原告:MAS-HAMILTON GROUP
対
被告:LaGARD, Inc.
民事訴訟No. 94-349
アメリカ合衆国地方裁判所
ケンタッキー州東部地区
レキシントン局
1997 U.S.Dist.LEXIS 22974
判決:1997年3月5日
記録:1997年3月5日
判決:措置[*1]被告LaGardの特許第656号は有効であり、原告Mas-HamiltonのX-07錠は特許第656号を侵害しない。判決は最終であり、上訴が可能で、遅延のいかなる正当な理由も存在せず、本事件は系属中の訴訟事件表から抹消される。
キーワード:レバー、錠、ソレノイド、発明、可動の、戻り止め、ハウジング、カム、特許、明細書、侵害、発明者、ダイアル、ボール、カム・ホイール、表面、実質的に異なる、機械的、アーム、告訴された、カンチレバー、文字上、ピン、系合、回転、無効、滑走、ミーンズ+ファンクション(機能のみが記載されている請求項)、電子的、保持。
訴訟代理人
原告:MAS-HAMILTON GROUP側:ケンタッキー州レキシントンFrost & Jacobs法律事務所、弁護士Denise H. McClelland
原告:MAS-HAMILTON GROUP側:オハイオ州シンシナティFrost& Jacobs,LLP法律事務所、弁護士David E.Schmit, Scott T. Piering, Rita Mirman
被告:LAGARD, INC.側:ケンタッキー州レキシントンStites & Harbison法律事務所、弁護士Gregory P. Parsons
被告:LAGARD, INC.側:カリフォルニア州ロサンゼルスPoms, Smith, Lande & Rose法律事務所、弁護士Michael D. Harris, Guy Porter Smith, Christopher Darrow
反訴原告:LAGARD, INC.側:ケンタッキー州レキシントンStites & Harbison法律事務所、弁護士Gregory P. Parsons
反訴原告:LAGARD, INC.側:カリフォルニア州ロサンゼルスPoms, Smith, Lande & Rose法律事務所、弁護士Michael D. Harris, Guy Porter Smith
反訴被告:MAS-HAMILTON GROUP側:ケンタッキー州レキシントンFrost & Jacobs法律事務所、弁護士Denise H. McClelland
反訴被告:MAS-HAMILTON GROUP側:オハイオ州シンシナティFrost & Jacobs, LLP法律事務所、弁護士David E.Schmit, Scott T. Piering
裁判官:KARL S.FORESTER裁判官
判決理由執筆:KARL S.FORESTER
判決理由:事実認定および法の適用
本訴訟は1997年2月4日に裁判所にて審理が開始され、1997年2月10日に終了した。本事件は現在、事実認定および法の適用の申請のために、裁判所に付託されている。公判において提出された証拠、当事者によって提案された事実認定および法の適用およびこれらに関する異議申立て、ならびに準拠法にかんがみて、裁判所は下記の事実認定および法の適用を行った。
1. 原告Mas-Hamilton Group(以下Mas-Hamiltonという)は、主たる事業所をテキサス州レキシントンに有するケンタッキー州法に基づく法人である。Mas-Hamiltonの主たる株主は、J.D.Hamilton(社長)および同氏の父であるJimmy Hamilton(会長)である。Mas-Hamiltonは、高セキュリティー電子錠および関連製品の設計、製造および販売に従事している。
2. 被告LaGard, Inc(以下LaGardという)は、主たる事業所をカリフォルニア州トランスに有するカリフォルニア州法に基づく法人である。会社は主として、Klaus(以下 Nickという)Gartner(最高経営責任者兼会長)およびPeter Phillips(現在はLaGardの顧問)によって所有されている。Gartner氏はドイツ人であり、Phillips氏は英国人である。LaGardの社長[*3]は、Larry Cutterである。
3. LaGardは、「高セキュリティー電子ダイアル組み合わせ錠」の名称を有する合衆国特許番号第5,307,656号(以下特許第656号という)の所有者であり、この特許は1994年5月3日に付与された。特許には発明者としてGartner氏、Cutter氏およびPhillips氏が記載されている。n1 Gartner、PhillipsおよびCutterは1990年12月17日に特許の出願を行った。
4. 1994年8月4日にLaGardは、Mas-Hamiltonの電子高セキュリティー錠に特許第656号の侵害があると告訴した。すなわちPX71である。その時点で、Mas-Hamiltonによって販売されていた錠はX-07錠のみであった。裁判所は、本訴訟における侵害の事実については、Mas-Hamiltonが製造もしくは販売するX-07錠(PX124)が唯一その対象の製品であるとした。
5. この侵害の告訴に応訴するために、Mas-Hamiltonは、1994年9月8日に本訴訟を提起し、特許第656号を侵害していない旨の宣言的判決を求めた。n2 [*4] 裁判所の根拠に基づき事件を却下させることができなかったために、LaGardは1995年7月18日に特許第656号侵害の反訴を提起した。n3 n3 この反訴に対して、Mas-Hamiltonは特許第656号が無効であり、侵害は存在しないと主張した。
6. 特許庁によって付与された特許は、他の請求項とは独立して、それぞれの請求項について有効であるものと推定される。米国特許法第282;Jones v. Hardy, 727 F.2d 1524, 1528 (Fed. Cir. 1984)を参照のこと。この推定に反証するには、告訴された侵害者は明白かつ確信的な証拠によって、無効と主張されているそれぞれの主張の無効性を立証しなければならない。Bonder Tongue Laboratory v. University of Illinois Foundation, 402 U.S. 313,335,28 L. Ed. 2d 788,91 S. Ct. 1434(1971); Shelcore, Inc. v. Durham Industries, Inc., 745 F.2d 621,625 (Fed. [*5] Cir. 1984)を参照のこと。
7. さらに、合衆国特許商標庁等の政府機関は特許の審査において、その任務を適正に遂行したものと推定される。American Hoist & Drrick Co., v. Sowa & Sons, Inc. 725 F. 2d. 1350, 1359 (Fed. Cir. 1984)を参照のこと。
8. LaGardの特許は、電子組み合わせ錠をその範囲としている。錠には優良な設計がなされているものの、発明者であるNick Gartnerは公判において、この業界においては飛躍的な発明は考えられないと述べた。(Gartner, Trial Transcript Vol. III, afternoon session, p. 70を参照のこと)
9. 電子錠に先行して存在していた機械的組み合わせ錠は、回転可能な組み合わせダイアルが一連のタンブラー・ホイールとカム・ホイールを回転させる。ダイアルの前後の回転は、ゲートを整列させ、タンブラー・ホイール上に記録する。使用者が適切に組み合わせをダイアルすると、ゲートはすべて整列され、これによってフェンスがゲート内に嵌入する。こうして、レバーがカム・ホィールの方向に移動させられる。もう一端のレバーは引き込みボルトに取り付けられている。レバーがカム・ホイールの方向に移動すると、レバーの一端の突出部分がカム・ホイールの曲線の凹部に嵌入する。凹部の形状が突出部分の形状に合致するため[*6]、カム・ホイールは回転時にレバーを保持する。カム・ホイールの回転が継続するとレバーが左方向に引っ張られ、ボルトが引き込まれ、これによって安全ドアが開く。
10. この型の錠の機械部品は、規則的に相対して移動する。例を挙げると、組み合わせがダイアルされると、フェンスとレバーはタンブラー・ホイールとカム・ホイールの外側に沿って摺動する。泥棒やスパイなどのプロは、フェンスとゲートが一列に並ぶのを音でもしくは感覚で(またはX線によって透写されて)察知する。この情報があれば、錠が開けられてしまうのである。
11. 先行技術の電子組み合わせ錠においては、ダイアルの回転によって電子シグナルが発生する。シグナルによってソレノイドのような電子デバイスが、レバーを解除して、レバーはカム・ホイールに系合する。機械仕掛の錠においては、カム・ホイールの回転が継続することによって、レバーが引っ張られボルトが引っ込む。
12. LaGardの特許第656号において説明および特許請求されている発明は、下記に記載されるいくつかの重要な特徴を組み合わせている。
a. 使用者が適切な組み合わせを入力しない限り、カム・ホイールは、これと接合しているボルトを引っ張るレバーと関係なく、自由に回転する。
b. 使用者が適切な組み合わせを入力しない限り、レバーはカム・ホイールから離れる方向に固着される[*7]。
c. 適切な組み合わせが入力されると、内部装置によってレバーはカム・ホイールの方向に確実に移動させられる。
d. 内部装置には、直線もしくは回転ソレノイドのような電子機械ドライバーが含まれる。
e. 必要電力削減のために、このソレノイドは装置の一部のみをカム・ホイールと系合させている。ソレノイドからの電子的な力の代わりに、手動の回転を継続することによって装置は継続して移動し、これによってレバーはカム・ホイールの方向に引っ張られる。
13. 原告Mas-Hamiltonは下記の根拠に基づき有効性について異議申立てをした。
a. 不正確な発明者の記述
b. 米国特許法第102(g)条に基づく他者による先行発明
c. 米国特許法第102(f)条に基づく逸脱
d. 米国特許法第102(b)条に基づく特許出願日の1年前より以前に、発明は「販売」されていたこと
e. 米国特許法第102(b)条に基づく特許出願日の1年前より以前に、発明は公然実施されていたこと
f. 米国特許法第112条に基づく最良の態様についての要件を満たしていないこと
g. 米国特許法第112条に基づく実施可能性の欠如
h. 米国特許法第112条に基づく曖昧もしくは不明確な請求項[*8]
i. 米国特許法第第102条および103条に基づく予測性/自明性
14. 特許を取得しようとしている主題事項を自身が発明した場合でなければ、特許を出願する権利を有しない。米国特許法第102(f)条; New England Braiding Co., v. A.W.Chesterton Co., 970 F.2d 878,883(Fed. Cir.1992)を参照のこと。さらに出願人は「私は特許取得を求める…本装置の創作者かつ第1の発明者である。」との宣誓を提出する。米国特許法第115条;Glaxo,Inc. v. Novopharm, Ltd., 52F.3d 1043,1051(Fed. Cir.1995)を参照のこと。
15. 特許における真正な発明者の記述の欠如もしくは余分な記載は、特許を無効にする。Jamesbury Corp. v. United States, 207 Ct.Cl.516, 518 F.2d 1384, 1395 (Ct. Cl. 1975); Iowa State Univ. Research Foundation, Inc. v. Sperry Rand Corp., 444 F.2d 406, 408(4th Cir. 1971)を参照のこと。発明者の不当併合は米国特許法第102(f)条に基づき特許を無効にする。O.M.S. Inc. v. Dormont Manufacturing, Co., 1996 U.S. Dist. LEXIS 11468, 39 U.S.P.Q.2D (BNA) 1151, 1154 (W.D.Pa. 1996) を参照のこと。このような発明者の不適切な記述ありたる特許は、訂正措置が取られない限り、執行できない。Merry [*9] Mfg. Co. v. Burns Tool Co., 335 F.2d 239, 242(5th Cir. 1964)を参照のこと。
16. 不適切な発明者の記述によって無効となった特許は、特許庁もしくは裁判所において訂正することができる。
付与された特許に発明者と誤記され…、かつこの誤記が誤記された者の欺瞞的意図なくして発生した場合は、(特許庁の)長官は、...事実の証拠およびその他の必要事項をもって、この誤記を訂正する証明書を発行することができる。発明者の記載漏れ、もしくは発明者でない者が記載されている場合で、この項の規定によって訂正できる場合は、誤記があった特許は無効とされない。本事項が付託された裁判所は、特許の訂正について当事者への通知および聴聞を命令でき、長官はこれにしたがって証明書を発行する。
17. 当事者は、欺瞞的意図についての証明義務を有しているのがいずれの側であるかについて意見を異としている。被告は、発明者の不当併合によって特許が無効になるには、原告が明白かつ確証的な証拠をもって欺瞞的意図を証明すべきであると主張する。一方原告は、共同発明者が不適切に特許に記載されていることが特許の異議申立て[*10]によって一旦証明されれば、欺瞞的意図なくして発明者の誤記があったことを証明する責任は、特許権者に移行すると主張する。
18. Mas-Hamiltonは、特許第656号がLarry Cutterを発明者として不正確に記載していることを理由に、その無効を主張する。さらに、特許出願書類には、Nick Gartner およびPeter Phillipsがアメリカ人であると不正確に記述している。
19. 特許第656号には、Gartner氏およびPhillips氏の共同発明者がCutter氏であるとの不正確な記載がある。錠設計に対するCutterの貢献は、GartnerおよびPhillipsが発明を実施した後のことである。Gartner氏は1989年11月に実施可能な試作品をMoslerに持ち込んだが、Cutterは1990年1月になってからLaGardの従業員となったのである。Cutterは1990年後半になって、試作品をMoslerに提出するようにLaGardに提案した。Gartnerはこれらの活動があったために、Cutterが共同発明者であると錯覚した。
20. 1996年9月30日にLaGardは特許庁に登録発明者の訂正を申請した。LaGardの申請は、「当初記載された発明者もしくはその複数の発明者によって証明された事実の宣誓書」[*11]を含むという点で連邦行政命令集37 第1.48(a)(1)条に規定される特許庁の要求事項に従うものであった。発明者であるGartnerおよびPhillipsならびに誤って発明者と記載されたCutterは、誤記によって特許第656号に発明者と記載されてしまったこと、ならびに誤記は同氏の欺瞞的意図によるものではないことを明示し、願書とともに宣誓書を提出した。
21. さらに発明者を訂正するLaGardの申請は特許庁に、GartnerおよびPhillipsの国籍にも誤りがあったことを通知した。
22. 1997年2月3日、特許庁は、登録発明者の誤記はいかなる欺瞞的意図によるものでもないとしてLaGardの登録発明者訂正の申請を認容した。DX115を参照のこと。
23. 欺瞞的意図があったか否かについての証明義務をいずれの側が負うとしても、裁判所は公判において提出された証言および証拠によって、特許出願書の国籍の誤記およびCutterが誤って発明者として登記されたことは、欺瞞的意図によるものではないという判断に落ち着いた。
24. よって、裁判所は特許第656号が不正確な発明者の登記により無効になるとはされないとした。
25. 他の者が発明した事項[*12]については、いかなる者も特許の権利を有していない。 Bergyについて、596 F.2d.952, 960 (C.C.P.A. 1979)を参照のこと。特許は、その主題事項の第一の発明者が他の者である場合には無効となる。
26. 米国特許法第102(g)条によれば、特許の権利を有するには、以下の事項に当てはまらないことを条件とする。
(g) 出願人の特許についての発明以前に、本国で他の者がそれを発明し、かつその発明を放棄、禁止、隠匿していない場合。発明の優先順位を決定する際には、それぞれ発明の考案日と発明の実施日のみならず、他の者による考案以前の時点から、最初の考案者であり最後の実施者となってしまった者が合理的な努力を行っていたかどうかに対して配慮がなされなければならない。
27. 一方の当事者がその発明を最初に考案したこと、また後になって発明を実施したことにおいて合理的な努力が行われていたことを証明しない限り、発明を最初に実施した当事者に発明の優先順位が与えられる。Price v. Symsek, 988 F.2d 1187, 1190 (Fed. Cir. 1993)を引用するMahurkar v. C.R. Bard, Inc., 79 F.3d 1572, 1577 (Fed. Cir. 1996)を参照のこと。「構想」とは、発明という行為の中での知的な分野の完全履行を意味する。発明が意図された目的どおりに機能したときに、実施が行われたものとみなされる[*13]。
28. 発明先行についての防禦において、Mas-HamiltonはClayton MillerおよびMichael Harveyが、特許第656号において説明され請求されている錠をLaGardの発明者が発明する以前に、X-07錠を発明していたと主張した。
29. Nick GartnerおよびPeter Phillipsは長年、錠産業に従事してきた。いずれの者も少なくとも、錠の装置に関する30以上の特許の有名な発明者である。GartnerおよびPhillipsの特許は、Millerを含む多くの錠のメーカーおよび販売業者に実施許諾が与えられた。Gartnerは、「知識ある精神異常者」から原子力潜水艦トライデントを保護するために海外で使用できる錠の開発において成し遂げた業績について、海軍省およびFBIから褒賞を受けた。
30. 1989年11月に、George HerrmannおよびGartnerは、オハイオ州ハミルトンのMosler, Inc.に錠の試作機を持ち込んだ。Herrmann氏は、現在もそして1989年時点においても、LaGardの製品を販売する独立販売店代表であった。そこで、HerrmannとGartnerは、Moslerが実施許諾に基づく錠の製造に興味を示すよう、Moslerの技術者に錠を提示した。
31. LaGardがMoslerに持ち込んだ錠は組み合わせを有していなかった。その代わりに、[*14]スイッチを閉めることによってソレノイドに電子シグナルが送られるものであった。n4シグナルがソレノイドに送られると、ダイアル作動によって、錠の装置が錠を開ける仕組みになっていた。より複雑な電子組み合わせについての設計および実施は公知のものであり、発明の重要な特徴ではなかった。
LaGardの発明の時点では、電子、複数番号組み合わせサーキットは公知のものであった。このような装置は米国特許第4,745,784号に説明されており、特許第656号においても、このようなよく知られたサーキットの例として、この特許を挙げている。
