原告−ISOGON CORPORATION

被告−AMDAHL CORPORATION

97 Civ.6219(SAS)

合衆国ニューヨーク州南部地区地方裁判所

1998 U.S. Dist. LEXIS 18103

1998年11月18日、決定
1998年11月19日、登録

措置: [*1] 略式判決を求める被告の申し立ては、原告に有利な略式判決が下されるべきであるとの原告の提議とともに棄却される。

弁護士: 原告:Max Moskowitz弁護士、Ostrolenk, Faber, Gerb & Soffen法律事務所、ニューヨーク州ニューヨーク

被告: Robert T. Tobin弁護士、Kenyon & Kenyon法律事務所、ニューヨーク州ニューヨーク

裁判官: Shira A. Scheindlin,合衆国地方判事

意見者: Shira A. Scheindlin

意見: 意見及び命令

SHIRA A. SCHEINDLIN、合衆国地方判事:

I.      序文

原告Isogon Corporation(「Isogon」)は、被告Amdahl Corporation(「Amdahl」)に対し、「ソフトオーディット」製品[1]に関係する特許(合衆国特許第5,499,340号および第5,590,056号)を侵害しているとして訴訟を提起した。Amdahlは、特許は35 U.S.C. @ 102 (b) の下では無効であるとの理由で、連邦民事訴訟規則56に基づき略式命令を申し立てている。Amdahlはその申立ての裏付けにおいて、Isogonはその発明を、法定の限界日である1993年1月12日よりほぼ3カ月以前の1992年10月にAetna生命保険(「Aetna」)とGISインフォメーション・システム(「GIS」)に売却したか、または売却の申し出をしたと主張した[2]。商品化、実質的な完全性 [*2]、およびAetnaとGISに関してソフトオーディットの実験に対する、重要な事実についての争点が存在すると私は認定するので、略式判決を求める被告の申立ては棄却される。

II.     議論

A.    略式判決に関する基準

略式判決は、「訴答、証言録取書、質問に対する答弁、訴訟記録の許容、および宣誓供述書が、重要な事実に対する真正な争点がなく、申立人が、法律問題としての判決を受ける資格があることを示してない限り」、不適切である。連邦民事訴訟規則56 (c); Anderson v. Liberty Lobby, Inc., 477 U.S. 242, 252-52, 91 L. Ed. 2d 202, 106 S. Ct. 2505 (1986); Celotex Corp. v. Catrett, 477 U.S. 317, 325-26, 91 L. Ed. 2d 265, 106 S. Ct. 2548 (1986)。略式判決は、特許訴訟でも、他の分野の訴訟と同様に利用可能である。Chore-Time Equipment, Inc. v. Cumberland Corp., 713 F.2d 774, 778-79(連邦巡回、1983)[*4]。

略式判決に対する申立てにおいて、申立人は、重要な事実、つまり訴訟の結果に影響するかもしれない事実についての真正な争点がないことを示す責任をもつ。Catanzaro v. Weiden, 140 F.3d 91, 93(第二巡回、1998)。地方裁判所は、かかる争点の有無について判断しなければならないが、争点自体を判断する必要はない。Gallo v. Prudential Residential Servs., Ltd. Partnership, 22 F.3d 1219, 1223-24(第二巡回、1998)。重要な事実についての真正な争点の有無の判断において、証拠は、申立てに反対する当事者にとって最も有利な観点で見なければならず、疑問の解決およびすべての妥当な推論は、その非申立人の有利に行わなければならない。Anderson v. Liberty Lobby, Inc. 477 U.S. at 255; Transmatic, Inc. v. Gulton Indus., Inc., 53 F.3d 1270, 1274(連邦巡回、1995)。重要な事実について非申立人に有利な合理的な推論を陪審が行えるような証拠が訴訟記録にある場合には、略式判決は不適切である。Catanzaro, 140 F.3d at 93。

B.    商品化

35 U.S.C. @ 102 (b) に基づき特許を無効とするには、「販売による無効(sale bar)」を主張する当事者は、明確で説得力のある証拠により、「当該特許の出願の一年よりも前に具体的な販売またはその申し出があり [*5]、販売またはその申し出の対象物が、クレームされた発明を完全に予想しておけるか、または従来技術へのその追加によりクレームされた発明を自明なものにしていること」を、立証しなければならない。UMC Elec. Co. v. United States, 816 F.2d 647, 656(連邦巡回、1987)。Ferag AG v. Quipp Inc., 45 F.3d 1562(連邦巡回、1995):

