原告XEROX CORP. 対 被告3 COM CORPORATION, U.S. ROBOTICS CORPORATION, U.S. ROBOTICS ACCESS CORP. および PALM COMPUTING, INC.
97 - CV - 6182T (F)
ニューヨーク州西部地区合衆国地方裁判所
2000 U.S. Dist. LEXIS 10028; 55 U.S.P.Q.2D (BNA) 1108
2000年6月6日、決定
2000年6月6日、原本提出
処分: [*1] 部分的サマリジャッジメントを求める原告の申立て棄却、非侵害のサマリジャッジメントを求める被告の反対申立て許可、他のすべての係属中の申立ては争訴性なしとして棄却、訴訟全体は却下
主要用語: 記号、特許、ユニストローク、ストローク、空間的、図的に、サマリジャッジメント、発明、再審査、明細書、確定的、侵害する、侵害、グラフィック、アルファベット、使用者、面、ペン、区分、スペース、持ち上げる、一画、文言的に、法律問題、一画、曖昧さ、正しく、禁反言、審査官、特許権者
弁護士:
原告XEROX CORPORATION側: Harry P. Trueheart, III弁護士、Richard D. Rochford弁護士、Michael F. Orman弁護士、Nixon, Peabody法律事務所、ニューヨーク州ロチェスター
原告XEROX CORPORATION側: James A. Oliff弁護士、Darle M. Short弁護士、Edward P. Walker弁護士、Michael S. Culver弁護士、Richard E. Rice弁護士、Christine M. Hoeft弁護士、Oliff & Berridge法律事務所、バージニア州アレキサンドリア
原告XEROX CORPORATION側: Kathleen Helmann弁護士、Oliff & Berridge法律事務所、バージニア州アレキサンドリア
被告U.S. ROBOTICS CORPORATION, U.S. ROBOTICS ACCESS CORP., PALM COMPUTING, INC., 3 COM CORPORATION側: Joseph A. Regan弁護士、Faraci, Lange弁護士、John, Regan & Schwarz法律事務所、ニューヨーク州ロチェスター
被告U.S. ROBOTICS CORPORATION, U.S. ROBOTICS ACCESS CORP. 側: Bradley J. Hulbert弁護士、James C. Gumina弁護士、Curtis J. Whitenack弁護士、Christopher M. Cavan弁護士、Paul H. Berghoff弁護士、George I. Lee弁護士、McDonnell, Boehnen, Hulbert & Berghof法律事務所、イリノイ州シカゴ
被告U.S. ROBOTICS CORPORATION, U.S. ROBOTICS ACCESS CORP. [*2], PALM COMPUTING, INC. 側: Thomas E. Wetterman弁護士、McDonnell, Boehnen, Hulbert & Berghof法律事務所、イリノイ州シカゴ
被告PALM COMPUTING, INC.側: Bradley J. Hulbert弁護士、James C. Gumina弁護士、Curtis J. Whitenack弁護士、Christopher M. Cavan弁護士、McDonnell, Boehnen, Hulbert & Berghof法律事務所、イリノイ州シカゴ
被告3 COM CORPORATION側: Bradley J. Hulbert弁護士、James C. Gumina弁護士、Curtis J. Whitenack弁護士、Paul H. Berghoff弁護士、George I. Lee弁護士、McDonnell, Boehnen, Hulbert & Berghof法律事務所、イリノイ州シカゴ
裁判官: MICHAEL A. TELESCA、合衆国地方裁判所判事
意見者: MICHAEL A. TELESCA
意見: 決定および命令
序文
原告Xerox Corp.(「Xerox」という)は、米国特許第5,596,656号(「第¢656号特許」という)として特定されているXeroxの特許を、被告が故意に侵害し、侵害し続けているとして提訴する。原告は係争対象製品は法律問題として同特許を侵害していると論じ、部分的サマリジャッジメントを求める。被告は非侵害のサマリジャッジメントを求める反対申立てをする。原告は、被告が反対しない、訴状の修正の申立てもする。
下記の理由により、部分的サマリジャッジメントを求める原告の申立ては棄却され、[*3] サマリジャッジメントを求める被告の反対申立ては認められ、他のすべての係属中の申立ては争訴性なしとして棄却され、訴訟全体は却下される。
背景