32. そこでLaGardは1989年11月には、特許第656号の錠を実施していた。明らかなように、錠はLaGardが実施する以前に考案されていたものである。LaGardの1989年11月の試作品が実施のためには適合しなかったとしても、少なくとも試作品は、その日付における考案の証拠となる。LaGardは1990年8月から9月にかけて、複数の番号組み合わせによる錠の最初の試作品を製作した。その試作品は、Moslerが今後の実施許諾のために錠を評価する目的をもって、Moslerに数個の錠を提供するという契約の一部であった[*15]。LaGardがMoslerに送った錠は、実用に適合するものであった。LaGardは1989年11月からMoslerへの試作品の完成までの間に努力をしていたわけである。
33. X-07錠の発明者の一人であるClayton Millerは錠前業者等の流通市場の顧客に錠や錠の部品および工具を販売する会社であるLockmastersの会長である。Millerはこれまで長年錠産業に従事してきており、自身の特許もいくつか有している。LockmastersはLaGardの独占的流通市場販売店である。LaGardの販売店としてMillerは、特許第656号の錠を閲覧する機会があったかどうかという直接的な証拠はないものの、LaGardの事務所および工場に出入りできる立場にあった。
34. X-07錠の発明者の一人であるMichael Harveyは電子技術者であり、アポロ・スペース・プログラムに使用された装置およびF-18で使用されたデジタル方式による安定サイトの開発を行った。1980年当初、GartnerおよびLaGardは、自動ダイアラー開発のためにHarveyと委託の契約を交わした。HarveyがLaGardの顧問業務を最後に行ったのは1982年であった。
35. 1980年半ばに、共通役務庁(GSA)からClayton Millerに、安全のための高セキュリティー組み合わせ錠の基本的技術に関する調査[*16]についてアプローチがあった。MillerはGartnerとの長年にわたる関係から、LaGardが自動ダイアラーについて行った業務について知識があり、さらに詳しい情報を得るためにGartnerと業務の提携を交わした。GartnerはMillerに、Harveyの電話番号を教えた。MillerとHarveyはC&M Technologyを設立し、機械的に錠の位置を探知し、自動ダイアラーだけを使用している時よりもより迅速に錠をあけられるように、自動ダイアル機能および音響情報を使用する装置である自動マニピュレータを開発した。自動マニピュレータは機械型組み合わせ錠をあけるための方法を提供するものだったので、HarveyとMillerは次世代の高セキュリティー組み合わせ錠の新しい型のニーズがあるものと判断した。HarveyとMillerは1986年頃にX-07錠の業務にとりかかった。
36. Harvey氏がプロジェクトにかかわる者に試作機の実地説明に成功した1990年4月26日には遅くともX-07錠が実施品となっていた。
37. 証拠および証言を聴取した結果、裁判所は、X-07錠と特許第656号とは、別々の発明者によって独立して開発された別個の発明であるとし、その旨判断している。したがって原告は、[*17]明白かつ確証ある証拠によって、LaGardの特許第656号が他の者の発明であると立証できなかった。n5
38. Mas-Hamiltonは、LaGardはその発明を他から導き出したものだとして、特許第656号が無効であると主張した。派生とは、他から発明を借用し、自身の特許とすることをいう。Lamb-Weston, Inc. v. McCain Foods, Ltd., 78 F.3d 540, 549 (Fed. Cir. 1996) (Newman, J., dissenting)を参照のこと。その発明が先行技術であるか否かには関連しない。参照は前述に同じ。指定発明者が、特許請求されている知識を他のものから取得したか、あるいは少なくとも特許請求のかなりの部分をとってみると、その発明が従来の技術の一つに自明であることを証明しなくてはならない。New England Braiding Co. v. A. W. Chesterton Co., 970 F. 2d 878, 883 (Fed. Cir. 1992); 米国特許法第 102(f)条 (特許が請求されている主題事項を自身で発明した限りにおいて…その者は特許を受ける権利を有する[*18])。
39. 前述のように、証拠および証言を聴取した結果、裁判所は、X-07錠と特許第656号とは、別々の発明者によって独立して開発された別個の発明であるとし、その旨判断している。したがって原告は、明白かつ確証ある証拠によって特許第656号が他の者からの派生であると立証できなかった。
40. Mas-Hamiltonは、特許第656号の主題が1990年12月17日付の特許出願の1年前よりも以前にLaGardによって「販売」されており、したがって102(b)条に基づき特許は無効であると主張している。原告はLaGardが、1989年11月にMoslerに試作品の錠を持ち込んだときに、特許第656号を販売したと主張している。申し立てられた発明が、特許出願の1年前よりも以前に、本国において「販売」されていた場合には、発明者は特許請求権を喪失する。Buildex. Inc. v. Kason Industries, Inc., 849 F.2d 1461, 1462(Fed. Cir. 1985); 米国特許法第102(b)条を参照のこと。発明者は、発明の商品化から1年以内に[*19]特許出願書類を提出しなければならないという要件を厳格に遵守する必要がある。Mahurkarについては 71 F.3d 1573,1577(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。
41. 発明は、販売の可能性が明確である場合もしくは販売のオファーがある場合に、販売されているとされることがある。Buildex, Inc. v. Kason Industries, Inc., 849 F.2d 1461, 1462(Fed. Cir. 1985)を参照のこと。特許が無効とされるためには、必ずしも販売が完全なものでなければならないわけではなく、会社からの販売のオファーで十分であろう。上記を参照のこと。オファーが受諾されたか否かにかかわらず、1つの販売オファーのみで特許が無効とされる。A.B.Chance Co. v. RTE Corp., 854 F.2d 1307, 1311 (Fed. Cir. 1988)を参照のこと。手元に商品化された市場性のある製品がない場合であっても、申し立てられた発明がすでに「販売」されている場合には、その特許は無効とされる可能性がある。Barmag Barmer Maschinenfabrik AG v. Murata Mach. Ltd., 731 F.2d 831, 838(Fed. Cir. 1984)を参照のこと。審理される点は、申し立てられた発明を提供する者が、顧客に提供できるかもしくは提供された製品を自身が有していると考えていたか否かということにある。Paragon Podiatry Laboratory, Inc. v. KLM Laboratories, Inc., 984 F.2d 1182, 1187, n.5.(Fed. Cir. 1993)を参照のこと。このような販売オファーは、その詳細が開示されていない場合であっても、特許第656号を無効にすることができる。RCA Corp. v. Data General Corp., 887 F.2d 1056, 1060(Fed. Cir.1989)を参照のこと。
42. [*20]本事件においては、Mas-Hamiltonは明白かつ確証ある証拠によって特許第656号出願の1年前よりも以前に、明白な販売もしくは販売オファーがあったこと、また販売もしくは販売のオファーにかかわる主題事項が完全に請求された発明を予期していたことを証明しなければならない。Mahurkar v. Impra, Inc., 71 F.3d 1573, 1576(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。販売であるかどうかの決定は、第102(b)条の基本となる方策にかんがみて、状況全般によるものである。前述と同じ1577; Envirotech Corp. v. Westech Engineering, Inc., 904 F.2d 1571, 1574 (Fed. Cir. 1990)を参照のこと。これらの方策には以下が含まれる。すなわち、(1)一般に自由に入手できると考えられる公有の場から、発明を除去することを阻止すること、(2)発明の迅速かつ広範な開示を促進すること、(3)発明者が特許の潜在的経済価値を決定するために、販売活動後に合理的な時間の猶予を与えること、ならびに(4)制定法上の規定の期間を超えて、発明者が自身の発明の商品としての販売促進をすることを禁止することである。上記と同様を参照のこと。さらに販売による無効事項の基本となる方策には、制定法上の条項の冒頭にしたがって、発明者が自身の発明の商業価値[*21]から不当な利益を得ることを阻止する方策も含まれる。Ferag AG v. Quipp, Inc., 45 F.3d 1562, 1566(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。連邦巡回裁判所は、特許を付与された発明が「販売」されたかどうかを決定するための焦点は商品化にあると強調した。Mahurkar v. Impra, Inc., 71 F.3d 1573, 1577(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。
43. LaGardは、Moslerとの取り引きの目的は特許第656号の技術ライセンスについて交渉しこれを取得することであったと主張している。「発明における権利および潜在的な特許権の譲渡もしくは販売は、第102(b)条の意味する範囲においては発明の販売とはみなされない。」とある。Moleculon Research Corp. v. CBS, Inc., 793 F.2d 1261, 1267 (Fed. Cir. 1986) を参照のこと。
44. 公判において聴取された証言によって、LaGardが1989年11月に初めてMoslerを訪問したのは、FF-L-2740の仕様に合致する製品を開発したことをMoslerに明示するためであったとの結論にいたらざるを得ない。LaGardはMoslerに、特許第656号に説明される装置と基本的に同一の試作品を提示した。さらに、共通役務庁(GSA)へのプレゼンテーション用の追加試作品の提供を申し出た。LaGardは決してMoslerに、発明の販売を提案したわけではなかった。提案したのは、[*22](1)発明の生産権、もしくは(2)政府に対する発明の市場売買の独占的権利、のいずれかの実施許諾である。したがって状況全般から見て、原告は、1990年12月17日付の特許出願の1年前よりも以前に特許第656号が「販売」されていたという、明白かつ確証ある証拠を確立できなかった。
45. Mas-Hamiltonは、特許出願の1年前よりも以前に、LaGardが試作品の錠をMoslerに持ち込んだ時点で、特許第656号は「公然実施」されていたとし、したがって第102(b)条に基づき特許は無効とされると主張している。米国における特許出願の1年前よりも以前に、本国で公然実施されていた発明には、特許が付与されない。米国特許法第102(b)条を参照のこと。
46. 「公然実施」とは、発明者以外の者であって、発明者にいかなる制限、禁止もしくは秘密保持義務を負うことのない者による、特許請求されている発明の使用を含むものと定義される。Lough v. Brunswick Corp., 86 F.3d 1113, 1119(Fed. Cir. 1996); Baxter International Inc. v. Cobe Laboratories, Inc., 88 F.3d 1054, 39 U.S.P.Q.2D (BNA) 1437, 1440(Fed. [*23] Cir. 1996)を参照のこと。第102(b)条の公然実施による無効は以下をその要件とする。すなわち、(1)発明が公然と使用されていること、および(2)使用は当初、試験的なものを目的としていなかったこと、である。Allied Colloids, Inc. v. American Cyanamid Co., 64 F.3d 1570, 1574(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。製品は、完成品が方法を問わず商業的に利用されているものであれば、「公然実施」されているとみなされる。Shatterproof Glass Corp. v. Libbey-Owans Ford Co., 758 F.2d 613, 622(Fed. Cir. 1985)を参照のこと。
47. ある特定の事項が公然実施による無効の原因となるか否かを決定する際には、状況全般が考慮されなければならない。U.S. Environmental Products, Inc. v. Westall, 911 F.2d 713, 716(Fed. Cir. 1990); Allied Colloids, Inc. v. American Cyanamid Co., 64 F.3d 1570, 1574(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。公然実施が存在するか否かは、その状況全般が公然実施による無効の基本となる方策と、どのように一致するかに依存する。Lough v. Brunswick Corp., 86F.3d 1113, 1122, n.5(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。これらの方策には以下の事項が含まれる。すなわち、(1)一般に自由に入手できると考えられる公有の場から、発明を除去することを阻止すること、(2)発明の迅速かつ広範な開示を促進すること、(3)発明者が特許の潜在的経済価値を決定するために、販売活動後に合理的な時間の猶予を与えること[*24]、ならびに(4)制定法上の規定の期間を超える期間にわたり、発明者が自身の発明の商品としての販売促進をすることを禁止することである。上記と同様を参照のこと。
48. 公然実施を決定する際に考慮されるべき要因には、公然に発生する活動の性質、公然実施の入手方法や公然実施の知識、使用者に課される秘密保持義務の有無、試験的活動の進行記録およびその他の証書の保管の有無、発明者もしくは発明者の代理以外の者による実験実施の有無、種々の試験実施方法、商業上の状況と比較した試験の規模、類似する製品の試験との比較における試験時間、ならびに試験製品のための支払の有無等が含まれる。Allied Colloids, Inc. v. American Cyanamid Co., 64 F.3d 1570, 1574(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。
49. 公判において聴取された証言によって、LaGardが1989年11月に初めてMoslerを訪問したのは、FF-L-2740の仕様[*25]に合致する製品を開発したことをMoslerに明示するためであったとの結論にいたらざるを得ない。LaGardはMoslerに、特許第656号に説明される装置と基本的に同一の試作品を提示した。さらに、共通役務庁へのプレゼンテーション用の追加試作品の提供を申し出た。LaGardは決してMoslerに、発明の販売を提案したわけではなかった。提案したのは、(1)発明の生産権、もしくは(2)政府に対する発明の市場売買の独占的権利、のいずれかの実施許諾である。LaGardとMoslerとの間に秘密保持契約が締結されたという証拠は提出されていないものの、裁判所は業界における過去の慣例、およびLaGardの代表であるHerrmannおよびGartnerの証言に基づき、かつ業界に従事する者の間の訴訟という性質にかんがみて、試作品の設計は秘密とされるものと判断した。この結論は、特許第656号の錠の開発に費やされた膨大な調査および費用に照らし合わせてみれば当然といえる。そうでないとすれば、LaGardが1万米ドルたらずで発明の構想を手放したということになるが、これについて裁判所は、公判において提出された証拠及び証言からは、その事実認定をなすことができなかった。さらにMoslerは特許第656号の非制限的、非限定的使用権を付与されていなかった。むしろ、[*26]Moslerの関心をライセンスに引き付けるというLaGardの目的に応じて、Moslerは単に制限的、限定的使用権を付与されただけであることが裁判所には明白となった。したがって原告は、LaGardによる特許出願の1年前よりも以前に製品が公然実施されていたという、明白かつ確証ある証拠を立証できなかった。
50. Mas-Hamiltonは、最良の態様についての要件を満たしていないことを理由に、特許第656号が無効であると主張している。米国特許法第112条に基づけば、特許明細書は発明者が意図した発明実施の最良の態様を記載しなければならない。最良の態様についての要件の目的は、発明者が、発明の好ましい実施例を実際は考案しているのに、これを公の場から隠匿しつつ特許出願をすることを回避することにある。DeGeorge v. Bernier, 768 F.2d 1318, 1324(Fed. Cir. 1985)を参照のこと。最良の態様についての要件は、特許出願人が特許のシステムに対して、「公正かつ率直」であることに確実を期すためのものであり、―これは特許付与の対価が満たされるべきであるという要件である― 発明実施についての、自身が知り得る範囲における最良の態様の適切な開示[*27]を出願時に行わない限り、他の者に対する独占的な権利を取得することはできないというものである。Amgen, Inc. v. Chugai Pharmaceutical Co., Ltd., 927 F.2d 1200, 1209-10(Fed. Cir. 1991)を参照のこと。
51. 最良の態様についての要件に違反があったか否かを決定するための審査は以下の通り2部構成になっている。すなわち、(1)発明者が出願時に、発明者が最良と考える、特許請求される発明の実施態様を知っていたか否か、および(2)通常の能力を持った当業者が最良の態様を実施することができるような適切な開示であるか、もしくは発明者は自身の好ましい態様を公の場から隠匿したかどうか、についてである。Chemcast Corp.v. Arco Industries Corp., 913 F.2d 923, 926(Fed. Cir. 1990)を参照のこと。特許が最良の態様についての要件に適合しているかどうかを決定する際に、以下の基本的な事実審問がなされる。すなわち、(1)出願時に、発明者が特許請求される発明の実施について最良の態様を有していたか否か、および(2)発明者が特許請求される発明の最良の態様を有している場合に、通常の能力を持った当業者が実施できるように、発明者が最良と考える態様を特許明細書が適切に開示しているか否か、を決定しなければならない[*28]。United States Gypsum v. National Gypsum Co., 74 F.3d 1209, 1212(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