販売されたか否かの判断にはさまざまな要因が影響し、単一の要素が第102条 (b) の適用を決定することはない。最終的な結論は、状況全体に依存するからである。法の基礎を構成する目的が、第102条 (b) による分析を導く。その中でも最も重要なのは、投資家がその発明の商業的価値を利用しながら、一方で法定の期間の始まりを遅らせることを阻止するということである[3]。そのため発明者は、発明の商品化の試みから1年以内に特許を出願するという要件に、厳密にしばられる。

同上、at 1566(内部引用省略、脚注追加)。投資家が自分の発明を販売に供したか否かは、「その核心に [*6] 投資家による発明を商品化する試みがある」、客観的基準である。同上、at 1568。

1992年7月10日、Isogonの社長Robert Barritzは、Aetnaに次のように書き送った:

Isogonは、ソフトオーディットと現在呼ばれているソフトウェア製品を開発中である ...。我々は、残りの開発期間中にAetnaの協力を得ることに関心をもっている。ソフトオーディットを試験するのにAetnaのSMFデータを利用できれば、我々にとって助けとなる ...。さらにソフトオーディットのベータテスト場所としてAetnaを利用できれば、我々にとって有用である。

もしAetnaとIsogonがその後数週間内にこのことについて合意できれば [*7]、我々は10月中旬までに、ソフトオーディットの予備的な、しかし実用のバージョンを引き渡せると予想している。

Barritz供述、証拠物D。

IsogonはAetnaと、Aetnaにソフトウェア製品を使うライセンスを許諾した、1992年10月12日に発効した契約(「契約」)を締結した。「被告Amdahl Corporationによる、35 U.S.C. @ 102 (b) に基づく無効の略式判決を求める申立てを裏付ける意見書」(Amdahl意見書)の証拠物Aを参照。Isogonは、その条件に「法的に拘束されることを意図して」契約を締結した。同上、at 1。この契約は、ソフトオーディットおよびその関係文書を使用する「永続的で世界全体での非排他的なライセンスをIsogonがAetnaに販売し許諾する」と定めている。同上、at 2。契約の付属書No.1は、一回払いのライセンス料を3,000ドル、またソフトオーディットの使用の保守サービス料を年間1,000ドルとしている。同上、at 10。付属書No. 1はさらに、Aetnaは、「ソフトオーディットの予備的なベータテスト・バージョン」およびAetnaによる試験と承認のための付随する予備的文書と交換に [*8] Isogonに提供することに同意する、「ある種のコンピューター・ソフトウェア製品を構成するロード・モジュールの名称に関するある種の情報(「製品データ」)」を保有していると記している。同上、at 11。

Aetnaは、Isogonがソフトウェア購入取引のためのAetnaの定形契約書を作成するように要求し、自分はAetnaの協力を得ることを切望していたのでそうしたと、Barritz氏は主張する。Barritz意見書、P 17。Barritz氏によれば、

Aetnaが、機能することが保証された製品を受け取ろうとしていたのではなかったことは、すべての人に明白であった。実際1992年10月時点では、知識ベースには製品情報がほとんど組み込まれていなかったので、Aetnaにとってさえも、このソフトウェアは商業的に役立たなかった。それはベータテストのためでさえも、善意の顧客に引き渡すことはできなかった。それは単に、現場テストができるという状態であった。

同上。

今日まで、Aetnaは1992年10月の契約に記された3,000ドルの対価を支払っていない。Barritz意見書、P 20。ソフトオーディットの市価は現在2万ドルを超えており、単一のコンピューターへの設置に対するこれまでで最高の料金は180万ドルである。1995年、IsogonはAetnaに、毎年1,000ドルの保守料だけで、ソフトオーディットを引き渡すことに同意した。1998年8月27日に [*9] 宣誓したIsogonの営業担当者Tom Martinの意見書(Martin宣誓書)PP 3, 11参照。Isogonは、Atenaをソフトウェアの見込み客に対する照会先として利用したかったため、そしてAtenaに別のソフトウェア製品を販売したかったために、それに同意した。同上、at P 3。

