ソフトウェア関連特許に関する調査研究報告書―平成18年度― (SOFTIC 18-3)
概要
コンピューター・ソフトウェア関連発明の特許侵害訴訟について、オンライン取引に関するソフトウェアについての一部共同侵害の議論を含む地裁のクレーム解釈を一部覆して非侵害とした米国のケース、オンライン取引のソフトウェア関連特許の侵害について、米国特許法の差止命令は常に認められるわけではないとする米国最高裁判決、図形表示装置等の特許について、被疑ゲーム機器はその技術的範囲に属しないとしたケース及び電話の通信制御システム等の特許について、当該特許は無効事由を有し104条の3によって、その権利の行使は許されないとしたケースを取り上げ、ソフトウェア関連特許の権利行使に関する問題を中心に検討を行った。各事件の概要は以下のとおり。
- Asyst Technologies 対Emtrack事件(CAFC 05.3.22)
アシスト社の「搬送可能なコンテナに直接装着された通信手段」と記載された米国特許(4,974,166、 5,097,421)について、421特許の独立クレームの1と2及び従属クレームの11から14を主張し争った。地裁は、主張されるクレームの関連する文言を解釈し、2つの特許について非侵害のサマリ判決を下した。控訴審では、地裁が一部において解釈を誤まっていたとして地裁判決を破棄し差し戻した。
差し戻し審において地裁は、主張される421特許のクレームについて再び非侵害のサマリ判決を下し、当事者の合意に従って166特許の侵害請求を棄却した。これについて控訴審は、争点になっていた2つの独立したクレームのうちクレーム1についての地裁の非侵害のサマリ判決は正しいと結論したが、2番目のクレーム2(検知手段)についての非侵害のサマリ判決は無効とし、差し戻した。
- On Demand Machine対Ingram Industries他事件(CAFC 06.3.31)
書店内に設置可能な印刷・製本装置に関するオンデマンドマシン社の米国特許5,465,213(「1冊の本のコピーを製造するシステム及び方法」、以下Ross特許)について争われた事件。地裁は、イングラム・インダストリ社等の侵害を認め、これに対し控訴した。
高裁は、陪審による侵害評決は部分的に誤ったクレーム解釈に基づいており、正しい解釈に基づいた合理的な陪審なら特許が侵害されているとの評決は下せないはずであるとし、アマゾン社の共同侵害の判断も含め、地裁判決を覆した。
- eBay他 対 MercExchange事件(米国最高裁 06.5.15)
メルクイクスチェンジ社が、オンラインで物品を売買する方法に関する3つの自社の米国特許(5845265号、6085176号及び6202051号)をイーベイ社等が侵害したとして訴訟提起した事件。
地裁は、265と176の特許についてイーベイ社等の故意侵害による損害賠償を認定したが、差止請求については、伝統的4要素テストを用いて否定した。
これに対して高裁は、265特許についての地裁の侵害判断は維持したが、差止については、例外的状況がなければ裁判所は特許侵害に対して本案的差止命令を下付するという一般原則を理由に、地裁判断を覆した。
最高裁は、差止命令について伝統的4要素テストに基づいて「当該救済の供与または拒否の決定は、地方裁判所によるエクイティ上の裁量行為」であるとし、こうした一般的な原則は特許紛争に適用され、「長い伝統のあるエクイティ上の慣行からの大きな逸脱は、軽々に暗示すべきものではない」として、控訴審判断を取り消し、差し戻した。
- タクトロン 対 任天堂事件(知財高裁06(H18).9.28)
「図形表示装置及び方法」なる特許(第2877779号)の特許権及び同特許権侵害に基づく被控訴人に対する損害賠償請求権を譲り受けたと主張する控訴人(原告)が、任天堂の携帯型ゲーム機「ゲームボーイアドバンス」が同特許を侵害しているとして、製造販売元の任天堂(被控訴人、被告)を提訴し、民法709条に基づき、一部請求として40億円の損害賠償の支払を請求した事案。
地裁は、被控訴人の製品は本件特許の技術的範囲に属させず、非侵害として請求を棄却したため、控訴人は、その取消し及び損害賠償の支払を求めて控訴した。
主要な争点は、特許請求の範囲に記載された特許発明の技術的範囲を確定する上で、明細書の詳細な説明や図面等に記載された内容を基に解釈することの適否と、被控訴人(被告)の製品が本件特許発明第1項、第2項の構成要件を充足するかであった。
控訴裁においても地裁判断と同様に、明細書の実施例の説明に記載された内容を基に特許請求の範囲の記載内容を解釈し、被控訴人の製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないとして非侵害と結論づけ、請求を棄却した。
- アロエテル 対 KDDI事件(知財高裁06(H18).12.20)
電話の通信制御システム及び電話の通話制御方法に関する本件各特許権(第2672085号、第2997709号)を有する原告が、被告が提供する国内電話及び国際電話サービスは、本件各特許権を侵害するとして、被告に対し、特許権侵害による損害賠償及び不当利得返還の請求として金30億円の支払いを求めた事案。
地裁は、本件各特許発明に係る特許はいずれも無効理由を有し、無効審判により無効にされるべきものと認められ、特許法104条の3により本件各特許権に基づく権利行使は許されないとして、原告の請求を棄却した。
高裁においても、同様の理由により控訴人の請求を棄却した。