52. 原告は、特許第656号はソレノイド・ハウジングが真鍮から形成されることが望ましいと開示している、と主張する。しかしながらその指図に従うと、原告は装置装置が機能しないものであると主張する。特許出願前にLaGardが製作したモデルの1つには真鍮及び銅もしくは鋼鉄からソレノイド・ハウジングが形成されており、申し立てられた発明者はそのモデルについて知っていた。したがって原告は、申し立てられた発明者は、特許第656号に開示された申し立てられた発明実施のより良い態様を知っていたと主張する。実施できない実施例を開示することによって、申し立てられた発明者は最良の態様を隠匿した、と原告は強く主張する。Chemcast Corp. v. Arco Industries Corp., 913 F.2d 923, 926(Fed. Cir. 1990)を参照のこと。
53. さらに原告は、ソレノイド・ハウジングおよびレバーの許容誤差(適正な動作のための部品の精密度)は、特許第656号の錠の適正な実施に重要である、と強く主張する。特に公判における証言によって、特許第656号の実施例において示される錠は、戻り止め[*29]ボールがカム・ホイールに系合している状態でダイアルが継続して回転すると、ソレノイド・ハウジングがハウジングの右側に接触し、このために作動しなくなってしまうことを示唆した。特許第656号においては、必要かつ好ましい装置製作の方法についての説明の開示がなされていないが、申し立てられた発明者は特許出願以前にこれらを知っていたものである。原告はこの情報が特許第656号の錠の実施に重要なものであると主張する。
54. 特許第656号には、ソレノイドの通電時間に関する開示がない。原告は、これがソレノイドと錠の作動に大変重要であると主張する。特許第656号出願前に、申し立てられた発明者はソレノイド通電時間は短くあらかじめ設定された時間で十分であり、試行錯誤の結果、試作品に関しては、錠の動作のための実際的な最短時間は約3秒であると判断した、と原告は主張している。この時間設定は特許出願前に、LaGardのモデルについてはソフトに組み込まれていた。原告は、この情報が特許第656号の錠の実施に大変重要であると強く主張している。上記のことから、申し立てられた発明者は[*30]この重要かつ必要な要件および申し立てられた発明のより良い実施方法を十分に知りつつ、これを隠匿し、開示を怠ったのである。
55. 公判において聴取された証言によって、通常の能力を持った当業者としては、適正な動作のためにソレノイドにはある種の磁気物質が含まれることが必要であることを望むであろうの結論にいたらざるを得ない。同様に、特許第656号に許容誤差もしくはソレノイドの通電時間の詳細情報が欠落しているために、通常の能力を持った当業者による特許第656号の実施が妨げられるものではないと考えられる。したがって裁判所は、特許第656号が最良の態様についての要件を満たしていないために無効であるとの、明白かつ確証ある証拠を原告が立証できなかったとした。
56. Mas-Hamiltonは、特許第656号が実施可能性についての要件を満たしていないために無効であると主張する。特許明細書には、発明、ならびに発明の製作および使用の方法と手順を、完全、明白、簡潔かつ正確な用語による書面の説明書を含むものであって、これによってこれに関わるか、もしくはこれに最も関連の深い通常の能力を持った当業者が、同一のものを製作し使用できるようにするものである。米国特許法第112条を参照のこと。実施可能であることにかんがみれば[*31]、特許は、不当な実験の必要をなくして、明細書に開示された発明を実施するために、十分な情報を通常の能力を持った当業者に付与するものでなくてはならない。Altonについては、76 F.3d 1168,1172, n.5(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。当該技術の通常の能力を持った当業者が自身の持つ知識と、特許文書の開示を使用しても、不当な実験なくしては発明を製作および使用できないのであれば、その特許は無効とされる。Northern Telecom, Inc, v. Datapoint, Inc., 908 F.2d 931, 941(Fed. Cir. 1990)を参照のこと。この要件の目的は、発明者による特許請求されている発明についての十分な情報の提供を確実にすることにある。Scripps Clinic & Research Foundation v. Genentech, Inc., 927 F.2d 1565, 1571 (Fed. Cir. 1991)を参照のこと。開示にしたがうことによって、請求事項に記載された結果が得られるかもしれないというのは十分ではない。常にその結果が得られなくてはならないのである。Gubelmann v. Gang, 56 C.C.P.A. 1013, 408 F.2d 758, 766 (C.C.P.A. 1969)を参照のこと。
57. 原告は公判において、特許第656号はソレノイドの時間設定、ソレノイド・ハウジングの構成、およびソレノイド・ハウジングとレバーの比較許容誤差に関する情報提供が不十分であり、通常の通常の能力を持った当業者が作動する錠機構を構成することができない[*32]と強く主張した。
58. 公判において聴取された証言によって裁判所は、特許第656号に含まれる情報によって、通常の通常の能力を持った当業者が特許第656号を実施することができるとした。したがって原告は、特許第656号が実施可能性についての要件を満たしていないために無効であるとの明白かつ確証ある証拠を立証できなかった。
59. Mas-Hamiltonは、争点となっている請求項が、LaGardが記載し主張したものが不明確であるために無効であると強く主張する。特許の請求項は、特許権者が自身の発明と考える主題事項を特に指摘し、明瞭に請求しなければならない。米国特許法第112条を参照のこと。当該の通常の能力を持った当業者が特許の請求項を理解できないのであれば、この要件が満たされないものとされ請求項は無効となる。Amgen, Inc. v. Chugai Pharmaceutical Co., Ltd., 927 F.3d 1200, 1217 (Fed. Cir. 1991)を参照のこと。したがって請求項の文言は、その主題事項を明確にするようなものでなければならないのである。PPG Industries, Inc. v. Guardian Industries Corp., 75 F.2d 1558, 1562(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。制定法は、請求項の文言が正確および明確さを期すようにとの要件[*33]を規定している。上記を参照のこと。
60. 特許庁は特許第656号に使用された用語を理解していた。ここにおいて、「審査官が説明の適切さを審査し、特許の説明が明確であるとしてその後特許を付与した場合において、特許および請求項が米国特許法第112条を遵守していないとする[Mas-Hamilton]に対する重大な反証」が存在することになる。Water Tech. Corp. v. Calco Ltd., 658 F. Supp. 961, 972 (N.D.Ill. 1986), 一部原判決を維持、一部変更、850 F.2d 660 (Fed. Cir.)、裁判所による上告却下 488 U.S.968(1988)を参照のこと。
61. 公判において提示された証拠および証言に基づき、裁判所は、特許第656号の請求項によって、特許の主題および請求の範囲が明確にされているものとした。よって原告は、特許第656号が不明確さを理由として無効であるとの明白かつ確証ある証拠を立証することができなかった。
62. 特許は先行技術の種々のタイプに基づき無効とされることがある。米国特許法第102条を参照のこと。さらに、付与された特許の主題事項と先行技術との間の相違を考えたときに、発明がなされた時点で通常の能力を持った当業者にとって、その主題事項がすべて[*34]自明であるような場合には、特許は無効とされることがある。米国特許法第103条を参照のこと。
63. 原告は、LaGardによれば特許第656号において申し立てられた発明と先行技術との第一次的相違は、適正な組み合わせが入力された場合にのみ、レバーが確実に移動させられてカム・ホイールと接触するという構想であると主張する。原告は、LaGardがこの構想を明示する先行技術の「多量の」文書を所有していることを認めた、と主張する。しかしながら原告は、LaGardは裁判所の命令を違反してこれらの文書を提出しなかったと主張する。したがって原告は裁判所に、これらの文書が提出された場合は、特許第656号の請求項は、予測性もしくは自明性を理由に無効となるであろうとの対立推論をうながした。
64. 公判において提示された証言および弁論に基づき、裁判所は、先行技術を理由として特許第656号が無効とされる証拠は存在しないものとした。さらに裁判所はこれについて、LaGardの文書提出もしくはその文書の欠如から対立推論をすることはない。したがって裁判所は、原告が特許第656号[*35]が予測性もしくは自明性を理由に無効であるとする明白かつ確証ある証拠を立証できなかったとした。
65. 公判において提出された証拠に基づき、かつ上記記載事項を理由として、裁判所は原告が、いかなる理由によっても特許第656号が無効であるとする明白かつ確証ある証拠を立証できなかったとした。したがって原告は、特許庁が付与した特許が有効であるとの推論に反証できなかった。これによって、裁判所は第656号特許が有効であるとした。
66. 特許制定法は、いかなる者であっても特許権者からの許可を得ずに、特許存続期間中に米国内で特許が付与された発明を製作、使用もしくは販売した場合には、特許の侵害となると規定している。米国特許法第271条を参照のこと。特許の侵害については、提訴された製品と特許の「請求項」に記載された発明とを比較して判断される。特許の「請求項」とは、特許の範囲を限定する文言の一群であり、発明がどのようなものであるかを決定するものである。General Foods Corp. v. Studiengesellschaft Kohle MbH, 972 F.2d 1272, 1274(Fed. Cir. 1992)を参照のこと。請求項とは、特許明細書の末にある番号をつけた段落であり、特許権者が自身の発明であるとみなす主題事項を特に指摘し、明確に請求することが要求[*36]されるものである。Autogiro Co. of America v. United States, 181 Ct. Cl. 55, 384 F.2d 391, 395-96(Ct.Cl.1967)
67. 勝訴するためにはLaGardは証拠の優越によって、Mas-Hamiltonが特許656号の1つ以上の請求項を侵害していると立証しなければならない。Hughes Aircraft Co. v. United States 717F.2d 1351, 1361(Fed. Cir. 1983)を参照のこと。侵害を明示しなければならないのは、常にLaGardの側である。Under Sea Industries, Inc. v. Dacor Corp., 833 F.2d 1551,1557(Fed. Cir. 1987)を参照のこと。
68. 侵害とは事実問題である。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62 F.3d 1512, 1520(Fed. Cir. 1995)(全員法廷)、裁判所による上訴取り上げ、116 S. Ct. 1014(1996)を参照のこと。
69. 特許に関する事件には2つの要素がある。すなわち、(1)特許の解釈、および(2)侵害があったか否かの決定、である。Markman v. Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370, 116 S. Ct. 1384, 134 L. Ed. 2d 577 (1996)を参照のこと。したがって侵害があったか否かを決定するのは2段階の手順による。すなわち、第1段階は特許請求項の意味と範囲を決定し、第2段階は適正に解釈された請求項と侵害があったと主張される請求項[*37]とを比較することである。Markman v. Westview Instruments, Inc., 52 F.3d 967, 976 (Fed. Cir. 1995)(全員法廷)、原判決を維持、517 U.S.370, 116 S. Ct. 1384 134 L. Ed. 2d 577 (1996)を参照のこと。請求項のそれぞれの制限が提訴された装置にぴったり合致する場合は、侵害は文言上のものであることがあり、また侵害が均等理論に基づくものである場合もある。Pennwalt Corp. v. Durand-Wayland, Inc. 833 F.2d 931, 935(Fed. Cir. 1987)(全員法廷); Hilton Davis Chem Co. v. Warner-Jeckinson Co., Inc., 62 F.3d 1512(Fed. Cir. 1995)(全員法廷)、裁判所による上告取り上げ、116 S. Ct. 1014(1996)を参照のこと。
70. 特許の範囲は、請求項の範囲の発明に限定される。したがって請求項の表現は保護される発明の範囲を定義するものである。Bell Communications, Inc. v. Vitalink Communications Corp., 55 F.3d 615, 619-20(Fed. Cir. 1995); York Products, Inc. v. Central Tractor Farm & Family Center, 99 F.3d 1568,1572(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
71. 主張される請求項を解釈するには、裁判所は、記録の内部証拠、すなわち請求項、特許明細書を含む特許自体や特許の実施履歴[*38]等にまず注目しなければならない。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90 F.3d 1576,1582(Fed. Cir. 1996); Athletic Alternatives, Inc. v. Prince Manufacturing, Inc., 73 F.3d 1573, 1578(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。裁判所はさらに、主張されている部分であるか否かにかかわらず、特許が付与された発明の範囲を定義する請求項の文言自体にも注意を払う必要がある。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90 F.3d 1576, 1582(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
72. 請求項を解釈する際には、明細書、実施履歴およびその他の請求項の審査によって発明者に別段の意図があることが明示されない限り、請求項の用語はその通常かつ一般的な意味をもつものとされる。Transmatic Co., Inc. v. Gulton Industries, Inc., 53 F.3d 1270, 1277 (Fed. Cir. 1995); Gentex Corp. v. Donnelly Corp., 69 F.3d 527, 530(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。裁判所は、特許の出願日時点において、当業者が考える請求項の文言の標準的な解釈にしたがって、これらの文言を解釈するものである。Wiener v. NEC Electronics, Inc., 102 F.3d 534, 1996 U.S. App. LEXIS 31361, *12-13(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。請求項の用語は、一般的に、通常のかつ慣例的な意味を付与されるものであるが、特許明細書もしくは実施履歴において特定の用語の定義が明確になされているという条件に従うものであれば、特許権者は独自の語彙集を選択でき[*39]、また通常の意味以外の方法によって用語を使用できる。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90 F.3d 1576, 1582(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。発明者が通常の意味と一致しない方法で使用している用語があるかどうかを判断するには、明細書を熟読する必要が常にあるが、これは明細書は請求項において使用される用語を明確に定義するという点において、もしくは黙示的に用語を定義するという点において辞書の役割を果たすものだからである。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90 F.3d 1576,1582(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
73. 実施履歴の分析には、引用される先行技術の審査が含まれる場合がある。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., F.3d 1576, 1583(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
74. 特許の請求項における専門技術の用語を含む特許の解釈は、裁判所の独占的権限である。Markman v. Westview Instruments, Inc., 517 U.S.370, 116 S.Ct. 1384, 134 L. Ed. 2d 577(1996)を参照のこと。したがって特許請求項、および特許請求項の争点である技術用語もしくは専門技術の用語の意味および範囲は、法律問題である[*40]。Applied Materials, Inc. v. Advanced Semiconductor Materials, 98 F.3d 1563, 1572(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
75. 特許第656号の請求項には、系属中の訴訟における争点であるいくつかの用語が含まれる。裁判所は、下記に記載した請求項の用語は以下の意味を有するものとした。
76. 第656号特許において、阻止要素とは、レバーに肝要な部分として構成され、レバーの運動を阻止するカンチレバー・アームをいう。
77. 第656号特許の請求項34および43はある種の請求要素、特に可動リンク部材、可動要素、および可動突出要素を、「組み合わせ」の入力前後の機能的作動との関連において定義している。その結果、請求項の用語である「組み合わせ」は機能上の定義についての制限を提示するものとなるが、これは、請求項が「組み合わせ」の語を機能上の文言として使用しているためである。
78. 第656号特許の明細書は、組み合わせコードについて言及している。Col.2, line 48; Col.4, line 61; Col.5,line 33; Col.6,line 40, Col.7, line 24を参照のこと。適切な続き番号を入力することによって、コードも入力される。Col.7, line 19を参照のこと。第656号特許はいくつかの錠の詳細のために、参照として米国特許第4,745,784号を掲載[*41]している。特許第784号は組み合わせを「所定の連続する一連の回転」として定義している。PX9, col.1, lines 19-21を参照のこと。組み合わせはさらに、「コードに対応する所定の、一連の命令」とも定義される。Col.4, lines 66-68を参照のこと。