Xeroxは、1997年1月21日に交付された、「手書き文字のコンピューターによる解釈のためのユニストローク」という表題の第¢656号特許の所有者である。この発明は、手書き文字のコンピューターによる識別のための、一画の記号を使った文書入力システムに関するものである。パロアルト研究センター(「PARC」)のXerox社員David Goldbergは、文書入力にキーボードではなく鉄筆を利用し、コンピューターと関連して使用する、一画記号のシステムを発明した。一般に大部分のペン使用のコンピューターは手書き文字の識別をするが、主として文字の類似性および使用者の筆跡の曖昧さのために、コンピューターはローマ字の入力を正しく解釈する能力をもっていないので、誤認率が高くなる。Goldbergの発明では、コンピューターは専用の一画記号を容易に解釈でき、ペンを持ち上げるとすぐに解釈するので、誤りが少なくなる。
原告は、被告はこの発明を作り使用し販売することにより、第¢656号特許を故意に侵害し [*4] 侵害し続けていると主張して、1997年4月28日にこの訴訟を開始した。係争対象製品は、被告が生産し販売している「PalmPilot」という携帯コンピューター(「Palm」という)であり、その「Graffiti」ソフトウェアの中で「ユニストローク技術」を使用しているとして提訴されている。被告は第¢656号特許の無効性と実施不能性、および非侵害を含む、さまざまな積極的抗弁を提起した。
本法廷は1998年9月29日付けの決定および命令によって、当該特許は従来の公衆による使用によっては無効とならないと認定し、サマリジャッジメントを求める被告の申立てを棄却し、部分的サマリジャッジメントを求める原告の反対申立てを認めた。本法廷の決定が下された後、被告は、特許商標庁(「PTO」という)による当該特許再審査の要請を提出した。1999年1月14日、PTOは、Xeroxの第¢656号特許の再審査を求める3 Comの要請を認めた。すべてのクレームを無効と認定したPTOによる最初の拒絶通知の後、本法廷は、本訴訟のすべての手続の一時停止を命令した。PTOはその後、その再審査を終了し、当該特許の16すべてのクレームを認めた。[*5] その後本法廷は一時停止を解除し、両当事者は侵害に関するサマリジャッジメントを求める現在の申立て、および第¢656号特許の有効性に関するサマリジャッジメントを求める他の5つの申立てを提出した。Xeroxはまた、Palm, Inc.を被告に加える、訴状の修正のための、異議を唱えられていない申立ても提出した。
本法廷に提起されている争点は、Graffitiソフトウェアを使った被告のPalm Pilotが、法律問題として、第¢656号特許「ユニストローク」のクレームを侵害しているか否かである。
議論
サマリジャッジメントの基準
「特許訴訟におけるサマリジャッジメントの適切さは、他の訴訟の場合と同様である」。Desper Products, Inc. 対QSound Labs, Inc., 157 F. 3d 1325, 1332(連邦巡回、1998)。サマリジャッジメントは、「重大な事実に関して真正な争点がなく.... 申立て側が法律問題としての判断を受ける権利をもつときに」適切となる。連邦民事訴訟規則56 (c)。この目的において裁判所は、すべての妥当な推論を、被申立て側に有利に行なわなければならない。全般的には、Anderson 対Liberty Lobby, Inc., 477 U.S. 242, 255, 91 L. Ed. 2d 202, 106 S. Ct. 2505 (1986) 参照。
A. 文言侵害
特許の文言侵害は [*6]、クレームに記されているすべての限定が提訴された装置に見出だされる場合に、つまり適切に解釈されたクレームが提訴された措置に正確に「読み取られる」場合に、存在する。Amhil Enterprises Ltd. 対Wawa, Inc., 81 F. 3d 1554, 1562(連邦巡回、1996)。係争対象製品が特許クレームを文言侵害しているか否かの判断は、2段階分析によってなされる。第一に裁判所は特許クレームを解釈し、クレームの範囲と意味を決定しなければならない。Desper Prods., Inc. 対QSound Labs., 157 F. 3d 1325, 1332(連邦巡回、1998)。クレーム解釈は、裁判所が判断すべき法律問題である。Markman 対Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370, 134 L. Ed 2d 577, 116 S. Ct. 1384 (1996)。次に裁判所は、係争対象製品がクレームを文言的にまたは均等論の下で侵害しているか否かを判断するため、それを適切に解釈されたクレームと比較しなければならない。Southwall Tech., Inc. 対Cardinal IG Co., 54 f. 3d 1570, 1575(連邦巡回、1995)。侵害判断は事実問題である。同上。