Aetenaとの1992年の契約が、通常の商業上の条件でなされた販売ではなかったとの証拠がある。Isogonは、マスター・ソフトウェア・ライセンス契約を、Aetenaの要請で儀礼として締結したと主張する。記されている3,000ドルという対価が支払われなかったという事実は、契約の署名がソフトオーディットの真の販売または商品化を反映していなかったという結論を支持する。さらに、GIS契約に記されている1ドルという対価も[4]、@ 102 (b) の意味での販売がなかったという認定を支持する。

AetnaおよびGISのライセンスがソフトオーディット製品を公有のものとはせず、製品が自由に提供されているとは公衆に思わせなかったという事実は、その時点では商品化が起こらなかったことを [*10] 示唆する。Mahurkar v. Impra, Inc., 71 F.3d 1573, 1577(連邦巡回、1995)(独占的実施権者による、その独占的実施権者としての資格を維持するためにのみなされた、2つのプロトタイプのカテーテルの1つの病院への販売は、発明が実施へ移されたとはいえ、商品化とはならない見せ掛けであると判断された)。

AetnaとGISのライセンス契約が、利益のためではなく、ソフトオーディットの知識ベースに必要な製品データを獲得するために締結されたという証拠があるので、私は法律上の問題として、Isogonがそのソフトウェア製品を販売に供したと結論付けることはできない[5]。この理由だけで、略式判決の申し立ては棄却されなければならない。

C.    特許性

Pfaff v. Wells Electronics, Inc., 1998 U.S. LEXIS 7268, 1998 WL 777044(1998年11月10日)の最高裁判所の決定以前は、@ 102 (b) による無効を成立させるには、発明が販売の申し出の時点で「実質的に完成」していたことの立証が必要であった。Pfaff v. Wells Electronics, Inc., 124 F.3d 1429, 1434(連邦巡回、1997)参照。発明が実質的に完成していたか否かを決定する基準は、申し出の時点で、「[発明が]完成時に、意図された目的のために機能すると予想する理由」があったか否かであった。(同上、Micro Chem., Inc. v. Great Plains Chem. Co., Inc., 103 F.3d 1538, 1545(連邦巡回、1997)。)

実質的な完成という基準は最近、問題にされた。Pfaff, 1998 WL 777044, at *6。最高裁判所によれば、「出願すべき時点を、発明が『実質的に完成した』日に依拠させるという規則は、発明者に、特許出願をいつ提出すべきかを決定する明確な基準を提供するという利益を大きく害なっている」。同上。最高裁判所は実質的な完成の代わりに [*12]、販売による無効を適用する前の選択的2基準を採用した。同上、at *7。第一は、「製品は商業上の販売の申し出の対象となっていなければならない」。同上。第二は、「発明は特許出願ができる状態になっていなければならない」。同上(強調追加)。この二番目の条件は、

期限日前に実施へ移されていたと証明するか、期限日前に発明者が、その分野の技術をもつ人がその発明を実施することを可能にするのに十分な、発明の図面またはその他の説明を作成していたことを証明することにより、満たすことができる。

同上[6]

Amdahlは、1992年10月には、ソフトオーディットがいずれの基準の下でも特許の準備ができていたと主張する。第一に、ソフトオーディットは1992年10月に実施に移されたとAmdahlは主張する。この主張の裏付けとしてAmdahlは、Isogonの従業員で株主であるSteven Youchnowの証言を引用する。Youchnowによれば、1992年10月にはRobert Barritzはソフトオーディットの全体的構造を完成させた(コードの行数は現在の15万以上と比べて、約1万5千であった)が、「ほとんど試験はしていなかった」と述べた。1998年8月28日に宣誓したSteven Youchnowの意見書(「Youchnow意見書」)、P.2。そしてBarritzはソフトオーディット・プロジェクトをYouchnowに引継ぎ、Youchnowがソフトウェアの主な部分を書いた。同上、at PP 3-4。Youchnowはまた、「1992年10月にはソフトオーディットはベータ段階以前であり(通常、アルファ・バージョンと呼ばれる)、ほとんど作動しないソフトウェア製品であったと記憶している」とも述べた。同上、at P 12。Amdahlが提出した、実施へ移したことのもう一つの証拠は、下記の、Youchnow氏による証言録取書である。

