原告JAMES A. STORER 及び REFAC INTERNATIONAL, LTD.
対
被告HAYES MICROCOMPUTER PRODUCTS, INC.
及びZOOM TELEPHONICS, INC.
民事訴訟 NO.96-10602-WGY
マサチューセッツ連邦地方裁判所
1998年米国地方LEXIS 2208; 46 U.S.P.Q.2D(BNA)1083
1998年1月23日判決
処分: [1*] クレーム18及びその従属クレーム54に関する非侵害のサマリジャッジメントを求めるZoomの申し立ては棄却する。
弁護士: 原告JAMES A. STORER, REFAC INTERNATIONAL, LTD.に対して、Ronald J. Schutz, Kevin D. Connely, Robins, Kaplan, Miller & Ciresi, ミネアポリス、ミネソタ州
原告JAMES A. STORER, REFAC INTERNATIONAL, LTD.に対して、John N. Love, Robins, Kaplan, Miller & Ciresi, ボストン、マサチューセッツ州
被告HAYES MICROCOMPUTER PRODUCTS, INC. 別名
Practical Peripheral, Inc.,に対して、Bruce E. Falby, Hill & Barlow
裁判官: WILLIAM G. YOUNG, 連邦地方判事
意見者: WILLIAM G. YOUNG
意見: 意見書及び命令
YOUNG地方判事
James A. StorerとREFAC International, Inc.(総称して「原告」)は、被告Hayes Microcomputer
Products, Inc.(「Hayes」)とZoom Telephnics,Inc.(「Zoom」)に対して本特許侵害訴訟を提起し、HayesとZoomはさまざまな商標の下でモデム装置を生産し販売しており、そのすべてが、「電子的データをダイナミカルに圧縮および逆圧縮するシステム」(「Storer特許」)という題名の原告の米国特許第4,876,541号の1つまたは複数のクレームを侵害していると主張している。
本法廷はすでに、クレーム18と従属クレーム54以外の特許のクレーム全てに関して、非侵害のサマリジャッジメントを行っている [*2]。Storer
v. Hayes Microcomputer Products, Inc. 960 F.Supp.498, 500-501(D.Mass、1997年3月25日)(クレーム54に関するサマリジャッジメントは再考の上、1997年5月12日に取消)。
残りのクレーム18と54に関しては、本法廷はサマリジャッジメントを求める申し立てを棄却した。Zoomは現在、本法廷に、クレーム18と54に関する非侵害のサマリジャッジメントを求める第2の申し立てを提起している。注1 今回のZoomの立場は、本法廷の以前の意見書及び命令では、十分かつ精緻に検討されなかった点に基づいており、B. Braun Medical v. Abbott Lab., 124 F.3d 1419(連邦巡回、1997)における連邦巡回裁判所の最近の意見も考えて、本法廷はZoomが提起する問題の徹底的な再考を行った。
T. 背景
以前の意見書及び命令において本法廷は、Storer特許とそのクレームの解釈 [*3] の長い説明を行った。Storer、960 F.Supp. at 501-14参照。今回の文脈ではその議論は一部しか関係ないので、簡単な復習のみで十分である。
Storer特許は、中でも、新規な更新ヒューリスティックと新規な削除法を利用する、データ圧縮の「ダイナミック」ディクショナリー法を説明している。簡単に述べると、モデムは、データの圧縮と逆圧縮でこの「ダイナミック」ディクショナリー法を利用する。ディクショナリーの各項目はデータ列と、ポインターと呼ばれる対応する速記コードから構成される。このディクショナリーは、送信および受信モデムが、個々の文字ではなくデータ列全体を認識することを可能にし、その結果、情報交換が加速される。このプロセスを圧縮と呼ぶ。
各モデムは共通のアルゴリズム「更新ヒューリスティック」を使って、連続的にディクショナリーを変更つまり「更新」するので、このディクショナリーは「ダイナミック」と呼ばれる。クレーム1-17、19-53および55はすべて、AP(All Prefixes)ヒューリスティックとして知られる、新規な更新ヒューリスティックを説明するか、またはそれに関係したものである。告発されたZoomの装置は、V.42bisとして知られる国際規格に基づいて機能する。サマリジャッジメントでの判断のために [*4]、両当事者と本法廷は、V.42bisが、FC(First Character)ヒューリスティックとして知られる更新アルゴリズムを使用していると仮定する。新しい項目の場所を作るため、「削除法」として知られる別個のアルゴリズムが、滅多に使われない列のディクショナリーを除去するのに使われる。クレーム18と54のみが、この新規な削除法を説明するかそれに関係している。