提訴された装置に、クレームの要素または限定が1つでも欠如していれば、法律問題として侵害はありえない。[*7] 同上。したがって、合理的な陪審でも、適切に解釈されたクレーム中に記されている各用語および限定が、係争対象製品の中に見出だされるか否かを認定できないと裁判所が判断した場合には、サマリジャッジメントは適切である。同上; Bai 対L & L Wings, Inc., 160 F. 3d 1350, 1353(連邦巡回、1998)。係争対象製品の関係する作動が争点ではない場合には、侵害分析は一般にクレーム解釈審査に還元され、それはサマリジャッジメントの対象となりうる法律問題になる。Desper, 157 F. 3d at 1332 - 33; K - 2 Corp. 対Salomon S.A., 191 F. 3d 1356, 1362(連邦巡回、1999)。
1. クレーム解釈
クレーム内の技術用語を含む特許クレームの解釈は、裁判所の排他的領域内にあり、法律問題として決定されなければならない。Markman対Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370, 134 L. Ed. 2d 577, 116 S. Ct. 1384 (1996)。裁判所がクレームの適切な解釈を決定する際には、特許クレーム自体、特許明細書および特許の審査経過を含む、裁判所が指針として適切に利用しうるさまざまな根拠がある。Vitronics Corp. 対Conceptronic, Inc., 90 F. 3d 1576(連邦巡回、1996)[*8]。
クレーム解釈分析の出発点は、特許クレーム自体の用語である。裁判所は、特許を付与された発明の範囲を定めるために、主張されているクレームもされていないクレームも見なければならない。Victronics, 90 F. 3d 1576, 1582。一般にクレームの用語は、特許権者が特許明細書または審査経過においてその用語に明確に別段の意味を与えていない限り、その通常の慣習的な意味を与えられなければならない。K - 2 Corp. 対Salomon S.A., 191 F. 3d 1356(連邦巡回、1999)。
さらに、「発明者が何らかの用語を通常の意味と合致しない態様で使用したかを判断するには、常に特許明細書を検討する必要がある。明細書は、クレームで使用される用語を明示的に定義しているか、含意によって用語を定義している場合には、辞書として機能する。同上。実際、明細書は「常に、クレーム解釈の分析にとって非常に重要であり、通常、決定的である。争われている用語の意味にとって最も重要な指針である」。Victronics Corp. 対Conceptronic, Inc., 90 F. 3d 1576, 1582(連邦巡回、1996)。
最後に、裁判所は、証拠として提出されているならば、特許の審査経過も [*9] 検討すべきである。審査経過はPTOにおけるすべての手続の記録を含み、「しばしば、クレームの意味判断の際に決定的に重要である」。同上。審査経過は審査中に否認された解釈を排除することにより、クレームの用語の解釈を限定する。Southwall Tech., Inc. 対Cardinal IG Co., 54 F. 3d 1570, 1576(連邦巡回、1995)。
争われているクレームの用語の曖昧さが内部証拠によって解決されない場合には、裁判所は、外部証拠を使ってクレーム解釈に役立てることができる。Victronics, 90 F. 3d at 1583。外部証拠には、専門家証言、専門家または弁護士の宣誓供述書、発明者の証言、辞書および技術論文が含まれる。同上at 1584。しかし外部証拠は、裁判所がクレームの適切な理解に達する助けとしてのみ使用することができる。決して、クレーム表現や明細書の他の部分の意味を変える、または否定するのに使うことはできない。同上。
本件の場合、両当事者は、第¢656号特許のクレームにおいて、曖昧だと考える用語を指摘していない。[*10] むしろ両当事者は、特許の中の一般的限定に対して異なる解釈を主張している。審査経過(最初および再審査双方における)は、Xeroxはその特許を得るため、ユニストロークを、コンピューターによる手書き文字の解釈における多数の従来技術と区別する、第¢656号特許のクレームへのかなりの限定に同意したことを示していると、Palmは論じる。Palmは、当該特許の4つの独立クレーム、1、10、12および16は、各クレームで表現は異なるがすべて、同一の4つの限定を含んでいると主張する。即ち、(1) 完全に一画の記号、(2) 記号の図的分離、(3) 記号の確定的識別、および (4) 空間的独立性である。
Palmは特許を狭く読み過ぎており、2つの基本的な要素のみが侵害の認定に必要であると、Xeroxは論じる。即ち、(1) ユニストローク記号、および (2) 記号に依存しない区分である。第¢656号特許の再審査の際に、XeroxとPTOクレーム審査官は、(1) クレーム10と11のみがユニストローク記号による完全なアルファベットを必要とし、クレーム1 - 9と12 - 16はそうではなく、(2) 「ユニストローク記号」は必ずしも、特許の図2に示されている特定の記号 [*11] の正確な複製ではなく、図1に示されている形のセットでさえもなく、(3) 「ユニストローク記号」とは、ペンを持ち上げたら直ちに確定的な識別がなされるように(つまり「記号に依存しない区分」)図的に互いに十分に分離されている、一画の記号を意味すると合意したと、Xeroxは指摘する。Xeroxは、Graffitiはこれら「ユニストローク技術」独自の要素の双方(ユニストローク記号、および記号に依存しない区分)を採用しており、したがって第¢656号特許を文言的に侵害していると主張する。
