原告HOME SHOPPING NETWORK, INC.
vs
被告COUPCO, INC.
ニューヨーク州南部地域米国地方裁判所
1998年米国地方裁判所、LEXIS 2111
判決:1998年2月27日
記録:1998年2月27日
弁護士:[*1]原告Home Shopping Network, Inc.に対して、ニューヨーク州ニューヨーク、KENYON & KENYON法律事務所のThomas F. MeagherとMark Supko
被告Coupco, Inc.に対して、ニューヨーク州ニューヨーク、DARBY & DARBY法律事務所のMichael J. Sweedler
裁判官:米国地方裁判所判事LEONARD B. SAND
意見書の提出者:LEONARD B. SAND
意見書:意見書
地方裁判所判事、SAND
原告Home Shopping Network, Inc.(「HSN」)は、被告Coupco, Inc.(「Coupco」)に対して宣言的判決を求める訴えを起こし、Coupcoの再発行特許 # Re. 34,915(「特許」)を侵害していないことと、連邦特許法に基づいて、その特許が無効であることに関する命令を請求した(Compl. at 5)。特許クレームの解釈は裁判所の専属管轄であると判示したMarkman v. Westview Instruments, 52 F.3d 967(連邦巡回控訴裁判所1995年)の決定以降、上訴棄却、517 U.S. 370, 116 S. Ct. 1384, 134 L. Ed. 2d 577(1996)、侵害事件の訴訟は2つの段階に分かれている。すなわち、裁判所でのクレーム解釈段階、いわゆるMarkman審理(「審理」)と、事実認定者としての陪審または裁判所による侵害問題に関する公判である。この裁判所は、1998年1月28日に、本件に関してMarkman審理を行った。[*2]この審理と、当事者が提出して裁判所が受理した紛争中の特許に基づいて、侵害問題に関する後の決定のために、次に係争中のクレームの解釈を示す。
本件は「商品クーポンの配布、引き換え、決済のためのペーパーレス・システム」に関するCoupcoの'915再発行特許n1、特にこの特許のクレーム1とクレーム26n2に関するものである。1984年に3人の発明者(Nichtberger、McGlynn、Snook)は、電子クーポン処理システムの特許を出願した。米国特許商標庁(PTO)審査官は、従来技術、特に特許 # 4,554,446(Murphy特許)から十分に区別されていないとして、最初の特許出願を拒絶した。このMurphy特許は、機会可読コードの付いたクーポンによる店内ペーパー・クーポン配布システムに基づく、スーパーマーケット在庫管理システムおよび方法である。
後に、PTO審判部は、顧客が最終精算カウンターで識別されるペーパーレス・クーポン処理システムは、特許性を持つ発明であるとの審判を下した。1989年に発行された最初の特許 # 4,882,675(「'675特許」)は、Coupcoがこの特許の欠点と見なしていた点を修正して、1995年に'915特許として再発行された[*3]。この特許は、被告のCoupcoに譲渡された。Coupcoはまだこの特許を実施していないが、他の企業にこの特許のライセンスを与えている。
Coupcoが数回にわたって有名なケーブル・テレビ通販業者HSNに対して侵害の訴えを起こした後に、HSNはオンスクリーン・ビデオ・クーポンを放送する独自の事業が特許権を侵害していないことについて、宣言的判決を求める訴えを起こした。このクーポンは、コンピューター化された注文システムを使用して、顧客が表示される製品を電話で注文することによって引き換えられるものである。
Coupco発明の基本的な実施形態では、消費者は自らを識別するUPCコードの付いた特別IDカードをクーポン配布/引き換え装置(CDR)に挿入する。これは、実質的に、顧客が選択した電子クーポンを「配布」するキオスク(簡易設備)である。CDRユニットには、顧客が商品と引き換えるために使用できるクーポンがビデオ表示され、顧客は1つまたは複数のクーポンを選択することができる。選択されたクーポンの情報は、顧客の識別情報と共に、(バーコードで)読み取った購入商品と選択されたクーポンの照合を行う店の精算カウンターに転送される。顧客は、精算時に特別IDカードを提示し、精算システムは、その顧客が選択したクーポンと購入製品を照合する[*5]。正しく照合された場合には、そのクーポンの価格が顧客の勘定に対して自動的にクレジットされる。後に、電子「決済」とメーカーおよび小売店の勘定を調整するために、関連する情報が精算カウンターからコンピューター・プロセッサーに転送される。
