原告−被上訴人INTEL CORPORATION
対
被告−上訴人ULSI SYSTEM TECHNOLOGY, INC.
92-1116
合衆国連邦巡回控訴裁判所
995 F.2d 1566; 1993 U.S. App. LEXIS 13605; 27 U.S.P.Q.2D (BNA) 1136;
93 Cal. Daily Op. Service 4419; 93 Daily Journal DAR 7845
1993年6月10日 決定
事後経過: 再弁論の申請棄却、大法廷審理の提議却下、1993年8月26日、報告:1993 U.S. App. LEXIS 21733
事前経過: [**1] 合衆国オレゴン州地方裁判所(Frye判事)からの上訴
処分: 破棄
主要用語: 特許、チップ、侵害、コプロセッサー、ラインセンス、販売、サブライセンス、相互ライセンス、発明、生産された、鋳造、ライセンス契約、加工、特許を付与された、侵害している、暫定的差止命令、第三者、生産、買主、ライセンスを受けた、実施権者、勝訴の可能性、侵害する、ウェハー、生産する、差止命令、侵害者、特許権者、回復不能な損害
弁護士: 原告−被上訴人側:John W. Keker、Keker & Brockett、カリフォルニア州サンフランシスコ。摘要書協力、Jeffrey R. ChaninおよびSusan J. Harriman。摘要書協力、Paul M. Janicke、Sydney Leach、J. Paul WilliamsonおよびWayne M. Harding、Arnold, White & Durkee、テキサス州ヒューストン。
被告−上訴人側: Michael A. Ladra、Wilson, Sonsini, Goodrich & Rosati、カリフォルニア州パロアルト。摘要書協力、Jere E. WebbおよびCharles F. Hinkle、Stoel Rives Boley Jones & Grey、オレゴン州ポートランドの顧問。
Donald S. Chisum、Morrison & Foerster、ワシントン州シアトル、Michael A. Jacobs、Morrison & Foerster、カリフォルニア州サンフランシスコ、およびBryan A. Schawartz、Morrison & FoersterワシントンD.C.、Chips and Technologies, Inc.のための法廷助言者の摘要書。
裁判官: MICHEL、PLAGERおよびLOURIE、連邦巡回判事
意見者: LOURIE
意見:
[*1567] LOURIE、連邦巡回判事
ULSI System Technology, Inc.は、ULSIによる合衆国特許第33,629号 [**2] の侵害を禁じる暫定的差止命令を求めるIntel Corporationの申し立てを認めた、合衆国オレゴン州地方裁判所の命令を上訴する。Intel Corp. v. ULSI Sys. Technology, Inc., 782 F. Supp. 1467, 21 USPQ2d 1922 (D. Or. 1991)。侵害問題に関して、Intelが勝訴の妥当な可能性を立証したと結論付けたことにおいて、同地方裁判所は明らかに誤りを侵したので、本法廷は同命令を破棄する。
背景
Intelは、「数値データ・プロセッサー」[1]) という表題の、John F. Palmerに与えられた合衆国特許第33,629号の譲受人である。第’629号特許のクレームは、混合精度計算、混合モード演算および丸め演算ができる浮動小数点演算プロセッサーの設計と操作を対象としている。Intelは、Intel 8087、80287、80387コプロセッサーを含む、特許の対象となる数値計算コプロセッサーの製品群を開発した。[2])
[**3]
1983年1月10日、IntelとHewlett-Packard Company (HP)は、「他方当事者が所有または支配する現在および将来の特許および特許出願に基づくライセンスを取得することによって、設計の自由を増進する」ための、相互ライセンス契約を締結した。その契約に基づきIntelとHPは、それぞれ他方当事者に、「有効出願日が2000年1月1日より前の」すべての特許および特許出願に基づく、「取消不可能で遡及する非排他的な世界全体での実施料なしの、その特許の満了まで有効なライセンス」を許諾した。
ULSIは、Intel 80386マイクロプロセッサーとコンパチブルであり、Intel 80387コプロセッサーと商業的に競合する、US83C87('C87コプロセッサー)として知られる、数値計算コプロセッサーを販売する。1989年9月22日以来ULSIは、HPがULSIのためにコプロセッサーを生産することに合意した1988年8月2日に締結された合意に基づき、HPから'C87コプロセッサーを購入してきた。半導体業界でのかかる「鋳造」協定においては普通のことだが、ULSIが所有権のある設計仕様をHPに供給し、HPがコプロセッサー・チップを生産しその完成品をULSIに出荷し、ULSIはそれをULSI製品として再販売した。[3])
[**4]
Intelは1991年2月4日に初めて、ULSIの'C87コプロセッサーの販売に気付いた。1991年7月29日、Intelは合衆国オレゴン州地方裁判所に訴訟を提起し、ULSIは「US83C87[コプロセッサー]を生産し販売し、また他の人が生産し販売し使用する誘因となる」ことによって、第'629号特許を侵害したと告発した。[4]) Intelは暫定的差止命令を求める申し立てを提出した。Intelの申し立ての検討において地方裁判所は、Intelが実体的事項に関して勝訴する可能性、回復不能な損害、苦難の強弱および公共の利益を含む、差止命令による救済に関係する幾つかの要素を斟酌した。
[**5]