a. 「ユニストローク記号」の定義
I. 完全に1つの「ユニストローク」から構成される記号
Palmは、「ユニストローク」アルファベットであるためには、すべてのアルファベット文字が、切れ目のない一画によって作られなければならないと論じる。Graffitiのアルファベットは、「X」およびアクセント記号付きの幾つかの文字を含む、さまざまな記号を用いる。それらは記号を構成するには明らかに、2つの分離したストロークを必要とする。したがってGraffitiは「ユニストローク」アルファベットではないと、Palmは論じる。Xeroxは、Graffitiの「X」は実際は、書くのに2つのストロークを必要とする「ユニストローク」記号であると論じる。またGraffitiは、[*12] 一回の動きだけで作られる、「X」の記号を含む操作モードをもつとも論じる。Xeroxは最後に、クレーム10と11のみが、アルファベット全体がユニストローク記号であることを要求しており、クレーム1 - 9と12 - 16は、すべてではなく幾つかの記号のみがユニストロークであることを要求すると論じる。
PTOでの再審査手続中、特許審査官は、1999年5月24日の面接要録の中で、「出願者の代理人はまた、クレームされた発明は、手書きのユニストローク記号すべてが一画であることを要求していることを明確にした。たとえば <ソフトキー> 方式を使って入力される多画記号は除外されないが、クレームされたユニストローク識別方式/システムは、一画のみから構成される記号に関係する」と指摘した。(1999年5月24日の面接要録、p. 3)。特許明細書は具体的に、「ユニストローク」という用語を、「切れ目のない単一のストローク」と定義する。(第¢656号特許、第2列46行)。
「ユニストローク記号」の定義は、アルファベット全体が一画記号であることは要求しないと私は認定する。むしろXeroxが論じるように、クレーム10と11のみがアルファベット全体を要求する。しかしPTO審査官が認識したように、Xeroxのクレームされた識別方式/システムは、一画から構成される記号、[*13] つまり「ユニストローク」記号にのみ関係する。
ii. 図的分離
第¢656号特許のクレームは、記号の一対にかなりの図的重なりがあり、つまり2つの記号が似た図的座標xとyを共有しており、したがって筆跡の曖昧さのためにコンピューターが誤読しやすい記号の組は対象としないと、Palmは論じる。Graffitiのローマ字的な記号は、幾つかの記号(「O」と「Q」、あるいは「R」と「B」)が非常に似ているので、十分に「図的に分離」されていない。それらはほとんど同一のx - y座標を共有しており、コンピューターが図形化したときに相違が少ないと、Palmは主張する。
Xeroxは、記号の図的分離は第¢656号特許のクレームの限定ではないと論じる。この解釈は特許明細書および審査経過と合致しない。特許明細書は明確に、記号の図的分離が「ユニストローク記号」を定義付ける1つの特徴であることを示している。
特許権者は「発明の要約」において、「手書き文字の正確なコンピューター化された解釈に必要な、筆跡の正確さに対する図的制約を緩和するために、文書は、図的に互いに特別に分離された記号を使って、[*14] この発明に基づき書かれる」と指摘する。(第¢656号特許、第2列35 - 39行)。
発明者は「発明の背景」において、「通常のローマ字は、雑な、あるいはその他の意味で曖昧な筆跡の場合に、互いに十分に識別可能ではない.... したがって、すべての文書が、<曖昧さ空間> 内で互いからよく分離される文字を使って入力されれば、解釈される文書の入力システムの性能が改善されうることは明らかである」と認める。(第¢656号特許、第1列54 - 64行)。そしてさらに、次のように説明する:
この曖昧さ空間という概念は、各英数字は幾つかの特徴(たとえばd個の特徴)によって定義されることを認識することによって、最もよく理解される。つまり各記号は通常、ここで <曖昧さ空間> として言及されているd次元空間のある一点に存在する。このことから、アルファベット記号の通常の変種の、このd次元空間内の位置付けに生じるかもしれない重なりの程度により、これらの記号が、曖昧さ空間の中でどれだけよく分離されているかが決定されることがわかる。異なる記号の変種間に [*15] ほとんど重なりがなければ、記号は <曖昧さ空間において互いによく分離される>。
(第¢656号特許、第1列65行 − 第2列9行)。最後に、明細書の「結論」の部分で特許権者は、「ユニストローク記号は不完全に書かれた場合でも、互いに容易に区別可能である」と指摘する。(第¢656号特許、第6列57 - 58行)。
さらに第¢656号特許の最初の審査中、XeroxはWhitakerの従来技術を、Whitakerの記号は図的によく分離されていないと論じ(「7」と「15」に対するWhitakerの記号を指摘)、「ある種の記号に対する図的仕様間にかなりの重なりがある」と指摘して、「図的分離」を根拠にユニストロークから区別する。(Xerox 1996年1月23日付け情報開示書p. 3、第2項)。
