記憶媒体に格納するためにデジタル・データのストリームを受信する一方で」、「同時に」「複数のウィルス・シグネチャー」を走査する。同上のCol. 18, Lines 48-52を参照。次に、「前期検査ステップから」ウィルスが検出された場合には、ウィルスが検出されたことを明示するインジケータが提供される。同上のCol. 18, Lines 53-54を参照。最後に、ウィルスが検出されると、特許第'776号の発明は、「前記デジタル・ストリームが前記記憶媒体に格納されることを自動的に防止する」。同上のCol. 18, Lines 55-57を参照。したがって、クレーム1 [*20] およびクレーム18は、デジタル・データが受信中もしくは転送中で、かつそのデータが保存先の記憶媒体に格納される前に、ウィルス検査または走査が実施されることを教示している。

特許第'776号の明細書は、そこに説明され図示される実施例を含み、このクレームの解釈を確証している。これらには、クレーム1および18の順次ステップが以下の通りに実施されるものであることが開示されている。第1に伝送ステップである。ここでは、デジタル・データを1つのコンピューター記憶媒体から別のコンピューター記憶媒体に伝送させる。第2に処理および検査ステップである。ここでは、受信デジタル・データが受信され、「転送中」に、かつ保存先の記憶媒体への格納前にコンピューター・ウィルス検査が行われる。第3に防止ステップである。ここではステップ (2) において実施された検査に対応して、ウィルスに感染されていないデジタル・データが、自動的に保存先記憶媒体に格納され、ウィルスに感染されているデジタル・データについては、自動的に保存先記憶媒体への格納が防止される。同上のCol. 2, Lines 17-34を参照。

処理および検査ステップ(ステップ2)はここでは極めて重要であり、特許第'776号の図1および2において図示される実施例とともに検討することによって、最も良く理解される。これらの例では、[*21]「2台のコンピューター・システム間の通信リンク上で伝送されるデータが、その転送中に発明を使用して検査されるようなデータ通信システム」の図、(同上のCol. 2, Lines 59-64を参照。)「転送中の検出プロセスの総括的なフロー図」(同上を参照のこと)、および「転送中のデータを検査するための発明を使用したファイル・コピー機構(同上のCol. 2, Lines 65-66を参照のこと)が提供される。以下は、2台のコンピューター・システム間の通信リンクを使用する発明を図示する特許第'776号の図面である。

[原本の図面を参照のこと]

明細書に説明されている通りに、受信データ・ストリームは、「CPU[中央演算処理装置]18bによって、RAM20の一部を構成するインプット・バッファー30に配置される。」同上のCol. 3, Lines 64-67を参照。従来技術と異なり、発明によるエラーおよびウィルス検査プロセスは、ステップ32において実施される。したがって特許第'776号においては、「ほとんどのコンピューター・オペレーティング・システムのバッファー・データが記憶媒体に書きこまれる」場所であるバッファー38に到達する前に、受信データが検査される。同上のCol. 4, Lines 46-47;Col. 4, Lines 24-26を参照。特許第'776号の明細書は以下の通り開示している。

一般的に、インプット・バッファー[*22] 30は、コンピューター・システム12によって通信ライン26上を伝送された1つもしくはそれ以上のデータ・ブロックを保持するように設計されている。インプット・バッファー30のデータについて、巡回冗長検査(CRC)もしくはその他のエラー・チェックが実施される。伝送エラーが探知されると、多くの通信プロトコルはエラーを含むブロックを送り返す。

受信データ・ストリームのエラー・チェックが完了し、インプット・バッファーがいっぱいになると、通常のデータ通信システムでは、バッファー30のデータが保存先媒体24bに格納される。本発明はこの段階で介入し、バッファーされたデータについて、32で描写される文字ごとのウィルス・シグネチャー列の走査分析を実施する。

同上のCol. 3, Lines 67-68;Col. 4, Lines1-13(強調表現は引用者が追加)を参照。

好ましい実施例においては、特許第'776号において開示される「列走査ルーチン」はステップ32において実施され、かつあらかじめロードされた有限状態テーブル34に基づく有限状態マシーンを使用して実行されるが(同上のCol. 4, Line 1を参照のこと)、これはウィルス・シグネチャーとの一致を調査することによって、受信される各文字を検査するものである。同上のCol. 5, Lines 2-21を参照。データ・ブロック [*23] が伝送され、ウィルスが走査され、かつウィルスに感染していなかった場合には、指定された受信ファイルに格納されると、次のデータ・ブロックが転送され、プロセスが繰り返される。同上のCol. 6, Lines 22-68;Col. 7, Lines 1-14を参照。「転送中の」走査ステップに対応して、転送されているデータ・ブロックにウィルスが検出された場合には、「当然ながら転送は中途でキャンセルとなる。」同上のCol. 6, Lines 14-16を参照。さらに、「転送中にウィルスが検出された場合には」、ファイル中のデータは、上書きすることによって除去もしくは削除できる。同上のCol. 6, Lines 24-31(強調表現は引用者が追加)を参照。「安全性を強化するために、既に書き込まれたファイルは、いかなるウィルスも残留していないことを保証するために、1もしくは0によって上書きができる。同上のCol. 2, Lines 1-3を参照。

特許明細書ではさらに、32における受信ウィルス走査ステップで「ウィルス・シグネチャーが探知された」場合には、「ユーザーは通常、コンピューター・システムのモニター上に表示される適切な警告メッセージによって、ステップ36で警告を発せられ」(同上のCol. 4, Lines 16-19を参照のこと)、保存先媒体24bへのデータの格納は終了し、受信ファイルは解除されるか、もしくは上書きされるようにマークされる [*24]。同上のCol. 4, Lines 19-22を参照。しかしながら、「ウィルス・シグネチャーが検出されなかった場合には、38および40において描写されるように、保存先媒体24b上にデータが格納される。」同上のCol. 4, Lines 23-24を参照。