79. 第656号特許の実施履歴はさらに、「組み合わせコード」について説明している。PX45, p.111を参照のこと。実施履歴には、錠を開けるために一連の文字もしくは数字の入力を必要とする、いくつかの先行技術の「組み合わせ」錠の特許を参照している。例を挙げれば、PX 45, p.49 (Diesel' 702); p.50 (Lee' 114); p.50 (Gartner' 667); p.51 (Uyeda' 785); p.51 (Yueda' 176); p.52 (Gartner' 984); p.172 (Herlong)である。明細書もしくは提出履歴に引用があるか否かを問わず、先行技術は、当業者によって争点である用語がどのように使用されているかを証明するために使用されることがある。McGill, Inc. v. John Zink Co., 736 F.2d 666 (Fed. Cir.1984) を参照のこと。
80. 技術用語およびその他の用語の意味を決定する際に、一般の辞書および技術辞典を根拠とすることができる。Hoescht Celanese Corp. v. BP Chemicals Ltd., 78 F.3d 1575, 1580(Fed. Cir.1996)を参照のこと。
81. 辞書[*42]の定義に基づくと、「組み合わせ」とは、「錠の設定において選択された一連の文字もしくは数字」である。したがって裁判所は、第656号特許の請求項に使用されたように、「組み合わせ」とは命令がなされた一連の文字もしくは数字であり、錠を開けるために入力されるものを意味するとした。この語は、単一スイッチ閉鎖だけを意味するものとは解釈されない。
82. 請求項の用語「正確な組み合わせ」とは、レバー可動要素の可動手段の機能を定義し、可動要素が動作したときと定義する。したがって、この語は特定の請求要素の機能を定義し、これを制限する。この語は「組み合わせ」のために上記に定義した意味と同一の意味を有するものと解釈され、錠を開けさせる特定の組み合わせのタイプをいう。したがって、第656号特許において使用される「正確な組み合わせ」とは、錠を開けるために入力が必要な、適切に命令された一連の文字もしくは数字を意味する。
83. 特許第656号の明細書の定義のとおりに、「戻り止め」とは球面もしくは湾曲面96からなり、ソレノイド・ハウジングの外側方向に突出、延長もしくは突起が可能なものである。Col.6, lines 12-22; Col.7, lines 31-34; Col.[*43]7, lines 43-46; Col.7, lines 51-56; Figures 1,3,4-7を参照のこと。明細書においては、「戻り止め」はソレノイド・ハウジングの表面上に突出可能な球面体であるという説明もしくは図示しか記載されていない。したがってこの定義は、制御的な意味合いを有するものである。McGill, Inc. v. John Zink Co., 736 F.2d 666,674(Fed.Cir. 1984)を参照のこと。
84. 通常の技術的意味においては、「戻り止め」とは、ばね仕掛けの要素であって別の構成物の凹部、または溝部もしくは滑り溝部のいずれかに移動させられるものである。戻り止めとはほとんど例外なく、ばね仕掛けもしくはばね仕掛けの構成部分であって、孔部、溝部、隆起部、もしくはこれらと類似する部分と系合するものである。戻り止めとはさらに、ばねとボールを使用して二対の金属を一緒に摺動させ、その金属を共に固着させるための機構として説明されることもある。歯車の歯は「戻り止め」とはみなされない。
85. 特許第656号の請求項においてさらに「戻り止め」は、1つの配置から他の配置(請求項1)、および「戻り止め」が別の部材から突出している配置(請求項8,9,14,21)への可動部材として定義されている。特許第656号の請求項においてはさらに、「戻り止め」は通常の意味の「偏心ばね」としても定義されている。請求項の10、11、12、13、15、16、17、[*44]18を参照のこと。主張されている部分であるか否かにかかわらず、請求項は請求の用語の定義に使用される。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90 F.3d 1576, 1582(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
86. したがって特許第656号の請求項に使用される「戻り止め」という語は、ボールのような別個のばねによって重みをつけられた要素であって、1つの配置から別の配置への移動が可能で、かつ阻止要素において孔部、溝部もしくは隆起部と系合し、ソレノイドによって所定の位置に移動させられ、その所定の位置でカム上の戻り止め系合部材と接触可能なものを意味する。
87. 特許第656号の請求項に使用されているように、戻り止め係合部材とはカム上に配置された部材であって、ダイアルの回転によって戻り止めの位置に移動させられた戻り止めに対して、部材をポジティブに移動させるものである。
88. 特許第656号の明細書において、「戻り止めの」もしくは係合の位置とは、球面もしくは湾曲面の戻り止めボール96が、ソレノイド・ハウジングの外側に突出、延長もしくは突起できる位置と定義される。Col.6, lines16-19を参照のこと。
89. したがって特許第656号の請求項において使用されるように、「戻り止めの位置」とは、組み合わせの入力によりソレノイドによって戻り止めが延長、突出もしくは突起[*45]できる位置であり、カム上の戻り止め係合部材が戻り止めと接触できる位置である。
90. この用語は、特許第656号の明細書においては言及されていない。明細書に記載される電子機械デバイスの唯一のタイプはソレノイドである。したがってこの用語は、ソレノイドおよびこれと同等の構造物に限定して解釈されるものである。したがって、特許第656号において使用される「電子機械デバイス」とは、電子シグナルを印可することによって機械的運動を付加するソレノイドのようなデバイスであって、組み合わせの入力によってリンク要素を移動させる。
91. この請求範囲の限定は、レバー可動要素がどのように作動させられて可動手段と協動するかについて定義するために使用される。
92. この請求範囲の限定は、所定の組み合わせの入力によって、ソレノイドがどのように始動するかを定義する。「電子的に」という語は、請求項3において使用される場合と同一の意味を有する。請求用語は特許において一貫した意味を持たなければならない。McGill, Inc. v. John Zink Co., 736 F.2d 666, 674 (Fed. Cir. 1984)[*46]を参照のこと。
93. 特許第656号の明細書において、「発明は一般的に電子組み合わせ錠に関するものである」と明記されている。Col.1, lines 6-7を参照のこと。「電子ダイアル組み合わせ錠」とは、「確保された区画へ入ることができるように、組み合わせコードを入力するための区分を有するダイアルで、…確保された領域に含まれるサーキットが、電子的連結を察知し、錠の組み合わせに対応してある種の連結がなされたことを探知し、確保された領域内で電子シグナルを発進する。このシグナルは、例えばソレノイドを作動させるために使用されるものである。」Col. 1, lines 15-31を参照のこと。明細書を通して錠は、電子的かつ組み合わせの特徴として説明されており、これはたとえば、「当業者にとっては周知のように、正確な組み合わせが回路基板に入力され、ソレノイドのコイル108に回路基板から適切なシグナルが発せられる」と、ソレノイド・プランジャーが始動する、という説明がなされるのである。Col. 6, lines 39-43を参照のこと。したがって、特許明細書の全体として、「発明」は別個の機械的な機構としてでなく、「電子組み合わせ[*47]錠」の一部として説明されている。
94. 前文の用語が特許請求されている発明を定義するものであるか、もしくは単に先行技術の説明であるかについて判断をすることも適切である。Applied Materials Inc. v. Advanced Semiconductor, 98 F.3d 1563, 1573 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。ここで特許権者は、前文を、単に先行技術の説明としてではなく、「発明」自体を定義することに使用した。
95. 特許権者は、錠の電子的側面および組み合わせの側面を定義するために、前文および請求範囲限定表現の残りの部分を使用して、申し立てられた「発明」を「電子組み合わせ錠」と定義することを選択した。したがって、前文は請求範囲限定表現を構成する。
96. 請求が前文から引用する場合、たとえば「前記」[前文]と記載する場合には、前文の文言は請求に対しての限定事項となる。Bel Communications, Inc. v. Vitalink Communications Corp., 55 F.3d 615, 621 (Fed. Cir. 1995) を参照のこと。請求項3の最終段落は「前記組み合わせ」と引用している。また請求項の表現は、可動要素の電子的作動についても、前文から引用している。請求項34およびそれに基づく請求項(請求項35、38および39)は、前文の「組み合わせ」[*48]から引用している。請求項43の本文は同様に、「組み合わせ」を引用している。このことから、全請求項について「組み合わせ」の表現が存在しない場合は、機械的要素の機能を説明するものが存在しなくなり、請求は作動可能なデバイスの定義をなし得ないことになる。したがって「電子的組み合わせ錠」とは、各請求項の範囲の限定事項を構成するものと解釈されるべきである。
97. 特許第656号の全明細書は、電子的に作動する錠として「発明」を説明しており、「発明」の文脈においてはその他のいかなるタイプの錠も記載されていない。
98. 「電子的に作動する錠」はまた、請求範囲の限定事項としても解釈される。請求項1において、「発明」は「電子的に作動する錠にある」と説明されている。したがって、申し立てられた「発明」は、電子的に作動する錠とは別個には存在し得ないものである。さらに、ソレノイドは「電子的に始動する」と説明される。錠が電子によるものでない場合は、この請求範囲の限定事項は意味を持たない。したがって前文の用語は、請求に対して意味を持たせ、[*49]発明を適正に定義することが要求されているために、請求範囲の限定事項となるべきものである。Paulsenに関しては、30 F.3d 1475, 1479 (Fed. Cir. 1994) を参照のこと。請求項31でもまた、「発明」を「電子的に作動する錠にある」と定義している。このことから、前文およびこの請求項の本文もまた、特許請求された「発明」の主題を定義するために使用されている。Bell Communications, Inc. v. Vitalink Communications Corp., 55 F.3d 615, 620 (Fed. Cir. 1995) を参照のこと。
99. この表現は請求項35のみに使用されており、特許の明細書においては参照されていない。この用語の使用は、「電気的」と「電子的」を区別する意図を示すものである。
100. 特許第656号の明細書では、この用語は「戻り止めの位置」と同義語として使用されている。Col.6, lines 18-19を参照のこと。したがって、「係合の位置」とは、組み合わせの入力によって、ソレノイドにより戻り止めが延長、突出もしくは突起する位置を意味し、これによってカム上で、戻り止め係合部材が戻り止めと接触することができるのである。
101. この請求用語は、この請求項においてのみ使用されるものであるが、上記に定義した「阻止要素」と同一の意味を有する。したがって、請求項に使用されるように[*50]、「レバー移動阻止要素」とは、レバーの一部として形成され、レバーの移動を阻止するカンチレバー・アームを意味する。
102. この請求の要素は「継続する回転に応じて、前記レバーを前記カムの方向にポジティブに移動させるためのレバー作動手段」であると定義している。「手段」という言葉を使用したために、発明者がこの用語を使用したのは、ミーンズ+ファンクション条項についての制定法上の指図を熟慮の上行使したという推定を導くものである。York Prods., Inc. v. Central Tractor Farm & Family, Ctr., 99 F.3d 1568, 1574 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。LaGardは、この請求の要素はミーンズ+ファンクション形式であり、したがって米国特許法第112 P6条の要件に従うものであることを認めている。LaGardの略式判決申し立てに対するMas-Hamiltonの異議申立てについての、LaGardによる補充的反対訴答p.8を参照のこと。
103. 米国特許法第112 P6条には以下の通り規定されている。
組み合わせのための請求項における要素は、構造物、素材もしくはこれらを援助する行為の説明なくして、特定の機能を履行するための手段もしくは方法として、表現されることもあり、このような請求項は、明細書において説明される相当する構造物、素材もしくは行為およびその均等物[*51]を含むものと解釈される。
これは一般的な要件であり、侵害であるのかもしくは有効性があるのかという目的において、請求項の表現の解釈がなされる場合に適用される。Donaldson Co.,
Inc.に関しては、16 F.3d 1189, 1193 (Fed. Cir. 1994)(全員法廷)を参照のこと。
104. 「ミーンズ+ファンクション」の表現は、特定の機能を履行するための手段について要素が定義されることを意味する。申し立てられたデバイスについてミーンズ+ファンクションの限定事項が解釈されるためには、申し立てられたデバイスに、特許明細書中にて説明される構造物、素材もしくは行為と同一の手段もしくはこれらの均等物が適用されなくてはならず、かつ申し立てられたデバイスが請求項において特定されたものと同一の機能を果たさなくてはならない。King Instruments Corp. v. Perego, 65 F.3d 941, 945 (Fed. Cir. 1995) を参照のこと。したがって、特定の機能を履行するための要素を説明する特許第656号の請求項中の「手段」という表現は、特定の機能を履行するためのすべての手段を包含するわけではなく、むしろ請求項は、特許第656号において明示的に開示された構造物およびおよびその均等物に厳格に限定されるものである。Symbol Technologies, Inc. v. Opticon, 935 F.2d 1569, 1575 (Fed. Cir. 1991); Intel Corp. v. U.S.I.T.C., 946 F.2d 821, 841 (Fed. Cir. 1991) を参照のこと。[*52]したがって、第112 P6条によって、ミーンズ+ファンクションの請求項は、特許第656号の明細書において開示された構造物のために解釈されるものであることが要求される。Alpex Computer Corp. v. Nintendo Co., Ltd., 102 F.3d 1214, 40 U.S.P.Q.2D (BNA) 1667, 1672 (Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
105. 特許第656号の明細書において説明されるレバー作動手段では、ソレノイドが始動すると、剛直体もしくは剛直要素ともいわれるソレノイド・ハウジングがチャネルへと滑動し、レバーを解除の位置から、組み合わせの入力によるダイアルの回転に応じてレバーの突出部分とカム上の溝部を係合させるための位置へとポジティブに移動させる。適正な組み合わせの入力によってソレノイドが継続的に作動すると、ソレノイド・ハウジングはダイアル・カムの回転によって戻り止めボールを通じて移動させられ、カンチレバー・アームの下端部を押すことによって、錠のレバーがその枢軸点の周りを回転する。一旦カム・ホイール上の突起部が戻り止めのボール(「フラッグ」ともいう)を通過すると、ソレノイド・ハウジングは直ちに、非始動の位置へと戻される。
106. この手段の機能は、説明された機構手段による組み合わせの入力後のダイアルの回転に応じて、レバーをカムの方向に[*53]「ポジティブに移動させる」(以下に定義する)ことである。
107. この請求要素は、「前記カムとの係合を解除された前記レバーを通常に保持するためのレバー保持手段」と説明される。LaGardはこの請求要素は第112 P6条のミーンズ+ファンクションの形式によるものであることを認めている。侵害についての略式判決申し立てに関するLaGardの反対訴答 (DE#127), p.12; LaGardの略式判決申し立てに対するMas-Hamiltonの異議申立てについての、LaGardによる補充的反対訴答 (DE#142) p.8を参照のこと。
108. 特許第656号の明細書においては、この「手段」はカンチレバー・アームによるダイアル・カムとの接触を解除されて保持されるレバーとして説明されている。カンチレバー・アームはレバーの一部として構成され、内腔に可動ばね仕掛けピンを具備するものである。
109. この手段の機能は、説明された機構を使用して組み合わせが入力されるまでのダイアルの回転中に、カムとの係合を解除されたレバーを通常に保持するものである。
110. この請求範囲の限定はレバー移動要素を、「前記組み合わせの入力後、継続するダイアル回転に応じて、前記レバーを前記カムの方向へ[*54]ポジティブに移動させるためのものであって、前記組み合わせの入力後、前記ダイアルの回転によって錠が開けられ、前記レバーがダイアル回転によってポジティブに作動する」ものであると定義する。したがってレバー移動要素とは、説明された機能を履行するための要素として定義される。この請求要素は「手段」という語を使用しないものであるが、それでもミーンズ+ファンクションの形式によるものである。要素に「手段」の語が含まれないという理由だけで、その要素が第112 P6条に基づくミーンズ+ファンクション要素として解釈されることが妨げられるものではない。Cole v. Kimberly-Clark Corporation, 102 F.3d 524, 1996 U.S. App. LEXIS 31360, *17-18 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。第112 P6条の適用が各要素ベースで決定されるか否かは、特許およびその審査記録に基づくものである。上記を参照のこと。
111. この語は特許第656号において使用も定義もなされていない。この用語は、請求項中で要素が全くの機能的な用語として定義される部分に初出したものである。「レバー移動要素」もしくは「移動要素」という語が、技術的に十分理解されている意味を有しているとの証拠はない。Greenberg v. [*55] Ethicon Endo-Surgery, Inc., 91 F.3d 1580, 1583 (Fed. Cir. 1996)(「戻り止め機構」はこの分野において十分理解されている意味を有していた。)と比較のこと。