特許の保護という利益は、責任の問題が完全に裁定されるまで告発された会社が利用し続けることを認めるという利益とバランスするので [*1568]、特許の利益はいずれの当事者も有利としないと地方裁判所は判断した。また、'C87コプロセッサーはULSIの唯一の製品であり、ULSIはもし差止命令を受けたら「おそらく事業を続けられなくなる」ので、苦難の強弱はULSIに有利な要素となると裁判所は判断した。しかし裁判所は、第'629号特許の侵害、有効性および実施可能性という争点に関する実体的事項に関して勝訴する可能性をIntelは立証したと判断した。さらに、Intelによる有効性および侵害の「明確な立証」から生じた回復不能な損害の推定に、ULSIは反駁できなかったとも判断した。「実体的事項に関して勝訴する可能性および回復不能な損害(いずれもIntelに有利となる要素)」が、「苦難の強弱(ULSIの有利となる要素)」に優先するので、地方裁判所はIntelの申し立てを認めた。[5])
[**6]
議論
35 U.S.C. @ 283 (1988)に基づく暫定的差止命令の発行は、地方裁判所の裁量事項である。しかしその裁量は絶対的なものではなく、差止命令の発行を規律するエクイティ上の基準に鑑みて検討されなければならい。Smith Int'l, Inc. v. Hughes Tool Co., 718 F.2d 1573, 1579, 219 USPQ 686, 691(連邦巡回)、裁量上訴棄却、464 U.S. 996, 78 L. Ed. 2d 687, 104 S. Ct. 493 (1983)。申立人が暫定的差止命令による救済を得る権利を立証したか否かを判断する際に、地方裁判所は幾つかの要素を検討しなければならない。つまり、(1) 申立人が実体的事項に関して勝訴する可能性を十分に立証したか、(2) 暫定的差止命令が認められなかった場合に申立人は回復不能な損害を受けるか、(3) 苦難の強弱は申立人にとってより重大か、および(4) 差止命令の公共の利益に対する影響(もし影響があれば)、である。Hybritech Inc. v. Abbott Lab., 849 F.2d 1446, 1451, 7 USPQ2d 1191, 1195(連邦巡回、1998)。各要素は、他の要素、および要請された救済の形式と程度 [**7] に照らし合わせて斟酌し評価されなければならない。同上。しかし暫定的差止命令は機械的に認めることはできない、重大かつ特別な救済であると本法廷は以前、警告した。Nutrition 21 v. United States, 930 F.2d 867, 869, 18 USPQ2d 1347, 1349(連邦巡回、1991);Illinois Tool Works, Inc. v. Grip-Pak, Inc., 906 F.2d 679, 683, 15 USPQ2d 1307, 1310(連邦巡回、1990)。
この申立てに反対してULSIは、HPはライセンス契約に基づきULSIのための鋳造工場として行動することを認められており、HPによるULSIへのコプロセッサーの販売には、その製品に関するIntelの特許権を消滅させるという「最初の販売」が適用されると主張した。しかし地方裁判所は、ライセンス契約はHPに第'629号特許を「再許諾する権利」を与えていないと判断し、ULSIの主張を却下した。上訴においてULSIは、侵害であるとのIntelの賠償請求に対して、「特許消尽」または「最初の販売」の法理はULSIを保護しないと結論付けた点で、地方裁判所は誤りを犯したと主張する。[6])
[**8]
特許を与えられた製品の認められた販売は、その製品を特許による制約から解放するということは、法律において明確に確立している。Bloomer v. Millinger, 68 U.S. (1 Wall) 340, 350-51, 17 L. Ed. 581 (1864)。製品に関する特許所有者の権利はその販売において消滅し、United States v. Univis Lens Co., 316 U.S. 241, 252, 53 USPQ 404, 408, 86 L. Ed. 1408, 62 S. Ct. 1088 (1942)、その製品の買主は特許に制約されずに製品を使用し再販売することができる、同上、at 250, 53 USPQ at 408。この昔からの原則は、ライセンスの範囲内で行動する実施権者が生産した、特許を付与された製品の販売にも、同様に適用される。Unidisco, Inc. v. Schattner, 824 F.2d 965, 968, 3 USPQ2d 1439, 1441(連邦巡回、1987)、裁量上訴棄却、484 U.S. 1042, 98 L. Ed. 2d 860, 108 S. Ct. 774 (1988)。
本件においてULSIに侵害責任があるか否かは、HPによるULSIへの'C87コプロセッサーの販売があったか否かに依拠する。HPは製品をULSIに [*1569] 販売しなかったので「特許消尽」の法理は [**9] 適用されないとIntelは主張する。Intelは当然、'C87コプロセッサーは第'629号特許を侵害していると主張するが、鋳造契約に基づきHPが実際に販売したものは、ウェハーと化学物質の付随的な販売を伴う加工サービスであったと主張する。HPは'C87コプロセッサーの所有権を保持したことはなかったので、HPは第'629号特許の対象となる製品は販売できなかったはずであるとIntelは主張する。したがってIntelによれば、ULSIの「最初の販売」の抗弁を支持するような販売は行われなかった。その主張は不適当である。
契約の解釈は、本法廷が新たに審理する法律問題である。Interstate Gen. Gov't Contractors, Inc. v. Stone, 980 F.2d 1433, 1434(連邦巡回、1992)。本法廷は、HPとULSIの契約を審理した結果として、その契約をHPは単にULSIに加工サービスを提供するだけのものであるとするIntelによる特徴付けを受け入れることはできない。「販売条件」という表題のその契約には、'C87コプロセッサーの設計を組み入れている半導体ウェハー(つまりチップ)の販売への言及がたくさん含まれている。たとえば「第2条:生産 [**10] 加工」という契約の条は、HPがULSIに「CMOS34ウェハーを販売する」と定めている。その条にはチップの価格が記されており、ULSIへのチップの出荷に関して配達日程が含まれている。同契約にはまた、HPが提供する「技術サービス」を説明する条もあるが、同契約は明らかに、単に加工サービスの販売ばかりでなく、チップの販売も含んでいる。