したがって、ウィルスに感染されていないデジタル・データのみが、保存先の記憶媒体40に格納される途中に、バッファー38を通過する。ウィルスに感染しているデジタル・データは自動的に格納を防止される。ウィルスに感染したデータは、ストリームの途中で転送が妨害され、ウィルス・シグネチャーが受信データ・ブロックにおいて検出されたことをユーザーに通知するフラグを始動させ、転送を中途で終了させるか否かを判断しなければならないことをユーザーに通知する。転送が終了されると、ウィルスに感染したデータはバッファー38に到達する前に停止し、決して保存先記憶媒体40に格納されない。さらに、バッファーを通過し、保存先の記憶媒体上に格納されたウィルスに感染していないデータ・ブロックは、抗ウィルスの安全対策を強化するために上書きすることによって、除去もしくは削除することができる。

総じて係争中の特許第'776号は以下の通りに運用される。本発明では、ソース媒体から保存先媒体へのデジタル・データの転送中に [*25]、バッファー30において多量のデータが受信される。本発明では、ウィルス・シグネチャーなどのあらかじめ定義されたデジタル・シーケンスが存在するかどうかについて保存先媒体40上にデータが格納される前に、バッファー30においてデータが走査される。あらかじめ定義されたシーケンスがデジタル・データにおいて発見された場合には、バッファー30のデータは、保存先の記憶媒体への格納を防止される。あらかじめ定義されたシーケンスがデジタル・データにおいて発見されなかった場合には、ウィルスに感染されていないデータは、バッファー30から保存先の記憶媒体上のファイルに転送され、そこに格納される。受信されるデジタル・データ・ブロックに、あらかじめ定義されたシーケンスがその後になって検出された場合は、既に格納されたウィルスに感染されていないデジタル・データ・ブロックは、抗ウィルスの安全対策を強化するために除去もしくは上書きすることができる。

同様に特許の出願経過は、クレーム1および18の順次ステップが実施される順序についての裁判所の解釈と、裁判所の「格納」についての解釈を支持している。裁判所は、「出願経過は、審査において特許請求が放棄された解釈を除外するように、クレームの用語の解釈を制限する」ことを意識している。Southwall Technologies, 54 F.3d at 1576を参照。裁判所は [*26] はさらに、出願経過にて引用されている従来技術を、争点となっているクレームが対象としない事項についての手がかりとみなすことできることについても意識している。Vitronics, 90 F.3d at 1583を参照。しかしながら裁判所は、出願経過を利用して、「クレームにおける制限を拡張し、削減しまたは変更する」ことができない。Markman, 52 F.3d at 980(内部引用および出典を削除)を参照。以下の出願経過によって、走査ステップにおいて、「保存先の記憶媒体への格納前に」という要件が、特許第'776号と従来技術の相違を識別するために追加されていることが明らかとなる。

当初出願されたように、クレーム1では、少なくとも1つのあらかじめ定義されたシーケンスもしくはウィルス・シグネチャーを含むデータを特定し、その格納を防止するための方法が開示されている。クレーム1の走査ステップの最終的な補正版と異なり、保存先の記憶媒体への格納前に、ウィルス走査が実施されるというシーケンスの制限が存在しなかった。被告の証拠文書11、1990年4月19日付特許出願25を参照。

1991年10月24日付第一回特許庁通知において審査官は、既に存在するNagata他の特許(第4,979,210号)に鑑みた自明性により、米国特許法第103条に基づき特許権付与できないものとして、すべてのクレームを拒絶した。被告の証拠文書 [*27] 12、1991年10月24日付、特許商標庁の通信文書3を参照。米国特許法第112条第35項、第2パラグラフ「出願人が発明であるとみなす主題を、特に指摘し、かつ明瞭に請求しないがために不明確であるため」に基づいて、すべてのクレームは同様に拒絶された。同上の8を参照。

出願人はこれに対応して、以下の1991年11月7日付の補正書を提出した。8

1.     (補正済み)コンピューターの記憶媒体に格納するデジタル・データを転送するため[伝送を受信するため]の[データ転送]システムにおいて、少なくとも1つのあらかじめ定義されたシーケンスを含むデータの[特定をし、]格納を防止するための方法であって、

ソース記憶媒体上に常駐する多量のデジタル・データ[の伝送]を、保存先の記憶媒体を有するコンピューター・システムに伝送するステップと、

あらかじめ定義された[シーケンスが]複数のシーケンスのうちの少なくとも1つが、受信された[伝送]デジタル・データに存在するか否かを判断するための[伝送]伝送されたデジタル・データの処理およびプロセスのためのステップを含む方法で、

かつ前記処理ステップに対応して、

(a)    あらかじめ定義されたシーケンスが1つも存在しない場合には、前記転送デジタル・データを、前記保存先の [*28] 記憶媒体に格納させ、

(b)   少なくとも1つのあらかじめ定義されたシーケンスが存在する場合には、前記転送デジタル・データを前記保存先記憶媒体に格納させることを防止する方法。

被告の証拠文書13、1991年11月7日付補正書2、4-5を参照。クレーム18が新規クレームとして追加された。同上の4を参照。

注8 特許庁の慣行にしたがって、削除は括弧内に、追加は下線で示されている。米国特許施行規則第1,121条第37項を参照。

出願人はさらに、従来技術と異なり特許第'776号の発明が、転送中にウィルスの走査を実施し、最初の段階でコンピューター・システムをウィルス感染から防止するわけであるから、第103条に基づく自明性を理由とした審査官の拒絶が不適切であると主張している。

ウィルス走査プログラムが存在しているにもかかわらず、既に格納されたファイルを走査するのであれば、問題に対する効果的な回答を提供しない。換言すれば、コンピューター・ウィルスには、ウィルスを含むファイル [*29] が走査される前に、攻撃し、変化させ、また拡散する機会があるわけである。対照的に本発明は、デジタル・データ・ファイルが転送中にウィルス・シグネチャーの検査方法を提供することによって、この問題に対する実際の、かつ完全なソリューションを提供しており、受信するコンピューターは、最初の段階で感染から完全に保護されている。

重要なことに、本発明は、デジタル・データを受信中に多数のウィルス・シグネチャーを同時に検査する能力を有している。... 本発明は、完全なファイルのコピーを防止するだけでなく、消去のためにファイルをマークし、さらにオペレーターの選択によってコピーされたファイルの一部を上書きすることによって、ウィルスの検出に対応する能力も有している。

