調査研究報告書

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ソフトウェア関連特許に関する調査研究報告書―平成17年度― (SOFTIC 17-2)

概要

 コンピューター・ソフトウェア関連発明の特許侵害訴訟について、リガンド分子探索方法事件及び著名ワープロソフト事件をとおしてソフトウェア関連特許の間接侵害の議論、電子メール関連技術及び音声信号処理技術等の特許についての事件を材料とした特許権の域外適用についての議論等、ソフトウェア関連特許の権利行使に関する問題について検討を行った。

 概要は以下のとおり。

○リガンド分子探索方法事件(東京高裁 H16.2.2判決)
 被告(被控訴人)が分子モデリング・ソフトウェア(イ号物件)が記録された媒体(ロ号物件)を輸入販売したところ、ロ号物件中のプログラムを使用する複合体探索方法(ロ号方法)が、原告(控訴人)の特許「生体高分子−リガンド分子の安定複合体構造の探索方法」の技術的範囲に属し、かつ、その媒体が「その発明の実施にのみ使用する物」に当たるとして、被告製品(媒体)の販売差止を求めた事件の控訴審判決。
 地裁では、被告製品は当該特許の技術的範囲に属さないとして棄却したが、控訴審において、被告のロ号物件には、イ号物件(プログラム自体)以外にも種々のプログラムが格納されているが、ロ号物件がイ号物件の目的である分子設計以外の目的に使用されることは実際上考えられないので、ロ号方法の実施のみに使用されるものであるとして間接侵害の成立を認めた。

○EOLAS 対 MICROSOFT事件(CAFC 05.3.3判決)
 原告(被控訴人)が独占的実施権を有するウェブブラウザに関する特許を、被告(控訴人)のインターネット・エクスプローラが侵害しているとして原告が提訴した事件。
地裁は、被告がクレーム1、6を侵害し、積極的に米国のEIのユーザによるクレーム1の侵害を誘導したとして、原告に差し止め命令を認めるものの、原告が支払う保証金が高額であることを理由に、上訴まで差し止め命令を停止するよう命じた。これに対して被告は、特許無効、不公正行為、クレーム解釈及び271条(f)項の解釈について争うとして控訴した。
  控訴裁は、被告の特許無効の主張について、ウェイがViolaのDX34バージョンの放棄、隠匿もしくは秘匿を行ったという地裁の判断は誤りであり、対称的に、ウェイは秘密保持の合意なくデモンストレーション等行っており、102条(b)の公然実施を構成しないとする地裁判断を破棄した。また、103条の非自明性についても、DX34バージョンが放棄若しくは秘匿されていないことからすると、本件特許が自明性を欠く可能性があり、陪審に判断する機会を与えなかったという点で地裁は判断を誤ったとした。クレーム解釈及び271条(f)の「特許発明の構成要素」に関する各判断は、地裁の判断を支持した。
 この結果、本事件は特許の有効性の判断が再度地裁で審理されることになった。

○ATT対Microsoft事件(CAFC 05.7.13判決)
 被告(上訴人)開発のWindowsについて、そのマスター・ディスク(ゴールデン・マスター)が各国の契約業者へ送られ、各国の契約業者がこれを複製し、各国内販売向けコンピュータにプリ・インストールする等して被告製品が作成されていた。これについて、原告(被控訴人)が保有する音声コーディングに関する特許を、国外で複製した被告製品をインストールしたパソコンが侵害するとして提訴したケース。
地裁は、ソフトウェアは271条(f)に基づく特許発明の構成要素ではないとする被告の主張を退け、米国から送付されたゴールデン・マスターから外国で作成されるコピーについては、輸出による侵害の回避を禁止する法律の目的に照らして、当該コピーは271条(f)の適用を免れないと判断した。
 控訴裁は、271条(f)は機械や物理的構造のみに限定しておらず、無形物であるソフトウェアも同規定の目的における構成要素になり得るとした。また、同規定の「合衆国もしくは海外へ供給するか供給せしめ」の解釈について、一般的にソフトウェアの販売ではコピーは重要な部分で、ソフトウェアの構成要素においてコピー行為は「供給」に含まれているから、複製されることを意図してコピーを外国に送付することは、271条(f)に基づく責任を生じさせるとし、電子的送信についても、輸出に使用される媒体には依存しないとして被告の主張を退けた。
 他方、「供給する」を普通に解釈すれば、コピーする、再生する、製造するという意味は供給には含まれず、当該コピー行為はドイツや日本など当該国の法律で救済を求めるべきであり、そうしなければ米国特許法の域外適用になるとする反対意見が述べられている。