またIntelが主張するように、販売が存在するためには、特許が付与された製品を許可を受けて売る売主がその製品に対する知的所有権を所有している必要があるわけではない。Intelは、'C87チップがULSIが提供した設計に基づいているという事実を強調している。Intelは、設計の起源の問題と販売の問題とを混同している。誰がチップを設計したか、そしてそれがIntelの発明以外の発明を組み入れているか否かという問題は、HPがULSIに'C87コプロセッサーを販売し、したがってその製品に関係するIntelの特許権が消尽したか否かという問題とは関係がない。
HPではなくULSIがチップに対する現存の知的所有権を所有していたということはHPとULSIの間の問題であり、Intelに関係することではない。HPがライセンス契約の幅広い条件の下で問題のチップ [**11] の販売を認められていたことについては、Intelは争っていない。Intelがチップを対象とする特許を持っていたとしても、チップを販売するHPに与えられた権利により、HPがチップを販売したならばIntelは侵害の賠償請求権を奪われる。そのライセンスが与えられていなかったり、ライセンスが何らかの形で制限されていたならば、本件とは異なる問題になっていただろう。その場合はIntelは本件のような鋳造契約を締結した人を訴える権利を保持していたかもしれない。IntelはHPに無制限の販売を認めた取引を後悔しているかもしれないが、1983年におそらくその時点では適切だと考えた対価でHPにその権利を許諾している。その結果を回避するために、今その許諾を否認することはできない。
本法廷はまた、HPによるULSIへのチップの販売が、ライセンス契約で禁じられている「事実上のサブライセンス」を構成するとのIntelの主張を却下する。本法廷はLisle Corp. v. Edwards, 777 F.2d 693, 227 USPQ 894(連邦巡回、1985)において、同様の主張を「道理はなく見かけだけ」のものであると認定した。Lisle訴訟においては、ライセンスを受けた生産者が、許諾者の特許の対象である製品を第三者に販売し [**12]、その第三者はその商標の下でそれを再販売した。許諾者は、特許を受けた製品の第三者のための生産はサブライセンスを構成するとの根拠で、実施権者とその第三者双方に対して侵害訴訟を起こした。かかるサブライセンスはライセンス契約の下では禁じられているので、その製品は特許を侵害していると特許所有者は主張した。しかしLisle訴訟の法廷は、実施権者の販売は認められており、第三者による再販売はサブライセンスを構成しないと結論付けた。同上、at 695, 227 USPQ at 895。同様に、本件におけるHPのULSIへの販売はサブライセンスを構成しない。HPはULSIに、Intelの特許の付いたチップを生産し、またはHPが合法的に販売したもの以外のかかるチップを使用し販売する権利を与えていない。これらがサブライセンスの付帯権利のはずである。
それに関連して本法廷は、ULSIに第'629号特許の対象となる製品の設計のサブライセンスを与えることをHPは認められていなかったので、HPによるULSIへのチップの販売には「最初の販売」は適用されないとの地方裁判所の結論に同意しない。ULSIに第'629号特許のサブライセンスを与えることをHPは認められていなかったことは、問題にはならない。HPとULSIの契約はサブライセンスではなく、[**13] チップの生産と販売のための契約であった。したがってHPはサブライセンスを許諾していない。買主が設計したものではあるが、製品を販売したのである。ULSIが侵害を免責されるのは、再実施権者であったからではなく(実際そうではなかった)、HPがライセンスを与えられた、したがって合法的なチップの提供者だったからである。さらに、ULSIはHPにチップの設計を提供するために、サブライセンスを得ることを要求されてはいなかった。
両当事者は、Int'l Corp. v. United States Int'l Trade Comm'n, 946 F. 2d 821, 20 USPQ2d 1161(連邦巡回、1991)(「Atmel」)における本法廷の以前の議論を、根拠となる先例としてあげる。Atmelは本件と似ているが異なる。Atmelでの契約においてはIntelはSanyoに、「子会社を除きサブライセンスを与える権利のない、いかなるSanyo[装置]上で読み取ることのできるIntel特許の下でかかる特許の有効期間中にかかる製品を生産し使用し販売する非排他的で世界全体での実施料なしのライセンス」(強調追加)を許諾した。Intelは、Atmelが多くのIntelの特許を侵害したEPROM(消去及びプログラム可能読取り専用記憶装置)を輸入したことによって [**14]、中でも19 U.S.C. @ 1337 (1988)を侵害したと告発した。Atmelは、輸入したEPROMは、SanyoがIntelとの契約に基づき生産し販売したものなので、侵害はしていないと主張した。一方Intelは、ライセンス契約はSanyoにSanyo製品の販売のみを認めているので、SanyoはEPROMを、Atmel製品としての再販売のためにAtmelに販売することは認められていないと主張した。
第一段階の問題としてAtmel訴訟での法廷は、ライセンスを与えられた当事者から鋳造契約に基づき製品を購入する人の特許侵害の免責を明確に認め、以下のように述べた。