クレーム18とその従属クレーム54以外のすべてのクレームに関しては、本法廷は、以前の意見書及び命令において、重大な事実問題についての真正な争点はないと判断し、非侵害のサマリジャッジメントを下した。クレーム18と54に関しては、本法廷は以下の根拠でサマリジャッジメントを行わなかった: 1)被告による新規な削除法の侵害に関しては、均等論の下で重大な事実問題についての真正な争点が存在し、2)他の従属クレームの限定よりも広いクレーム18の更新ヒューリスティックの限定も、そのクレームの要素の被告の侵害とされることに関して、重大な事実問題についての真正な争点を提示している。Storer、 960 F.Supp. at 514参照。Zoomは、サマリジャッジメントを求める今回の申し立ての根拠を、クレーム18の更新ヒューリスティックの限定に関するその主張にのみ置いており [*5]、本法廷に、削除法に関する判断を再検討することは求めていない。
Storer特許の5つの独立クレームのうち4つ(非侵害のサマリジャッジメントがすでに下された4つ)は、現在一致しているものの使用中のプレフィックスすべてに、最後に一致したものを接続することにより、ディクショナリーにN個の新しい項目を加えるための「更新手段」を説明している。注2 明細書は、AP(All Prefixes)ヒューリスティックとしてこの新規な更新手段に言及している。5番目の独立クレームであるクレーム18は、1)「上記のディクショナリー手段の更新」と、2)「最後に一致した列を現在一致している列に接続する」ための「更新手段」について、より広範囲に語っている。注3
APヒューリスティックに関して、Zoomは文言でも、均等論の下においても特許侵害をしていないとの本法廷の判断にも関わらず、原告はクレーム18のこの要素が、侵害に関する重大な事実問題についての真正な争点を生じるほど十分に広いと主張する。ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームを規律する法律の下では、本法廷はクレーム18の更新ヒューリスティックの限定を広く解釈し過ぎており、適切に解釈すれば特許侵害の認定は排除されるとZoomは主張する。
U. 関係の法的基準
特許クレームの解釈は、裁判所が判断する法律問題である。Markman v. Westview Instruments, Inc.,52 F.3d 967, 979(連邦巡回裁判所、1995)(大法廷)、上訴棄却、 U.S., 116 S.Ct. 1384, 134 [*7] L.Ed. 2d 577(1996)。クレームが、何らかの機能を達成する具体的な構造の説明なしに、単に機能を行うための「手段」を説明するとき、そのクレームは35 U.S.C.第112条第6パラグラフの要件に服する。注4 Cole v. Kimberly-Clark Corp., 102 F.3d 524, 532(連邦巡回裁判所、1996)参照。かかるクレームは、説明されている機能を実行するためのすべての考えうる手段を対象とするように解釈してはならず、むしろ、「特許明細書に示されている実際の手段に「均等」な手段のみに限定」しなければならない。Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chem., U.S. , 117 S.Ct.1040, 1048(1997)。
ミーンズ・プラス・ファンクションの文言侵害は [*8]、慣習的方法で判断されが、「告発された装置が(1)手段限定で説明されたのと同一の機能を実行し、(2)明細書で開示されたものと同一の構造または均等な構造を使って、その機能を実行するものでなければならない」。Caroll Touch, Inc. v. Electro Mechanical Sys., Inc., 15 F.3d 1573, 1578(連邦巡回裁判所、1993)。
B. Braun Medicalにおける連邦巡回裁判所の最近の意見は、「明細書で開示された構造は、明細書または審理経過が明確に、その構造をクレームで説明された機能に関連付けている場合にのみ、「対応する」構造である」ことを、明白にした。124 F.3d at 1424。別の言葉で言えば、特許のクレームの中で「ミーンズ・プラス・ファンクション」表現を使う出願者は、その表現によって何が意味されているのか、適切に開示し、発明を「特に指摘し明瞭にクレームし」なければならない。35 U.S.C.@112, P2。In re Donaldson Co., 16 F.3d 1189, 1195(連邦巡回裁判所、1994)(大法廷)参照。
本法廷が直面する問題は、Storer特許の明細書が、Zoomが侵害しているかもしれない構造を開示しているか否か、そして特許内の内部証拠が、その構造をクレーム18で説明されている機能と明確に関連付けているか否かである。[*9]
V. 分析
Storer特許のクレーム18は、紛争対象の要素に関して、以下の表現を含んでいる:
そこに記憶された上記の複数の列が、上記の文字ストリームにしばしば存在する文字列を含むように、上記エンコーダー・モジュールと上記デコーダー・モジュール内で、上記ディクショナリー手段を更新し、最後に一致した列を現在一致している列と接続するための更新手段
本法廷は、頻繁に使用される列を含み、また最後に一致したものを現在一致したものに接続するようなディクショナリーを更新する構造を、明細書の中に発見できるか試みなければならない。