問:   ソフトオーディットに対して貴方の1992年にしていた作業の文脈では、貴方の「作動」の定義を使うとして、それは何らかの環境で作動していましたか。

答:   それは私の非常に限定された [*14] プラットフォームで作動していました。

問:   それはGISでしたか。

答:   そうです。私自身が独自に定義したユニバースでした。

問:   その独自のGISのユニバースとオペレーティング・システムでは、それは一つまたは複数の報告を生み出しましたか。

答:   はい。

問:   しかし、それらすべての特徴を前提とした上で、それはその環境、つまりGIS環境で機能していた、作動していたと貴方は言っていると考えていいですか。

答:   GIS環境の私のコーナーでは、そうです。

Steven Youchnowの証言録取書、pp. 106-07、l. 23-9、pp. 107-08、l. 23-2、p. 108、l. 11-16(Amdahlの反対意見書の証拠物Qとして添付)。

次にAmdahlは、1992年10月には、「特許出願ができる状態」という第二の基準を満たす十分な文書が存在したと主張する。Amdahlは、「ソフトオーディットはどのように作動するか」という表題の図面を含む、1992年10月21日付けのソフトオーディットのユーザー用マニュアルのコピーを指摘する。Amdahl意見書at 5の証拠物H参照。この図面は1993年のユーザー用マニュアルと同一の態様で発明の要素を描いている。Amdahl意見書at 5の証拠物I(調査、監視および報告の要素が同一の態様で結ばれている)参照。ユーザー用マニュアルは1992年の契約に言及によって組み入れられ、Isogonはそのプログラムが「Isogonのユーザー用文書および公表された仕様に記されているように」機能することを [*15] 保証した。Amdahl意見書at 3-4の証拠物Z参照。

Isogonによれば、1992年10月にはソフトオーディットは特許出願ができる状態ではなかった。その時点でIsogonはまだ、ソフトオーディットがその意図された目的のために、その意図された環境(メーンフレーム・コンピューター)において機能するか否かを確認する必要があった。Robert Barritzが述べたように、「1992年10月における責務は、ソフトウェアを完全に試験し、かかる設備から知識ベースの製品データ情報を得るために、メーンフレーム・コンピューターへアクセスできるように、大きなメーンフレーム設備をもつ一つまたは複数のオペレーターの協力を得ることであった」。Barritz供述、P 13。Barritz氏は、1993年3月まではプログラムは顧客への提示のために発表はされていなかったと述べた。Robert Barritzの証言録取書p. 27、l. 14-17(1998年8月31日に宣誓された、原告側弁護士Max Moskowitzの供述(Moskowitz供述)に証拠物Aとして添付)。

ソフトオーディットの試験においてYouchnow氏は1992年から1993年にわたって [*16]、ソフトオーディット製品を試験し改訂し完成品にするために、Ana Hansonと電話で継続的な不断の連絡をとっていた。Youchnow供述PP 8、10。Youchnowによれば、Aetnaはこのプロジェクトに興味を失い、知識ベースが必要とする情報をIsogonに提供しなかった。同上、at P 11。Ana Hansonは、1992年あるいは1993年にこのプロジェクトで働いていたか否かも、また1992年または1993年に報告を作成できたか否かも覚えていないので、彼女の証言は曖昧であるとIsogonは指摘した。Hanson供述p. 10、l. 8-12、p. 16、l. 2-11参照。(Moskowitz供述の証拠物Bとして添付)。しかし彼女は、1993年、作成された報告はモジュール名を製品名に結び付けられていなかったことは認めた。同上、at p. 33、l. 8-14。

Isogonは、Aetnaがソフトオーディットにまだ満足していなかったことの証拠として、Aetnaのソフトウェア技術部のDebby Wilmesが1993年5月に、社内の電子メールで、ソフトオーディットの別のバージョンをテストすることに同意し、「我々は今回はこれで努力してみる」と約束すると書いたことを指摘する。Barritz供述の証拠物A参照。IsogonのAetna担当従業員であるStephen D. Berkowitzは、1993年6月8日に、Aetnaとの会話について、「ソフトオーディットについて状況はよくなっていると思える ... ボールは彼らに渡された」とコメントし、テスト継続の意志を示唆している [*17][7]。Martin供述、証拠物A。