同上の6-7を参照(強調表現は原文のまま)。

審査官は出願人の主張に同意をせず、1992年2月13日付の次回特許通知において、前回の拒絶を継続し、それを最終とした。被告の証拠文書. 14、1992年2月13日付特許商標庁の通知文書4を参照。ここでは、第103条に基づくすべてのクレームの拒絶が、従来技術、すなわちIBMのウィルス・スキャニング・プログラムおよびJohn Rex氏の「多数 [*30] 列のための同時走査」に鑑みていること、これらの従来技術への参照の組み合わせは、特許第'776号出願のクレーム1および18ならびにその他の特徴をすべて開示しているという事実に基づいていることが説明されている。唯一欠如している特徴、すなわち保存先媒体でのデータの格納もしくは格納の防止について、審査官は、コンピューター・システム上に検出されたウィルスが格納されることを防止するために自明であるとみなした。同上の5-6を参照。

インタビューは1992年6月19日に行われ、特許性についてのいかなる合意にも達しなかった。被告の証拠文書15、1992年6月19日付特許商標庁のメモを参照。その後1992年8月に、出願人は、発明者の1人であるMatthew Gray氏の宣言書と共に、提案された補正書を提出した。提案された補正事項は、審査官が新規事項を提起しているとして、通過しなかった。被告の証拠文書 16、1992年8月13日付補正書、証拠文書 17、1992年8月12日付のMatthew H. Gray氏の宣言を参照。その後出願人は継続申請を提出し、補正書を再提出し、クレームは許可された。この通知によって、クレーム1および18は以下の通り補正された。9

1.     (第二回目の補正済み)コンピューターの記憶媒体に格納するデジタル・データを転送するためのシステムにおいて、転送中のデータを検査し [*31]、少なくとも1つのあらかじめ定義されたシーケンスを含む検査済みデータの格納を自動的に防止する方法であって、

ソース記憶媒体上に常駐する多量のデジタル・データを、保存先の記憶媒体を有するコンピューター・システムに[伝送]転送させるステップと、

保存先の記憶媒体に格納される前に、[伝信]転送されたデジタル・データを受信および[処理し]検査し、あらかじめ定義された複数のシーケンスのうちの少なくとも1つが、受信されたデジタル・データに存在するか否かを判断するステップを含む方法であって、

かつ前記[処理]検査ステップに対応して、

(a)    あらかじめ定義されたシーケンスが1つも存在しない場合には、自動的に、[前記伝信]検査済みデジタル・データを前記保存先の記憶媒体に格納させ、

(b)   少なくとも1つのあらかじめ定義されたシーケンスが存在する場合には、自動的に、[前記伝信]検査済みデジタル・データの前記保存先の記憶媒体への格納を防止する方法。

****

18.   (補正済み)記憶媒体を有するコンピューターへの、コンピューター・ウィルスの蔓延を防止する方法であって、

前記コンピューターが、前記記憶媒体に格納するためにデジタル・データ・ストリームを受信する一方で、それぞれが識別可能なデジタル・シーケンスを含む複数のウィルス・シグネチャーを同時に [*32] 走査するステップと、

前記走査ステップからウィルスを検出したことを示すステップと、

前記ウィルス・シグネチャーの1つでも検出されると、前記デジタル・ストリームの前記記憶媒体への格納が自動的に防止されるステップを含む方法。

被告の証拠文書16、1992年8月13日付補正書1-2、4を参照。

注9 追加された表現は下線を付けてある。

ここで重要なのは、走査が「保存先の記憶媒体への格納の前に」実施されるという、走査ステップにおける要件の追加である。

Gray氏の宣言は、特許第'776号の独自の特徴が、デジタル・データが転送中に多数のウィルス・シグネチャーについて走査する能力と、およびウィルスが検出された時点で、かつ「ウィルスがシステムにコピーされる前に」転送をストリームの中途で停止させる能力にあることを強調している。被告の証拠文書17、1992年8月12日付Gray氏による宣言書P 4を参照。[*33] ウィルスに感染したデータをコンピューター・システム上にコピーし、格納することを最初の段階で防止するために、特許第'776号の発明は「コンピューター・ウィルスに対する最良の保護の方法」である。同上を参照。この予防的な特徴は、従来技術が「ハード・ディスク・ドライブのようなコンピューターの記憶媒体から感染したファイルを」走査し、検出しその後これを除去することに対して、特許第'776号を識別するものである。同上のP 3を参照。またこれは、特許第'776号を、被告の提訴されている製品VirusScanから識別する主要な特徴でもある。

クレーム1および18における表現を適正に解釈した結果、裁判所は、同一の方法によるステップを実施することによって、被告の提訴されている製品がHilgraeveの特許第'776号を侵害しているか否かという問題を提起した。

B. 侵害

クレーム解釈と異なり、侵害問題は陪審員にとっては事実問題であり、かつ「特許権者は、証拠の優越によって侵害を証明する責任を有している。」Laitram, 939 F.2d 1533 at 1535を参照。しかしながら、特許権者が侵害問題について、重要な事実の真正な争点を提起せず、侵害があったとされた被告人が [*34]、法律問題として判決を受ける権利を有していると裁判所が判断した場合は、侵害を否認するサマリジャッジメントが適正に認められる。Wolverine, 38 F.3d at 1196Johnston, 885 F.2d at 1576-77を参照。Hilgraeveは、保存先の記憶媒体上への格納前にウィルスを走査することを理由として、被告が文言通り、および均等論のいずれにも基づいて特許第'776号を侵害したと主張している。裁判所は、これらのクレームを個別に分析する。

1. 文言通りの侵害

連邦巡回控訴裁判所の所見のとおり、「重要な事実の真正な争点が存在しない場合、特に、適正に解釈されたクレームに説明されるそれぞれの制限事項が、提訴されている装置に存在するか否かについて、合理的な陪審員が判断できない場合に、文言通りの侵害問題は、サマリジャッジメントに基づいて適正に判断される。」Bai v. L & L Wings, Inc. 160 F.3d 1350, 1353(連邦巡回、1998)を参照。本件において、被告の提訴されている製品VirusScan注10は、クレームの制限のすべてを文言通りに満たしてはいない。したがって法律問題として、文言通りの侵害は存在せず、被告は本クレームについて、サマリジャッジメントを受ける権利を有する。