112. 明細書において開示された構造物に関する審査中になされた陳述はまた、請求項のミーンズ+ファンクションの請求範囲の限定事項の意味の決定にかかわるものである。Aplex Computer Corp. v. Nintendo Co., Ltd., 102 F.3d 1214, 40 U.S.P.Q.2D (BNA) 1667, 1672 (Fed. Cir. 1996)を参照のこと。発明者が用語を互換的に使用していたことは、請求の解釈において考慮されるべき要因である。Amhil Enterprises Ltd. v. Wawa Inc., 81 F.3d 1554, 1559 (Fed. Cir. 1996)を参照のこと。特許第656号の審査記録によれば、請求項の多くが「手段」と「要素」のあいだで修正されていることから、特許出願人は「手段」と「要素」を互換的に使用する意図があったことを示している。PX45, p.23(請求項11「移動手段」から「移動要素」);p.129(請求項1「手段」から「実質的に非弾性のレバー移動要素」);p.130(請求項4「レバー移動手段」から「移動要素」);p.130(請求項5「レバー移動手段」から「移動要素」);p.132(請求項10「レバー移動手段」から「レバー移動要素」);p.132(請求項11「手段」[*56]から「要素」);p.132(請求項14「手段」から「レバー制御要素」);p.133(請求項16「維持及び移動手段」から「レバー制御要素」);p.133(請求項17「維持及び移動手段」から「レバー制御要素」);p.133(請求項18「維持及び移動手段」から「レバー制御要素」)を参照のこと。出願人によれば、これらの変更は、先行技術に対する定義のため (PX45, p.141)になされたか、もしくは単に「小変更」にすぎないものであるとのことである (PX45, p.142)。
113. さらに特許第656号の請求項には、「手段」と「要素」の語を互換的に使用されている。たとえば、請求項1、17、19、20(「レバー作動手段」);請求項5(「レバー移動手段」);請求項2、8、20、24、31(「レバー移動要素」);請求項12、25(「レバー制御要素」)を参照のこと。またこれらの語はすべて、同一の機械的構造物を表わすために使用されており、したがって第112 P6条に基づき同様に解釈されるべきである。
114. 立法経過は、第112 P6条によるミーンズ+ファンクションの解釈のために必ずしも「手段」の語が使用されなくてはならないわけではないという議会の意図を明示している。Fuettererに関しては50 C.C.P.A. 1453, 319 F.2d 259, 264, n.11 (C.C.P.A. 1963)(組み合わせの要素すべては[*57]、こうして何をするかという点および何であるかという点について請求されることが可能である。)を参照のこと。
115. これによって特許第656号においては、「要素」の語が「手段」と同義語とされていることが証明された。したがって、「レバー移動要素」は第112 P6条に従うことを条件として、「レバー作動手段」均等物として扱われるべきである。
116. さらにこの請求要素は、何であるかという構造に関してというよりは、何をするかという機能に関して第一に説明される。「要素」の意味を限定するすべての語は、主として3つの機能に関して、機能に関する表現に置換されている。すなわち、(1)組み合わせの入力後、ダイアルの回転が継続することに応じて、レバーをカムの方向にポジティブに移動する;(2)組み合わせの入力後、ダイアルの回転によって錠を開ける;(3)ダイアルの回転によってレバーをポジティブに作動し、組み合わせの入力があって初めてダイアル作動によるカムに係合させる、である。したがって「のための要素」の形式を使用することは、第112 P6条の「のための手段」の請求スタイルの意図を意味するものである。
117. 特許第656号の明細書においては、ソレノイドの始動時についてのレバー移動要素もしくは手段が説明されている。ソレノイド・ハウジング(剛直体[*58]もしくは剛直要素ともいわれる)がチャネルへと滑動し、レバーを解除の位置から、組み合わせの入力によるダイアルの回転に応じてレバーの突出部分とカム・ホイール上の溝部を係合させるための位置へとポジティブに移動させる。適正な組み合わせの入力によってソレノイドが作動すると、ソレノイド・ハウジングはダイアル・カムの回転によって戻り止めボールを通じて移動させられ、カンチレバー・アームの下端部を押すことによって、錠のレバーがその枢軸点の周りを回転する。一旦ダイアル・カム上の突起部が戻り止めのボールを通過すると、ソレノイドは直ちに、非始動の位置へと戻される。
118. この請求範囲の限定事項については、LaGardが第112 P6条に基づくミーンズ+ファンクション要素であると認めている。LaGardの略式判決申し立てに対するMas-Hamiltonの異議申立てについての、LaGardによる補充的反対訴答p.10を参照のこと。
119. この請求要素に対して特許第656号の明細書において説明される手段は、組み合わせが入力されると電子的に作動するソレノイドを一部に具備するレバー移動要素を具備する。ソレノイドが始動すると、[*59]ソレノイド・ハウジングでもあるレバー移動要素は、物理的に直線状を移動させられ、ソレノイドが、カム・ホイールの外周部の突起パス中において、ソレノイド・ハウジングの表面上に、戻り止めボールを突起させる。この突起が、戻り止めボールと係合し、カム・ホイールが回転すると、戻り止めボールおよびソレノイド・ハウジングを押す。
120. この手段の機能は、記述した機能の条件が満たされると、レバー移動要素を移動させることにある。
121. この請求範囲の限定事項は、上述と同様の理由により「手段」の均等物である「要素」を使用している。「可動要素」という語は、技術的に一般的に理解されている意味を有するものとは表示されていない。Greenberg v. Ethicon Endo-Surgery, Inc.,91 F.3d 1580, 1583 (Fed. Cir. 1996)(「戻り止め機構」とはその分野において十分に理解されている意味を有していた)と比較のこと。この語は特許第656号においては、記述も定義もされていない。この語は全くの機能的な用語として、請求項34に初出している。
122. 特許権者によってこの要素のために選択された特定の用語は、第112 P6条の形式における請求項の表現を定義する意図を示すものである。「要素」という語は[*60]、機能上の表現である「可動」に意味を限定されている。また「要素」もしくは手段は主として、5つの機能により説明される。すなわち、(1)組み合わせ入力前に、カム上の移動面との係合を解除され、(2)十分な距離をもって、(3)カム上の移動面の移動によって可動要素を移動させ、これによって可動リンク部材が移動させられ、(4)その結果、レバーがカムの表面と係合し、(5)カムの表面の移動がレバーを移動させる、ことである。したがって「要素」とは、何であるかという機械的な構造物としてでなく、何をするか、つまりその機能において説明されるのであり、これによって第112 P6条における請求範囲の限定をもたらすのである。
123. 特許第656号の明細書において、可動要素もしくは手段は、通常はソレノイド・ハウジングの上面下で、かつダイアル・カムとは接触しない部分に配置される球状ボールとして説明される。ソレノイドが始動すると、球状ボールはソレノイド・ハウジングの上面の外側方向に、突出、延長もしくは突起し、ダイアル・カム上の突起もしくは隆起のパスに突出する。さらにダイアル・カムの回転[*61]によって、突起もしくは隆起が球状ボールと接触し、ソレノイド・ハウジングを直線状に移動させる。ソレノイド・ハウジングの移動によって、カンチレバー・アームの下端部がソレノイド・ハウジングの上面の凹部から転置され、レバー・アームが解除され、これによってレバーの突出部がカム表面と係合し、さらにダイアルが回転するとレバー・アームが移動し、ボルトを引っ張る。
124. この請求範囲の限定は、「可動要素」と同様の理由によってミーンズ+ファンクションの請求要素として解釈されるが、「要素」は「手段」と均等物である。「可動リンク要素」がこの分野において一般的に理解されている意味を有しているという証拠はない。Greenberg v. Ethicon Endo-Surgery, Inc., 91 F.3d 1580, 1583 (Fed. Cir. 1996)(「戻り止め機構」はこの分野において十分に理解されている意味を有していた)と比較のこと。特許第656号において、「可動リンク要素」は、球面もしくは湾曲面の戻り止めボール96であって、ソレノイドの始動に際して、ソレノイド・ハウジングの外側から、戻り止めの位置もしくは係合位置へと突出、延長、もしくは突起可能なものと定義される。Col.6, lines 12-22を参照のこと。この要素がある種の最低限の構造物において定義されるとしても[*62]、ミーンズ+ファンクション要素のある種の構造物の説明によって、第112(6)条の適用性が妨げられるものではない。Laitram Corp. v. Rexnord, Inc., 939 F.2d 1533, 1536 (Fed. Cir. 1991) を参照のこと。
125. 請求項31において、「可動リンク要素」は第一にその機能について定義される。「リンク要素」の意味を限定する「可動」という語によって、語を機能的に定義しようという意図が示されるが、つまり特別な構造上の方法によるのでなく、リンク要素が可動であることを定義しているのである。「可動リンク要素」はまた、主として以下の7つの機能に基づく語によって定義される。すなわち、(1)引込み位置から可動であって、(2)係合位置へ可動であって、(3)少なくともカムの一部が可動リンク要素と係合するような方法で可動であって、(4)実質的に引込み位置に配置されており、(5)組み合わせの入力があって初めて、係合位置へ可動となり、(6)カムが可動リンク要素と接触し、これを移動させ、(7)カムによるリンク要素の移動によって、レバー移動要素がレバーを移動させる、である。
126. 特許第656号の明細書において、可動リンク要素は、戻り止めボール96上の球面もしくは湾曲面として特定される[*63]。「可動リンク要素」として特定された部分に関連して、ソレノイドが始動すると、球状戻り止めボールは、ソレノイド・ハウジング内の第1の位置から、直線状に戻り止めの位置に移動するが、この戻り止めの位置はダイアル・カムの外側の隆起パス内のソレノイド・ハウジング頂点上にボールが突出、延長、もしくは突起する場所である。ソレノイド・ハウジングの移動によって、カンチレバー・アームの下端部が解除され、これによってアームが転置し、レバーが移動してダイアル・カムと係合する。
127. この請求内容の限定表示は、「組み合わせの入力前に、レバーをカム表面との係合から解除して保持するため、および組み合わせ入力後にレバーを解除するための」可動リンク部材を定義する。したがって可動リンク部材は、説明された機能を履行するための要素として定義されている。前述のように、要素に「手段」という言葉が含まれていないという理由だけで、要素が第112 P6条に基づくミーンズ+ファンクションの要素としてみなされなくなるわけではない。
128. この語は、特許第656号の説明中に使用も定義もされていない[*64]。この用語は請求項中に、要素が全くの機能的な用語として定義されている場所で初出している。「可動リンク部材」が技術的に十分に理解されている意味を有しているという証拠はない。Greenberg v. Ethicon Endo-Surgery, Inc., 91 F.3d 1580, 1583 (Fed. Cir. 1996) (「戻り止め機構」はこの分野で十分に理解されている意味を有していた)と比較のこと。
129. 審査記録によれば、特許出願人は「部材」と「要素」を互換的に使用していたということがわかり、これは請求項の多くが相互に変更されているという理由によるものである。事実、請求項43は「可動リンク要素」から「可動リンク部材」に変更されるように明示的に訂正がなされた。PX45, p.140, 169, 194を参照のこと。この変更は実質的な理由によるものではなく、単に「より明確に発明を定義する」ためであった。上記p.169,194 参照のこと。したがって、特許出願人はいかなる実質的な変更をも意図していたわけではなかった。他の請求項には、「要素」および「部材」を相互に交換して使用するために同様の訂正がなされた。PX 45, p.139,168-9,193-4 (請求項57、「要素」から「部材」へ);p.139,169,194,237 (請求項58、「要素」から「部材」へ);p.168,193,237(請求項56、「部材」から「要素」へ)を参照のこと。これらの[*65]訂正もまた、不明確さを排除し、発明をより明瞭に定義するためのものであって、実質的な目的によるものではない。上記p.169, 194を参照のこと。これによって、出願人は「部材」を「要素」の同義語として使用する意図を持っていたことがわかる。上記により「要素」が「手段」の同義語であることが証明されているので、「部材」はまた「手段」の同義語でもある。したがって、この特許請求範囲の限定では、「のための手段」という用語を使用していないものの、この表現は上述した原則に基づきミーンズ+ファンクションの形式と同一のものとなる。というのも、「のための部材」は「のための手段」と同義だからである。この特許請求範囲の限定が、いくつかの最低限の構造によって定義され得る場合であっても、これらの構造の記述は、第112 P6条の適用性を排除するものではない。Laitram Corp. v. Rexnord, Inc., 939 F.2d 1533, 1536 (Fed. Cir. 1991) を参照のこと。
130. これらの請求項においては、「可動リンク部材」は主としてその機能において定義されている。「可動」という語が「リンク部材」の意味を限定することによって、機能的に語を定義する意図が示される。すなわち、リンク部材を特殊な構造的方法によって定義するのでなく、可動であると表示しているのである。「可動リンク部材」はまた、主として以下の2つの機能にしたがった語[*66]によって定義されている。すなわち、(1) レバーを係合から解除して保持し、(2)レバーを解除する、である。これによって、第112 P6条の形式により請求を行うという明確な意図が明示される。明らかなように、出願人は「部材」を構造物の面から請求しようとしたのではなく、2つの記載された機能において機能的な面から請求しようとしたのである。したがってこの特許請求範囲の限定は、第112 P6条に基づいて解釈されるべきである。
131. 特許第656号の明細書においては、可動リンク部材に関連して開示された構造物は、カンチレバー・アームによってダイアル・カムとの接触を解除されて保持されるレバーを具備し、このカンチレバー・アームはレバーの一部を構成し、かつ内腔に含まれるばね仕掛けの可動ピンを具備するものである。ばね仕掛けのピンの下端部は通常、ソレノイド・ハウジングの上面の凹部内に置かれている。ソレノイド・ハウジング(剛直体もしくは要素ともいわれる)はチャネル内へ滑動し、レバーを係合を外れた位置から解除する。したがって、組み合わせの入力後に、可動リンク部材はレバーを解除する。
132. これらの請求項(請求項34から直接[*67]もしくは間接的に派生する)は、「可動突出要素」について記述している。この要素は、請求項34では明示的に定義されていないものの、LaGardは独立した請求項34の「可動要素」をいうものであると主張する。したがって、「可動突出要素」は、「可動要素」について説明された理由と同一の理由によってミーンズ+ファンクションの要素として解釈され、同一の意味を付与されるものである。
133. この請求の用語は、レバー移動要素を説明するために請求項3においてのみ使用されている。特許第656号の審査において審査官は、ばねによって作動するレバー移動要素を示す先行技術との関連において、いくつかの請求項を拒絶している。PX45, p.60, 118を参照のこと。先行技術との相違を明らかにするために、特許第656号の出願人は、意味を限定する「非弾性」という語を挿入することによって、弾性的に取り付けられたレバー移動要素を除外して、特許の範囲を明示的に限定した。PX45, p.113, 130, 155, 173, 174, 198, 199を参照のこと。特許権者は、侵害訴訟において、審査において他の主題の許可を取得するために放棄された主題については保護を受けられない。Modine Mfg. Co. v. U.S. International Trade [*68] Commission, 75 F.3d 1545,1555 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。したがってこの語は、弾性的に、すなわちばねのような方法によって作動するレバー移動要素を除外するものと解釈されるべきであり、これはLaGardが認めたようにばねが弾性であるからである。LaGardの略式判決申し立てに対するMas-Hamiltonの異議申立てについての、LaGardによる補充的反対訴答 (DE#142), p.9を参照のこと。
134. この請求の用語は、請求項1のレバー作動手段を説明するために使用されており、ミーンズ+ファンクションの要素と認容されている。この用語はさらに、請求項31のレバー移動要素の説明にも使用されており、これもまた上記に示されたようにミーンズ+ファンクションの形式である。
135. 特許第656号の明細書は、請求の用語「ポジティブに移動させる」を、レバーとカム・ホイールとの「ポジティブな」係合を提供するものと説明している。特許第656号の明細書において説明されているように、適正な条件が満たされると、ソレノイド・ハウジングは直線状を転置し、ばねによってバイアスをつけられたばねをカンチレバー・アームの下端部において解放し、これによってレバーが押されてカムと接触してボルトが引っ込められる。したがって特許第656号にて説明され図示されたように、[*69]「ポジティブな」移動は、レバーをカム・ホイールの方向に押すことを意味する。
136. 特許第656号出願の審査において、LaGardは明示的に、レバーを移動してカムと接触させるために重力を使用する錠機構の作動について限定修正した。PX45, p.141を参照のこと。
137. この請求の用語は、上記に定義された「組み合わせ」および「正確な組み合わせ」と同一の意味を有している。請求の表現ではさらに、ダイアルによって錠に「所定の組み合わせ」が入力される必要があるとしている。
138. この請求の用語は、特許請求の導入部もしくは前文に含まれるものであるが、上述と同一の理由により、特許請求範囲の限定を表示するものである。請求項1の本文は明示的に、特許請求範囲の限定表現のそれぞれにおいて、「前記組み合わせ」もしくは「その組み合わせ」または「所定の組み合わせ」と前述の表現を引用している。請求事項が前文を引用している場合、たとえば「前記[前文]」と記述している場合などは、前文の表現が特許請求範囲の限定表現となる。Bell Communications Research, Inc. v.Vitalink Communications Corp., 55 F.3d 615, 621 (Fed. Cir. 1995) を参照のこと。
139. 請求項31と同様に、「所定の組み合わせ」[*70]の語は前文にも含まれており、それより後述される特許請求範囲の限定表現は、「前記組み合わせ」と前文を引用する。したがって「所定の組み合わせ」の要件は、請求範囲の限定となる。上記参照のこと。