その後状況は悪化した。1993年10月5日時点では、作動上の問題のため、AetnaはAetna内で使用するためのソフトオーディットを発表していなかった。Aetnaのソフトウェア技術部はソフトオーディット・プロジェクトを、「Isogon協力開発ソフトオーディット」と呼んでいた。Moskowitz供述、証拠物C [*18]。1993年11月10日のDebby WilmesからのAetnaの電子メールは、状況を次のように要約していた。

ソフトオーディットは1992年秋にAetnaに持ち込まれた。それ以降、我が社はこの製品を実現するために努力してきた。この製品にはシステムの信頼度に影響するような問題がたくさんあった。机上ではこの製品は素晴らしく見える ... 現実には、一年間の努力の成果はまったくなかった。

したがって、この製品を棚上げすることを私は勧告する。

Moskowitz供述、証拠物D。1994年5月9日付けのWilmes氏からの電子メールは次のように確認している。「Fredが持ち込もうとしている製品(ソフトオーディット)は、非常に多くの問題を引き起こしたので最初のテスト以上には実現されなかった」。Moskowitz供述、証拠物E。

上記に鑑みて、1992年10月におけるソフトオーディットの完成の程度に関しては、事実に関する争点が存在する。同様の争点は、Seal-Flex, Inc. v. Athletic Track and Court Constr., 98 F.3d 1318(連邦巡回、1996)にもあった。その訴訟で裁判所は、「法律上の問題として、[特許が与えられた]方法が実際に [*19] 全天候用表面を作り出すか否かまだわかっていなかったのに、「発明が十分に完成していた」ので販売による無効が生じたと判断するのは、正しくなかった」。同上、at 1332。裁判所は次のように結論付けた。

発明が意図した目的を達成するか判断するのに、合理的に考えて評価期間が必要である場合には、かかる判断を行っている最中には、@ 102 (b) に基づく無効は発生しない。これは事実問題についての争点であり、略式判決の非申立人に対して不利に認定することはできない。

同上、at 1324(強調追加)。Robotic Vision Sys., Inc. v. View Engineering, Inc., 112 F.3d 1163, 1168(連邦巡回、1997)(裁判所は、発明を実施するのに必要なソフトウェア・プログラムが、販売の申し出とされた時点で完成に近くさえなかった訴訟において、略式判決を破棄した −「発明が実質的に完成されていなければ、販売による無効はありえないので」、完成されたのが期限日以前か以降かは、重大な事実問題についての真正な争点を提起する)。

しかし、期限日前に発明が実質的に完成したか否かは、もはや適用される基準ではない。その代わりに本法廷は、発明が特許出願できる状態になっていたか否かに焦点を当てなければならない。1992年10月の時点でのソフトオーディットの特許性に関して、矛盾する証拠がある。Amdahlは発明がすでに実施されたと主張し [*20]、Isogonは、自然な環境でのテストを必要とする発展段階にあったと主張する。さらに、ソフトオーディットの性質と複雑さを考えると、法律問題として、1992年のユーザー用マニュアルが、製品の実際の使用を可能とするほど十分に具体的であり、したがって特許性に対する新しく表現された基準の二番目を満足すると言うことは困難かもしれない。しかし、商品化および実験の問題によって略式判決はすでに禁じられているので、私はこの争点について判断する必要はない。

D.    実験的使用

1992年10月の同じ期間中に、Isogonは、Aetnaとの契約と同様の契約をGISと締結し、ソフトオーディットのコピーを1ドルで提供するのと交換に、メーンフレーム・コンピューター設備と製品情報へのアクセスを要請した。Barritz供述、P 22。GISへのライセンスの許諾は、「ソフトオーディットとの作動の成功と、GIS情報システムによる受け入れを条件」としていた。同上、それに添付された証拠物Bも参照。GISは1992年はソフトオーディット製品を使用せず、1995年の中頃から終盤に同製品を使い始めた。GISの従業員 [*21] であるThomas M. Agostinoの供述、p. 49、l. 6-12(「Agostino供述」)参照。IsogonとGIS間の1992年の活動に関して、Agostino氏は次のように証言した。

問:   私は、IsogonによるGISのコンピューターの使用に関して、1992年にGISがIsogonとの協力でしたことをすべて知りたいと思います。

答:   わかりました。私が言えることは、我々はIsogonに、その製品の開発を促進するために、特別のプロセシング環境を提供したということです。しかしそれがいつだったか、正確には知りません。1992年以前だったか以降だったかわかりません。

