ゲームメーカーの奨励により、ゲームソフトのユーザーが作成して 無償提供するためにインターネットにアップロードしたゲームの レベル(マップファイル)を、他の業者がダウンロードしてCD− ROMの形態でレベル集として販売したことにつき、業者の著作権侵害を 認めた判例。裁判所は、マップファイルは具体的永続的形態として詳細に ゲームのストーリーを記述しており、業者は著作権者の続編を作る権利を侵害 していると判断した。
判決日 1998年9月11日
裁判所 連邦控訴裁判所第9巡回区
当事者 控訴人 MicroStar社
被控訴人
FormGen Inc.(1996年にGT
Interactinve社に買収されている)
GT Interactive Software Corp.
3D REALMS ENTERTAINMENT
判決文原文は、 http://www.findlaw.com/casecode/courts/9th.html にて検索可能
被控訴人 FormGenInc.、 GT Interactive Software Corp.、Apogee Software,Ltd.(3D REALMS ENTERTAINMENTはApogeeの一部門である)(以下これら3社を総称して「FormGen社等」という)は、非常に有名なコンピュータゲーム「Duke Nukem 3D」(以下「DN-3D」という)を製造、販売していた。ならびにFormGen社等は、同ゲームの諸権利を所有している。
同ゲームには、プレイヤーが、固有のレベルを作出することを可能にするユーティリティ(utility)である「Build Editor」も含まれている。
FormGen社等の奨励によって、プレイヤーは、作出した固有のゲームレベルを、他者がダウンロードできるようインターネット上で自由に公開している。
コンピュータプログラムの中心部であり、それ自身もプログラムとしての性質を有する。ゲーム・エンジンは、データの読取り、ゲームの蓄積、ロード(load)、音声の演奏ならびにスクリーンへの映像の映写等を行う際に、コンピュータに対して指令を与える。特定のレベルに応じた視聴覚表示(audiovisual display)を創作するために、ゲーム・エンジンは、当該レベルに対応するMAPファイルを呼び出す(invokes)。
B MAPファイル
MAPファイルは、何を何処に配置するかにつき、ゲーム・エンジン(およびゲーム・エンジンを通じてコンピュータ)に指示する一連の指令(instructions)を含む。MAPファイルは、詳細にレベルを記述しているが、著作権のある画像を含んでおらず、画面に現れる全ての画像はソース・アート・ライブラリから表出する。
C ソース・アート・ライブラリ
素材となる画像を集積した場所
もっとも、同連邦地方裁判所は、「NIのパッケージは、ライセンスなくDN-3Dのキャラクターの映像を複製し、FormGen社等の著作権を侵害している」と判断し、スクリーン・ショットに関する仮差止命令を認容した。MicroStar社のフェア・ユースの抗弁は棄却された。両当事者から控訴がなされた。
(a) 勝訴の蓋然性と回復不能の損害の可能性 または
(b) 本案に関して重大な問題が存在し、被害のバランスが被控訴人有利に大きく傾くこと
なお、勝訴の蓋然性を立証すれば、回復不能の損害の存在が推定される。
(a) DN-3Dに対してFormGen社等が有効な著作権を保持していること
(b) 保護されている表現についてMicro Star社による複製があったこと
FormGen社等はDN-3Dを著作権登録しており、有効な著作権を保持していることが推定されるため、保護されている表現についてMicro
Star社による複製があったことについてのみ立証する必要がある。
(b) 著作権者は、DN-3Dに基づく派生著作物(derivative works)を作出(prepare)する独占的権利を享有(enjoys)する。
(c) DN-3Dが、NIのCDに格納された MAPファイルに結合して作動した際に作出される視聴覚表示(audiovisual
display)は、上記(b)の独占的権利を侵害する派生著作物である。
(b) NI上のMAPファイルは、Galoob事件のGame Genie(ビデオゲームの特徴を改変する付属品の一種)の発展形で、オリジナルゲームのMAPファイル(古い数値)をNIのMAPファイル(新しい数値)に置き換えたものにすぎない。
(c) DN-3Dの保護された表現の使用は、フェアユース(著作権法107条参照)に該当する。
(d) FormGen社等は顧客に対し新しいレベルを創作することを黙示にライセンスしており、MicroStar社は、その受益者である。
(e) 仮に、FormGen社等がその権利をライセンスしていなかったとしても、MicroStar社は、「Build Editor」を提供し、プレイヤーに対してレベルの創作を奨励していたのであるから、FormGen社等は、その保護される表現の全ての権利を放棄したものといえる。
(b) 既存の著作物から保護の対象となる部分を実質的に組み込んでいること
(b) NIのレベルがプレイされた際に、コンピュータモニターに出現する視聴覚表示は、NI MAPファイルによって、実に詳細に記述されている。
(c) 当該視聴覚表示は、MAPファイル中で、具体的または永続的な形態を有しているといえる。(これらの表示が派生著作物であることを認定する上で、Galoob事件は、何らの障害とならない。Galoob事件においては視聴覚表示はGame
Genieではなくオリジナルのゲーム・カートリッジが決定するものであった)。
(b) アイディアの類似性の判断には著作物の客観的細部(筋書き、主題、台詞、ムード、背景、登場人物等)を比較する。
(c) 表現の類似性の判断には普通の常識的な人間の反応に焦点を当て、著作物の全体的な概念および感覚を考慮する。