Intel/Sanyo契約がSanyoに、Intelの特許の対象となる製品の、他の会社の鋳造工場として行動することを認めているならば、その製品をSanyoから購入した会社は、その製品を自由に使用し再販売することができる。かかる使用や販売には特許の影響は及ばない。United Sates v. Univis Lens Co., 316 U.S. 241, 250-52, 62 S. Ct. 1088, 1093-94, 86 L. Ed. 1408 (53USPQ 404, 408) (1942)(特許に基づき生産された物品の最初の販売が、その物品を特許の影響外に置く)参照。
同上、at 826, 20 USPQ2d [**15] at 1166。つまりSanyoがEPROMのAtmelへの販売を認められていることをAtmelが立証できるならば、AtmelはIntelによる侵害の賠償請求から保護されるということに、法廷は同意した。
ライセンス契約が鋳造権を認めているか否かの判断においては法廷は、契約における「Sanyoに対する制限」が何を意味したかに焦点をあてた。SanyoはSanyo製品の販売のみを認められていたので、その制限によりSanyoは、SanyoのものではないEPROMの鋳造工場として行動することを禁じられていたと法廷は結論付けた。SanyoはEPROMの生産と、再販売目的でのそのAtmelへの販売を禁じられており、したがってAtmelはライセンスに基づく抗弁に依拠することはできないと法廷は判断した。同上、at 828, 20 USPQ2d at 1167-68。一方、本件のIntelとHPのライセンス契約は、販売あるいは鋳造工場としての行為に関するHPの権利に対する制限を含んでいない。
以上の議論に鑑みて本法廷は、'C87コプロセッサーはHPによりULSIに販売されたのであり、またHPはライセンス契約の下でそうすることを認められていたので、ULSIはIntelによる侵害の賠償請求から保護されていたと判断する。したがって、Intelは侵害に関して勝訴する可能性を立証できなかったと本法廷は結論付ける。
暫定的差止命令の [**16] 破棄を得るには、侵害者と告発された人は、地方裁判所が依拠した要素の一つまたは複数に関する決定が、明らかに誤りであることを立証しなければならない。New England Braiding Co. v. A. W. Chesterton Co., 970 F.2d 878, 882, 23 USPQ2d 1622, 1625(連邦巡回、1992)。どの要素も単独では決定的ではないが、いずれの要素についても十分な立証がなければ、他の要素に割り当てられた重みにも鑑みて、暫定的差止命令による救済を排除することができる。Chrysler Motors Corp. v. Auto Body Panels of Ohio, 908 F.2d 951, 953, 15 USPQ2d 1469, 1471(連邦巡回、1990)。
勝訴の可能性に関する地方裁判所の認定は、消尽の法理の適用に関する法律上の誤りに基づいているので、明らかに誤りである。暫定的差止命令のその他の要素に関しては、Intelは第'629号特許が有効であり侵害されたと明確に立証したと認定したので、回復不能な損害があると地方裁判所は推定した。この推定は、勝訴の可能性に関する明らかに誤った認定に基づいているので、明らかに誤りである。[**17] 苦難の強弱の要素はULSI側に有利であり、また公共の利益の要素はいずれかの当事者を有利とはしないという地方裁判所の決定に関しては、本法廷は明確な誤りを認めない。地方裁判所の与えた重みに基づきこれらの要素全体を考え、本法廷は、暫定的差止命令を求めるIntelの申立てを認めたことにおいて [*1571]、地方裁判所はその裁量権を濫用したと結論付ける。
結論
侵害の立証による勝訴の可能性の認定、およびそれに派生的な回復不能な損害の認定を根拠として、IntelとHPのライセンス契約はULSIに、Intelによる侵害の賠償請求に対する抗弁を与えないと判断したことにおいて、地方裁判所は誤りを犯した。したがって、Intelの申立てに対して地方裁判所が与えた暫定的差止命令は、破棄される。
破棄
反対意見表明者: PLAGER
反対意見:
PLAGER、連邦巡回判事、反対意見を述べる。
謹んで反対意見を述べる。ULSIは、特許を付与された発明を含む製品の買主に法律が与える盾を手に入れ、特許所有者の合法的権利を切り離す刀に変えた。個別の訴訟における誤った結果は常に不幸なものだが、特に本件における誤った先例は懸念の対象となる。本件は、法律上の重要な争点に関する [**18] 混乱をさらに広げうるからである。本件が先例として確立しないことを期待し、何が誤っていたのかを説明する。
簡潔な説明をすれば、本件は次のようなものとなる。A社とB社は、非常に変動の多い業界での主要なライバルである。この業界では製品や工程において絶えず革新が行われており、国内外の他のライバル会社からプレッシャーを受けている。A社もB社も大きな研究開発部門を維持しており、さまざまな技術革新に関して特許を得ている。両社は研究開発計画を続けており、発明ではなく特許権訴訟をし合うことにエネルギーを費やすのを避けるのが相互の利益になると、意見が一致する。
設計の自由を拡大するため両社は、それぞれが相手の特許権を侵害する恐れなく自社の類似製品を開発し販売することができるよう、相互にライセンスを与える。市場での通常のプロセスにおいて法律が買主に与える権利を越えて、これらの特許の対象となる発明品を第三者が作成し作成させ使用しまたは販売することを認めるという意図はない。
同じ市場に割り込もうとしている [**19] 小会社C社は、提案をもってB社に近付く。その提案とは、C社がB社に(C社の)発明の詳細(A社の特許がある製品に類似した設計)を提供する。C社は設計と生産の全仕様を提供し、書面でB社に、C社は関係する設計を合法的に取得したものであり、第三者の特許権を侵害していないと保証する。B社はその生産設備を使い、C社の仕様に基づき物品を生産する。B社は原料を提供し、完成したユニット数に基づき支払いを受けるというものである。過剰設備をもっていたB社はその提案に同意し、契約した物品を生産する。それをB社はC社に引渡し、C社が仕上げ作業を行う。