問:   Isogonはなぜ、特別のプロセシング環境を得たのですか。

答:   システム・ソフトウェアの開発プロセスにおいては、開発中のプログラム、および我が社のオペレーティング・システム環境の完全性に関係するリスクがあります。我が社のシステムをクラッシュさせ、他の顧客に影響を与えることをする可能性があるのです。

我が社はそうなることを望みませんでした。そこでこの製品の開発のために専用の特別なテスト環境を用意し、他の顧客を危険にさらさないようにしたのです。

Agostino供述、p. 28、l. 17-24、p. 29、l. 7-19。1992年の契約締結の動機に関しては、Agostino氏は次のように説明した [*22]。

答:   Frank [Burns] と私は、1992年10月の契約締結に関わる状況について話しました。... しかしそれに結び付いた状況は、GISがIsogonに、この製品のためにこの孤立した専用のテスト環境/開発環境を提供し、その代わりにIsogonが、実質的に無料でGISのこの製品のライセンスを与えたということでした。

同上、pp. 85-86、l. 20-4。

AetnaまたはGISとの取引が実際の販売であると仮定しても[8]、この検討は終わらない。「販売による無効は、十分な商業上の販売ができる状態ではなくとも、販売を申し出られた発明の特許を無効とする」。Atlantic Thermoplastics Co., Inc. v. Faytex Corp., 970 F.2d 834, 836(連邦巡回、1992)(Barmag Barmer Maschinenfabrik v, Murata Mach., 731 F.2d 831, 838(連邦巡回、1984))が、「発明の開発段階および発明の性質を含む、販売または販売の申し出に関係するすべての状況を、第102条 (b) の裏にある目的に鑑みて検討し斟酌しなければならない」。UMC Electronics Co. v. United States, 816 F.2d 647, 656(連邦巡回、1987)。「買主が実験的テストに参加するために [*23] なされた販売は、販売による無効を生じない」。同上、at 657[9]。さらに、

販売またはその申し出が実験目的であるという根拠で特許権者が販売による無効を避けようとする場合、第一審裁判所は、特許権者が、テスト計画の一部としてではなく、主として利益のための販売を追求したか否かを判断しなければならない。利益が取引の動機であったか否かの判断のためには、裁判所はクレームされた機能、申し出人の客観的意図、そして状況全体を検討しなければならない。

Atlantic Thermoplastics, 970 F.2d at 836(内部引用省略)。販売が実験目的であったか否かを判断するには、裁判所は以下の要素を検討した。

公開試験の必要性、留保される使用に対する管理の程度、発明の性質に対する公開試験の程度、試験期間の長さ、支払いがなされたか、機密義務の有無、進捗記録がつけられたか、誰が実験を行ったか、実験の目的に対する試験中の商業的利用の程度。

Baker Oil Tools, Inc. v. Geo Vann, Inc., 828 [*24] F.2d 1558, 1564(連邦巡回、1987)(内部引用省略)

たとえばManville Sales Corp. v. Paramount Sys., Inc., 917 F.2d 544(連邦巡回、1990)においては、発明者はワイオミング州の役人から、公衆に開放されていない休閑地で新設計のアイリス・アームを試す許可を求めた[10]。同上、at 547-48。特許権者によれば、天候に対するこの新設計の耐久性は未知であり、風、寒冷あるいは腐食作用のある大気の下での試験が必要であった [*25]。同上、at 548。アイリス・アーム装置は1971年11月と1972年4月に設置され、ワイオミング州の役人はその装置を検査し支払いを認めた。同上、at 548。特許権者は1972年3月10日にアイリス・アームの商業上の利用を承認し、1973年2月5日に特許を出願した。同上。

上訴裁判所は、ワイオミングでの設置により販売による無効を認定することを拒否した。同上、at 551。その際に同裁判所は、「冬の環境でテストをする前は、発明が意図された通りに機能するとの確信をもつ根拠は、発明者にはなかった」と述べた。同上、at 550([*26] 発明者が「発明がその意図された環境でその意図された目的を実行できると確信するのに必要な試験を行う」までは、実験的使用期間は継続するとの命題に関して、Gould Inc. v. United States, 217 Ct. Cl. 167, 579 F.2d 571, 583(Ct. Cl. 1978)を引用)。特許権者がワイオミング州の役人から報酬を受けたという事実は、利益ではなく実験が、ワイオミング州での設置の主要動機であると裁判所が認定することを妨げない。同上。ワイオミング州での設置の時点では、「屋外環境でのテストが、発明が意図された通りに機能するか判断するために必要であった。そして[特許権者は]明らかにこの設置を実験とみなしていた。」917 F.2d at 551。