電子ペーパーレス・クーポン処理プロセスには、必要なUPCカードを暗号化して発行する手段、クレーム処理キオスクに対して製品のデジタル化画像をアップロードする画像取り込み装置、ビデオ画面を通じて顧客にクーポン表示を出力し、入力された選択情報を受け取り、記憶するための装置(CDR)、クーポンを照合し、決済するための中央処理装置から構成される。特許は、パーソナル・コンピューター、モデム、ビデオ・モニターなどの比較的単純で一般的な技術を使用して動作する本発明のこの装置の一部分ではなく、このプロセス全体を対象としている。
Markman審理は、特許クレームの境界と範囲を定義するために役立つ。クレームの解釈は裁判所が決定する法律問題であり、侵害の決定は事実認定者が行う。Kearns v. Chrysler Corp.[*6]32 F.3d 1541、1547(連邦巡回控訴裁判所1994年)。クレームの解釈はその特許の範囲を公開し、特許権者のために保護範囲を特定し、その特許を侵害していない発明のために創造の余地を残すために非常に重要である。憲法の第I条は、議会が「一定の期間、著作者および発明者に著作権および発明の排他的な権利を確保することによって、科学と有用な技術の発展を推進する」権限を持つことを規定している。この合法的な「独占権」のために、正確なクレームの解釈が重要になる。解釈が包括的すぎると、特許の範囲が広くなりすぎ、その発明に対する過度に大きな権利を発明者に与えることになってしまう。クレームがあいまいな場合には、その技術に熟達している者でもその特許の正確な範囲を理解できないおそれがある。最後に、本件のように、クレームが発明物自体ではなく、主にそれが実施する特許の機能の輪郭を記述している場合には、特に正確な解釈が重要になる。
Markman審理の目的は、特許クレームが対象とする方法または構造を決定することに制限されている。しかし、Markman審理はCoupcoクレームの抽象的な解釈[*7]を意図しているものではなく、むしろこの紛争に関連する侵害問題の最終的な決定のために役立つものである。
一般に、特許自体の内部証拠は特許クレームのあいまいさを解決するために十分であり、審理は必要とされない。内部証拠とは、クレーム自体の文言、特許の明細書、外国での訴訟を含む特許権利化手続きの記録のことを指す。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc.、90 F.3d 1576、1582(連邦巡回控訴裁判所1996年)。特許の明細書が明示的に別の意味を示していない限り、クレームの文言は通常の意味に従って解釈する。本件で提示される発明者または専門家の証言や技術論文などの外部証拠は、裁判所の裁量によってのみ検討され、技術用語の理解を助けるに過ぎない。両当事者は他方の当事者が外部証拠を提示しようとしていると批判しているが、いずれの当事者も本件で外在的な資料を提出している。1998年1月28日の審理は、係争中の問題を解決し、焦点を明らかにしたが、クレームについての解釈は、ほとんど特許とその権利化手続きに関する内部証拠の解釈にのみ基づいている[*8]。ただし、提示された証言と証拠書類は、文言の解釈に関して記録の有用性を高め、Coupco特許と対応する構造の機能をより詳細に理解するために役立った。
クレームの要素を定義するために「手段」という用語を使用し、その後に機能に関する説明が続く「組合せ」特許というものがある。このような手段および機能クレームの場合には、クレームが無効と判断されない限り、その特許の明細書および実施形態で開示された実際的および具体的な手段と、それぞれの公正な等価物のみが対象となるものとして解釈するべきである。Lipscomb's Walker on Patens @ 11:16(3d. ed. 1985)。言い換えれば、記述されている機能を実施するために考えられるあらゆる手段を含むものとして特許が解釈されないように、すべての可能な方法の実施形態を示す必要はない。クレームは、特許の明細書に詳細に記述された特定の構造に対応するものとして解釈される。35 U.S.C @ [*9]112 P6 n3、B. Braun Medical, Inc. v. Abbot Laboratories, 124 F.3d 1419、1424(連邦巡回控訴裁判所1997年)も参照。Chisum on Patents @ 8.04(Elec. ed. 1998)も参照(「機能に関する文言の使用は、次のような場合には好ましくない。クレームが (1) 発明者により発明され、明細書に開示されたものより広い範囲を対象とし、(2) あいまいに、かつ紛らわしく発明を定義する場合」)。