その後C社はその製品を、A社が生産した製品と同一であると示唆する表現を使って販売する。A社はそのC社の製品を調べ、A社の製品に類似しておりA社の特許を侵害すると判断し、C社を訴えた。C社は、B社がA社の特許を侵害する品目を生産したのであり、A−B間の契約によりB社はA社の特許の侵害に対する責任を免除されているので、C社も「最初の販売」、しばしば「特許消尽」として知られる法理により免責されるという根拠で抗弁する。[**20]
もちろん、C社は誤っている。
「最初の販売」は単に、特許所有者(または所有者が認めた実施権者)が他の人に、特許が付与された発明を組み入れた製品を販売したときに、買主はその製品を、特許侵害の賠償請求を受けずに第三者にその製品を譲渡することができると述べている。[7]) つまり、第三者は特許保有者からライセンスを受けずに、その製品を使用または販売することができる。これは、財産の所有者は、所有者の自発的行為を通して所有者の譲受人から第三者の手に渡った財産に対する権益を主張することを妨げられるという、コモン・ローの規則の一変形である。[8])
[**21] [*1572]
この規則は2つの理由で、C社の場合には適用されない。第一に、侵害とされる製品の最初の販売はC社から第三者へであり、B社からC社へではない。第二に、B社の活動がC社を免責するには、B社の活動とされるものが、A社からのライセンスによって与えられた権限の範囲に入らなければならないが、この場合にはそうではない。
第一点に関しては、B社は特許が与えられたA社の発明を組み入れた製品を、C社に販売はしていない。製品に組み入れられる材料をC社に販売したのである。C社の製品を、C社の仕様に基づき生産した。生産についての専門知識を販売したが、製品は常にC社のものであり、B社のものになったことはなかった(もちろんA社のものになったこともない)。
仮にB社が、C社の設計を組み入れたものを別に数千も作り、その仕上げ作業をし、第三者に販売した場合、B社のA社との相互ライセンスにより、C社は横領に対する賠償請求から免責されるだろうか。答はもちろん「否」である。相互ライセンスの下での侵害の問題、つまりA社とB社の相互間の権利の問題は、A社またはB社に対するC社の法律上の権利の問題とは別である。
もし争点が、B社によるチップの製作がA社の特許を侵害しているかという問題だとすれば、B社ではなくC社がそれを設計したという事実 [**22]、あるいはB社ではなくC社が製作物を所有しているという事実は関係がない。C社に引き渡された告発された製品がA社の特許を侵害しているならば、A社はB社とC社双方に対して、特許権の侵害という訴訟原因をもつことになる。
B社の抗弁は、自分は特許所有者からライセンスを受けているので、侵害の責任はないというものとなる。
C社の抗弁はライセンスではない。C社の抗弁は、自分は特許を与えられた装置の、市場の通常のプロセスでの買主なので、侵害の責任はないというものとなる。その場合、問題は、B社はC社に告発された装置を販売したのか、あるいはB社はC社に、生産サービスのような他のものを販売したのかということである。誰の設計、そして誰の財産が関与しているかという問題は、単に関係があるというだけではなく、決定力のある問題となる。
第二の点であるB社の権限に関しては、A社もB社も、相互ライセンスによって、いずれかの特許の第三の侵害者を免責することを意図しなかった。A社とB社との間の相互ライセンスは、契約当事者の意図に含まれない第三者へ権利や免責を与えることはできないというのは、基本的な契約法である。A社とB社が自社の発明品および製品に関して互いに負っている義務は、A社とB社の間の相互ライセンスの条件によって決定される。[**23] B社とC社が互いに負っている義務は、B社とC社の間の生産契約によって決定される。C社がA社に対して負っている義務は、いずれかの契約ではなく、特許の侵害に関する法律によって決定される。[9])
本法廷に提起された訴訟においては、A社はIntel、B社はHewlett-Packard (HP)、そしてC社はULSIである。Intelは法律により、Palmer特許でクレームされた発明を「他の人が製作、使用または販売することを排除する権利」を与えられている。35 U.S.C. @ 154 (1998)。Intelは、ULSIがPalmer特許の範囲内のチップを「無断で・・・販売し」、[**24] したがって侵害者であると告発する。35 U.S.C. @ 271(a) (1998)。HPによるULSIへのC87チップの認められた販売を通して、C87チップがすでにIntelの許可を得た商売の流れに入っていたとすれば、ULSIの他の人への販売はIntelの許可を得る必要はないという点では、ULSIは正しい。Bloomer v. Millinger, 68 U.S. (1 Wall) 340, 350-51, 17 L. Ed. 581 (1864)。しかしULSIによる他の人への販売がそのチップの最初の販売であるならば(つまり、C87を商売の流れに入れたのがHPまたはIntelではなくULSIであるならば)、またはIntelがHPに、他の人の要望でPalmer特許を侵害する製品を生産することを認めておらず、ライセンスに基づくHPによる認められた販売がありえないならば、ULSIの抗弁は成り立たない。私の意見では、抗弁はどちらの点から見ても成り立たない。
最初の問題として、もし議論の都合上、特許を受けたIntelの発明を組み込んだものをHPがULSIに販売したと仮定した場合、本法廷は、販売が特許所有者によって認められていたかを判断しなければならない。認められていなければ、譲受人は保護を得られない。General Talking Pictures Corp. v. Western Elec. Co., 304 U.S. 175, 182, 82 L. Ed. 1273, 58 S. Ct. 849 (1938); Mallinckrodt, Inc. v. Medipart, Inc., 976 F.2d 700, 703(連邦巡回、1992)。[**25] この問題の回答はHPとIntelの契約の中に見付けることができる。