第¢656号特許の再審査中、Xeroxは、「ユニストローク」の特徴の1つが、「ユニストローク記号は、各記号が書かれた後で [*16]、たとえばペンを持ち上げたすぐ後に、ありうる次のストロークを待つようにシステムに要求せずに、確定的識別がなされうるように、互いに図的に十分に分離された(英数字または特定の機能を表わす)一画の記号である」ことも明確にした。(1999年5月24日の審査官との個人面接の特許権者による要録、p. 2)。
さらに、第¢656号特許の一部ではないが、第¢656号特許の再審査を通過させた審査官でもあったPTOの審査官Larry Prikockisが、同じ日に、PalmによるGraffitiに対する特許出願を検討し、第¢656号特許を具体的に区別し、次のように述べた:
Goldberg[第¢656号特許]は、図的によく分離されている入力記号のセットを教示しクレームし、互いに図的によく分離されていないローマ字に実質的に基づく入力記号のセットから区別されることが合意される。
(1999年11月18日の面接の、GraffitiのPTO審査官による要録)
本訴訟の文脈でも、Xeroxは、「図的分離」は「ユニストローク記号」の1つの定義要素であると認めた。たとえば第¢656号特許を扱ったXeroxの特許弁護士Thomas Websterは、彼の証言録取書の中で、3つから4つの要素 [*17] が「ユニストローク記号」の定義要素に入ると、次のように証言した:
それは記号である。第二に、それはユニストロークである。第三に、手書き文字の識別のためにコンピューターに文書を入力するように設計されている。そして第四に、記号が完成したら直ちに識別できるように、それぞれの記号が、互いに図的に十分に異なっている。
(Thomas Websterの1999年3月30日の証言録取の記録)(強調追加)
したがって「ユニストローク記号」の定義には、不完全に書かれた場合でも記号の完成時に記号の明確な識別がなされるように、記号が図的に互いによく分離されていなければならないという「図的分離」の限定が含まれると、私は認定する。
ユニストローク記号の明確な識別
「ユニストローク記号」の定義は、使用者がペンを持ち上げたら直ちにコンピューターが確定的かつ最終的に記号を識別することを要求すると、Palmは論じる。Graffitiは「確定的識別」を採用しない、Graffitiはペンを持ち上げたら直ちに何らかの記号を暫定的に認識するが、確定的な識別がなされる前に記号の意味を変更するために、[*18] 使用者が追加のストロークを加えるか否かを見るために待たなければならないと、Palmは論じる。つまりGraffitiの使用者は、追加のストロークをGraffitiの記号に加え、コンピューターによる記号の解釈を変更することができる。たとえばGraffitiの使用者は、「A」の記号のストロークを引き、ペンを持ち上げ、「A」を「M」に変える第二のストロークを加えることができ、コンピューターは識別をAからMへ正しく変更する。ユニストロークにおいては、ペンを持ち上げるとコンピューターは直ちに記号を認識し解釈し、記号は他のストロークを加えて変更あるいは修正ができないとPalmは論じる。
Xeroxは、ペンを持ち上げた時点での最終的で変更不能な識別を要求するという、「確定的識別」のPalmによる解釈は、誤ったクレーム解釈に基づくと論じる。「ユニストローク記号」が、「かかる各記号が書かれた後に、たとえばペンを持ち上げると直ちに、確定的な識別がなされるように、互いに十分に図的によく分離された」と定義されている文脈では、各記号は、システムの他の入力記号 [*19] 「明確に区別される」ことのみが要求されると、Xeroxは主張する。Xeroxは、ユニストローク記号は制御機能(モード・シフトなど)(第¢656号特許、第3列40 - 63行)のために使うことができると教示している特許明細書を指摘する。そしてXeroxは、クレーム用語「ユニストローク記号」は、ペンを持ち上げたときにシステムが最終的かつ変更不能な識別に達することを要求しないと論じる。
「確定的識別」に対するXeroxが提案する解釈は、審査経過中に主張した解釈とは合致しない。PTOでの再審査 手続中、Xeroxは、「ユニストローク」の特徴の1つは、「ユニストローク記号が、かかる各記号が書かれた後に、ありうる次のストロークを待つようにシステムに要求せずに、たとえばペンを持ち上げると直ちに、確定的な識別がなされるように、互いに十分に図的によく分離された(英数字または特定の機能を表わす)一画の記号である」というものであると明確にした。(1999年5月24日の審査官との個人的面接の特許所有者による要録、p. 2)(強調追加)。