係争中のクレームを解釈する目的は、特定かつ明確な構造を対象とするように特許の範囲を限定し、同時に実質的に同一の機能を実行して、実質的に同一の総合的な結果を得ることができる装置による侵害を防ぐために[*10]、特許権者の権利を公正に拡張することである。Valmont, 983 F.2d at 1042(連邦巡回控訴裁判所1993年)、Pennwalt Corp. v. Durand-Wayland, Inc.、833 F.2d 931、934(連邦巡回控訴裁判所1987年)(大法廷)、cert. denied, 485 U.S. 961, 99 L. Ed. 2d 426, 108 S. Ct. 1226, and cert. denied, 485 U.S. 1009, 99 L. Ed. 2d 703, 108 S. Ct. 1474(1988)。
この均等論に基づく審理は、本件では特に重要である。これは、係争中のプロセスは巨大な商業上の可能性と広範な適用性を確実に持っているが、その独創性が米国特許の広範で強力な保護を得るために必要な自明性と新規性の条件を満たしてるかどうかにまだ疑問が残るためである。
19世紀に「切り取る」という意味のフランス語から派生した表現の「クーポン」とは、今日、「注文書、問合せ用紙、・・・将来の購入または支出に対するクレジットを示す用紙または小切手として、切り取ってまたは切り離して使用される印刷広告の一部」を意味する。Webster's Third New Int'l Dictionary 522(1993)。ペーパー・クーポンは一般に印刷広告資料[*11]を通じて、顧客に配布される。顧客は後に精算するときに、適切な割引きを受けることができる。顧客はクーポンを切り離して店舗で提示し、店舗はそのクーポンを束ねて分類のためにクーポン交換所に送り、メーカーに返送する必要がある。この面倒な手続きの各段階で、必要なデビットおよびクレジットを割り当てる必要がある。
クーポンは効果的なマーケティング技術であるが、多額の管理費用が伴う。発行されるクーポンのうち実際に使用されるのはごく少数に過ぎず、そのうち多くが間違った製品に対して使用されている(Coupco審問前準備書面at 4)。
クーポンを使用すると、メーカーは「通常の割引きよりも潜在的に大量の製品を動かすことができる一時的な割引きの利益を受ける」。(Nichtberger Hr'g Test., Tr. at 26)。クーポンは通常の販売ではできない方法で、消費者に「力を与える」ことによって、購入意欲を刺激する。クーポンは、使用されない場合であっても製品とそのメーカーの宣伝になる。
ペーパーレス・クーポン処理にはさらに追加の利点がある。Carole Sugerman, In-Store Computer Terminals, A Super Marketing Device, Washington Post, May 28, 1986, at E1[*12], 4を参照。これはコストを削減する一方で、従来のクーポンと同じマーケティング戦略に役立ち、さらにクーポンの印刷や物理的なクーポン処理の必要がなくなる。このようなシステムによって、確実に「クーポンの使用率が増加し、クーポンの配布、引き換え、および決済のコストが削減され、従来のクーポン配布および引き換えシステムの特徴であった不正使用がなくなる」。(col. 3, Ins. 8-12)。加えて、ペーパーレス電子クーポン処理によって、メーカーは消費者に関するデータを収集し、ターゲット・マーケティングを行えるという利点も生じる。また、メーカーは一部のマーケット・セグメントだけに割引価格を提供することができる。たとえば、ある顧客が電子クーポン・キオスクに立ち寄って、John Doeという名前を入力した場合には、クーポン・システムは識別カードに記憶されている顧客のプロファイルを読み込み、過去の買い物または人口統計学的なデータに基づいて、購入する可能性が高い製品のみのクーポンをJohnに提供することができる。反対に、クーポンがなければ購入しないであろうと思われる製品のみのクーポンを表示することもできる。ペーパーレス電子クーポン処理は、クーポン用紙を扱う管理コストを、おそらく比較的低い電子データ・コストに置き換えるだけでなく、クーポンをさらに魅力的なものにする[*13]。
この訴訟は、ペーパーレス・クーポン処理システムについて'915特許に列挙されている30のクレームのうち、2つのほぼ同一のクレームに関するものである。両クレームは、その他のクレームによって説明される発明の概要を示している。次に、クレーム1の内容を示す。
クーポンの配布、引き替えなどのためのペーパーレス・システム。当該装置には次のものが含まれる。
顧客に対してクーポンを表示し、顧客に画面からクーポンを選ばせ、選択されたクーポンを記録するための表示、選択、および記録のための手段。前記表示、選択、および記録のための手段には、さらに顧客と選択されたクーポンを識別する第1の信号を生成するための手段が含まれる。
店舗の精算カウンターで、クーポンを選択した人物として顧客を識別し、その顧客が店舗で購入した商品を識別する第2の信号を生成するための識別および精算の手段。