同様の結論を、TP Laboratoriesにおいても見ることができる。その訴訟では歯科矯正医/発明者が、新しいポジショナーが既存の技術に対する改善となっているかを判断するために、期限日よりかなり前に、3人の患者に、特許を受けたポジショナーを使用した。裁判所は、「発明者による使用が実験的なものであったことを証明するのに、特許権者に重い立証責任を負わせた」地方裁判所に反対した。724 F.2d at 969-70。同裁判所によれば、

35 U.S.C. @ 282が定めている [*27] 法律上の有効性の推定は、立証責任を、特許の有効性を攻撃している当事者に負わせており、説得責任はいかなる場合でも特許権者には移らない。それは不変であり、訴訟全体を通じて異議申立て者に存する。

同上、at 971。

同裁判所は、3人の患者での発明の利用は過度ではないので、公開試験に対する @ 102 (b) による無効の認定を拒否した。同上、at 972。「『発明がクレームされた通りのものであり、意図された目的に叶うものである』か否かを判断するためには、必要なテストをかなりの期間、数人の患者に対して行わなければならなかった」。同上(City of Elizabeth v. American Nicholson Pavement Co., 97 U.S.126, 136, 24 L. Ed. 1000 (1877) を引用)。特許権者の有利となるもう一つの要素は、特許を出願する前には、商業上の利用はなかったということであった。724 F.2d at 973。

本件でIsogonは、1992年10月のソフトオーディットの使用は実験的なものであったということに対する、説得力のある証拠を提示した。特にIsogonの社長は、発明の知識ベースはその時点では、意図された通りに機能すると判断できるほど十分な情報を含んでいなかったと証言した。さらに、ソフトオーディット製品が [*28] GISにおいて、独自の分離した環境を与えられたという事実は、実験であることのさらなる証拠である。製品が商業的に利用されていたとすれば、オペレーティング・システム主体に望ましくない結果を生み出さないように、孤立した環境を提供することが必要だったとは考えにくい。同様に、製品は期限日前には、Aetnaのソフトウェア技術部の下から出なかったという証拠もある。したがってIsogonは、問題の期間中のソフトオーディットの実験の性質と程度に関して、重大な事実問題に関する真正な争点があることの、十分な証拠を提示している。したがって略式判決は不適切である。

III.    結論

まとめると、問題の期間中にソフトオーディットの商品化と実験に関して、重大な事実問題に関する真正な争点が存在すると私は認定する。したがって、略式判決を求める被告の申立ては、原告に有利な略式判決が下されるべきであるとの原告の示唆とともに棄却される。Orix Credit Alliance Inc. v. Horten, 965 F. Supp. 481, 484 (S.D.N.Y., 1997)(略式判決は、正式の反対申立てがない場合でも、事実記録が非申立人の有利に説明できると裁判所が判断すれば、非申立人に対して与えることができる [*29])。上記の問題は、事実認定者に委ねるのが最善である。

以上の通り命令する。

Shira A. Scheindlin
合衆国地方判事

日付:ニューヨーク州ニューヨーク
1998年11月18日



[1]    ソフトオーディットは、本質的に、4つの基本的なソフトウェア要素から構成される。第一の要素「サーベイアー」は、その商売上の製品名で表現された「記憶されたプログラムすべての在庫リストを生成するために、メーンフレーム・コンピューターに記憶されたファイルを組合せることができる」、ソフトウェア・プログラムである。訴訟対象の特許の発明者でIsogonの社長である、1998年8月28日に宣誓されたRobert Barritzの供述を参照(「Barritz供述」)、P 6。もう一つの主な要素である「モニター」は、「コンピューター内部のさまざまなコンピューター・プログラムの利用を監視し追跡するために、その監視されているコンピューターのOS(オペレーティング・システム)に入り込むことができるソフトウェア」である。同上、at P 7。第三の要素「レポーター」は、「各人が、サーベイアーとモニターが生み出す結果の意味を判断することを可能にする報告を作成する」。同上、at P 8。第四の要素「知識ベース」は、さまざまなコンピューター・プログラムが使う数千のさまざまなファイル名、およびそれらのファイル名とそれぞれに付随する商品名との関係についての情報を含むデータベースである。同上、at P 9。Barritz氏によれば、「知識ベースがなければこの発明は役に立たない」。同上。[*3]