(d) NIの各レベルを選んだときに作られる視聴覚表示は全てDN-3Dのソース・アート・ライブラリから読み出されているものであるから、FormGen社等はアイディアの類似および表現の類似の証明に間違いなく成功すると思われる。
(b) FormGen社等は、新たなレベルを創作するプレイヤーに対しては、ライセンスを許諾したであろうと思われるが、同ライセンスには「無償で新しいレベルを他者に対して供与しなければならない」という厳格な制限が設けられている。
(c) 仮に、ライセンスが有効に付与されたとしても、レベルの商業的頒布(commercial
distribution)は禁止されている。
(b) FormGen社等は、プレイヤーに対して新規のレベルを創作し無償で頒布することを奨励していたから、FormGen社等は同様の行為をなす独占権を放棄したのかもしれない。
(c) しかし、FormGen社等は、新しいレベルから商売上利得(profit)を得る権利までも明白に放棄してはいない。実際に、FormGen社等は、プレイヤーに対して、レベルを営利目的で提供しないよう警告していた。
MicroStar社がゲームのスクリーン・ショットを掲載した箱に入れてNIを販売することを差し止めた仮差止命令については、これを正当なものと確認する。
まず、本判決では、控訴人が販売したNI中のMAPファイルが、DN-3Dの視聴覚表示を具体的または永続的形式で記述している旨判示している。この判示は相当である。思うに、NI稼働時に出現する視聴覚表示の画像自体は、DN-3D中のソース・アート・ライブラリに存在し、NI中のMAPファイルには画像データが記憶されていないが、視聴覚表示の出現には、MAPファイルによる一連の指令を経由することが必要不可欠であることも事実であり、むしろ、MAPファイル自体もDN-3Dの視聴覚表示の構成要素であると理解できると思われる。
また、本判決は、NI中のMAPファイルが、被控訴人のDN-3Dの続編を制作する権利を侵害した旨判示している。この判示部分には若干疑問がある。
すなわち、本件では、被控訴人が、当初からDN-3Dをゲームの背景、展開、エイリアン等を新たに創作可能な状態で販売し、そのためのツールもゲームに付属させていたという事情がある。
従って、DN-3Dの表現のレベルでのストーリーは、千変万化することが予定されていたものといえ、本判決では、ストーリーの幅をかなり広範囲にとらえていることともあいまって、DN-3Dのゲームとしてのアイディア保護に傾きすぎたのではないかとの印象がぬぐえない。
とはいえ、フェア・ユース、黙示の許諾の有無、権利放棄の有無に関する判断については、おおむね相当であると考えられる。
今後の差戻審の判断に注目したい。
YWGメンバーの議論においては、「MicroStar社のフリーライド行為を差し止めるために、裁判所は著作権侵害の認定に、かなり無理な理由付けをしているのではないか」あるいは「判旨に賛成しかねる」という意見が目立った。
判決の中で特に問題と思われる主な点は以下に挙げる部分である。
1)NIのMAPファイルにおける”ストーリー”のとらえ方について
2)「利用」ではなく「使用」行為ではないか
・NIのMAPファイルは、ゲームを起動した際にDN-3Dのオリジナルプログラム、及びキャラクター等を「使用」しているのみではないのか。
3)引用されている判決について
・Galoob事件は、映像表示がゲーム起動ごとに異なるのに対して、本件については、NIを使用してゲームを起動するときの映像は、必ず同じように再現されるという点が異なるという部分をもって結論に差が出るものとしているが、この比較が的確であるのかについては疑問がある。
判決においては、MAPファイルそのものについての著作物性については明確に触れられていないが、MAPファイルは著作物であると考えられるのではないかという意見があった。
1)MAPファイルには、場面設定、主に各素材の配置等についての詳細な記述があるのであるから、編集著作物としての著作物性が認められる。
2)MAPファイルに著作物性があるという前提を設ければ、MAPファイルを作成したのは個々のプレイヤーなので、プレイヤーは無許諾の複製につき、MicroStar社を訴えることができるであろう。
3)ホームページにおけるHTMLについても、単にタグを配列しただけなので創作性については疑問視する意見もあるが、MAPファイルもHTMLも、どのような素材を、どのように画面表示するのか、作者の創意工夫をが表れているという点については、創作性が認められると言っていいのではないか。
1)今回の事件は、MAPファイルとDN-3Dの視聴覚表示を出現させる他の部品との関係に依存関係があり、NIのMAPファイルを使用して映し出される映像の要素(背景、キャラクター等)が、必ずDN-3Dのソース・アート・ライブラリに記憶された要素を利用していると考えられる点にポイントがある。NIのMAPファイルが全く別のゲームソフトにも利用できるようなものであった場合に、果たして同様の判決になっただろうか。
2)NIのMAPファイルを善意に取得した者の保護のために、不正競争防止法で差止られないものだろうか。但し、現行の日本法において、差止めることは困難と思われる。
3)FormGen社等からBuild Editorが提供されず、またユーザーとの間の使用許諾契約において、MAPファイルをユーザーが作成することができることについて何ら記述されていない場合、ユーザーが独自に作成したMAPファイルを頒布することは、著作権侵害になるのだろうか。
4)ある小説のキャラクター、場面設定を使用して、同小説の著作権者でない者が著作権者の許諾を得ずに続編小説を書くことは、侵害となるのだろうか。もしもこれが侵害でないのであれば、今回の事件も侵害ではないのではないか。
http://www.findlaw.com/casecode/courts/9th.html にて検索可能