選択されたクーポンと購入された商品とを照合するために、前記第1の信号と第2の信号に応答し、前記表示、選択、および[*14]記録の手段に結合される照合の手段。
照合されたクーポンの条件に従って、顧客にクレジットを与えるための手段。
次に、最初の'675特許には含まれていないが、再発行特許で加えられたクレーム26を示す。
クーポンの配布、引き替えなどのためのペーパーレス・システム。当該装置には次のものが含まれる。
少なくとも1枚のクーポンを含む画面を顧客に対して表示し、画面から少なくとも1枚のクーポンを顧客に選ばせるための表示および選択の手段。前記表示および選択のための手段には、さらに顧客と選択されたクーポンを識別する第1の信号を生成するための手段が含まれる。
店舗の精算カウンターで、クーポンを選択した人物として顧客を識別し、その顧客が店舗で購入した商品を識別する第2の信号を生成するための識別および精算の手段。
信号を記憶する手段。
前記信号を記憶する手段に対して、前記第1の信号と第2の信号を電子的に転送するための手段。
選択されたクーポンと購入された商品とを照合するために、前記第1の信号と第2の信号に応答し、前記信号を記憶する[*15]手段に接続される照合のための手段。
照合されたクーポンの条件に従って、顧客にクレジットを与えるための手段。
各クレームから、特許が要求する構造の特性に関して4つの独立した争点が生じる。両当事者は審理前の準備書面で各争点に言及した。次に、各当事者の見解を要約する。
争点 |
Coupcoの見解 |
HSNの見解 |
「表示、選択、および記録の手段」は、キオスクを構成する単一の「記録」装置などの単一のシステムを示しているか。 |
いいえ。「表示」、「選択」、および「記録」は任意の順番で実行できる独立の機能として理解する必要がある。 |
はい。「表示、選択、および記録」は統合された単一の手続きである。 |
選択されたクーポンの識別と引き換えの識別において、2つの顧客識別特許があるのか。 |
いいえ。必要な識別は1回だけである。 |
はい。2回の識別が必要である。 |
特許には、識別/選択と引き換えに関して、単独かつ別個の「段階」があるか。 |
いいえ。クーポンの選択と引き替えは、同時またはほぼ同時に行うことができる。 |
はい。特許は別個の手順を要求している。 |
特許の範囲はスーパーマーケットまたは同等の小売り環境に限定されているか[*16]。 |
いいえ。 |
はい。システムは限定されている。 |
表示、選択、および記録のための手段
我々は、ペーパーレス・クーポン処理装置について説明している'915特許の第1クレームで、特定のフレーズを解釈することを要求された。争点となっているのは、顧客にクーポンの画面を表示し、選択されたクーポンを記録するための「表示、選択、および記録のための手段。当該表示、選択、および記録のための手段には、さらに顧客と選択されたクーポンを識別する第1の信号を生成するための手段が含まれる」というフレーズの意味である。クレームのこの部分によって、「表示、選択、および記録」というフレーズは、当該機能を実行するためのすべての装置が1ユニットに格納される、「'915特許の発明」(Def.'s Hr'g. Ex.2)で言及されたキオスクのような単一の統合装置(CDRともいう)を指しているのか、それとも個々にまたは共に存在する1つまたは複数のシステムに格納される、「表示」、「選択」、および「記録」手段の他の組み合わせも含まれるのかという問題が生じた。我々は解釈を行うために、クレームの文言と特許の明細書を調査した。特許は手段および機能形式であるため、このフレーズを解釈するには、特に'915特許が対象とする構造を検証[*17]する必要がある。
HSNはクレーム1の意味をより深く理解するために、クレーム26を調査した。HSNは'915再発行特許で追加されたクレーム26は、「表示、選択、および記録」の手段ではなく、「表示および選択の手段」を要求しているため、クレーム1の後半のフレーズは3つのすべての機能をまとめた単一の統合手段を意味するものと解釈するべきであると主張している。これに対して、Coupcoはキオスクから精算カウンターに記録機能を移動させることができると記述されているため、特許は単一の統合装置を要求しているとは解釈できないと主張している(Coupco Pre-Hr'g Br. at 23)。Coupcoはさらにこの特許権は、決して記録手段の存在または位置を条件としていないと主張している(Reissue Applic. Decl. of 12/12/1991, at 7)。ただし、我々の分析は、この特許の新規性だけでなく、その実質的な内容も対象とする。
我々は内部証拠に基づいて、「表示、選択、および記録」の手段というフレーズはキオスクのように3つの装置が結合され、1つのユニットに格納される単一の物理的な実施形態を要求していないと認定する。ただし、かかる3つの機能[*18]は、互いに接続する必要がある。