注10 VirusScanのDOS、Wiondows 95、Windows 98、およびWindows NT版が争点となっている。侵害であるか否かのために、当事者の専門家は、VirusScanのこれらすべてのバージョンが同様に作動するものであることに同意する。Geske Dep. at 56; Belgard Declの11ページを参照。


侵害が発生したか否かを判断するために、裁判所は特許第'776号の適正に解釈されたクレームを、被告の提訴されている製品と比較する。Hilgraeveは、被告の提訴されている製品VirusScanが、類似する方法によって、受信デジタル・データの転送中で、保存先の記憶媒体への「格納」の前に、このデータのウィルスを走査することを理由として、VirusScanが特許第'776号のクレーム1およびクレーム18を侵害していると主張している。一方被告は、提訴されている製品がすべての受信デジタル・データを転送後、かつ保存先の記憶媒体への「格納」後に、はじめて走査を行うものであると主張している。従って、本件において提示される重要な争点は、提訴されている製品はウィルス走査を実施するか否かではなく、どの段階で実施するのかということである。

被告は、提訴されている製品VirusScanが「転送中にデータを走査する」または「保存先の記憶媒体への格納前に、転送デジタル・データを受信し、走査する」(クレーム1)というクレームのステップを実施せず、「前記コンピューターが、デジタル・データ・ストリームを受信する一方で、・・・複数のウィルス・シグネチャーを走査する」(クレーム18)ステップを実施しないと主張している。むしろ被告は、提訴されているVirusScanが、すべてのデジタル・データが転送され、受信され、保存先の記憶媒体上に「格納」されてから、ウィルス走査を実施 [*36] すると主張している。本裁判所は、これに同意する。

被告は、被告側の専門家であるRichard Belgard氏の証言を提出したが、同氏は争点となっている特許第'776号、提訴されているVirusScanの製品のソース・コードおよびVirusScanを使用した審査を調査し、これに基づいて、VirusScanはまず最初にデジタル・データを格納し、次にウィルス走査を実施するとの見解を表明した。従って同氏によれば、VirusScanは特許第'776号のクレーム1および18を実施していないとの意見である。この点を例示するために、Belgard氏はVirusScan動作の順次ステップを示し、Windows 95のオペレーティング・システムを実行するアプリケーション・プログラムとともに、VirusScanがウィルスに感染していると判断した転送ファイルを削除するために、VirusScanがどのように動作するかを説明するフロー・チャートを作成した。以下は、裁判所が解釈する「格納」がステップ5で発生し、ウィルス走査はその後のステップ6および7にて実施されることを実証するVirusScanの動作説明である。

第1に、アプリケーション・プログラムが保存先の記憶媒体上のファイルに格納するために、すべてのデータを転送する。第2に、アプリケーション・プログラムがオペレーティング・システムに、転送されたデータを含むファイルをクローズ [*37] するように要請する。第3に、VirusScanが、そのファイルをクローズするようにプログラムからオペレーティング・システムになされる要請を遮断する。「ファイルのクローズ」コマンドが遮断されると、要請されたデータはすべて転送され、保存先の記憶媒体上の指定されたファイルに格納され、コンピューター・システムが利用できるように準備が整う。第4に、VirusScanはオペレーティング・システムに、アプリケーション・プログラムの代わりに、ファイルをクローズするようコールする。

第5に、オペレーティング・システムがファイルをクローズし、アプリケーション・プログラムの代わりに保持している転送デジタル・データを解除し、VirusScanに制御を戻す。この点でBelgard氏の試験によって実証されるように、オペレーティング・システムは、コンピューター・システムが利用可能なファイルに、すべてのデータを転送させ、ファイルはハード・ディスク・ドライブなどの保存先の記憶媒体上に完全に格納される。オペレーティング・システムおよびその他すべてのアプリケーション・プログラムに関する限り、ファイルにウィルスが含まれていたとしても、コピーの作成や実行のために、そのファイルが利用できてしまうのである。

第6のステップでは、VirusScanがウィルスの走査をする。ウィルスが全く見つからなかった場合は、ステップ7に示されるように、[*38] アプリケーション・プログラムに制御が戻される。ウィルスが検出された場合は、ファイルを削除するか、または選択されたいずれかのオプションを講じるようにオペレーティング・システムをコールする。これはステップ8に示される。ステップ9では、オペレーティング・システムがVirusScanのコールに応答し、ファイルを削除する(またはその他の選択されたオプションを実施する)。そこでVirusScanは、ステップ10にて示されるように、コーリング・アプリケーションに戻る。Belgard 氏の1999年2月4日付宣言書PP 41-51および証拠文書Eを参照。

特許第'776号の開示された方法と異なり、提訴されている製品はまず、ウィルスに感染しているデータを含む受信デジタル・データ(ファイル)を、バッファー (38) を通過させて、オペレーティング・システムにより保存先の記憶媒体 (40) に格納させる。デジタル・データはステップ5に残留しないが、格納後で走査前のこの無防備な期間に、ウィルスに感染しているデータが拡散し、コンピューター・システムに感染する可能性が存在する。ステップ5において、データはすべて転送され、保存先の記憶媒体に格納され、オペレーティング・システムおよびその他のプログラムがアクセスできるようになる。このようにVirusScanによるウィルス走査は、受信デジタル・データが完全に転送され、「格納」後になってはじめて実施される。ステップ6および7において実施されるウィルス走査は、ステップ5の「格納」後 [*39] に行われる。従って、提訴されている製品VirusScanは、「... 格納前に受信し、走査する」というクレーム1の制限を実施しない。Belgard氏の1999年2月4日付宣言書PP 45-51、52-62;Belgard氏の1999年3月23日付補充的宣言書PP 10-12;Geske報告書の7を参照。従って、特許第'776号のクレーム1にある、「格納前の」走査の制限事項について、文言通りの侵害は存在しない。同様に、提訴されている製品は、デジタル・データが転送され、かつ格納されてからウィルス走査を行うことを理由として、「前記コンピューターが、前記記憶媒体に格納するためにデジタル・データ・ストリームを受信する一方で」、複数のウィルスの走査を同時に実施するという、クレーム18の制限について、文言通りの侵害は存在しない。提訴されている製品は、デジタル・データの転送中、またはデジタル・データが格納のために受信されている間に、ウィルスの走査または検査を実施しない。上記の解釈通りに、特許第'776号のクレーム1およびクレーム18に合致するためには、デジタル・データの転送中に、かつ「保存先の記憶媒体上への格納前に」ウィルス走査が実施されることを要件とされる。11