140. この請求の用語は、可動要素(請求項34)および可動突出要素(請求項43)の作動を説明する。LaGardは、特許第656号の錠におけるこれらの要素は、通常はソレノイド・ハウジングの上面下に配置される球状戻り止めボール96と特定している。ソレノイドが作動すると、戻り止めボールが、ソレノイド・ハウジングの外側、戻り止めの位置に突出、延長もしくは突起する。Col.6, lines15-20を参照のこと。したがって特許第656号の明細書に説明および図示されたとおり、「突出した」とは、ソレノイドによって、ソレノイド・ハウジング内の場所から、戻り止めボールがソレノイド・ハウジングの上面上に突起する場所に押されることを意味する。
141. 特許第656号において使用される語の意味は、「突出」の通常の定義と同一である。一般的に、「突出」は「突起」させることを意味する。PX8を参照のこと。「突起」は、前方に貫通し、突出させ、[*71]周囲の面から張り出させることを意味する。上記を参照のこと。
142. したがって特許第656号の請求項において使用されるように、「突出した」とは、戻り止めが別個に移動させられ、ソレノイド・ハウジングの上面から突起することを意味する。
143. LaGardは、請求項3における解除可能な手段が第112 P6条に基づくミーンズ+ファンクションの要素であると認める。侵害に関する略式判決申し立てについてのLaGardによる訴答(DE#127), p.11;LaGardの略式判決申し立てに対するMas-Hamiltonの異議申立てについての、LaGardによる補充的反対訴答 (DE#142), p.8を参照のこと。LaGardはしかしながら、「解除可能な」という語は、請求の解釈には重要でないものと主張する。但し、いかなる請求の用語も、請求の解釈においては軽視されるべきではなく、要素はそれぞれ、重要かつ本質的とみなされるべきである。Pennwalt Corp. v. Durand-Wayland, Inc., 833 F.2d 931, 951 (Fed. Cir. 1987) (全員法廷) を参照のこと。
144. 「解除可能な手段」を説明する際に、特許第656号の明細書は、カンチレバー・アーム(レバーの一部を構成する)とレバー上の戻り止め(カンチレバーの下端部にあるばねによるバイアスがつけられているピン)が、カム・ホイールから係合を外された位置に、レバーを解除可能に保持すると記述している。特許第656号の要約を参照のこと[*72]。これらの部品はさらに明細書で、カム・ホイールから係合を外された位置において、枢動可能なレバーを解除可能に保持すると説明している。Col.2, lines24-26を参照のこと。特許第656号の説明および図で示されているように、ソレノイド・ハウジングが直線状を移動すると、戻り止めピンがソレノイド・ハウジングの上面にある凹部から解除される。カンチレバー・アームの下端部が一旦解除されると、ソレノイド・ハウジングの上面とカンチレバー・アームの下端部との間に機械的な関連性は存在しない。したがって、特許第656号において使用されるように、「解除」とは、必要に応じてデバイスもしくは機構を保持もしくは解放するため、または拘束の状態を解除するための機械的な機構という通常の意味を有している。PX187, PX188を参照のこと。
145. 特許第656号の明細書において説明されるように、「解除可能な手段」はカンチレバー・アームによってダイアル・カムとの接触の状態を断たれたレバーと特定し、このカンチレバー・アームは内腔にあるばね仕掛けの可動戻り止めピンをその下端部に具備し、その戻り止めピンは通常、これを所定の場所に保持するソレノイド・ハウジングの凹部と係合するものである。戻り止めピンは、カンチレバー・アームの下端部とともに、ソレノイド[*73]ハウジングが直線状を移動し、レバーがダイアル・カムと係合したときに、凹部から解除可能になるものである。つまり、ソレノイド・ハウジングが直線状を移動すると、レバーとソレノイド・ハウジングの間には機械的な関連性が存在しなくなり、レバーはソレノイド・ハウジングから解放されるわけである。
146. 解除可能な手段の機能は、上記に説明された作動を通じて、カム・ホイールから外れた状態で、かつ、カム・ホイールの回転運動とは独立した静止位置にレバーを保持し、上の作動中の適当なときにレバーを解除することを意味する。
147. 請求項34および43において、「解除」とは、可動リンク部材とレバーとの間の相互作用、すなわち可動リンク部材がレバーを「解除」するために移動させられることを説明するために使用されている。この語は、解除可能な手段に関連して説明された方法と同一の方法によって定義されるべきである。機械的機構が作動すると、可動リンク部材(ソレノイド・ハウジング)が移動してレバーを解放し、可動リンク部材とレバーとの間の機械的な連結性が存在しなくなるのである。
148. この請求の用語は、組み合わせが入力された後の可動[*74]リンク部材の動きを説明するために使用されるものである。この語は、「解除」すなわちレバーをソレノイド・ハウジングから解放することとして、これらの請求項における意味と同一の意味を有する。
149. この要素はその機能において説明される。すなわち「前記ダイアルの回転中で前記組み合わせが入力されるまでの間、前記カムとの係合を外されたレバーを保持するため」と定義されるものである。この請求範囲限定の表現は、「のための保持要素」が「のためのレバー保持手段」と置換されているという理由だけで、請求項1の第一要素からは区別される。さらに、前述のように、「要素」は「手段」という語の均等物である。前述の理由により、この請求の表現はミーンズ+ファンクションの要素として、かつ第112 P6条に従うものとして解釈されるべきである。「要素」とは、何であるかではなく、何をするのかについてのみ説明されるもので、すなわち、ダイアル回転中にカムとの係合から外されたレバーを保持する、ということである。
150. 「保持要素」が、技術的に一般に理解された意味を有しているという証拠はない。Greenberg v. Ethicon Endo-Surgery, Inc., 91 F.3d 1580, 1583 (Fed. Cir. 1996) (「戻り止め機構」はこの分野で[*75]十分に理解されている意味を有していた) と比較のこと。
151. 「保持要素」の表現は、特許第656号の明細書中の説明において定義も使用もなされていない。この用語は、機械的構造でなく機能的な用語という意味において明示的に定義される請求項31に初出している。「要素」の意味を限定する「保持」の語はさらに、請求範囲の限定を機能的に行うという意図を反映するものであり、すなわち、「要素」が係合を解除されたレバーを保持もしくは固持することを意味する。したがって、請求範囲の限定には基本的に機械的構造が欠如しており、主として機能的特徴において定義されている。
152. 「保持手段」と「保持要素」とはまた、他の請求項において互換的に使用されており、ここでも「要素」と「手段」が同等のものであるとの意図が表明されている。請求項1、17、19、28(「保持手段」);請求項31 (「保持要素」) を参照のこと。その他の特許請求項が、係争中の特許請求の範囲を決定するために使用される場合もある。McGill, Inc. v. John Zink Co., 736 F.2d 666, 674 (Fed. Cir. 1984) を参照のこと。これらはすべて、同等の機能上の表現によって説明される同一の機械的構造であって、したがって同一のものと解釈されるべきである。
153. 特許第656号[*76]の明細書において、「保持要素」と特定された部分について、レバーはカンチレバー・アームによってダイアル・カムとの接触を外されて保持されるが、このカンチレバー・アームはレバーの一部を構成するもので、内腔に含まれるばね仕掛けの可動ピンを具備し、解除されたときにレバーを枢軸の回りに回転させる力を発生させ、錠のレバーをダイアル・カムとの係合から解放するのである。
154. 上述したように、請求の用語は、発明者が別の意味において使用したことが判明しない限り、通常の意味を有する。Hoganas AB v. Dresser Industries, Inc., 9 F.3d 948, 951(Fed. Cir. 1993)を参照のこと。特許第656号において「ソレノイド」という語は、従来の、電気的作動による部材で、コイルに直線状に鉄芯を引っ張るという、通常の意味において説明されている。Col.1,line30; Col.1, line36; Col.6, lines 43-46を参照のこと。特許第656号の明細書において、ソレノイドは一貫して、コイル108を支持するスプール内に含まれるプランジャー98について説明されており、これはソレノイド・プランジャーと独立して直線状を移動できるソレノイド・ハウジングとともに、ソレノイド・プランジャーを作動させ直線状を移動させるものである。Col.2, lines 47, 51, 55, 61; Col.4,[*77] lines 37-38, 46; Col.5, lines 43, 62, 67; Col.6, lines 9-57; Col.7, lines5, 8, 11, 13-16, 26; Col.8,line7; Figs.3,5,6,7,9,10を参照のこと。特許第656号において、特許権者は「ソレノイド」の語が、通常に説明される機構以外の意味を含むものと意図していたという示唆はない。
155. 特許第656号の他の請求項はさらに、プランジャーを包囲するソレノイド・ハウジングについて定義している。たとえば、請求項9、16を参照のこと。特許の他の請求項が、係争中の特許請求範囲の決定のために使用される場合もある。McGill, Inc. v. John Zink Co.,736 F.2d 666, 674 (Fed. Cir. 1984) を参照のこと。
156. したがって特許第656号は「ソレノイド」を構造的要素として定義し、そこでは(1)ソレノイドは通電されている限りにおいて作動し、自動的に本来の位置に戻り、(2)ソレノイド・プランジャーの動きは直線状であり、(3)ソレノイド・ハウジングは可動である、とされている。
157. この請求要素は、「手段」の語を使用していないものの、特定の機能を履行するための「要素」を定義している。したがって上述の原則に基づき、「のための要素」とは「のための手段」と同等である。
158. 特許第656号の審査[*78]において、出願人は「レバーを移動するための手段」を「レバーを移動するための実質的に非弾性のレバー移動要素」の表現に修正している。PX45, p.129を参照のこと。出願人は、この変更は「発明をより明確に定義し」、ならびに「レバー上で作動する重力がレバー移動のための手段を構成することを排除する」ためになされたと主張した。PX45, p.141を参照のこと。これによって、出願人が「手段」が「要素」と同等であることを意図したか、もしくは「要素」が「手段」よりも狭義の定義であるとみなしていたか、のいずれかであることが示される。しかしながら、用語の変更にかかわらず、請求についてミーンズ+ファンクションの形式は維持された。
159. 「実質的に非弾性のレバー移動要素」、「レバー移動要素」、もしくは「移動要素」の語が、技術的に一般に理解されている意味を有しているものとは明らかにされていない。Greenberg v. Ethicon Endo-Surgery, Inc., 91 F.3d 1580, 1583 (Fed. Cir. 1996) (「戻り止め機構」はこの分野で十分に理解された意味を有していた) と比較のこと。この「移動要素」は何をするか、すなわちその機能 (「係合を外された位置からレバーを移動するための」) について説明され、機械的な構造において説明されているものではない。要素が最低限の構造を[*79]維持しているとしても、第112 P6条に基づいて解釈されることが妨げられるわけではない。Laitram Corp. v. Rexnord, Inc., 939 F.2d 1533, 1536 (Fed. Cir. 1991) を参照のこと。
160. 「要素」の意味を限定する「レバー移動」の表現はそれ自体機能的なもので、すなわち機能的にレバーを移動する意味において「要素」を定義する。
161. 意味を限定する語である「非弾性」もまた、能力という意味で要素を定義しているために、性質上機能的なものである。「非弾性」の語は、特許第656号の明細書においては使用も定義もなされていないが、請求項において初出している。この表現は先行技術との相違を明確に表わすために追加されたもので、先行技術においては、カム・ホイールと係合させるためにレバーにバイアスをかける弾性、非剛直要素(すなわちばね)が明記されていた。PX45, p.113, 130, 155, 173-4, 198-9を参照のこと。出願人はさらに、自身の「発明」が、レバーと別個の剛直要素によってレバーを移動することが先行技術に明記されていないことを理由に、先行技術とは異なるものであると主張した。PX45, p.113を参照のこと。したがって特許第656号に使用されているように、「非弾性レバー移動要素」とは、ばねを利用していないものを意味する。
162. この請求における「要素」はさらに、主として3つの機能において定義される。[*80]
すなわち、(1)係合を外された位置からレバーを移動する、(2)レバーの突起とカム・ホイール上のカム表面とを係合させ、(3)その後の設定された方向へのカム・ホイールの回転が、施錠の状態から開錠の状態へと錠機構を変更する、のである。
163. 特許第656号のその他の請求項においては、特許権者の「手段」と「要素」を互換的に使用し、錠の同一部分を同等に表現しようとする意図が明示されている。請求項1、17、19、28、(「レバー作動手段」);請求項5(「レバー移動手段」);請求項2、8、20、24、31(「レバー移動要素」);請求項12、25(「レバー制御要素」)を参照のこと。特許のその他の請求項が、係争中の請求の範囲を決定するために使用される場合もある。McGill, Inc. v. John Zink Co., 736 F.2d 666, 674 (Fed. Cir. 1984) を参照のこと。同等の用語である「手段」もしくは「要素」のいずれの使用であるかにかかわらず、すべて、同等の機能的表現において説明された同一の機械的構造を意味する。
164. 特許第656号の明細書において、実質的に非弾性レバー移動要素は、カンチレバー・アームを具備し、このカンチレバー・アームはレバーの一部を構成するものであって、その下端部に、内腔[*81]に含まれる可動ばね仕掛け戻り止めピンを具備する。ピンの下端部は、ソレノイド・ハウジングの傾斜凹部と係合する。適正な組み合わせの入力と、ソレノイドの始動によって、ソレノイド・ハウジングが直線状に移動し、凹部から戻り止めピンを解除する。この動きによって、戻り止めピンが第2の位置に移動し、レバーがダイアル・カムとの係合のために押される。ダイアルはボルトを引っ込めるために回転し、レバーと装着している戻り止めピンの下端部が、ソレノイド・ハウジングの上面に沿って滑動する。ソレノイドが去勢されると、戻り止めピンの下端部は凹部との係合から外れて位置する。レバーが一旦カムと係合すると、ボルトとそれに関連する部分は、ソレノイド・ハウジングとは別個に移動する。このときまでに、ソレノイド・ハウジングは解除され、通常の位置に戻されている。
165. この請求の用語は、カムから離間されたときの可動リンク要素の位置を説明する。この語は特許第656号において、さまざまな文脈で使用されているが、常に同一の方法によって、ボルトが「引っ込んだ」状態(Col.1, lines32-33を参照のこと)か、「戻り止め[*82][ボール]96が延長していないかもしくは引っ込んでいる」状態(Col.6, lines22-23を参照のこと)を説明するものである。したがって、この語は「延長していない」と同義に使用されており、この状態は、球状戻り止めボールがソレノイド・ハウジングの外側に突出、延長もしくは突起していない状態を示すものである。Col.6, lines16-19を参照のこと。すなわち、引込み位置とは、戻り止めボールがソレノイド・ハウジングの表面上から突出している係合位置とは反対の状態を意味する。
166. 文言通りの発明の侵害を立証するには、請求項に記載された各請求範囲の限定事項が、申し立てられたデバイスそのものに存在しなくてはならない。Southwal Technologies, Inc. v. Cardinal IG Co., 54 F.3d 1570, 1575(Fed. Cir. 1995); Amhil Enterprises Ltd. v. Wawa Inc., 81 F.3d 1554, 1562(Fed. Cir. 1996)(請求項の文言通りの発明の侵害は、適正に解釈された請求項が申し立てられたデバイスそのものについて表現されている場合に、成立するものである)を参照のこと。請求項が申し立てられたデバイスそのものについての記述でない場合は、文言通りの発明の侵害は存在しない。Johnston v. IVAC Corp., 885 F.2d 1574, 1580(Fed. Cir. 1989)を参照のこと。文言どおりの発明の特許侵害の分析には、以下の2つの手順がとられるものである。すなわち、主張された請求項を適正に解釈すること、申し立てられた製品が、主張され適正に解釈された請求項[*83]を侵害しているか否かを決定すること、である。Vitronics Corp. v. Conceptronic, Inc., 90F.3d 1576, 1581-82(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
167. 特許第656号のX-07錠について、文言通りの発明の侵害は存在しない。
168. 請求項1のレバー保持手段の要素は、ミーンズ+ファンクションの表現であり、第112 P6条に基づき解釈されるべきである。ミーンズ+ファンクションによる請求範囲の限定が申し立てられたX-07錠について適用されるためには、X-07錠の要素が同一の機能を履行し、請求の手段に関する明細書において説明された構造と同一もしくは同等の構造を有してなければならない。米国特許法第112 P6条、Apex Computer Corp. v. Nintendo Co. Ltd., 102F.3d 1214, 40 U.S.P.Q.2D(BNA)1667, 1672(Fed. Cir. 1996); King Instruments Corp. v. Perego, 65F.3d 941, 945(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。したがって、請求項のミーンズ+ファンクションによる限定が満たされているかどうかを決定する際の唯一の問題は、請求項に記述された機能と同一の機能を履行する申し立てられたデバイスの手段が、その機能を履行する特許の明細書に説明される構造と、同一であるか、もしくはその均等物であるかどうかということである。Durango Associates, Inc. v. Reflange, Inc., 843 F.2d [*84] 1349, 1357(Fed. Cir. 1988)を参照のこと。第112 P6条に基づく侵害が存在するか否かは事実問題である。Durango Associates, Inc. v. Reflange, Inc., 843 F.2d 1349, 1357(Fed. Cir. 1988); Symbol Technologies, Inc. v. Opticon, Inc., 935 F.2d 1569, 1575(Fed. Cir. 1991)を参照のこと。