明細書がかかる構造を開示していることに疑問はない。明細書は、Storer特許が付与された時に先行技術でよく知られていた、多くの実用的な更新技術を開示している。その技術の中には、1985年の「データ圧縮のためのテキスト置換技術」という題名のStorerの論文に含まれているものがある。明細書はさらに、次のように開示する:
この知られているStorerの技術では、エンコーダーとデコーダーが提供され、それぞれが定められた有限のメモリーをもつ。「ディクショナリー」とも呼ばれるこのメモリー [*10] は、有限個の項目を含むよう改変されている。各項目はそれに付随する独自のポインターをもっている。エンコーダーとデコーダーのディクショナリーは、同一の情報を含むように、始めに初期化される。そしてエンコーダーは、以下の段階を永久に繰り返す。
(1) エンコーダーのディクショナリーの項目に一致するインプット・ストリームの最長文字列を見付ける。
(2) 一致した項目に付随するポインターを送る。
(3) ディクショナリーを更新する。
(a) ディクショナリーが一杯のときは、項目を1つ削除する。
(b) 現在一致しているものを加える。
同様に、デコーダーは以下の段階を永久に繰り返す。
(1) エンコーダーが送ったポインターを受け、デコーダーのディクショナリーの中で、そのポ
インターに付随する項目を探す。
(2) そのポインターに付随する項目をアウトプットする。
(3) ディクショナリーを更新する。
(a) ディクショナリーが一杯のときは、項目を1つ削除する。
(b) 現在一致しているものを加える。
明細書から引用されたこの一節は、特にクレーム18の更新手段要素で説明されている機能を実行する手段を特定している。エンコーダーとデコーダーはともに、明示的に [*11]、「ディクショナリーを更新し」、ともに「現在一致しているものを加える」。したがって、更新機能も接続機能も達成されている。
残る唯一の問題は、「明細書または出願経過が明確に、1985年のStorerの構造をクレーム18で説明されている機能と関連付けている」か否かである。B. Braun Medical, 124 F.3d at 1424。もし関連付けているならば、文言侵害についての真正な争点が間違いなく生じる。実際、本法廷はすでに、両当事者がFCヒューリスティックの説明にこの一節の説明を使っており、1985年のStorerの論文によって説明された構造が、FCヒューリスティックを可能にしていることに着目した。Storer, 960 F.Supp. at 507。この証拠は侵害の認定を支持するので、もしクレーム18が1985年のStorerの構造を含んでいるのなら、Zoomはそのサマリジャッジメントを求める申し立てで、勝訴することはできない。
Zoomは、問題の構造は、発明自体の詳しい説明の中ではなく、先行技術の議論の中にのみ登場しているので、関連性はないと主張する。実際、明細書は明示的に、以前の先行技術の参照と新規のAPヒューリスティックとを区別している。Zoomは、Sofamor Danek Group, Inc., v. DePuy-Motech, Inc., 74 F.3d [*12] 1216(連邦巡回裁判所、1996)を引用し、もし明細書が構造を開示し、先行技術と比べたときのその構造の利点を指摘しているならば、先行技術はミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム要素に対応することはできないと論じる。
Zoomの議論は、関連要件もクレーム18の主要点も誤解している。明細書の中の先行技術の参照により、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの欠けている構造を提示できるばかりでなく、クレーム18は、明細書が先行技術から区別するAPヒューリスティックとはまったく異なる更新手段を説明している。
予備的な事項として、先行技術の参照は、特許クレームの要素となることは確定している。たとえばIntel Corp. v. United States Int'l Trade Commission, 946 F.2d 821, 842(連邦巡回裁判所、1991)(「クレーム限定は、特に組合せ特許においては、先行技術に基づき読むことができ、しばしばそう読まれる」);Panduit Corp. v. Dennison Mfg. Co., 810 F.2d 1561, 1575(連邦巡回裁判所、1987)(「ほとんどすべての発明が、必然的に従来の要素の組合せである」);Medtronic, Inc. v. Cardiac Pacemaker, Inc., 721 F.2d 1563, 1566(連邦巡回裁判所、1983)(同上)参照。
さらにSofamorは、この規則はミーンズ・プラス・ファンクション・クレームの要素を解釈する際には変わるべきだと考える理由を提供しない。[*13] その訴訟では、解釈されるミーンズ・プラス・ファンクションの要素は、組合せクレーム中の新規な要素であった。特許明細書は、対応する構造を、開示されている先行技術に対する改良として説明していた。裁判所は、先行技術の構造とクレーム要素の関連が不適切であったからではなく、出願者が明示的にその新規性を否認していたので、開示されていた先行技術は、ミーンズ・プラス・ファンクション要素には対応できないと判断したのである。