IntelとHPの間の相互ライセンスの条件は、幅広く述べられている。相互ライセンスは、両当事者が「研究開発の継続的プログラムに関わっており」、両当事者は「ライセンスを取得することにより設計の自由を増したいと望んでいる」と指摘する。そして表明されたこの意図に鑑みて、HPとIntelは、2000年1月1日より前に出願された「すべての特許および特許出願に基づく」、当該特許の満了まで有効な「取消不能で遡及的で非排他的で世界全体での実施料なしのライセンス」を相互に許諾した。
上訴裁判所が、契約の解釈を法律問題として扱うのは正しい。本法廷は、第一審裁判所の法律に関する見解に特に左右されることはない。つまり新たな検討を行う。しかしそのことは、審理における証言に基づく、両当事者の意図に関する事実についての第一審裁判所の判断を無視していいということを意味しない。特に、本法廷に提起された問題が最終判決ではなく暫定的差止命令である、つまり第一審裁判所の幅広い裁量権に明らかに含まれる事項である場合にそうである。
契約の両当事者 [**26] つまりIntelとHPは、相互ライセンスが、無駄な訴訟に関わらずに研究開発作業を行う自由を相互に与えることのみを意図しており、侵害者である第三者を免責する意図はなかったことについて、意見が一致している。たとえばHPの知的財産担当のAssociate General Counsel and Directorは、「IntelもHPも、相互ライセンス契約の下でライセンスを与えた特許をサブライセンスする権利を、相手に与える意図はなかった」と証言した。さらに彼は、「HPは、HPにライセンスされたIntelの特許に基づきサブライセンスを与える意図はなかった・・・」と証言した。Jt. App. at 408。
第一審裁判所は、両当事者が提出した証拠を検討し申立てに関する審理をした後に、契約のIntelによる解釈に同意した。第一審裁判所は以下のように述べる。
IntelとHewlett-Packardの契約の幅を検討すると、IntelもHewlett-Packardも、IntelとHewlett-Packardの契約に基づき許諾された特許をサブライセンスする権利を他方当事者に与えるほど、契約を幅広くすることは意図しなかったことは明らかである。
782 F. Supp. at 1474, 21 USPQ2d at 1928(強調追加)[**27][10])
法律顧問および裁判所による「サブライセンス」という用語の使用は、相互ライセンスはHPに、第三者が、特許を与えられた発明を組み入れた製品を別個に設計し生産する(または生産させる)ことを許可する権限は与えていないことを意味すると、理解されなければならない。つまりHP自体は、特許を与えられた発明を組み入れた製品を生産し販売することはできる(そしてその製品のHPからの買主は、「最初の販売」に基づきその使用に関して保護される)が、HPは [**28] 他の人にそうすることを許可するためのライセンスは得ていなかった。
別の訴訟で本法廷は、問題の活動は禁じられていたサブライセンスであるとの特許権者の主張を、「道理はなく見かけだけ」のものであると表現した。Lisle Corp. v. Edwards, 777 F.2d 693, 227 USPQ 894(連邦巡回、1985)。この訴訟おいては、この主張には道理はない。Lisle訴訟において特許権者は生産者(Lisle)に、特許を与えられた道具を製作し製作させ使用し販売する非排他的ライセンスを許諾した。Lisleは、特許権者の設計に基づき道具を生産し、すべての販売に関して特許権者に実施料を支払った。Lisleの顧客の一つSnap-On Toolsは特許を受けた道具を購入したが、Lisleに、その道具にSnap-Onの商標を付けさせた。LisleとSnap-Onの間の取り決めは「実質的なサブライセンス」であり、Snap-Onが「実質的な生産者」であると特許権者は主張した。本法廷は、「Lisleによる販売 [*1574] は非排他的ライセンス契約によって認められている。再販売はサブライセンスを構成しない」と指摘した。同上、at 695, 227 USPQ at 895。
Lisle訴訟は、サブライセンスが [**29] 特定の契約の下では禁じられているという主張には常に「道理がない」という一般則を示しているのではない。問題の取引の実質が、それが「サブライセンス」であるか否かを決定し、両当事者が意図したライセンスの条件が、かかる「サブライセンス」が認められるか否かを決定する。Lisle訴訟における取引の実質は、実施権者(Lisle)による特許を与えられた発明を含む製品の生産、およびその製品のその後の、購入に関心をもっている第三者(Snap-On)への許可された販売である。Lisle訴訟とは異なり本件では、第三者であるULSIは、実施権者の発明の購入に関心をもっているとは主張されなかった。取引の実質は、実施権者が第三者のために第三者の発明を生産することであった。証言の記録は明確に、相互ライセンスのいずれの当事者もこの活動が相互ライセンスの範囲内に入るとは理解していなかったし、そうする意図もなかったことを示している。
連邦巡回裁判所が幅広いIntelのライセンスの範囲を定めることを求められたのは、これが初めてではない。Int'l Corp. v. United States Int'l Trade Comm'n, 946 F.2d 821, 20 USPQ2d 1161(連邦巡回、1991)(Atmel)においてIntelは [**30]、二つの(どちらもSanyoという言葉を含む)外国のメーカーと幅広い相互ライセンス契約を締結した。Sanyo二社はAtmelという第三の会社と契約を締結し、Atmelが設計したチップを生産した。Atmelは、それをこの国で販売したときに、Intelの特許を侵害したと告発された。本法廷は、IntelのSanyoへのライセンスは実施権者に第三者が設計したものの生産を認めておらず、したがって設計の成果を侵害の告発から免責しないので、かかる商品の輸入はIntelの特許権の侵害であると判断した。