表示手段に対応する構造はビデオ・モニターである(col. 11, lns. 66-68 and Claim 3)。選択手段に対応する構造は、タッチ・スクリーン・センサーである(col. 11, lns. 66-col. 12, ln.1 and Claim 3)であり、修正実施形態では、顧客が自宅で選択を行うことができる電話のキー・パッドである(col. 27, lns. 50-155 and col. 27, ln. 65)。記録手段に対応する構造は、データ記憶装置のコンピューター可読ファイルである(col. 22, ln. 65-col. 23, ln.2)。以上が必須の要素である。明細書に記述されている実施形態で、上記の要素は店舗内のキオスク(col. 12, lns. 3-20)または電話によって顧客にアクセスできる処理ユニット(col. 27, lns. 46-65)の2つの方式によって結合される。発明の要約は、「表示、選択、および記録の手段を含む装置」としてその発明を非常に具体的に説明している。「装置」という用語の使用と、特許の図5のブロック図での説明は、その特許が統合されたオブジェクトであることを示唆している。
この特許の文言は、「表示、選択[*19]、および記録」の手段を完全に独立した機能と見なさず、各手段の緊密に統合された実施形態のみにクレームをCoupcoは限定していると解釈するべきである。ただし、提示された構造またはその公正な等価物を考慮に入れて、各手段はキオスクのように単一の独立ユニット内で結合する必要はなく、各プロセスを緊密に相互に関連付ければ足りると認定する。実際の記録手段は、表示手段と同じ場所に、物理的に存在する必要はない。代替的な実施形態は、ローカル処理ユニットが電話によってアクセス可能であり、記憶キオスクに接続されることを教示している(col. 12, ln. 3-20)。記録手段には、ネットワークを通じてキオスクに接続される中央コンピューターを使用することもできる。空気を通じてデータを簡単に転送できる携帯電話と無線通信が普及している現代では、装置を機能的に統合するために、各装置が物理的に近くに存在する必要はない。特許には言及された実施形態の変形を含むことができるが、この特許は「表示、選択、および記録」の手段は、少なくとも各手段が機能的にリンクされる構造として理解するべきことを明示している。
従って、「表示、選択、および記録の手段」がキオスク内に格納されているか、モデムまたはネットワークによってレジスターにリンクされているか、記録手段[*20]が精算カウンターに存在するかどうかに関わらず、そのシステムが統合され相互接続されている限り、当該実施形態はその特許のクレームと列挙された実施形態の範囲に含まれる。
当事者間の第2の争点は、特許が教示する顧客識別の回数に関するものである。精算カウンターで顧客を識別する必要があることと、識別のために使用する装置に関しては紛争はない。識別はCoupcoの特許を従来技術から区別する主要な特徴である。争点となっているのは、クーポンの選択時に最初の識別が必要かどうかである。Coupcoは、購入時に電子クーポン処理プロセスで1回顧客を識別するだけで十分であると主張している(Coupco Discl. of Asserted Claims at 5)。HSNは'915特許の文言は、クーポンの選択時と引き換え時に、2回の顧客の識別を要求していると反論する。
クレーム1の文言からCoupcoの主張に反して、2回の識別が要求されていることは明らかである。
クレーム1は、「顧客と選択されたクーポンを識別する第1の信号[*21]を生成するための手段」と、「顧客が店舗で購入した商品を識別する第2の信号」を通じて精算カウンターで後に行う識別、という文言で2つの信号に言及している。クーポンを選択した顧客とクーポンを使用する顧客は、一致していなければならない。少なくともその顧客と関連付けられた電子識別カードは、クーポンの選択時と使用時で同じである必要がある。さらに、特許発明の要約および目的は、クーポンを選択する顧客と精算カウンターで後に識別される顧客とに言及している。「顧客」を二重に使用していることは、このプロセスの両方の段階で、当該顧客が同じ人物であることを示唆している。特許のクレーム3(各クレームは他のクレームの文脈で解釈するべきである)は、「前記顧客」がビデオ・モニターでクーポンを選択することに言及している。これも単なる任意の人物ではなく、特定の顧客を示している。また、クレームはクーポン表示に結合される「照合手段」に言及している。HSNは、「照合手段」には顧客が以前に記録したクーポンの選択(すなわち「第1の信号」)と、その顧客が後に購入した製品(すなわち「第2の信号」)とを比較する機能があることを指摘している。Murphy特許に対して自らのシステムが優れている点を示すために、CoupcoがPTO審判部に提出した趣意書[*22]には、次のような記載がある。