逆に現在の紛争には、新規でないクレーム要素が関与している。クレーム18の更新手段要素は、他の独立クレームのより狭い更新手段要素とは異なり、組合せの中での新規な要素を提示していない。実際、クレーム18の他の要素の多くも、先行技術を組み入れている。明細書は明確に、削除手段に新規性を主張している。特許の請求範囲及び侵害から保護するのは組合せであり、個々の要素ではない。
また、1985年のStorerの構造は、クレーム18の更新手段要素に説明されている機能を実行できたとしても、明細書はAPヒューリスティックが、クレームされた発明であると明確かつ確定的に特定しているので [*14]、この分野で通常の熟練者ならば、それが唯一のクレームされた構造であると結論付けると、Zoomは論じる。本法廷は同意しない。明細書は同じ表現でAPヒューリスティックを説明しているので、APヒューリスティックは、「N個の新しい列」限定を含むクレームに確定的に関連付けられている。しかしクレーム18は「N個の新しい列」を含んでいないので、クレーム18との関連付けは、Zoomが主張するほど明確かつ確定的ではない。
実際、クレーム18の更新手段要素と他の独立クレームとを比較すると、表現が完全に異なることが明らかになる。異なるクレームでの異なる利用は、異なる意味をもつと推定される。Tandon Corp. v. United States Int'l Trade Comm'n, 831 F.2d 1017, 1023(連邦巡回裁判所、1987)。クレーム18の更新手段要素の最も自然な解釈は、それがAPヒューリスティック以外の構造に対応するというものである。この分野で通常の熟練者なら、1985年のStorerの技術が、そのような対応する構造の1つであると認識するのに困難はないであろう。
1985年のStorerの構造が、クレーム18の更新手段要素に明確に関連付けられているという判断は [*15]、B.Braunでの教訓と完全に合致している。その訴訟において裁判所は、横断棒構造と説明された機能との間の明示的な関連とは異なり、バルブ・シートは図の中でのみ開示されており、バルブ・シートが説明された機能を実行できるという明確な指摘は与えられていないので、医療装置のバルブ・シート構造は、問題のクレーム要素には明確に関連付けられていないと結論付けた。B.Braun, 124 F.3d at 1424-25。明細書が機能を実行するものとして一方のみを開示しているときに、説明されている機能を装置の2つの異なる部分に割り当てるという試みを裁判所が棄却したのは適切であった。
本訴訟では、1985年のStorerの構造は、文書による明細書で完全に開示されており、その構造は説明された機能を実行すると明確に指摘されている。注意深い特許の検討により、1985年のStorerの構造が、クレーム18の更新手段要素で説明されている機能に対応することが明らかになる。
W. 結論
本法廷は、1985年のStorerの技術という形で特許明細書に開示された構造は、クレーム18の更新手段要素で説明されている更新および接続機能 [*16] に明確に関連付けられていると結論付ける。したがって1985年のStorerの技術は、35 U.S.C.第112条第6パラグラフに基づき、その要素の説明された手段に対応する。また本法廷は、クレーム解釈に基づき、クレーム18のZoomによる侵害に関して、重大な事実問題についての真正な争点があるとも判断する。したがって、提示された主張と該当する法的基準の注意深い再評価の後、クレーム18とその従属クレーム54に関する非侵害のサマリジャッジメントを求めるZoomの申し立ては棄却される。
以上の通り命令される。
WILLIAM G. YOUNG
連邦地方判事
注1 原告は自発的に、1997年12月12日のHayesに対する請求を取り下げた。
注2
Storer特許の独立クレーム1、19、35および55は、更新ヒューリスティックを説明するのにほとんど同一の表現を使っている。クレーム1で代表すると、
現在一致しているものそれぞれに対して、上記の最初のディクショナリー手段にデータ文字のN個の新しい列を加えるための最初の更新手段。ただしNは、その現在一致しているものの文字数に等しく、そのN個の新しい列が、上記の現在一致しているものの使用中の各プレフィックスと接続された最後の一致したものを構成する。[*6]
注3
クレーム18の関係する部分は、次のように説明する。
そこに記憶された上記の複数の列が、上記の文字ストリームにしばしば存在する文字列を含むように、上記のエンコーダー・モジュールと上記のデコーダー・モジュール内で上記のディクショナリー手段を更新し、最後に一致した列を現在一致している列と接続するための更新手段
注4 「組合せに対するクレーム中の要素は、記された機能を達成する構造、材料または行為の説明なしに、その機能を実行するための手段または段階として表現することができ、かかるクレームは、明細書で説明されている対応する構造、材料もしくは行為、またはその均等物を対象とするように解釈するものとする。