注11 Hilgraeveはクレーム18のこの条項が、ウィルス走査が格納前に実施されることを要求するとは主張していない。原告の訴答の11を参照。


主張に反してHilgraeveは、VirusScanがウィルス走査(ステップ6および7)の前に、まず受信デジタル・データを格納(ステップ5)することに異議を申立てる証拠能力がある証拠を提示しなかった。Hilgraeveは、Geske博士による専門家の証言、素人の証言と称される係争中の特許第'776号の共同発明者であるJohn Hile氏による証言、提訴されている製品VirusScanに関連して使用されたと申立てられているマーケティング資料という、3つの形式による証拠を援用している。証拠の各カテゴリーについて、およびその不備について、順次討議する。

第1に、Hilgraeve側の専門家John Geske氏は、被告の提訴されている製品が格納前にウィルス走査を実施するというHilgraeveの主張を、何ら前進させるものではない。むしろ、Geske博士はその専門家としての報告書の中で、「デジタル・データが保存先の記憶媒体に転送されてから、VirusScanは転送されたデータを受信し、走査して、あらかじめ定義されたシーケンス(ウィルス・シグネチャー)が受信されたデジタル・データに存在するかどうかを判断する」と認めている。原告の証拠文書20, Geske氏の1998年12月9日付専門家による報告書の7を参照。さらに、被告の証拠文書の3, Geske氏の1999年1月19日付証言録取書の151, 155-157、Geske氏の1999年3月19日付宣言書のP 20も参照。Hilgraeve側の専門家もまた同様に、(1) Belgard氏のフロー・チャートにて詳述されるVirusScanのオペレーティング・ステップのシーケンス [*41]、および (2)「格納」がステップ5にて発生し、ウィルス走査がステップ6および7にて発生するのであるから、VirusScanが特許第'776号のクレーム1および18の制限を実施しないことを理由として、侵害が存在しないとするBelgard氏の結論の2点に関する真正な争点を提起しなかった。Geske博士は、Belgard氏によって「格納」が発生するとされたステップ5を全く無視し、走査がステップ6および7において実施されることを理由に、侵害が存在していると判断している。ステップ5を無視する判断についての、事実に基づく支持を提供せずに、Geske博士は、Belgard氏のフロー・チャートのステップ6および7において、提訴されている製品VirusScanがクレーム1の「格納前の ... 受信および走査」ステップを実施していると、簡単に判断している。事実に基づいて支持されていないこの結論は、裁判に付託できる事実問題を設定するには不十分である。Johnston, 885 F.2d at 1578を参照。

同様に、Belgard氏によるVirusScanの試験および上記事実の証拠についてのHilgraeve側の専門家の批判は的をはずしており、従って無効とされるものである。Hilgraeveの主張に反して、試験は重要な事実の証拠となる。被告側の専門家Richard Belgard氏は、一般ユーザーの視点からVirusScanの手順を評価しなかった。むしろ、[*42] 主題における自身の専門知識を利用して、Belgard氏の例外的な方法は、提訴されている製品のソース・コードの分析、およびVirusScanが転送デジタル・データをまず格納し、その後にウィルス走査するという判断を試験し、かつ確認することが意図されていた。Belgard氏が試験のいずれをも再現できなかったとする事実によって支持されていないGeske博士の結論、およびBelgard氏がHilgraeveに最も好適な方法によってVirusScanを環境設定しなかったという同博士の批判では、裁判に付託できる事実問題を設定するには不十分である。Geske 1999年3月19日付宣言書PP 4、10を参照。

同様に、Geske博士が、最初にデータをコンピューターのハード・ドライブに転送した後に続いて行われるフロッピー・ディスクへの転送に言及したこと、およびBelgard氏の結論に反駁しようとそのフロッピー・ディスクを「保存先の記憶媒体」であると称したことも無効である。続いて行われるフロッピー・ディスクへの転送は、ファイルが既にコンピューターのハード・ディスク・ドライブに格納された後に、コピー・シーケンスを追加することを実証するだけのことである。Geske博士もまた宣言書P 14にて、「フロッピー・ディスクへのダウンロード・オペレーションが保存先であるならば、データは、ウィルス走査が行われるハード・ドライブ上のバッファーに転送される」ことを十分に認めている。この証言は、[*43] VirusScanがまず格納され、次にウィルス走査を実施するので、クレーム1の制限である「格納前に ... 受信し、走査する」またはクレーム18の制限である「... 格納するためにデジタル・データ・ストリームを受信する一方で ... 複数のウィルス・シグネチャーを走査する」ことを実施していないとするBelgard氏の提出された意見に何ら異議を申立てるものではない。従って、被告側の専門家による提訴されている製品についての試験に関するHilgraeve側の批判は、サマリジャッジメントを乗り越えられるほど十分ではない。