実際、Xeroxは、第¢656号特許の再審査中に、同様の根拠で従来技術のSklarew特許との区別をした。一画記号の他に多画記号も組み入れるように設計されており、したがって、第¢656号特許のユニストローク記号と、記号に依存しない区分との組合せを実施していないという根拠で、XeroxはSklarewシステムを [*20] 区別した。コンピューターによる手書き文字の識別のSklarew方式は、文字として認識すべきストロークが入力された後に、必要ならば記号を完成させるために使用者が追加のストロークを加えるのに十分な時間を与えるため、コンピューターが約0.5秒待つことを要求する。PTOは、「Sklarew特許(合衆国特許第4,972,496号)などの従来技術は、記号に依存しない区分子(ペンの上下動)によりストロークを区別するが、従来技術は通常、多画文字も取り入れるように設計されているので、この操作は記号区分子には相当しない」と認定し、Xeroxに同意した。(PTO再審査証明書発行意図通知書、p. 2 - 3)。
さらに、第¢656号特許の審査経過の一部ではないが、PTOによるGraffitiの審査中の第¢656号特許との区別に関するPTO審査官Larry Prikockis(第¢656号特許の再審査も行なった)のコメントを指摘することも興味深い: [*21]
Goldberg(第¢656号特許)は、クレームされた発明 [Graffiti]、Sklarewおよび最初は一文字として識別された幾つかのストロークは、その後の(つまり「文字後の」)ストロークによって修正することができる。記録にあるその他の従来技術とは異なり、各ストロークを書いた後にペンを持ち上げた時点で常に最終的識別に達する(つまり、各記号はペンを持ち上げたときに最終的に識別され、その後のストロークによって修正することはできない)システムを教示しクレームする.... 審査官および出願者の代理人はまた、Goldbergは、最初のストロークに基づく識別結果を、その後のストロークに基づく別の文字に変更する(単なる編集とは異なり)ことができる手書き文書解釈のシステムまたはプロセスから区別されることに合意した。
(1999年11月18日の面接の、GraffitiのPTO審査官による要録)。
「ユニストローク記号」の定義は、区分後、たとえばペンの持ち上げ後、即時の記号の確定的識別を要求すると、私は認定する。私はさらに、「確定的識別」は単に「明確な区別」を指しているのではなく、むしろ、ありうる追加のストロークを待つことをシステムに要求せず、区分(たとえばペンの持ち上げ)後直ちにコンピューターが記号の最終的かつ変更不能な解釈(識別)を [*22] 行なえることを要求していると認定する。
b. 「ヘッド・アップ」/「アイ・フリー」書き込み;「記号の空間的独立性」が伴う「記号に依存しない区分」
ユニストロークの「空間的独立性」限定は、書き込み面上の書かれた場所や互いの関連とは無関係に記号が識別され、「ヘッド・アップ」書き込みが可能であることを要求するとPalmは論じる。Palmは、書き込み面上の書かれた場所に依存して、正確に同一である記号が異なって解釈されるので、Graffitiは「ヘッド・アップ」ではないと主張する。記号は文字として認識されるには、書き込み面の左側に書かれなければならない。書き込み面の右側に書かれた正確に同一である記号は数字として認識される。被告はこの分割画面技術に関して特許を取得した。
Xeroxは、ユニストロークのこの空間的独立性は、特許クレームのいずれに対する別個の限定ではなく、むしろクレームされた区分操作の一部であり、第¢656号特許が要求しているのは、区分操作がユニストローク記号を [*23]、「互いの空間的関係とはまったく独立に、それとは無関係に」互いから区別しなければならないということだけであると論じる。したがって、被告による別個の書き込み領域の追加は、ペンの持ち上げ区分とは「何の関係もない」とXeroxは主張する。しかしXeroxが提示する解釈は、特許そして審査経過が認めるものよりも幅広い。
第¢656号特許の4つの独立クレームすべての表現は、ユニストローク記号は「互いの空間的関係とはまったく独立に、それとは無関係に、互いに」区別されることを要求している。(第¢656号特許、第7列18 - 21行; 第8列45 - 48行、第9列3 - 6行および第10列17 - 20行も参照)。
審査経過は、この「空間的独立性」要件の意図された意味に関して、意味のある指針を提供する。第¢656号特許の再審査時にPTOの特許審査官は、発明の「決定的特徴」の1つは、「ユニストロークでの識別は空間的に独立である、つまり記号はどの位置にも、他の記号の上にさえも書くことができ、それでも適切に識別される」と指摘した。(1999年5月24日の面接の審査官による要録、[*24] p. 2)(強調追加)。1999年5月24日のPTO面接のXeroxによる要録は、ユニストロークの発明の「特徴」には、「.... ユニストローク記号の区分は空間的に独立である、つまりユニストローク記号は以前のユニストローク記号が書かれた場所に無関係に書くことができ(好適な実施例では、記号は他の記号の上に書くこともできる)、それでも適切に識別され認識される」ことが含まれることを、明確にしている。(Xeroxによる1999年5月24日の面接要録)(強調追加)。
第¢656号特許の明細書も、「空間的独立性」の意味に関して指針を提示している。特許権者は「発明の分野」の部分で、「この発明は.... 「アイ・フリー」(たとえば「ヘッド・アップ」)のアプリケーション、そして連続的に手で入力される英数字を空間的に区別することが不便または非現実的な他のアプリケーションにとって、特に適している」と指摘する。(第¢656号特許、第1列8 - 14行)。「好適な実施例の詳しい説明」も、「ユニストローク記号は書かれた順番に解釈され、ストロークが別個であることで互いに明確に区別されるので [*25]、他の記号の上にも書くことができる」と指摘する。(第¢656号特許、第6列16 - 20行)。