169. X-07条は、特許第656号の明細書に説明されるものと同一の手段を使用していない。特許第656号は、レバーと一体の剛直カンチレバー・アームとその下端部に位置するばね仕掛けのピンの組み合わせを使用し、一方X-07錠は、レバーとは別個の滑動部材を使用し、この滑動部材の両面の間にレバー上のスタッドを滑動して捕らえる。
170. 第122P6条に基づく均等性は実質的でない変更に関するものである。Aplex Computer Corp. v. Nintendo Co. Ltd., 102 F.3d 1214, 40 U.S.P.Q.2D(BNA) 1667, 1673(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。したがって第112条に基づく均等物は、明細書において開示された構造物、素材もしくは行為に重要性を付加しない非実質的変更から生ずるものである。Valmont Indus., Inc. v. Reinke Mfg. Co., Inc., 983 F.2d 1039, 1042(Fed. Cir. 1993)を引用するGMIS, Inc. v. Health Pyament Review, Inc. 34 U.S.P.Q.2D(BNA) 1389, 1392(E.D.Pa.1995)を参照のこと。
171. 特許第656号において開示された錠とX-07錠の間の相違[*85]は実質的なものでないわけではない。機械的構造は実質的に相違し、実質的に異なる方法によって機械的および機能的作動が行われる。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
172. レバー作動手段もまた、第112 P6条のミーンズ+ファンクション形式である。特許第656号は垂直に突起する戻り止めボールを使用し、これがソレノイド・ハウジングを直線状に押し、レバーに固着されたカンチレバー・アームの下端部のばね仕掛けのピンを解除する。X-07錠はステッパー・モータを使用し、このモータは瞬時作動するとパーシャル・ギアを回転させ、回転可能および枢動可能なカム部材、特別設計による複雑に形成されたカム表面、およびピンを数度にわたり干渉し、滑動部材を垂直移動させてレバーを移動する。これらの2つの機構は決して同一とはいえず、また相違が実質的でないともいえない。むしろ、X-07錠は機能的に、特許第656号の錠とは実質的に異なった作動をするのである。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
173. 特許第656号の錠は[*86]、レバーをカム・ホイールの方向へ押し込むことによって「ポジティブに移動させる」機能を遂行している。X-07錠においては、実質的に異なった方法により、レバーがカム・ホイールの方向に引っ張られる。したがって、X-07錠の機構は特許第656号の明細書に開示されたものとは同一ではなく、同等でもなく、機能も結果も異なる。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
174. 申し立てられたX-07錠はソレノイドもしくはソレノイドの均等物を使用していない。
上記の特許第656号の定義どおりに、ソレノイドは通電しているときに限り作動し、自動的にもとの位置に戻される。ソレノイド・ハウジングは可動であり、ソレノイドの運動は直線状で、ソレノイドは多量の電源を必要とする。これと対照的に、X-07錠に使用されているステッパー・モータは短い電気パルスによって作動し、通電の必要なくその第2の状態で静止し、手動によってもとの位置に戻され、ステッパー・モータ・ハウジングは静止しており、かつステッパー・モータは直線状でなく回転運動をする。特許第656号において説明された継続して作動する直線状のソレノイドの型は、膨大な電源を必要とするために、X-07錠においては使用できない[*87](機械的な置換問題が明白な場合は別として)。ソレノイドがステッパー・モータと異なるその他の相違点として、ソレノイドの方がかなり大量の体積を必要とし、外部の磁場のインパクトもしくはその適用によって無効となりやすく、低ボルトのシグナルに反応しないことが挙げられるPX81,
p.141を参照のこと。X-07錠は磁場からの保護のためにステッパー・モータを使用するが、この目的は特許第656号には示唆されていない。特許第290号は特許第656号に対して特許性があるとみなされたが、これにはステッパー・モータが使用されている。PX103を参照のこと。Kromerの特許(PX173)は回転可能なモータを開示し、これを特許請求しており、特許第656号に対して特許制があるとみなされた。申し立てられたデバイスが、主張される特許に対して特許性があるとみなされたことによって、特許請求されているデバイスと申し立てられたデバイスの間には相違の実質性が存在することが証明される。Zygo
Corp. v. Wyko Corp., 79 F.3d 1563, 1570(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。したがって、X-07錠はソレノイドを具備していない。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
175. 特許第656号の明細書は、レバーと一体にて構成される[*88]カンチレバー・アームとして、レバー移動阻止要素を説明している。これと対照的に、X-07錠には、レバーと一体に構成されない別個の滑動部材を使用する。特許第656号の阻止部材は、直線状を作動するソレノイド・ハウジングとの相互作用によって移動させられる。X-07の滑動部材はギアと枢軸との複雑なシステムによって作動する。したがって、X-07錠は、特許第656号に開示された手段と同一、もしくは同等の手段を使用していない。むしろ、2つの機構は実質的に異なった作動がなされる。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
176. X-07錠には「戻り止め」がない。特許第656号の明細書によれば、戻り止めとは、球面もしくは湾曲面を具備し、ソレノイド・ハウジングの外側に突出、延長もしくは突起できるボールである。一般的に戻り止めとは、ばね仕掛けの機構であるとみなされている。LaGardが「戻り止め」と特定しているギアの歯は、その用語の定義の範疇に入るものとはみなされない。というのも、ギアの歯はいかなる方法によっても、突出、延長もしくは突起せず、ばねによってバイアスをかけられているわけでも、ばね仕掛けでもないからである。特許が付与された錠の戻り止めボールは、このボールを始動し、所定の位置へ移動させるソレノイドとは別個の要素である。これと対照的に、X-07錠はパーシャル[*89]・ギアを使用し、このギアは、それぞれの歯が対応するカムの周囲のギアの歯と瞬時接触するように回転する。したがって、X-07錠の機構は特許第656号において開示されたものとは実質的に異なる方法によって作動することから、X-07錠は特許において使用された意味においての戻り止めを適用しておらず、その均等物も適用していないものとされる。さらに、特許第656号において「戻り止めの位置」とはボールが、「ソレノイドの始動に際して・・・ソレノイド・ハウジングの外側に突出、延長もしくは突起」できる場所と定義されるが、X-07錠においては、この方法によって作動する、その相当部分も、その部分の組み合わせも存在しない。したがってX-07錠においては、「戻り止めの位置」は存在しない。X-07錠に戻り止めが欠如しているため、請求項1において定義される型の戻り止め係合部材、もしくはその同等の構造物も欠如している。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
177. 解除可能な手段は第122P6条に基づくミーンズ+ファンクションの要素である。特許第656号において、解除可能な手段は、レバーと一体にて構成されるカンチレバー・アームであって、直線状を[*90]可動なソレノイド・ハウジングとその下端部にて協動するばね仕掛けの戻り止めピンを具備するもの、と定義される。X-07錠は、レバーとは別個の滑動部材を使用し、この滑動部材の両面の間にレバー上のスタッドを滑動して捕らえる。さらに特許第656号の手段には、レバーがカムと係合できるように解除されることが要求される。X-07錠においては、レバーもしくは滑動部材のいかなる部分も解除されず、むしろ、これらの部分の間の機械的な連結が維持される。つまり、X-07錠には解除可能な手段が欠如しているわけである。したがって、構成、機能および結果において、機構は実質的に異なるものである。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
178. 実質的に非弾性レバー移動要素もまた、第112 P6条に基づくミーンズ+ファンクション形式である。特許第656号においては、垂直に突起する戻り止めボールを使用し、このボールがソレノイド・ハウジングを直線状に押し、レバーに固着されたカンチレバー・アームの下端部にてばね仕掛けのピンを解除する。X-07錠はステッパー・モータを使用し、このモータは瞬時作動するとパーシャル・ギアを回転させ、回転可能および枢動可能な部材ならびにピンを数度にわたり干渉し、別個の[*91]滑動部材を垂直移動させてレバーを移動する。
179. レバー移動手段は、第112 P6条に基づくミーンズ+ファンクションの要素である。特許第656号においては、垂直突起戻り止めボールを使用し、このボールがソレノイド・ハウジングを直線状に押し、レバーに固着されたカンチレバー・アームの下端部にてばね仕掛けのピンを解除する。X-07錠はステッパー・モータを使用し、このモータは瞬時作動するとパーシャル・ギアを回転させ、回転可能および枢動可能な部材ならびにピンを数度にわたり干渉し、滑動部材を垂直移動させてレバーを移動する。LaGardは、特許第656号のソレノイド・ハウジングとしての「レバー移動要素」を、X-07錠における滑動部材であると特定しているようである。特許第656号のソレノイド・ハウジングは文言上は「電子的に作動する」ものであると解釈されるかもしれないが、X-07錠の滑動部材がそうでないのは明白であるし、実際ステッパー・モータからいくつかの機械的部材が除去された。そのうえ、X-07錠のパーシャル・ギアの歯は、特許第656号において説明される方法と同一もしくは同等の方法によって、滑動部材を移動させることも、これに接触することもない。したがって2つの機構は、構成、作動および結果において、実質的に異なるものである。
よって[*92]X-07錠には、特許第656号において解釈されるようなレバー移動手段が欠如している。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
180. X-07錠は、特許第656号において開示されるものと同一のレバー保持要素もしくはその均等物を使用しない。特許第656号においては、レバー保持要素とは、一体のレバー/カンチレバー・アームであり、錠のレバーをダイアル・カムとの係合から解放する力を発生させる可動ばね仕掛けピンを具備するものである。X-07錠はレバーとは別個の一体型滑動部材を使用し、この部材はその両面にレバー・スタッドを捕らえ、両面によって形成されたチャネル以外の場所へスタッドが移動することを回避するものである。したがって2つの機構は、実質的に異なって構成され、機能し、異なる結果をもつものである。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
181. X-07錠はまた、特許第656号において開示されるものと同一のレバー可動要素もしくはその均等物を有さない。特許においては、直線状を滑動するソレノイド・ハウジングを使用し、ソレノイドによって作動し仲介する戻り止めボールを通じて、レバーをカム・ホイールの方向へ押すのである。[*93]X-07錠においては、ステッパー・モータを使用し、モータが瞬時作動すると、ダイアル・カムの周囲に形成されるセクター・ギア上の対応するギアとかみ合う方向へパーシャル・ギアを回転させる。その後、溝部、ピン、カム表面、回転可能な部材、および滑動部材の複雑な相互連結を通じて、レバーが引っ張られカムと係合する。これらの機構は実質的に異なった方法で、構成され作動する。さらに、X-07のレバーは「ポジティブに移動させられる」わけではなく、すなわちカムへ押されるわけではなく、カムの方向へ引っ張られるのである。この作動および結果ならびにこれらを履行するために必要な機械的機構は、特許第656号において開示されたものとは実質的に異なるものである。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
182. X-07錠は、特許第656号において開示されるものと同一の可動リンク要素もしくはその均等物を有さない。特許第656号においては、ソレノイドによって作動する戻り止めボールを使用し、このボールが作動することによってソレノイド・ハウジング内から戻り止めの位置へと直線状に移動し、この戻り止めの位置で、ダイアル[*94]・カムの外周上の隆起物のパス内で、ソレノイド・ハウジングの頂点上をボールが突出、延長もしくは突起するのである。ソレノイド・ハウジングの移動はカンチレバー・アームの下端部を解除し、アームが押されてダイアル・カムと係合する。X-07錠においては、ステッパー・モータが上述した機械的部分および作動の複雑な手順を行い、レバーを引っ張りカムと係合させる。これらの機械的機構は、構成、機能および結果において実質的に異なったものである。必要な可動リンク要素が欠如しているために、係合位置および引込み位置は、特許第656号において定義される意味においては存在しない。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
183. 請求項33は請求項31に従属するものであり、請求項31が侵害しないものであるから、請求項33は侵害となり得ない。Wahpeton Canvas Co. v. Frontier, Inc., 870 F.2d 1546, 1553(Fed. Cir. 1989)(「従属する請求項は、そのもとになる請求項が侵害とならない限り、侵害とされないことは自明である」)を参照のこと。さらに、X-07錠には必要なリンク要素が欠如しているために、その要素を移動させるための電子機械的デバイスを有し得ない。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、[*95]文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
184. X-07錠は、特許第656号の明細書において説明されるものと同一の可動リンク部材もしくはその均等物を有さない。特許第656号においては、直線状を可動のソレノイド・ハウジングおよび戻り止めボールを使用する。X-07錠においては、ステッパー・モータを使用し、このモータが瞬時作動してパーシャル・ギアを回転させ、上述した回転可能かつ枢動可能な部材とピンに複雑な一連の干渉を行うことによって、別個の滑動部材を垂直に移動させて、レバーを引っ張りカムに接触させる。したがって、X-07錠は構成、機能および結果において、特許第656号と実施的に異なるものである。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
185. この請求範囲の限定はさらに、組み合わせの入力後にレバーが解除されることを要件としている。X-07錠においては、レバーのいかなる部分も解除されない。むしろ、レバー・スタッドが滑動部材の溝部内に、常に保持されている。したがってこの機能は全体として、X-07錠においては欠如している。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
186. X-07錠にはさらに、特許第656号において説明される可動要素[*96]もしくはその均等物が欠如している。特許第656号は、可動戻り止めボールおよびそのボールを突出させるために必要な要素を適用している。X-07錠はかみ合わせがなされるギアの歯を使用し、突出するような相当する要素を有していない。さらにこの請求範囲の限定は、レバーの解除を要件としている。X-07錠においては、上記の組み合わせの入力後に、レバーのいなかる部分も解除されない。したがって、X-07は、実質的に異なった機構および機能を使用し、異なった結果を得るものである。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
187. 請求項35は請求項34に従属するものであり、請求項34が侵害しないものであるから、請求項35もまた侵害しない。Wahpeton Canvas Co. v. Frontier, Inc., 870 F.2d 1546, 1553(Fed. Cir. 1989)を参照のこと。X-07錠にはさらに、特許第656号において説明される可動突出要素もしくはその均等物が欠如している。特許第656号は球状の戻り止めボールを使用し、このボールは通常ソレノイド・ハウジングの上面下に位置し、ソレノイドによって別の位置へ突出、延長もしくは突起できるものである。すでに記述したように、X-07錠はこの型の可動突出要素も[*97]類似する機構も使用しない。したがって機構は、構成、機能および作動において実質的に異なるものである。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。
188. 請求項38および39は直接的もしくは間接的に請求項34に従属するものであり、請求項34が侵害しないものであるから、これらの請求項もまた侵害しない。Wahpeton Canvas Co. v. Frontier, Inc., 870 F.2d 1546, 1553 (Fed. Cir. 1989)を参照のこと。さらに、これらの請求項には可動突出要素が要求されているが、この要素と全く同一のものもしくはその均等物はX-07錠に欠如しているため、侵害は存在しないものとされる。
189. 請求項43は、その他の限定に加えて、請求項34によって要求される可動リンク部材と同一の部材を要求している。上記と同様の理由によって、請求項43に関して、この要素がX-07錠においては存在しないものである。
190. X-07錠は、請求項34について記述された理由と同様の理由によって、特許第656号において説明されるものと同一の可動突出要素もしくはその均等物を有さない。また上記と同様の理由によって、X-07のレバーのいかなる部分も解除されないものである。この請求範囲の限定が厳密に合致しないために、文言通りの[*98]発明の侵害は存在し得ない。
191. X-07錠には、主張される各請求項のうち、少なくとも1つの請求事項が欠如しているために、文言通りの発明の侵害は存在し得ない。Laitram Corp v. Rexnord, Inc., 939 F.2d 1533, 1539(Fed. Cir. 1991)(1つの限定事項にでも合致しなければ、請求の侵害を否認するには十分である)を参照のこと。