「精算カウンターで識別された顧客が、配布カウンターでクーポンを受け取った顧客と同一人物である場合にのみ、クーポンの引き換えが行われる」(Appellant's Br. at 19)。最後に、特許の明細書(col. 17, part B)は、顧客がUPC形式で識別番号を記載した特別カードを所有し、精算時にID番号を入力して、以前に選択したクーポンを呼び出すプロセスを説明している。2回の識別がないとしたら、この明細書は意味をなさないであろう。クレーム1の「照合手段」に対応する特定の構造の解釈に関して、最初とクーポンの引き換え時に識別を行わない限り、クレームの要求に従って顧客とクーポンとを照合することはできない。一般通念と発明の目的により、ターゲット・マーケティングなどの電子クーポン処理の目的は最初に顧客を識別しない限り実現できないと言える。
識別の問題と関係が深い争点として、顧客を1回だけ識別すればすむように、クーポンの選択と引き換えを同時またはほぼ同時に行うシステム[*23]がクレーム1の範囲に含まれるかという問題がある。Coupcoは、この特許が精算カウンターに対するクーポン選択データの電子転送と、精算時のみの顧客の識別を条件とし、これによって従来技術から区別されると主張する(Coupco Pre-Hr'g Br. at 21)。Coupcoは2つの異なる段階、2種類の装置、または2種類の識別が必要であると裁判所に主張しているのはHSNだけであるとし、このような解釈に強硬に異議を唱えている。
HSNは、クーポンの選択に過去形で言及している(「選択を行った」)クレーム1自体の文言によって、特許は2段階に分かれた選択と精算のシステムに限定され、同時の選択および精算のシステムは対象としていないと反論している。照合の手段は「選択されたクーポンと購入商品とを照合するために、前記第1の信号と第2の信号に応答する」と記載している特許の文言のために、HSNは2段階の選択および引き換え手続きが必要であると主張している(HSN Pre-Hr'g Br. at 28)。
特許のすべての実施形態において、電子クーポン処理のプロセス[*24]は、独立したステップに分かれている。顧客が自宅でクーポンを選択するシステムの実施形態でさえも、このプロセスは「店舗で買い物を終了したとき、またはそれ以降に、クーポンを」引き換えることを主張している(col. 3, lns. 21-25)。この文言は、2つの独立した段階を区別していると解釈することができる。すなわち、自宅で、または店舗に入ったときに行うクーポンの選択と、それ以降の時に店舗で行うクーポンの引き換えである。特許の修正および追加(Modification and Embellishment)では、特許はさらに自宅での選択プロセスと店舗での指定済クーポンの引き換えプロセスについて説明している。審理での証言を除いて、同時の選択/引き換えの実施形態については、いかなる記述または言明もない(Hr'g Tr. at 60)。PTO審判部に対するCoupcoの趣意書で、Coupcoはその発明について次のように説明している。「基本的に3つの段階がある。すなわち、消費者へのクーポンの配布、小売店でのクーポンの引き換え、クーポン発行者によるクーポンの精算である。」(Appellants' Br. of 7/13/87, at 2)
特許自体が対象とするプロセスは、クーポンの選択と引き換えに対応する独立したステップを含む。この裁判で問題となるのは、各ステップを互いにどの程度時間的に近接させることができるか[*25]と、特許は各ステップが発生する時期と順番を区別しているかどうかである。被告のCoupcoは買い物の後にクーポンの選択が行われ、そのクーポンが将来の買い物のために顧客に渡されることもあると主張する。しかし、この変形例にも、クーポンの選択と後の引き換えという2つの独立した行為が含まれている。顧客が購入した商品について将来の買い物で割引きを受けるために、買い物の後にクーポンを選択するとしたら、それはクーポン処理とは言えないであろう。理論上、消費者は商品棚で商品を選択し、精算カウンターに向かう途中で、最終的にお金を払う前に特定の商品、あるブランド名、または商品カテゴリーに対して割引きを提供している表示画面の前で立ち止まるということはあり得る。これによって、選択プロセスと引き換えプロセスは、1つの行為となるように思われる。しかし、これは顧客の購入意欲を刺激するという特許の明記された目的を実現できず、またその目的に反しているため、我々の調査にいかなる影響も与えない。クーポンの機能は単なる割引きよりもメーカーと小売店にとって効果的であることが証明されている[*26]マーケティング戦略によって、ある種の商品の販売を促進し、製品を広告し、顧客にターゲット・マーケティングを行うことである。もちろん、買い物の前にクーポンを選択するために、顧客に対してキオスクが設置されている場合でも、消費者はキオスク前の行列を見てまず最初に買い物をしてから、ちょうどいいクーポンがあるかもしれないと考え、精算の直前にキオスクを利用することもありうる。ただし、装置が間違った方法で使用される可能性があっても、特許クレームが対象とする構造の定義には影響を与えない。