さらにXeroxは最初の特許審査中、従来技術から区別するために、ユニストロークは特に「2」と「8」に対するWhitakerの記号を示して、Whitakerの記号の幾つかはいわゆる「文字空間」内の位置付けのみが異なるので、従来技術のWhitakerシステムとは異なると論じた。(Xeroxによる1996年1月23日の情報開示書、p. 3、第2項)。Whitakerにおいては、「2」と「8」に対する記号は同一だが、正しく識別するには「文字空間」の異なる領域に書かれなければならない。「2」と認識されるためには記号は第一象限に、また「8」と認識されるためには第二象限に書かなければならない。Whitakerでは記号を、使用者がコントロールする予め決められた、記号に依存しない区分操作によってではなく、互いの空間的関係に基づき区分しているように見えるとXeroxは論じる。(Xeroxによる1996年1月23日の情報開示書、p. 3、第2項)(強調原文)。特許を得るための1996年のPTOに対するXeroxの主張は、Xeroxが現在主張している解釈とは [*26] 合致しない。
「空間的独立性」は、第¢656号特許の4つの独立クレームすべての限定であると、私は認定する。私はさらに、「空間的独立性」は、以前の記号が書き込み面のどこに書かれるかとは無関係に、発明品が記号を適切に識別し認識することができることを要求すると認定する。
第¢656号特許は係争対象製品に読み取れるか
私は適切に解釈された特許クレームを提訴された装置に適用し、Palm PilotのGraffitiプログラムは、第¢656号特許を文言的に侵害していないと認定する。
第一に、Graffitiの記号は、当該特許の4つの独立クレームすべての要件に基づき「ユニストローク記号」となるほどには、互いに十分に「図的に分離」されていない。少なくともGraffitiの記号の2つの組、「O」と「Q」の記号、および「B」と「R」の記号は、図的に極めて類似している。これらのGraffitiの記号は、Xeroxが従来技術を越えるために特許審査中に区別した「7」と「15」に対するWhitakerの記号よりも、明らかに図的に分離されていない。したがって、不完全に作られた場合でも記号の完成時に直ちに明確に識別できるほど十分には、互いに図的によく分離されていないので [*27]、Graffitiの記号は「ユニストローク記号」の定義内に入らない。
第二に、Graffitiは使用者によるペンの持ち上げ後直ちには、記号の「確定的識別」をしない。Graffitiは、ペンの持ち上げ時に、ある種のストロークの暫定的な識別のみをする。Graffitiの使用者は、再審査 手続中にXeroxが区別をした従来技術のSklarew方式と同様に、記号を変えるために他のストロークを追加することができる。つまりGraffitiのシステムは、アクセント記号付き文字に対する記号や、a、e、i、o、uに対する記号など、ある種の記号を最終的かつ正しく識別するために、コンピューターに、ありうる追加のストロークを待つように要求する。
最後に、コンピューターは同一のGraffitiの記号を、書き込み面上の位置によって異なって識別するので、Graffitiは当該特許の4つの独立クレームすべての要件である「空間的独立性」を採用していない。たとえば使用者は、位置を気にせずに「Y2K」に対するGraffitiの記号を書き、しかもコンピューターに記号を正しく解釈させることはできない。使用者は記号の正しい識別を可能にするためには、「Y」に対する記号を書き込み面の左側に [*28]、「2」に対する記号を書き込み面の右側に、そして「K」に対する記号を書き込み面の左側に書かなければならない。互いの位置関係を考慮せずに記号を書くことはできないので、この空間的分離という要件は、「空間的独立性」とは両立しない(たとえば他の字の上やすぐ横に書くことはできない。コンピューターに正しく識別させるには、互いの位置を分離しなければならない)。
したがって、Graffitiは第¢656号特許のクレームのいずれも、文言的に侵害していない。
提訴された装置が当該特許のクレームを文言的に侵害していないと裁判所が判断したら、分析の次の段階は、提訴された装置が等価物の法理の下で侵害しているか否かの判断である。Amhil Enterprise Ltd. 対Wawa, Inc., 81 F. 3d 1554, 1563(連邦巡回、1996) [「第¢244号特許の文言侵害がないと判断した後で、地裁は、[*29] 等価物の法理の下での侵害の有無の判断に正しく進んだ」]。この法理の下では、特許の明示的用語を文言的に侵害していない製品やプロセスでも、係争対象製品の要素と、特許を受けた発明のクレームされた要素との間に「等価性」があるならば、侵害を認定されることがある。Warner - Jenkinson Co., Inc. 対Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S. 17, 21, 137 L. Ed. 2d 146, 117 S. Ct. 1040 (1997)。等価性は、提訴された装置とクレームされた発明との相違が「実質的でない」場合に認定されうる。Desper Prods., Inc. 対QSound Labs, Inc., 157 F.3d 1325(連邦巡回、1998)。