本法廷は、Atmelが主張する結果が不適切であるとのITCの説明を認め、それを引用した。
Atmelが提示したライセンス契約の解釈は、Intelからライセンスを得ることができなかったがそれでもIntelの特許を実施したいと望む会社は、Sanyoを鋳造会社として使うことによってIntelの特許を回避することができることを意味する。当事者がかかる結果を意図した理由を説明するものがなければ、契約をこのようにこじつけて解釈することはできない。
同上、at 827, 20 USPQ2d at 1166-67 [**31](強調原文)
「消尽の準則」の抗弁が成立するための第二の要素は、ULSI自身による侵害とされる使用または販売に先立つ、所有者または製品の販売を認められている人、つまり本件ではHPによる、告発された製品の被告、つまりULSIへの販売の存在である。問題は、HPが告発された製品をULSIへ販売したか否かである。HPとULSIの契約の序文には、「本契約では、ULSIが設計した集積回路のプロトタイプと生産加工を詳述する・・・」(強調追加)と書かれている。Jt. App. at 38。契約には、「チップの設計、マスク・ワーク、配列、コンピューター・データおよびプロセスの所有権は、それを開発し設計した当事者にある」と記されている。Jt. App. at 43(強調追加)。それらはULSIが提供した。「 [ULSI] は [HP] に、その部分のアートワーク・データベースを含むGDS-IIデータ・ファイルを提供する。」ULSIは、「HPに提供される仕様、設計、指示および機密情報を含む情報およびプロセスに対するすべての権利を所有していることを保証し、・・・[そして]かかる情報をHPに提供し開示する権利および権限すべてを保有していることを保証する。」Jt. App. at 41(強調 [**32] 追加)。ULSIはさらに、「本契約の目的のためにHPに提示される情報およびプロセスを不適切または違法に取得していないことを保証する。」Jt. App. at 42。そして契約は、いかなる責任に対しても、中でも特許の侵害に対して、HPに免責の保証をしている。
契約当事者であるHPの加工施設の販売マネージャーRichard R. Duncombeの宣誓供述書が、これらの契約の規定の背景を説明している。
私は[ULSIの代表に]知的所有権についての懸念はあるかと尋ねた。この質問によって私は、特許、著作権または営業秘密の侵害に対する責任にさらされずにHPがULSIの製品を加工できることを確認したかった。[ULSIの代表は]、ULSIは知的所有権に関しては何の懸念ももっていないと答えた。しかし [*1575] HPの慣行に合わせてULSIは、ULSIの製品の設計から生じるかもしれない特許侵害の賠償請求、あるいはその他の法律上の問題からHPを免責することに同意した。
Jt. App. at 411。HPが、HPとIntelの相互ライセンスによって認められた権限に基づく、Palmerの発明を含むチップのULSIへの販売を意図しており、ULSIが、HPをそのために利用することを意図していたとすれば、これらの保証および免責条項はいずれも必要なかっただろう。
Duncombeの宣誓供述書にはさらに、次のように記されている。
HPは、ULSIの製品に対する所有権、およびULSIの製品を販売または使用する権利をもっていない。HPは、HPが加工サービスを完了した後では、磁気設計テープおよびレティクルの返却または破棄を要求されている・・・
Jt. App. at 413。ULSIが自身の集積回路の設計を提供したので、HPはULSIに販売する発明の所有権をもったことはなかった。「販売」があったとすれば、何か別のものでなければならない。HPはHPとULSIの契約に基づき、ULSIの設計がエッチングされた、ブランク・シリコン・ウェハーを提供した。Jt. App. at 60。HPはさらに、HPのブランク・ウェハーにULSIの設計を組み入れるため、加工サービスを提供した。Jt. App. at 57。ULSIはHPに経常外費用を支払い、Jt. App. at 58、ULSIの設計を含む各加工済チップに対して、定められた金額を支払った。Jt. App. at 60。HPが「チップ」を販売したことを意味する表現にも関わらず、Jt. App. at 60、契約の全体的文脈は、販売されたのは各チップに組み込まれた(IntelまたはULSIの)技術ではなく [**34]、各チップに対するサービスであることを示している。
HPは基本的に、侵害していると告発されたC87ではなく、その加工サービスを販売したのである。Palmerの発明を組み入れているとされる、本件で告発された装置であるC87チップの最初の販売は、HPではなくULSIによってなされた。したがってULSIによる販売は@271の範囲に入り、市場での買主の、保護される行為ではない。
ここでもULSIの主張は、HPがIntelの特許権を侵害すると告発された(ただしこの点はまだ明確に判断されていないが)製品を生産したか否かという問題と、その製品をHPが所有しULSIに販売したので「最初の販売」の抗弁が成立するか否かという問題とを混同している。
地方裁判所は、本訴訟の当事者および彼らの取り決めが、前に説明したパターンに適合していることを理解した。これは、それぞれの契約上の権利の理解に関して、契約の当事者間に紛争があるという状況ではない。むしろ地方裁判所は、いわゆる「特許消尽」または「最初の販売」の抗弁が、ULSIは無関係の他の当事者間(IntelとHP)の契約の存在 [**35] を利用しようとする、ULSIによる単なる弁護士的主張であると認識した。地方裁判所はその抗弁を却け、(地方裁判所判事の裁量権の範囲にある)ULSIに対する暫定的差止命令を認め、実体的事項に関する審理の準備をした。