クーポン処理自体の性質により、選択と引き換えのプロセスには独立したステップが必要である。各ステップを「段階」と呼ぶべきかどうかは、クレームの解釈にほとんど影響を与えない。従って、特許のこのセクションを過度に狭義に解釈して、実質的に同等の侵害者から特許権者を保護することができなくならないように、「段階」という便利な用語を乱用するべきではない。同時に、電子クーポン処理のために明確に定義されたシステムとしての特許の解釈があいまいになるため、この表現をすべて削除するのも望ましくない。本書では、製品または店舗に対する意見を顧客に求めるだけのペーパーレス調査装置や、製品に関して電子的なペーパーレス栄養情報などの情報を提供するキオスクについては扱わない[*27]。これらの機能は複数の段階による手続きを必要としない。このような実施形態は興味深く、有用で、かつ実際に本件の装置に組み込まれることがある。しかし、これはこの特許の対象ではない。従って、手段および機能の要件のために、クレーム1は電子ペーパーレス・クーポンの配布および引き換えのための、段階に分かれたプロセスを示唆していると認定する。
HSNは「識別および精算の手段」を店舗の精算カウンター、特にスーパーマーケットまたは類似の小売店の精算カウンターの構造に限定することを裁判所に要求している(HSN Pre-Hr'g Br. at 27)。HSNは、クレーム本文でCoupcoが「店舗の精算カウンター」という用語の使用を選択し、特許の実施形態の説明でスーパーマーケットという用語に繰り返し言及しているため、Coupcoはこれに拘束されるべきであると指摘した(col. 17, lns. 36-53)。Coupcoは、発明の使用はスーパーマーケット環境だけに限定するべきではないと分析し(Coupco Pre-Hr'g Br. at 8)、特許はドラッグストア、ハードウェア・ストアで使用される追加の可能性についても想定しており[*28]、この発明は「飛行機による旅行、自動車のレンタル、特定のホテルの予約などを推奨する」ためにも有用であると示唆した(col.30, ln. 32)。代替的な実施形態では、特許は顧客が自宅でクーポンを選択した後に、このシステムに基づいて「スーパーマーケットの商品」を購入し、スーパーマーケットで引き換えを行うことを教示している(col. 27, lns. 45-68)。
店舗であることが要求されるかというこの問題の解決は、特にインターネットとWorld Wide Webを通じて急速に成長している電子商取引業界の一部として、ペーパーレス・クーポン処理の未来に重大な影響を与える。従って、電子メディアを通じて自宅で選択され、顧客に配布される場合であっても、後に店舗でクーポンを引き換える必要があるのか、あるいは販売とクーポン処理のトランザクションはほかの場所で実行することもできるのかを明確にすることが重要である。発明者は、その発明の実施のためにさまざまな可能性を考え、その発明を利用して、お金を生み出す無数の使用法を空想することができる。しかし、35 U.S.C. @ 112は、手段および機能の特許クレームを、具体的な構造に限定することを裁判所に要求している。従って、反対の推論に関わらず、「システム」という用語に対する被告の言及[*29]は、物理的な環境のない電子販売システムまたはコンピューター化されたショッピング自体にまで特許を拡張していると解釈するべきではない(col. 28, lns. 1-8 & 12-14)。被告はテレフォン・ショッピング用の装置が特許の範囲に含まれるように、ペーパーレス・クーポン処理装置の範囲を超えて「システム」の定義を拡張しようとした(Tr. at 54)。特許に記載されているのは、店舗で使用するための、または自宅で選択して後に店舗で使用するための電子クーポン処理プロセスのみである。特許の明細書には、店舗がなくてもよいとする記述はない。ただし、スーパーマーケットは当該装置を使用できる唯一の環境ではなく、特許が言及している構造がハードウェア・ストアまたは他の種類の小売店の環境に設置されたとしても、その特許は同様に有効である。重要なのは販売する商品の種類ではなく、特許が示すような装置を使用して、ペーパーレス・クーポンを通じて割引きを提供するプロセスである。我々はクレーム1がある種の物理的な小売店の環境を教示していると認定する。
クレーム26の文言は、'915再発行特許で新しく加えられ、最初の出願書類には含まれていなかった点を除いて、クレーム1とほぼ同じである[*30]。ここでは顕著な相違点のみを扱う。