しかし、等価物の法理に対する有効な抗弁の1つは「審査経過の禁反言」であり、特許権者は、特許を得るために特許審査中に放棄した主題を回復するために、等価物の法理を使うことはできない。K - 2 Corp. 対Salomon S.A., 191 F.3d 1356 (連邦巡回、1999);Loral Fairchild Corp. 対Sony Corp., 181 F.3d 1313, 1322 (連邦巡回、1999) [「審査経過の禁反言の基準とは、特許権者は [*30]、特許を取得するために放棄または否認したものを、等価物の法理によって再クレームすることはできないということである」]。最高裁は、審査経過の禁反言は、等価物の法理の下での侵害に対する有効な抗弁であり続けることを確認した。Warner - Jenkinson Co., Inc. 対Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S.17, 40, 137 L. Ed. 2d 146, 117 S. Ct. 1040 (1997) [「審査経過の禁反言は、侵害に対する抗弁として利用可能であり続ける」]。
審査経過の禁反言は、特許性の拒絶を克服するための修正の結果として放棄された事項ばかりでなく、クレームの承認を得るために特許権者が行なった主張にも適用される。Wang Labs., Inc. 対Mitsubishi Elec., Inc., 103 F.3d 1571, 1578 (連邦巡回、1997) 参照。審査経過の禁反言の範囲と適用は、裁判所によって決定されるべき法的問題である。Loral Fairchild Corp. 対Sony Corp., 181 F. 3d 1313, 1323 (連邦巡回、1999); Desper Prods., Inc. 対QSOUND Labs, Inc., 157 F. 3d 1325, 1338(連邦巡回、1998)。
すでに十分に議論されたように、第¢656号特許の審査中に(最初および再審査の際に)、Xeroxは [*31] 特許を得るためにある種の従来技術を区別した。XeroxはWhitakerの従来技術を、中でも、記号の図的分離の欠如を根拠に区別した。すでに指摘したように、Graffitiの記号の幾つかの組は、少なくともXeroxが区別したWhitakerの記号と同様、図的にうまく分離されていない。XeroxはSklarewの従来技術を、ストロークのグループ分け、およびSklarewは一画記号の他に多画記号も認めているという事実を根拠に区別した。Graffitiも同様に一画記号も多画記号も認めている。Graffitiはストロークを加えることによって、すでに書かれた記号の識別を変更することができる。これはまさに、一画記号と、記号に依存しない区分との独自の組合せが、ユニストロークをSklarewから区別すると論じることによって、Xeroxが審査経過中に放棄した事項である。最後に、Xeroxは記号の「空間的独立性」の欠如を根拠にWhitakerの従来技術を区別した。やはりすでに議論したように、提訴された装置は記号の「空間的独立性」を備えていない。Whitakerと同様に、Graffitiの記号は [*32] 書き込み面上の書かれる場所に依存して(したがって、他の記号の位置に関連して)、コンピューターによって異なって解釈される。Graffitiにおいては、書き込み面の正しい領域に書かれない限り(文字は左側、数字は右側)、記号は適切に識別されない。
したがって法律問題として、審査経過の禁反言により、Xeroxは等価物の法理の下での侵害を主張することを禁じられる。第¢656号特許のクレームを認めてもらうためにXeroxが放棄した事項を、ここで再主張することはできない。係争対象製品は文言的にも等価物の法理の下でも侵害していない。非侵害のサマリジャッジメントを求める被告の反対申立ては認められる。
結論
上記の理由により、部分的サマリジャッジメントを求める原告の申立ては棄却され、非侵害のサマリジャッジメントを求める被告の反対申立ては認められ、係属中の他のすべての申立ては争訴性がないとして棄却され、本件はその全体が却下される。
上記すべてがそのように命令される。
MICHAEL A. TELESCA
合衆国地方裁判所判事
日付:ニューヨーク州ロチェスター
2000年6月6日
民事訴訟における判決
[編者注釈: [*33] これらの記号 [O> <O] 内の部分は、原典において重ね打ちされている。]
裁判所による決定: 本訴訟は本法廷の [O> 事実審理または <O] 審理に付された。争点は審理され、決定が下された。
非侵害のサマリジャッジメントを求める被告の反対申立ては認められ、本件はその全体が却下されると命令され裁定される。
2000年6月6日
日付