多数意見は地方裁判所の判断を覆し、このいわゆる抗弁に基づくULSIに有利な判決を下すことによって、実質的に本訴訟を終了させた。そしてIntelとHPの間の、社会的に望ましい賢明な契約は、すべての侵害者に対する意図されなかった贈り物となった。この結果は、競合会社間で訴訟よりも発明をしようという意欲をくじくものであり、世界全体での競争において、このような不安定な業界の企業に不利なものとなる可能性がある。ULSIの立場は法律的にも方針としても不適切であり、本法廷による承認に値しない。
地方裁判所はその裁量権を乱用しておらず、法律問題で誤りを犯しておらず、Intelは暫定的差止命令を得る資格があるとの判断において証拠の重大な誤認をしていないので、私ならば執行停止を取り消し第一審の判決を維持する。[11]) 仮に私に、この段階での暫定的差止命令の適切さについて留保があるとしても(実際はないが)、「ULSIは侵害から [**36] 免責される」Slip Op. at 10という多数意見の結論は、文字通り取れば差止命令を覆すばかりでなく訴訟を終了させることになるので、私は時期尚早だと考える。
[1]) 第'629号特許は、合衆国特許第4,338,675号が再発行されたものである。
[2]) 数値計算コプロセッサーとは、マイクロプロセッサーとともに動作するように設計された装置で、数値計算の速度をマイクロプロセッサー単独よりは100倍まで速くすることができる。
[3]) 具体的には、ULSIがHPに、磁気設計テープに書き込まれた'C87コプロセッサーの配置と設計の仕様を提供した。HPはその設計データを使って、設計パターンを石英ガラス板に転写する。「レティクル」またはリソグラフィック・マスクと呼ばれる転写された板は、コプロセッサーの回路配置をブランク・シリコン・ウェハー上に描くチップ加工プロセスで使われた。ウェハーが加工された後、加工プロセス中に発生したかもしれない欠陥やエラーを検知するため、HPは視覚検査とパラメーター試験を行った。
[4]) Intelはまた、ランハム法15 U.S.C. @ @ 1114 and 1125(a) (1998)第32条と第43条(a)の違反であるとして、ULSIに対する訴訟を提起した。地方裁判所は、ULSIが'C87コプロセッサーの出所に関して消費者に誤解を与えることを恒久的に禁じる、合意命令を下した。Intel Corp. v. ULSI Sys. Technology, Inc., Civil No. 9-742-JO(オレゴン州地方裁判所、1991年8月12日)。
[5]) ULSIは本法廷に、上訴中の執行停止を求める申立てを提出した。本法廷は、ULSIは侵害問題について実質的な法律上の問題が存在することを示したと結論付けたので、上訴中の執行停止を認めた。Intel Corp. v. ULSI Sys. Technology, Inc., No. 92-1116(連邦巡回、1992年1月14日)。
[6]) ULSIは別に、以下でしたように、'C87コプロセッサーは文理的に第'629号特許を侵害していないと主張する。IntelとHPの契約に基づくULSIの抗弁は決定的なので、本法廷は、第'629号特許が'C87コプロセッサーに含まれていると結論付けたことにおいて地方裁判所が誤りを犯したか否かは判断しない。またULSIは、無効性および実施不可能性の争点に関するIntelの勝訴の可能性に関する地方裁判所の結論に異議をとなえておらず、本法廷はそれらについて検討しない。
[7]) John W. Schlicher, 特許法:法律上および経済上の原則 @ 8.05[1] (1992)。我々はここでは、特許所有者が、販売において将来の譲受人を拘束する条件を課すことできるか、また、どの程度できるかという問題には触れない。同上。
[8]) 幾つかの法廷では、コモン・ローの禁反言の法理を適用するために、第三者が、警告を受けていない、価値に対する善意の買主であることを要求した。たとえば、Porter v. Wertz, 68 A.D.2d 141, 416 N.Y.S.2d 254(第一部、1979)、上訴棄却、53 N.Y.2d 696, 439 N.Y.S.2d 105, 421 N.E.2d 500 (1981)(「Chateau de Lion-sur-Mer」という題の、モーリス・ユトリロの絵画の占有に関する訴訟)参照。U.C.C. @ 2-403は、「その種類の商品を取り扱う商人への、商品の占有の委託は、通常の取引過程における買主へ委託者のすべての権利を譲渡する権限を、その商人に与える」というように、その規則を拡大する。全般的には、Sheldon F. Kurtz and Herbert Hovenkamp, American Property Law(米国物権法)152 (1987)参照。
[9]) C社が、A社とB社の契約(相互ライセンス)の第三者受益者とみなされるかもしれないという、例外の可能性がある。当事者の事業の性質を考えるとこれはこじつけかもしれないが、可能ではある。しかしこの結論に到達するには、C社が第三者受益者の資格を得る必要条件が要求される。これは、特許消尽の法理の誤適用によっては達成されない。
[10]) 多数意見Slip Op. at 8とは異なり、Intelは実際その摘要書において、「ライセンス契約は、ライセンスを受けていない侵害者ULSIに、HPから鋳造サービスを購入することでその製品を合法的に見せるサブライセンスを許諾すると解釈することはできない」というサブタイトルの下で、許可問題を議論した。Intelは、「実施権者は、特に第三者がその侵害行為に対する免責の対価を何も提供しなかった場合、第三者をその侵害行為から無条件に免責することを決して意図しなかった」と主張した。被上訴人摘要書 at 26。
[11]) ULSIは、Intelが実体的事項における必要な勝訴の可能性を立証したと結論付けた過程において、第一審判事が誤ったと考える、クレーム解釈について幾つかの争点を提起した。私はULSIの主張を一つずつ検討し、それらには説得力はないと判断する。多数意見は本件を他の根拠に基づき処理するので、これらの争点は多数意見では扱われていない。slip op. at n. 6参照。