クレーム26は「表示および選択の手段」を教示している(col. 34, ln. 6)。言及されている手段は、「表示および選択」機能が相互に接続されている構造に対応するものと解釈するべきである。上記のように、構成装置は単一のキオスク内に格納する必要はないが、電子的または物理的に相互に接続およびリンクする必要がある。開示されている装置は、顧客が選択したクーポンを記録するために、記憶機構と統合する必要はない。
クレーム1とは異なり、このクレームは「信号を記憶する手段」を要求している(col. 24, In. 18)。Coupcoは、これをクレーム1で要求されている「記録の手段」と実質的に同等であると解釈している。このため、Coupcoは信号を記憶する手段は、コンピューター可読ファイルの構造に対応していると主張する(Coupco Discl. of Asserted Claims at 8)。HSNは開示された2つの信号を保存するための構造を想定している。第1の信号は精算時に顧客の識別情報を対応するクーポンと照合し、第2の信号は後にクーポンと照合するために(バーコードで)読み取られた購入製品の情報を伝える[*31]。この構造はキオスクおよびレジスターにあるディスク・ドライブまたは記憶装置に相当する。あるいは、顧客が電話でクーポンを選択する場合には、第1の信号は店舗のローカル・コンピューターに記憶されるとHSNは指摘する。我々は「信号を記憶する手段」とは、キオスクから精算カウンターに転送される「第1の信号」または情報(顧客の識別および選択されたクーポン)と、互いに比較するために精算時に受け取られる「第2の信号」または情報(購入製品および顧客の識別)を記録することができるコンピューター・ドライブまたはファイルなどの装置に言及しているものと認定する。クレーム26はこの信号記憶装置の物理的な場所については教示していない。重要な点は、クレームの文言に反映されているように、第1の信号と第2の信号の両方に対して応答する記憶装置が存在することだけである。
最後に、クレーム26は「上記の信号を記憶する手段に、上記の第1の信号と第2の信号を電子的に転送するための追加の手段」を開示している(col. 34, lns. 19-20)。HSNは(1)「信号を記憶する手段」と(2)第1の信号および第2の信号の生成装置間で[*32]、(ケーブル、衛星、または電話線による)電子的な接続が要求されているものと解釈している。我々は、この解釈に同意する(HSN Discl. of Asserted Claims at 9)。この解釈はクレームの本文から明らかであり、「信号を記憶する手段」に関する我々の解釈に照らしても妥当である。実際、Coupco独自の解釈もこれと異なっているようには思われない(Coupco's Discl. of Asserted Claims at 8)。
この意見書の発行日から20日以内に、何らかの処分申立ての日付または本書の手続きをさらに進める準備が整う日付を示したスケジュールを裁判所に提出するよう両当事者に命令する。
以上のように命じる。
日付:1998年2月27日
ニューヨーク州ニューヨーク
Leonard B. Sand
米国地方裁判所判事
n1 挿入されている特許の文言に対するあらゆる参照は、再発行特許 # 34,915を示している。
n2 クレーム26は、この裁判でまだ係争事項として扱うべきかどうかについて争いがある(HSN Pre-Hr'g Br. at 4; Coupco Pre-Hr'g Br. at 1)。最初の主張クレームの開示(Disclosure of Asserted Claims)において、Coupcoはクレーム1とクレーム26を主張した。現在、Coupcoは、再発行特許の認可以降、HSNが電子クーポン処理の業務を停止しているため、クレーム26は侵害されないとして、クレーム26を審理する必要はないと指摘した。クレーム26を審理から取り下げれば、この訴訟でクレーム26が侵害の訴えの根拠となることがなくなる。また、クレーム26を解釈する必要もなくなるものと思われる。しかし、Coupcoは1998年1月23日付の裁判所へのレターで、HSNが電子クーポン処理の業務を再開したと訴えた。さらに、この訴訟で宣言的判決を求めている原告のHSNは、この裁判中にCoupcoが主張した両方のクレームについて、完全かつ最終的な決定証書の受け取りを要求している。完全にあらゆる混乱を解決するために、裁判所は引き続きクレーム1とクレーム26の両方について審理することになるだろう。[*4]
n3 「組合せクレームの要素は、それを支える構造、材料、または作用に言及することなく、特定の機能を実行するための手段または工程として表現することができる。当該クレームは、明細書で記述された対応する構造、材料、もしくは作用と、それぞれの等価物を対象とするものとして解釈される。」35 U.S.C. @ 112 P 6.