[2]    Isogonは1994年1月14日に特許を出願した。35 U.S.C. @ 102 (b) によれば、もし特許出願の提出日の1年以上前に、特許を受ける発明の販売の申し出をしていたとすれば、発明者は特許を受けることを禁じられる。したがって、@ 102 (b) による無効を判断するときの期限日は、1993年1月12日である。

[3]    法のその他の目的には、以下のものがある。長い販売活動の結果として、当然、自由に利用可能であると考えるようになった公衆から、発明を奪うことを思い止まらせること。新発明を公衆へ速やかにそして幅広く開示することを奨励すること。特許に価値があるかを判断するための、販売活動の後の妥当な期間を発明者に与えること。General Electric Co., v. United States, 228 Ct. Cl.192, 654 F. 2d 55, 61 (Ct. Cl. 1981)。

[4]    第II条D、以下、参照。

[5]    Amdahlは本法廷に、製品データは販売に対する十分な対価であると認定するように促すが、開発と商品化とは区別しなければならない。AetnaとGISから得た製品データが、ソフトオーディットを商業的に意味のある製品にするのに役立ったことは疑いない。しかしライセンス契約の時点では、ソフトオーディットが自然な環境で意図された通りに機能するかは知られていなかったので、データには内在的な価値はなかった。したがって私は、@ 102 (b) による無効の目的で販売と認定するために、無用となるかもしれないその情報にさかのぼって価値を与えることを拒否する。TP Laboratories, Inc. v. Professional Positioners, Inc., 724 F. 2d 965, 971-72(連邦巡回、1984)参照。

[6]    「プロセスは、それがうまく機能したときに実施に移されたことになる。機械は、それが組み立てられ調節され使用されたときに実施に移されたことになる。製造は、完全に製造されたときに実施に移されたことになる。物質の合成は、完全に合成されたときに実施に移されたことになる」。同上、at 1(Corona Cord Tire Co. v. Dovan Chemical Corp., 276 U.S. 358, 383, 48 S. Ct. 380, 72 L. Ed. 610 (1928) を引用)。つまり、実施に移されたか否かの基準は、発明がその意図された目的のために機能することが知られたか否かである。Mahurkar v. C.R.Bard,Inc., 79 F. 3d 1572, 1578(連邦巡回、1996)。

[7]    1993年春のIsogonのムードは、楽観的であったようである。1993年4月29日付けの手紙の中で、その当時のIsogonの財務担当副社長Gerald Sindlerは、ある欧州のソフトウェア販売会社に次のように書いた。
ソフトオーディットはまったく新しい製品です。我々は照会先としての試験設置をしただけで、まだ一つも販売していません ... ソフトオーディットについて約20もの大きな取引が進行中で、この製品は大成功が約束されています。しかし我が社のビジネス・パートナーを脅かしたり混乱させたりするつもりはありません。つまり回答では、現時点では、善意の顧客はまだ一人もいません。
Barritz供述、証拠物C。

[8]    一つの販売または販売の申し出があれば特許性を無効とするのに十分なので、両方が該当する必要はない。Caveney訴訟、761 F. 2d 671, 676(連邦巡回、1985)。

[9]    最高裁判所は最近、「自分の発明を完成させようとする発明者は、その発明の特許を受ける権利を失わずに、十分なテストを行うことができる ... 法律はずっと以前から、実験的に使用されている発明と、商業的に販売されている製品との区別を認めてきた」という、確立している命題を繰り返した。Pfaff, 1998 WL 777044, at *5。

[10]  「アイリス」ガイド・アームとは、ポールを容易に上下できる、新しい、自動的に位置調節をする投光照明設備の一部であった。ガイド・アームは、照明設備がポール上にある間、中央の位置を保てるように、照明ポールと支持台の間に力を加えることを目的としたものであった。同上、at 547。