192. 文言通りの発明の侵害が立証されない場合に、均等理論に基づき侵害が証明されることもある。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62F.3d 1512(Fed. Cir. 1995) (全員法廷)、裁判所による上告取り上げ、116 S. Ct. 1014 (1996) を参照のこと。均等理論に基づく侵害を証明するには、LaGardは特許請求されている発明とX-07錠との間の実質的でない相違だけを証明すればよい。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62F.3d 1512, 1521-2(Fed. Cir. 1995)(全員法廷)、裁判所による上告取り上げ、116 S. Ct. 1014(1996); Graver Tank & Mfg. Co. v. Linde Air Prods., 339U.S.605, 94L. Ed.1097, 70S.Ct.854(1950); Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc., 87 F.3d 1559, 1571 (Fed. Cir. 1996) (申し立てられた製品が文言通りの侵害[*99]を構成しない場合でも、特許付与されたデバイスから実質的でない変更があった場合には、侵害となることがある) を参照のこと。均等理論の目的は、他の者が特許に重要でなくかつ実質的でない変更および置換をするだけで、特許を無効させることを回避することにある。Aplex Computer Corp. v. Nintendo Co., Ltd., 102 F.3d 1214, 40U.S.P.Q.2D(BNA)1667, 1672(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。しかしながら、申し立てられた製品が要求される要素として同一の結果を達成するために、同一の一般的な機能を履行するからといって、均等性が立証されるものではなく、結果が実質的に同一の方法によって達成されなければならないのである。Zygo v. Wyko Corp., 79 F.3d 1563, 1569 (Fed. Cir. 1985) を参照のこと。したがって、請求範囲の限定における均等物は、特許請求された機能の履行方法を実質的に変更し得ない。Dolly, Inc. v. Spalding & Evenflo Co., 16 F.3d 394, 400 (Fed. Cir. 1994) を参照のこと。
193. 均等理論に基づくと、請求範囲の限定が申し立てられたデバイスに全く存在しない場合は、法律問題としての侵害は存在し得ない。General American Transportation Corp. v. Cryo-Trans., Inc., 93 F.3d 766, 771 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。さらに均等理論は、特許を無効と主張する際に一般に援用できる 構造上および[*100]機能上の請求範囲の限定を否認したりもしくは抹消する許諾を付与するものではない。Athletic Alternatives, Inc. v. Prince Mfg., Inc., 73 F.3d 1573, 1582 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。したがって上記の証明により、Mas-Hamiltonは、均等理論に基づいたとしても、X-07錠において相当する要素が存在しないこれらの請求項を侵害し得ない。
194. 均等性は、請求範囲の各限定ごとに証明されなければならない。Texas Instruments, Inc. v. Cypress Semiconductor Corp., 90 F.3d 1558, 1566 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。
195. 均等性は、各請求項の要素ごとに相違点の非実質性について、詳細な証言と関連する主張によって証明されなければならない。Lear Siegler, Inc. v. Sealy Mattress Co., 873 F.2d 1422(Fed. Cir. 1988)について再度主張するTexas Instruments, Inc. v. Cypress Semiconductor Corp., 90 F.3d 1558, 1566(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
196. 相違点の実質性を評価することは、当該技術の通常の能力を有する当業者にとっては有利な点である。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62 F.3d 1512, 1519 (Fed. Cir. 1995)(全員法廷)、裁判所による上告取り上げ、116 S. Ct. 1014 (1996) を参照のこと。審査は客観的なものであり、客観的な証拠に基づく相違点の実質性の証拠[*101]をもってなされる。Sofamor Danek Group, Inc. v. Depuy-Motech, Inc., 74 F.3d 1216, 1222 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。
197. 均等性を決定するにはいくつかの要因が考慮されるが、その要因には、申し立てられた侵害者が申し立てられたデバイスについて自身の特許を取得したか否か、申し立てられた侵害者が 特許付与された製品を複製したか否か、申し立てられた侵害者が別途開発によって自身の製品を創作したか否か、合理的に技術を有する当業者が、特許に含まれる部分の互換性を知り得たか否か、申し立てられた発明および特許請求された発明が、実質的に同一の方法によって、実質的に同一の機能を履行し、実質的に同一の結果を得るものであるか否か、等が含まれる。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62 F.3d 1512, 1518-1519 (Fed. Cir. 1995)(全員法廷)、裁判所による上告取り上げ、116 S. Ct. 1014 (1996) を参照のこと。
198. 申し立てられたX-07錠が、主張される特許第656号に対して特許性があるとされた事実は、特許請求されたデバイスと申し立てられたデバイスの間に相違の実質性が存在することを証明するものである。Zygo Corp. v. Wyko Corp., 79 F.3d 1563, 1570(Fed. Cir. 1996); National Presto Industries, Inc. v. West Bend Co., 76 F.3d 1185, 1192[*102](Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
199. 1996年1月30日に特許第290号が付与された。PX103を参照のこと。この特許は、X-07錠における機械的機構を開示し、これを請求している。特許第290号の特許審査官(Lloyd A. Gall)は特許第656号の審査官でもあった。特許第290号の審査において、特許審査官は、特許第656号を引用し、特許第656号にかんがみていくつもの請求項を却下した。PX81, p.5, 200, 202, 203, 205, 213, 215, 216を参照のこと。しかしながら、特許第656号がありながら、特許第290号は17の請求項をもって付与された。
200. 少なくとも特許第290号の請求項1、2、5、6、7、10-14および16はX-07錠の機械的機構を包含するものであり、これもまた特許第656号の請求項によって包含されるとLaGardが主張するものである。特許第656号の請求項とX-07錠の間の相違点が実質的なものであるという確実な証拠が存在するので、均等性は欠如していることになる。さらに、特許第656号の請求項は、カムに対してレバーをポジティブに移動させるためのすべての手段を包含するものと範囲の拡張がなされるものではなく、特許第656号において開示された構造の限定された型およびその構造の均等物に限定されるものである。Zygo Corp., 79 F.3d 1563 at 1570[*103]を参照のこと。
201. Mas-Hamiltonが特許第656号の機構の一部を複製したかもしくは複製しようと試みたという証拠は存在しない。むしろ、裁判所によってすでに明らかになっているように、Mas-Hamiltonは別途、X-07錠を開発したという証拠がある。このような別途開発の証拠は、Mas-Hamiltonが複製した、すなわち特許請求された発明を故意に盗用したことを理由に、均等理論が適用するというLaGardの主張に反論するための十分な反証となるものである。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62 F.3d 1512, 1520(Fed. Cir. 1995)(全員法廷)、裁判所による上告取り上げ、116 S. Ct. 1014(1996)を参照のこと。
202. 申し立てられた要素および特許請求された要素の互換性で、侵害の申し立てがあった時点で知られていたものは、通常の技術を持った当業者であれば、変更が実質的でないと考えたであろうという証拠となる。Hilton Davis Chem. Co. v. Warner-Jenkinson Co., 62 F.3d 1512, 1519(Fed. Cir. 1995)(全員法廷)、裁判所による上告取り上げ、116 S. Ct. 1014(1996); Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc., 87 F.3d 1559, 1572(Fed. Cir. 1996); Lifescan, Inc. v. Home Diagnostics, Inc., 76 F.3d 358, 362(Fed. Cir. 1966)を参照のこと。
203. [*104]事実上、特許第656号の錠について当該部品のいかなるものも、X-07錠の部品とは互換性がない。2つの機構の対応する構成部分は、異なった方法によって構成されており、異なった機械的原則に基づき作動するものである。特許第656号は、直線状のソレノイド、戻り止めボール、戻り止めピンおよびカンチレバー・アームを使用する。X-07錠は、ステッパー・モータ、相互にかみ合うギア、スライド・カムおよび滑動部材を使用する。
204. 通常の能力を有した当業者であれば、2つの機構における構成部分に互換性があるとみなすであろうとの証拠は存在しない。
205. 均等性を証明するために必要な実質的でない相違の決定には、、申し立てられたデバイスが実質的に同一の機能を実質的に同一の方法によって履行し、実質的に同一の結果を達成するか否かを考慮することも多くある。Aplex Computer Corp. v. Nintendo Co., Ltd., 102 F.3d 1214, 1222,40 U.S.P.Q.2D (BNA) 1667, 1996 U.S.App. LEXIS 29068 at *23 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。しかしながら、両デバイスが同一の機能を履行する場合であっても、特許の図面からデバイスの構成が異なり、機能の履行を異なった方法で行うことが明らかな場合には、均等性を証明するだけでは十分ではない。Engel Industries,[*105] Inc. v. Lock Former Co., 96 F.3d 1398, 1405-7 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。したがって、申し立てられたデバイスが、実質的に異なった機能を、実質的に異なった方法によって履行し、実質的に異なった結果を達成する場合には、均等理論に基づき侵害が存在しないとされる。Engel Industries, Inc. v. Lock Former Co., 96 F.3d 1398, 1407 (Fed. Cir. 1996) を参照のこと。
206. 上記に証明されたように、係争中の請求項1の要素とは、主としてレバー保持手段、レバー作動手段およびレバー移動阻止要素であるが、これらは特許第656号およびX-07錠において実質的に異なった作動をする。さらに、錠という観点から見たこれらの要素の機能は、部品の内部作動について達成される結果とともに、上記に示されたように実質的に異なっている。したがって機能/方法/結果の審査を適用することにより、請求項1とX-07錠の間の相違点は実質的であると証明される。
207. 請求項1の戻り止めと、LaGardが均等要素であると特定した要素(かみ合うギアの歯)もまた、実質的に異なる方法によって作動する。さらに、これらの本質的に異なる部材による機能、およびこれらによって達成される結果[*106]もまた、実質的に異なっている。同様に、戻り止め係合部材および戻り止め位置を含み、戻り止めに関連する要素もまた、実質的に異なった方法で機能する。
208. 上記の分析はさらに、ソレノイドとステッパー・モータの機能方法およびそれによって達成される結果の実質的な相違も証明する。2つの特許(特許第290号およびKromerの特許)は双方とも、特許第656号を十分に考慮した結果、特許庁によって特許が付与されたものであるから、これらの要素に均等性が欠如していることが証明されるのである。通常の能力を持った当業者であれば、それぞれ錠の機構に使用されているデバイスであることを理由に、ステッパー・モータがソレノイドの均等物であるとみなすであろうとの証拠は存在しない。
209. 上記に証明されたように、請求項3のレバー移動要素を移動させるための手段、解除可能な手段、および実質的に非弾性レバー移動要素は、X-07の特許の機構とは実質的に異なった方法で作動する。さらに、作動によって明白なこれらの要素が履行する機能、およびこれらが達成する結果は、X-07錠の機能[*107]及び結果とは実質的に異なっている。したがって機能/方法/結果の審査の審査を適用することにより、請求項3とX-07錠の間の相違点は実質的であると証明される。
210. 上記に証明されたように、請求項31および33のレバー移動要素、可動リンク要素および保持要素は、特許第656号とX-07錠とでは、実質的に異なった方法で作動する。さらに、2つの機構における構成部分の係合位置および引込み位置は、実質的に異なっている。さらに、2つの機構において達成される機能及び結果もまた、実質的に異なっている。したがって機能/方法/結果の審査を適用することにより、請求項31および請求項33とX-07錠の間の相違点は実質的であると証明される
211. 上記に証明されるように、請求項34、35、38および39の可動要素、可動リンク部材、可動突出要素および電子的に作動可能な突出要素は、これらに相当すると申し立てられているX-07錠の部品とは、実質的に異なった方法によって作動する。さらに2つの機構において達成される機能及び結果もまた、実質的に異なっている。X-07錠はまた、[*108]レバーを解放させる機構を有していない。むしろ、レバーは常に機械的に保持されており、したがってその作動は特許第656号の機構とは実質的に異なっている。さらにX-07錠は、特許第656号の戻り止めの湾局面と均等の要素を有していない。これらの要素の目的は、その機能及び作動の仕方とともに、実質的に異なっている。したがって機能/方法/結果の審査を適用することにより、これらの請求項とX-07錠の間の相違点は実質的であると証明される。
212. 上記に証明されるように、請求項43の可動リンク部材、可動突出要素およびそれらに関連する突出及び解除機能は、特許第656号とX-07錠において、実質的に異なっている。したがって機能/方法/結果の審査を適用することによって、請求項43とX-07錠の間の相違点は実質的であると証明される。
213. 上記の分析を考慮に入れると、特許第656号に主張されるいかなる請求項も、均等理論に基づきX-07錠によって侵害されてはいないものとされる。LaGardは、証拠の優越[*109]および詳細な証言ならびに関連する主張によって、上記に解釈された特許第656号と申し立てられたX-07錠との間の相違点が実質的でないものにすぎないことを立証しなかった。むしろ、相違は実質的なものとみなされ、均等理論に基づく侵害の主張は棄却された。
214. LaGardが侵害を立証できなかったために、いかなる特許権も侵害されていないという理由により、Mas-Hamiltonの以後の侵害を阻止する差止め命令による救済の根拠は存在しない。米国特許法第283条を参照のこと。さらに、政府向けX-07錠の今後の販売を阻止するMas-Hamiltonに対する差止め命令は、いかなるものも発せられない。Trojan, Inc. v. Shat-R-Shield, Inc., 885 F.2d 854, 856-7(Fed. Cir. 1989)を参照のこと。
215. 裁判所は例外的な事件に関しては、合理的な弁護士報酬を勝訴当事者が負担するように裁定できる。米国特許法第285条;Standard Oil Co. v. American Cyanamid Co., 774 F.2d 448, 455; Graco, Inc. v. Binks Mfg. Co., 60 F.3d 785, 794 (Fed. Cir. 1995); CMI, Inc. v. Intoximeters, Inc., 866 F. Supp. 342, 348(W.D.Ky.1994)を参照のこと。
216. 裁判所は本事件が、弁護士報酬の負担を保証する「例外的な事件」[*110]でないものとした。したがって各当事者は、各自の費用及び弁護士報酬を負担する。
217. 上述の理由によって、裁判所は、LaGardの特許第656号が有効であること、原告のX-07錠が被告の特許第656号を侵害しないものであると決定した。さらに、侵害の争点についての裁判所の判断により、被告LaGardは差止め命令による救済の権利を有さないものとする。最後に裁判所は、本事件が弁護士報酬の負担を保証する例外的な事件でないとの決定をした。命令および判決は、前述の事実認定および法の適用にしたがって、同時に記録されるものとする。
日付:1997年3月5日
裁判官KARL S. FORESTER
命令及び判決
事実認定および法の適用に基づき、同日ここに記録され、
以下の通り命令および判決がなされた。
(1) 被告LaGardの特許第656号は有効である。
(2) 原告Mas-HamiltonのX-07錠は特許第656号を侵害していない。
(3) 本判決は最終的であり上訴が許され、遅延のいかなる正当な理由も存在しない。
(4) 本事件は[*111]係属中の訴訟事件表から抹消される。
日付:1997年3月5日
裁判官KARL S. FORESTER
n1 1997年2月3日に特許庁は、特許第656号の発明者として記載されるCutterの氏名を削除する旨の特許権者の請願を認可した。
n2 もう一方の被告Hi-Shear Technology Corporationは1995年7月3日に、本訴訟の当事者となることを却下された。
n3 公判においては、被告は故意の侵害との主張を差し控えた。
n4 Moslerに提示された錠は、9ボルトのバッテリーを電源としていた。
n5 下記の侵害に関する裁判所の事実認定を参照のこと。