Hilgraeveの侵害の主張は、その専門家の意見と類似して、走査ステップに含まれる「格納前」の制限を不適切にも言い逃れるものであり、代わりに防止ステップの「自動的に防止する」表現に焦点を合わせるものである。Geske 1998年12月9日付専門家による報告書の7;Geske 1999年3月19日付宣言書PP 5、6、11および14を参照。このようにして、Hilgraeveが「特定の順序によって実施される」ことが要求されると認めているクレーム1および18の順次ステップの順序を、Hilgraeveは不適切にも無視している。原告の訴答の4を参照。特許第'776号と提訴されている製品がいずれも、「データをシステムに転送し、それをバッファーし、バッファーされたデータのウィルスを走査し、ウィルスに感染していなかった場合は、走査された [*44] データが取出せるように格納し、ウィルスが見つかった場合は走査されたデータの格納を防止する」という広義の主張をすることによっては、侵害を成立させることはできない。原告の訴答の32を参照。むしろ侵害を証明するためにHilgraeveは、適正に解釈されたクレームに記載される制限のすべてが、提訴されている装置にも見られることを実証しなければならない。Bai, 160 F.3d at 1353を参照。同様に、サマリジャッジメントの段階でHilgraeveは、被告の提訴されている製品VirusScanがクレーム1および18のすべての制限を実施するか否かについて、裁判に付託できる重要な事実問題が存在することを立証しなければならない。Hilgraeveは本件において、Geske博士の提出された証言によって、その責任を果たしていなかった。同様に、John Hile氏の提出された証言についても、その責任を果たせなかった。

サマリジャッジメントを阻止しようと、Hilgraeveは裁判所に、係争中の特許第'776号の共同発明者であるJohn Hile氏の宣言書を提出した。この宣言書においてHile氏は、提訴されているVirusScan製品を使用して行った試験について説明し、VirusScanが「特許第'776号のクレーム1、2、6および18のそれぞれの方法手順を実施するものである」との意見を提出した。Hile氏の1999年3月17日の宣言書のP 2を参照。Hile氏の宣言書、そこで説明されている試験、明示されている意見は、個人の知識に基づく [*45] 素人証人のものであり、従ってFed. R. Evid. 701に基づき証拠能力があるものだとされている。12 本裁判所はこれに反対の意見である。Hile氏の宣言書および補完的な証拠文書は、専門家の証言を不適切な方法によって導入しようというあからさまな試みが見られるために無効とされるものである。

注12 Fed. R. Evid. 701では以下のように規定される。
証人が専門家として証言しない場合は、意見もしくは推論の形式における証人の証言は、(a) 証人の見解に合理的に基づくものである、および (b) 証人による証言の明瞭な理解、または争点における事実の判断について助けとなる意見および推論に限定される。


同氏がVirusScanの動作について「ユーザーの観点から」素人の意見を提供する素人証人に過ぎないとのHilgraeveの主張にもかかわらず、Hilgraeveは、被告の提訴されている製品が文言通りに特許第'776号のクレーム1、2、6および18を侵害することを実証するために、Hile氏の証言を利用しようとした。Hile氏の1999年3月17日付宣言書のP 16(「私はエラー原因が、バッファーされたデータがインターネットのテンポラリー・ファイルから削除されたために、保存先のフロッピー・ディスクに格納することができなかったという事実 [*46] によるものであると考える」と証言している部分)、ならびにPP 20、22および24(侵害の争点に関連して、「私は考える」という類似する意見表現を含む部分)を参照。

VirusScanが「ユーザーの観点から」どのように作動するかということについての素人意見の証拠は、本件において提起されている侵害についての争点を解決する助けにはならず、規則701に基づく証拠能力がないものとされる。本裁判所は、Hile氏と同様にVirusScanを使用し、コンピューター・スクリーンを見ている通常のユーザーが、Hile氏と同一の推論を引き出して、VirusScanが特許第'776号のクレーム1および18と同一の順序で同一のステップを実施するという結論を導き出すとは確信していない。これに反して、Hile氏の意見および結論は専門知識を要求するものであって、コンピューター・サイエンスの分野で同氏が有している技術的および専門的な知識から導き出されたものである。この証言は、専門家の意見証言に関して「まさしく規則702によって支配される『専門知識』に帰属するものである。」13 United States v. Figueroa-Lopez, 125 F.3d 1241, 1246 (9th Cir. 1997)、裁判所による意見確認にて否認U.S. 118 S. Ct. 1823 (1998) を参照。

注13 Fed. R. Evid. 702では以下のように規定される。 科学的、技術的、もしくはその他専門的な知識が、証拠を理解するため、または争点事実を判断するために、 事実認定者の助けとなる場合は、知識、技術、経験、トレーニング、または教育によって専門家として有資格 の証人が、意見もしくはその他の形式により、かかる争点について証言をすることができる。

連邦裁判所は首尾一貫して、意見証言が証人の専門知識に基づく場合には、規則701でなく規則702によってそれが認められるべきであるとの見解である。Doddy v. Oxy USA, Inc., 101 F.3d 448, 460 (5th Cir. 1996)(裁判所が「自身の意見もしくは推論がいかなる専門知識をも要求せずに、かつ通常の人でも導き出せる場合に、素人証人として証言することができる」との見解を表明している部分)、Randolph v. Collectramatic, Inc., 590 F.2d 844, 846 (10th Cir. 1979)(裁判所が、一般的に規則701は「通常の経験の領域を超え、専門家証人の特別の技術および知識を要求する事項について、素人証人に意見を提示させることを許可しない」との見解を表明している部分)を参照。「逆の立場を取った場合には、まず証人に要求される資格を適切に実証する段階を経ずに、[当事者に]種類を問わずすべての専門意見を提供することを奨励してしまう。」Figueroa-Lopez, 125 F.3d at 1246を参照。さらに、仮に「証人が意見として提出を希望している事実についての、自身の単なる感覚」が「規則702よりも優先する」ことが許可された場合は、「検死に立合って心臓から銃弾が除去されるのを目撃した素人が、死亡者の死亡原因について意見を述べることが [*48] できてしまう。」同上を参照。

