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ソフトウェア関連特許に関する調査研究報告書―平成19年度― (SOFTIC 19-3)
概要
コンピューター・ソフトウェア関連発明を中心とした特許侵害訴訟についての、国内外の注目判例を取り上げ、米国における自明性の判断基準、ソフトの海外頒布と271(f)の関係、故意侵害の証明責任及びわが国における消尽の判断基準他について検討を行った。取り上げたケースの概要は以下のとおりである。
- DSU Medical 対 JMS他事件判決(CAFC 06.12.13)
本件原告の米国特許は、医療用途の注射針保護ガードに関する特許で、注射針ガードと注射針の組み合わせを対象としている。
本件特許に関連する部材を日本企業の被告らが日本の完成品メーカーに納入し、その完成品メーカーが当該完成品を米国に輸出販売した結果、米国の原告が部材提供者である被告らを、米国特許法第271条(b)及び(C)に基づいて提訴した事件。
地裁は、米国グロックスター事件最高裁判決等における要件に照らし、被告の寄与侵害成立のための米国での直接侵害行為はなく教唆する意思もなかったとし、CAFCも地裁の判断に誤りはなかったとした。
- KSR 対 TELEFLEX 事件判決(米国最高裁 07.4.30)
自動車用アクセルに関する電子センサーと位置調整可能なペダルとを組み合わせる機構に関する米国特許について、地裁は、被告の主張を認めて特許無効の判断をしたが、CAFCではTSMテストに基づいて地裁判断を覆したため原告が上告した事件。
最高裁では、公知技術の組み合わせ発明について、米国における従来の自明性の判断基準を覆し、問題となったクレームは自明であるとの全員一致の判断が為された。(本判決で示された自明性についての判断基準に基づく審査ガイドラインが公表されている。添付資料参照。)
- Microsoft 対ATT事件判決(米国最高裁判所 07.4.30)
被告(上訴人)開発のWindowsについて、そのマスター・ディスク(ゴールデン・マスター)が各国の契約業者へ送られ、各国内販売向けにプリ・インストールして被告製品が作成されていた。これについて、原告(被控訴人)が保有する音声コーディングに関する特許を、国外で複製した被告製品をインストールしたパソコンが侵害するとして提訴したケース。
地裁は、米国から送付されたゴールデン・マスターから外国で作成されるコピーについて、当該コピーは271条(f)の適用を免れないと判断した。控訴裁も、271条(f)は、その対象を機械や物理的構造のみに限定しておらず、無形物であるソフトウェアも同規定の目的における構成要素になり得るとして、ソフトウェアの構成要素のコピー行為は「供給」に含まれるとした。
最高裁は、271条(f)の「構成要素」、「米国からの供給」について、構成要素となるのは抽象的なWindowsについてではなくWindowsのコピーこそが構成要素となるのであり、供給については、供給とその後に行われたコピーとは異なる行為であるから、271(f)の責任は生じないとして、原審の判断を覆し、米国特許法の域外適用を否定した。
- In re Seagate Tech.事件決定(CAFC 07.8.20)
ディスク・ドライブ関連技術の特許侵害について、米国特許法第284条の故意侵害の認定基準をより厳格化したケース。
CAFCは、284条における故意侵害の証明について、原告側に「客観的に無謀な侵害行為」があることの証明責任がある等として、従来の、被告に故意ではないことの証明責任があるとの基準から転嫁させた。
- キヤノン 対 リサイクル・アシスト社事件判決(最高裁 H19.11.8))
インクジェットプリンタ用インクタンクの特許権を有する原告が、原告特許権に基づいて原告製品の使用済み品を利用して製品化された被告製品の輸入、販売等を求めた事件。
地裁では、国内消尽と国際消尽の双方について被告の主張を認めたのし対し、控訴審では、特許製品が消尽する場合を@特許製品の効用終了後の再使用等の場合(第1類型)及びA特許発明の本質的部分の加工又は交換された場合(第2類型)とに分け、本件においては、被告製品は原告特許発明の本質的部分を構成する部材の一部についての加工又は交換であり、特許権は消尽せず、権利行使は許されるとした。
最高裁では、消尽の基準について、加工又は交換によって特許製品と同一性を欠く特許製品が製造されたか否かによるとした上で、当該製品の属性、部材の加工及び交換の態様、取引の実績等を総合判断すると、上告人製品はインクタンク本体に明けた穴をインク注入後に塞いでおり、このことはインクタンク本体をインクの補充が可能となるように変形させているにほかならず、従って被上告人製品と同一性を欠く特許製品が製造されたと判断した。