○Business Objects 対 MicroStrategey事件(N.D. Cal., 05.7.26判決)
 リレーショナル・データベースの検索技術に関する特許について、当該特許より複雑な仕様の検索技術を用いている被告製品が侵害しているかが争われた。
 地裁は、補正された3つのクレーム解釈に均等論の適用を排除して非侵害としたが、CAFCでは、クレーム4については、範囲が縮減されたとの地裁の解釈は誤りであって均等論の適用が排除されないとして地裁に差し戻した。
 差戻審は、クレーム4についての均等論に基づく侵害の有無について、クレーム4と被疑侵害製品には本質的な相違があり、均等論によっても被疑製品は同クレームを侵害していないと判断した。

○NTP 対 RIM事件(CAFC 05.8.2判決)
 既存の電子メールシステムと無線による電子メールシステムとを統合するシステムに関する特許(Campana特許)を有する原告(被控訴人)が、被告(控訴人)提供の、無線機器を介して電子メールを送受信することができるBlackBerryシステムが、原告特許を侵害するとして提訴したケース。被告は、カナダにサーバーを設置して提供していた。
 地裁は、被告サーバーは国外にあるが、システム全体の有益な利用場所は米国内であるから、271条(a)に基づいて被告の侵害を認めた。これに対して被告が控訴した。
 控訴裁は、クレーム解釈について「originating processor」の解釈だけ地裁は誤ったとして、差し戻しの上、再度判断されるべきとした。
 侵害判断については、271条(a)における使用(use)とは、システムが全体としてサービスに供されている位置、すなわち、当該システムのコントロールがなされて、システムが活用されている場所でなされているものと解されるという判断を示し、システムクレームの陪審への説示は適切である、しかし方法クレームについては全てのステップが米国内でなされていなければならないとして侵害は成立しないと判断した。また、方法クレームの271条(f)による侵害についても、Eolas Technology事件控訴審判決は方法クレームへの適用を判断したものではないから参考にならないとして、侵害を否定とした。271条(g)についても、本件方法クレームには適用されないとした。
 よって、方法クレームについての解釈とその判断を地裁に差し戻し、その他は地裁判断を支持した。(結局、本件は2006年3月3日に最終の和解が合意された。)

○「一太郎」等特許侵害事件(知財高裁 H17.9.30)
 被告(控訴人)による日本語ワープロソフト「一太郎」及びグラフィックソフト「花子」の製造、譲渡等の行為が、原告(控訴人)の特許「情報処理装置及び情報処理方法」を侵害するとして、被告に対し差止及び廃棄を求めて提訴した。
 争点となった被告製品の画面上の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは明細書記載のアイコンに当たるかについて、地裁は「本件発明にいうアイコンとは、表示画面上に、各種のデータや処理機能を絵又は絵文字として表示して、コマンドを処理するもの」として、被告製品の「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは、本件発明のアイコンに該当すると判示した。
 高裁では、地裁と同様に構成要件充足性を肯定した上で、物の発明である請求項1及び2について間接侵害を肯定したが、この段階で新たに提出された公知文献によって進歩性を欠くため、特許権の行使は制限されるとした。また、方法の発明である請求項3については、間接侵害の成立を否定した。


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