専門家は一般的に、本件においてHile氏が行ったように、専門知識もしくは経験を利用して、見解を結論に結び付ける。この場合、そのような証言の証拠能力は規則702に支配され、Daubert v. Merrell Dow Pharmaceuticals, Inc., 509 U.S. 579, 125 L. Ed. 2d 469, 113 S. Ct. 2786 (1993) において討議された関連性と信頼性の要因に従うものである。Kumho Tire Co., Ltd. v. Carmichael, 143 L Ed. 2d 238,  U.S.  ,  , 119 S. Ct. 1167, 1174 (1999)(裁判所が、Daubertの要因を、科学者ではない技術者およびその他の専門家の証言に適用されると判断した部分)を参照。Hilgraeveは、素人意見を装って、専門的な内容の証言を認め、これによって裁判所にDaubertの監視機能を与えようと、不法な手段として規則701を利用できないものである。United States v. Thomas, 11 F.3d 1392 (7th Cir. 1993)(裁判所が、「素人の意見証言を装って、不法手段を使って、専門家証言」を提起することを当事者に許可することは、「非常に有害だと思われる」との見解を表明している部分)を参照。Hile氏の結論は、同氏の技術的もしくは専門的知識に基づいているために、[*49] 証拠として認められ、証拠とみなされるためには、同氏が専門家であることを明示すべきであった。この明示はなされず、裁判所は、規則702に基づいて認められるように請求すべきであった証拠を認めるために不法手段として、Hilgraeveが規則701を利用することを許可しない。

最後に裁判所は、提訴されている製品についてのユーザーの見解に関するHilgraeveの証拠、すなわち被告の販促資料と、提訴されている製品についてのユーザーの観点もしくは市場の期待値を考慮に入れることによって、侵害の判断が可能であるとするHilgraeveの主張を提示した。Hilgraeveは、VirusScan製品を他の競合するウィルス走査製品と比較する被告のマーケティング資料の証拠を提出した。特許第'776号の発明との比較は全くなかった。原告の訴答の16-17を参照。本証拠に証拠能力があるものとの判断でなく、証拠能力があるものと想定して裁判所は、特許第'776号の侵害に関して、裁判に付託すべき事実問題を提起するには、この証拠が不十分であると判断した。

本件において提示される重要な事実は、提訴されている製品が実際にどのように作動するか、すなわち、一般のユーザーが提訴された製品の動作をどのように認識するかということではなく、「格納」前に受信デジタル・データのウィルス走査を行うことを、[*50] ソース・コードもしくはその他の信頼できる証拠が証明するかということである。ここにHilgraeveが提出したマーケティング文書もしくは販促文書は、提訴されている製品のソース・コードを開示していない。これらには、提訴されている製品の動作ステップについての技術的詳細、すなわち、ウィルス走査および「格納」がいつ発生するかについての情報が提供されていない。従ってこれらからは、提訴されている製品が特許第'776号のクレーム1および18を侵害しているとの推論が導き出されない。同様に、VirusScanがコンピューター・ウィルスの蔓延のみを防止するように設計されているという一般的な申立てからは、VirusScanがクレーム1および18を侵害するとの推論が導き出されない。

Hilgraeveによる侵害の主張の根本は、特許第'776号のクレーム1および18と被告の提訴されている製品との比較は、ユーザーの観点、すなわち提訴されている製品が係争中の特許の各要素を実施しないという証拠に関わらず、提訴されている製品の一般ユーザーがその通常の動作中に、提訴されている製品が特許第'776号と同様に作動すると認識した場合には、それが、提訴されている製品が実際は特許第'776号のクレーム1および18を侵害しているという証拠となる [*51] という点にある。原告の訴答の31-32を参照。本裁判所は、Hilgraeveの「ユーザーの観点」の主張について納得していない。

提訴されている製品の動作を通常のユーザーがどのように認識するかということが、特許侵害訴訟において適用される試験ではない。むしろ、製品が実際どのように作動するかについて裁判所が証拠を審査するのである。たとえばコンピューター・プログラムであれば、裁判所はそのソース・コードおよび関連する技術資料を審査する。機械装置であれば、裁判所は一般のユーザーが提訴されている装置をどのように「認識する」か、もしくは推測するかではなく、その設計図および仕様書を審査する。そこで裁判所は、その解釈に従って提訴されている製品と特許が付与されたクレームを比較し、提訴されている製品が係争中の特許のクレームを実施しているか否かを判断する。

HilgraeveがLaitram Corp. v. Cambridge Wire Cloth Co., 863 F.2d 855, 859 n.11(連邦巡回、1998)を援用するのは、検討違いなことである。Hilgraeveは参照された脚注にある主張の重要性を、極端に誇張している。Laitramの裁判所は単に、訴訟中の被告の立場が、提訴されている製品を原告の特許が付与された [*52] 発明より優越するものだと主張している販促資料に反するものであるとの見解を表明しただけである。しかしながら裁判所は、その見解に基づいて判断したわけではない。従ってこの判断は、Hilgraeveの主張を何ら前進させるものではない。さらに本件においては、SmithKline Diagnostics, Inc. v. Helena Laboratories Corp., 859 F.2d 878, 890-91(連邦巡回、1988)における連邦巡回控訴裁判所の判断を特記すべきである。その判断で裁判所はHilgraeveによる提起に類似する「禁反言による侵害」の主張を却下した。

Smithklineにおいて原告は、被告が提訴されている製品の一部として、特許が付与されている要素を誤って特定したために、その販売から利益を享受すべきでなく、かつその製品が原告の特許が付与された製品を侵害しないとの否認を、禁反言によって禁じられるべきであると主張した。Smithklineの裁判所は、原告の「禁反言による侵害」の理論を却下し、被告の製品は特許が付与された発明でないとの見解を表明し、マーケティング資料によって、侵害とならない製品を侵害する製品に転換してしまうような理論を拒絶した。同一の原理と結果が、より大きな効力をもって本件で提示される事実にも適用する。本裁判所は、マーケティング資料によって、侵害とならない製品を侵害する製品 [*53] に転換してしまうような理論を拒絶した。

特許第'776号にておいて教示される実施例と被告の提訴されている製品とを比較すること、および被告の申立てに反論するHilgraeveが提示した証拠を検討することによって、被告の提訴されている製品VirusScanが文言通りにHilgraeveの特許第'776号を侵害するか否かという問題について、裁判に付託すべき重要事実の真正な争点は存在しないとの結論に達せざるを得ない。

2. 均等論および出願経過の禁反言に基づく侵害

均等論に基づいて、「特許のクレームの明示的表現を、文言通りに侵害しない製品もしくはプロセスであっても、提訴されている製品もしくはプロセスの要素と、特許が付与された発明におけるクレームの要素との間に「均等物」が存在するときには、侵害と判断される場合がある。」Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical, 520 U.S. 17, 21, 117 S. Ct. 1040, 1045, 137 L. Ed. 2d 146 (1997) を参照。最高裁判所は最近、均等論は、「特許のクレームに拘束されずに、独自の様相を呈してきた」と表明して、理論の適正な範囲を明確にすることを引き受けた。117 S. Ct. 1048-49を参照。「均等論 [*54] は、発明全体でなく、クレームの個々の要素に適用されるべきである」こと、ならびに「個々の要素に対してであっても、理論の適用には、その要素の全部を除外してしまうような広範囲にわたる役割を許可すべきではない」ことと判断した。同上の1049を参照。

さらに、「均等論に基づく問題は、提訴されている要素がクレームの要素の均等物であるか否かということであるために、均等物の評価のための適切な基準時点、− つまり要素間の互換性を認識するとき − は侵害が発生した時点である。」同上の1053を参照。裁判所はさらに、「目的は均等論の適用にいかなる役割をも果たさない」ことを強調した。同上の1052を参照。むしろ、「均等物の判断は、要素ごとをベースとして、客観的な問題として適用されるべきである。」同上の1054を参照。さらに裁判所は、「均等物」を判断するためにいかなるアプローチ、すなわち3点における同一性もしくは実質的でない相違のアプローチが使用されようとも、「提訴されている製品もしくはプロセスは、特許が付与された発明のクレーム要素のそれぞれと同一もしくは均等の要素を含んでいるかという、根本的な問題を実証する」ものでなければならない。同上を参照。いずれのアプローチに基づいても、「均等物の概念に、要素を完全に除外することを許可させないように、特別の警戒」をもって、個々の要素についてその重要な焦点 [*55] が合わせられる。同上を参照。「特定の特許クレームの文脈において、各要素が果たす役割を分析することによって、代位要素が、クレーム要素の機能、方法、および結果に合致するか否かについて、または代位要素が、クレーム要素とは実質的に異なる役割を果たすか否かについての問題の情報が提供される。」同上を参照。

被告は、出願経過の禁反言によってHilgraeveが、均等論に基づく侵害のクレームを申立てられないものと主張している。「出願経過の禁反言は、均等物の範囲から、特許出願の審査において放棄された主題を除外することによって、均等論の適用について、法律上の制限を提供している。禁反言は、特許性の拒絶を回避するための補正の結果として、またはクレームの許可を確保するための主張の結果として、放棄された事項から生じるものである。」Sextant Avionique v. Analog Devices, Inc., 172 F.3d 817, 826(連邦巡回、1999)(内部引用および出典省略)を参照。本件において、出願経過の禁反言が利用できるか [*56] 否かについての問題は、裁判所に法律問題を提示する。Bai, 160 F.3d at 1356を参照。この禁反言理論の根本は「特許権者は、訴訟を通じて、審査中に放棄された主題の適用を獲得すべきではない」ということである。Haynes Int'l, Inc. v. Jessop Steel Co., 8 F.3d 1573, 1577-78(連邦巡回、1993)再審理により修正、15 F.3d 1076(連邦巡回、1994)(特許権侵害を否認するサマリジャッジメントを支持)を参照。

出願経過の禁反言の審査は、「競業者が出願経過から、出願人が特許取得のために断念したものと合理的に判断できる有利な点から評定される、客観的なもの」である。同上を参照。Baiにおいて判断されたように、「クレームの範囲を狭めることによって、審査官による従来技術の拒絶に対応した出願人は、後になって、放棄された主題が、修正された制限の均等物であると主張することはできない。」160 F.3d at 1356を参照。従って、仮に「従来技術に対して特許性がないものであるとの審査官によるクレームの拒絶に明瞭に応える、そのクレームへの実質的な変更を特許の出願人が行った場合は、出願経過の禁反言がそのクレームに適用され、禁反言の範囲についての問題のみが残留する。」Sextant, [*57] 172 F.3d at 826(内部引用および出典は省略)を参照。

「このような事件における禁反言の範囲には、出願人がクレームを修正して無効にした特徴、もしくはその従来技術の特徴の些細な変更が含まれる。さらに出願経過の禁反言は、明示的な拒絶に直接応えずに、クレームの範囲を狭めて、継続出願することによって、避けられるものではない。」Desper Products, 157 F.3d at 1338(内部引用および出典は省略)を参照。禁反言の範囲は、出願経過において放棄された主題を検討することによって確認され、かつ「従来技術、およびその技術との識別を試みることにおいてなされた修正および/または主張を参照して判断される。」Sextant, 1999 WL 112040 at *8(出典省略)を参照。

出願経過の禁反言は本件において適用される。前述の出願経過16-21を参照。原出願にはクレーム18は存在せず、特許第'776号のクレーム1には、ウィルス走査が「格納前に」実施されるものだという制限は含まれない。従来技術に基づく拒絶を覆すために、出願人は特許クレームを修正し、クレームが [*58] ウィルス走査が受信デジタル・データの転送中で、かつ格納前に実施されることを要求していることを理由として、特許性が存在すると主張した。特許第'776号の出願人は、(1) 従来技術を回避するためにクレームの範囲を狭め、(2) ウィルス走査が「保存先の記憶媒体への格納前に」実施されるものであるという制限を追加し、ならびに (3) 本係争事件における主題、すなわち格納後のウィルス走査のためのコンピューター・ウィルス走査方法を放棄したことは、出願経過から明らかである。従って、Hilgraeveは本件において、「格納」後にウィルス走査を行う提訴されている製品が、均等論に基づき特許第'776号のクレームを侵害しているとの主張を、禁反言によって禁じられる。

IV. 結論

上記を理由として、被告による特許権侵害の否認のサマリジャッジメントの申立てを認め、原告Hilgraeveの申立てにおける主張を却下する。

Nancy G. Edmunds

米国地方裁判所裁判官

日付:1999年6月10日